「魔統の捕食者」リムル

＜紹介所＞

リムル「主人公、メルク。ちょっといいか。」

主人公「あ、リムル。」

メルク「今回はそっちの姿なのですね。」

リムル「まぁな。スライムの姿でしゃべると、驚かれるし。」

メルク「わかるのです、リムルさん！ 私もいまだに、しゃべると驚かれる時があるのですよ！」

リムル「粘性生物あるあるだなー。」

メルク「なのですよー。」

主人公「メルクは別に粘性じゃないだろ……。」

主人公「で、どうかしたのか？」

リムル「ああ、そうそう。実はパン屋のおやじに頼まれごとをしてな。少し手を貸してほしいんだ。」

主人公「おやじさんに？」

リムル「木の実の収穫にいきたいんだよ。なんでも、最近見つかった実だとか何とか……、」

メルク「みゅみゅ！ 知っているのです。暗所でのみ成長する、不思議な木の実だとか！」

メルク「でも、その木の実の近くは、フレイムドラゴンの縄張りだったような……？」

リムル「ああ、そいつが問題なんだ。木の実を取りに来たヤツを蹴散らしてる。」

リムル「だから、俺に依頼が来たんだけど……。モンスターが癒されてなかったら、穏便に済まないし、そもそも場所がわからなくてさ。」

リムル「もちろんタダでとは言わない！ その木の実を使ったパンを報酬として約束しよう！」

主人公「おお！」

メルク「リムルさんも、その条件なのです？」

リムル「ああ！ あの人の作るパンは絶品だからな～。」

メルク「みゅ～、リムルさんは食事ができるのですね。ちょっぴり羨ましいのですよ……。」

リムル「わかるな～。俺も食べ物の味がわかるようになった時は、めちゃくちゃ嬉しかったし。」

メルク「つまり、前は食事に不自由していた……、ということなのです？」

メルク「ど、どうやって、今の体になったのですよ！？」

主人公「食いつきがすごい！」

リムル「ん？そうだな……、」

＜回想＞

「私を……、君の中で眠らせて……、」

＜紹介所＞

リムル（シズさん……）

リムル（俺と同じ転生者。炎の最上位精霊イフリートをその身に宿した、『爆炎の支配者』であり……）

リムル（俺にとっての『運命の人』）

リムル（言えないな。俺が食事ができるのは……、いやこの姿を得られたのは、その『運命の人』を捕食したからだ、なんて）

リムル「……俺の方法は、メルクには向いてないかもな。」

メルク「そうなのですね……。残念なのですよ。」

リムル「けど、メルクはただの水だったところから、今の姿になったんだろ？」

リムル「なら、そこから味覚を獲得していくことも、無いとは言い難いと思うけどな。」

メルク「本当なのです！？」

リムル「推測だけどな。そもそも、どうして水から人間の姿になったんだ？ その仕組みがわかれば、ヒントになるかもだ。」

メルク「なるほどなのです！ ええっと、私がこの姿になれたのは……！」

メルク「……なぜなのです？」

主人公「さぁ……。」

リムル「……先は長いな。」

＜洞窟＞

主人公「ついたぞ。この洞窟だ。」

リムル「このどこかに、例の木の実が……。」

リムル「問題はフレイムドラゴンってヤツだな。確か、炎を吐いたりするんだよな？」

メルク「それに赤いのです！ 燃やすぞという意気込みを感じさせる、素敵なレッドカラーなのですよ！」

リムル「なるほど。今までの情報をまとめると……、」

リムル「こんな感じ？」

フレイムドラゴン「グルルル……。」

メルク「なのです！ もう寸分の狂いもなくフレイムドラゴン……、」

メルク「そのものなのですよー！？」

主人公「リムル、逃げてー！」

「はいよー。」

フレイムドラゴン「グルルル……！」

リムル「あっ、炎吐くな、あいつ。逃げ切れんな、これは。」

主人公「へぇっ！？」

「心配すんなって。それ！」

リムル「俺の後ろからでるなよー。」

フレイムドラゴン「グラァアアアア！」

「みゅわああああああ！？」

フレイムドラゴン「グルルル……。」

「……イフリートと戦った時も、こんなふうに、炎に包まれたっけ。ビビったよなー。」

フレイムドラゴン「グル！？」

リムル「よう。相手が悪かったな。」

主人公「リムル！？ お、俺たちを庇って攻撃が直撃したんじゃ……！？」

リムル「ああ、俺には＜熱変動耐性＞のスキルがあるから、炎からのダメージはないんだ。」

主人公「……もうリムルに何ができても驚かないぞ。」

リムル「さて、そういうわけだからさ、フレイムドラゴン。多分、俺との相性は最悪だと思うし降参してくれないか？」

リムル「……っていう説得も、癒されてなきゃ意味ないか。」

主人公「ああ、まずは俺が癒術を……、」

フレイムドラゴン「グルルル！」

主人公「うわっ、今度は爪か！？」

主人公「……って、あれ？」

フレイムドラゴン「グルル！ グルルル！」

メルク「全然違うところを攻撃しているのです？」

リムル「ふむ……。」

リムル『おまえ、もしかして癒されてるのか？』

フレイムドラゴン「ぐるぁ！？」

フレイムドラゴン「……ぐるるる！ ぐる！ ぐるるるる！」

リムル「ふんふん、なるほど？」

主人公「＜思念伝達＞が通じてるってことは……、このフレイムドラゴンはもう癒されてるのか。」

メルク「では、どうして襲ってきたのです？」

リムル「八つ当たりだとさ。」

メルク「みゅ？」

（ユニークスキル、＜捕食者（クラウモノ）＞を発動します）

リムル「ほいっと、捕食完了。」

リムル「これで土砂はもう無くなったぞ。」

フレイムドラゴン「ぐるるるー！」

主人公「土砂崩れで、住処に帰れなくなってたのか。」

リムル「燃やしても、掘っても、次々に土砂が落ちてきて……、」

リムル「おまけに余所者もやたらとやってきたとなれば。そりゃ苛立ちもするよな。」

リムル（わかるぞ！ 仕事が滅茶苦茶忙しい時に、どうでもいい話振られるとムカつくよなー！）

メルク「みゅう、それはごめんなさいなのですよ。そっちの都合も考えずにお邪魔してしまったのです。」

フレイムドラゴン「ぐるるる……。」

リムル「俺も怒りすぎた、だってさ。町の人にも、無駄に踏み込まないよう言っとくよ。」

フレイムドラゴン「ぐるるる！」

リムル（しかし、洞窟でドラゴンと会話とは……。シズさん、イフリートときて、次はヴェルドラか？）

リムル（……思えば、色々捕食してきたんだな。ヴェルドラに始まって、洞窟のモンスター、牙狼族の長、イフリート）

リムル（それからシズさん、魔王ゲルド……）

リムル（……ちゃんと覚えてるよ。俺には責任があるからな）

リムル（捕食者として、捕食した者たちへの責任が。彼らから受け継いだものを、正しく扱う責任が）

リムル（だから……心配しないでくれ。俺は一生、お前達のことを忘れないからさ）

（捕食した物は全て検索をかけることが可能です。記憶から喪失する可能性は皆無です）

リムル（いや、そういうことじゃねえから！ 気持ち！ マインド！ そっちの問題なの！ せっかく感傷に浸ってるんだから水差すなっての！）

主人公「リムル！」

リムル「なんだよ！」

主人公「俺何かした！？」

リムル「あっ……す、すまん。こっちの問題だ。」

リムル「どうかしたのか、主人公？」

主人公「ああ、フレイムドラゴンがお詫びにって、こんなに木の実をくれたんだ。」

リムル「おおっ！ これでおやじにパンを焼いてもらえるな！ ありがとよ、フレイムドラゴン。」

フレイムドラゴン「ぐるる！」

リムル「えっ、自分もパンを食べてみたいって？」

フレイムドラゴン「ぐるるる！」

リムル「……ああ、そうだな。俺も美味しいものを味わえる喜びはわかるよ。」

リムル「わかった。持ってきてやるよ。」

フレイムドラゴン「ぐららぁ！」

メルク「みゅふふ、よかったのですね！」

リムル（きっと、シズさんと出会ってなかったら、もっと言えば、転生してスライムの体になってなければ、その喜びも理解しきれなかっただろうな）

リムル（すべての経験が今に繋がっている。それらが俺を、生かしてくれている）

リムル（この世界で得たものも、きっといつかそうなる。だから、俺は全ての経験を感謝して喰らおう）

リムル「それでこその『クラウモノ』……だよな。」