今朝昔年・ストーリー
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今朝昔年
プロローグ
花びらは少し冷たい風に乗って庭に舞い落ちた。まだ何も置かれていない庭の地面には雨粒の跡がくっきりと残されていた。簑を着ている人たちは新しい家具を室内に運んでいた。
村人:あら、どちら様の家?こんなに大きな家前からあった?
村人:北からお金持ちが引っ越してきたそうだぜ……。「冬」さんと言うらしい、お嬢さんの名前は「冬池」だってさ。
村人:なるほどね――
室内には一人の青年がいた。彼の身なりから、主人の護衛のように見えたが、一言も発さずにただそこに立っていた。職人たちは家具を大広間に置いたが、彼からの指示がないためどこに持って行けばいいか分からない様子だった。
職人たちが困惑している時、艶めかしい女性がゆっくりと入ってきた。上品な笑顔を浮かべている彼女だが、どうしてか職人たちに恐怖感を与えた。
チキンスープ:下がるがよい。
職人:えっと……あの……
チキンスープ:安心なさい、下がってよい。家主から咎められはしないわ。
ピータンは職人たちから助けを求める視線を送られ、頷いて離れる事を許した。職人たちが庭から離れた後、彼は冷たい視線で家主のように振舞うチキンスープを見た。
ピータン:何用ですか。
チキンスープ:あら、ピータンは相変わらず冷たいですわね。妾はわざわざ情報を届けに来ましたのに。
チキンスープは好奇そうに、隣でピクリとも動かず、警戒心丸出しのピータンを見つめた。彼女はその態度を見て、怒るどころか笑いだした。自分の顎を支えながら、優しい笑顔で彼に問いかけた。
チキンスープ:貴方たちは何故あの玄武王朝の長公主の墓の位置を探っているのですか?まさか……急に玄武王朝に対して興味を持ったのかしら?妾に言ってくだされば、聖教は何か役に立てるかもしれません。
虫茶:あら、これは全部あたしのわがままよ、ずっと古い鏡台が欲しかったの。お兄ちゃんにしつこくお願いしてたら、あの長公主の墓に良い物があるっていう噂を聞いたの。こんな小さな事で聖主様とお姉様にご迷惑をお掛けするのは申し訳ないわ。
虫茶は庭の向かい側からやってきた。普段の動きやすい服から一転して、南方の女の子が愛用している裾の長い服に着替えていた。普通の女の子よりも爽やかに着こなしていた。
虫茶は素早くチキンスープの傍に行って、彼女の腕に絡んだ。チキンスープも優しく虫茶の手を繋いだ。まるで長い間会っていなかった仲良し姉妹のようだった。
チキンスープ:虫茶が鏡台を欲しがっているのなら早く言ってくれたらいいものの。姉として必ず聖教の力で上等な物を作ってあげるわ、わざわざ古い物を探す必要はないだろう、貴方の兄の療養の邪魔までして。ところで、今日は綺麗な服を着ているわね。
虫茶:ありがとう、お姉様!お兄ちゃんは療養しに来たから、あたしも何かしたかったのよ。あの高貴な長公主は、玄武皇帝の唯一の血族だと聞いたから、鏡台はきっと極上の物だと思ったの。だからお兄ちゃんの名義でお姉様にお願いして探ってもらったの。お姉様、絶対聖主様に言わないでね!
チキンスープ:当たり前だわ。これは妾と虫茶の二人だけの秘密。それなら、妾はまだ他の用事がありますので、お先に失礼するわ。
虫茶:お姉様大好き!玄関まで送るわ!
チキンスープ:大丈夫よ、お兄さんに宜しく伝えてね。
ストーリー1-2
チキンスープが去ってすぐ、虫茶の顔から笑顔がなくなった。自分の顔を揉みながら、だらしなく椅子にドカッと座り込んだ。
虫茶:あああ……あの女マジで面倒くさい……
ピータン:……
虫茶:何見てんの!見せもんじゃないよ!
ピータン:……
虫茶:フン、あの女本当に扱いづらい。隙がなくて、ずっと笑顔で話してると顔が引きつっちゃう!
ピータン:……
虫茶:もういい、アンタに言ったってしょうがない。そうだ!さっきの話、お兄ちゃんには言わないでね!
ピータン:……何故?古い墓は危険、一人で入るのはいけません。せめて僕も一緒に。
虫茶:アンタ、あの古墳の危なさを知っているなら、尚更あいつをあたしと一緒に行かせてはいけないと思わないの?それに最近、あいつの後遺症もますますひどくなったわ。だから家で彼を介護してて。
ピータン:……
虫茶:お兄ちゃんの足を引っ張って欲しくないんでしょ?あたしがあの墓で死ねば、ちょうどいいじゃん。
虫茶は冷たく言った後、それ以上ピータンと話すのをやめた。彼女はチキンスープからもらった紙を見て、忙しなく庭から出た。
───
冬虫夏草に教える?
・<選択肢・上>冬虫夏草に教える。
・<選択肢・中>沈黙。
・<選択肢・下>冬虫夏草に教えない。
───
しかし彼女は自分が出た後、寝たきりの人がのっそりと庭に現れるとは思わなかった。
影の中から出てきた青年はやけにやせ細っていた。彼はピータンを見つめた、まるでその目から答えを得ようとするように。
ピータン:……
冬虫夏草:フフ、相変わらず無口だね。戻ろうか。
ピータン:……ついて、行かないのですか?
冬虫夏草の足が止まった、彼は少し驚いて普段は口数の少ないピータンを見た。
冬虫夏草:今日は珍しく喋るね。
ピータン:何故?行きたいのに。
冬虫夏草:……やはり君に隠し事はできないね。
冬虫夏草は長い溜息をつき、ゆっくりと振り返り、果てない空に悠々と浮かぶ雲を見た。彼の顔には普段の笑顔が見えない、しかし敵と相対した時の凶悪さもなかった。ピータンは今の彼の気持ちが読めずに、首を傾げた。
冬虫夏草:彼女は……一人の生活に、慣れないといけない。そうすれば、いつかボクがいなくなっても、彼女は極端に取り乱す事がなくなる。
ピータン:一人にはなりません。
冬虫夏草はピータンの声によって呼び戻された。彼はピータンの淡々とした顔を見て、普段のような自信満々な表情に戻った。
冬虫夏草:フッ、君の言葉で目が醒めるなんてね。それは当然だ、まだ返してもらっていない物がたくさんある。ボクから、虫茶から奪った物、一つずつ、全て取り返してやる。
ストーリー1-4
風に乗った霧雨は少し冷たいが、初めて南方にやってきた虫茶に経験した事のない爽快感を与えた。
彼女は手を上げて、雨粒を受け取った。
虫茶:(ここは……雨ですら元居た場所のより優しいのね……)
虫茶は枝の反発力を利用して、木々の間を跳びながら進んだ。すぐに、彼女は人気のない山奥に辿り着いた。
この山脈はいつも濃霧に包まれているため、道に迷ってしまう人もしばしば、そして二度と元の場所に戻れなくなってしまうそう。気付けば、この山には人を食らう妖霧があると言われるようになった。
虫茶は森の蝶たちの導きによって、山脈の最深部までたどり着く。本来静寂な山林は、頭に響くような騒々しさがあった。
八宝飯:おいおいおい!これは僕が見つけた物だ!機関城の連中が何しに来たんだ!
マオシュエワン:あんたが見つけたって!ふざけんな!俺らの羅針盤で見つけたんだ!
八宝飯:どけ!中身は全部僕の物だ!
マオシュエワン:この小僧――!
八宝飯:なんだ!喧嘩売ってんのか!
マオシュエワン:はあ?一回やってやらねぇとわかんねぇかあんた……
八宝飯:来いよ!怖くねぇよ!
横にいた二人の声を聞いて、口喧嘩をしていた二人はすぐに黙り込んだ。それでもまだお互い睨み合って、これで決着をつけるつもりらしい。
虫茶:(地府……そして機関城の人も?どうしてここに……もしかしてチキンスープが……)
虫茶:(いや……ありえない、彼女は竹煙と小舎の人と対峙するだけでもう精一杯のはず。こんな時に、わざわざ機関城と地府を敵に回す訳がない……チッ……まずは様子を見よう)
草むらに潜んでいる虫茶は、その人たちの動きを観察していた。突然、頬に違和感があり振り返った。そして目に映ったのは、持ち主のない一つの……手。
虫茶:………きゃあああ―――!!!
冰粉:誰かいるんですか?!
───
(まずい!早く誤魔化さなきゃ!)
・<選択肢・上>墓参りの途中、道に迷ったと言う。
・<選択肢・中>驚いたフリをして黙る。
・<選択肢・下>堕神に遭遇したから、ここに逃げて来たと言う。
───
冰粉:お嬢さん、怖がらないでください。某(それがし)たちは食霊です。彼は泡椒鳳爪。ただ、召喚の途中でちょっとした問題が起きたため、ご覧のような姿になってしまいました。大丈夫ですか?
虫茶は冰粉が伸ばしてきた手と、その隣の宙に浮いた、少し元気のなさそうな、持ち主のいない手を見た。彼女は躊躇った後、冰粉の手を掴んで立ち上がり、頭を振ってまだ落ち着かない気持ちを落ち着かせた。
冰粉:無事で何より。ここは危険です、こちらで少々お待ちください。某らの用事が終わりましたら、お嬢さんを家までお送りします。
虫茶:あ、ありがとう。
ストーリー1-6
虫茶:あ、ありがとう。
虫茶は袖に隠している手で武器を握り締めた。しかし地府と機関城の者たちは全員が自分たちの役目を果たそうとして、彼女の事を気には留めなかった。
リュウセイベーコン:生者恐々、死者怱々……
リュウセイベーコンは両手を合わせ、何かで爆破された墓の入口の前に立ち、虫茶にははっきりと聴こえない何かの呪文を唱えていた。
虫茶が聞き耳を立ててその呪文を聴こうとする前に、リュウセイベーコンは急に眼を開けて、その赤い両目でまっすぐ虫茶の方を見た。
虫茶は彼女の鋭い眼光で半歩後ずさり、武器を出そうとした時、隣の冰粉によってまた半歩後ろに引っ張られた。
冰粉:お嬢さん、怖がらないでください。遡回司は悪い人ではございません、仕事中はいつも険しい顔をしているのです。お嬢さんに敵意を持っている訳ではないですから。
虫茶:わ、わかった!あ……ありがとう……
虫茶はホッとして、手元の武器を収めた。彼女が振り返ると、自分の背後に置かれた、墓から出したであろう鏡台に真っすぐ向かっていくリュウセイベーコンが見えた。
リュウセイベーコン:悠々たる過去よ、灯の影に現れよ!
リュウセイベーコンの声と共に、彼女が持っていた提灯は鏡台の上まで浮かび、淡い黄色の光を放った。次の瞬間、切り絵のような画面が空中に映し出された。
虫茶以外の人は、この現象に驚く事はなかった。全員が画面に集中していた、そして泡椒鳳爪に大きな真新しい絵巻を広げてあげていた。
虫茶を驚かせた事で落ち込んでいた手は、自信満々に筆を執った。力強く絵巻に筆を走らせ、すぐに活き活きとした光景が出来上がった。彼は意気揚々としていた。
虫茶:こ……これは……
冰粉:ここは玄武王朝伝説の第一美人、玄武皇帝の唯一血族、長公主の墓です。
虫茶が尋ねる前に、穏やかな声が彼女の後ろから届いた。
冰粉:地府の遡回司・リュウセイの提灯は、物に宿った亡者の強い思念を読み取る事ができる。この光景は……彼女にとって最も大切で、亡くなっても忘れる事の出来なかった夢でしょう……
虫茶は顔を上げた。目の前の大きな赤紙は段々と精巧な鏡台に変化していった。鏡台の前にいる女性は幸せそうな笑顔を浮かべながら、目を閉じていた。隣の青年は彼女のために眉を描いていた。しかし、周りにいる人は全員の目には涙が浮かんでいた。
───
これは……
・<選択肢・上>あの人たちどうして泣いているの?
・<選択肢・中>彼女はどうして笑っているの?
・<選択肢・下>どうして夢なの?
───
冰粉:史料によると、長公主は嫁ぐより前に、兄に従ってこの山河陣の礎として殉国したとされる。そう考えると、彼女が殉国した時、何かしら心残りがあったのでしょう。さもないとこの夢はこうまではっきりと映らない、しかも強い思念を残して。
虫茶:兄に従って……
辣子鶏:玄武王朝の第一美人の姿か、やっと見る事ができた。
冰粉:城主殿。
ストーリー2-2
虫茶が振り返ると、赤い服を着た青年が見えた。青年は冰粉の真面目な様子が気に食わないようで、冰粉に手を振って、真っすぐ墓の入口まで歩いた。
犬に掘られたような入口を見て、不機嫌な顔をして言った。
辣子鶏:……誰が掘ったんだ、醜いな。
青年の文句を聞いて、墓から出たばかりで疲れきっていた八宝飯はすぐに飛び上がった。
八宝飯:辣子鶏(ラーズージー)――?!必死に穴を掘ってあげてやったのに、感謝の言葉一つなくて醜いだと?!うっーー泡椒鳳爪、放せ――!やっつけてやる!
辣子鶏:フン!騒々しい。
辣子鶏は相手を怒らせた自覚を持たないまま、怒り狂った八宝飯を見たくないのか目を逸らした。
他の人はこの様子に慣れていたようで、誰も気には留めなかった。ただ、マオシュエワンが墓から石を運んで出た時、少しイライラして邪魔な辣子鶏を追い払った。
マオシュエワン:邪魔!先生、早く彼を引き離してくれ!
虫茶:(彼が機関城の城主……なんだか頼りなさそう……まあいい、もう少し様子を見よう……墓の入口を掘り開けてるし、何とかして一緒に入ろう)
リュウセイベーコン:……
虫茶:――?!!
急に誰かに肩を叩かれた虫茶が振り返ると、妖しい笑顔をしているリュウセイベーコンが見えた。
リュウセイベーコン:緊張するな。手元の武器を出さない限り、アンタは療養のために光耀大陸の南方に来た、ただの冬池お嬢さんだ。
虫茶:……
カキンッ――
短剣と斧がぶつかり、高い音がした。全員の視線が集まった。
一触即発だが比較的穏やかだった雰囲気は突如緊張感が増した。冰粉によって引っ張られた辣子鶏が急に口を開いた。からかうような表情を浮かべていたが、先程よりも城主の気概を感じられた。
辣子鶏:玄武王朝第一美人の墓前で、美人同士が争うのは雅じゃねぇな。どんな理由があっても、墓参りを終えてからでいいだろう。それとも、この『大千成』の餌食になりたいのか?
巨大な大千成が、互いに刃を向けている二人の間に現れた。その姿を見て、リュウセイベーコンと虫茶は互いに睨み合ってから、各自の武器を収めた。
虫茶:ハッ、こんな大掛かりな事をして、最初からあたしを罠に嵌めようとしてたんでしょ。
辣子鶏:信じるか否かは、お前の自由だ。機関城は長公主の姿を拝むためだけに来た。お前と遡回司の問題は、俺が長公主の美しさをじっくりと見てから……あー、墓参りが終わってから、好きにやればいい、俺は干渉しねぇ。
辣子鶏:痛てぇ!先生、つねるな。
自分の言った事を証明するみたいに、辣子鶏はつねられて痛くなった腕をさすりながら墓に入っていった。そして冰粉とマオシュエワンも彼女らを一瞥してから、辣子鶏について墓に入った。
虫茶はまだ自分をじろじろ見ているリュウセイベーコンを見て、思わず眉をひそめた。
虫茶:何見てんだ?
リュウセイベーコン:アンタ、心に障りがある。
虫茶:……はあ?何言ってんの?
リュウセイベーコン:前途渺茫、帰所知らず。
虫茶:……何が言いたい。
リュウセイベーコン:まあいい、この公主がアンタに答えてくれるかもしれない。ついて来るかは、自分で決めろ。
虫茶:アンタ一体何者!どうして公主の墓を掘り開けた!?
リュウセイベーコン:頼まれて、来ただけだ。鳳爪、八宝飯、行くぞ。
リュウセイベーコンはそれ以上虫茶に質問をする機会を与えなかった。隣の八宝飯はよくわからない様子で自分の髪を掻き乱して、泡椒鳳爪を自分の肩に置いた。地面に置かれていた錆びた古い剣を持って、リュウセイベーコンの後を追った。
───
……
・<選択肢・上>すぐついて行く。
・<選択肢・中>聞き込んでからついていく。
・<選択肢・下>どうしていいかわからない。
───
ストーリー2-4
長い通路の中、先頭でぴょこぴょこと動く橙色のモフモフとした毛玉が一番目立っていた。他の人も自分の方法でこの暗い道を照らしていた。
虫茶:(静か過ぎる……ひょっとして全部排除されたの?)
リュウセイベーコン:この墓には、トラップのような物はない。
虫茶:……どうして?
リュウセイベーコン:……もしかすると、いつか誰かに探しに来て欲しかったのだろう。
虫茶:……?
リュウセイベーコンは虫茶の疑問に答え続けなかった。虫茶は彼女の視線に沿って顔を上げた。通路にはいくつかの文字が浮かんでいた。
虫茶:これは……
冰粉:大した事ない人の長公主に対する評価でしょう……
───
大した事ない?
・<選択肢・上>後世の人が書いたの?
・<選択肢・中>関係のない人が書いたの?
・<選択肢・下>身近な人が書いたの?
───
冰粉:そうです。玄武帝は歴史上有名な暴君であり、数え切れない残酷な事をしました。ですが彼は光耀大陸の平和を守るために山河陣を残した。
虫茶は壁に映るぼやけた画面を見て、指先で壁を撫でた。壁の色彩は長い歳月により鮮やかさを失っていたが、過去がしっかりと刻まれていた。彼女は袖の中の手を握り締めた。
虫茶:山河陣……
冰粉:ええ、最初に殉国したのが皇帝唯一の血族である、彼の妹長公主でした。
冰粉:長公主様が殉国した時、まだ十六でした。しかし、彼女が率先して玄武帝の号令に応えたため、多くの烈士が後に続いたのです。彼女の犠牲なくして、この山河陣は決して完成しなかったでしょう。
虫茶:それなら、どうしてアンタらは安寧を破ってまで、彼女の眠りを妨げているの?
この問いを聞いて、傍にいたマオシュエワンが笑いながら話し始めた。
マオシュエワン:俺たちの城主は伝説の第一美人の姿を一目見たかったんだ。彼は男女問わず、綺麗な人が好きだからな。
虫茶:うっ……
マオシュエワン:さっきもあんたの顔が良かったから、丸く治めてやったんだろ。あいつはいつもそうだ、何を考えてるのかわかんねぇ。綺麗な奴は仲間、綺麗じゃなければ見向きもしねぇ……
冰粉:コホン……
マオシュエワン:先生、悪かった!よ、よせ、落ち着いてくれ!大千成に俺を食わせないでくれ――
虫茶:じゃあ……あの女は……
マオシュエワン:遡回司の方か?……あいつは……おっ、着いたぜ、見りゃわかる!
気付けば、いつの間にか玄室の前に辿り着いていた。
玄室は想像のように豪華ではなかった。質素な棺には装飾もほとんど付けられていない。ただ空間全体が、淡く青い光を帯びた意味不明な文字列で充満され、虫茶は息を呑んだ。
虫茶:(見つけた……)
他の皇室の墓と比べ、質素すぎる玄室を見て虫茶がぼんやりとしていた時、リュウセイベーコンは率先して部屋に踏み込んだ。彼女は八宝飯からあの錆びた剣を受け取って、棺の傍まで近づき、蓋を押し開けて中に剣をそっと置いた。
虫茶:……アイツは、何をしているの?
虫茶はマオシュエワンに聞いていたが、リュウセイベーコンが口を開いてその疑問に答えた。
リュウセイベーコン:彼を彼女のもとに送り返した。
パッ――
リュウセイベーコン:……着いたよ。もう二度と手を離すな。
合掌する音と共に、リュウセイベーコンの提灯は震えた。虫茶が驚いた視線を送る中、提灯はゆっくりと回り始めた。そして、少女の柔らかくも力強い声が響いた。
長公主:それ以上言わないで。そなたと共に王都から逃げる訳にはいかない。
青年:しかし!
長公主:そなたにも……離れないで欲しい。兄上はそなたの力を必要としている。そなたには領土を守って欲しいため、陣の犠牲にする事はない。
青年:……しかし、貴方が死に行くのをただ見ている事も出来ません!
長公主:これが唯一の方法。
青年:こんなのはでたらめです!こんな事で皆を救えるという証拠なんてないじゃないですか!
長公主:確かに、でたらめかもしれない……
青年:では、早く私と共に逃げましょう!
長公主:しかし……私ですら兄上の事を信じられないのなら、誰が彼を信じるの?
青年:……
長公主:私は何もできない、唯一できるのは兄上の傍にいる事。そうする事で、彼が私を必要とした時にすぐに私を見つけられる。
青年:でも……
長公主:それに、もし兄上ですらこの光耀大陸を救えないのなら、誰が救えるの?この世の中、兄上のように自らの力だけで大陸を統一しようとする人など存在するの?兄上はこの偉業を成し遂げた。他に出来ない事なんてあると思う?
青年:か……彼の事を信用し過ぎています!
長公主:そうよ、私は兄上の事を信用しきっている。しかし、彼の臣下誰しもがそうよ。今はもう他に手はない、これが唯一全ての人を救える方法なの。でたらめな話だとしても、試すしかないの。
長公主:……ただ、そなたの思いを裏切ってしまった。兄上が……来年は私たちの婚礼を取り仕切ってくれると約束してくれたのに……ごめんなさい……
青年:……本当に、逃げないんですか?
長公主:はい。明日、私は山河陣の一部となる。私ですら拒んでしまったら、誰も兄上の助けになれない。これが、最期の別れね。
青年:なら、私も逃げません。今日、結婚しましょう!
声が聞こえなくなると同時に、鏡台の前で見たあの一幕が再び目の前に現れた。
その結婚式はどらや太鼓の音の鳴り響かない、豪華絢爛な装飾品もない、服装に至っても婚礼衣装ではなく普通の赤い衣だった。少女は、自分の愛する青年に眉を描いて貰いながら、幸せそうな笑顔を浮かべて鏡台の前に座っていた。彼女以外の全員は、目の前の光景に耐え切れず涙していた。
虫茶:例え何も出来なくても……せめて傍に居続ける……
ストーリー2-6
墓から出て、虫茶が手を上げて急に明るくなった光を遮った。彼女は晴れ渡っている空を見上げながらぼーっとしていた。
マオシュエワン:おっ、やっと笑ったな!
虫茶:……あたし……
マオシュエワン:いっぱい笑った方が良いぜ、そうじゃねぇと運気が逃げちまうぞ。おいっ!先生、どうして俺を蹴るんだ!
冰粉:早く手伝いにいきなさい!
マオシュエワン:はいはい……
マオシュエワンは蹴られたお尻を揉んで、文句を言いながら八宝飯と共に掘った穴を埋めにいった。そして、泡椒鳳爪は先程見た全ての光景を頑張って絵巻に描いていた。
虫茶は周りの人を見渡した。機関城の人も地府の人も、彼女を警戒しておらず、まるで先程対峙していたのは夢だったかのよう。
リュウセイベーコンは長公主の墓前で手を合わせて何かを呟いていた。辣子鶏も先程までの軽薄そうな表情を改め、真面目に墓に向かって一礼をした。冰粉たちも字が霞んでしまっている石碑を綺麗にしながら、お供え物を置いた。
虫茶はゆっくりと石碑の前まで歩き、しばらく黙り込んだ。隣の辣子鶏は彼女の顔を見て、頭を掻いた。
辣子鶏:……あー、お前らまだなんか言う事あるだろ、俺らは先に失礼……
虫茶:いや、アンタに用がある。酒は持ってきてる?
辣子鶏は多くは言わず、酒壺を虫茶に渡した。そして意外そうな顔で彼女を見た。
辣子鶏:まさか酒好きだとはな?トンポーロウたちと一緒に……
辣子鶏の話が終わらないうちに、虫茶は石碑の前に跪き、手に持っていた酒を撒いた。
辣子鶏とリュウセイベーコンは見つめ合うと、少し離れた場所から虫茶を見つめていた。彼女は再び酒を杯に注ぎ、石碑に礼をした後一気に飲み干した。
八宝飯:バカか、どうみても公主を祭ってんだろ!
厳かな雰囲気はマオシュエワンと八宝飯によって破られたため、辣子鶏は白い目で二人を見た。リュウセイベーコンですらため息をついた。虫茶も立ち上がって、公主の墓碑に向かって深々とお辞儀をした。
虫茶:ありがとう……
彼女がその場を離れようとした時、青年の明るい声が彼女の足を止めた。
辣子鶏:おい――冬家のお嬢さん、俺の酒で何を祭ったんだ!
虫茶は振り返って、優しく明るい笑顔を見せた。その瞬間、山の霧は散り、陽射しが差し込んだ。
───
……
・<選択肢・上>歳月を。
・<選択肢・中>過去の自分を。
・<選択肢・下>前途を。
───
リュウセイベーコン√宝箱
虫茶が去った後、機関城と地府たちの者達のお陰で、長公主の墓は元通りになっていた。ただ、以前と違うのは、彼女の墓碑に名も知らない小さな白い花が添えられた事。
疲れたからか、全員墓の近くの芝生に座って、酒を飲んだり、持ってきた菓子を食べたり、或いは寝転んで山の霧が散っていく様を眺めていた。
辣子鶏:これで、人を食う妖霧の噂はよくなるだろう。
リュウセイベーコン:山の霧が人を食らうなんてありえない。人を食らうのはいつだって、人の心。けど、人を救うのも人の心よ。
辣子鶏:相変わらず回りくどい話ばっかだな。ところで、どこであの剣を見つけたんだ?
リュウセイベーコン:たまたまよ。アイツは死ぬまで再婚する事なく、たった一つの約束のために光耀大陸を千年も守り続けていた。だから、少し助けてあげようとしたのよ。
辣子鶏:だったら一人で来たら十分だろ。なんでわざわざ俺らの力を借りて、しかも新しく陣を書き直させた?言っとくがあの陣は本当に面倒だかんな!しかも、あの小娘に少し取られたし、良い酒を持ってこねえと困る!
リュウセイベーコン:はいはい。
辣子鶏:しかし、今回の目的は長公主の墓を探すため……墓の中の陣のためだろう。いい加減一体どんな物なのか教えろ。毎回俺に手伝ってもらってんのに、何も教えてくれないのは酷くねぇか?
リュウセイベーコン:生者は生者の事を知り、死者には死者の言葉がある。これ以上は、アンタら機関城が知るべき事ではない。機関城は人間の仙境、天上の城であればいい、人間世界の事には関わるな。
辣子鶏:フン、まあいい。何と言っても今回は第一美人の姿を拝めたからな。姿と形が傾城かどうかはわからなかったが、気概だけでも十分心酔に値する。
リュウセイベーコン:ククッ、アンタたまには良い事言うな。
辣子鶏:フン、俺はいつだってカッコイイだろ!
リュウセイベーコン:……
辣子鶏:なんだ、その目は!
リュウセイベーコン:いや、なんでもない。
辣子鶏:ところで、どうしてあの小娘の正体を暴かず逆に彼女の正体を隠したんだ?俺がいなければ、彼女に取られた陣の一部で大騒ぎになっただろう、陣全体が崩れる可能性だってあった。
リュウセイベーコン:知っていたらよかったが、全ては高麗人参の意見だ。
辣子鶏:……高麗人参?ヤツが?意外だ……あのすらっと伸びた足は確かによかった……ヘヘッ……
リュウセイベーコン:……いやらしい事を考えるな。人参は将来彼女が地府の一員になる可能性が高いと言っていた。だから、出会ったら手助けをするようにと言われていた。まさかこんな所で出会うなんて思わなかったけど。
辣子鶏:え?地府は過去を詮索しないとはいえ、慈善団体ではないだろ?良い方向に導くつもりか?
リュウセイベーコン:詳しい事はアタシも知らない。ただ人参は彼女の兄と約束したらしい、もし彼に何かあれば地府で彼女を匿うと。そして彼女がやってきた事も何も詮索しないと。
辣子鶏:ほう……それは興味深いな。
冬虫夏草√宝箱
虫茶が家に戻った時、知らない男たちが先程墓で見たあの鏡台を家に運んでいた。彼らの傍には見覚えのない少女も立っていた。
南京ダック:割れ物ですので、気を付けてくださいね。
少女は落ち着いた様子で、丁寧に職人たちの動きを監視していた。鏡台が無事虫茶の家に運ばれると、少女はやっと胸をなでおろした。
虫茶:……これは……
南京ダック:あぁ、冬池お嬢様。
虫茶:……
南京ダック:お嬢様、何か問題でも?
虫茶:こ、これは誰が送ってきたの?
南京ダックは少し驚いたが、虫茶に気付かれなかった。彼女は営業用の笑顔を浮かべて一礼をした。
南京ダック:お嬢様にこの鏡台を届けるよう、ある方に頼まれました。無事届けたため、先に失礼します。
虫茶:だから相手は誰だって聞いてるんでしょ?
南京ダック:知るべき時が来れば、お嬢様もわかります。宝物には少し秘密があった方が、もっと魅力的ではないでしょうか?
南京ダックが再び笑顔で虫茶に礼をすると、その場から立ち去った。彼女の後ろ姿を見て虫茶は眉をひそめた。しかし、すぐに後頭部を誰に叩かれる事に。背後の気配を感じると、笑顔で振り返った。
虫茶:お兄ちゃん!もう回復したの!
冬虫夏草:ここは暖かいから、調子は良いよ。
虫茶:良かった!
冬虫夏草:ボクが起きた事だし、今日の事をゆっくり話そうか。
虫茶:今日ね、隣町で詩の大会があったから、遊びに――
その瞬間、どこかに隠れていたピータンが急に現れ、虫茶の襟元を掴んで持ち上げた。
虫茶:あああああ!ピータン!裏切り者!放せ!言わないでって言ったのに!
冬虫夏草がため息をつくと、虫茶が隠していた令呪を受け取って、それを見た後に彼女の方を見た。
冬虫夏草:……もしまた玄武王朝と関係ある墓を見つけたら、ピータンと一緒に行く事。全部今回みたいにうまくいくとは限らない。
虫茶は舌先を出して笑った後、冬虫夏草の腕に絡んで頭を彼の肩に乗せた。
虫茶:へへっ……わかったよ……でもお兄ちゃん、どうして玄武王朝の墓を探してるの?この朴念仁となんか関係あるの?
令呪に書かれている陣法を読んでいた冬虫夏草は、虫茶の疑問を聴いてゆっくりと頷いた。
冬虫夏草:……うん。もし、あの山河陣がピータンと亡霊たちの体に流れる時間を止められるのだとしたら、ボクたちの時間も止める事ができると思う。
虫茶:でも……そうすると、いつか山河陣を壊しちゃうかも……
冬虫夏草:それがどうした?
虫茶:……
冬虫夏草:たかが小さな光耀大陸なんて、君に比べたら大した物じゃない。既に機会を一回逃した、今回はどんな手を使ってでも君を守る。
虫茶:……うん。どうなっても、あたしはずっと傍にいるから。
虫茶:ヘヘッ、教えない!ピータン!行くよ!お腹空いたから、外で美味しい物を探そう!
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