クレープ・エピソード
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クレープのエピソード
お姫様のようにかわいい少女。普段はお高くとまっていて、扇子で口元を隠しながら笑う。セール中のショップではいつも彼女の姿を見かける。謎めいた行動が周りの好奇心をくすぐる。
Ⅰ 割引ショップ
「そろそろ休んだらどうだ?助かっちゃいるけど、体がもたなくなるぞ」
「ふふん。これくらい朝飯前よ」
「疲れてからじゃ遅いんだよ。ほら、前回の任務報酬だ」
「確かに受け取った!それじゃ、急用があるの。もう行くわ!」
「あ、ああ。また今度な」
わたくしは報酬を握りしめ、今すぐ飛び跳ねたい衝動を抑え「サタンカフェ」を出た。今のわたくしが向かうべきはただひとつ!そう、激安特売セール!こうしちゃいられないわ、急がなくちゃ!
「あ~よかった~!まだ残ってる」
セール会場は戦場だ。戦場でゆっくりと品定めしている余裕はない。目星のアイテムは事前に決め、一目散に奪い合う。欲張ることも禁物だ。わたくしはスカートを手に取り、鏡の前で合わせた。
人間の世界には、このわたくしの高貴な身分を知らしめるのに相応しい華麗な衣服がたくさんある。
お金はいくらあっても足りない。
幸い「サタンカフェ」でマスターからもらえる任務報酬はかなり高額。だからそこそこ贅沢な暮らしをしても問題ない。
ただ深刻な問題があった。身にしみついたケチな倹約習慣の影響はあまりにも大きく、特売やセールと聞けば体がうずうずして、いてもたってもいられなくなるのだ。
……このことだけは「サタンカフェ」の連中に知られるわけにはいかない。
このわたくしの日用品のほとんどが特売セールで手に入れたものだとばれたら、間違いなく笑いものだ。そもそも「貧乏」がどれほどの恐怖なのか、連中はまったくわかっていない。どいつもこいつも貴族のような生活。わたくしはそんな連中に引けを取るわけにはいかないのよ、いろんな意味でね。
そしていつも憧れの目でわたくしを見ている、しつこくてうるさい食霊にもばれてはいけない!
Ⅱ 突発の出来事
会いたくないと思うほど、会ってしまうもの。いっぱいになった買い物かごを眺め、至福のひとときを過ごしていると、何者かが突然わたくしに抱きついた。
「ねね、マカロンすっごくうれしい!クレープもここで買い物してたの?」
その瞬間、身体が硬直し、わたくしの頭脳が超高速で回転を始めた。目の前の元気すぎる生き物が何やら騒いでいるがそれどころではない。
質問の答え、完璧な答えを……
秘密は絶対に、誰にも知られるわけにはいかない…!
一秒、二秒、三秒。
頭上に何やら煙がのぼっている気がした。
システムダウン。
脳がもうどうしようもないと認定し、放棄した。
あいつはまだわたくしの名前を呼び続けている。わたくしの目の前はもう真っ白だ。あ、すべてが終わった。これまで作り上げてきた高貴なクレープ像が、この子に抱かせてきたイメージが、何もかもが終わった。
わたくしはそっと目を閉じた。この瞬間、きっとわたくしは絶望的な表情をしていただろう。
「クレープーーー!!!」
Ⅲ 悪夢に憑りつかれる
ここは何もない空間。重力も感じられない。
体は空中に浮いている。
「どこ?」
まだ現状を把握していないわたくしは、突然下からの強い力に捕らえられ墜落を始め、そしてまた突然に止まった。恐怖で閉じていた目を開けると、周りには見慣れた景色が広がっていた。
積まれた石でできた部屋、不毛の土地、酷くやせている住民。そう、わたくしは思い出した。ここはわたくしがこの世界に召喚された時、わたくしの御侍が住んでいたところだ。
わたくしがこの世界に召喚された年、もともと肥沃でないあの地域に飢饉が起こった。苦しんでいた人たちは金がなく、他の国から物資の支援を要請することもできない。見えるところは石ばかりで、草木など一つも存在しない。
結局、人々は生きたいという思いに負け、欲望が体を操ることをゆるし、みんな血を啜る野獣と化し、この土地で唯一食えるものを選んだ。
そう、人を食うのだ。
あの時のわたくしはまだ力弱く、自分の御侍様を守るだけで精一杯だったので惨劇の発生を止めることができなかった。相次ぐ惨劇を見たわたくしは一つ悟った。
「わたくしはどうやって召喚されたのかしら?」
「わたくしの存在自体が、ここに食べ物がある証明では?」
わたくしは自分の御侍様に視線を向けると、もともと優しい顔が今は化け物のようだ。そして、その化け物はわたくしの質問に答えた。
「余計なことを聞くんじゃない!食料がもうこれぐらいしかない、他の人に分けてたまるか!」
だけど、地下倉庫の中に数袋の小麦粉があるんじゃ?
御侍様の当たり前のような発言に驚き、あまりに怖くて何も言えなかった。次の瞬間、外の「野獣たち」は突然家に押し入り、御侍さまを守るべきわたくしは凍ったように動かなくなった。
「た……助けて……わあああ!!!!!」
温かい液体がわたくしの体に飛び付いた気がした。
だけどもうどうでもいい。ただ早くここから逃げたい。これしか考えられないわたくしは家を出て狂ったように走り、昼も夜も問わずに走り、道はどこへ続くかも知らずに走った。
あの時のわたくしは、一つだけ分かっていることがあった。それはあそこから逃げ「貧乏」から逃げることだった。
Ⅳ 挽回策
うるさいわね、このわたくしを呼ぶのはだれ?
何より泣き声もうるさい。
「死なないで!マカロンまだ一緒に遊びたいよ、ううう!!!!」
お願いだから泣くのをやめて、死んでないわよ。
かろうじて目を開けたわたくしは、自分が道端のベンチに横になっていることに気付いた。そしてあのチビはわたくしの体に腹ばいになっていて大声で泣き叫んでいる。なるほど、さっき見たのは夢だったか。
「ほら、そろそろ起きて頂戴」
わたくしはマカロンの頭を軽く叩いてみたら、マカロンは頭を上げて涙目で私を見て、もっとすごい勢いで泣いた。
「わああ!!クレープが起きたーー!!マカロン、マカロンはね……ううう」
「もう泣かないで。わたくしはもう大丈夫よ。あの、あなた……さっき見ましたわよね?」
「見た?何を?ううう」
「と、特売セールよ!さっきセールで私を見たでしょ!」
「ううう、全部マカロンのせい。マカロンがクレープに抱きついて気絶させちゃった。ごめんなさい、ううううう」
どういうこと?ううん……どうやらこのチビは、自分が急に抱きついたせいで気絶したと思ってるらしい。
まあいっか。そういうことにしておこう。
「もう泣かないの。あなたに気絶させられたことをチャラにするわ。ただしセールでわたくしに会ったことは秘密よ」
よかった。マカロンを黙らせることができるのは非常に好都合。鈍感なやつだけど、信じてみてもいい。
「ううう。はい。マカロン言うとおりにする。ううう」
「はいはい、もう許したから泣かないで」
「うう、はい、ううう」
ことはうまく収まり、すべてはわたくしの思った通りに…のはずが数日後、任務をもらいに「サタンカフェ」へ行くと、その話題でもちきりだった。
「ハハハハハ、クレープが特売好きかあ、意外だな」
「……好きなわけないでしょ」
「でもマカロンが証人だもんな」
「……マカロンがなんて言ってたのよ」
「いや、こっちから聞いたんだよ。クレープの新しい服はどこで買ったのかなって、そうしたら特売だって……」
まためまいがやってきた。
「マカロン!!!!!!!!」
Ⅴ クレープ
グルイラオの辺境の地に位置する小さな国。国家の財政状況が厳しく、さらに辺鄙な土地にあることにより、王暦300年に全国に及ぶ飢饉が起こった。
土地は不毛となり、険しい山道を人が渡れない。国王は国を捨てて逃げ出し、逃亡の途中で死んだ。捨てられた国民は飢餓の囚人となり、生きたいという意志に支配され、他人を犠牲にして生きることになった。
飢饉が蔓延していた間、ある人があらかじめ地下倉庫に蓄積していた小麦粉で新しい食べ物――クレープを発明した。そして、この人は偶然に食霊を召喚する力を持った。
こうしてこの何もない土地で、クレープが誕生した。弱いが正義感に溢れるこの食霊は、自分の御侍様を他人の襲撃から守ると同時に、この国で起きている悲劇に苦しんでいる。
ある日、彼女は自分の御侍様が隠していた食糧を発見し、あまりに驚いて手元が狂い、自分の御侍を他人に食べさせることになってしまった。
契約の縛りから逃げたクレープは、全力をかけて地獄のような国から逃げ出した。放浪中のクレープは後にほかの料理御侍に発見され、新たな契約を結んだ。
「クレープ」と名付けられる食べ物はあっという間に世界中で広まり、クレープという名を持つ食霊も裕福で優雅な生活をするようになった。
しかし彼女は一度もかつての悲劇を忘れたことがなかった。「貧乏」の概念は彼女の魂の最奥部に刻まれた。この世界への恐れを隠すため、彼女は華麗な姿と傲慢な口調で壁を建てて自分を守るようにしたのである。
王暦320年、彼女はある御侍から与えられた任務中に傷を負って路辺のメールボックスのそばで気を失い、偶然に通りかかった食霊に救われ、深い森に位置するカフェに連れて行かれた。
今後の様々な出会いを通じ、彼女は内心の恐怖に対抗できる真の力を見つけることになるだろう。
関連キャラ
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