「甘陽なる環音」ワッフル

ワッフル「ねっ、主人公くん！今日の昼ごはんはなーに！？」

主人公「ああ、ワッフル！今日の昼ごはんはな……、ミルク料理の店だ！」

ワッフル「わーい！ミルクだいすきー！」

ワッフル「あれ？だけど、昨日もおとといもその前も、ミルクのお料理だったよね～？」

主人公「あ、あれ？もしかして、飽きちゃったか？」

ワッフル「んーん、ミルクはだいすき！いくらでも飲めるよ～。」

ワッフル「でも主人公くんは？主人公くんも、ミルクだいすきなの？」

主人公「あ、ああ！俺は１週間ミルクだってかまわないぞ！」

ワッフル「昨日で１週間だけど、今日はへーきなの～？」

主人公「うっ……！」

ワッフル「……。」

ワッフル「えへへ、主人公くん！わたし、今日は焼き鳥がいいなー！」

主人公「焼き鳥！？ミ、ミルク以外で大丈夫なのか？」

ワッフル「うん、全然へーき！わたし、焼き鳥好きだよー。」

主人公「そ、そうなのか？まぁ、ワッフルがそう言うならいいけど……、」

主人公「（それに、ミルク以外を食べられるのは正直ありがたい……！）」

ワッフル「ねっ、はやく行こっ！焼き鳥なくなっちゃうよー！」

主人公「わわっ、引っ張るなって！」

———（場面転換：街並み）———

ワッフル「ここっ！ここ焼き鳥屋さんだよね？ふふん、もうおぼえたよ。」

主人公「おお、えらいえらい。」

焼き鳥屋「おや、いらっしゃい！」

ワッフル「焼き鳥くーださいっ！」

主人公「待て待て、落ち着けって。えっと、ワッフルは何本食べるんだ？」

ワッフル「んーっとね……３本食べる！あとね、おにぎり。梅干しじゃないやつ！」

主人公「だ、大丈夫か？焼き鳥、けっこう大きいけど……、」

ワッフル「うん、全然へーき！」

主人公「そうか。それじゃあ、俺の分と合わせて……７本ください。あと、おにぎりも３つ。」

焼き鳥屋「はい、まいどどうも！」

主人公「あっ、焼き鳥の味は全部タレでお願いします。」

ワッフル「甘辛いやつー！」

焼き鳥屋「あー……申し訳ない。タレは無理だ。」

主人公「えっ？この店って、タレありましたよね？前に食べた記憶があるんですけど……、」

ワッフル「甘辛くておいしかったよねー！」

焼き鳥屋「あぁ、ある。いや、正確には『あった』かな？」

焼き鳥屋「店長が突然、『これからの焼き鳥は見た目だ』とか叫んで、タレの壺ごと失踪するまでは……！」

主人公「店長の心境に何が！？」

焼き鳥屋「わからない。ただ、やたら熱心に色鮮やかな花の勉強をしていたよ。『この色なら映える』とか言いながらね……。」

焼き鳥屋「帰ってくるころには、タレはきっとショッキングピンク色になってるさ。どうだい、そんな焼き鳥は見たくないだろ？」

ワッフル「マカロンみたいでかわいい～！」

焼き鳥屋「マカッ……！？」

ワッフル「今の焼き鳥も好きだけど、マカロンみたいになったらもっと好きになる！」

焼き鳥屋「……そうか、こういう無垢な感想が、店長を乱心へと導いたんだな。ふふふ、それじゃあ仕方ないな。無垢だもの。」

主人公「あぁ、店員さんが何かを悟っている……！だけど、それは多分悟っちゃいけない感じのやつだ！戻ってきてください！」

焼き鳥屋「ハッ！危うく焼き鳥屋としての矜持を投げ捨てるところだった！ありがとう、少年！」

焼き鳥屋「ともかく、そんな状況だからタレはないんだ。塩ならいつも通りに用意しているんだけど……、」

主人公「し、塩か……。」

主人公「（正直食べたい！ストレートな塩味！ミルク料理続きの俺の舌は間違いなく塩を求めている！）」

主人公「（……だけど、ワッフルには厳しいよな。呪いのこともあるし、食事面ではあんまり負担をかけたくないし……）」

ワッフル「……主人公くん？」

主人公「あ、ああ、大丈夫。ちゃんとわかってるから、心配しないでくれ。」

ワッフル「……。」

主人公「すみません、それじゃあ焼き鳥はなしで……、」

ワッフル「ぜーんぶ塩でくださいなっ！」

主人公「えっ！？」

焼き鳥屋「はい、まいど！すぐに準備するから待っててね。」

主人公「ワ、ワッフル？塩ってあれだぞ、甘くないぞ？タレみたいに甘辛くもないんだぞ？」

ワッフル「うん、知ってるよー。しょっぱいんだよね？ふふふ、しょっぱいってどんな感じなのかなー？」

主人公「ど、どうしたんだ、ワッフル！まさか、呪いの影響で思考がおかしく……？」

ワッフル「ううん、違うよー。あのねー、主人公くんに恩返しがしたかったの。」

主人公「お、恩返し？」

ワッフル「うん！主人公くん、わたしの舌にあわせて無理してくれてたでしょ？」

ワッフル「本当はしょっぱいものも食べたかったんでしょ？えへへ、おみとーしなんだから～。」

主人公「バレてたのか……。」

ワッフル「とーぜんだよ～。主人公くんとは、いっぱい一緒にいるんだもーん！」

ワッフル「だからねー、わたしのことを考えてくれてるのもわかるんだー。えへへ、すごくうれしい！ありがと！」

ワッフル「でもねー、わたしのせいで主人公くんがつらそうなのはいやなんだー。主人公くんにも笑っていてほしいから！」

主人公「ワッフル……。」

ワッフル「わたしはへーきだよっ。王国のごはんもおいしいし、主人公くんもメルクちゃんもいてくれるしー。」

ワッフル「それに呪いも、いつかお兄ちゃんが必ず解いてくれるって、約束してくれたし！」

ワッフル「だからねー、他のひとと同じように扱ってほしいんだ～。」

主人公「……。」

主人公「わかった。それじゃあ今日は好きなものを食べさせてもらうよ。ありがとな、ワッフル。」

ワッフル「いいよ～。わたしが好きでやってることなんだから。」

主人公「それなら、俺のほうも好きでやってたことなんだけどな。」

ワッフル「わーい、それじゃあ、おそろいだね！わたしたち、似た者同士だー！」

主人公「あぁ、そうだな。」

焼き鳥屋「はい、お待たせ！タレがないお詫びに１本オマケしておいたよ！」

ワッフル「わー、ありがとー！」

主人公「ありがとうございます。えっとお代は……、」

焼き鳥屋「全部で２００ゴルドだね。」

主人公「相変わらず破格の値段ですね……。採算、取れてるんですか？」

焼き鳥屋「……世の中、知らないほうがいいことだってあるんだ。」

主人公「あっ、はい。」

主人公「それじゃあ、２００ゴルド。」

焼き鳥屋「はい、ちょうど。これ、商品ね……って、あれ？ここに置いてあった焼き鳥は？」

ワッフル「いっただきまーす！」

主人公「あっ、ワッフル！待て、いきなり食べたら……！」

ワッフル「……！？」

ワッフル「ん、んん～！んんん～！」

主人公「言わんこっちゃない！ど、どうする？吐くか？いったんペッてするか！？」

ワッフル「ん～……！」

ワッフル「ごくん！」

主人公「飲んだ……！だ、大丈夫か？体に異変は？」

ワッフル「……ん～。」

ワッフル「しょっぱい！」

ワッフル「あはは、しょっぱい！しょっぱいねー！」

ワッフル「そっかー、これが主人公くんの好きな味かー！えへへ、憶えちゃった！」

主人公「あ、あぁ、そうか……。とにかく体に異常がないならよかった。」

ワッフル「うん！だから味を忘れないうちにもうひと口！」

主人公「あっ、それはさすがに……！」

ワッフル「んんん～！」

主人公「あぁ、もう……、」

ワッフル「んふふふ～！」

主人公「（まぁ、本人が嬉しそうだからいいかな）」