うどん・エピソード
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うどんのエピソード
活発で朗らかで、やんちゃなところもある。
大雑把で無神経、たまに場の空気を読まずに言いたいことだけを言う。そんな性格なので、たまに人から恨みを買ってしまうことがあるかも知れない。呆れるほどのおてんば娘だが、その無邪気な様子を見ていると、誰も本気で嫌うことはできない。
Ⅰ 不安
あたしはうどん、紅葉の館で仕事をしている。
ここではもう結構長く仕事をしていたが、ここに来る客はあたしが町中仕事してた時と比べてそう多くない、基本常連さんばかりだ。
たぶん館の位置のせいだろう。山森の深く、人があまり来ないこの場所は、危険な言い伝えがいくつもあって、往来する客商だけがここで足を休める。
「いらっしゃいませ~お客様、荷物はあたしに任せて、ぜんぜん重くないよ!」
あたしはいつも真っ先に玄関に走って客を迎え入れて荷物を運ぶ、とある鈍くさい天ぷらの手伝いなどぜんぜんいらない。
それに、今回の客はあたしをここに紹介したあの商人さんなんだから。
「うどんは相変わらず元気だな、いつもいきいきとして輝いているようだ」
「あたしがこの館で暮らせたのは全部お客様のおかげよ~でもここはいつも閑散としていて、そのうち潰れてしまうんじゃないかって思ってしまうよ」
「コホン」
空気が一瞬だけ冷めたような気がして、梅茶漬けは咳払いをしただけ、寿司は顔を別の方向に向かせてこっちを見ない、味噌汁は拙僧には関係ないみたいな顔してるし、すき焼きだけが微笑みながら扇を煽っている。
「うどんは紅葉の館に潰れてほしいのか?」
「もちろん違うよ!せっかくここで落ち着いたのに!」
「なら早くお客様を部屋に連れてって、荷物も重いだろ?」
「はいはい~今行く~お客様こっちへどうぞ~」
「お客様~遠路遥々お疲れ様~今夜ゆっくり温泉に入って、疲れを落とすといいよ~」
お客様を部屋に連れて行くと、彼はドアを閉めるなり私の近況を聞いてきた。
「うどん自身はいつも通りだけど、仲間たちとの関係もいつも通りなのか?」
「う……うん。あたしは仲良くしようと努力したよ!成果もそれなりにあったはず!」
「そう?そうだといいけど、君の御侍と同じようになるなよ……」
「安心して、あたしははぶられたりはしないさ!お話はここまで、必要なものは全部部屋に用意した、足りないものがあればいつでも呼んで~」
「はいはい。これだけは覚えてくれ、きっと君と友達になりたい人がいるさ、落ち込むなよ」
「は~い、わかってるよ~~お休み!」
部屋を出て、あたしは息をついた。
今になっても、御侍の話が出ると辛くなってしまう。でも悲しみはお客様に見せるわけにはいかない!
内気で臆病者の御侍は爪弾きされて、ストレスがたまって最後自殺にまで至った。
一人になってしまったあたしは知り合いのお客さんの紹介で紅葉の館にやってきて、ようやく生活を落ち着かせられた。
でも……本当に、あたしに友達ができるかな?
さっきのことを思い出した。みんなあたしの話で気まずい空気になったと思うと、思わず気が沈んでしまった。
みんなとはそれほど仲がいい訳ではないけど、あたしは同じ轍を踏むことはないだろう……たぶん。
Ⅱ 納豆
店に僧侶風の食霊がやってきた。名前は納豆。
僧侶じゃないのになぜか僧衣を着ている。毎日廊下の隅っこに座って、冊子を持って何かを書いている。
彼はほとんど自ら他人と話したりしない、話しかけられても照れてるみたいに小声で答えるだけ。
とにかく彼はあたしとは真逆で、とても内気な人だ。
彼が僧侶じゃないって知ってるのは、彼が来たばかりの頃、あたしが飲食に注意する必要があるのか聞いたら、彼自身が教えてくれた。
「僧侶じゃないのに僧衣を着ているのは、人から布施をせしめるためなの?」
あたしの話を聞いてすぐ顔色を変えたから、悪いことを言ってしまったと自覚させられて、すぐに謝った。
「ごめんなさい!」
「ごめんなさい!」
二人の声がだぶってしまった。呆然と見つめあうと、彼が先に口を開いた。
「あの……誤解させてしまってごめんなさい、僕は……」
「ああ、謝らないで、あたしが悪いの!何か食べたいの、あたしが用意してあげるから!」
「じゃ……菜食でお願い」
「よ、よし!すぐに!」
あたしは慌てて走って行ったが、曲がり角で足を滑らせて思いっきり転んでしまった。
「だ、大丈夫!?」
その照れ屋さんはすぐに筆を下ろして駆け寄ってあたしを助け起こした。
「いてて……大丈夫!安心して、あたし丈夫だから!」
「かすり傷がないか確認すると、あたしは安心させようと自分の胸をドンとした。
「心配しなくていいから!」
まだ心配しているような様子だから、彼の肩を叩いてリラックスさせようとした。
この人はいつも一人で旅をしていたなら、きっとさびしかったでしょう。
あたしの話を聞いて逆に謝ってくる人ははじめてだ、もしかしたら過去に何かあったかもしれない。
その後、お客様より、あたしは彼のことの方を多く気に掛けた。
夜休む時間、あたしが木の盆を抱えて廊下を渡るとき、彼が何かを考えてる風に柱に寄りかかっているのを見つけて、思いっきりその肩を叩いた。彼はびっくりして肩を縮ませた。
「まだここにいたの?」
「ちょ……ちょっと考え事を」
「考え事?温泉に浸かりながらすればよかったじゃない――ここにきて数日、一度も温泉に入ったことがないみたいだし、ここの一押しよ温泉は!でも混浴だから、時間には気をつけてね。札を掛けているから、間違っても女の子の時間で入らないでね~」
「……」
「え?何故お面を被るの?もしかして照れてる?」
「……」
「やっぱり照れてるでしょ!何よ、本物の僧侶じゃないし、女の子とお話しするのも駄目なの?」
肩がますます縮んでいくのを見て、あたしは思わず噴出した。
やはりこの人とお話しするのは気楽でいい……
館のほかの人たちともこのようにお話ができればいいのに。
Ⅲ 物語
その後、あたしは納豆とますます仲良くなっていった。
これはあたしの錯覚などではない!
だって今彼は、ますますあたしに近づいてこようとしている!
最初納豆は一人で隅っこで書いてたけど、今はあたしの後ろについてくるようになった。
裏庭で服を洗っていても、ロビーで客を持て成していても、彼はいつもあたしの近くにいた。思い出すたびに、彼は常にあたしの視界が届く場所にいた。
それを聞くと、彼は自分が物語を記録していたとあたしに答えた。
納豆は言う、彼は物語を記録するためにこの紅葉の館にやってきた。
この山には千年の歴史がある、それゆえに無数の伝説がある。往来する客商も彼らの見聞をここに持ってくる。
納豆だけでなく、あたしもこういう物語が好きだ。
あたしはただちょっと残念に思った。本当にあたしと仲良くしたいからじゃなかったの?
その時のあたしは気付いていなかった、物語を記録するつもりなら、何故あたしが仕事をしてた時もついてくるのか。
あたしかその事を知らずの内に口にしたのか、それとも彼に心を読まれたのか、彼は木製のお面を被って、小声で言ってくれた。
「僕はただきみのそばに居たい……きみはいい人だから」
……あたしのそばに居たいなんて、誰にも言われたことがなかった。
他の人たちは、あたしが話した後いつもどう話を繋げばいいのかわからず、自然とあたしと一緒に居たくなくなった。
あたしは感激のあまり、思いっきり彼を抱きしめて彼の頭を自分の胸に押し付けた。でもお面が痛いから、代わりに彼の肩を抱き締めた。
「うわー、なんていい人なんだ……お客様をやめてあたしの友達になろう」
「は、はい!」
そんなこんなで、あたしは初めて何を言っても気にしない友達ができた。
あたしが間違ったことを言っても彼は怒らない、他の人たちのように私を避けたりもしない。
あたしが失礼なことを言ったら、逆に彼が先に謝ってくれた後、そういうことを言ってはならないとあたしを諭す。
もし同じ言葉をあたしが他の人に言ったら、彼らは気まずくなるだけだった。
納豆のおかげであたしは、何があたしが他人から隔てられている原因なのかわかった。
紅葉の館の仲間たちは、あたし話し方に問題があるからあたしを避けた。あたしのことが嫌いというわけではなかった。
最もわかりやすい証拠は、あたしが困ってたとき、いつも誰かがあたしを助けてくれた。
あるとき、あたしが重いバケツを抱えて階段を下りていたら寿司に注意された、床を拭いたばかりで滑るから気をつけろって。
あたしは納豆の言葉を聞きながら以前の出来事を思い出してみた、本当に彼の言った通りだった。
紅葉の館の仲間たちと仲良くなるために、あたしは話し方に気をつけなけばならない。あたしは一人で隠れるんじゃなくて、自分を変えるべきと思った。
納豆のような友達がそばに居ると思うと、あたしはきっと御侍様のように孤立することはないと信じた。
そしてあたしは彼という友達をより大切に思えた。
Ⅳ 冊子
納豆との付き合いで、あたしは彼が非常に繊細な人だってことが分かった。
彼はめったに嬉しい表情を見せないけれど、照れるときや嬉しいときは必ずお面を被る。
そして悲しいときは、何も言わずとも彼の沈んだ気持ちがはっきりと感じ取れる。
徐々に、彼に注意されなくても、あたしは自分の言動に気をつけるようになった。
彼という友人が大切で傷つけたくないからだけじゃなく、みんなと一緒に居るとき、彼らを傷つけるようなことを言いたくないから。
あたしはまだ偶に間違ったりするけど、言ってはいけないこととやってはいけないことがあると理解した。
例えば、あたしはもう他人の失敗を笑ったりしなかった。
館がちょっと寂しいと言われたとき、もうすぐ潰れるとかも、もう言わなかった。
皆で庭でスイカ割りをするとき、あたしはもう天ぷらが割ったスイカが不細工で食べられないとも言わなかった。
納豆が自分の書いた大事な物語を全然見せてくれなくても、あたしは強引に「見せて見せて」と騒いだりしなかった。
徐々に、皆があたしのせいで気まずくなる回数が減った。
納豆は偶にみんなの話題に参加したりした。
あたしが何か間違ったことを言ったとしても、納豆がフォローしてくれて、場が冷めることもなくなった。
すべてがいい方向に向いている。
あたしは自分がようやく紅葉の館の一員になりつつあると感じた。
けど、別れはいつも突然やってくる。
この旅館では、別れはいつものことだけど、納豆との別れはあたしに抑えきれない悲しみを感じさせた。
納豆が去る前日、彼はわざわざあたしに礼を言いに来た。そのとき、彼は新しい物語を探しに出発するつもりとあたしに教えた。
その後、彼はあたしに一冊の冊子を渡した。これは紅葉の館で記録した物語と。
「い、いらない!ずっと見せてくれなかった大事なものでしょう?何であたしにくれるの?」
別れを告げられた衝撃で、あたしは悲しくなって泣きそうになった。
出発する前日まで何も教えてくれなかったなんて。あたしと一緒に居たいと言ったのに、あたしと友達になるって言ったのにあたしは彼がもうすぐここを出ることも知らなかった。
彼の大切なものなんて要らない!彼がここに居ることだけがあたしの望みなんだ!
でも、それを言うわけにはいかない。友達なんだから、彼を困らせることはできない。
これは納豆が教えてくれたことだ。
そう思って、涙がさらに脆くなってしまった。
突然の涙に納豆はうろたえたけど、それでも彼は冊子をあたしの手に置いた。
「これは僕がうどんのために記録したものなんだから、仕上げる前に見せるわけにはいかなかった!」
納豆はあたしよりずっと小さい、あたしはいつも彼を弟みたいに思って世話をしてきた。でも今は逆に彼の世話になってしまったような気がした。
「お願い、これを受け取ってくれ。これはきみに見せてこそ意味があるんだから」
だから、あたしは冊子を受け取った。
でも、あたしはふてくされて、ずっとそれを読んでいなかった。あたしはこの山の物語なんて知りたくなかった。
それはあたし友達をもたらし、最終的にあたしの友達に離れる決意をさせたから。
ある日、あたしが部屋の掃除をしてたとき、その何処にしまってたかずっと忘れてた冊子が出てきた。その中に記されていたのは、皆の目に映ってたあたしと、彼らが本当にあたしに言いたかった言葉だった。
あたしがしたことはすべて、皆が見ててくれた。
このとき、あたしようやく納豆の言ってた「意味」がなんなのかがわかった。
――本当は、あたしの周りに居る皆全員があたしの友達だった。
Ⅴ うどん
うどんは活発で情熱的な女の子、これは彼女を知るすべての人間が認めたこと。けど彼女が可愛いかどうかは、皆の意見が違った。
わざとじゃないと皆わかってるけど、うどんはいつも気まずくなるようなことばかり言ってしまう。
「天ぷらのスイカは不細工すぎ。こんなの誰も食べたくないでしょ!」
「もしこんな山奥じゃなかったら、味噌汁のような花坊主はきっといやらしい日々を送ってそうだよね」
「梅茶漬けは……」
このような嫌われそうなことを、うどんは全員に言ったことがある。お客様にすら、顔色が悪いのは運が悪いなのかと聞いたりした。
梅茶漬けは彼女に報復するために、からしを彼女のうどんに混ぜた。
まさか通りすがりの天ぷらが食べたいといったから、うどんがうどんを天ぷらにあげた。
結果、天ぷらがからしにやられ、うどんは彼に水を与え、残ったうどんに手を付けなかった。
それから梅茶漬けは報復に対するやる気がなくなった。
口を開けない限り、うどんは本当に良い女の子だ。いつも真っ先に掃除をする、元気な様子は他人に活力をあげる。
このため、皆うどんと一緒に仕事をするが、話しかけたりはしなかった。
性格が大雑把なうどんは、最初気づいていなかった。でもその後少しずつ違和感を覚えた。納豆が現れた後、彼女はようやく問題に気付いた。
その過程で、うどんは御侍が亡くなったときのような不安を覚えた。
だから納豆の優しさと寛容は、彼女を安心させた。彼女は自分のせいで彼を傷つけたくなかった。
そして、いつも一人で旅行していた納豆は、うどんの関心とその情熱で、無意識のうちに彼女のそばに居たくなっただけじゃなく、彼女の影響を受けるようになった。
彼は自ら人と話さないから、うどんのためにフォローをするように変わった。最後納豆は自ら進んで他人に話しかけるようになった。これは全部うどんが知らなかったことだ。
うどんは納豆がただ自分と一緒に居たいだけと思ってたが、納豆が彼女の気づかないうちに彼の隅っこから出てきた。
納豆は、常に彼が記録するものに意味があると思っていた。
今回、納豆は聞いたことを記録しただけでなく、初めて自発的に他人にうどんのことをどう思ってるかを尋ねた。
思った通り、紅葉の館の仲間たちは皆うどんが情熱的ないい娘と思ってた。偶におっちょこちょいなところも可愛らしい――ただ彼女の口から出た言葉を思うと、どうしようもない気持ちになってしまう。
しかし、最近のうどんは何か頑張ってるようで、以前のような間違いをしたら、すぐに謝罪もする。
梅茶漬けでさえ、うどんの頑張り様をみて思うところがあった。うどんがこのように保っていけば、彼女ももう報復などしないだろう。
後でそれを読んだうどんは、冊子を抱いて大泣きした。涙のせいで字が融けてしまったと気付いたら、彼女は冊子を放して、最後に納豆が自分に残した言葉を読んだ。
納豆は、うどんに感謝していた。うどんは初めて彼と友達になりたい人だった。
納豆は彼女のことを大切に思ってた。それはうどんの彼に対する期待にも劣らなかった。
彼はうどんを助けるのも、うどんが彼を自ら他人に感情を表せられるように助けてくれたから。
最後納豆は彼女という友達を決して忘れないと書いた。
彼はきっともう一度紅葉の館を訪れて、今度はうどんに彼の物語を語ろう。
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