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人に魂、心に蛍・ストーリー

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人に魂、心に蛍

プロローグ

死者の日一週間前

ミドガル


 ミドガルの夕方は他の場所よりは長いようだ。夕陽で赤く染まった空は、少しずつ灰色に包まれていく。木の影、人の影、屋根の影、全てが無限に伸ばされ、静かな海面に、街角の水たまりに映った。……都市全体が混沌とした雰囲気を纏っていた。

 アンデッドパンは悔しそうにまな板を拭いていた。傍にあるオーブンの中には、異様な形、色をしたパンがまだ熱気を放っていた。


ターダッキン:失敗の味。

アンデッドパン:あっ、ターダッキン!笑わないで!

ターダッキン:笑ってないわ。

アンデッドパン:うぅ……とにかく、最近何かがおかしいわ!

ターダッキン:おかしい?

アンデッドパン:……知らないの?そうね、あなたとザッハトルテたちは毎日遅くまで残業しているもの、こんな噂を耳にする機会なんてないわよね。

ターダッキン:どんな噂かしら?

アンデッドパン:ここ最近、動く堕神の彫像が共同墓地に現れているそうよ。供え物を壊したり、魂を呑み込むんだとか。そのせいで皆怖くて墓地に行けなくなっているの。このままじゃ、今年の死者の日は中止になってしまうかもしれない……あたしの一番大好きな日なのに!

ターダッキン:堕神の彫像?

アンデッドパン:たくさんの人が動く木の彫像を見たって。木の人形って言ってる人もいるらしいわ……ホルスの眼に調査依頼を出しても良い?

ターダッキン:動く彫像……心当たりならあるわ。

アンデッドパン:本当?ターダッキンお願い、あたしは死者の日をとても楽しみにしているの、その日に着ようとしている服も決めてあるの!お願い!お願い!

ターダッキン:わかったわ。


ストーリー1-2

ミドガル

神秘的な古い教会


 翌日、ターダッキンは朝早くに出掛け、記憶を辿りながら雑木林の中を進んだ。早朝の湿った空気は葉先に集まり、ターダッキンの裾を濡らした。目の前の古い教会もまるで霧に包まれているかのように、はっきりと見えない。

 古い教会はクッキーの縄張り。ターダッキンは以前彼女とやり合って、引き分けになった事があった。彼女は仕方なく障壁を作って、一般人が乱入出来ないようにした。

 ターダッキンはゆっくりと教会に踏み入った。もうすぐ厄介な相手と出会うというのに、彼女は落ち着いていた。


クッキー:あら、やっと私のモデルになってくれるのかしら?

ターダッキン:……

クッキー:あぁ!インスピレーションが湧いて来たわ、やっぱりじっくり観察しないと……動かないで、工具と石料を持ってくるわ。

ターダッキン:共同墓地の動く木の彫刻を作ったのは貴方かしら?

クッキー:木の彫刻?すぐに壊れてしまう物は私の美意識に反する、私の創作を背負えないわ! しかも最近はあなたの彫刻を作るのに忙しいから、つまらない事に割く時間なんてないわ。


 クッキーは優しく真剣な表情で話していたが、瞬時に妖しい笑顔を浮かべた。

クッキー:でも、戦いたいのなら、いつでも付き合うわ。

ターダッキン:私と共に来て。

クッキー:?!

ターダッキン:私を観察したんでしょ?私と共に来てくれたら、至近距離で観察出来るわ。

クッキー:……ふふっ、私を監視しようとしているのね……まあ良いわ、受け入れようかしら……石料と工具を置ける作業部屋が必要よ。うん、夜なら、あなたと一緒に……

ターダッキン:結構、空き部屋はあるから。

クッキー:……


───


死者の日三日前

葬儀屋


アンデッドパン:あいつが住み始めてから、堕神は現れていない……犯人を捕まえていれば、皆安心して死者の日の準備が出来るわ!

ターダッキン:そうね。


 ターダッキンは俯きながら答えた。この時、石像を抱えて入ってきたクッキーは先程の会話が聞こえていたらしい。


クッキー:ブサイク、デタラメを言わないでちょうだい!

アンデッドパン:フンッ、これは妥当な疑いよ!ターダッキン、もういっそ彼女をザッハトルテのホルスの眼に押し付けて調査して貰おうよ!


───

彼らは今忙しいから……

・私が調査するわ。

・もう少し待って。

・あまり騒がないで。

───


 ターダッキンは二人を見てから、冷静にドアを開けてこの場を離れた。残ったアンデッドパンは不服そうに、笑みを浮かべているクッキーを睨んだ。


ストーリー1-4


 死者の日が近づくにつれ、いつもは敬遠されがちな葬儀屋は突然賑わいを見せた。隣近所に住む人が沢山訪ねては、亡くなった親族や友人についての質問をした。一つだけ例年と違うのは、何故か死者の日で使う品物について尋ねる人が一人もいなかった事だ。

 せっかく葬儀のない日にお客様がいらしているから、アンデッドパンは楽しそうにばたばたと働いていた。しかし顔は相変わらず仕事モードの哀し気な表情を保たなければならない。


アンデッドパン:モーリンさん、心配しないでください。あなたの家族は皆元気ですよ。もし話したい事があるなら、死者の日の祭典の時にご自分から伝えると良いでしょう。

モーリン:ただ今年の祭典には参加しないつもりです。

アンデッドパン:なんですって?!怪しい彫像はもう現れなくなったんじゃ?

モーリン:ですが、とある魔術師から聞いたんです。あの堕神の彫像はまだいると、隠れているだけだと。もし儀式に参加したら、呪われてしまうわ!死者の日だけじゃない、墓地そのものに行かない方が良いと!

アンデッドパン:魔術師?

モーリン:そ、そうです。私だけではありません、皆行きたがらなくなっています……

アンデッドパン:ダメ!絶対にダメです!モーリンさん、安心してください。誰かが悪戯をしているとしても、あたしが必ず捕まえて見せます!今年の死者の日は是非参加してください!

モーリン:そう、ですか、真剣に検討します。では……先に失礼します。


 離れて行ったというより、逃げて行ったの方が正しいかもしれない――突然感情を露にしたアンデッドパンを見て、既に彼女の冷静な態度に慣れていた常連客はどこか違和感を覚えたようだった。


クッキー:あら、このままだと、魔術師や堕神がいなくとも、あなた自身で皆を追い返せるんじゃないかしら?

アンデッドパン:死者を尊重してください、これは冗談を言って良い事じゃないですよ!


 アンデッドパンの険しい表情を見て、クッキーも珍しく真剣な表情で言葉を続けた。


クッキー:フンッあなたも悪戯している者を捕まえたいのよね?私は堕神の仕業だと思えないの。だってもしそうならとっくに虐殺が始まってるわ。きっとその魔術師が裏で何かしてるに違いない……それにしても人間はつくづく学習しないわね。いつまでも自分たちで作った噂話に怯えて。


───

それは偏見よ!とにかく、この件は……

・あなたとは関係ないわ!

ターダッキンと一緒に調査するわ!

・自分で調べられるわ!

───


クッキー:フフッ、あなたは必ずターダッキンに助けを求めると思ったわ。だけれど、もうすぐ死者の日よ、彼女は最近忙しいし、間に合うのかしら?

アンデッドパン:それは……

クッキー:魂の感知能力なら、彼女とは互角よ。だからあなたたちに疑われているのでしょう?もし本当に真相を探りたいのなら、私をその共同墓地に連れて行けば良いわ。何かしらの痕跡は必ず残っている筈だわ。

アンデッドパン:それでも良いけど、どうしてあたしを助けてくれるの?

クッキー:あなたを助ける?フフッ、そいつのせいでターダッキンに誤解されてしまったから、そいつを……

アンデッドパン:待って、まず見つけてからどう処理するか決めましょう、もしかしたら誤解かも知れないし。

クッキー:……仕方ないからあなたと一緒に出掛けてあげるわ!

アンデッドパン:ねぇ!それはどういう意味よ?!


ストーリー1-6

共同墓地の林


 晴れた夜に広がる満天の星は、まるで黒い帳に飾られたダイヤモンドのようにキラキラと瞬いていた。共同墓地に隣接する林の奥深くはホタルの活動時間だったためか、彼らの光が連なり林に隠れていた二人を照らした。


アンデッドパン:この季節にホタルを見れるなんて!

アンデッドパン:至近距離で観察した事なんてなかったから、まさかこんなに小さな存在が集まる事で、ここまで壮観になるなんて!

クッキー:ホタルなんて、毎年見れるじゃない。どうでも良いわ!ただの一言で言い表せない色は、あなたの服とは合うみたいね。

アンデッドパン:素敵でしょう?これは死者の日のためにわざわざ用意したんだけど……


 ホタルの光のもと、クッキーアンデッドパンの全身を上から下までしげしげと見た。アンデッドパンは彼女の見下す目に刺激されたために、わざわざ用意していた衣装を早めに出したなんて口が裂けても言いたくはなかった。


アンデッドパン:犯人を捕まえられなかったら、着る機会がなくなるかもしれないから。

クッキー:うん……まあまあ、悪くはないかも。

アンデッドパン:えっ?

クッキー:何でもないわ、どうやって犯人を見付けるかを考えましょう。

アンデッドパン:手掛かりを見付けられるって言ってたわね、何か発見はないの?

クッキー:フンッ、気配は感じ取れないわ。


───

それはそうね……

・頼れるとは思っていなかったもの。

・時間が経っているから、痕跡は消されているかもしれない。

・そう簡単にはいかないわ。

───


クッキー:…………

アンデッドパン:やっぱりターダッキンを呼びましょう!

クッキーターダッキンを呼んでも同じよ、周囲から何の気配もしない――待って!ここは墓地、こんなに綺麗な筈はないわ!

アンデッドパン:確かにいつもとは違うわ、まだ一回も亡霊を見かけていないなんて。

クッキー:亡霊だけじゃないわ、この墓地にはなんの思念も残っていない。この魔術師は普通の人間とは思えない。だけど、こんな事をしてなんになるのかしら?

アンデッドパン:帰ってターダッキンに伝えよう!もし食霊が関わっているのなら、ホルスの眼に調査をお願い出来るわ!

クッキー:フフッ、またホルスの眼。彼らのどこが良いのよ、ターダッキンの時間をこんなに潰すなんて……むかつくわ。フンッ、私と顔を合わせなくて良かったわね、もし会ったりしたら……

アンデッドパン:ちょっと、あなたは別に悪い人じゃないのに、そんな悪者の台詞ばかり言わないでよ――ホルスの眼は悪者を捕まえるための集団よ。そんな風じゃ捕まって食霊監獄行きになっちゃっても知らないわよ!


 アンデッドパンクッキーの言葉を遮った。双方に衝突して欲しくなかったからだ。クッキーは目を細めてアンデッドパンを見つめた。まるで彼女が発した言葉の意味を図っているかのようだ。最終的に反論する事なく、笑うだけだった。


クッキー:行きましょう!

アンデッドパン:どこに?帰るんじゃなかったの?

クッキー:このまま帰っても意味がないわ。まず範囲を確認しましょう。後でもう一度来て変化を比べる事で、あいつがまだ活動しているかどうかを見極めるわ。

アンデッドパン:えっ――そんな事も出来るの!凄い、その発想はなかったわ!


ストーリー2-2

早朝

葬儀屋


 死者の日にまた一日近づいた。異変の範囲をおおまかに確認したアンデッドパンクッキーは続けて葬儀屋に帰った。

 アンデッドパンがドアを開けると、ターダッキンがリビングのソファーに座っているのが見えた。ターダッキンはそれに気付き、振り返って厳しい顔で口を開いた。


ターダッキン:昨晩帰らなかったわね。

アンデッドパンターダッキン……あたし……

ターダッキン:この地区の魂が捕食されているわ……クッキーは見なかったかしら?


 クッキーは手を伸ばしてドアを大きく開き、アンデッドパンの横を通り過ぎ、ターダッキンの前に立った。両手を組んで、説明するのも面倒くさい様子で口を開いた。


クッキー:私を疑っているのかしら?

アンデッドパンターダッキン!この件はクッキーとは関係ないわ!彼女は一晩中あたしと一緒に共同墓地を調査していた。しかも、彼女は怪しい点を見付け、わざわざ範囲も確認して、あなたに伝えようと帰って来たの……


───

……

・貴方を信じるわ。

・彼女の仕業じゃない事はわかっている。

・疑ってなんかいないわ。

───


ターダッキン:ただクッキーにも調査に参加してもらう必要はあるわ。

アンデッドパン:あっ……そうなんだ、じゃああたしも!

ターダッキン:良いわ、行きましょう。


 ターダッキンクッキーの方を見たが、クッキーは眉を吊り上げるだけで何も言わず外に出て行った。


午前

共同墓地の林


アンデッドパン:そう、昨日異常が見られた範囲はここまでだったわ。

クッキー:やっぱり、範囲は拡大している!あいつはまだ活動しているわ!

ターダッキン:そうね、辿る事のできる痕跡があるのなら、その源を見付けられるわ。


 三人は林の奥へと向かった。高い樹木で日の光が遮られ、木の下は昼間とは思えない位薄暗くて寒い。静寂が続き、まるで生きた心地がしない場所だ。


アンデッドパン:ここ……怖い。

ターダッキン:確かに。

クッキー:美しくないわ――あら?途切れたわ!


 少し開けた場所に辿り着いて、雰囲気も変わった。活き活きとしているとまでは言えないが、動物たちの鳴き声が聞こえる。しかし堕神や食霊の影は見当たらなかった。


アンデッドパン:しまった!見失った!

ターダッキン:問題ないわ、他の手掛かりを見付けた。

アンデッドパン:どこ?見えないわ!

ターダッキン:近くに人間がいる。

クッキー:フンッ、悲しみと渇望が入り混じった魂。貪婪(どんらんん)な人間を多く見て来たけれど、皆似たような魂を持っていたわ。

ターダッキン:事が終わる前に軽率に結論を出さないで。

アンデッドパン:えっ、人間……何かの間違いじゃ?

ターダッキン:魂の居場所が干渉されている。人間の力だけでは成し得ないわ――

クッキー:だけれど、もし料理御侍が自分の食霊に命じてやらせたのなら、辻褄が合うわ。

アンデッドパン:一体どう言う事!全然分からない……良いわ、まず探してからにしましょう。三手に分かれましょう、同時に探した方が早く見つかるわ。

クッキー:フンッ、そんなバカげた方法をとらなくていいわ。私に任せて。


 クッキーはある場所を指さした。雑草の間からボロボロのトランプが見え隠れしていた。注意深く探さないと見つからない。物は長く使うと主人の感情を帯び、主人との間に強い繋がりが生まれる。そのため人探しに使われる。


クッキー:やはり、同一人物だわ。


 トランプを握ったクッキーは、笑顔を綻ばせた。


ストーリー2-4

郊外の林


クッキー:そう、ここよ!あいつはここに来て、そして……こっちに!


 クッキーはトランプを持ったまま、荒野の林に向かって急いだ。ターダッキンは大人しくそれに続いた。アンデッドパンは小走りをしながら、どうにか二人に追いついていた。


クッキー:あら?

ターダッキン:……

アンデッドパン:フゥ――フゥ――どうしたの?なんで止まったの?

クッキー:もう一人貪欲なやつがいるみたいね!

ターダッキン:一人増えたわ。

アンデッドパン:えっ?何が増えたの?


 アンデッドパンは驚きながら、辺りを見回して何かを見付けようとした。しかし彼女はターダッキンクッキーとは違い、普通の食霊の魂しか感知できない――つまり、はっきりと状況を理解できていない。


アンデッドパン:どういう状況?

ターダッキン:食霊じゃないわ。

クッキー:けれど堕神なら、人間が生きているのはおかしいわ?


 ターダッキンクッキーはほぼ同時に口を開いた。ターダッキンの表情はいつも通りだが、クッキーは眉を上げた。アンデッドパンは状況が掴めず少し焦っていた。


アンデッドパン:じゃあ!まだ探す?ザッハトルテを呼びに行った方が良いかしら?

ターダッキン:いや、もう近いわ。


 アンデッドパンは頷いた。どうしてかクッキーの顔を覗いた。


───

ターダッキンの言う通りだわ……

・見つけなければ!

・勝てるわよ!

・どうして私を見ているの?

───


アンデッドパン:……行こう!


夕方

林の中の空き地


 密林を通り、目の前に比較的拓いた空き地が現れた。泉があり、花も咲き誇っていた。その逆側には乱雑に置かれた薪と、ボロボロのテントがあった。

 テントが開くと、木の人形がテトテトと出てきた。よく見ると、人形の後ろには小さな操縦者がいた。


アンデッドパン:堕神?!


 アンデッドパンが手を出そうとした瞬間、テントからはもう一人、ハットを被った魔術師の格好をした人が出てきた。


手品師:待ってください!まず、話を聞いてくださいませんか?

アンデッドパン:あなたは――人間?


ストーリー2-6


 荒野の日没はいつも突然だ。空はすぐ暗くなった。野営地の温度は急降下し、魔術師の格好をした男は身を縮こまらせて、三人の食霊と共に火を点けたばかりの焚火の周りに座った。

 魔術師はアンデッドパンの後ろにあるテントの方を見つめてボーっとしていた――ターダッキンがあの堕神を抑え込み、それは今テントの中に閉じ込められていて、処理を待っていた。


アンデッドパン:魔術師さん……これは一体どういう事ですか?どうしてあなたは堕神と一緒にいるのですか!

手品師:申し訳ございません……この事件は私が引き起こしたのです……

クッキー:フンッ、また愚かで貪婪な物語かしら。

アンデッドパンクッキー


 アンデッドパンは不満そうにクッキーを睨んだ。クッキーは片手で頬杖をつき、意味がわからないと言いたげに眉を上げた。


アンデッドパン:魔術師さん、クッキーに悪意はありません……

手品師:いえ、彼女の言う通り……私は本当に愚かで貪婪です!生きている全てを恨みつつも、亡くなった愛する人が傍に戻ってくるという幻想を抱いている……だから、「それ」は私に目をつけてきたのです!


 話を聞くと、この魔術師はかつてとある大型サーカス団に所属していたそう。サーカス団の人形師と恋人関係にあったが、巡演でミドガルにやって来た際、恋人は重い病気に掛かり……共同墓地に埋葬されたそうだ。

 アンデッドパンは呼吸も忘れるぐらい真剣に話を聞いた。


手品師:当時私はサーカス団と共にここを離れました……過去を忘れられると思っていました。残念ながら、幾年月過ぎても、私の思念は強くなっていくばかりで、演技にも支障が出てしまいました――遂にはサーカス団を離れる事に。

手品師:ここは、かつて彼女とデートした場所です。ここに戻れば心が落ち着くと思っていたのですが、なんと……後悔はいっそう強くなったのです。私自身の体の調子も悪くなっていきました。

手品師:少し前に、私は彼女が残した人形が夜中に勝手に動く事に気付きました。そして、「それ」を見付けました……


 魔術師の視線は再びテントの方に向いた。普通の人間が堕神を見た時の怯えなどなく、むしろ慈しんでいるようにも見えた。


手品師:私を傷つけた事はない、ただ私の感情を吸収するだけ……だから私は冷静に思考する事が出来るのです。

アンデッドパン:しかし……それは堕神ですわ!どうして……

ターダッキン:悪念によって生まれた堕神は、極稀に違う行動パターンを持つものが生まれるそうよ。

クッキー:フンッ、貪婪な本質は変わらないわ。壊滅するのは時間の問題。

手品師:その通りです。どんどん飢えていくのがわかります。こっそり抜け出したりも……

アンデッドパン:あっ!つまり、共同墓地の件は、ソイツの仕業……じゃあ噂はどういう事?

手品師:申し訳ございません。墓地で徘徊するのが好きみたいで、私にはもうコントロール出来ません……誰かが傷つくのが怖かったので、あんな噂を流して墓地から遠ざける事しか出来ませんでした。もし、貴方達がこの問題を解決してくださるのなら、私も安心して彼女の元に行けます……

アンデッドパン:えっ?

ターダッキン:貴方の病は、治せない程のものではないです。

クッキー:ハッ、簡単に言うけれど、人間が手放す事を覚えていないから、こんなに愚かな事が起きたのでしょう。


 焚火が消えた。まだ火花が少しだけ光っていたが、それも徐々に消えていった。


アンデッドパン:なんだか心が重いわ、魔術師さんはまだ……

ターダッキン:人はそれぞれ異なる経緯を持っているもの。選択も然り。


 この物語の雰囲気を盛り上げるためか、ホタルが活動を始めた。小さなホタルたちは、木々の間を飛び交い、薄暗い林を幻想的な場所に変えていった。

 数年前の同じ晩、愛し合っていた男女がここで生涯を誓い合った。その光景が美し過ぎたためか、忘れられず、遂には癒えない心の傷となってしまった。

 魔術師は結局は過去を捨てる事が出来ず、大きな傷を抱えたまま、安らかに去っていった。アンデッドパンに自分をミドガルに連れ帰り、愛する人と共に埋葬するよう頼んだ。帰り道、アンデッドパンはずっと落ち込んでいる。


クッキー:どこが理解できないのかしら?生きたまま死ぬ、死んだまま生きる、あなたならどちらを選ぶ?


───

……

・生きているからこそ希望はあるものよ!

・わからないわ!

・こんなの考えた事もなかったわ……

───


 この問題を前に、三人は同時に沈黙に陥った。


ターダッキン:早く戻って死者の日の準備をしましょう。


 どれぐらい経ったか、ターダッキンは突然声を発した。アンデッドパンはまだ反応出来ないでいたが、クッキーは少し妖しい笑顔を浮かべて、ターダッキンを見つめた。


ターダッキン:困惑するのは当たり前の事よ。死を理解する必要はないわ。喜びをもって亡霊の帰りを迎えると良い。消え去った美しさを偲び、素敵な感情だけを信じれば、いつか自分の元に何かの形で還ってくるものよ。

クッキー:あら!いつもと違うターダッキンだわ!また新たなインスピレーションが湧いてきたわ!残念ながらここには石材が無いわね。

アンデッドパン:だけど死者の日は明日の夜だし、まだ装飾を始めてないわ……

ターダッキン:忘れないで、私達は食霊よ。


アンデッドパン√宝箱

死者の日の翌日

ミドガル


 死者の日当日、一行は魔術師を連れて朝早くミドガルに到着した。そしてその亡骸を愛する人の傍に埋葬した。

 魔術師の話は風に吹かれて、すぐにミドガルに広がった。愛情に憧れを持つ若者達は、我先にと共同墓地を訪れるようになった。

 皆が力を合わせ、二人の食霊の力もあり――もう一人のあまりやる気のない食霊も含め、死者の日の祭典は往年よりももっと盛大に行われた。

 その翌日、アンデッドパンは疲れ切っていた。彼女は街角のベンチに倒れ込み、クッキーと言い争う気力もなく、ただ目の前の景色を感慨する事しか出来なかった。


アンデッドパン:昨日は本当に良い日だったわ!あの祭壇、いつもよりも綺麗に装飾出来た!まさかみんなあんなに張り切ってくれるなんて……

クッキー:タダ働きがいたからでしょう――だけど、あんなにいっぱい飾り付けても何日かしたら外さなきゃいけないなんて、こんな疲れる事なんて馬鹿がする事だわ。

アンデッドパン:うん……毎年たったの数日だけだけれど、このままずっと続けられれば、永遠とも呼べるんじゃないかしら?

クッキー:……まあ、否定はしないわ……多分ね!

アンデッドパン:魔術師さんに感謝しなければいけないわね。彼の物語があったから、往年祭典に参加したがらない若者も参加してくれたの。本当にかつてないほどに盛り上がったわ!

ターダッキン:人間は盲目だけれど、それと同時に善良でもあるわ。

クッキー:そんなのどうだって良い事だわ。永久の美しさでしか、私の足を止められないわ。

アンデッドパン:美しいわ!ザッハトルテたちがいなくて残念……あっ、いやそういう事じゃ……彼らも参加出来たら、もっとミドガルに溶け込めると思ったのよ!

クッキー:あれ?今日は死者の日よ、バレンタインデーじゃなかったはずだわ?

アンデッドパン:……

ターダッキン:そろそろ行きましょう。


 ターダッキンが言っているのは死者の日の翌日の慣例――ミドガルの人々は供え物を持って海辺に集まる。アンデッドパンも人々に付いて行き、彼らが供え物と町に飾られていた灯篭を海に流すのを見ていた。

 供え物は海に沈み、無数の灯籠は連なって少しずつ未知の遠方に向かって揺れて行った。まるでもう一つの世界に帰る亡霊たちを導いているかのように。

 微笑むアンデッドパンの瞳に輝く物が見えた。髪は海風で靡き、長いまつげも微かに揺れていた。クッキーは彼女の横顔を見て、目を細めた。


クッキー:私の目が……腐った?!私の審美眼が汚されたわ!

アンデッドパン:あれ?クッキー何をぶつぶつ言ってるの?

ターダッキン:……


 アンデッドパンは自分が楽し過ぎて、ターダッキンの笑顔を見た気がした。短い間だったけれど……突然訳わからず暴れるけれど……一人増えた感じは悪くはない。


クッキー√宝箱

一月後

葬儀屋


 魔術師の物語は人々の感情を怯えから偲ぶ方へと変えさせた。そしてアンデッドパンの努力の甲斐もあって、死者の日は往年よりももっと盛大になった。葬儀屋もそれのおかげか繁盛し出した。


アンデッドパン:事件はもう解決したわ。

クッキー:それで?

アンデッドパン:どうしてまだここに居座っているのかしら?

クッキー:私を呼んだのはあなたじゃない。ターダッキンは何も言っていないわ。

アンデッドパン:だけど大家はあたしよ。ここに住みたいのなら家賃を払いなさい!

クッキー:そんな金ないわ!

アンデッドパン:前見た彫刻を換金してきて!

クッキー:あらーーそれがあなたの本当の目的?


 ターダッキンは、クッキーアンデッドパンの日常の会話にはもう慣れた。彼女たちが言っている彫刻とは、死者の日でクッキーが即興で作り出した物。

 クッキーが少し手を加えただけで、シンプルな丸い石に活き活きとした五官と表情が与えられた。最も貴重なのは、その中には死者の気配が含まれている事。親族らに魂に寄り添う感覚を与えられる点。


アンデッドパン:あなたも楽しんでいるのでしょ?ただ毎度あたしに頼んで欲しいだけ……

クッキー:私に頼めば良いんじゃないかしら!

アンデッドパンターダッキン、早く彼女を追い出して……

クッキー:まだ子どもなのかしら?何かにつけてすぐターダッキンを探すなんてね。

アンデッドパン:もう二度と騙されないわ、あなたとは戦わない、勝てないし……

ターダッキン:私が手伝うわ。

クッキー:……ターダッキンがこんなにも薄情だとは思わなかったわ!忘れないで、あなたが私を誘ったのよ!

ターダッキン:タダとは言っていなかったわ。


 クッキーは相変わらず無表情なターダッキンを見て言葉を失った。「食霊と食霊の間も適度な距離感を保ってないと美しさは失われてしまうの?だけど、ターダッキンの顔はいつ何時も彫刻にする甲斐があるわ!」


アンデッドパン:やったー!聞こえたよね!踏み倒しは許さない!石料はもう準備出来ているわ、明日お客様が親族の写真を持ってきてくれる、早起きして家賃の支払いをするのをわーすーれーるーな!

クッキー:フンッーー


 至近距離そして全方向からターダッキンを観察するために、たまに簡単な練習をするのはやぶさかではなかった。しかも、ついでにアンデッドパンをからかえる!ここまで考えて、クッキーはまた意味深な笑顔を浮かべた。



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