極光神境・ストーリー・メインⅡ祭壇
第六章-連絡
言霊の術
森の中心部に近づくにつれ、極光はますます魅力的になっていく。その鮮やかな色彩は、周囲の草木や石にまで染まり始め、極光に満ちた森は幻想的で混沌としていた。
最中の顔も、極光に照らされ色彩豊かになっていた。彼はそれを気にする事なく、位置を変えながら、神秘的な呪文と印を繰り返した。
鯛のお造り:ジジッ──も──ジーッ──もなか、き──こえる?
最中:聞こえる、だが不明瞭だ。私の声は聞こえるか?
鯛のお造り:はっきりと──ジッ──そちらは──どう──?
最中:少し待て、調整する……
最中の水晶玉は点滅していて、声が途切れ途切れに聞こえてくる。彼はあごをなでて考え込むと、突然自分の頭をはたいた。
最中:やっぱり、私に解決出来ない問題はないなー!
──シュッシュッ。
──しばらくすると、最中はある大木の頂点に立っていた。
──頭上には極光が広がる星空があった。遠くない中心部であろう場所には何故か極光が覆われておらず、綺麗な空が見える。
鯛のお造り:声はハッキリと聞こえる、ただ姿はぼんやりとしか、問題ないだろう。
最中:よし、じゃあ手短に済ます。
最中:我々の予想通り、神器に近づけば近づく程、「現世」と「黄泉」の繋がりは強くなっていく。森の中心部には必ず神器の力が存在する。
鯛のお造り:とは言え、「現世」と「黄泉」の繋がりは不安定だ。必ず私たちが知らない何か原因があるはず……相手の罠かもしれない。
最中:だからこそ、早く駆けつけなければ。遅れたら瓊勾玉は羊かんたちの手に入ってしまうかもしれない……あのちびっこたちは、人間を救うことに興味はないだろうから。
鯛のお造り:……
最中も微笑みながら感慨の気持ちで水晶球を見つめた。その時、画面の中の鯛のお造りが急に立ち上がって、和室から出て行く姿が見えた。
念入りに手入れした中庭には満開の桜があった。鯛のお造りが手を上げ風を呼ぶと、花びらがこぼれ、雨のように、地面に美しい模様を描いた。
最中:「黄泉」の季節は「現世」と少し違うんだな。しかし、どうして急に桜なんか見に行ったりして……え?まさか……
鯛のお造り:桜は空飛ぶ燕のように散った……我が道は険しい、長い旅路となるだろう。花びらは意味のある形を作れていない、心念を乱され、惑わされるだろう。心を守れば、自分を見失わないでいられる。
最中:やっぱり、これが「黄泉」の陰陽家に伝わる桜占いか……文献でしか読んだことがない……本当に美しいな……貴方たちが「現世」に戻れたとしたら、どれだけ賑やかになるんだろうな!
鯛のお造り:美しいのは肉眼で見えている表象だけ、占いの結果は少し不安になるものが出たよ。
最中:まさか鯛のお造りとあろう者が先の事を心配するとはな。何が起きてもダラ──いや、のんびりと、自信満々にしているのかと。
鯛のお造り:「黄泉」にいる者は、まるで水面の中央に浮かぶ落ち葉のように、いつ岸にたどり着けるかわからない。どうにか瓊勾玉を「現世」へ送り、役目を果たしたと思っていたのだけれど……
最中:なら、心配することはない。瓊勾玉は既に「現世」にある、百鬼の野望など今はどうやったって完遂出来ない。少なくとも「黄泉」が神器によって崩壊される心配はないだろう。
鯛のお造り:その通りだ、厄介な神器を手放すことが出来たから何日も祝ったよ。しかし……貴方が瓊勾玉を諦めて今すぐそこを離れても、構わないよ。わざわざ首を突っ込まなくても。
最中:……ありがとう、鯛のお造り。しかし、出発前我々は幾度も試算しただろう、今回の旅路で二つの世界を繋げる道が開けると、そして貴方たちをそこから連れ出す唯一の機会でもあると……
最中:コホン、別に貴方を助けるためだけに動いている訳じゃない。あまり考えすぎるな。桜の島を立て直すために、貴方を呼び寄せようとしているだけだ!
鯛のお造り:とにかく、貴方のいう極光は双子の巫女が再会を示す異象かもしれない。瓊勾玉は「現世」巫女に引き寄せられそこにあるのだろう。必然的に近くに「現世」巫女関連のもの、もしくは神力そのものがあるかもしれない。
最中:確かな記憶ではないが、大巫女を支えた最後の陰陽家の血脈はこの近くに隠れていたかもしれない。待て、水無月を見つけた。
最中:ああ。高い所に登って正解だった。よし、何をしでかそうとしているのか見てやろうじゃないか!もし何か思いついたことがあれば残影にして送ってくれ。
鯛のお造り:わかった、気を付けて……少し、待って欲しい──
鯛のお造りとの通信を切ろうとしていた最中だったが、呼び止められてしまった。桜の下で姿勢を正し、真面目な表情をしている鯛のお造りは、確かに「黄泉」観星楽首座の威厳があった。
指先まで綺麗に伸ばし、独特な印を結び、口元に近づけた。彼の口が開くと、ある呪文を唱え始めた。
鯛のお造り:落花の如く 雲水の如く 星月の如く 雨雪の如く 風雷の如く 真を現せ 言霊の術だ、覚えておくといい。危ない状況に陥った時、引き返せるよう意識を取り戻してくれるはずさ。
最中:ああ、ありがとう!良い知らせを待ってろ!
第七章-罠
封印されし木箱が今解き放たれる……
極光が無光の森を照らしているため、高い所から見下ろせば密林の中も良く見える。そのおかげで最中は水無月に追いつき、彼が小川を渡り、ある幽谷に入って行った所を目撃した。
最中:地形が複雑すぎる、登れる木も少ないし……気を付けて尾行しなければ。
最中は気を取り直し、慎重に尾行を続けた。占星家特有の勘なのか、彼は警戒する水無月の視線を幾度も躱し、幽谷最深部にある樹木に覆われた洞窟の前まで辿り着いた。
水無月は左右を見渡した後、素早く洞窟の中に入って行った。最中はしばらく様子を見た後、慎重に水無月の後に続いた。洞窟は思っていたより短く、数十歩で反対側に出ることが出来た。
洞窟に入ると、すぐに話し声が聞こえてきた。彼はすり足で反対側の出口まで行き、影に身を隠し外を見た。
そこには開けた平地があり、中央には祭壇、そして正面には石の鳥居があった。しかもここの空は澄んでいて、先程見つけた極光の切れ目がある場所だ。
最中:これは……「無光」の奴らは既に瓊勾玉を手に入れたんじゃ……わざわざ祭壇まで作って、何かをしようとしているんだ!
最中は複雑な感情を押し殺し、軽率な動きをしないように努めた。祭壇の前にいる水無月と落雁を見つめ、耳を澄ましていると、二人の会話が聞こえてきた。
水無月:僕はわざと遠回りして連中を撒いた、だけど最中の奴を見ていない。あいつは一日中星象を見ているから、もしかしたら見れないからどっかで迷子になっているかもな。
水無月:大した事してないよーどうだ、準備出来てるか?まずはここを封印して、見つからないようにしないとな。それから、あいつらと遊んでやろう。
落雁:はい、じゅっ……準備出来てます!
水無月:ハハッ、これは古書で見つけた方法だ、例えブツブツ呪文を唱えるあいつが来たとしても、解けないだろうな──落雁、洞窟の方で見張っていてくれ、こういう時こそ油断しちゃダメだ。
落雁:わっ、かりました。
最中:あの小娘、なんだか話し方が不自然だな、恥ずかしがり屋なのか?あっ、しまった。
落雁が真っすぐ洞窟に向かっているのを見て、最中は二対一では勝てないと判断し、すぐに洞窟から出て、近くの茂みの中に隠れた。
緊迫した状況のためか、最中は落雁の不自然さをすぐに忘れてしまった。
すぐに、洞窟から強い光が漏れ出た。その後満面の笑みの水無月が出て来て、身体を強張らせている落雁の肩を叩き、一緒に森の外周の方へと向かった。
頃合いを見計らって最中は洞窟に忍び込み、祭壇の前にやって来た。案の定、非常に複雑な古い結界が張られていた。
最中:「現世」の陰陽家は途絶えている、こんなにも古い結界もとっくに失われている、解くには時間が掛かるだろう……鯛のお造りならわかるだろうか、連絡してみよう。
ジジッ──ブンッ──
最中:ここに来ても失敗か……星空は正常なのに、まさか封印のせいか?
最中は頭を抱えた、簡単に鯛のお造りに残影で状況を説明した後、そのまま祭壇に近づき結界の前であぐらをかいた。頭の中で演算し、幾度も印を組み直すと、時々光が放たれた。
どれ程の時間が経ったのだろう、結界を見ていた最中はふと立ち上がり、手を上げ何もない空間を押した。まるで一滴の墨が水に落ちたように、結界に青色が広がる。
その青色は炎のように結界を焼き尽くすと、祭壇の上に封印されている木箱が現れた。
最中:これは……中に瓊勾玉が入っているのか。
その軽い木箱を持った最中は、何か嫌な予感がした。警戒して、それを開けるか否か躊躇った。
水無月:やめろ!開けるな!
いつの間にかやって来た水無月は、慌てた様子で最中を制止しようと走って来た。彼の背後には冷静な羊かんが立っていて、落雁とつじうら煎餅もいるが、俯いていて表情が読めない。
羊かん:開けちゃダメだよ。
突然、か細い声が聞こえてきた。それはまるで最中の耳元で響いている、しかしその声の主はすぐにわかった──最中は自分の方に走ってくる水無月すら見えず、彼を通り越して羊かんを見つめた。
羊かん:ダメだよ。
羊かんの空っぽな目には炎が灯っているように見えた、それは最中の心の内の猜疑心に火をつけた。敵がダメと言っているなら、従ってはいけない、つまり──
最中は一瞬だけ意識を失い、無意識に木箱の封印を解いた。
その瞬間、時が遅くなったように感じた。木箱の中には何もなかったが、開けた瞬間、外界の空気と交じり合い、眩い光を放った。
水無月:ハハッ、どうやら僕と落雁の演技は上手くいったようだな。封印を解いてくれてありがとうございまーす。
最中:しまった!騙された!
「心災」の歪んだ力が引き寄せられたかのように木箱の中に押し寄せ、その歪な力が周囲を変化させ、大量の堕神が光の中から生まれ、木箱の中へとなだれ込む。
第八章-創世
双生の巫女の力は創世の力へ。
最中:ふぅ……大丈夫だ、助かった。だが……どうして全員いるんだ?!
おでん:出口が封鎖されていたから引き返してきた、そしたらさっきの光が見えたんだ。
納豆:僕たちは森の中を歩き回った後……先程の光を見て、来たんです……
抹茶:……僕たちも異変に気付いて駆けつけました。
最中:結局、全員罠にハマってしまったってことか……羊かん、水無月、一体何をするつもりだ?
水無月:あらら、バレちゃったか。しかし、最初から罠だとわかっていただろう?自分から罠にハマろうとするなんて、変わった趣味の持ち主だなー
水無月:でも僕たちも別に悪者ではないよ。皆をここに招待したのは、ある夢を見届けて欲しいからだ。
最中:夢?
水無月:そう、夢だ。結界と封印を解いてくれたおかげで、夢を実現出来るようになったんだよー
羊かんは水無月の話を聞きながら、淡い光を放つ小さな勾玉を取り出した。
羊かん:あなたが探しているのはこれだろう、願いを叶えてくれる瓊勾玉。これを使って何をするつもりだ?
最中:どうして瓊勾玉は貴方の手に……じゃあ、この祭壇は……
羊かん:わからないのか……ここは大巫女の墓だ。あなたの手にある木箱の中には、大巫女が残した最後の神力が入っていた。さて、私はあなたの質問に答えた、次はあなたの番だよ。
最中:……「現世」と「黄泉」の噂は知っているだろう。簡単に言えば、それらの伝説は事実だ。星象を見ていた時、偶然瓊勾玉が現世に現れたのを知った、そしてそれを探しているのは好奇心からだ。
最中は羊かんたちのことを信用していないため、鯛のお造りと連絡していることを伏せた。
最中:それに「心災」とは「現世」の物ではない瓊勾玉が現れたことで、均衡が崩れたために起きた現象だ。それを私に渡してくれれば、全てを解決して、事を元の軌道に乗せる。
羊かん:元の軌道?今の桜の島に、軌道なんて存在すると思っているのか?
最中:……だからこそ、努力して現状をより良くしなければならないんだ、これ以上悪くではなくな。羊かん、瓊勾玉を私に渡すんだ。それは希望の証でもある、もう方法もわかっているんだ、私を信じろ!
羊かん:信じる、か……なら、まず私のことを信じてもらおうか──
羊かんの表情は神々しく、そして慈悲に満ちており、瓊勾玉を眉間に当て、真剣に願いを告げた。
羊かん:煩悩も苦痛もない神国を、一切苦しむ必要のない新世界を創りたい。神国の民には全ての煩悩を忘れ、俗世の絆を消し、永遠に幸せに楽しく生活してもらう。
羊かんの言葉と共に、瓊勾玉の光はより一層明るくなった。まるで生きているかのように激しく震え、最後には羊かんの手から離れ、封印が解かれた箱の方へと飛んで行った。
黄泉巫女:兄様──早く目覚めてください。私には貴方が必要です、共に新たな世界を創りましょう。
現世巫女:新たな世界?私たちは既に「現世」と「黄泉」を創ったではないか、それでは足りないのか?
黄泉巫女:わかりません、ただ……私は願いを叶えるために生まれた存在、世界を創るのは我々の特技ではないですか。兄様、私を手伝ってくださいますか?
現世巫女:私の力は既に衰えている、貴方も完全ではない……しかし……この森の限られた範囲でなら、「黄泉」にも「現世」にも属さない新世界を創ることは可能だろう。
瓊勾玉と木盒の力が出会った時、二つの虚影が立ち上がった。「心災」の異常現象の中で徐々に実体を持ち、長い時を経て、双子の巫女はまさかの再会を果たした。
水無月:巫女様!本当に巫女様だ!
納豆:えっ?双子の巫女様の片割れ……まさか男性だったとは……早く記録しなければなりません……しかしどうして……
羊かん:まさか、本当に成功するとは……
最中:まずい!さっきの願いが実現したら、私たち全員が影響を受けることになる、早く阻止しなければ……
水無月:もう間に合わないよー君が封印を解いてくれたおかげだ。大占星術師様よ、思っても見なかっただろ?今回の計画はずっとあたためてきた物だ、絶対に成功すると思った。今回は、僕の勝ちだろ?
羊かん:あぁ……神国からの召喚を感じる!
皆が途方に暮れていると、双子の巫女は両手を組み、強大な力が万物を溶かすような光となって現れた。
祭壇の前にある鳥居に突然おかしな渦が現れ、その場にいた全員が吸い込まれていった。空に広がる極光と、羊かん本人までも。
おかしな光はしばらく続くと、無光の森は再び常闇を取り戻した。
Discord
御侍様同士で交流しましょう。管理人代理が管理するコミュニティサーバーです
参加する