極光神境・ストーリー・サブⅢ極光の庭
仲間
変わらない仲間。
午後
神国の深夜食堂
この日は快晴で、風もよく吹いていて、旅行日和であった。
お好み焼きとラムネは店の中にいて、窓の外で揺れる木陰を、木のテーブルに太陽が一寸ずつのぼっていくのを見ていた。
お好み焼き:ふわー誰もいひん、寂れとるな、皆どこに行ったんやろ……
ラムネ:最中兄さんは取材に出ていて、抹茶さんは探偵小説を書いている、納豆たちは外回りでいつも帰ってこないし、おでんさんは新しい料理を開発している……そして誰もいなくなった。
お好み焼き:つじうら煎餅は?あの食いしん坊は今日来てへんね?
ラムネ:神使さまか、巫女さまのところじゃない……どうしてそんなに神使さまのところに行くのが好きかわからないけど、なんだか二人とも変な感じがする。
お好み焼き:そんなことないやろ。落雁サマはおもろいけど、水無月サマは……確かにちょっと相手するのは大変そうやね。
ラムネ:相手する必要なんてないよ、仲間じゃない?
お好み焼き:えっ?あれ?せやな!とにかく、みんな仲間やし、つじうら煎餅が誰のところに行ってもおかしくないってことや。
ラムネ:そうね、ここにいるひとたちみんな仲間、みんな良いひと……でも……
お好み焼き:でも、なに?
ラムネ:少しひとが少ない気がする、たまに寂しく思う時があるの……ここに来る前からそうだった?
お好み焼き:さあー変なこと考えるのやめて、おでんが新しく開発しとる料理を見学しに行こうや!
ラムネ:そうね!
門
海面にある鳥居。
南の海辺
神国
納豆:はい!何か新しい発見があったのですか?
ホットドッグ:ここはきっとタピオカミルクティーが人間を見つけた場所よ、ほら足跡が残っているわ。
トッポギ:でも、タピオカミルクティーの足跡かもしれないよ?彼女は?
キムチ:新たなアイデアが浮かんだので、抹茶のところへ行って探偵小説の続きを書いているようです。
トッポギ:そうか、じゃあ足跡をたどってみよう。
ホットドッグ:ええ、行きましょう!
トッポギ:わあ!あれは何?
ホットドッグ:えっ?どこ?!
トッポギ:そっちじゃなくて、海の方を見て、あそこに門みたいなもの見えない?
ホットドッグ:……あら、本当だわ!門じゃないわ、鳥居よ、海面に鳥居があるわ!
キムチ:鳥居は独特な光を放っているみたいですね、どこに通っているのでしょう……
ホットドッグ:行ってみるわ!
ホットドッグはそう言いながら、邪魔なジャケットと靴を脱いで海に飛び込み、さほど遠くなさそうな鳥居に向かって泳いだ。
奇妙な話だが、遠くは見えないのに、いくらホットドッグが泳いでも鳥居との距離はまったく縮まらず、同じ距離を保っている。
浜辺にいる者もその問題に気付いた。ホットドッグは浜辺から遠く離れているのに、鳥居に近付く気配はない、その鳥居はまるで明月のように永遠に海に浮かんでいるようだった。
キムチ:ホットドッグ、戻ってきてください!あの鳥居は少し様子がおかしいです。
納豆:そうですね……最近変なことが多くて……一先ず記録しておきます。
納豆:帰ってからまたみんなで議論しましょう、もしかしたら……違った考え方が閃くかもしれません。
新たな仲間
新たな仲間の加入。
北の谷
神国
生い茂った木々が空を覆っているため、山谷は暗い。最中は一番高い大樹の頂きに立って、星空を観測した。
最中:やはり……特殊な災いが起きると示された場所と、人間が現れる場所はかなりの確率で重なっているようだ。
最中は頭痛を抑えながら木の下を見た。
最中:花びら餅、あんま余計なことを考えるな。この木が支えられる重さは決まっているんだ、貴方と一緒に枝に並んで夕日を見るなんて出来ないよ……
花びら餅:……そんなことなんて考えていませんよ……
最中:本当か?なら私を眠らせようと力を使うな、私は今木の上にいるんだ、眠って落ちたら痛いだろ!
花びら餅:あれ……効かない……前までは眠らせることが出来たのに……
最中:だから余計なことを考えるなって!とりあえず私と神社に戻ろう、新しい仲間が加われば、みんなも喜ぶだろう。
地上に戻ってきた最中は、高嶺の花のように見えて、妄想大好きなその少女を見つめ、彼女がりんご飴たちと出会った時のことを想像して、噴き出しそうになった。
最中:早く行くよ。
占星術
隠された星空。
最中:昨晩星象を見たところ、ここ数日は快晴だそうだ。
ラムネ:ほんとに?最中兄さんまた騙すつもりでしょ。この前は冷えるって言ってたから、厚着して出掛けたら、熱中症になりそうだったよ。
ラムネ:それに、前々回だって、外に出ちゃいけないって言うから、皆が楽しそうに遊びに行くのを見ているしかなかった……
ラムネ:しかも、家に座っていたら、隕石にぶつかりそうになってたよ!
ラムネ:もう信じないんだから、占星術なんて、当たった試しがないもん!
最中:あれはたまたま、たまたまだ!占星はきちんとした科学だから、法則さえ見つかれば、現実と対応しているんだ。今度こそ計算し尽くした、間違いない!
ラムネ:うぅ……じゃあ、傘は持たなくてもいいの?
最中:ああ、絶対に、晴れ渡る。
つじうら煎餅:うわーラムネ本当に信じるの?傘は持って行った方がいいよ……
ラムネ:う……つじうら煎餅じゃない。もしかして、占ってくれたの?じゃあその言葉を信じよう、外れたことないからね。
最中:……
つじうら煎餅:ううん、占ってないよ。
ラムネ:じゃあどうして……
つじうら煎餅:だって自分で見てみなよ、もう降りそうだよ。晴れ渡るどころか、雷雨が降るかもしれないよ。
ラムネ:ねぇ……最中兄さん、別に信じていない訳じゃないんだけど……ただ、本当に占星術って、全然当たらないよね……
ラムネ:もう行くよ。やっぱり、趣味を変えたほうがいいと思う!
最中:……
つじうら煎餅:へへーこの神仙ちゃんが占いを教えてあげようか?きっと今の百倍当たるようにするから!
最中:いや、きっとどこかで計算を間違えてしまったんだ、もう少し研究してくる……
つじうら煎餅:ええ?行かないでよ……
水無月:どうした、彼はまだ占星術を諦めていないのか?
つじうら煎餅:そうよ、本当におかしなひとね。この神仙ちゃんから学べばいいのに、あたしはすごいんだから!
水無月:もちろん、煎餅ちゃんが一番すごいよーでも、ひとはそれぞれ好みがあるからね。
水無月:気の毒だなー今まで信じていたものが崩れていく感覚を味わっているんだろう……何しろ、彼が知っている星空とはまったくの別物だからね。
つじうら煎餅:星にも違いはあるの?みんなキラキラしてるでしょ?
水無月:ハハッ、そうかもね……
忘却と選択
檻の中の孤独。
水無月:今の状況は少しまずいかもしれないよ。ここ数年、皆色んな事に気づいて、色んな疑問や疑惑がたまっているらしいよー
水無月:ところで首領は今でも瓊勾玉の力を操れるの?
羊かん:お前まで忘れっぽくなってしまったのか。巫女の実体は瓊勾玉だ。私は神国の主でありながら、神国の一部を操ることは出来るが、その力の本質を変えることは出来ない。
水無月:通りで人間が迷い込んでくる時、大体が「現世」の心災と重なっているんだね。神器の力の一部は「現世」に残っている訳か。
水無月:しかも、特定の時間に必ず出現する場所を発見した。そこの風景や人は「現世」とは全く違う、きっとそこが所謂「黄泉」なんだろうね。
水無月:思うに、ここと繋がっているのは、神器の力が引き合っているからだ。
羊かん:それは巫女と神器の力の間にある繋がりだ、私にはどうも出来ない。
水無月:なら却って悪い話ではないってことか、これからもっと多くの食霊を呼び込めるかもしれない……
水無月:だけど「黄泉」の地は、はじめに消した記憶の範疇じゃなかったはず。「黄泉」を探し当てられないように、何かするべきか?
羊かん:……ここは私の神国だ、制限をつけてしまったら、ただの織と何の違いがある。
水無月:ハハハッ、神子様のお言葉はますますありがたく聞こえてくるねー確かに、楽しく過ごせれば、織の中にいたとしても自由に思えるからね。心の中に不安があったら、例え広い世界にいても閉じ込められているように感じてしまう。
水無月:僕はね、巫女様たちを見ると嬉しくなるんだーもう長いこと「現世」の憎たらしい奴らのことを考えていない。
水無月:だから、巫女様を脅かす可能性のあるものは、根本的に排除しなければならない。
羊かん:もう考えはあるのか。
水無月:あるよーだけどこの方法を使うと、僕と落雁の記憶にも影響して、全てを忘れてしまうかもしれない。その時、首領は独りぼっちになっちゃうよ。
水無月:神様は孤独だ、そうだろう?神子様?
落雁:わ、私は……問題ないです……居場所を見つけたので……過去を忘れても、大丈夫……です。
落雁:ごめんなさい……
落雁で遊ぶ水無月を静かに見つめた後、羊かんは目を閉じた。真剣に彼の提案を考えているようだ。しばらくすると、彼は目を開き、水無月に向かって頷いた。
実験品
剥がされていく記憶。
羊かん:本当に、そうするつもりか……
水無月:もちろん!辛いことを全部忘れるなんて最高だろ。でも、これからは神子様に苦労をかけちゃうけどね。
羊かん:しかし、この試みが成功しなかったら……
水無月がこれから全てを忘れてしまうかもしれない、そう思った羊かんの空っぽの胸はより一層空っぽになったように感じた。無意識に失敗すればいいと思うほどに。
水無月:失敗したら、君の神国は永遠に存在することは出来ないだろうね。蓄積された不満はいつか爆発する。だから、成功すると信じよう。
羊かん:……わかった、始めよう……
羊かんは目を細めて笑っている水無月を見つめ、双子の巫女に合図し儀式を始めた。
儀式を通し、負の感情と辛い記憶を抜き出し、人工的に堕神を作るという方法だ。
こうすれば、堕神を退治すれば、負の感情と辛い記憶は全て消えてなくなる。
しかし長い歳月の中で、負の感情は思い出を侵食するものだ。そのため、このような方法を使うと、負の感情に染まった全ての記憶が消えてしまう可能性がある。
羊かんはわかっていた、爽やかに笑う水無月はまさにこういう類のひとだと。
儀式はつつがなく進んだ、生まれたばかりの堕神の体は大きいが、羊かんには敵わない。
多くの記憶が抜かれたからか、水無月は堕神が消える前に意識を失った。
堕神を抑え、羊かんは最後の一撃を打ち込もうとした。その時、彼は振り返って双子の巫女を見た。
羊かん:もしこの苦痛の記憶で形成された堕神を壊してしまったら、彼は──水無月は、全てを忘れるのだろうな……
瓊子:……ええ、この子は、きっと自分の名前すら忘れてしまうでしょう……
羊かん:記憶は、永遠に消えるのか?
天沼:神子様が何を躊躇っているのですか?
羊かん:……
躊躇う羊かんを見て、双子の巫女は目配せをした。
瓊子:神子様、勾玉で堕神の力を吸い取りましょう。そうすれば、少しずつ失われていく神力も補充出来ますし、彼の記憶も保存できます。
羊かん:…………
天沼:心配しないでください、この方法は確実です。貴方の同意がなければ、彼の記憶は戻ったりしません。
羊かん:……わかった、ではそうしよう。
瓊子:かしこまりました。
孤独の守護者
浄化と守護。
朝
神社の庭園
水無月:巫女様!おでんさんが面白いところを見つけたみたい、「歌舞伎町」って言うんだって。
水無月:一緒に行こうよ、なんか楽しそうだよー
天沼:おでんが歌舞伎町を発見したのですか?
水無月:そうだ。僕たちみたいな食霊もいっぱいいるらしくて、きっと面白いよ!
天沼:「黄泉」の歌舞伎町ですか……
瓊子:兄様!
天沼と瓊子、二人の巫女は顔を見合わせた。二人の目には希望のようなものが見える。
瓊子:面白そうですね、では一緒に行きましょうか。
水無月:やったー!じゃあ、神子様も呼んでも良い?
水無月:神子様いつも皆と一緒にはいないけど、皆を大事にしているのはわかっている。もしみんなで行って、一人だけ残したら、きっと寂しがると思うよ。
瓊子:……もちろんです、水無月も神子様を大切に思っているのですね。神子様もきっとうれしく思っているはずです。
瓊子は気配を感じ、顔を上げていつの間にか玄関に立っている羊かんを見た。すると、彼は淡々と笑った。
羊かんはこの和やかな瞬間を壊すことはしなかった、まるで何も聞こえていないかのように、この場を離れた。
羊かん:水無月……あなたの本来の姿はこうなのか。例え過去を忘れると知っていても、方法を試すように言ってきた……それがあなた……
羊かん:「黄泉」の歌舞伎町か……結局「黄泉」と出会ってしまったのか。でも大丈夫、楽しく遊んで来るといいよ。そして、素敵な思い出だけを残せばいい。
羊かん:楽しくないものは、全て私が浄化してあげる。
羊かん:何があっても神国の安寧を守る。皆が永遠に幸せでいられるように……
覚醒
力が集まる時。
瓊子:兄様……このような形で再会してしまって、申し訳ありません。
天沼:謝ることはない、また会えたことには感謝しています。
瓊子:しかし……
天沼:言いたいことはわかります。貴方も私も、残留した執念に過ぎない。勾玉があるから消えることは出来ないでいる、この世界の主の意志に逆らうことは出来ない。
瓊子:しかし、私は毎日のように「黄泉」と「現世」で起きた災いを感じることが出来ます、依然として苦痛に身を置いている民たちを手放すことは出来ません……
瓊子:私たちが誤った選択をしたことで、「黄泉」と「現世」をこのような状況に陥らせてしまったのではないかと、恐ろしくなりました。
天沼:立てた計画が万全であることは誰にも保証出来ない。私たちにできるのは、間違いを見つけた時にそれを修正することだけです。
天沼:幸い、私たちは目を覚ましました、まだ機会はあります。皆も徐々に目が覚めてきていると感じています。もっと外界に触れさせることで、より早く目覚めさせることが出来るでしょう。
瓊子:しかし神子様はすぐにあの方法で皆の記憶を消してしまいますよ……
天沼:心配しないでください、皆の記憶を勾玉の中に入れておけば、いつか転機が訪れるかもしれません。
瓊子:それは……あの「救世主」の予言のことでしょうか?
天沼:それが予言に関係していようといまいと、きっと誰かが立ち上がってくれると信じています……その方こそが、私たちの「救世主」なのです。
瓊子:もしかしたら、良いきっかけなのかもしれません。
天沼:きっかけ?
瓊子:神国は「黄泉」と「現世」を繋げることが出来ます。もしかすると、いつか「黄泉」の人間を「現世」に連れ戻すことができるかもしれません。
天沼:……今の力ではこれだけの人間を神国に入れるのは難しいでしょう。もし「黄泉」の神器の力を集め、そして我々の力も加えることが出来たなら……
瓊子:これが唯一の希望なのかもしれません……
身に覚えがある
輪廻の中……
夕方
深夜食堂
りんご飴:あれー珍しく皆いるみたいね!何か美味しい物を作ってお祝いしないとー
おでん:問題ないよ、今すぐ用意するから待ってな。
りんご飴:あれ──なんだか既視感が……なんかおかしい感じがしないかしら?
つじうら煎餅:そう?前も一緒にこうやって過ごしたことがあるからじゃないの?
りんご飴:……そうかもしれないね。
草加煎餅:私も似たような感覚を覚えます。
りんご飴:煎餅先生?
草加煎餅:何かを忘れているような、しかし思い出せない。というより、記憶の一部が失われているような気さえします……
つじうら煎餅:神子さまがイヤな感情を整理してくれたからじゃないの?
草加煎餅:そうかもしれません……でもなんだか、大切な思い出がなくなったような気がするんです。
つじうら煎餅:まあ、どうせすぐには思い出せないし、早く新しい仲間を紹介してよー
つじうら煎餅:そうだね、不思議!今までなかったよね。新しい友達がたくさん欲しいから、あたしも探しに行ってもいい?
最中:私は……確か天象を観測して、あの山谷で見つけたらしい……
ラムネ:ちぇっ、最中兄さん嘘はよくないよ。占星術、全然当たらないじゃん。
最中:いや、私の占星術は、外部から入ってくる者に関しては一貫して当たっているんだ。ただ神国の中の事だけは当たらない……もしかしたら私たちはここの住人じゃないのではないかとも考えた。
りんご飴:あら、それもどこかで聞いたような気がする……
つじうら煎餅:脱線しないでよ、新人さんはまず紹介をどうぞー
水無月:あの、僕も新人だよね?儀式が終わってから、何も覚えていないから真っ新だよ。
つじうら煎餅:あはは、可哀そうだしなんだか笑えるね……
お好み焼き:あはは。
おでん:気を付けて、すき焼きを持ってきたよーあと玉子焼きとさんまの塩焼きだ。
つじうら煎餅:わー美味しそう!難しいことは忘れようよ!まずは美味しい物を食べよ!
りんご飴:あれ?すき焼きもなんだか聞き覚えがある気がしない?
ラムネ:玉子焼きとさんまの塩焼きの方が聞き覚えがある気がする。
つじうら煎餅:美味しい物だから聞き覚えがあって当たり前じゃん!
水無月:あははは……
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