チーズ・エピソード
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チーズのエピソード
人懐っこく、茶目っ気のある性格。
いつもみんなの愛と、見た目からは想像できないほどの大量の食べ物をさらっていく。
その賢さと美しさで、いつも他人をからかうが、不思議と憎めない。
特にピザをからかうのが好きで、時々失敗して怒るが、美味しいものを食べさせれば機嫌は治る。
Ⅰ 暖かい
「う~お腹いっぱい」
私はたくさん食べてぽんぽこりんになったお腹を叩いてはしゃぎながら、昼寝する御侍さまのそばへ戻った。御侍さまの青白いお顔にも、お日さまのせいで暖かい色が差している。
「眠くなってきちゃった……」
この、御侍さま相手に延々と取り留めのない話をしている食霊はピザ。この国の国王、私の御侍さまの御父上の食霊だ。
ピザは毎日御侍さまのところへやってきて、枕元の花瓶に小さなヒナギクの花束を挿していく。
ヒナギクは御侍さまが大好きな花で、国王はそれを国花にされてしまったぐらいだ。
こうして王宮の内外に、まるでこの小さな国を埋め尽くす小さな幸せのようなたくさんのヒナギクが咲き誇るようになった。
もちろん、御侍さまが喜ばれるのは他にも理由がある。ピザはいつも、国王や外の情報を
持ってきてくれるのだ。
それは一日中御侍さまのそばにいる私にはできないこと。
御侍さまはこの国の王女だけど、ほとんど部屋の中でお過ごしになっている。
そう望んでいらっしゃるのではなく、出られないのだ。
私の御侍さまは、生まれつき体が弱い。
人間関係も複雑な王宮では体に差しさわりが出ると、国王は御侍さまを王宮の片隅の静かな部屋に住まわせて、医者がその病を治してくれることに望みをかけていた。
国務でご多忙な国王はここにいらっしゃる時間もほとんどなく、お母さまもとうに亡くなっていた御侍さまは孤独に成長されたのだ。
でも、御侍さまは私に辛い思いを打ち明けることもなく、いつも窓からお外を見ていた。
私は知っている。
その目はいつも、部屋のドアが開くのを待っているんだということを。
御侍さまはずっと、国王が来てくださることを期待しているのだということを。
父親としての責任が果たせない国王の穴を埋めるかのようにして、国王の食霊であるピザは以前にもまして頻繁に来るようになった。
ある日、ピザが約束の時間に来なかったので、御侍さまは不安げに私にお聞きになった。
「ピザは?父王のところで何かあったのかしら?」
「まさか!どこかで道草でも食ってるんだよ!あ、王宮の外にいる野良犬に追いかけられているとか?」
「そうかしら……」
御侍さまのお返事には、ピザにからかわれている時とは違った、明らかな落胆がおありだった。
どうして?
私じゃ、御侍さまの心を慰めることはできないの?
御侍さまの心は完全にピザに向けられているようだ。私がそばについていても、安心なさらない。
私、どうしたら御侍さまを喜ばせられるんだろう?
長い間考えて、ピザのあの軽薄な振る舞いを研究しようと思い至った。
「おやおや?チーズ、どうしてオレをじっと見ているんだい?」
私の視線を感じ取ったピザは、私の手を取って目の前に座りいつもよりさらに天真爛漫な笑顔を見せた。
「別に……」
「毎日こんなにチーズケーキを食べてたら太らないの?……くくく」
怒るべきか笑うべきか、私は仕方なく、自分で食べようとしていたケーキをピザの口に突っ込んだ。
「女の子に失礼な台詞を!」
「ううう…う……」
ピザはケーキが喉にむせて、一瞬言葉を失った。
その滑稽な表情に、御侍さまは大声で笑った。
それは滅多にないことだった。
でも、私が嬉しかったのはそれだけじゃない。
「フフ、大丈夫。チーズは痩せの大食いだから。」
御侍さまはそばに座りなさいと言うように、私に向かって手を差し出した。
私は御侍さまの優しさを感じた。
「フン!その通り!チーちゃんはお菓子を魔力の源とする魔女なの」
「ええ、チーズの魔法のおかげで、私の体も毎日よくなっているわ」
もちろん、そんな魔法は本当はないことは、私も御侍さまも知っている。
でも、私は毎朝毎晩フォークを振るって、神様にお祈りをしているのだ。
御侍さまの体が、早くよくなりますように、と。
「ええ、御侍さま、きっとすぐに元気になるよ」
私は御侍さまに、誰よりも優しい笑みを向けた。
Ⅱ 涙
暖かい風の吹く青空の月はまだ夏の暑気に穢されておらず、晴れた空には薄雲がかかって、時々真っ白な鳩が飛んでいく。こんな清々しい天気の日に、御侍さまはようやく外出を許された。
外出といっても、部屋から王宮の花園へ出ることを許されただけだ。地面に薄黄色のチェック模様のシートを敷き、そこへいつもはテーブルに置いているお茶の道具を置いた。
まるで小さなピクニックだ。
それだけだというのに、御侍さまはとてもお喜びになって、いつもよりずっと元気そうに見えた。
「御侍さま~チーちゃんの特製パイを召し上がれ。魔女の治療魔法だよ~」
私はバスケットから手作りのチーズパイを取り出し、御侍さまに差し出した。期待のあまり、リボンを結んだ尻尾が後ろで揺れる。
「こんなに優しい魔女がいるんだもの、私の体もきっとよくなるわ。」
私の作った食べ物を手に持った御侍さまは、笑顔でいつも私が言っていることを繰り返した。
まるで私に、本当に治療魔法があることを信じているかのように。
「王女殿下、オレたちも入れてくれよ。」
毎日いつも決まった時間に御侍さまのところへ来るピザも、もちろん現れた。
だけど今回は、別の食霊も一緒だった。
名前はカッサータ。
ピザと国王が教会に礼拝に行った時拾った食霊だ。
ピザは御侍さまにその髪の色と同じ金色のヒナギクを渡し、私たちの隣に座った。
カッサータの方は私たちと距離を置こうとするみたいに、ずっと傍らに立っている。
「わ、不細工なパイだな」
「ピザ、失礼ね!チーちゃんが焼いたんだよ!」
「ハハハ、やっぱりな。じゃ、いただき――」
「待った!そのままじゃなくて、こっちのソースをつけて食べるのよ~」
「え?本当~?」
「もちろん!御侍さま、ね、そうでしょ。」
私は半信半疑のピザを見て、それから傍らでずっと黙っているカッサータに目配せをした。
私は、カッサータとはピザほど親しくない。一緒にいる時間が長くないからではなく、私が何を言っても、いつでもさらりとした、同じ反応をされるからだ。
こんな相手とは何をしても仲良くはなれないと思った。
うまくやっていくにはどうすればいいのか、まるでわからない。けれど、もしかしたらピザはその橋渡しをしてくれるかもしれない。
カッサータは私からの目配せを受け取ると、御侍さまの手にある食べかけのパイを指さして言った。
「まさか、王女殿下を疑うのか?」
「……わかったよ」
御侍さまはこの時ちらりと横を見て軽く咳をして、何も言わなかった。
ピザは御侍さまが反対しておらず、さらに咳をしているのを心配してそれ以上追及してこない。
そして私の用意したチリソースをパイにつけ、一口齧った。
カッサータはすぐにピザに水を渡し、涙目になったピザは笑っている私を見た。
膨らんだ頬からはなかなか赤みが取れない。
こんなかわいい顔にはさすがの御侍さまも笑いをこらえきれず、咳と笑い声が止まなくなった。
喜んでもらおうと思ったのに、咳で目元を真っ赤に腫らした御侍さまを見て、それ以上ピザをからかうのはやめようと思った。
御侍さま……きっとお苦しいに違いない。
本当に……私に御侍さまを治す魔法があればいいのにな。
Ⅲ 隔離
ピクニックからすぐに、御侍さまの具合はますます悪くなり喀血までなさるようになった。
そうなると私もそばを離れることができない。
政務に忙しい国王が来てくださる回数も増えた。
枕元で娘の手を握り、御侍さまが幼い頃ともに過ごした思い出を語り合った。
国王は時に、若くして亡くなられた王妃についてお話なさった。だけどその度に、憂いた表情を浮かべ、御侍さまの病気を治すと約束したのに果たせていないご自身を責めてしまわれていた。
御侍さまは自分は大丈夫だからと、そんな国王を逆にお慰めになっていた。
私は窓辺に座り、日に日に疲れの色が浮かんでくる二人を、心を痛めて見ていた。
ある日、国王は大変お喜びの様子で御侍さまの部屋にいらっしゃった。
「ついにお前の治療法を見つけたぞ!」
「本当?よかった……」
「あのウェッテ先生とかおっしゃる商人の方?」
「ああ、きっと治せる技術だそうだ!」
御侍さまは長い間病床に伏せて、様々な治療法を試し『今度こそ治せる』という言葉を何度もお聞きになっていた。だからこの時も、本気で信じてはいらっしゃらなかっただろう。
だけど、この時ばかりは国王のご様子に、御侍さまもいくばくかの期待を抱かれたのではないだろうか。
国王のご期待に応えるかのように、御侍さまの体は少しよくなった。
いつも高い壁に囲まれて暮らしていた御侍さまを、私はバルコニーまで支えていき、外の景色を見せてあげた。
私までもが、そのウェッテ先生が御侍さまを治療できることを信じた。
しかし期待は長続きしなかった。
御侍さまはまたすぐに、床に伏せてしまわれた。
その晩、御侍さまの咳はいつにもまして重く、ゼーゼーという荒い呼吸が混じるようになった。
喀血した血が指の隙間から掛布団に落ちて、赤いフランネルと一つの色になった。
それから、御侍さまはベッドに倒れこんだ。
「御侍さま!御侍さま!ウェッテ先生を呼んでくるね!」
私は慌てて外へ飛び出したけれど、ウェッテ先生の居所はわからない。
私は神通力を持つと国王がおっしゃるそのお方に会ったことも、今どこにいるのかもわからない。
涙は大雨の粒と混じってぬかるむ地面に落ち、私は思い切って国王の書斎へ駆け込もうとしたけど、外の衛兵に止められた。
「陛下!国王陛下!どうか!どうか国王陛下に会わせてください!」
御侍さまは、私がいない間に容体が悪化してしまうかもしれない。私はただ、重苦しいその門に向かって声を限りに叫ぶしかなかった。
「国王陛下!御侍さまが――王女殿下が喀血なさりました!!」
固く閉ざされた門が突如開けられ、姿をお見せになった国王は数か月前とは打って変わって顔はやつれ、国王の威厳すら失くしたようなご様子だった。
けれど今の私にはそこまで考えている余裕はない。
行く手を遮る衛兵から槍を奪い取ると国王に向かって叫んだ。
「どうか……どうか御侍さまを助けてください!!」
国王の厳かなお顔に後悔の色が浮かび、ウェッテ先生を王宮に入れるよう命令を下された。
国王は私の肩を叩かれて、私に落ち着いて御侍さまのおそばへ戻るようにおっしゃったが、私はこんな状態で落ち着くことなどとてもできない。
国王は私の不安が伝わってしまったのか、歯ぎしりをしてこうおっしゃった。
「知るのが遅すぎた……」
その時、御侍さまのことしか頭になかった私には、その言葉の意味するところがまるで分からなかった。
浅はかにも、御侍さまを治す方法が本当に見つかったのだろうと思い込んでいたのだった。
Ⅳ 仲間
御侍さまはその日から、混迷状態になってしまわれた。
時々目を開けることもあったけど、意識のはっきりしている時間はどんどん短くなっていく。
私は御侍さまのおそばに控えていけど、枕元の空っぽの花瓶を見て、やたらに腹が立ってきた。
御侍さまがこんな状態なのに、お見舞いにも来ないなんて!
いつもとは違って国王は御侍さまのおそばにいらっしゃる。御侍さまは時々目を醒まし、また眠りについてしまわれる。
国王の御顔には一面にしわが刻まれ、目の周りの真っ黒な隈は見る者をぎょっとさせるほどだった。
国王は御侍さまの手を握られ、うわ言のようにこう呟かれた。
「娘よ、どうか生きておくれ。今度こそ、お前の治療法を見つけたから」
「ウェッテ先生が今に、お前を他の子供と同じように、元気にしてくださる」
「たとえピザを失うことになったとしても、お前を失いたくないんだ……」
国王の言葉に私は驚いた。
突然、御侍さまはがばりと起き上がり、立て続けに咳をされた。白いシーツにたちまち広がるどす黒い赤。
国王は傍らの私を振り切り、ご自身で御侍さまをお抱きかかえになった。
お痩せになって飛び出したその目の中には、強い光が見て取れた。
「お前たちも所詮は食霊。王女の世話も、王女を守ることもできぬ……」
国王の言葉はそこで途切れた。ピザとカッサータの行方などとても聞けない雰囲気だった。
今やあの、慈愛に満ちた国王の姿はどこにもなく、何かに取り憑かれてしまわれたかのようだった。
「私のせいだ……」
「もっと早く治療法を見つけていれば……もっと……ウェッテ先生はまだか?今日で終わりだと言っていたではないか?もしやピザが!?そうだ!あいつのせいに違いない……」
国王のお怒りはだんだん激しくなり、吐き出すお言葉もきつくなっていた。
「父上、ピザのせいでも誰のせいでもありません。父上は、私にとって最高の君主、そして最高の父上でした……ゴホゴホ……」
御侍さまの言葉に、私は何かを感じ取った。
「父上、どうかお怒りにならないで……ゴホ……父上が私や母上に向ける笑顔が、大好きでした……父上……」
御侍さまは笑って、床に座り込みすっかり涙が止まらなくなっている私を見た。
「チーズ、ピザたちとこれからも仲良くね……あなたたちと一緒にいられて、私……とても幸せだった…………」
御侍さまは笑ったままゆっくり目を閉じて、そのまま再び目を醒ますことはなかった。
「そ、そんな!どうか……どうか私を一人にしないでおくれ……娘よ、目を開けてくれ……」
国王は現実を受け止められないご様子で、御侍さまを懐にお抱きになった。
にわかに、国王は魔法にかかったかのように、立ち上がられた。
「ウェッテ先生のもとへ行く。ウェッテ先生なら、きっと……」
国王が出て行ってしまわれると、私は御侍さまの亡骸を抱きとった。いつもと変わらない優しいお顔立ちに、微笑みを浮かべていた。
「御侍さまのあの優しいお心が消えてしまわれたなんて、信じられない……」
私は御侍さまの青白い頬を撫でた。
ああ、私と御侍さまの契約もすでに消えてしまった。
「御侍さま、私の幸せも持っていかれてしまったの?」
別れの静けさは、すぐに破られた。
「おい!あっちだ!」
外からザッザという足音が聞こえて、私は御侍さまをベッドの上に寝かせると、扉に向かって走った。
その時ようやく、私は王宮に緊急事態が発生していることに気が付いたのだった。
「どうしたの?」
私はその場を通りかかった衛兵に聞いてみた。
「カール親王邸が襲撃された。当直の衛兵によるとピザとカッサータの仕業だそうだ。彼らは王宮に逃げ込み、国王陛下を殺害した。念のため、あなたも王女殿下と共にここに残りなさい」
衛兵の言葉はこの時、私の耳の中でまるで呪文のように響いた。
国王陛下が殺害された!?
まさか!ピザが国王陛下に手を下すなんて?
しかも、あの二人がカール親王邸に現れるとは!
私には何が起きたのか、まるで見当もつかなかった。
そう言えば国王はさっき、ピザを責めていらした。一体、どういうこと?
私、どうすればいいんだろう?
ピザたちのいそうな場所をくまなく探してみたけど、二人の姿はどこにもない。
部屋に戻った私は先程王宮で見つけたヒナギクを持ち、御侍さまが何より愛したその花をベッドの脇に置いた。
そうだ、私は御侍さまのそばにいるべきなのだ。
だけど、そのヒナギクを見ていたら、なぜかピザの底抜けに明るい笑顔を思い出した。
「チーズ、ピザたちとこれからも仲良くね……あなたたちと一緒にいられて、私……とても幸せだった…………」
御侍さまのお言葉が、私の中でぐるぐる回る。
ふと、ピザやカッサータたちと通ったことのある秘密の抜け道を思い出した。いつも御侍さまのそばにいた私にとって、外界に通じる唯一の道だった。
そして今、私が考えうる唯一の、ピザの潜伏先。
思い立った私は御侍さまに別れを告げ、また外へ駆けていった。
彼らの危機を知ってしまった以上、助けにいかないわけにはいかない。
何としても助け出して、国王に何があったか聞かなくちゃ。
でも、あの二人に一体何があったんだろう?
私は二人のことを、そして彼らが無事に帰ってくることを信じていた。
何が起きても、私は彼らと運命をともにする。
なぜなら私たちは、最高の仲間だから!
Ⅴ チーズ
チーズの御侍はある国の王女で、チーズと同じような長い金髪に、美しい容姿をしていたが、健康には恵まれていなかった。
病弱な王妃は王女を出産後、出血過多でこの世を去った。
しかしこうして生まれた王女は、母親の体質を受け継いでしまっていた。
生まれた後も体が弱かった王女を、国王は幼いうちに天に召されてしまうかと危惧した。
そこで国王は王女を特に可愛がり、すべてを与えた。
しかし国王は政務で忙しかったので、仲間として食霊を王女に与えた。
幸い王女は体は弱かったものの、料理御侍となれる霊力は備えていた。
チーズはこうして、この世界にやってきた。
耳をパタパタさせるこの食霊を始めて見た時、王女は嬉しさのあまり手を伸ばした。
「私のお友達になってくれるのチーズ?」
「一緒に遊ぼう、御侍さま。」
チーズはもちろん、体の弱い王女とは外に遊びに行けないことを知っていた。
それでも、チーズはいつも王女と一緒にいた。
二人はすでに、友達だったから。
さらに国王の食霊・ピザもよく王女のもとを訪れて、王宮の外で起きた面白い話を聞かせてくれた。
チーズはそんな生活に、幸せを感じていた。
後に、カッサータという食霊もやって来た。
王女はチーズが本当は外へ行きたがっているのを知っていた。チーズは王女から、カッサータとピザと王宮を抜け出して遊びに行くことを許された。
カッサータが用心棒として二人を守ってくれたお陰だろう。
出かけるたびに、彼らは「戦利品」を王女に持ち帰り、出会った人や事件について報告した。
三人の冒険からピザの失敗に至るまで、王女はチーズの話を嬉しそうに聞いていた。
チーズは王女、ピザ、カッサータとの四人の楽しい時間がずっと続くと思っていた。
王女の病気が治ったら、お忍びで街へ、あるいは外国へも連れて行ってあげることを夢見ていた。
だが願いとは裏腹に、国王の努力も空しく、王女は日に日に弱っていく。ようやく、国王は王女を治療できると自称する男を見つけてきた。
だがこれは、その後の政変の始まりにすぎなかった。
ピザとカッサータは謎の失踪を遂げ、国王陛下は人が変わったようになってしまった。
王女の命が尽きた日が、すべての始まりとなった。
貴族が反乱を起こし、国王は愛娘を失った哀しみと実の弟に裏切られたショックから自害した。
王宮は混乱に包まれていた。
貴族は真相が暴かれるのを恐れ、罪をすべて国王の最も信頼していた食霊に擦り付けた。
王女からの言葉が信念となって、チーズは王女の部屋から飛び出した。
チーズがやって来たのは、王宮内の誰も知らない秘密の抜け道。ピザやカッサータとかくれんぼをした時に発見した道だ。その存在を知っているのは、彼ら三人だけだった。
それは彼ら三人だけの秘密。
そして、今となってはチーズに残された唯一の機会だった。
静まり返った抜け道、真っ暗闇に少女の緊張は頂点に達する。
御侍に続き、唯一の仲間たちもいなくなってしまうのだろうか?そこまで思うと、チーズは自分を抱きしめた。
静まり返った闇の中に、自分の泣き声だけが聞こえる。
どれだけの時が過ぎただろう。懐かしい声が聞こえた。
「チーズ?」
顔を上げると、青白い顔をしたピザと顔じゅう血だらけの#iカッサータがいた。
三人の再会を喜ぶ間もなく、チーズの目には涙があふれた。
「二人とも、一体どうしたの!?」
「チーズ、な…泣くなよ……」
「誰が!二人のために泣いているんじゃないからね!」
チーズはむきになって自分の涙を拭った。
「カッサータ、ひどい怪我!大丈夫?」
「大丈夫、見た目ほど大したことないぜ、ハハ……」
「本当にカール親王邸に行ったの?国王陛下がお亡くなりになったのは……」
「俺たち……」
カッサータは何か言おうとしたが、黙り込んだピザの方を見やった。
「二人とも何をしていたの!?国王陛下と御侍さまは二人とも……先程お亡くなりになったのに……」
ピザは相変わらず黙っている。
国王との契約がなくなってしまった彼は、チーズの言うことが本当だと知っていた。
カッサータは落ち込むピザを見やり、チーズの頭を軽く撫でて言った。
「うっかり変な場所に現れちゃっただけさ。この怪我だってその時に」
「本当?」
「国王を殺してなんていない、信じてくれ。」
その言葉にチーズは安心して、涙がどっと溢れた。
ピザの胸の中に飛び込み、思い切り泣く。
そして泣き止むと二人に何があったのか問いただした。
だがチーズの性格を知っているピザは質問の隙を与えず、逆にチーズが落ち着くのを待ってこう聞いた。
「どうしてここに来たんだ?」
「王女……王女に、そう言われたの」
「じゃ、これからどうするカッサータ?」
「ここを離れよう」
「え!?」
「ここにはもういられないと思うんだ……」
「じゃ、いつかの約束みたいに、旅に出よう!チーズは?」
「い……一緒に行く!」
ピザとカッサータは視線を合わせ、お互いの意思を確かめ合った。ピザはチーズの背中を叩き、涙を拭いてやった。
「泣くな、チーズ、みんなで行こう!」
チーズは何か言おうとしたが、ピザの声が嗚咽でかき消されたので、ただ力強く頷いた。
何があっても、この二人とは二度と離れない。
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