【百鬼異聞録】「伊吹山にて」ストーリーまとめ【イベントストーリー】
目次 (伊吹山にてストーリー)
秘聞
青行燈は開いた秘巻を見ながら、何か考え込んでいる。 百聞館内は今、青行燈の呼吸の音とろうそくが燃える音しか聞こえない。 突然、外から鐘の音がその静けさを破った。蜃気楼の妖たちがまた祭りの準備をしているようだ。 青行燈 『鐘の音か……』 青行燈 『ならば、今日は鐘の音にまつわる話を一つ。』 言い終わると同時に、秘巻に墨の点が現れた。墨は周りに広がり、形を成していく。 やがて山が現れ、その山に寺が現れた…… |
1. 御寺
鐘の音が悠々と響く山の中。 伊吹山の神子は数珠を手に、仏堂で座禅を組んでいる。その前に跪く参拝者たちは、自分の抱えている悩みを打ち明けている。 木魚の音に僧侶たちと神子の読経の声が混ざり、儀式のような厳かな空間が広がる。 そんな時、トンボを追いかけながら仏堂の前を通り過ぎた銀髪の幼い妖は中の様子が気になって引き返した。 茨木童子・旅立 『ん?』 仏堂に入ると、邪魔してはいけない雰囲気を無視し、神子の足元にペタンと座り込んだ。 酒呑童子・無我 『……』 茨木童子・旅立 『うーん……』 茨木童子は参拝者たちの話で退屈になり、気晴らしに神子を観察することにした。 目の前の人は普段と違う金糸入りの袈裟を身にまとっていた。 茨木童子・旅立 『なんだかあの金の仏像に似ているな……』 読経の声を聞きながらそんなことを思っていると、朝から走り回っていた疲れがどっと襲ってきて、茨木童子はそのまま眠りに落ちた。 お布施の受付をする僧侶は神子を眺めるその小さな背中を見て、また一人信者が増えたかと思った。 |
2. 野原
生い茂る草は荘厳な山風に吹かれ、うねる波のように揺れている。 数珠を手に持つ神子は、片膝をついて息を切らす銀髪の子に目を向ける。 酒呑童子・無我 『今日はここまでだ。』 茨木童子・旅立 『……もう一回。俺はまだやれる。』 酒呑童子・無我 『……』 鐘の音がまるで神子を呼んでいるように、山に響き渡る。 神子がそっと数珠を回すと、巨岩のような重圧が幼い妖の身にのしかかった。 茨木童子はその重さに耐えきれず地面に叩きつけられたが、不思議なことに傷一つもなかった。 酒呑童子・無我 『これでどうだ?』 茨木童子・旅立 『……』 観念してくれたかと思い、神子が茨木童子の横を通って伊吹山の寺へ向かうその時—— 足首が小さな手に掴まれた。その手は震えながらも力が強く離そうとしない。 茨木童子・旅立 『もう一回だ。』 幼い妖は唸るように言った。手から漂う妖気が神子の足から這い上がってくる。 神子は異変に気づいた。この小僧はたまに勝負しに来るが、勝敗がつくといつも楽しそうに去っていた。この様子じゃ、また力が抑えきれなくなったのだろう。 だが、神子はただ淡々とこう問うた。 酒呑童子・無我 『小僧、今日はなぜ勝ちにこだわる?』 神子の声は凍てつく湖のように起伏がなく、底の見えない威厳に満ちていた。その一言で幼い妖は我に返った。 幼い妖は手を離すと、なんとか起き上がり身についた土を払った。そして、まるで何も覚えていないかのような軽やかな口調でこう言った。 茨木童子・旅立 『俺は戦いが好きだ。渡り合える相手と心ゆくまで勝負することができたら、それほど心地よいことはないんだ。』 そして、神子の腰についたヒョウタンに指をさす。 茨木童子・旅立 『昨日、神子様が参拝者にお経を聞かせた後、酒を飲んでいたのを見て、悩みでもあるのかなと思ってこの方法を思いついたんだ。』 茨木童子・旅立 『どうだ?俺との勝負で気が晴れたか?』 神子は風に袈裟を靡かせながら。 目の前で得意げに話すその子を面白く見ている。 そして腰にあるヒョウタンを手に取り、一気に飲み干した。 酒呑童子・無我 『物は名によって実物になることはなく、名は物に与えられることによって物になることもない。』 酒呑童子・無我 『心に曇りあらば酒がまずくなる。せっかくの良い酒も台無しではないか。』 そう言うと、ヒョウタンを茨木童子に投げ渡し、寺のほうへ向かった。 酒呑童子・無我 『小僧、本気で俺と勝負したいのなら、それを満たして明日持ってこい。』 |
3. 法陣
銀髪の幼い妖は待ちくたびれていた。雑草を引っ張っては、通り過ぎるトンボを追いかけ、 やがてやることがなくなると、退屈が襲いかかってきた。 岩に座って足をバタバタさせながら、首を長くして神子の姿を探していた。 茨木童子・旅立 『……』 痺れを切らしたその時、待ちに待った姿が視界に入った。 茨木童子は岩から飛び降り、早足で駆け寄ると、満杯のヒョウタンを神子に差し出した。 茨木童子・旅立 『ほら、待っていたぞ。勝負はいつだ?』 酒呑童子・無我 『今だ。』 神子がヒョウタンを受け取ると同時に、茨木童子の足元の地面が崩れ落ちた。 |
ここは、色とりどりの霧が延々と続く奇妙な空間。 見上げれば、空には太陽と月が同時に出ていて、時間も場所もわからない。 茨木童子・旅立 『神子様?』 茨木童子の声がさざ波のように広がっていく。しかし、返ってくるのは意味をなさない音だけだ。 静寂に包まれた空間。 茨木童子は歩き出した。周りの景色がどんどん過ぎ去っていく。しばらくすると、宙に浮かぶ三つの宝珠が視界に入った。 茨木童子・旅立 『これは……?』 華やかな輝きを放つ金色の宝珠には、天空の景色が映っている。 生気あふれる碧色の宝珠には、町の景色が映っている。 炎のように燃えている赤色の宝珠には、煉獄の景色が映っている。 中から一つ選べという神子の試練だが、茨木童子は迷わず三つの宝珠とも手にした。 すると、周りのすべてが粉々に崩壊し、別のものに変わっていく…… |
4. 幻像・一
ここは赤く染まった世界。無数の妖怪が殺し合っている。 茨木童子はここに来ていきなり、燃え上がる炎に焼かれそうになった。 急いで後ずさりしたら足を踏み外しそうな感じがして、振り向くと冷や汗が出た。 茨木童子・旅立 『!?』 ここは天を貫く連なる山々に囲まれていて、真ん中が底見えない深淵だった。その縁で殺し合う妖怪たちは次々と深淵に落とされ、炎に飲み込まれていく。 脱出しようと辺りを見渡したが、道が見当たらない。その時、身体が大きく凶暴そうな妖怪が茨木童子の存在に気づいた。 茨木童子・旅立 『しまった。』 作戦など考える間もなく、大妖怪が襲いかかり、その腕を振り下ろす。 茨木童子は反射的にしゃがんで攻撃をかわし、よろけた大妖怪の膝を全力で蹴った。 だが妙なことに、当たった実感がまったくなく、まるで空気を蹴ったかのようだった。 驚いて気を取られた隙に、大妖怪が茨木童子を掴み、腕を引き裂こうとする。 押し寄せてくる激痛に茨木童子は思わず目を瞑った。骨を砕かれる音が遠くなり、両腕が赤紫色になって腫れ上がっていく。 茨木童子・旅立 『うぅあぁぁぁ!!』 鋭い耳鳴りに混じって、とある声が聞こえてくる。 力をよこせ。俺がお前を救う。 茨木童子はパッと目を開いた。自分の腕を引き裂こうとするその妖怪は、自分と同じ顔をしていた。 力をよこせ。俺がお前を救う。 茨木童子・旅立 『……』 茨木童子・旅立 『渡すものか!』 腕を引き裂かれ地面へと落ちる茨木童子は、すべての妖力を足に集中させる。 そして足が地面に着く瞬間に飛び上がり、頭で自分と似たその頭に叩き込んだ。 パチンッという音とともに、周りのすべてが泡のように弾けて消えた。 |
5. 幻像・二
人で溢れかえる街で、物売りが飴細工を回しながら客を呼び集めている。 茨木童子の横を通り過ぎた一人の女の子が、母親におもちゃをねだる。 そんな光景をただぼんやりと眺める茨木童子。さきほどの大妖怪も煉獄のような光景もすっかり消えていた。 茨木童子・旅立 『……』 突然目の前の景色が変わりはじめ、気がつけば女の子の家にいて、母親が笑顔でご飯を運んできてくれた。 ぼうっとする茨木童子を見て、口に合わないのかと母親が尋ねてくる。 茨木童子・旅立 『あ?いや……』 茨木童子は茶碗を手に取り、パクパクと食べ始めた。 茨木童子・旅立 『変な感じだ。』 腕が戻ったことにまだ慣れていないという意味で出た言葉だが、ほらやっぱり昨日のほうがおいしいと女の子が言い出した。 家族のような楽しい食卓だった。 夜、茨木童子は腕を枕にして横になり、草ぶきの屋根とカビ付いた柱を眺める。 茨木童子・旅立 『やっぱり変な感じだ……』 徐々に緊張がほぐれると、疲労が押し寄せてきた。 視界がぼやけていく……その時—— 窓の外をよぎった火の光で反射的に目が覚めた。 静かにしなさいと女の子に話す母親の声が聞こえた。二人は見知らぬ男と金額の交渉をしているようだ。 茨木童子はすぐに起き上がり、窓から外に出ようとした。 しかし窓に触れた瞬間、火花が散り、茨木童子は強い力に縛られ動けなくなった。 陰陽師の恰好をした男が呪符を持って部屋に入り、茨木童子に冷たい視線を向ける。 力をよこせ。俺がお前を救う。 耳元でまたあの声が響く。 陰陽師が茨木童子に指をさすと、呪符がまっすぐに飛んでいき茨木童子の体に貼り付き、その全身に激痛が走る。 茨木童子・旅立 『うぅあぁぁぁ!!』 力をよこせ。俺がお前を救う。 茨木童子は歯を食いしばり、気絶するまでその声に応じなかった。 パチンッという音とともに、周りのすべてが泡のように弾けて消えた。 |
6. 幻像・三
遠くから、優しい声が聞こえる。 茨木童子は目を開けると、雲の上にいることに気づいた。 目の前には、かすかな光をまとい、ただならぬ気品を漂わせる人たちが立っている。 茨木童子・旅立 『神様、か?』 その人たちは何も言わず、ただ茨木童子を見つめている。 そして、真ん中の神がゆっくりと茨木童子に手を差し伸べた。 君は試練を乗り越えた。 さぁ、その体をよこしてもらおう。 その代わり、君に最強の力を授けよう。 茨木童子は目の前の人たちに対して、どうしても警戒心や嫌悪感を抱くことができない。 むしろ人を慕わせる強い力を感じる。 自分がいくら努力しても手に入らないような力。 どこか懐かしく、身近にいる誰かが持っているような力…… 茨木童子・旅立 『神子様……』 茨木童子は思い出した。 自分は無限に続く戦いではなく、山頂の景色を求めてやってきたことを。 すべてを包み込むような優しく強い力に惹かれてやってきたことを。 もっと高い所に登れたら、もっとすごい景色が見られるに違いないと思った。 そこから、山を一つまた一つ征服してきたのだ。 茨木童子は目の前の神をまっすぐ見て、頭を横に振った。 茨木童子・旅立 『俺はこの拳で自分だけの力を手に入れてみせる。』 パチンッという音とともに、周りのすべてが泡のように弾けて消えた。 |
7. 霊童
茨木童子が目を開けた時、すでに夜の帳が下りていた。 月が静かに空に浮かび、草むらからコオロギの鳴き声が聞こえる。 目が覚めた茨木童子を見て、この子が並々ならぬ根性の持ち主だと酒呑童子はわかった。 もう心配することはなさそうだ。 酒呑童子・無我 『そろそろ麓まで送る。』 それを聞いて茨木童子は飛び上がり、ぶつぶつ言いながら力を振るう。 茨木童子・旅立 『勝負してくれると思ったら、試練を課しただけじゃないか。』 茨木童子・旅立 『神子様にも心魔の試練を受けてもらう。』 言い終えると、茨木童子は渾身の力で神子を囲むように小さな法陣を作った。 それは小さくて、みすぼらしくて、真っ暗な空間だった。 神子はその簡素な法陣を見て面白がっていると、 暗闇の中から人が現れた。見えなくても、もう一人の自分だとわかる。 酒呑童子・無我 『まあよい。付き合ってやろう。』 |
8. 心魔・一
9. 心魔・二
10. 心魔・三
11. 滅却
12. 旅立ち
神子はいとも簡単に心魔を倒した。 余裕の神子を見て、茨木童子は力の差を感じた。 酒呑童子・無我 『小僧、修行に励め。妖の世界は弱肉強食だ。俺が本気で相手になったら、お前はとっくに倒されていたぞ。』 茨木童子・旅立 『修行なんか容易いことだ。倒されてたまるものか!』 修行より、自分を取り囲んだあのすごい法陣をどうすれば作れるようになるのか、思案を巡らせる茨木童子だった。 神子は笑いながらその場を後にした。 茨木童子が目を覚ますと、すでに伊吹山の麓にいて、夜が明けていた。 |
神子は麓を見下ろす。茨木童子が去っていったとわかり、物思いに耽ける。 幼い妖の法陣は簡素なものだが、心魔の言葉で神子の心に波紋が広がっていた。 神子は寺に戻った。道中で神子に導きを求めてやって来た参拝者とすれ違ったが、 この人こそが導きを授かる神子だと誰も気づかなかった。 寺で最も博識の老住職に神子はこう問うた。 酒呑童子・無我 『参拝者に経を読み皆を導いているが、俺自身はどこに向かえばいい?』 老住職 『生きとし生けるものは全て、己の来た道へと戻るもの。参拝者たちはただ慌ただしく戻ってゆく。』 老住職 『そなたは……背負う運命が定められているだけなのじゃ。』 |
13. 百物語
青行燈 『世の中の物語は、語り継がれていくうちに様々な異説が生まれる。』 青行燈 『そのどれが真実でどれが偽りかは、物語の中の人でさえ記憶が曖昧になっているかもしれない。』 出来上がった秘巻を見て、青行燈は満足げに手を上げ、この数百年前の物語を閉じた。 秘巻がすっと横の棚へ飛んでいき、数十冊の秘巻の間に入った。 青行燈 『さて、次はどんな物語を描こうかしら?』 |
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