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【黒ウィズ】フェアリーコード2 Story4

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目次





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story1 我は何か



ねえ、待って、タツマくん。

その子、エコー体なんでしょ?タツマくんを墜とした本人じゃないなら、無理に倒さなくったって――

我を墜とした者の残響なぞ、ひとひらなりとて許し置けぬ。

でも、音を無くした人たちの治療に役立つかもしれないのに。

知ったことか。人間どもの事情など、関知するに値せぬ。

タツマくんだって、今は人間でしょ?

 タツマは足を止めた。

苛立ちが、泥まみれの濁流のようにせり上がる。気づけば、それをそのまま言葉に変えていた。

我は……我は龍だ!人の身に擬態しようとも、龍たる誇りを捨てたわけではない!

誇りは龍のすべてだ!守れなければ龍とは呼べぬ!ゆえに、あれを砕かぬわけにはいかぬのだ!

 タツマは振り向き、ミホロを見据えた。

ミホロの顔には、戸惑いが浮かんでいた。タツマが、なぜそうせずにはいられないのか、理解できない――そんな戸惑いが。

(……当然だな)

 溶岩が冷えて固まるように――燃えるような憤激が収まり、冷たい虚しさに変わるのを感じた。

龍と人では、感性が違う。思考の土台が違う。龍にとって当然であることが、人にとって当然であるわけではない。

……誇りは、あらゆるすべてに勝るのだ。人たる汝には、理解できまい――

 ヴーッ、という振動音が鳴った。

タツマのポケットからだ。タツマは、沁みついた習慣で反射的にそれを取り出し、画面を見た。

コウイチからのメッセージだった。

『あいつ見かけたけど、ー緒じゃないの?』



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story2 ソウヤと金森



 手分けしてエコー体を探すにあたって、ソウヤは金森と同行することにした。

(……彼が味方という保証はない。ハビィ君を回収する気がないというのも、本当かどうか……

それに、彼には聞きたいこともある……)

 音を失った人を治療する技術の研究。それが本当であるなら――

k紅鬼先生。

あ――はい。なんでしょう。

k先ほど、娘さんが音を取り戻したと言っていたが――あなたの娘さんも、何者かに音を喰われたのか?

ええ……そうなんです。犯人はまだ。妖精の仕業かと思っていましたが、ひょっとしたら悪魔かもしれません。

いずれにしても……。

必ず犯人を突き止め、世界でいちばん大切な娘の音を取り戻す。僕は、そのために戦っています。

k……なら、私と同じだな。

私も、大切な人の音を喰われた。治療法を探したが、なんの手がかりも得られなかった。

私にはフェアリーコードが聞こえんのでね。心の音が喰われたなどとは、わからなかったんだ。

ですが、あなたは……。

k今は聞こえる。補助機械のおかげでね。志を同じくする、研究所の先達たちの努力の結晶。おかげで私も真実を知ることができた。

彼らに誘われ、私も研究に参加することにした。大切な人の、失われた音を取り戻すために……。

 金森は、ぎゅっと目を細めた。その心から流れ出る音色を、ソウヤは確かに心で聞いた。

気高い意志。強い覚悟。哀切と希望。心から誰かを思う気持ち、救いたいという願いが、切ない音色となって流れ込んでくる。

(……これは、確かに心の音色だ。彼自身の心が奏でているものだ)

 突然の悲劇に泣き崩れ、運命をなじり、幾度となくすべてを諦めそうになりながらも、希望を捨てきれず、這いずるように前へと進む。

この人は、ずっとそうしてきたのだ。自分と同じように。

深い共感に胸を打たれ、ソウヤは唇を結んだ。そんな彼を見て、金森は痛みをこらえるような微笑みを浮かべる。

k……やっと見つけた希望なんだ。エコー体は。研究を進めれば、あなたの娘さんも……きっと助かる。

危険性はないのですか?

kない……と言いたかったが。今の事態を見ると、そうも言えないかもな。

だが、それでも……制御してみせる。それしか希望はないんだ。

Zあ~あ、辛気くせえ音だなぁ。

 何もかもを面白半分にねじきるような音色が、突如、その場の空気を変えた。

マサン……!

よう、先生。久しぶりだな。怒ったときの語彙は増えたかい?

何の用だ。

野暮用さ。

 マサンがニヤリと微笑むと、周囲の空間の音が弾けるように外れ、たちまち世界が異様な色合いに変じていく。

 ソウヤは翅音を展開し、懐から取り出した帯状のピアノを巨大な鎌へと変化させる。

 金森も機械から短音を広げ、装甲となして身にまとった。

気をつけてください、金森さん。奴は悪魔だ。底知れない力を持っている。

おっと、意外な高評価。

そっちのお友達は面白いもん持ってるな。機械で無理やり自分の音を引き出して、翅音にしてんのかい?よくやるよ。

なかなか出来の気になるおもちゃだ。ちょいと遊ばせてもらおうか!

 マサンの翅音から、黒い炎が噴き出した。


 ***


Kタツマ……。

そのお姉さん誰よ!!!?

どうでもいい。気にするな。

Kよくねえよ!気になるよ!!

例の奴はどこだ。どこへ行った。

 コウイチは、急にムッと眉をひそめた。

Kそれ聞いて、どーすんだよ。つか、あいつなんなの。おまえ何がしたいわけ?なあ。

……おまえには関係ない。

K……おまえさ。そういうとこあるよな。マジで。おまえのなかだけでいろいろ考えてさ、相手に何も言わねーの。

言いたくねーこともあるだろうけどさ。そればっかじゃ、こっちだって納得できねーし、判断もできねーよ。

「強い音だけ叩きつけても、相手は納得できないよ。」

――!

 タツマは思わず息を呑んだ。

脳裏によみがえる言葉――穏やかな微笑み。誰かの。あいつの。いつの?なぜ――

わからない。苛立ちが胸をかき乱す。自分のものであるはずの心が、まるで自分の思い通りにならない――

……うるさい!いいから教えろあいつはどこへ行きやがった!!

K……言わねーよ。今のおまえにゃ、絶対言わねー。だって、ふつーじゃねーもん。どう見てもさ。

普通!?普通ってなんだ俺の普通って!何が……どれが俺の普通なんだ!!

 タツマは、わめくように叫んで駆け出した。

Kいきなりテツガクかますなよ。思春期すぎんだろ。

 コウイチは嘆息し、ミホロの方を振り向く。

Kお姉さん、あいつの知り合い?まさかカノジョじゃねーっすよね。

あ、うん……その、友達……みたいな?

Kマジで?どんなルート辿ったらOLのお姉さんと友達になれんのかめちゃくちゃ気になるけど――

あいつ、ああいうヤツだから。いろいろめんどくせーし、口も態度も悪いけど、根はいいヤツなんスよ。マジで。

だから、なんかめんどくせーこと言っても、大目に見てやってください。俺とかそんな感じでダチやってるんで。

……うん。ありがとう。

 ミホロは、ハビィを抱きしめるようにして微笑んだ。

タツマくんがいい子なのは、ちゃんと知ってる。私、前に助けてもらったことがあるから。


 ハビィと出会って間もない頃――暴走妖精と戦い、敗北したふたりの前に、彼は現れ、翅音を広げた。

「すっこんでろ。あいつは俺がぶちのめす。」

 そして、宣言通り暴走妖精を打ち倒し、ミホロたちに仏頂面を向けたのだった。

「ここは俺の縄張りだ。ああいうのは俺が片づける。弱えーんだから出しゃばるな。いいな。」


最初は、怖いしトゲトゲしてるなあって思ったけど――


「またおまえらか。何やってんだ。弱えーんだから来んなって言っただろ。」

「だって、人が襲われてたら、放っておけないし……。」


「ふざけた音を出しおって叩き潰してきりくれる!」

「待って!突っ込んじゃだめ!今、ハビィがデータをまとめてるから、ちょっと待って!」


「あの妖精、誰か捕まえてる!タツマくん、まずはあの人を助けないと!」

「はあ?くそ、メンドくせーな。おいハビィ、なんかいい手ねーのか。」


「あ、タツマくん、ハビィがおすすめのゲーム見つけたって。ドラゴンが強い奴。えーと、タイトルは……「ドラゴンオブザデッド」。」

「おいそれ絶対ドラゴンがゾンビになってる奴だろ。いくら強くてもゾンビ化してる時点で認めねーからな!俺は!」


タツマくんの根っこには、すごく強い「誇り」があって……だから、困ってたら助けてくれるし、逆に困ってるとかは言いづらいんだと思う。

 龍であった、という誇り。きっと、それがタツマの土台になっている。

だから、あんなに焦っているのだろう。誇りを守れなければ、龍でいられない――それは自分が自分でなくなることだと感じて。

ハビィが、強い電子音を発した。決意に満ちた、高らかな音を。

……そうだね、ハビィ。

 ミホロはうなずき、コウイチに向き直った。

タツマくんのことは、心配しないで。私、ちゃんと話してくるから。

Kなんかわかんねーけど、あざます!

あ、ところで俺マジすげーあいつのこと心配なんで、状況知りたいから、良かったらおねーさんの連絡先とか――

行こう、ハビィ!

Kちょっと!ちょっとお姉さんああん、行っちゃった……くそう、あとで絶対あいつから聞き出してやる!!



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story 衝突するふたり




俺の攻撃、採点してくれよ、先生!

 マサンが黒い火球を放つ。ソウヤと金森は、跳躍して炎の咋裂から逃れた。

K紅鬼先生。これは罠だ。我々はどこかへ追い込まれている――誘導されている!

 金森の言葉通りだった。マサンは巧みに場所を移動しながら戦い、ふたりを特定のルートに導していた。

わかっています!問題は――

 誘導された先に、何があるかだ――そう言おうとして、ソウヤは息を呑んだ。

道の先に、あの少年が立っていた。

何も見つめず。何にも触れず。ふわりと宙に浮いている。大地が、彼に触れることを恐れるように。

ぽつりと、何かがソウヤの肩を叩いた。

(――雨)

 体温のようなぬくもりを帯びた雨粒が、高き天より降り注ぎ、大地で弾け、散っていく。

その音が連なって、不思議な余韻の旋律となる。

天地を照らし、包み込むような――幽遠にして玄妙なる神秘の旋律に。

なんだ……この音色ま……彼の、心の音なのか?

K……見ろ!

 金森が、ハッと声を上げた。

少年の背から、色鮮やかな翅音が広がっていく。太陽のように神々しく、虹のように美しい――天の宝のような翅音が。

Kあれは――

おやおや。始まっちまったみたいだねえ。尽きせぬ思いの羽化ってヤツが。

何を知ってる?何が起きようとしてるんだ!

さーて。なんだろうな。俺もそれが知りたくて来たのさ。

それより、先生。あっちは気にしなくていいのかい?

 マサンが、すうっと指差した先――雨の帳を突き破るように、駆け抜けてくるものがあった。

おぉおぉおおぉおおおおっ!

早苗!?

 タツマは背に光輪状の翅音を生やし、ー直線に少年へと向かっていく。手の笛は、すでに杖と化していた。

待つんだ、早苗!

るせえっ!どいてろっ!!

 ソウヤは加速し、タツマの前に割り込んだ。タツマは構わず杖を振るう。

ソウヤは鎌で、タツマの杖を受け止めた。強烈な音圧が、ソウヤの翅音を軋ませる。

不遜なり!!

 強烈な咆哮が、音の衝撃となって飛んでくる。ソウヤは捕音で衝撃を殺しつつ後退した。

奴は消す――阻むとあらば、散らしてくれるぞ!吸血鬼!

エコー体を破壊されるわけにはいかない。ユリカを救う手がかりなんだ!


 ***


 激しい雨が、路面を叩く。雨粒の弾ける音が、ざあざあと耳を叩く。

雨は嫌いにゃ。濡れるし、いきなり降ってくるのがけしからんにゃ。

 君の肩の上で、ウィズがぼやく。

雨に「けしからん」とか言うのはうちの師匠くらいだろうな、と君は思った。

どこか、傘を売ってるところはないにゃ?

コンビニならあるよ。え-と、このへんだと……。

 きょろきょろと周囲を見回し、リレイはぎょっとなった。

――ルミちゃん!?どうしたの!?

 雨に濡れたルミスが、ふらふらと降下し、ぐったりと路上に両手両足を突いていた。

大丈夫!?ひょっとして、雨とかダメ!?

……そういうんじゃなくて……これは……。

 苦しげに顔を歪め、荒い息を吐いている。明らかに、尋常な様子ではなかった。

音が……降り注いでる……。

えっ……音が?

あなたたちは……平気なの?こんな――

wう――ううぅう……。

 うめくような声がした。

振り向くと、リレイの友人――トヨミが、傘も差さずにふらふらと歩いてきていた。

トヨちゃん!?トヨちゃんも――ねえ、いったいどうしたの!?

待つにゃ!様子がおかしいにゃ。

うう……。

ああ――ああああああっ!

 トヨミは顎を逸らし、獣のような絶叫を上げた。

その背から、ずるり、と何かが現れる。

翅音――!?

 そう。翅音だ。光り輝く、音の翅音――

いや。翅音だけではない。

翅音もろとも、装甲をまとった異形が、さなぎから飛び立つ蝶のように、トヨミの背から現れた。

ア……。

 トヨミは意識を失い、その場に倒れる。

その横で、翅音を持つ異形が雄叫びを上げた。

あれは――暴走妖精にゃ!?

違う…あれは――

wRオオォオオォオオオオ……!!

〝それ”は言葉にならない声を上げ、こちらに向かって突っ込んできた。

 君とリレイは、バッと左右に散って突進をかわした。君はカードを、リレイはギターを取り出す。

なんで――?なんでトヨちゃんから!?

音が、あふれてる……あふれた分が、こぼれてる!

 ルミスが、人間サイズになって剣を握った。その表情はまだ辛そうだったが、それ以上の戦意が彼女を支えている。

気づけば、周囲の音が外れていた。いや――今も外れ続けている。ギターの弦が、次々と切れていくように。

まさか……あの、しゃべらない暴走妖精……全部、人から…!

wRオォオオォオオオオッ!!

 雄叫びとともに、暴走妖精が――いや、あふれ出た少女の音の塊が向かってくる。

止めるわよ!でなきゃ、あの子の音は戻らない!

わ――わかった!



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story 膝




wRオアァアアァアアアアッ!!

 音の塊は、がむしゃらに腕を振り回した。そのー撃が、ルミスを派手に吹き飛ばす。

あぐっ……!

ルミちゃん!

 君は、くずおれた彼女に駆け寄り、カードから癒しの音色を響かせる。

ルミス――調子が悪いにゃ?いつもなら、今のは避けられたはずにゃ。

雨で……音が、あふれそうになって……

止めなきゃって気持ちが……止められなくなる……!

 君は魔法を使いながら、息を呑んだ。

そうだ。彼女も妖精なのだ。

気持ちが高鳴り、他の気持ちをかき消せば――ただその気持ちだけしか持たない、暴走妖精になってしまう。

君は、よどんだ空を振り仰いだ。

上げた顔を、雨粒が叩いた。ぴちゃん、と弾ける音色とともに。

音。

この雨のー粒ー粒が、音なのだ。それが、人や妖精に音を注いでいる。

そうして音が増えたとき。器からこぼれたら、どうなるか――

きゃあっ!

 悲鳴。君は我に返って振り向いた。リレイが打ち倒され、雨のたまった路面に転がされていた。

リレイッ……!く――

 起き上がろうとして、ルミスはうめく。その身から、激しい音があふれだしている。止めねばという気持ち、そのものの音色が。

まずいにゃ。ルミスを戦わせてはいけないにゃ!

 自分がやるしかない。君はカードを構え、音の塊に対峙する。

だが、勝てるだろうか?相手の音は、あまりにも強く鳴っている……この雨が、さらにそれを膨れ上がらせている。

音の塊が、吼える。それだけで、激しい衝撃が押し寄せる。

君は奥歯を噛み締め、カードを握る――

wどりゃー!!

 空から、音が降ってきた。

豪快で強引で剛強な轟音。明るく楽しくあけっぴろげな爆音。

音の塊を吹き飛ばしながら現れたのは、斧と化したギターを手にした悪魔の少女。

ディギィ!

雨ってさー。濡れるし邪魔だしうるさいし、泥とか跳ねるし後でにおうし、もーうざったくって嫌ンなるよねー。

 ひとしきり文句を言ってから、ディギィはニヤリと笑って音の塊に向き直る。

でもさ。雨の中で敵をブッ飛ばすのって、なんかソーカイ感すごくない?

なのでェェェェェ――

膝ァ!!!!

 問答無用の膝蹴りが、音の顔へと叩き込まれた。


 ***


うりゃーからのてりゃー!

 戦術も定石も何もない、行き当たりばったりの雑で野放図なー撃が、音の塊を豪快に蹴転がす。

待って、ディギィ!それ違うの!暴走妖精じゃなくて――

お邪々々魔ッ!

 ディギィが後ろ手に斧を振り抜いた。爆裂する音の衝撃が君とリレイヘ押し寄せるのを、君は防御障壁で辛うじて受け止める。

その間に、ディギィの音が膨れ上がった。

熱く、激しく、勇ましく。思いのままに奏でる音が、自由奔放な曲となって阪り咲く。

あっはは!行っくよォ!

がっつりどっさり全部喰いィ!!


 ***


wRオオォオオオオオオオッ!!

 音の塊が、いくつもの衝撃波を撃ち込んでくる。

ディギィは、ぺろりと舌なめずりして、むしろ自分からそこへ突っ込んでいった。

ほっ!

 斧で断ち割り、

ひらっと!

 前方宙返りでやり過ごし、

リンボゥ!

 のけぞってかわし、

↓キック!

 そのままスライディングで滑り込み、

おっとと。

 頭上を通過する衝撃波を、軽くパクリと、つまみ喰い。

でたらめ、無茶苦茶、外法滅法(そっぽうめっぽう)。常識という常識を笑い飛ばすような動きと強さ。君もリレイも、唖然となった。

すでにディギィは、敵の眼前に迫っている。敵は、再び衝撃波を放とうとしたが――

あーごめんそれもう飽きちゃった。めっちゃワンパタなんだもん。

 ディギィがゴンと斧で地面を叩くと、音が振動となって敵の足元から噴き上がり、その身を宙へと跳ね上げた。

派手なの行くから!よっろしくゥ!

 ディギィの斧に、音が集まる。

快楽的で圧倒的で刹那的で挑戦的で利己的で衝動的で情熱的で大胆不敵な音のすべてが!

JACK肉!強ォォォSEOCK!!

弩号ドッゴォォォォォン!!!!

 振り上げた斧のー閃は、超弩級の号(さけび)となって、敵の音を豪快に粉砕し、まっぷたつに断ち割った。

割られた音は地面に落下し、小さな翅音のかけらに変わる。

それを、ディギィは無造作につまみあげた。

ま――待って!やめて、それは――

待たないやめない、いただきまーすー!

 ディギィは、ごくりと音を呑み込んだ。

そんな……。

 リレイの膝が、がくりと落ちる。路面にたまった水が、驚いたように跳ねた。

んふふ~。んぐ、んぐ……。

 ディギィは、満足げに音を味わい、

まっず!!!!!

 べちゃっ、と音を吐き出した。

えっ。

 君たちの目が点になった。逆にディギィは涙目だった。

まっず!ナニコレまっず!!!ぜんぜんジュクセーしてないじゃん!コクも深みも旨みもなーーーーい!!

 荒ぶり吼えるディギィの足元で、吐き出された音のかけらが、這いずるようにトヨミの元へ戻っていった。

あーもーダメ、ぜんぜんダメ。ウゴのタケノコ、いーとこゼロ。

やっぱ養殖じゃあ天然モノにはかなーないね。うん。苦いケーケンだった。マジ苦い。

養殖、って――それ、どういうこと?

ん?何、あんたらまだいたの?ごめん、今ちょっと用事できたから。シェフに文句言ってくる。んじゃね!

 言うが早いか、ディギィはどかんと地を蹴って、雨雲渦巻く大空へ跳んでいった。

ぽかんとした顔で取り残されたリレイは、

あ――そ、そうだ!トヨちゃん!

 あわてて倒れた少女のもとへ駆け寄る。

ううん……ダメだよリレイちゃん……マヨネーズは絵の具じゃないから……黄色の代わりに塗っちゃダメ……。

どんな夢見てるにゃ!

よ、良かったぁ……音、戻ってる……。

まだ、安心できないわよ……リレイ。見て。

 ルミスが、よろけながら指差す先を見やり――君は絶句した。

 街中の音が、ねじれ、外れていく。

通りを出歩く人々が絶叫を上げる――そのうち数人の背から翅音が広がり、あの音の塊を産み落とすのが見えた。

この雨で……人々の音が、あふれ出してる。音の強い人から順に――その影響で、世界の音も外れてく……。

 君は魔法を放ち、音の塊を攻撃した。人々に襲いかかろうとしていた音の塊が数体、直撃を受けてこちらを向く。

だめよ、魔法使い……いくら助けても……まずは、元凶を止めないと……。

でも――あの人たちも放っておけないよ!助けなきゃ!

wそれは、わしらに任せてもらおう!

 叫びとともに、剛腕が唸った。

君に近づこうとしていた音の塊が、強烈な拳撃を受けてぐしゃぐしゃに砕け、飛散して、倒れた男性の身に戻っていく。

じいさま……!?

wY調子が悪そうじゃな、ルミス。音の強いおまえさんには、この音の雨は毒じゃろう。だが――

w俺たちは、1回ぶっ飛ばされて音が減ってっからな!雨で増されてちょうどってとこよ!

wとはいえ、時間が経てばまた暴走しかねん。早いとこなんとかしてくれんと、わしゃあまた音を喰っちまうぞ。

 フェノゼリーが、コロバシが、ネックが――かって暴走し、音を砕かれた妖精たちが、次々と現れ、音の塊に挑んでいく。

wトヨミちゃんは、僕が安全なところまで送るよ!

w私の大好きなあの子は、心の音が強いから、きっと苦しんでるわ。私が助けてあげなくちゃ!

wあたしたちもがんばるよー!もともと音が弱いからー、今はいーぐらいの強さだもんねー!

wふつーに暴走する妖精もいると思うからー、早くこの雨、なんとかしてきてー!

 君はリレイと顔を見合わせた。リレイは、強いうなずきを見せた。

行こう、ルミちゃん、魔法使いさん!



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story やらねば


どかぬかァッ!!

 タツマの杖から球状の翅音が分離し、電撃的な速度でソウヤヘ走る。

ソウヤは自らの翅音を切り離し、コウモリ状にして音球へと叩きつける。ふたつの音が弾け、雨と空気を揺るがした。

落ち着け、早苗!音が乱れてる!

荒ぶり猛る音色こそ、龍が咆呼の本義であろうが!

 杖が無数の旋風を生み、雨粒を吹き散らす。

るぅあぁぁああっ!

おぉおおっ!

 ソウヤは鎌を巧みに操り、あらゆる角度から打ちつけられる杖の連撃をしのいだ。

かと思うと身を沈め、低い位置からのー閃で、真紅の足払いを仕掛ける。

タツマは地に杖を突き、棒高跳びのように鎌をかわして、頭上から跳び蹴りを見舞った。

ソウヤは左腕に生えた麹音で受け止めたが、瞬間、タツマの爪先が電光を帯びた。

――!?

 ただの蹴りではない。足裏に音球を忍ばせていた。

吸血鬼風情が!龍の道行きを阻めるものかッ!

 音球に秘められた音色が詐裂した。ソウヤは距離を取り、頭を振る。

待て――早苗!何か、おかしい……感じないか?音が、勝手にあふれて……!

 エコー体を守らねば、という気持ちが、自分の中で膨れ上がるのを感じた。娘を治すため、あれを守らなければ――

だが、同時に別の気持ちも音を奏でた。教え子が苦しんでいる――迷い、暴れている。助けてやらねば――導いてやらなければ。

どちらも、間違いなくソウヤの本心から出た音だ。しかし、それは今や、ガンガンと脳を叩くほどに高鳴り、ソウヤの意識を殴りつけてくる――

(普通じゃない……なんだ、これは?この感じは……)

――先生!タツマくん!

街の音が、外れていってますたぶん、この雨のせいで――

 雨。音。エコー体が発しているのか。そのせいで、人々の音が高鳴り、世界の音が歪み始めているのか?

疑問が胸をかすめ、音が揺らいだ。タツマはその揺らぎを見逃さなかった。

どけと命じた!

 複数の音球が、側面からソウヤを狙う。

反応が遅れたソウヤは、横ざまに吹き飛ばされて、濡れた地面を転がった。

そのとき、少年が上を見上げた。

翅音がはばたく。その圧力で雨風を狂わせながら、少年は天高く舞い上がった。

逃さんぞ――慮外者ッ!!


拾い集めた残響が、雲をなすほど膨れたか。

さあ。最期のエコーを聞かせてくれ。

ケツァルコアトル――火の雨を降らすもの。



(音が、熱い……熱くて…響く感じがする…)

 ミホロは顔を上げ、空を見上げた。

舞い上がる少年を追って、タツマが空へと昇っていく。天に逆らう雷のように――

(……どうしたらいいんだろう?)

 タツマを止めるべきなのか。助けるべきなのか。何が、彼のためになることなのか。

考えていると、ハビィが驚いたような声を上げた。

どうしたの、ハビィ?

 ハビィは、少し沈黙し――おずおずと、ある音色をミホロに聞かせた。

それを聞いて、ミホロは目を見開いた。

そっか……そういうことなんだ。

 屹然と天を仰ぎ、翅音を広げる。

H私のやらなきゃいけないこと――わかったかも!




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