灰飾 カナエ(STORY続き)
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「灰飾 カナエ」のSTORY全文が長文になるため、容量の都合で分離したページです。
STORY(EPISODE8以降)
第2ギャンブルに勝利し、新崎は安堵の息を漏らす。
「あの子たち、これからどうするんだろう?」
負けたことがよほど屈辱的だったようで、ヨミとリミは早々にどこかへと消えてしまった。
去り際に憎悪に満ちた目を向けられたのを思い出し、新崎は身震いする。
「新崎さん、今回もありがとうございました」
「え?」
「先ほど勝てたのは、新崎さんが私を信頼してくれたからこそです」
「はは……それはどうも。その、僕のほうこそ、力になれてよかった」
照れくさそうに頭を掻くと、カナエは口元を緩めた。
「新崎さんは本当に優しい人ですね」
「そ、そうかな?」
「ええ。勝負師は相手を信じず、疑い、騙すことが必要不可欠。だというのに、新崎さんはまるでそれをしない。それどころか、対戦相手までをも心配する。やはりとことん、勝負師には向いていませんね」
「……はは、自分でもそう思ってきました」
「でもそれが、あなたのいいところです。この短期間でそれが十分わかりました。ふふっ、次も私の手となり足となってくださいね」
「そ、それは褒められてるんですか……?」
屈託ない笑みを向けられて、新崎も笑みを浮かべる。
カナエにそんなことを言われて、満更でもなかった。
そして続く第3ギャンブルは人間ポーカー。
1人1枚トランプが配られ、制限時間5分の中で5人を揃え、作った役によってコインが得られるのだ。
カナエと新崎はそれぞれマークの違う10のカードを得て、フォーカードを作ることに成功し勝利を収めた。
これにより、カナエと新崎のコイン数は同じ。
つまり、富川とのギャンブル権を得ることになった。
「すべてのギャンブルを終え、頂点に立ったのは灰飾カナエ様、新崎麗様の2名! おめでとうございます!」
兵島のアナウンスが会場内に響き渡る。
「灰飾様、新崎様はどうぞこちらへ」
黒服に囲まれ、2人は別室へと案内される。
連れてこられたのは、煌びやかな装飾がされた個室。
そこには富川が椅子に座って待ち構えていた。
「カッカッカッ! まさかここに2人もくることになるとはの!」
「コインの数が同じだったためお連れしました。申し訳ございません」
「よい。ギャンブルの結果であれば、何人でも構わん」
富川がしゃがれた声で笑いながら、ステッキを新崎たちに向ける。
「これから行うのは、一世一代の大博打! せいぜい楽しませ――」
「そのことですが、私からひとつ提案してもよろしいでしょうか」
富川が眉をひそめた。
何を言い出すのかと、新崎はひやひやしながらカナエを見やる。
「富川会長はご老体の身。そろそろ隠居なされてはいかがでしょう?」
「……何が言いたい?」
「財産、半分と言わずにすべてお譲りすることはできませんか?」
「ほぅ……ワシのすべてを寄越せと申すか」
「賭けるものが大きければ大きいほど、ギャンブルは楽しい。人生はギャンブルだと豪語する富川会長が、まさかこれを受けないなんてことないですよね?」
「カッカッカッ! 生意気な娘よ!!」
カナエと富川。2人の笑い声が重なる。
カンッ、とステッキが床を叩いた。
「よかろう。もちろん貴様もすべてを賭すのだろう?」
「ええ、もちろん。私たちの命を賭けましょう」
「……って、僕も!?」
思わぬ展開に新崎は声をあげた。
「私たち、これで運命共同体ですね」
新崎は呆気にとられる。
そこに、富川の笑い声が響く。
「カッカッカッ! よくぞ言った! ならばよし! 貴様らの命も! ワシの財産も! すべては運否天賦に委ねられた! さあ、どちらが天に愛されているか、勝負しようではないか!」
最後のギャンブルが始まった。
勝負の内容はインディアンポーカー。通常1枚の数字の大きさを競うが、今回は2枚で行う。
使用するのはジョーカーと絵札を除いた40枚のトランプ。2枚ずつ配布され、1枚目は自分のみが確認し、2枚目は他のプレイヤーのみに開示する。この2枚でできる役を競うのだ。
役は数字が揃う「ペア」、マークが揃う「マーク」、それ以外の「ブタ」の順で強い。同じ役の場合、合計値が多い方が勝者となる。
参加者はカナエ、新崎、富川と、公平性のために兵島を加えた4人。四角形のテーブルに着いた。
そして、このギャンブルの特殊ルール。
「ベットするのは金ではない。血じゃ!」
「――なっ!?」
富川の宣言に新崎に動揺が走った。
「じわじわと血を抜かれ、命を削りながらのギャンブル。カッカッカッ……心が踊りはせんか?」
「ええ、滾ってしまいますねぇ!」
恍惚とした表情でカナエが頷く。
レートは100ml=100万円=1チップ。
各々10チップ持った状態でスタートし、敗北時に自分がベットした枚数分の血が抜かれる。
勝敗は誰かがプレイ不可と判断された場合のみ。
すべてを賭けたギャンブルが、今始まる。
(負けたらチップ1枚でも血が100ml抜かれる
……迂闊にベットできないな……)
第1ターンは富川の親で始まる。
全員にカードが配られ、それぞれ1枚目を確認。2枚目を頭の上に掲げた。
「最初から降りるなどありえん。1枚ベットじゃ」
「コール、1枚です」
富川、続いて兵島がチップを置く。
おののく新崎の横で、カナエもチップを取っていた。
「私もコールしましょう」
「カナエさんまで……」
「初めから降りてもつまらないですからね」
「カッカッカッ! そうこなくてはのぅ! 守りに走ってはワシには勝てんぞ!」
「ぐっ……僕は降ります。フォールド」
迂闊に勝負に出られず、新崎はフォールド。
全員の宣言が終わると、手札が公開される。
カナエと兵島の役はブタ。
だが、富川はクローバーのマークが揃っていた。
富川の勝利がディーラーによって言い渡されると、待っていましたと言わんばかりに、黒服が採血セットを敗者のテーブルへと置いた。
腕に針が刺され、血液が吸い上げられる。
「カナエさん!」
「ふふふっ、まだ大丈夫ですよ」
このまま血液を抜かれ続ければ命にかかわる。
だというのに、カナエの口元は歪にほころぶ。
それを見て、新崎はゾッとした。
第2ターンでは富川以外がフォールドし、増減はなかった。
続く第3ターン。
「なかなかいい手がきました。ここで勝負といきましょうか。ベット1枚です」
「強気で結構! じゃが、それは蛮勇かもしれんぞ。レイズ、3枚じゃ!」
「ふふっ、それでは私も。レイズ、3枚」
「そんな無茶な!?」
カナエの合計ベットは4枚。
つまり、負ければ400mlもの血液を失う。
「面白い、乗ってやろうではないか! コール1枚!」
新崎と兵島はフォールドを宣言。
カナエと富川のカードが開示される。
「カッカッカッ! ワシの運も侮れん! 3と4のマークじゃ!」
「ふふっ、奇遇ですね。私も5と10のマークです」
「やった、カナエさんの勝ちだ!」
初めて富川の表情がピクリと動く。
負けたことで血を一気に400ml抜かれたというのに、富川の表情は未だに平静を保っていた。
第4ターンの親は新崎だ。
(カナエさんの勝利で、富川の流れは止められた。ここは僕も勝負に出て流れを作るんだ!)
「ベット1枚!」
新崎が勇んでチップを置いた。
続けて富川とカナエがコール、兵島はフォールドだ。
(やれる……やるんだ! 少しでも富川を削って、カナエさんの勝利に繋げるために!)
「レイズ3枚!」
「フンッ、小娘の後であれば有利に立ち回れると思うたか! 笑止! フォールドじゃ!」
その宣言を聞いて、新崎は内心でほくそ笑む。
「貴様らが互いに通しを行っているのは必然! でなければ、先ほど小娘が勝負に出るはずがないじゃろう! 見え透いた愚策よ!」
「ふふっ、フォールドです」
カナエが小さく笑いながら宣言した。
新崎も口元を震わせている。
「なんじゃ、小娘?」
「あぁすみません。あまりに思い通りだったもので」
「フンッ。小僧、早くカードを開示せんか」
ゆっくりと、新崎はカードを表返す。
「……なんと!」
現れたカードは、スペードの3とハートの1。
ブタであった。
本来であれば勝ちえないはずのブタ。
しかし、新崎はブラフで勝ちを得た。
この1勝は大きい。
「ワシを出し抜くか! 見事!」
再び富川の血液が失われる。
だが、当の本人はまるで堪えていない。
「私たちが通しをしていると言っていましたが、それはあなたもですよね?」
ぶしつけなカナエの言葉に、富川の眉が動く。
「兵島さんでしたか。伏せたカードの置き方でマークを伝えるなんて、誰が見ても気づきますよ?」
兵島はうろたえながら自分の手元にあるカードを隠した。
「も、申し訳ございません!」
「よい。むしろ、この程度のイカサマを見抜けんようでは、ワシの相手が務まるわけもない」
「カードの向きなんて変えなくても、こうすればわかりやすいのに」
カナエは新崎の手を取ると、その手のひらに人差し指を走らせた。
2人はテーブルの下で、こうして互いにカードを教え合っていたのである。
「全員がイカサマをしているようですが、私はそれをどうこうするつもりはありません」
「カッカッカッ! 後悔しても知らんぞ?」
「ブラフ合戦、望むところです」
カナエと富川。2人の視線が火花を散らした。
(イカサマはほとんど通用しなくなった。つまり、ここからは完全に読み合いの勝負……!)
煽り煽られ。
騙し騙され。
嘘で塗りたくられたギャンブルが繰り広げられる。
回を重ねていくごとに、苛烈さを増していく。
(この2人……なんでこんなに楽しそうなんだ……!?)
血を奪い、金を奪い合っている。
だというのに、カナエも富川も、狂気に満ちた笑みを浮かべていた。
激しい攻防に、新崎と兵島は完全に蚊帳の外だ。
だがしかし、不意に訪れる決着の時。
「ふふっ……顔色が悪いですよ? もう限界ですか?」
「ぐぅぅ……ワシをここまで追いつめるとは、やりおる……」
カナエと富川は、互いに800mlもの血液を失っている。
意識も朦朧としていることだろう。
迎えた第10ターン。
カードが配られると、富川は高らかに宣言した。
「ベットじゃ!」
「こちらもコールです!」
両者とも、賭けられる限界までチップを積み上げていく。
新崎はカナエを見やる。
何か声をかけようかと思ったが、逆に笑みを向けられて息を飲んだ。
新崎と兵島は共にフォールド。
そして、ついに最後の勝負が決する時がきた――!
「クハハハ! ワシの勝ちじゃ小娘ェ!」
富川が立ち上がり、カードをテーブルに叩きつけた。
「ここで8のペア!?」
富川の手に新崎は驚愕の声をあげた。
勝てる手は、9以上のペアのみ。
カナエは静かに顔を伏せた。
「カッカッカッ! ここまでようやった。じゃが、一歩及ばなかったようじゃなぁ!」
「ふふっ……そう、これでお終いです!」
カナエがカードを捲る。
「なっ……!?」
カナエは2枚のカードを富川につきつけた。
「9のペア、私の勝ちです!」
「馬鹿なッッッ!?」
富川が目を見開く。
勝ちを信じて疑わなかったのだろう。
静かに椅子に座り込んだ。
「ぐぬぅぅぅぅぅ……おおおおおぉぉぉぉ!! 貴様こそ、真の勝負師! その手腕、見事……!」
そう絶叫すると、富川は顔をテーブルに突っ伏したまま、微動だにしなくなった。
「カナエさん! 勝った! 勝ったんだ!!」
新崎は喜びで勢いよく椅子から立ち上がる。
だが、勝利した安堵で緊張の糸が切れたのか、血液を失ってしまったからだろうか、新崎の全身から力が抜けていった。
意識もまどろみ、沈んでいく。
――ありがとう、新崎さん。
意識を完全に手放す直前、そんな言葉が聞こえた気が
した。
富川を打ち負かした後、気を失った僕が目を覚ますと、そこは病院だった。
医師によると、どうやら失血と疲労で丸1日寝ていたらしい。
起きて最初に聞いたニュースは、富川が皇愛グループの会長を辞職したというもの。
カナエさんに全財産を譲った結果なのだろう。
特に入院する理由もなく、僕はすぐに病院を後にすることになった。
あの夜の一件でわかったけど、僕は勝負師に向いていないのかもしれない。
そう、彼女のような勝負師には。
足を洗うとして……それから何をしよう。
そう思いながら病院を出ると――
「こんにちは、新崎さん」
長い黒髪をたなびかせて、笑みをたたえた美女がそこにいた。
「か、カナエさん! どうしてここに!?」
「そろそろ目が覚める頃だと思い、迎えにきました。あれから大変だったんですよ? 新崎さんを病院に運んで、皇愛グループに行って……」
「そ、そうだったんですね……」
「ええ。社内取締役として不正を摘発しました。今頃皇愛グループはてんやわんやです」
「取締役って……ど、どういうことですか?」
「富川から全財産を譲り受ける。それはつまり、皇愛グループの経営権も渡されたということですから」
「ということは……」
「私が皇愛グループのトップです」
「えぇっ!?」
「これから皇愛グループは、少しずつクリーンな企業に生まれ変わりますよ」
思わず僕は表情を引きつらせた。
「じ、じゃあ、勝負師は……やめるんですか!?」
「そんなわけないじゃないですか。私がギャンブルから手を引く時は、この命が失われる時だけです」
その返答を聞いて、少し安堵する。
けど、あの夜のようなギャンブルを続けるなら、いつかは命を落としかねない気がする。
でも、僕がそれについて口を出す資格はない。
「そういえば、迎えにきたって……?」
「あら、忘れました? 『これから先、いついかなる時も、私の指示に従う』と取引したではないですか」
……あれって、会場だけのことじゃなかったのか。
「でも、僕は勝負師に向いてないって……」
「ええ。ですが、私はけっこうあなたの実直なところを買ってるんですよ」
「え?」
「私はあなたの思うような人間ではありません。ただ楽しいギャンブルを求めているだけですから」
正義感で立ち向かっているわけじゃない。
それは近くで見ていてよくわかった。
「取引をここで止めたいというのであれば、残念ですが仕方ありませんね」
それでも僕は、憧れのこの人に――
「でも新崎さん、今無一文ですよね? 治療費は私の方で出しましたし」
「うっ……」
「なけなしのお金で招待状を手に入れたのに、あの日得られたお金は一銭もないんですから。子犬のように路頭に迷われてしまうかも……」
そう、カナエさんの言う通り。
退院したはいいものの、頭を抱えていたんだ。
「実は、あの時の賞金の一部が私の手元にあるのですが」
「そうなんですか!? じゃあ――」
「あまりに大きい金額ですし、こういうのはいかがでしょう?」
「……?」
「これからも私に協力していただき、その見返りとして毎月少しずつ賞金をお渡ししていく、というのは」
「それって、給料制ってこと!?」
「そうとも言いますね。あまりに大きなお金を手にすると、人が変わったり付け狙われたりしますから。ふふ、念の為です」
屈託ない笑顔を向けられてしまった。
元から断るつもりはなかったけど、そもそも僕に選択肢なんてなかったようだ。
それにこの人はまだ、僕と一緒にいたいという意思を伝えてくれている。
憧れの勝負師であり、こんなにも魅力的な彼女を、一番近くで見られるなら、タダ働きでもなんでも、どんと来いだ。
「わかりました。どこまでもお供します」
「では、契約成立ということで。それでは退院祝いに何か食べに行きましょうか。何か希望はありますか?」
「……にく……肉が……食べたいです……」
「では、新崎さんの賞金から引いておきますので、お好きなだけどうぞ」
「えっ? 退院祝いの奢りじゃないんですか!?」
「ふふ……」
――カナエさんについていけば、きっとまた波乱万丈なギャンブルに巻き込まれるんだろう。
でも、それでいいんだ。
ただ追いかけるんじゃない。
いつか隣を歩ける日がくるまで、僕は歩き続けよう。
この――運命の女(ファム・ファタル)と。