「白光宿す旋槍」シエット

＜紹介所＞

シエット「あれ？　今、窓の外に見えたのって主人公？」

シエット「どこ行ったんだろ？　この町についてから、よくひとりで行動してるよね。」

メルク「どうやら、パン屋さんでバイトしているらしいのですよ。」

シエット「パ、パン屋？」

メルク「私もバイトの理由は知らないのですが、どうやら買いたいものがあるそうなのです。」

シエット「主人公が買いたいもの……。私やメルクに何も言わなかったってことは……、」

メルク「ずばり……、」

シエット「筋トレグッズ！」

メルク「に違いないのですよ！」

シエット「ううっ、やっぱりー！」

メルク「みゅっ！？　ど、どうしたのですよ、シエットさん！？」

シエット「それは……、」

シエット「ごめん、メルク！　ちょっと出てくる！」

メルク「みゅっ、シエットさん！」

メルク「シエットさん……。」

メルク「もしかして、主人公さんが自分も戦うと言い出さないか、心配してるのですよ？」

＜町：武器屋＞

シエット「はあ……、」

武器屋の店員「どうしたんですか、お客さん？」

シエット「あっ、すみません！」

武器屋の店員「いえいえ。今日は予約していた品の受け取りですね。持ってきますので、店内で少しお待ちを。」

シエット「……。」

シエット「……あ、また新しい筋トレグッズが出たんだ。次に新調する時はこれにしようかな。」

武器屋の店員「さすがお客さん、お目が高い。日々、欠かさず体を鍛えているだけはありますね。」

シエット「わ、わかるんですか？」

武器屋の店員「もちろん。これでも武器を扱う商人ですから。」

武器屋の店員「それほど鍛えるにはなまじっかな気持ちではできません。誰かを守りたいという強い決意をお持ちなんですね。」

シエット「それは……、」

武器屋の店員「おっと、失礼しました。先に品物、ですね。こちらが予約していただいていた……、」

武器屋の店員「筋トレグッズです！」

シエット「……、」

武器屋の店員「お客さん？　どうし……、」

？「キュイイイッ！」

シエット「この声！」

武器屋の店員「いけない！　暴れモンスターのようです！」

シエット「店員さん、後でまた取りに来ます！」

武器屋の店員「あっ、お嬢さん！」

＜町：路上＞

主人公「にぎゃあああっ！」

ラビューン複数「「「キュイイイッ！」」」

主人公「ひいいっ！　癒そうにも、数が多すぎてそれどころじゃない！」

ラビューン「キュイイッ！」

主人公「ま、前からも！？　まずい、一面のラビューンに囲まれ……、」

？「下がってて！」

主人公「え？」

シエット「はああっ！」

主人公「シ、シエットが降ってきた！？」

ラビューン「キュイイッ！」

シエット「主人公、無事？」

主人公「ぶ、無事だけど、そっちこそあんな上から飛び降りて大丈夫なのか？」

シエット「ちゃんと着地したから大丈夫！　それより、さっさと包囲網を抜けて、一気にラビューンたちを癒しちゃおう！」

シエット「主人公、行くよ！」

主人公「行くって、どう……、」

シエット「はあああっ！」

ラビューン複数「「「キュイイーッ！？」」」

主人公「ラ、ラビューンが宙を舞ったー！」

シエット「弾き上げただけ！　地面に落ちたらすぐにバウンドして態勢を整えるから、その前に走って突破しよう！」

主人公「え、うわっ！」

シエット「私が手を引くから、ちゃんとついてきてよ！」

主人公「あ、ああ……、」

主人公「って、シエット！　危ない！」

ラビューン「キュイッ！」

シエット「大丈夫！」

ラビューン「キュイーッ！」

シエット「主人公！　もうすぐ抜けるよ、癒術を！」

主人公「……、」

主人公「ああ！」

＜町：夜＞

ラビューン「きゅいいっ！」

シエット「ふう、どうにか癒せてよかったね。」

主人公「まさか暴れてた理由が、町の人にもらった人参パイのおいしさに感動して、我を失っていたからとはな……。」

シエット「あはは……。」

シエット「もしかしたら、前に私たちを襲ったラビューンたちも、意外な理由があったりするのかもね。」

主人公「……、」

シエット「いつか旅の中でわかるといいね。」

主人公「……そうだな。」

シエット「あっ、主人公。怪我はないよね？」

主人公「それはこっちのセリフだろ。シエットこそ、家の屋根から飛び降りて本当に大丈夫だったのか？」

シエット「大丈夫だよ。だって、怪我なんてしたら主人公が心配するでしょ？」

主人公「……、」

シエット「だから、私も怪我しないよ。それが守るってことだと思うからさ。どう？　今回はちゃんと守れたかな？」

主人公「……、」

シエット「ちょ、ちょっと何か言ってよ！」

主人公「いや……、かっこいいなと思って。」

シエット「かっこいい！？」

主人公「えっ！？　あっ、駄目か！？」

シエット「そ、そうじゃないけど……、そう言われるとは思ってなかったというか……、」

主人公「え、えーっと、じゃあこれ！」

シエット「紙袋？　なにか柔らかいものが入ってるけど……、」

シエット「はっ！　まさか新しい筋トレグッズとか！？」

主人公「服より筋トレグッズの方がよかったのか！？」

シエット「えっ？」

主人公「あっ。」

シエット「……、な、中身見ていい？」

主人公「……いいに決まってるだろ。シエットのために用意したんだから。」

シエット「……、」

シエット「そ、そっか。えーっと、服。服なんだよね、中身は。どんな……、」

シエット「……。」

主人公「シエット？　も、もしかしてデザインが気にくわないとか……、」

シエット「か。」

主人公「か？」

シエット「かわいいー！」

主人公「よかった……！　ありがとう、ステラ、メルク、ラーテル！　ありがとう、店員さん！」

シエット「あっ、でも……、このひらひらした服じゃ、戦いの邪魔になるかも……、」

主人公「ふっ、それはどうかな。」

主人公「見よ、このひらひら部分！　実は鉄を仕込んだ糸で編まれていて、軽い攻撃ならこれで払える優れもの！」

シエット「ほ、本当だ！　それにほかのところも、槍を使うときに便利そうな工夫が……、」

主人公「これなら邪魔になるどころか、助けになるだろ？」

シエット「それはそうだけど……、でも、どうしていきなり？」

主人公「いや、俺としてはいきなりでもなくて……、ずっと探してたものを作れる人がこのタイミングで見つかっただけというか……、」

主人公「その、俺はおしゃれのことはよくわからないけど……、シエットにとっては、大事な趣味なんだよな？」

主人公「だから、おしゃれな服を我慢したり、せっかく買った服を破ったりしなくてもよくなればいいなって。」

主人公「センオンでも、破った服の店の人に謝りに行ったんだろ？」

シエット「……うん。だって、あの時は夢中だったけど、きっと誰かが頑張って作った服だから。」

主人公「そうか……。」

主人公「……、その、さっきもだけどさ。」

主人公「いつもありがとう、シエット。これからもよろしくな。」

シエット「主人公……、」

シエット「あっ。」

主人公「えっ？」

シエット「もしかして、最近のバイトってこれを買うため！？　それなら私の取り越し苦労だったってこと！？　ああーっ、でも、よかった、これで渡せ……、あーっ！」

主人公「ど、どうした、シエット。」

シエット「ちょ、ちょっと待ってて！　店員さんから受け取ってくるから！」

主人公「シエット、どこ行くんだ！？　それに受け取るって何を！」

シエット「主人公へのプレゼント！」

＜店までの道＞

シエット「はあっはあっ！」

シエット「（……ふふ、まさかおんなじ日にプレゼントを用意してたなんてね）」

シエット「（着るのが楽しみだな。可愛いって言ってもらえるかな。ああ、でも……）」

シエット「（かっこいいって言ってもらえることも、同じくらい嬉しいなあ）」