【白猫】シエラ(温泉)・思い出
シエラ・スキルニルグ CV:雨宮天 相棒フレイヤと共に旅する農家の少女。 手作りの郷土料理は絶品。 |
白猫温泉物語2
思い出1
アオイの島での騒動から、少しだけ後――
飛行島はいまだ、アオイの島に停泊していた。
こんにちは、みんな!
やっほーシエラー!
シエラさんもフレイヤさんも、こんにちは♪
……ええ。
今回はちゃんとご挨拶ができて、嬉しいです!
ふふ。友達だものね、フレイヤ。
名前を呼ぶことを許しただけです。
もー、フレイヤったら照れんでもいーのに!
キャトラは相変わらずですね。……毛並みが乱れていますよ。
ゴロゴロゴロ~。
フレイヤも相変わらず、キャトラには甘いわね~。
それにしても……小さいですね、フレイヤさん……!
私も子どもの頃に初めて見たときは驚いたわ。
フレイヤは体の大きさを自由に変えられるからね。
人目の多い場所では、この方が目立ちませんから。
……ねえフレイヤ? アタシも小さくなれないかしら?
無理でしょうね。
巨大カニカマを見上げる夢がついえたわ。
とにかく、二人ともゆっくりしていってくださいね。
あ、ええと……今日は相談があってきたの。
アオイの島に来たのは、フレイヤにも羽を伸ばしてほしかったからっていうのもあるんだけど……
どこも予想以上に人が多いのよ。
フレイヤ、人間嫌いだものね。
シエラ。気をつかわなくて良いと、何度も言っているはずです。
そんなんじゃフレイヤが、心も体も休まらないでしょ。どこかきっといい場所が……
どこへ行こうと、他人の目があるのなら同様です。
サクランボが食べられれば、私は充分です。
もう、それじゃいつもと同じじゃない。
旅館でのんびりしたり、好きなだけ温泉に入ったり……
私はもっとフレイヤと、アオイの島を楽しみたいわ。
何事も思い通りにはいかないものです。
だけど……
シエラが飛行島にいる間、私も少し、一人になります。
温泉街の喧騒も、ここまでは届きませんから。では。
フレイヤさん、行っちゃいましたね……
フレイヤにくつろいでもらうには、どうしたらいいのかしら……
思い出2
シエラは読んでいた温泉街の案内カタログをそっと閉じた……
(……やっぱりないよね。都合よく貸切できる温泉宿なんて……)
(もしあったところで、お金が足りないだろうし……)
シーエーラ~~~!
みんな、そんなにあわててどうしたの?
アンタ、料理得意よねっ?
う、うん。一応それなりには……
ならこのチラシを見んしゃい!
これは?
前に温泉街を回ったときにもらったチラシがたまっていたので、みんなで見返していたんです。
フレイヤさんにもアオイの島を楽しんでもらえる手がかりが、見つかればと思って……
そして見つけたのよ、それをね!
ええと……入浴ダイエットの手順? 入浴時間は10分。温度は41度。入浴前にお水を一杯飲み……
すみません……それ私のメモです……
裏じゃなくて表を見るのよ。
『アオイの島・料理こんてすと』開催決定……?
そ。開催日はちょうど今日!
当日エントリーOK……あなたの作る最高の一品を、アオイの島の名物にしてみませんか?
優勝賞品は……温泉旅館の一日貸切権……!
貸切だったら、フレイヤさんも人目を気にせずのんびりできると思います!
たしかに……
……でも、料理が得意っていってもしょせん素人だし……
美味しい野菜を、もっと美味しく食べたかったから勉強しただけよ。
なせばなるわ!
……なるかな?
だっておいしかったもん! アンタのイモ煮!!
あ、ありがとう。
……そうね。やる前から諦めたらなんにもならないよね。
広い世界を見て回る……そんな私の願いが叶ったのは、フレイヤのおかげだもの。
私はフレイヤに恩返しがしたい。
よしっ……フレイヤに内緒で優勝して、あとでびっくりさせるんだから!
思い出3
選手とギャラリーでいっぱいね。
エントリー、ギリギリで間に合ってよかったわ。
「お待たせいたしました。参加者のみな様は、調理場にお集まりください。」
始まるみたいです。がんばってくださいね!
うん、いってくる。見ててね、みんな!
<広場に設置された仮設調理場に、多くの参加者たちが集結した!?
「本日はご参加いただき、誠にありがとうございます。
私の店で振る舞う料理に新たなメニューを取り入れるべく、今コンテストを開催する運びとなりました。
みな様のお力をぜひともお貸しください。」
(ライバルの人がたくさん……! 負けられないわ)
「予選のテーマは……『汁物』!
私自ら食した後に選考を行い、選ばれた方のみ決勝へ進んでいただきます。
多くの方々にご協力いただき、様々な食材を揃えました。各自、自由に選んでください。――では、予選開始です!!」
<そうして参加者たちは、各々の食材を選び調理に移るが――>
(これは鮮度がいまいち……こっちは発育が悪いわ。
……納得のいく食材が、なかなか見つからないわね)
「おめ、うちの野菜はどうだべ?」
「大切に育てられたネギね。ハリツヤがあって色の境目も綺麗。泥付きだからみずみずしいわ。」
「んだ、俺の育てた自慢の野菜だ。たらふく食ってがんばってくれぇ。」
「私が食べたら意味ないんだけど……でも、ありがとう。ぜひ使わせてもらうわ♪」
「ご一緒にお米はいかがですか~?」
「テーマは汁物だから、とりあえずいいかな。」
「なんの、米味噌もありますので! 絶品ですよ~♪」
「すごく上品な香り……♪」
「ついでに新鮮な魚もどうだい? さっき獲れたばかりだよ。」
「瞳が透き通ってる……身もしっかり弾力があるわ!」
<最高の食材をそろえたシエラは、手際よく調理を進めていく。>
「これでよし、と。……うん、味付けも完璧。
……いけるかも!」
「変わった料理ですね、それ。」
「『どんがら汁』よ。魚の身と内臓を煮込んで、お味噌とネギを加えた田舎の郷土料理なの。
そういうあなたの料理も、面白いわ。」
「フフ……これは『だご汁』です。私の故郷の料理ですよ。」
「いろんな野菜にお団子に……具だくさんで美味しそう……」
「筋肉ムキムキの人の野菜が、まさしく一級品でした。おかげでいい出来になりましたよ。」
「うちのネギもあの人のよ♪ うちの農家で作ってる野菜にももしかしたら負けないかも……」
「あら、うちの実家も農家なんです!」
「あなたも!? 奇遇ね♪ 私、シエラっていうの。」
「あ、申し遅れました。ミチカと申します。」
「ライバル同士だけど、お互いにがんばりましょうね。」
「同じ農家出身として、負けませんよ!」
思い出4
「俺の料理は『トムヤムクン』だ! いっけえええええ!!」
「辛ッ!? 次!」
「お肉たっぷりの『シチュー』よ! 自分で作って、自分で食べる!」
「私の分は? 次!」
「カラダ ハジケテ ポップコーン!」
「テーマは汁物です。次!」
激戦ね! あ、次がシエラの番よ!
がんばって……!
「これは……?」
「『どんがら汁』よ。田舎の郷土料理なの。」
「なるほど、味噌汁に魚とは珍しい取り合わせですが……
――これは、美味い。魚の身の旨みと上品な味噌の香りが実に合う。
クセの強いキモの風味を、ネギのさわやかな甘みが支えています。」
「岩のりがあると、本当はもっと美味しいんだけど……」
「次は私の番ですね。私の料理はこれです。」
「これまた、ずいぶんと具だくさんな……」
「『だご汁』です。どうぞご賞味ください。」
「では……。――ッ! これは美味い!!
一見、雑多に放り込まれているすべての食材の風味が、シンプルながら奥行きのある上品なダシの香りによって完ッ璧に調和しています!
これは……文句なしの決勝進出です!」
「即決……!? ……すごい。」
<その後も審査は進み――すべての予選通過者が出揃った。
決勝に歩を進めたのは、ごくわずかのみ。そしてその中には――>
「お互い勝ち残れてよかったですね、シエラさん。」
「ええ。……あなた、すごい人だったのね。」
「これでも一応、本職の料理人ですから。まだまだ未熟ですが。
実家の野菜を広めるために、世界中を飛び回りながら修行してるんです。」
「……世界を……」
「では、また後ほど。決勝でもよろしくお願いしますね。」
おーいシエラー! 予選突破おめでとー!
決勝、がんばってくださいね!
うん、勝つわ。フレイヤのために。
(……でも勝てるのかな、私に)
思い出5
<観衆が見守るなか、決勝戦が始まった。>
m「…………
(さっきは気付かなかったけど、すごい技術……それに あんな調理法、見たこともない!
経験も実力も、差は歴然。普通に立ち向かっても、きっと勝ち目はない……
どうしよう……)
シエラったら、さっきから様子がヘンね……
さっきからすごく隣の人を気にしてる……あの人の実力に、飲まれちゃってるのかも……
見てるこっちまで落ち着かないわ……!
(大丈夫……私だって、フレイヤと一緒にいろいろな場所を旅してきた。
そのとき食べたもの、覚えたこと、感じたこと……
思い出して、ひとつひとつ実践してみよう。
今までの私で敵わないのなら、新しいことを試さないと……!)
***
「…………」
(――駄目。全然うまくいかない……やっぱり付け焼き刃じゃ……
どうしよう。このままじゃ……勝てない!)
「……シエラさん?」
シエラさん……
目に見えて焦ってるわね。こんなときにフレイヤがいてくれたら……
……騒々しい場所ですね。
いたー!! アレ、でもなんでここに……
帰りが遅いので、探しに来たのです。
……シエラはあんな所で、何をしているのですか?
思い出6 (友情覚醒)
隣の人、凄腕の料理人さんみたいなんです。それで……
――なるほど。相手の力量に飲まれているのですね、シエラは。
優勝賞品は――温泉宿の貸切権。まったく、あの子は……
アイリス。私の声に合わせて口を動かしなさい。
え?
(時間だけがどんどん過ぎていく……このままじゃ……)
「あなたの料理は、育てた野菜を美味しく食べるためのものでしょう?」
<人垣から響いた声に、シエラはあわてて顔を上げた。>
「……フレイヤ。」
「それになにより――あなたが育てたサクランボは、この私さえも虜にしました。
大丈夫。自分の舌を信じなさい。」
「……うん。そうだったね、フレイヤ。
――私は、私が美味しいと感じる料理を全力で作ればいい!
***
「今日はありがとうございました。
「こちらこそありがとう。それと……優勝おめでとう、ミチカ。
「ありがとうございます。シエラさんの腕前も、本当に素晴らしかったです。
…………
「作り慣れた得意料理だったから。……負けちゃったけどね。」
「またやりましょう。……あ、決勝と予選で作ったやつ、レシピを教えてくれませんか?」
「お安い御用よ。そのかわり、あなたの方もね♪」
***
へ~、やっぱり便利なのね、ルーンコンバインって……
でもシーズン終わりのメンテが本当に大変で……
長いわね、農トーク。
あ、すみません、長々と。私、そろそろ行きますね。
――と、そうだ。これ、受け取ってください。
……これ、優勝賞品じゃない。もらえないわ。
私、もうこの島を出るんです。もったいないので、よければもらってください。
そう言ってくれてるし、受け取っておきなさいな。
……うん、ありがとう!
――代わりにこれ。実家で作ってるサクランボよ。
友達の分なんだけど、……少しだけ、おすそ分け。
これはまさか――あの有名な<スキルニシキ>!? しかもこの大きさ……特秀!?
な……せっかく旅先で買った貴重品を…… !
……なんて上品な甘み。農家の愛が伝わってきます。きっと他の野菜や果物も、素晴らしい出来なのでしょうね……
もちろん♪ いつかまた、ごちそうするわ。
***
――やってくれましたね、シエラ。私の<スキルニシキ>を……
う、ごめん……でも他にお礼になるものが何もなくて……
まったく……
でも代わりに――じゃん! あなたにプレゼントよ。
温泉宿の貸切権ですね。
……あ、知ってたんだ。せっかくの温泉街だもの。やっぱりフレイヤにも、心から楽しんでほしいから。
たまには一緒のお布団に潜って、夜更かしして、お喋りしましょう?
……私の休息のためなのでは?
眠くなるまででいいから。ね?
……仕方がありません。少しだけ付き合います。
それと一応、礼を。ありがとう、シエラ。
こちらこそ、いつもありがとう。
これからもよろしくね……フレイヤ♪
揺るぎなき純白の親愛 シエラ・スキルニルグ
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