「恵愛の翠月桂」ローリエル

町の女の子「よしっ。お花さん、これできっと大丈夫だよ。はやく元気になってね。」

ローリエル「こんにちは。」

町の女の子「わっ。びっくりした……。お姉さん、だれ……？」

ローリエル「わたくしはローリエルと申します。」

ローリエル「驚かせてしまってごめんなさい。あなたが何をしているのか気になったもので、つい話しかけてしまいました。」

町の女の子「あ、えっと……。このお花がね、誰かに踏まれちゃったみたいで元気がないの。」

町の女の子「だから、また踏まれないようにって石で囲いを作ってたんだ。」

町の女の子「ここ、道の真ん中だから、きっと踏んじゃった人も、たまたま通っちゃっただけで、悪気はなかったと思うんだけど……。」

町の女の子「こうして石で守ってあげたら、またお花が踏まれることもなくなって元気になるかなって。」

ローリエル「なるほど……。」

ローリエル「……。」

町の女の子「お姉さん、お花をじっと見つめてどうしたの？」

ローリエル「……緑精たちが歌を歌い始めましたね。」

町の女の子「え？」

ローリエル「いえ、今のはただの独り言です。」

ローリエル「しかし、やはり強いですね、植物というのは。踏まれてもなお、その重みに負けないのですから。」

ローリエル「困難に立ち向かう我が子を、励ましたいような気持ちになりますわ。」

町の女の子「そ、そうなんだ。」

ローリエル「そして、あなたも植物のように美しい心をお持ちなのですね。まるで、あの子のように。」

町の女の子「え？」

ローリエル「久しぶりに、植物と共に生きる人の、あたたかな心に触れることができました。」

ローリエル「ありがとうございます。」

町の女の子「あの、お姉さんって何者なの？」

ローリエル「わたくしはローリエル。植物の国の祭司（ドルイド）です。」

町の女の子「祭司って一体……、」

町の女の子「あれ？」

町の女の子「お姉さん、どこにもいない……。」

（場面切り替え・夕方の紹介所）

主人公「遅かったですね、ローリエルさん。心配しましたよ。」

ローリエル「それは申し訳ありません、主人公さん。散策中に、良いことがありまして。」

ローリエル「少々浮かれて散策を長引かせてしまいましたの。」

主人公「良いことっていうのは？」

ローリエル「ええ。久しぶりに、植物と共存しようとする人のやさしさに触れたのです。」

主人公「えっと、どういうことですか？」

ローリエル「女の子が元気のなくなった花を助けてあげていたんですの。」

主人公「へえ……！　優しい子ですね。」

ローリエル「ええ、わたくしの故郷にいたある女の子のことを思い出しました。」

主人公「女の子？」

ローリエル「はい。」

ローリエル「わたくしが祭司をつとめている村は、数年前から新たな暮らしと、祭司を中心とした暮らしが混在する、いわば過渡期の時代を迎えています。」

ローリエル「新たな暮らしがじょじょに村人たちに広まっていく中で、その女の子は植物だけを友として過ごしていました。」

ローリエル「若木のようにまっすぐで、清らかな心を持つ子でしたわ。」

主人公「そうなんですね。でもその子は……、人間の友達がいなくて寂しくなかったんでしょうか。」

ローリエル「そうですね、主人公さんのおっしゃるとおり、寂しかったようです。いつも彼女は、人間の友達を探していました。」

ローリエル「そんな彼女を、わたくしは助けたくても、そっと見守ることしかできなかったのですが……。」

主人公「どうしてですか？ローリエルさんは気配りができるから、困っている人がいたらすぐに助けに行きそうなのに……。」

ローリエル「それが、わたくしのあり方だからです。」

ローリエル「何事にも干渉せず、事の流れすべてを受け入れる。これが私の信条なのです。」

ローリエル「もしわたくしがその人を手助けして一旦事が解決しても、同じ困難に直面した時、１人で何とかできなくてはその人のためにならないと思っているからですわ。」

主人公「なるほど……。」

ローリエル「ただその女の子は、村から引っ越してしまって、その後、どうなったのか、わたくしはわからないのですが……。」

ローリエル「おそらく、もう１０歳になっているかと思います。」

主人公「そうなんですね。ローリエルさんはその子が小さな頃から見守ってきたんですか？」

ローリエル「ええ。彼女が生まれた時から、です。」

主人公「えっと、じゃあローリエルさんは祭司になる前からその子を見守ってきたと……？」

ローリエル「いいえ。１０年前、わたくしはすでに祭司でした。」

主人公「えっ。じゃあローリエルさんって、そんな若いときに祭司になったんですか？」

主人公「祭司になるには何十年も厳しい修行に耐えないといけないって聞いたことがあるんですけど……。」

ローリエル「ええ、そのとおりですわ。わたくしも祭司の修行を終えるまでに４０年の時間がかかりました。」

主人公「４０年！？じゃ、じゃあ、ローリエルさんの本当の年齢って……？」

ローリエル「ふふ、さあ、いくつだったでしょうか。」

ローリエル「本当の歳なんて、興味がなくて忘れてしまいましたわ。」