蓮舟と鷺・ストーリー
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蓮舟と鷺
プロローグ
午後
茶楼
揺れる柳、囀る小鳥、中庭には花々や木々が茂っている。その道を真っすぐ進むと、優雅な佇まいの茶楼が見えてくる。
お茶の芳しい香りが漂い、茶楼の中は客でにぎわっていた。壇上の少女だけがゆったりと、扇子をそっと仰いでいる。
パチンッ
茶糕:清江が山河陣の下を流れ、機関城の宮殿に百官が並ぶ。皆様、講談を一節聞いていかれませんか?
茶糕:今回の物語は--伝説によると、光耀大陸に颯爽で優しい侠女がおりました。彼女は山河を旅し、悪を懲らしめ、善を広めたという。
茶糕:ある日、彼女は強盗から襲われた公子を救い出した。その公子は子どもの頃から体が弱く、病気がちで、この事件の後更に悪疾に掛かったそうです。
茶糕:その後も、侠女は彼の傍に残り、世話をしていました。二人で過ごすにつれ、お互いのことを好きになり、やがて気持ちを明かし愛の印を交換したのです。
茶糕:しかし、その恩知らずな男は病気が治ると、名誉と富のために侠女を見捨てました。侠女も憎しみを覚え、行方不明となりました。哀れよ、哀れよ……
観客甲:なんて酷い奴だ!侠女の気持ちを裏切るなんて。
この話を聞いて、観客は皆一様に首を振って嘆いた。茶糕が再び拍子木を叩こうとしたその時、客席にいた少年が突然立ち上がった。
男の子:違う、貴方が言った事は間違っている!
茶糕は彼に目を向ける。しかし、彼女が何かを言うより前に、他の観客の怒りに遮られた。
観客乙:あっち行け、どこのガキだ?今いいところなんだから、邪魔するな!
観客丙:そうよ、どこ家の子どもかしら?親はどうしたのよ!
観客が皆不満そうな声を上げているのを見て、茶糕は扇子を軽く叩き、観客を静かにさせた。
茶糕:皆さん、落ち着いてください。少年、どうしてそんなことを言うんですか?
男の子:あっ、貴方がしている話は真実ではない!そんな話は聞きたくない!
茶糕:真実ではない?証拠はあるのですか?
男の子:それは……とにかく、貴方の言っていることは事実とは違う!
少年の顔は熟した桃のように赤くなっていた。しかし、茶糕の質問に対して、彼は長い間何も言えず、やがて走り出し、その場を離れた。
茶糕:あれ?どこに行くのですか?ねぇ――行かないでよ!
茶糕:本当、変な子だね……
物語を一つ話終えると、観客たちはその余韻に浸りながら散り散りになった。茶糕がいつものように退場しようとした時、ふと、隅に隠れている痩せた人影に気がついた。人が去った広々とした茶楼では、その人影が一際目立っている。
茶糕は立ち止まり、その人影が顔を覆った女性であることを確認した。女性は目だけ隠しておらず、ぼんやりと壇上を見つめ、二筋の涙の痕が白い被り物の後ろに隠されていた。
茶糕:お客様……
茶糕がその女性と目を合わすと、女性は茶糕を避けるように、慌てて逃げていった。
茶糕は声をかけることができず、反応する間もなく、扉の外から突然鈍い衝撃音がした。そして、聞き覚えのある声が――
菊酒:すまない……江晩……どうして君が?
江晩:菊酒……?!
ストーリー1-2
菊酒:江晩、どうして一人で都に?君の住む場所からは大分離れているだろう。
江晩:いえ……最近かなり暇だから、気晴らしに出かけてみただけですよ。
江晩:本当に申し訳ないのですが……用事があるので、これで失礼します。
茶糕:えっ?なんなんだ……そんなに急がなくてもいいだろう……
茶糕もその女性を不思議に思ったが、その急ぐ背中を見て、軽くため息をつくしかなかった。そして、茶糕はこの場で唯一内情を知っていそうな人物に話を聞く事にした。
茶糕:どうしたのですか?何か事情がありそうですね。まさかわざと彼女を怒らせたとか?
菊酒:……彼女こそ、先程の物語に出てきた侠女だと言ったら?
茶糕:?!どうしてあんたがそれを?
菊酒:さっき外で全部聞いていたよ、それに数年前、彼女の話は広く伝わっていた。私も旅の途中たまたま彼女に出会い、少し仕事を手伝った仲だ。
菊酒:ただ、その物語の理由も結末も、貴方が知っているものとは違う。
茶糕:それって、私が集めた噂は本当に間違っているという事ですか?それで、あの少年も反論していたのか……
茶糕:もし今日あたしが話した物語が本当に真実に反しているのなら、あたしは講談師として失格ですね。菊酒、どうかあんたが知っている物語を教えてください、お願いします。
菊酒:……わかった。
菊酒:実はその事について、彼女も少しだけしか教えてくれなかった。詳しくは知らないが……江晩は自らその男性から離れたんだ、その男性が彼女を見捨てた訳ではない。
茶糕:なら……江晩がその男性のことを好きではなくなったから……
菊酒:そうとは言い切れない。本当に好きでないのなら、どうして彼女は泣いていたんだ?
茶糕:きっと、二人の間にあたしたちには知らない何かがあるのでしょう……
夜
墨閣
月が高く昇り、霞がかった夜が賑やかな都を包んでいる。墨閣一行は茶卓を囲んで談笑しているが、いつも意気揚々としている茶糕だけは、一人で欄干に寄りかかっている。彼女は悲しそうな顔をして、気の抜けた顔をしていた。
董糖:どうしたのですか?そんな顔をするなんて、珍しいではないですか。
茶糕:えっ、なんでもないです……少し予想外なことがあっただけですよ……
菊酒:もしかして、まだあの事で悩んでいるのか?
柿餅:何コソコソしているんだ?俺たちに聞かれちゃいけないことでも話しているのか?
気付けば他の者も集まってきていた、茶糕は思わず小さくため息をつき、菊酒の了承を得てから、昼間の出来事を全て話した。
茶糕:という事です……
茶糕:あの時の江さんの反応が今でも忘れられない……真実ではないと子どもでもわかっていたのに、あたしは何もわかっていないまま群衆にその話をしていただなんて……
臘八麺:本に書いている物語が全て真実とは限らない、それに実名を出していないみたいですし、責任を感じる必要はありませんよ。
―――
しかし、あたしは江さんを助けたいです⋯⋯
・あの物語を真実にしたいです。
・もしかしたら、二人の間でまだ誤解があるかもしれません。
・彼女に一生後悔したままでいて欲しくないのです。
―――
菊酒:しかし、彼女の考えはわからない、勝手に彼女のために行動するのはよくないだろう。
臘八麺:もし気にしていないのなら、江さんもわざわざ茶糕の講談を聞きに来なかったでしょう……
柿餅:確かに、あんたらもよく言っているだろう、女の子の思っている事と口に出している事は全部逆だってな。
董糖:そうは言っても、本人にしかわからない事があります。
茶糕:ええ……当時の真相を調べないといけませんね。
菊酒:残念だが、男性の行方はわからない、覚えているのは……
皆が話をしていると、杏仁豆腐が小走りでやってきて、話を遮った。
杏仁豆腐:茶糕お姉さん、お客さんが来ましたよ、あなたに会いに来たって。
茶糕:私を?
ストーリー1-4
茶糕:こんな時間に、誰だろう。
すると、少し離れたところから小さな子どもを連れた男性がやってきた。
茶糕:あっ、あんたか!
柿餅:あれ?知り合いか?
茶糕:今日あたしの講談を中断してきた子です。
男の子:フンッ!
???:夏、失礼だぞ……皆さん、お忙しいところすみません。うちの子が今日、茶糕さんに失礼な真似をしたと聞いて、お詫びに伺いました。
男性は夏という男の子を引き寄せ、茶糕の方に押し出した。しかし、男の子は首をひねって茶糕の目を見ようとはしない。
???:いいから、早く謝れ。
夏:間違ったことは言っていないのに、どうして謝る必要があるのですか……
???:はぁ……普段の教育が悪いのか、最近彼はますます反抗的になっていて……
???:それなら、私が彼の代わりにお詫び申し上げます。ヤンチャな子がした事です、どうか気を悪くしないでいただければ幸いです。
―――
いえいえ、全然気にしていませんよ。
・大丈夫です、そこまで怒らないであげてください。
・これ以上気にしたら、あたしの方が子どもになってしまいますよ。
・子どもはそういうものです、わかります。
―――
思景:すみません、自己紹介を忘れていました。私は思景と申します、この子は私の侍従の夏です。
茶糕:思景さん、もしよろしければ、本日彼が言っていた真意を伺っても宜しいでしょうか?もちろん、非難するつもりはありません。ただ、自分の語った物語で観客に不快な思いを与えたくないだけです。
夏:後半が間違っているよ、うちの旦那はそんな……
思景:夏!だからデタラメを言うなと言っただろう。
思景の厳しい目に睨まれ、夏は黙った。しかしその顔は依然として、悔しさと怒りに満ちていた。
夏:わかりました……どうせ苦しむのは私じゃないから……
思景:君は……!はぁ、茶糕さん、本当に申し訳ありません、子どもの戯言だと思ってください。
茶糕:いえ、こちらこそ、失礼いたしました。もし都合が悪いのなら、これ以上は聞きません。
柿餅:コホンッ、折角来たのなら、お茶でも飲んでいくといい!何か誤解があれば、解決すればいいから。
夏:フンッ、うちの旦那は持病を患っている。ここは寒いから、風邪でも引いたらどうしてくれるんだ!
思景:夏……申し訳ございません、私は確かに体が弱いです、お気持ちだけ頂戴いたします。
臘八麺:いえ、こちらこそ、失礼致しました……
二人は誘いを辞退してその場を離れたが、柿餅は彼らが去った方向を見つめ、わずかに目を細めた。
柿餅:何か変だな……
茶糕:その表情、何か気づいたのですか?
柿餅:思景という男……陽の気がすごく弱い感じがする……
茶糕:さっきの子が言っていたでしょう、持病を患っていると。
柿餅:いや、病気というより、何か外的なものに侵されたせいだ……臘八麺、あんたはどう思う?
臘八麺:確かに……思景さんの体に邪を払った跡が残っているようです。きっとかつて、何か不浄なものに取り憑かれていたのでしょう……
茶糕:かつて?なら、今はもう大丈夫ってことですか?
柿餅:さっき彼が身につけている玉を見たが……魔除けの効果があるようだ、ただ……
柿餅は真剣に分析していたが、隣で菊酒も顔をしかめて何かを考え込んでいた。
菊酒:……彼だ。
茶糕:えっ?誰ですか?
菊酒:彼……思景こそ、君の物語の中の公子だ。
茶糕:?!どうしてあんたがそれを?
ストーリー1-6
茶糕:思景……彼こそが江さんの恋人……?
柿餅:菊酒、なんでわかったんだ?以前彼を見たことがあるとか?でも……お前を知っているようには見えなかったな。
菊酒:あの玉のことを知っているんだ。昔、江晩が彼に贈った愛の印だ……江晩がそれを描いたところを見たことがある。
茶糕:彼が未だにその印を持ち歩いているということは、彼はまだ江さんを想っているということですか……道理で夏はあたしの講談を聞いてあんなに怒った訳だ……
柿餅:じゃあ……二人は愛し合っているのに、なんで別れたんだ?
董糖:恋はそんなに簡単なものじゃないです……時には、自分の思い通りにならないものですよ……
柿餅:なんで自分の思い通りにならないんだよ……江さんも、ここに現れたってことは、思景に会いたがっているからだろ?なんで隠れたりしているんだ?
臘八麺:はぁ……兄弟子は本当に女心がわかりませんね。
柿餅:それはどういう意味だ?あんたにはわかるのか?
臘八麺:わっ、私もよくわかりません、多分……江さんは何らかの不安を抱えているのではないでしょうか。
茶糕:それなら、あたしがその不安を解消してあげます。
菊酒:どうやって?
茶糕:フフーンっ、実は……
茶糕:……まだ思いついていないです……
菊酒:……
茶糕:そんなに急がなくても、問題よりも解決策の方が多いものだ、方法は必ずあるはずです……
茶糕:ただ、どんな方法であれ、まずは江さんを見つけないと……菊酒、お願いします。
―――
ああ。
・喜んで引き受けよう。
・なら、試してみよう。
・言う通りにしよう。
―――
午後
墨閣の厨房
杏仁豆腐:七百四、七百五……あれ?どうしてお菓子二つだけ足りないんだろう……さっきまでここにあったのに……
杏仁豆腐は机の上のお菓子を注意深く数えていたが、振り向くとそこに空の皿しかなく、思わず戸惑ってそうつぶやいた。一方、窓の外では、臘八麺は厨房からこっそりかつ素早く逃げ出した柿餅を見て、声を掛けるかどうか躊躇った。
臘八麺:あの……兄弟子……
柿餅:シーッ……静かに!俺は二つしか取っていない、食べないと力が出ないからな。
杏仁豆腐:うぅ……新しいのを作ろう……今のは、間違えて辛子を入れちゃったし。
柿餅:ゲホッ、ゴホッ!!!
臘八麺:さっき言おうとしたんです……
柿餅:なら早く言えよ!水、水!クソッ、鼻が!
茶糕:そっちこそ、菊酒と一緒に江さんを探してくれると言っただろう、ここで何をしているんですか。
柿餅:コホッ、乞巧祭り用の菓子の味見をしていただけだ。
茶糕:何の祭りですか?
柿餅:あんたいつから俺より物覚えが悪くなったんだ?二日後は七夕だから、乞巧祭りがあるだろう。
茶糕:ああ、七夕か……思い出した、そう言えば、もうそんな季節ですね。
茶糕:待って……乞巧祭り……それだ!
ストーリー2-2
街中
乞巧祭り
七夕当日、空は晴れ渡っていた、澄んだ風が涼しく吹いている。長い川沿いの道に屋台が並び、露天の舞台が立派に立っている。
茶糕がお祭りで講談することを知り、多くの観客が見に来ているため、開演前から舞台の前は多くの人で賑わっていた。中には、もっとよく観たいと、建物に登っている人もいる。
柿餅:おお、こんなに多くの人が聞きに来るなんて初めてだな。ただ……
柿餅:茶糕、俺にはまだわかんないな。なんで俺らが芝居をするだけで思景と江さんが仲直りできるんだ?
茶糕:芝居をするだけで仲直りできるって訳じゃないけど……ただ二人に再会して過去を語るきっかけを作りたいだけです。
茶糕:でも……菊酒に侠女を演じてもらうんじゃなかったのですか?どうして最終的にあたしになったんだ……
菊酒:それは仕方ないだろう、董糖が用意してくれた衣装が短すぎたんだ。しかも、主人公の演技って君の方が私よりずっと詳しいだろう?君がやった方がいい、私は公子ならなんとかできそうだし。
董糖:もう、引っ張らないでください、これ以上引っ張ると破けてしまいます。
茶糕:はぁ、こういう衣装を着るのは初めてだから……どうしてもちょっと……
董糖:気楽にしていてください、私たちは貴方を信じていますよ、天才講談師。
茶糕:緊張させないでくださいよ、姉さん……そう言えば、菊酒の公子、意外と格好良いですね。
柿餅:俺も公子役くらいできる!どうして俺は強盗役なんだ!
近くにいる柿餅はとても不満そうに割り込んできたが、その場にいる全員は思わず笑ってしまった。
臘八麺:兄弟子、もう動かないでください、動くとひげの位置がずれてしまいますよ……
臘八麺:おっと、ごめんなさい……!
少しふざけた後、開場の時間が近づいて来た。茶糕は普段の冷静さをなくし、思わず扇子を強く握りしめ、窓の外のどこかに目を向ける。
突然、肩に温かい感触が伝わった。茶糕は我に返ると、菊酒は冷静な目をしており、落ち着かせるようにそっと彼女の肩を叩いた。
―――
⋯⋯
・心配するな、彼らはきっと来てくれるだろう。
・深く考えるな、やれることをやるだけだ。
・緊張するな、私たちがいるだろう。
―――
董糖:二人がお互いの本当の気持ちを知れば、はっきりすると思います。結局、二人の心のしこりは、彼ら自身が解くしかないのですから。
茶糕:ええ……さあ、そろそろ始まります。あたしたちはあくまでも部外者だ、結果は運命に任せましょう。
澄んだ川が流れ、空の雲や輝きが水に映っている。楽器の音色もゆっくりと流れ始めた。茶糕は美しい衣装に身を包み、顔を隠し、舞台の中央まで歩いていった。
茶糕:皆様、ご来場ありがとうございます。今日の講談は、いつもとは違って、なんと――
ストーリー2-4
茶糕:前回は美人が英雄を救い、公子が侠女と結ばれた物語をお話させていただきました。ご存知の通り本日は七夕です、この佳期に際して更に二人について語らせてください。
パンッ――
茶糕:時は初夏、南の屋敷に住む公子は友人と船に乗り、お茶を飲み暑さを凌いでいた……
茶糕:……友人と楽しく過ごしているその時……
太鼓の音が加速し、長い刀を持った眉毛と髭の濃い「強盗」が叫びながら観客の前に飛び出した、その背後には大勢の手下も立っている。
柿餅:――死にたくなければ金を出せ!さもないと、あんたら全員を湖に放り込んで、魚の餌にしてやるぞ!!!
柿餅:おいっ、お前、お前だ!そこの青い服を着たやつ、よくも俺を睨んでくれたな……!ゴホッ……
「強盗」は威圧的な顔で「公子」に近づいたが、そのあまりに冷たい気配によって言葉を詰まらせた。
柿餅:菊酒、フリくらいしてくれよ!でないとやりにくいだろう!
菊酒:……ああ……
柿餅:……コホンッ!怖がるといい!あははははっ!俺は20年も山で鍛えて来たんだ、さっさと金を出せ!気が向いたらあんたらの命だけは助けてやるぞ……うわっ!
茶糕:悪党め、好きにはさせん!
太鼓の音が徐々に加速する。危機一髪のその時、白い服を着た侠女が小舟から飛んできた。彼女の動きは素早く、多くの強盗に立ち向かっても怯えたりはしない。
柿餅:あんたどっから出てきやがったんだ?!
茶糕:ハッ、あたしは害虫を駆除しに来た者だ。この剣を受けてみよ!
柿餅:俺の邪魔をするのか?!兄弟たち、行けっ!……うあああっ!
柿餅:――ああっ、いたたたっ!俺のひげが!茶っ……女侠、もっと手加減しろ!!!
「女侠」は現れるとすぐに「強盗」と戦い始めた。すぐに、舞台上で剣と剣がぶつかり合い、臨場感が溢れた。観客たちはこの斬新な演出に釘付けになり、全員が息を呑んで見守っていた。
こうして、茶糕たちは講談と演技を交互に行い、公子と侠女がどうやって出会い、湖で愛の印を交換し、一生の約束を交わしたところまでを全て示した。
茶糕:……しかし、幸せもつかの間、二人の恋が高ぶっているその時、公子は病気に掛かってしまいました。侠女は彼の面倒を見るだけでなく、治療方を探すために、あちこちを旅することとなったのです。
茶糕:だが……その年の晩冬、侠女が万難を排して手に入れた治療方を持って帰ってきたが、公子に追い返されたのです。雪が降りしきる中、骨に染みるほどの寒さは侠女の愛情の火をもみ消してしまった……
菊酒:「私はもうすぐ都に行き、皇城で務める予定です。国と民のために勉強していたことは、貴方も知っているはずです。田舎で遊び暮らすなんてもうできません。長年世話になりました、お礼としてささやかながら銭財を受け取ってください……」
「公子」は冷たく言い放った後、その場を去ってしまった。「侠女」一人だけが舞台の隅に取り残され、気を落とし悲しそうな顔をしている。
観客丙:この恩知らずめ!あんなことで自分を真摯に愛する人を見捨てるなんて!!!
観客丁:そうだそうだ!侠女の気持ちを裏切るなんて!病に掛かったのは自業自得だ!
夏:違う!違う!全然違う!なんでまたそんなでたらめを!!!
遠くの隅から、幼いけれど力強い声が響いた。しばらくすると、小さな人影が猛然と舞台の前に飛び出た。
茶糕:おっ?またあんたか。
夏:あっ、貴方は片方の言い分しか知らないくせに!あの時起こったことなんて何も、何も知らないくせに!
小さな侍従は怒りに任せて叫び、そして涙を流しながら泣き始めた。
観客甲:どうしたんだ?
観客乙:どうして突然邪魔者が出てきた?
思景:また皆さんにご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません。夏、ほら、泣かないで。
もう一人男性が出てきた、その顔には悲しみと悔しさが満ちている。それを見た茶糕は、彼に一礼をするだけで、驚くことはなかった。
夏:こいつらは何も知らないくせに!勝手にうちの旦那を悪く言うなんて!
―――
⋯⋯
・どうしてあたしたちが何も知らないと決めつけるのですか?
・あんたが言わないと、あたしたちは何も知る由がないですよ。
・どこがデタラメなのか教えてくれませんか?
―――
夏:旦那はいつも言っちゃダメって言うけど、今日だけは言わせてもらう!
思景:はぁ……これ以上騒がないでくれ……この件は……私から話しましょう。
思景:皆さん、突然申し訳ございません。実は……私こそが、この物語で侠女を見捨てた公子です。
ストーリー2-6
思景:皆さん、突然申し訳ございません。実は……私こそが、この物語で侠女を見捨てた公子です。
思景:しかし、私の彼女への想いは変わっていません、嘘偽りなんてありません……
茶糕:なら、あんたは何故彼女にあんな冷たいことを言ったのですか?
思景:申し訳ないと思っています……
思景:昔のことは、確かに貴方が舞台で演じた通りです。十数年ほど前、彼女は強盗から私を救い出しました。私の病気が重くなると、彼女は私のために薬を探し回ってくれました。
柿餅:それからは?
思景:彼女はいつもあちこちを走り回ってくれたが、何も見つかりませんでした。それでも彼女は私のために薬を探したいと言って、遠く離れた所まで行ってくれた。でも私にはわかっていた、自分の体はもう……
思景:私は、彼女の時間を私なんかのために費やして欲しくなかったんです……悩んだ末、私は皇都に行くという言い訳を使って、関係を断ち切りました。
夏:うちの旦那は本当はずっと前から状元に受かってたんだ!でも旦那は江晩さんとの約束を守りたかったから、官職を諦め、町で彼女をずっと待ってた……もしあんな奇病にかからなかったら……
夏:旦那は決して恩知らずなんかじゃない!旦那は長年、毎日毎日後悔しているんだ……
思景:私は世間からの評判なんか気にしません。私はただ、彼女が無事にいてくれているのかどうかだけを知りたくて……
―――
⋯⋯
・きっと、彼女は一度たりともあんたを責めたことがないでしょう。
・縁があれば、きっとまた会えますよ。
・天変わらずそこにありて、情尽きることなし。彼女はきっと今もどこかであんたを想っていますよ。
―――
菊酒:もし、彼女が無事じゃなかったら?
思景:彼女……貴方たちは彼女のことを知っているのですか?彼女がどうかしたのですか?何かあったのですか?
菊酒:当時、貴方が掛かったのは、普通の病気ではなく、邪によるものだ……
菊酒:その玉は、彼女が悪魔と取引をして得たものだ。貴方を救うために、彼女は今や容姿も武術も失い、あの時の溌溂とした侠女ではなくなってしまっている。
思景:まさか、彼女は私のためにそこまで苦しんでいたなんて……それでも、私の心の中で、いつまでも彼女が一番美しいです。
思景:彼女のそばで、彼女の面倒を見ることができなかった自分がただただ憎い……
董糖:それなら、今、自分にその機会を与えてはどうでしょう?
茶糕:――よかった!あんたたちを待っていました!
突然優しい声が聞こえてきて、観客はそこに目を向けた。董糖は一人の女性を優しく支えながら歩いて来た。その女性は涙を流し、眼差しを舞台の前に立つ思景に投げかけている。その女性こそが江晩だ。
思景:晩……晩なのか?本当に晩なのか?!
江晩:ええ……貴方の本音が聞けて……私は本当に嬉しくて……
江晩:でも、私の顔は……
思景:そんなのはどうでもいい事だ……これからは、かつて貴方が私の世話をしてくれたように、私にも貴方の世話をさせてください。
江晩:私は……
菊酒:私は菖蒲酒という医師を知っている。彼女は薬草に精通していて、貴方の症状を緩和できるものを処方してくれるかもしれない。
思景:安心してください、これからは私がずっと貴方のそばにいます。
江晩:……ありがとうございます!
仲直りして抱き合う二人の姿を見て、茶糕は思わず微笑んだ。不意に菊酒と目が合うと、二人はお互いを見て笑った。
思景:茶糕さん、この度は本当にありがとうございました……貴方がいなければ、おそらく私は一生勇気を出せなかったでしょう。
茶糕:こちらこそ勝手な事をしてごめんなさい。この前、お二人の物語を勝手に語ってしまって、とても申し訳なく思っています。お二人の物語がいつまでも世間に誤解されるのも嫌だったため、このような方法を取らせていただきました。
茶糕:物語を語るのは何よりも難しく、物語の真相はだれにもわからないものです。語り尽くせるものではないとわかっていても、あんたたちがお互いに自分の言葉が伝われば、やった甲斐がありました。
茶糕は扇子を仰いで笑った、やがて物語の真相を理解した観客たちも拍手喝采した。
柿餅:これでようやく一件落着だ!彦星と織姫に祈って正解だったな!
観客たちが笑っていると、誰かが軽快に笛を吹き始めた、池にある蓮も踊るように揺れ動いている。古い船は新しい波紋を起こし、さらに遠いところへと向かい始めた。
茶糕√宝箱
夜
皇都
七夕の夜、軒先に色とりどりの提灯が飾られ、街は光と色に満ち溢れていた。
杏仁豆腐と臘八麺たちが作ったお菓子は好評を博し、来場者から賞賛を浴びた。
茶糕は一人で屋台を回っていると、ふと目の前の宝石屋台に見覚えのある人物がいることに気付いた。
思景:夏、この「翠玉金雀簪」と「梅花琉璃簪」、どちらがいいと思う?
笑顔で簪を選んでいる男性が振り向くと、同じく笑顔の茶糕と目が合った。
思景:茶糕さん?すみません、失礼しました。
茶糕:いえいえ、この「梅花琉璃簪」の方が江さんに似合うと思いますよ。
思景:では、茶糕さんのことを信じるとしましょう。もしよろしければ、もう一つは茶糕さんに差し上げます。
茶糕:えっ、それはいいですよ。お礼がしたいのなら、もっと茶楼に来てくれればいいだけです。
茶糕がお礼を辞退しようとした時、突然ぎゅうぎゅう詰めになった熱々の包みを誰かによって押し付けられた。
夏:このお菓子あげる……失礼なことをした……確かに私の方が悪かった……でも、うちの旦那を手伝ってくれたから……今後は二度と迷惑をかけたりしないよ!
茶糕:あはは、大丈夫ですよ。誤解が解けたことだし、あたしたちもこれからは「敵」ではなく「友」ですね。今後茶楼に来てくれたら、果物とお茶を奢ってあげますよ。
夏:そ、それは約束だぞ!忘れるなよ!
思景:そう言えば、茶糕さん、もう一つお聞きしたい事が……どうやってこのような解決策を思いついたのですか?また、どうして私たちが必ず出てくるという確信があったのですか?
茶糕:私は占い師ではないから確信はありませんでした。ただ、小さな侍従の性格からして、多分あたしに反論するために出てくるかもしれないと思ったのです、それに賭けました。
思景:なるほど……
茶糕:感心している場合じゃないですよ、江さんがあんたを呼んでいます。
思景:あっ、ありがとうございます。では茶糕さん、この灯篭をさしあげます。先ほど柿餅さんたちが川沿いにいるのを見ましたよ。
茶糕:ありがとうございます。では、お言葉に甘えますね。
茶糕は思景と別れ、夜風に吹かれながら、のんびりと川へと向かった。
臘八麺:茶糕、おかえりなさい。皆で昼間の活躍について話していましたよ。
柿餅:そうだ、あんたの次の講談を聴きたいっていう奴らがたくさんいるみたいだ!これでまた知名度が上がったな。
茶糕:この件が解決できたのは、全員の努力のおかげですよ。灯篭をいくつか持ってきました、ほら。
夜の川波が炎を押し進めている。水面に浮かぶ灯篭と空中に浮かぶ孔明灯の灯りが絡み合い、天地の見分けがつかない。
茶糕:なんて素敵な風景だろう。どうか、愛し合う人たちが結ばれるように……
菊酒√宝箱
川は灯篭の灯りでいっぱいになり、まるで天の川のようだ。光が川のせせらぎを映し、ろうそくの光が人々の願いを載せ、夜空に運ぶ。菊酒と江晩は舟に乗り、一休みしていた。
江晩:菊酒、ありがとうございます……私は色々考えてしまって、知らず知らずのうちに優柔不断になってしまっていたみたいです。
江晩:貴方たちに背中を押してもらったおかげで、昔の自分を思い出せました。
菊酒:お礼はいらないよ。君に勇気がなければ、他人がいくら頑張っても無駄だから。
江晩は安心して笑った、それを見て菊酒も思わず微笑んだ。爽やかな風が二人の顔に当たり、日々の悲しみを吹き飛ばした。
江晩:そうだ、茶糕さんの今度の講談はいつでしょう、必ず応援しに行きます。
菊酒:ああ、彼女もきっと喜んでくれるよ。
舟が着岸し、二人は解散した。菊酒は数多くの屋台の中を歩き、偶然にも董糖と杏仁豆腐に出会った。
菊酒:私を?
董糖:ええ、杏仁ちゃんが茶楼で臨時の宴会を開きました、夜の花火も見られるみたいですよ。
夜
墨閣
月光が降り注ぎ、そよ風が頬を優しく撫でた。酔っぱらった柿餅は杯を掲げてそれを揺らす。
柿餅:良い酒だ、ヒクッ!
臘八麺:少し目を離した隙に……どうしてここまで酔っているのですか……
柿餅:なんだ、たまにはいいだろう、問題ない!あんたも飲め!
臘八麺:あの、兄弟子、私の服に注がないでください……うぐっ!
菊酒:彼女は帰りがけに戯楼の人に呼び止められ、「うちに来て芝居をしてくれ」って頼まれたそうだ。どこかに逃げたんだろう。
柿餅:なんだって?俺も上手かっただろう!なんで俺のとこに来てくれねぇんだ……まあいい、彼女が帰って来ないなら、俺がお代わりにあいつの分も飲んでやる!
菊酒:別に、特に言う事はない。
柿餅:そう言わず、話してみろよ!
茶糕:そうですよ。あたしも無事生還したとこですし、あたしにも聞かせてください。面白い話があれば、本にも書けるしね。
柿餅:茶糕、あんたいつの間に?まるで幽霊みたいだな……おいっ、俺の酒まで奪うな!今日殴られたこともまだ問い詰めてないからな!
茶糕:殴るってそんな、あれは芝居だからしょうがないじゃないー
目の前で騒ぎになりそうになっているのを見て、菊酒は仕方なく首を横に振り、小さくため息をついてから、ゆっくりと頷いた。
菊酒:はぁ、君たちは本当に……まぁいいだろう……
紺色の夜空に、銀色の月が浮かび上がる。夜風が皆の頬をなで、涼しさを届けた。今宵、賑やかな城下町は輝き、まるで霞の霓裳を身に纏ったかのようだ。
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