ローストターキー・エピソード
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ローストターキーのエピソード
まだまだ子供だが強がり。頑張って頼れる王者になりたい。
強がっている様子がエッグノックのからかいの的になっている。
Ⅰ相応しい王
僕は煌びやかな宮殿で召喚された。僕の御侍はこの宮殿の主のたった一人の子供──つまりこの国のたった一人の皇太子だ。
王妃は早くに亡くなったため、多くの子供を残すことができなかった。そして王妃を深く愛していた国王陛下も新たに妻を娶らなかった。
その陛下の隣で、我慢できず僕に手を振っている男の子が僕の守るべき存在だ。
しかしあの時の僕は、僕の御侍と同じように未熟で甘かった。
僕の炎は極めて強いが、他の食霊のように安定していない。
僕は陛下に自分の子供のように扱われ、御侍と共にとても良い待遇を受けてきた。
僕と御侍は、食霊と御侍の関係というよりまるで兄弟みたいだった。
陛下はよく、遠くで僕たちが遊んでいるのを眺め、僕と御侍が仲良くなっていくことをとても喜んでいた。
大臣たちは、僕がやがて御侍の地位と財産を奪いかねないと進言したけど、陛下は彼らの「予言」を聞いても僕に対する態度を変えたりはしなかった。むしろに大臣たちを宥めて事なきを得た。
ある日の夜。御侍が1日の勉強で疲れ眠りについた後、僕は国王陛下に皇宮の1番高いところに呼ばれた。
彼が窓を開けると、点滅する灯火に飾られているこの土地はとても素晴らしく見えた。
彼はその美しい土地を指して僕にこう言った。
「この土地はいずれ君たちが負うべき責任になる。君には私の子供を守ってきたように、この土地も守ってほしい。君たちはやがてこの土地の王になる。この土地の繁栄は君たちの肩に掛かっている。私と、私の子供はこの土地を長く守っていくことができないかもしれない。しかし、君は私達よりずっと長い時間を有している。だから私たちに代わってこの土地を守ってほしい」
国王陛下の表情を見て、僕は聞くつもりだった質問を飲み込んだ。
この時僕は決めた。決して彼の信頼と期待を裏切らないと。
時間が少しずつ経っていく。より多くの事を学ぶ時間は、まだたくさんあると僕は思っていたが、国王陛下は何の前触れもなく倒れた。
僕は後継者に適任な守護者ではなかった。
皇太子も相応しい後継者ではなかった。
皇太子の食霊として、恐ろしい堕神との戦闘にそれほど頻繁に参加したわけではない。でも数回の戦闘の中で、僕がうまく炎を起こせなかったせいで危うく御侍が傷つけられてしまうこともまばらにあった。
皇太子である御侍も、父上のような強い手腕がなく、ギリギリ国の平和を維持するだけで精一杯だった。
不適任な僕達は、二人の力を合わせて、一人の王になろうと努力すると決めた。
突如やってきた重責が、御侍のか弱い肩に降りかかった。
しかしこんな重責だからこそ、僕達に決心をさせた。
僕たちは必ず成長し、陛下の期待に答え僕たちの国を守っていく。
まだ未熟な僕達は、互いに最も頼れる相棒になった。
その時、僕達にはもう躊躇う余裕はなかった。
思いもよらない困難が相次ぎとやってきて、御侍の顔から笑みが徐々に消えていった。
僕も色々と手伝おうと試みた。
しかし大臣たちに、時に真面目に、時に冗談めいた質問をされても、僕たちはうまく答えることができなかった。
そのせいで僕たちに期待を抱いている者たちを失望させてしまった。
そして僕たち自身も、自らに失望してしまった。
Ⅱ選択
成長の過程は、長く困難に満ちている。
でも幸いなことに、たくさんの人々が助けてくれたのでそれほど苦しんではいなかった。
御侍には仲のいい友人がいた。その人は御侍よりいくつか年上の前国王陛下の兄の一人息子だ。
御侍にとって彼はいとこに当たる存在だ。
御侍と共に育ってきた彼は、御侍ととても親しかった。例え彼が王城の守備を掌握し、陛下の重臣になっても、2人は君主と臣下という立場など気にしなかった。
御侍と僕が難題に困っている時、いつも彼の知恵を頼った。
彼は女の子の機嫌取りを除けば、とても聡明な人だと言わざるを得ない。
彼には御侍と僕にない決断力が備わっていて、僕たちより多くの経験を持っている。
僕たちより彼の方が王に相応しいかもしれないと、二人きりの時、僕たちはよく話し合った。
女の子の問題に関しては、きっと彼の女の子の機嫌取りの才能が全部彼の食霊に移ったのだと御侍も僕も思っていた。
彼の食霊の名前はエッグノッグという。彼とまったく違い、意地悪なクソ野郎だ。
エッグノックはいつもにこにこしていて、王宮に来る度に侍女のお姉さん達はざわつく。
しかしその温和で人畜無害な外見の下には、悪魔のような魂が隠されている。
なぜか知らないが、エッグノッグはいつも僕にちょっかいを出してくる。
僕が彼の御侍と一緒に重要な仕事に従事している時、彼はいつも僕のそばに寄ってきて、頬をつついたり髪を引っ張ったりしていたずらをする。
ある日、僕が御侍の書斎に入ると、そこには一人物腰が穏やかな女性がいた。
御侍の話によると、彼女は伯爵夫人らしい。
御侍が言うに、御侍の母親は御侍がまだ幼い頃に病死したため、伯爵夫人は彼の母親代わりをしてくれていたと言う。
彼女はとてもやさしくて端正で、和やかで親しみやすい。
御侍が困難に阻まれて落ち込んでいるとき、彼女はいつも自分なりの方法で御侍を励ました。
彼女は夫を失っただけでなく、貧欲な親戚たちにも悩まされて、それに加え子供まで失った。数多な不幸に見舞われた彼女は、それでも頑張って前向きに生きている。
これほど完璧な女性なのに、そばにはとても恐ろしい食霊がいる。
彼は伯爵夫人にブラッディマリーと呼ばれていて、皮膚が異常に青白く、いつも怠くて眠そうなやつだ。
彼の体にはいつもある種の気配が見え隠れしている。僕が毎回それを見極めようと感覚を澄ませても、その気持ち悪い気配はまるで錯覚のように消えた。
恐ろしくて近づきたくない気配だ。
でも他の人々は何も感じられないようで、御侍ですらそれは錯覚だと何度も僕を説き伏せようとした。
伯爵夫人の食霊は、1人でも高等堕神を処理できるほどに強い。
もしかしたら僕はただその強さを危険だと認識してしまっただけかもしれない。でも僕はどうやっても彼に対する警戒と敵意を和らげることができない。
僕の全身の神経が、そいつは危険だと訴えてくる。
ブラッディマリーも僕の警戒に気づいたのかもしれない。彼はふざけるような笑みを浮かべて僕の前にやってきた。
僕が戸惑って後ろに退こうとすると、誰かにぶつかって止められた。
後ろにいるのはエッグノッグだ。彼はまったく動揺のない視線をブラッディマリーに向けている。いつもの温和そうな笑顔だが、今は底が見えない。
ブラッディマリーはエッグノッグに怪しい笑みを見せ、すぐに立ち去った。
この時、エッグノッグを見て僕は思った。悪ふざけを除けばこいつは案外いいやつかもしれないと。
このような関係は長く続いた。伯爵夫人と御侍との、ある談話まで。
その時、僕は外の土砂降りに注意が散っていたが、御侍は助けを求めてきた。
「ローストターキー……僕はどうすれば……」
陛下が倒れた後、御侍はよく苦悩の表情を見せる。でもこんなに心細くて崩壊寸前の表情はなかった。
「伯爵夫人が……彼の汚職と反逆の証拠を見つけたと……」
誰かははっきりと言わなかったが、彼をここまで追い込める人といえば、一人しかいない……
──いつも兄として助けてくれたあいつ、エッグノッグの御侍だ。
僕たちはいったいどうすればいい……
いったい誰を信じればいい?
Ⅲ信頼
その日から長い間、御侍と僕はかつて信頼していた友人に会わなかった。
彼は何度も何度も御侍に謁見を申し込んだが、全部御侍は理由をつけて断った。
伯爵夫人も何度も守備軍を引き継ぎたいと申請してきた。御侍は長く躊躇したが、最後には彼女の行為を黙認した。
その時から、彼は僕たちに会いに来ることはなかった。
ある日、激怒したエッグノッグが衛兵を蹴散らして、御侍の書斎に突入してきた。
彼がこれほどの怒りを見せたのはこれが初めてだ。
彼は机を飛び越えて御侍の襟を掴んで彼を引っ張り上げ、叫ぶように問い質した。
「どこで何を聞いたのかは知りません。僕たちをどう見ているのかも興味ありません。しかし、すでにあれほどの数の女の子が消えたのに、貴方たちはいつまで見て見ぬふりをするつもりですか!王城の女の子が全員消えるまでですか?!」
彼の話を聞いて御侍と僕は眉を顰めた。御侍の襟を掴んでいる彼の手を解かせることすらも忘れていた。
「何を言っている……女性が消えたって……どういう意味……」
「カナリア、アンドリス、ジェリカ。この半々月で消えた女の子の中で僕の知り合いの3人です。守備隊の軍勢は相次ぎと伯爵夫人の手に落ちた。僕たちにはこの事件を調べるための人手が足りません。伯爵夫人からは何も聞かされていないのですか?」
あの談話の後、エッグノッグの御侍直轄の騎士団以外の都の守備軍はほとんど伯爵夫人の手にある。
彼女の報告には女性が消えたなんて情報は一度もなかった。
僕たちの懐疑的な表情を見て、エッグノッグは何かを悟ったみたいに手を放して後ろに退いて自虐的に笑った。
「もっと早く気付くべきでした。貴方たちの許可がなければ騎士団が彼女の手に渡るはずがないのに」
「違う!僕たちはただ……」
「ただ、何ですか?」
「……」
エッグノッグは額を揉むと、いきなり僕に飛びついてきた。衛兵に抑えられる前に彼は僕の手に何かを押し込んだ。
「もし、貴方たちがまだ僕たちを信じているのなら、後でこれを読んでください」
そう言うと、エッグノッグはおとなしく皇太子襲撃の罪で衛兵に連れ去られていった。
彼の後ろ姿を見ながら、僕は手にある物を握り締めた。
エッグノッグからもらった手紙には、彼と彼の御侍が入念に敷いた計画が書かれていた。
この手紙を読み御侍と僕はしばらく躊躇ったが、これしかないと最終的には決心をした。
Ⅳ 信念
結果に関して、僕たちは幾つもの悪い予想はしていたが、まさか真犯人が彼女だなんて思ってもいなかった。
御侍と僕は、伯爵夫人の死体を前にして、その事実をどう受け止めるべきなのか迷った。
既に監獄から解放されたエッグノッグと彼の御侍は、伯爵夫人の死体の前で泣いている御侍が落ち着くまで遠くで彼を見守った。
御侍にとって伯爵夫人は母親のような存在だ。
しかしその母が彼の信頼を利用して、彼の最も親しい友人や家族との関係を壊した。
すべては彼女の、罪なき少女達に対する悪行が阻まれないために。
僕もひどく落ち込んだ。
僕たちはいったい誰を守ったんだ?
自分自身に対する疑いと現実に対する失望で、僕と御侍は自信を失った。
誰かを信じる勇気もなければ、何かを決める勇気もなくなった。
そんなある日、気弱な僕たちを、まったく違う食霊が絶望の淵から叩き起こした。
シャンパンは傲慢で尊大だけど、生まれつき王者の気質を持っている。
僕たちとは全く違う。
彼の行動、彼の言葉が、僕たちに民衆に対する責任を思い出させた。悲しむ時間などないと、僕たちは目を覚ました。
僕は振り返って同じように目が覚めた御侍を見やる。彼の笑顔はまだ少し無理があるが、目の奥にもう迷いはない。
その笑顔はもう昔のようなおどおどとした雰囲気は無くなって、自信によって輝いている。
御侍はあの時の短い談話の後、貴族達の前で誤解をしていた兄に謝り、剥奪した権利を彼に返還した。
彼に愛する人ができたと知り、御侍は盛大な結婚式を挙げてあげた。
その後、御侍は国民広場で王都のすべての臣民に謝った。その時、みんなの中で彼はもう昔のようにか弱い王子ではなく立派な皇太子になった。
そしていつの間にか、僕も炎を自在に操られるようになった事に気付いた。
すぐそこで、エッグノッグは再び女の子達に囲まれていた。
彼はいつも通り女の子達に明るい笑顔を見せている。
僕は知っている、あの傲慢な王者が簡単に親交もない隣国の王のために助力するはずがないと。
あの日、あの人が立ち去る前に残した言葉が、僕たちに本当に感謝すべき相手を示した。
「良き臣下、良き兄弟を持ってお前らは喜ぶべきだ。もし彼がいなかったら、お前らのことなんて気にも留めなかっただろう。彼の苦心を無駄にするなよ」
Ⅴ ローストターキー
ローストターキーは勇敢な食霊ではない。
彼は外見通りに、まだまだ子供っぽい。
国王が倒れたことは彼と、彼の御侍にとって衝撃だった。彼らは成長のために使う時間がまだまだたくさんあると思っていた。しかし突然の病がその余裕を奪った。
突然国を背負うことになったことは、まだまだ大人になりきれてない二人の子供にとって、空が崩れ落ちてきたような大事と言えるだろう。
しかしこの気が弱くて、時々泣き寝入りする2人の子供は、肩に降りてきた重責をしっかりと背負った。
国を治める天賦の才能に恵まれていない二人は、とてもよくできたとは言えないだろう。
しかし、それでも二人は国の平和をしっかり維持した。
見た目が楽そうな仕事でも、それがどれだけ大変なのかは従事してからようやくわかる。
二人は周りに悟られない様、無理して凛々しい外面を作っているが、後ろでは手が震えていると、エッグノッグと彼の御侍はしっかりと見えていた。
その瞬間、エッグノッグと彼の御侍は二人の弟分を助けると心に決めた。
――それは国のためでもあれば、兄弟のためでもある。
これからきっと少しずつ良くなっていくと、ローストターキーは思った。
実際彼の思ってた通りに全てが徐々に上手くいき、病で倒れている国王陛下の体も少しずつ回復していた。
全てが上手くなっていくその時に、その女は自分の計画を始めた……
ローストターキーと小さな皇太子は伯爵夫人が言った兄弟の裏切りを信じたくなかった。
しかし伯爵夫人が証拠を提出し続けることで、心の中の信頼は徐々に削られていった。
迷ってた二人の隙を突き、伯爵夫人は自らの望みを叶えた。
皇太子の許可を得られなかったが、阻止もされなかった伯爵夫人は瞬く間にエッグノッグの御侍の手にある王城守備軍の勢力を奪った。
それから彼女は好き放題に狩り始めた。
王城の中の少女達は、次々と姿を消した。
決めかねていたローストターキーと彼の御侍は書斎にこもって仕事に没頭していた。何も考えず、何も聞かなければ、兄弟と仲違いすることもないと。いつか直面しなければならないことになると、二人は思っていた。
二人は、まさかエッグノッグが突入してくるとは思っていなかった。
エッグノッグに渡された手紙には、真犯人を誘い出す計画が書いてあった。
自分と自分の御侍が囮になることも厭わないと。
長く逃げてきたローストターキーと彼の御侍は、手紙を読んで決心した。
計画は順調に進んだ。思った通りエッグノッグの御侍が軟禁された後、いつも陰で行動していた奴らは調子に乗って出てきた。
ローストターキーと彼の御侍は多くの悪い結末を予想した。
もし伯爵夫人が黒幕に脅迫され無理やり動かされていたらどうするのか、まで考えていた。
でもまさか、信頼と尊敬を寄せていた伯爵夫人こそがその黒幕だとは二人は思ってもみなかった。
この真実は今まで2人を支えてきた自信と勇気を粉砕した。
すべての優しさは陰謀と利用に見え、決心は崩れ、何も決められなくなった。
どうすればいいのかわからない彼らを導いたのは、隣国の王だった。
それは食霊によって統治された国。
その国の王は、負け知らずで生まれつきの王者――シャンパン。
元々その王がこの国にやってきたのは、二人の代行者に不満を言うためであった。だがエッグノッグの努力のおかげで、王はローストターキー達の前にやってきた。
しかしまさかこのざっくばらんな王が、皇太子とローストターキーの面子などまったく気にしないとは、エッグノッグも思わなかった。
「なんだその国が滅んだような顔は。もし本当に滅んだら、俺が吸収してやってもいいぞ」
さすがにこの、人を見下す態度に驚かされ、わけのわからない負い目を感じて二人は何も言い出せなかった。
「くだらない。お前らみたいなやつは国どころか自分たちさえ背負えないだろう。いっそ本当に攻め滅ぼしてやろうか?そうすればお前らのムカつく顔も見なくて済むだろうからな」
「ぼ……僕たちは……」
「お前らはなんだ?お前らはこの国の王だろうが!なのに見てみろ。今のお前らのザマを!」
「でも……」
「でもなんだ?お前らは王だ。もう子供じゃない!甘えるな!自分で責任を負え!代わりに負ってくれるやつなど、どこにもいない!」
彼は優しくない。むしろ乱暴とすら言える。しかし容赦のない罵りが2人を目覚めさせた。
2人は人に頼りすぎだった。
いきり立っていたシャンパンが立ち去った後、見つめ合う2人はなぜか心の中の鬱憤が晴れたのを感じた。
彼らはもう国王陛下に守られる子供じゃない。
自分で自分の責任を負うべきだ。
例えどれだけ辛くても、例え騙されても、2人は国を守るために立ち直らなければならない。
その日から、小さな王子は立派な皇太子になった。
ローストターキーも彼の決心に感化されて、不安定だった力も完全に安定した。
その後、ローストターキーはずっと自分たちを目覚めさせたシャンパンにお礼を言いたいと思っている。
彼は自分たちに、王たる者の気概と強さを教えてくれただけじゃなく、本当に自分らを大事にしてくれている仲間のことも気付かせてくれたのだから。
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