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ペルセベ・エピソード

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ペルセベのエピソード


ペルセベは負けず嫌い、唯我独尊。「地獄の門」として、地下世界を統治している彼は誰にも負けない実力の持ち主である。彼は率直で、度量が広く、小事にこだわらない。彼が決めた「ルール」を違反する人を絶対に許さない、悪名高い「ダークマーケット」で高い名望がある。見た目は凶暴で、言動も礼儀正しいとお世辞でも言えないが、弱い者いじめはしない、相手にも敬意を持って接する。家事も得意なため、怖い見た目と中身が一致しないタイプ。


Ⅰ.地獄の門

「うるせぇ」


拳で窓に打ち付けてある木の板をぶち破り、直感で外にいる騒音の源を引っ掴んだ。


「大した事じゃなかったら、ブッ殺す」


喚いていた奴がようやく落ち着いて、早朝の静かな空気の中しどろもどろに説明を始めた。


「あああああ……暴れている奴がいるんです!」

「は?何寝ぼけた事を言ってんだ?」

「ほほほほほ……本当です!しかもしっ、知らない奴です!」


知らない奴?


おもしれぇじゃねーか。


すぐに身を翻し上着を羽織った。するとインコみたくどもりながら喋る奴が俺様をじっと見つめている事に気付く。

何を見ていたのか、俺様にはわかっていた。

背中が鬱陶しいぐらいに熱くなった、あまりの鬱陶しさに指で奴の両目を刺した。


「何ボーっとしてんだ!早く案内しろ」

「うわあああ!はっ、はいっ!」







まだ時間が早いからか、街は怖い程の静寂に包まれ、太陽の光だけが乱暴に大地を照らしている。


クソッ、ダークストリートってこんなに長かったか?!なんでまだ着かねぇんだよ!


「ボ、ボス、なんだか機嫌が、良さそうっすね……」

「ああ?どうしてそう思うんだ?」

「手で回してる、そ、その狼牙槌、扇風機よりも早くて、す、涼しいっす……」


狼牙槌を回す手を止め、口を閉ざした野郎を一瞥して、鼻で笑った。


機嫌が良いどころじゃねぇ。


このダークストリートで騒ぎが起きたのは何年ぶりだと思ってんだ、肝の据わった奴をこのまま見逃す訳にはいかねぇんだよ!


そう考えながら、興奮を抑えきれずに騒ぎが起きているバーのドアを蹴り開けた。


ハッ!どこのどいつか知らねぇが、実力を見てやる!


「来るな!」

「お兄さん、照れないでよ。そんなに綺麗な筋肉を仕舞ったままじゃ、もったいないだろう!」

「自重しろ!ふっ、服を脱がすな!」


…………


隅っこにいる大男を指さし、俺様をここまで連れて来た野郎に聞いた。


「アイツか?」

「……アイツです」

「誰か……行くな!助けてくれ!」


筋肉だるまが恥ずかしそうに必死で服を死守している姿は実に見苦しい。俺様は頭をかいた後、店主に声を掛けた。


「アンソニー、いつもの」

「あら、ボスったら、私の邪魔をするの?」

「余計な事を言うな、早く酒を出せ」

「はいはい!」


アンソニーは色とりどりの羽根を揺らしながらバーカウンターに戻って行った。俺様はテキトーな椅子に座り、急いで服を着ている大男に話しかけた。


「どうして殴らなかった?アンソニーは頑丈そうに見えて、打たれ弱ぇぞ」

「レディーにそのような対応は出来ない」

「あらー!本当に素敵な紳士だわ!」


珍しくレディーと呼ばれたアンソニーは興奮したように声を上げた、それを聞いた大男は驚いて縮こまった。


「コホンッ……助けてくれてありがとう、サンデビルだ」

「で、真面目な話、どうやってここに入った?」

「わからない、目が覚めたらここにいた」

「ああ?じゃあ寝るまで何してたんだ?」


奴はハッとした顔をした、ハメられたのがわかる程に怒り、その勢いはまるで燃えている太陽のようだった。


ハッ!おもしれぇ!


グラスをテーブルに叩きつけ、指をクイっと曲げて向かいにいる奴を誘った。


「おい、俺様と喧嘩でもしねぇか?」

「は?なんて?」


他の三人が揃いも揃って驚いているのをよそに、俺様は指を鳴らしながら立ち上がった。


「ボス!外から勝手に人が入って来られるようになってるのはまずいです、早く、早く解決しないと!」

「そうだよボス、地獄の門に何か問題でも起きたんじゃないの?私怖いわー」


「は?何バカな事を言ってんだ?」


狼牙槌の鎖がジャラジャラと、何度も打ちつけられて悲鳴を上げている金網のような甲高い音を立てた。


「ダークストリートを厳重に封じてんのは、あのボロい門だと思ってんのか?」


あまりのバカさに俺様は腰が曲がる程に笑った、グラスもつられたのか震えている。


不思議そうな顔をしている奴らを見て、俺様は久しく血の味を味わっていないいない犬歯を舐めた。


「思い知れ!俺様こそ、地獄の門そのものだ!」


Ⅱ.ダークストリート

いつからこんなひでぇ場所にいるのかとっくに忘れた。そんなバカな事を覚えていても仕方ねぇ。

とにかく、ダークストリートの第一印象は……


うるせぇ。


「よぉ!ジジイ、もっと這いつくばれ!もっと早く動けよ!」

「はははっ!早く地獄に堕ちろよ、クソジジイ!」


耳元で下水道のように汚れた雑言が聞こえる。古びたミシンのようにガタガタと止まらねぇ。


暗闇の中目を開くと、目の前は暗闇のままだった。

振り向いても、手を上げても、何かに遮られる。


邪魔。


目の前にある木の板を一撃で壊し、俺様は鬱陶しい木屑を払いのけ、驚く男の首を掴んだ。


黙らせようとしただけだ、こんな奴らじゃ相手にもならねぇ。だが俺様が口を開くより先に、異臭が漂ってきた。


チッ、クソッ。

慌ててそいつを背後のゴミ山に捨てた。


他のゴミのような連中も、虚勢を張りながら慌てて逃げて行った。


フンッ、度胸のねぇ野郎共だ。


うるせぇ奴らを追い払うと、周囲を見回した。ゴミしかない、そこはどう見てもゴミ捨て場だった。だけど妙な事に、俺様はずっと棺桶の中にいたようだ。


一体どこのバカ野郎がやったんだ……見つけ出したら、タダじゃおかねぇ……


イラつきながら棺桶から出る。雨で濡れていたからか、危うく転びそうになった。


「あっ……」

「ああ?」


もう一人いるのを忘れていた。

声がする方を見ると、破れた段ボールと錆びたトタンの間に老人の顔が見えた。


「あっ……あの、ありがとう」

「チッ、年寄りじゃ喧嘩も出来ねぇじゃねーか」

「え?」

「もう行く」


ぎゅるるるるる__


あぁ、腹減った。


面倒だ……


「あの……」

「あ?」


老人は段ボールの陰から立ち上がると、少し怯えたように腰を丸め、辛うじて口角を上げてこう言ってきた。


「良かったら、うちに、来ないか?」





ウィリアムは痩せ細っているが、身体は丈夫だった。俺様をボロボロな台所に連れ込むと、すぐにあたたかい料理を運んで来た。


おかずは缶詰のベーコンと魚肉、スープは塩と胡椒を振っただけの白湯だったが……


「うめぇ!ジジイ、言え、誰を殴れば良い?」

「えっ?誰も殴るつもりはないよ……」

「はあ?じゃあ、なんでご馳走してくれんだ?!」

「だって、君がお腹を空かしていたから」


当たり前のようにそう言った後、ジジイは笑った。畏怖の色が消えたその顔は、さっきと比べれば目障りじゃなくなった。


「なあ、若者よ。お腹いっぱいになったら、傷口を手当しよう。このまま血を流し続けるのはいかんよ」


傷口?


「背中にあるよ」


振り返ると、ガラス窓には俺様の背中が映し出されていた。そこには三本の血痕があり、そこから今もどくどくと血が流れ出ている。


これは……とんだ辱めだ!


男が背中に傷を負うなんて?!

こんな敗北と弱さを象徴する傷、一体誰が作ったんだ!!!


口に入れていたスプーンがギシッと小さく割れた。手当しやすいように、俺様は腰を伸ばしながら、自分をこけにしたバカ野郎を絶対に見つけ出すと決心する。


「そうだ、若者よ、どうして棺桶の中にいたんだ?」

「は?知らねぇよ、目が覚めたらそこにいた」

「じゃあ……家はどこ?家族は?」

「ねぇよ」

「そう……じゃあ、行く宛てがないのなら、ここに残ると良い。ボロい家だけど、雨風ぐらいは凌げるよ」


ヒビだらけだけど綺麗に洗ってある器に入った薄黄色の塩味のスープ、そのにはウィリアムの優しい笑顔が映っているり

体に巻かれた包帯と、胸の前で結ばれた不格好なリボンを見た。


断る理由がない。


「ジジイ、貴様にちょっかいを掛けてきた連中は、どんな奴らだ?」





ダークストリートに平穏は訪れない。


たったの二日で、俺様はすっかりそれを理解した。


様々な勢力がここに居座り、人間に出来るあらゆる悪行を積み重ねている。


足の不自由な老人も、腹の大きい女も、無邪気な顔をしている子どもも、毎日のように顔があざだらけになっている。昼夜も問わずひったくりが現れる、これがここの常態だ。


ウィリアムとその八歳の孫は、ここで一番良く見る弱者だ。


生きる事、これが最大の目標。

奴らは夜にぐっすり寝たり、普通に食事をしようだなんて考えた事もない。


四つん這いになった野郎の尻を思い切り蹴り、悲鳴の中、路地に捨てられた古びたソファーに腰を下ろした。


チッ、埃だらけじゃねぇか。


「おいっ、俺様の背中の傷は貴様らの仕業か?」



つい数分前まで金を出せと言ってきたチンピラたちが、今では命乞いをしながら顔の血を振り撒いている。

ウィリアムの家の前に居座っている、泥だらけの駄犬と一緒だな。


それもそうだ、このバカたちが俺様に傷をつけられる訳がない。

しかし……


こいつらがこのダークストリートを牛耳っている連中か?

恥ずかしくねぇのかよ。


「今日から、このダークストリートで暮らしてぇならルールを守れ、わかったか?」


奴らはキツツキみてぇに頷いているが、テキトーにあしらっているように見えて、思わず舌打ちをした。


「どっ、どんなルールですか?」


俺様にジーっと見られていた奴が、ようやく口を開いた。


その汚れた顔に浮かんだ驚愕と困惑の表情を見て思わず笑った。


「俺様というルールだ」


Ⅲ.ルール

ここにいる野郎たちに腹を立て、三十三本目のスプーンを噛み砕いたある日、ウィリアムはこの世を去った。


「世を去る」という言葉はジョエルが教えてくれた、俺様が「死」と口にした途端、あのクソガキは三日三晩も追いかけて来やがった。


「同じ意味なんだろ?なんで文字数増やさなきゃならねーんだ?」

「シーッ……爺ちゃんの前では声を落とせ!」


ジョエルを思いっきり睨んだ、ここ数年で身長だけじゃなく頭も良い方に成長したみてぇだ。胡座をかいて、酒瓶を開けて真っ黒な墓石に向かって手を上げた。


「ジジイ、酒を飲みに来た」

「酒って……その瓶にはジュースしか入ってないのに」

「ジュースがどうした?!酒は別に良いもんじやねぇだろ!」


ジョエルは口を尖らせながらも、大人しく俺様の隣に腰を下ろした。

俺様は酒瓶を奴に投げ、墓石に書かれた「ウィリアム」という文字を見つめ、こう言った。


「安心しろ。俺様のおかげでダークストリートの秩序は良くなった。女も子どもも、好きな時に出掛けられる。棺桶屋よりも飯屋が多くなった。人が増えて将来的に住めなくなるかもな……このどうしようもねぇ場所を管理するのは大変だ。だけど難しくはねぇ。それに俺様はジョエルに喧嘩の仕方も教えてやったから、アイツが隅に追いやられて誰かに殴られる心配はもうしなくて良い」


「なっ……僕がいつそんな」

「俺様に殴られて鼻水を垂らしてたのはどこのどいつだ?」

「……」

「俺様はもう行く、二人で話せ」

「どこに行くんだ?」

「やりたい事をやりに行く」


禿山に建てた仮の墓地を出る。妙な物を売っている店の前で、赤い服を着た男を見つけた。


「これが、秩序あるダークストリートなのか?」


サンデビルは足元に倒れているチンピラに視線を移し、あまり笑わないのに嘲笑うかのように口角を上げた。


俺様は笑ってカウンターをノックし、慣れた手つきで幽霊アイスを二本注文する。


親切にサンデビルへ一本渡したが、奴は顔をしかめて断った。


チッ、恩知らずめ。


「なら聞くが、貴様の物を盗んだか?」

「……いえ」

「襲われたのか?」

「……違う」

「自分よりも弱ぇ奴に喧嘩を売ったか?」

「……それも違う」

「ならいいんじゃねーの?」


広げた俺様の両手を見て、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。


「これがこの街のルールだ。弱者に対して暴力行為をしてはならない、ああ、陰謀や復讐とかも全部禁止した。それ以外なら、全て拳で解決するようにな」

「そ、それがルール?陰謀や復讐のような曖昧な概念はどうやって判断するんだ?このような管理方法は、ナンセンスだ!」


どうしてか奴は急に怒り出して、ベラベラとまくしたてた。


もしかして俺様の説明が複雑すぎて、理解出来なかったのか?


「まあ、簡単に言うと、言う事を聞かねぇ奴がいたら殴って大人しくさせれば良い」

「なっ……法のあるこの時代に暴力で他者を制御するなんて、実に愚かだ!」

「ああ?じゃあどんな手を使ってあのチンピラ共を黙らせりゃ良いんだ?」


アイスを噛みながら、サンデビルを見つめる。


「理屈なんざ俺様にすら通じねぇのに、アイツらが従うと思うか?バカじゃねぇの!」


サンデビルの顔色が暗くなる。俺様を見る目は、まるで犯人を見つめるそれだった。

うっせぇな。後先をよく考えても、昔死んだ奴の経験と人が勝手に生み出した道義しかねぇだろ。


役に立つもんは何一つねぇよ。


狼牙槌を彼の足元に叩き込む。その瞬間、割れたような地面はまるで宣戦布告のようだ。


「おい、帰ってあのクソ国王に伝えろ。ちょっかいをかけてくるな、ダークストリートは俺様の領地だ。俺様が居る限り、誰も手出しさせねぇ!」

「最初のダークストリートは気に入らねぇから俺様がぶっ壊した、だから今があるんだ!気に食わねぇなら、俺様を倒してから言え!」


彼の目つきが冷たくなっていく、ますますこれは始まる決闘が待ちきれなくなった。


今回は、絶対に満足するまで帰さねぇ!


「ダメだ」

「は?!」


俺様は初めて自分の耳を疑った。


ダメだ?

何がダメだ?


「貴方の体にはまだ傷がある、人の弱味につけこむ卑怯なマネは出来ない」


クソッーー!!!

興醒めだこの野郎!!!


背中の血痕が一気に燃え上がり、頭皮が痺れる程の熱を感じた。


そばにある臨時の道標である石像を叩き続けると、灰色の煙が昇った。


煙はどんどん広がり、最終的に黒い墨の塊になった。


「クロ!」


地獄犬が黒い霧の中から飛び出て、唸りながらサンデビルに飛びついた。


「貴様!卑怯な手は使わないと言っただろう、こんな事……え?」


サンなんちゃらが不意打ちで倒れて反応する前に、クロはもう彼の全身を嗅ぎ回って走り出した。


Ⅳ.強者の道

かつては生きるために生き延びていた弱者たちが、今の生活を心配する必要がなくなり、より自分に有利な物を求めるようになった。


金だ。


ダークストリートの外では、金さえあれば弱者ではない。


強くなるのは悪いことじゃねぇ。商売に関して俺様は役に立たねぇが、少なくとも邪魔はしないし、他人が邪魔する事も許さねぇ。


だが……


「ボ、ボス、何の用ですか?」


クロに家のドアを叩き潰されたヴィクターは、辛うじて愛想笑いを浮かべていた。


「ああ、最近の様子を見に来たんだ」

「あ、ありがとうございます……あの、まず地獄犬を連れて行ってもらえませんか?ちょ、ちょっと怖いっていうか……」

「待ってろ」


クロはヴィクターの倉庫に潜り込むと、匂いを嗅ぎながらせっせと何かを探していた。

ヴィクターがクロに何かするような度胸はないだろうから、俺様はテキトーに部屋の中を眺めた。


「これはなんだ?」

「あっ!それは……ボ、ボス、それは危ないので、くれぐれも開けないでください!」


危ない?

このボロい瓶が?


「中の液体は、匂いだけで食霊の理性を奪い、自我のない妖怪に変えてしまうんです!ボスには危険すぎる!」

「ほお?なら、何故こんなもんを持ってんだ?」


ヴィクターは急に顔が青くなった、さっき発した言葉をどうにか飲み込もうとしているのかパクパクと口を開けていた。


俺様の質問に答えないでいると、クロがまた赤と白の大きな箱を咥えてきた。


「これはなんだ?」

「あっ……こ、これはプレゼントボックスです。外の人は、こういう形式ばった物が、凝ってる物が好きなので……」

「この大きさなら、人とか入れそうだな?」


ヴィクターは口を閉ざした。

罪を認めたみてぇだ。


奴の頭でクセー匂いがする箱を踏み潰し、足元の悪徳商人を見下ろした。


「金のために俺様に隠れて人を連れて来ただけなら、殴るだけで済んだが。まさか、俺様を狙っていたとはな?それともダークストリートを潰すつもりか?俺様はこの回りくどいのが一番嫌いだって知ってんだろ!」

「そ、そんなつもりは!ボス、信じてください!もしそう思っているのなら、この瓶の中身を教えたりはしませんから……」

「つべこべ言うな、金か、それとも命か?」

「お、お許しください!こ、今後はもう二度と……」

「チャンスならあげてもいいぜ」


アヒルのような泣き声があまりにも耳障りで思わず遮った。


「貴様の人生、最後のチャンスだ」





ヴィクターから奪った瓶は小指ほどの大きさだ、中には透明に近い液体が入っていて、揺らすと大小の泡が浮き上がった。


これが本物なら、うっかりこぼしただけで大変な事になるかもしれねぇ。


チッ……どうするか……

いや、やっぱり面倒な事を考えるのは嫌いだ。


瓶を片手で持ち、指先にわずかな力を加えただけで、小さなガラス瓶が掌の中で砕け散った。


まずかったらイヤだな……


そう思いながら俺様は仰向けになって、血の混じった液体を飲み込んだ。


危険だろうがなんだろうが、俺様は、必ず勝つ!


Ⅴ.ペルセベ


ペルセベは典型な唯我独尊タイプだ。


刺激と快楽を、より強い相手を求め、気絶するまで戦い続けようとする。


静かに食事をしたいがために、ダークストリートをひっくり返し、一晩でここのルールになった。


自分の領地を侵されたくないがために、帝国連邦全体に宣戦布告もした。


彼は何にも靡かない、不可抗力を軽蔑し、更に天命に背けないなんて事も思わない。

彼はその気になれば、何でもする。


彼はいつだって強い、向かうところ敵なしだ。


それに彼のやった事は、誰かを傷つける事ではない。

ウィリアムは安らかに眠れた、ジョエルは安心して成長出来る、そしてアンソニーは日々の泥臭さから解放され、自分を着飾る余裕も出来た……


それだけで十分だった。


ペルセベは確かに強い、だが多くの人からすると、彼は単純なバカにしか見えなかった。

その中には、彼と出会ったばかりのサンデビルも含まれる。


サンデビルがアンソニーに促されてやって来た時、ペルセベは既に家を壊し終えていた。


全身を傷だらけにして、血だまりの中に立ち、まるで魔物のようだった。


サンデビルは歯を食いしばって彼を押さえつけようとしたが、その燃えるような血色の瞳は突然目の前から消え、次の瞬間には廃墟の中に立っているコンクリートの柱を睨みつけ、自分の頭を叩きつけた。


サンデビルは呆然とした、次から次へと轟く音に歯がしびれた。

ペルセベが何をしているのかわからなかったのだ。彼が最後の叫び声を上げると、その場に倒れ込んで気絶してしまった。


ダークストリートを封鎖していた地獄の門が一時的に無力化した事で、サンデビルは帝国の兵士に厳重に警備するよう命じ、ペルセベを連れて学校に戻った。


ルートフィスクサルミアッキが血まみれのペルセベを校医室に連れて行くのを見届けると、五分後、二人が黙って出てきた。


それを見てサンデビルは動揺した、急いでサルミアッキに尋ねる。


「ど、どうしたんだ?」

「治療は、必要ない……」

「なんだと?!まさか……」

「傷口が、塞がっている、包帯を巻くよりも、早く……」

「……」


サンデビルペルセベが素手でビルを解体した勢いを思い出し、サルミアッキの言葉を信じた。

そして溜息をつき、ふとアンソニーが自分に話してくれた、食霊を狂わせ堕化させる薬のことを思い出す。


「堕化の様子はどうだ?」

「堕化?」


彼女は相変わらず穏やかな顔をしている、何も知らない様子だった。

サンデビルが疑問を胸にし、ベッドに眠るペルセベに近づく。


まさかこの馬鹿は「不屈の意志と鋼鉄の身体」だけで、食霊の天敵に勝ったとでも言うのか!


もし本当だとしたら……


サンデビルの顔が急に険しくなった。彼は奥歯を噛みしめながら考えあぐね、再び口を開けた時、こう断言した。


「このような者が、我が帝国のために働いてくれなければ、残しても災いになるだけ……」

「それは違うよ、サンちゃん」


馴染みのある声が聞こえてきた。サンデビルは振り返って来客を睨んだ。


ポロンカリストゥス!貴方はルートフィスクの薬で私の意識を奪った後、ダークストリートに投げこんだだろ、まずこの件について話を聞かせてもらおうか!」

「まあまあ、そう怒るなよサンちゃん、それは仕方なくそうしただけなんだ」

「私をサンちゃんと呼ぶな!」


静かな病室が一気にうるさくなった、サルミアッキは騒いでいる二人の良い大人を見て、疲れてため息すら出ない。

病人のために阻止したいが、直接包帯でぐるぐる巻きにする以外、彼女の仲裁は成功した試しがなかった。


幸い今回、誰かが彼女の代わりに口を開いた。


「うるせぇ……」


低いしゃがれた声には苛立っていた、すると騒々しい声が止み、三人は声のする方を見た。


ペルセベが目覚めた。


「はあ?何だこれ!クソッ!俺様の力で解けねぇだと?貴様らがこの俺様を縛るとか良い度胸だな!早く解け!」


ベッド上で魚のようにもがいているペルセベを見て、サルミアッキは驚いて口が塞がらない。

「ありえない、麻酔の量は、普段の十倍なのに……」


サンデビルはまだぼんやりしているサルミアッキを自分の背後に隠し、説明しようとした瞬間、そばにいたのほほんと笑っているポロンカリストゥスにそのタイミングを奪われた。


「こんにちは、私はポロンカリストゥス。君へのプレゼントは満足してくれたかな?」


ペルセベは目の前にいる、この礼儀正しいけどどこか不快な男を見て、眉間を「井」の字に顰めた。


「プレゼントだと?」

「そう、サンちゃんの事だ。わざわざ彼をダークストリートに送って、君の遊び相手にしてあげたんだ。どう?彼を気に入ってくれた?」

「クソ野郎━━!俺様を暗殺しようとしたのは貴様か!殺す━━!!!」

「え?暗殺?ちょっと、何か誤解をしているんじゃ……」


ペルセベは弁解を聞く余裕はなく、必死に体に巻かれた束縛を解き、ポロンカリストゥスに向かって突進した。その白い首を尖った犬歯で狙っているようで、死んでもいいような気迫すら感じる。


サンデビルは慌てて阻止しようとしたが、先程まで血眼になっていた相手が、突然驚きと悔しい表情を浮かべ、だんだんと力が抜け、水に浸した毛布のようにポロンカリストゥスの肩に向かって倒れ込んだ。


眠ったのか?

いや……

まるで失神しているように……


ペルセベの腰に明らかにおかしな太さの注射針が刺さっているのを見て、サンデビルは一つ身震いした。


「鹿教官、酷い……これは先生が、苦労して開発した、特効薬……食霊が、使ったら、死ぬかも……」

「大丈夫だよ、サルミアッキちゃん。こいつはまともな食霊じゃないからね」

「……もったいない……」


サルミアッキペルセベの腰から注射針を抜いた、そして振り返らずにこの場を離れた。


サンデビルポロンカリストゥスを手伝い、ペルセベをベッドに戻し、念入りに特制の拘束具で巻き直した。それで、ようやくこの気が気じゃない同僚の教育をする余裕が生まれた。


「今回は本当に無謀すぎる、彼は貴方を誤解しているようだが」

「大丈夫だよ。彼を手にする事が出来れば良い、その後で苦労して誤解を解くのなんてどうって事ないよ」


ポロンカリストゥスペルセベの背中にある、まだ完治しない三本の血痕を眺め、笑みを深めた。


「安心して、既に良い計画があるんだ。サンちゃんこそ、私の心配をするより、ペルセベが目覚めた後どうなだめるかを考えて?」


一瞬だけ部屋が恐ろしく静かになった。サンデビルは息を飲む。まるでこれからの運命の序曲が、ゆらゆらと室内で響いているのが聞こえるかのように。



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