「銀双槍の傾慕」トルエノ

町のお姉さん「ト、トルエノ様、今日の私の服装どうかしら……？」

トルエノ「もちろん似合っているよ、子猫ちゃん。」

トルエノ「……あれ、もしかして口紅を変えたかい？」

町のお姉さん「わ、わかるの？」

トルエノ「もちろん。君のことは何でもお見通しさ。」

町のお姉さん「きゃー！　トルエノ様ったら！」

主人公「……あの。」

トルエノ「ああ、主人公くん。」

トルエノ「ごめんね、名残惜しいけど今日から旅に出ることになっているんだ。」

トルエノ「お別れだ、レディ。」

町のお姉さん「また会える？」

トルエノ「もちろんさ。」

町のお姉さん「約束よ！トルエノ様！」

トルエノ「ああ。」

「寂しいけど……。またね！」

トルエノ「さようなら。」

主人公「あの……。」

主人公「大丈夫ですか、トルエノさん。冷や汗、すごいですけど。」

トルエノ「だ、大丈夫じゃない……。来てくれてありがとう、主人公くん……。」

トルエノ「もうだめかと思った……。」

主人公「無理しちゃだめですって。」

主人公「女の人が苦手なのにカッコつけちゃうその癖、直せないんですか。」

トルエノ「うっ！」

トルエノ「今の言葉は僕の心にぐさりと刺さったよ！ハートが痛い……！」

主人公「えっ？そこまでのつもりは……、」

トルエノ「僕は、もう２度と女の子にからかわれないように完璧でいなくちゃいけないんだ……！」

トルエノ「なのに、僕ってばまた……！」

トルエノ「うわああああああん！姉さあん！」

主人公「急に絵を取り出した……！？」

トルエノ「姉さんだけが僕の味方だよ……！」

トルエノ「ああ、早く旅に出て、姉さんに会いたい……！優しく美しい、僕だけの姉さん……！」

主人公「え、えっと……、その絵の人、トルエノさんのお姉さんなんですか？」

トルエノ「そう！とある画家に頼んだんだ。普段は風景画をメインに描く人なんだけれどね。」

主人公「へえ……！本当に綺麗な人……、」

主人公「って、あれ？この女の人……、」

トルエノ「どうしたんだい？」

主人公「もしかして、この絵の女の人って、アガーテさんじゃないですか？」

トルエノ「……姉さんを知っているのかい？」

主人公「知っているっていうか、この前、一緒に旅をしましたよ！道中すごくお世話になって……、」

主人公「って、トルエノさん？」

トルエノ「……せない。」

主人公「え？」

トルエノ「許せない！」

主人公「ええ！？」

トルエノ「姉さんと旅をした？君みたいな二の腕ぷにぷにで姉さんを守れなさそうな子が？」

トルエノ「不釣り合いだ！」

主人公「いつのまに俺の二の腕を確認してたんですか！？」

トルエノ「あんなに美しくて優しい姉さんだから仕方なく一緒に旅をしてあげたんだろうけれど！」

トルエノ「ああ、姉さんってば……！どんな人にでも優しくするから、悪い虫がつかないか心配だ……！」

主人公「ト、トルエノさんがこんなにお姉さん愛をこじらせていたとは……。」

トルエノ「姉さんのことだ、世界中の男たちに愛されたっておかしくない！」

主人公「トルエノさん、戻ってきて！お姉さん愛は分かりましたから！」

トルエノ「……はっ！！」

主人公「な、なんですか……！？」

トルエノ「主人公くん、まさか君、姉さんに恋をしたりしていないだろうね！？」

主人公「い、いえ！そんなことはないです！」

主人公「アガーテさんは確かに優しくて面倒見が良かったですけど！」

主人公「断じて！そんなことはないです！」

トルエノ「……ならいいんだ。」

主人公「(ど、どうにか落ち着いてくれた……)」

主人公「ず、ずいぶんアガーテさんのことを大事にしているんですね。」

トルエノ「姉さんのためなら、この命を捧げたって構わない。そう思っているよ。」

主人公「(お、重い……)」

トルエノ「姉さんにより愛されるために、毎日、日記もつけてるんだよ。」

主人公「日記？」

トルエノ「じゃーん！」

トルエノ「姉さんの言動の備忘録さ。その日の姉さんの一挙一動を全部記録してあるんだ。」

トルエノ「どうだい、完璧だろう？」

主人公「そ、そうですね……。」

トルエノ「姉さんに会えない時は、これを読みつつ、絵を観ながら寂しさを紛らわせているんだ。」

主人公「(ど、どうしよう、なんて返せばいいのかわからない……！)」

主人公「ええと、なんというか……、昔からそんな風にアガーテさんのことが好きだったんですか？」

トルエノ「うーん、姉さんを慕うようになったのは、出会って少し経ってくらいからだね。」

主人公「出会った……？」

トルエノ「ああ、僕と姉さんは血が繋がってないんだよ。」

主人公「え？」

トルエノ「８歳の時に両親が再婚してね。姉さんは義理の父の連れ子だったんだ。」

主人公「そうだったんですか……。」

トルエノ「幼かった頃の僕は体も小さくて弱虫でね。」

トルエノ「そのわりに意地っ張りで……。よくからかわれていたんだ。」

主人公「今のトルエノさんからは考えられないですね……。」

トルエノ「ふふ。でも、そんな時いつも助けてくれたのは姉さんだった。」

トルエノ「『私の弟をいじめないでくれるかしら』って。」

主人公「アガーテさんらしいですね。」

トルエノ「そうだろう？」

トルエノ「いつも『弟ができて嬉しい』って、そう言ってくれた。」

トルエノ「ただ、当時の僕はそれが不思議でならなかった。」

主人公「不思議って、どういうことがですか？」

トルエノ「血が繋がっていないのに、どうして僕のことを弟だって言うのか理解できなかったんだ。」

トルエノ「だから、ある時聞いたんだよ。」

トルエノ「『どうして本当のきょうだいじゃないのに、いつも助けてくれるの？』って。」

主人公「……。」

トルエノ「そしたら姉さんは笑ったんだ。」

トルエノ「『意地っ張りなところが私とよく似ているわ。きょうだいの証なんて、それで充分よ』って。」

トルエノ「その一言で、僕は救われたんだ。」

主人公「アガーテさん、やっぱり優しいですね。」

トルエノ「うん。姉さんは僕の救いで、居場所で、世界のすべてなんだ。」

トルエノ「だからもう、からかわれて姉さんを困らせたくない。」

トルエノ「僕は女の子に完璧な態度で接しなくちゃいけないんだ！」

トルエノ「ああ、姉さんの話をしていたら一刻も早く会いたくなってきた……！待っていてね、姉さん……！」

トルエノ「ふふ、ふふふふふ。」

主人公「(いい話だったけどトルエノさんの愛がやっぱり重い……！！)」

町のお姉さん「トルエノ様……！」

主人公「え、さっきの……！？」

町のお姉さん「やっぱり私、あなたと離れ離れなんて堪えられない！私も一緒に旅に連れてって！」

主人公「えーっと……。」

主人公「(トルエノさんって町のお姉さんが思ってるような人じゃないし、そもそも女の人が苦手なんだよなあ……)」

トルエノ「レディ。もう、君はどこまでも可愛らしい人だね。」

トルエノ「そんなことを言われると断れなくなってしまうよ。」

主人公「って、あれ！？」

主人公「ん？トルエノさんが後ろ手になにかサインを出してる……？」

主人公「『た』『す』『け』『て』……？」

主人公「(からかわれないようカッコつけた結果、自分の首を絞めてるな……)」