雪掛トマト・エピソード
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雪掛トマトのエピソード
情熱的かつ単純で、ダンスに執着しており、他人にダンスを教えることを天職とする。ダンスを極めるため現地のことを理解しようとするので、世界各地の風習に精通している。光耀大陸の文化を愛し、大陸への憧れや故郷のダンスを世間に知らしめたいという願いを抱いている。彼女はとあるきっかけで教師として鬼谷書院に招かれた。以来、彼女は生徒の間で「麗しい女神」として拝められている。
Ⅰ.登場
街中の賑やかな音が車の外から聞こえてきて、前に進むほど繁盛した街並みの景色が広がっていく。
目的地まであとわずかとなり、胸いっぱいの喜びと期待感が喉から出そうになる。
あちこちにつながる大通りに数え切れないほどの店や建物、いつもの光耀大陸だ!
「ここで失礼させてもらう、お嬢さん。」
「御侍の件……力になれず本当に申し訳ない。お嬢さんは一人で光耀大陸にやってきて、ご入り用でしたら景安に所属する商会へ訪ねるといい。」
「ありがとうございます、会長!何度も言いましたけど、御侍のことはあなた方のせいではありません……こうして同乗してもらっただけで感謝の念でいっぱいです!」
景安商会の会長に別れを告げると、長い車の旅で凝り固まった体を思いっきり伸ばしたわたしは今回の光耀大陸の旅を本格的に始めた。
昔、御侍の商隊に何度も連れてきてもらったけど、ルートがほとんど決められたものだからついつい飽きてしまうのも無理もない。幸いにも光耀大陸はとても広いので、行ったことのない場所もたくさんあるはずだ。
何もかも忘れるほどワクワクして街を歩いていたが、周りの光景がほとんど記憶にないことに気づいた……
佛跳牆に地図をもらうべきだったと、悔やんでももう既に時遅し。
いっぱい歩いてクタクタになった時、いきなり美しい旋律がかすかに聞こえてきて、わたしは迷わず音の方向に進んだ。
人の声が混ざった旋律がだんだんはっきりと輪郭を表し、赤色の酒楼が目の前に現れた。
大きな舞台の周りに大勢の観客が集まっており、優美な舞台衣装が往来してより賑やかに見える。
「皆様、開店祝いのため、今日の舞台は無料で開放しております!才芸に自信のあるお客様も遠慮なく上がってきて、素敵な時間をともに楽しみましょう!」
その言葉が終わった途端、響き渡る歓声とともに多くの観客が積極的に舞台に立った。
賑やかな舞台のおかげで、現場に熱気が渦巻いている。
酒楼に入ると、親切な店員はすぐ飲み物を持ってきてくれた。温かくて甘いお酒を飲むと、疲れが吹き飛び、舞台に立ちたい気持ちがふつふつとわいてくる。
自由に舞台で演技する機会は滅多にない。ここはやはり踊るしかない!
舞台が空いているうちに、わたしは舞台側で太鼓を持った人を見つけた。
「ちょっと踊りたいから、太鼓をおねがいできるかな〜」
「その格好……どうやらお嬢さんは異郷人のようだけど……俺は外国の曲に疎いんだ。」
「大丈夫、好きなように演奏していいから。自由さこそパラータのダンスの醍醐味で、いつだってどこだって思い切り踊れるからね!」
その言葉に胸を打たれたかもしれないが、彼は承諾してくれたようだ。
そして情熱的な音楽とともに、わたしは舞台に上がった。
身を翻して腰を曲げながら、足先の力で飛び上がる。普段の練習通りに、わたしは自由なリズムに合わせて踊った。
虹色の裾に牽引された飾りは澄んだ音とともにゆらゆらと光っている。
曲とともに動きを止めたわたしは少し息を切らしながら、とてもすっきりした気分になっている。
旅の途中でずっと我慢してきたが、やっと思いっきり踊れた!
一礼をしたわたしは、舞台の下から驚きと賞賛を交えた視線を投げられたことに気づいた。
「素晴らしい!なんというダンス!来てよかったよ!」
「まさに神業だね!」
「パラータが情熱的だと聞いたが、噂が本当だったな!」
褒め言葉を浴び、わたしは思わず笑顔になって、全身が喜びに満たされる。
「えへへ、どうもありがとう!これは故郷のダンスでね、みんなが喜んでくれて何よりだよ。」
わたしは挨拶しながら退場しようとしたところ、いきなり店員に止められた。
「ちょっと待って、お嬢さん!ウチの旦那はお嬢さんのダンスがとても気に入ったから、看板娘として雇い入れたいと。その素晴らしいダンスにふさわしい舞台を用意してあげると約束するから!」
その誠実な言葉や真摯な目に心を動かされるが……
「ごめん、わたしは本格的に光耀大陸にやってきたのは初めてで、行きたい場所がたくさんあるんだ。だからその目標を果たす前に、一ヶ所に留まるつもりはないんだ。」
「誘ってくれてありがとう。もしまたここを訪ねることになったら、また一曲踊らせてね。」
がっかりした相手を構う暇もなく、わたしは改めて視線を観客に向けた。
「そういえば自己紹介はまだだね。雪掛トマト(ゆきがけとまと)だよ。みんな、ダンスパートナーが欲しかったらいつでも誘ってね〜」
Ⅱ.故郷
パラータといえば、永遠に沈むことのない灼熱の太陽と果てしない金メッキの海のように広がっている黄砂が印象的だ。
服が何度も額から流れる熱い汗に濡れ、手足も常に筋肉痛に襲われたが、
舞譜に描かれた人物像を見た瞬間、疲れが吹っ飛んだ。
この広くて情熱の土地への愛と同じくらい、わたしはダンスが好き。
この感情と執着は生まれつきのもので、誰も抗えない。
盛大な宴で召喚されたことも、わたしはちゃんと覚えている。
たくさんの商隊が集まる中、各地からやってきた人々は言葉も風習も異なるが、焚き火を囲んで喜びを分かち合うことができる。
だからいろんな土地で踊っている人々を見ると、言葉で言い表せない暖かさや感動が胸から湧いてくる。
森羅万象もさまざまな感情も文字や言葉以上に、きっとダンスに通じて伝えられるんだろう。
「一日中稽古したし、そろそろ休みましょうか。」
うっとりしている間に、馴染んだ声が甘い香りとともに聞こえてきた。素朴な顔で茶菓子を持ってきたこの男こそわたしの御侍である。
「ダメよ、ラストパートは上手くできていない部分がまだたくさんあるから。」
「君はもう王宮指定の首席舞姫になったし、お祭りでもいっぱい踊ってきたから、その実力は誰もが認めたはずだよ。たまにサボってもバチは当たらないと思うけど?」
「大事な祭りだからミスは許されないもの」
「それなら……君がずっと探していた光耀大陸の舞譜を読む時間がなくなってしまう……」
思いがけない言葉。サプライズに気持ちを高揚させたわたしは急に動きを止めた。
「えっ!?それほんとう?なによりも大事なことだ!」
男は予想していたかのようにさわやかな笑顔を見せて、わたしが舞譜を奪い取るままに任せた。
指先が本のページに触れる前に、目の前のシーンは流れる砂金のように散り散りになった……
ーーふと目を開くと、複雑な文様に構成されるカーテンと上品な飾りが見える。
またパラータにいたときの夢か……
暖かい風がぼんやりとした夢を吹き飛ばし、懐かしい気分を運んできた。
わたしの御侍はあちこちを歩いていた行商人だから、おかげでわたしも彼と一緒にいくつかの場所を旅してきた。
そして偶然にも彼の口から遠い東にある光耀大陸という土地のことを聞いた。
未知の景色は輝く魅力的な宝物のように、わたしの探求心を掻き立てる。
そして詳しく知るほど魅了される。
御侍によれば、あれは各地の異なる歴史文化らしい。
幾多の歳月の中で星のように光り、そして空いっぱいの輝きになった。
それに触れるたび、果てしない星の輝きに囲まれたかのようだ。
「いかなる風習にもそれぞれの趣があるから、人目に触れず、世に埋もれてしまってはもったいない。」
「光耀大陸には『水を受け入れることこそ海が大きくなる理由である』ということわざがある。海がより多くの人に恵みをもたらすのは、いいことではないんでしょうか。」
男のさわやかな姿がまだ目に残っている。もし彼が野外で堕神の襲撃に遭遇しなければ、無事景安商会に入って商売を続けているはずなのに……
悲しい気持ちがだんだん湧き上がり、御侍のかつての言葉がゆっくりと耳に浮かんできた。
「わたしの行商に付き合わず王宮に残って舞姫を続ければ、贅沢な生活だって夢じゃないのに……」
「わたしが踊るのは贅沢に暮らすためではなく、ただダンスが好きだから。あなたが言ったように、わたしも砂漠の人にお花畑の存在を教えて、雪原の人に大波のことを伝えて、世の中のみんなにわたしのダンスを見せてあげたいの!」
「ふふ、それはなによりもだ。もし……いつかわたしがいなくなったら、君が自由に生きられるよう願うよ。」
思い出がだんだん遠くなって目頭が少し熱くなったが、わたしはもう心を決めた。
いつかきっと、この願いを叶えてみせる!
Ⅲ.挫折
時の流れは早く、わたしは光耀大陸で長い時間を過ごした。
昔のように遊歴しながら踊っているわたしの名前をだんだん知られるようになった。
でもやはり観客から驚きや賞賛の表情を見るのが一番楽しい。
たとえどんなに小さな感動でも、わたしへの最高の評価である。
あの日、わたしはいつものように街中を散歩していたが、うっかり道に迷ってしまう。
いくつかの路地を歩いてますます正しい道から離れたことに気づいた時、遠くないところから少女の泣き声のような音がかすかに聞こえた。
しかもひとりじゃない……!
誰かがこんな人気のない場所で女の子をいじめている!?
わたしは直ちに声を追いかけた。
狭い道を抜けると、裏庭の小さな扉が目立たない隅に隠されていて、断続的な嗚咽と冷たい罵声が中から聞こえてきた。
「役立たず共め!これ以上ミスしたら棒でせっかんした後、晩飯も抜きだからね!」
「泣くしか能がないのか。これだから下賤な輩は。この程度じゃ売れるなんてとてもじゃないが無理な話だ。」
驚いたわたしは扉の隙間から覗くと、やせこけた少女たちが怯えた顔で古い舞台に縮こまっている姿が目に入った。
そして教官の格好をする何名かの女性は教鞭を手にしておっかない表情をしている。
まもなく教鞭が振り下ろされると、少女たちの白い腕にはたちまち赤い血痕ができた。
なんてひどい!
わたしは余計なことを考えず、扉を突き破って少女たちの前に立った。
「白昼堂々暴力を振るなんて!舞人にとって怪我をしないことは最も大切で、ましてやこの子たちはまだ子供だよ!」
いきなり乱入したわたしを見てしばらく驚いていたが 、先頭の女性は横暴な態度を取り戻した。
「フンッ、何処の馬の骨は知らないが、舞姫の格好をして偉そうなことを言ってんじゃないよ。」
「馬の骨?あなたのように口が悪い人は光耀大陸で見たことがないわ。それに光耀大陸は古来礼楽を重んじると聞いたし、勝手に人をいじめるのなら官府の人を呼ぶよ!」
「いじめ?ふん、よそ者の分際で他人のことに口出しするんじゃないよ。」
「な……!ここは確か舞踊教室だよね?舞人である彼女たちが尊重されるべきでしょ?」
それを聞いた女性たちがいきなり爆笑し始め、言葉がますますきつくなった。
「舞人だと?ただ貧しい家の出身で、舞踊教室の落ちこぼれの卑しい娘共だよ。」
「その格好じゃ、お前もどこぞの酒楼で舞妓をやってるんだろう?同じようなものだから、いい加減上品ぶるのはやめたらどうだい?」
「だよね。餓死せずに済んだだけでも感謝されるべきよ。もし踊りが上手になって玉の輿に乗れたら、もう土下座してお礼を言わせてもらわなくっちゃ~」
「…………」
このような悪意に満ちた言葉を聞いたことのないわたしは拳を握り締めて、全力で怒りを抑えている。
「わたしがどんな格好をしていても、ダンスが特別な存在であることは変わらない。最も魅力を表現し、心を伝える方法に違いないから!ダンスはただの見世物ではなく、人に劣ることなんてないわ。わたしの故郷では、舞人も人々に尊敬される対象よ。」
「とにかくいじめは悪いことだから、彼女たちに謝りなさい。」
「調子に乗りやがって……いい加減黙らないと追い出すからな。」
わたしは引き続き反論しようとしたが、連中がたくさんの仲間を呼び出した。
大柄の暴漢たちを前に、わたしは全力で震え上がる女の子たちを庇うしかなかった。
でも多勢に無勢、わたしはあっけなく追い出された。
「パン!」
扉はきつく閉ざされ、手のひらには女の子たちの乾いていない涙が残っている。
周りは再び静寂に戻り、怒りと喪失感に包まれたわたしは自分の無力さも憎んでいた。
知らないところで舞人のことを見下し、家柄で人を判断するものがたくさんいる。
そして自分はなにもできない……
心が未曾有の悲しさと失敗感に覆われ、巨石に押しつぶされそうで息ができない。
ぼんやりしていると、足音が前方から聞こえてきた。
白衣長身の男のそばには、黒い小さな獣が伏していた。
そして彼の言葉がわたしを震わせる。
「あの子たちを救ってあげよう。」
Ⅳ.教習
「つまり、あの子たちの見受け金を出してくれるって!?」
思わず声を上げたわたしはちょっと恥ずかしそうに金駿眉と自称し、いきなり現れた食霊に振り向いた。
彼は微笑みながら、全く気にしていない様子だった。
「ええ、ちょうど鬼谷書院が生徒を募集しているから、その入学料なら支払いに足りるだろう。ただし……ひとつ条件がある。」
そのもったいぶった態度がちょっと不気味だけど、女の子たちのためにわたしは賭けてみることにした。
「わかった。できることならなんでもするから、あの子たちを救ってあげて!」
「ならば……書院で歴史文化を担当する先生は高齢のため退職予定だから、だから条件は……その穴を埋めてもらうことだ。」
「え……!?」
なにか無理難題だと思っていたが、まさかそれが目的だったとは。
「先生になればいいの!?それだけ……?でも……どうして助けてくれるの?」
金駿眉は顔色ひとつ変わらず、わたしの質問に答えなかった。
「知ってるか?さっきの場所は……ブラック教室だ。」
「ブラック教室……!?」
「連中は帰る場所がない女の子や少女を集め、ダンスを教えるのも彼女たちの弱みを握り、私腹を肥やすためだけだ。」
裏があると予想したとはいえ、実際に聞くとやはりイラッとする。
「権力をほしいままにするなんてあんまりだ……!そんな真似は法律に反するでしょ!今すぐ官府に抗議しに行かないと!」
「言いたいことはわかるが、こんなの光耀大陸では珍しくないことだ。いくら君が食霊であっても、それを根本的に解決することはできないだろう?」
「だったら、『思想』自体を変えたほうがいいのでは?」
金駿眉が落ち着いた顔で正論を述べ、それを聞いたわたしも納得した……
たとえ例の教室を取り締まっても、同じものが必ずほかの場所に存在する。ダンスも音楽も、すべての文化観念がもともと平等であることをより多くの人に意識させることが大切だ。
差別意識の排除、まさにわたしの願いでもある。
書院の授業でそういう認識を広げることができれば、本当に何かを変えられるかもしれない!
数日後ーー
書院に来たわたしの目に入ったのは、無気力や席で爆睡している生徒たちだった。
……これが本当に光耀大陸で有名な鬼谷書院なわけ?
まさか金駿眉のやつに騙されたんじゃ……
考えてる間、生徒たちがヒソヒソ話している声が聞こえてきた。
「頭が固いじじいがやっと消え失せたのに、また懲りないやつが来たな。」
「だよな、本当につまらないし、この科目を選んだ俺は馬鹿だった。」
そっと近づいたわたしはやっとその断片的な言葉から状況を把握した。つまり前の先生は博識とはいえ、授業スタイルが古くて説教好きで、生徒たちの反発を招いたわけだ。
そんな不満の声を聞いたわたしは閃いた……
「ゴホン、みなさん!パラータ出身の雪掛トマトだよ。今日から君たちの授業を担当します。」
「ではまず、お庭に出ようか〜」
わけがわからないまま空き地に連れ出された生徒たちを見て、わたしは少しながらも快感を覚えた。
「本日の授業内容はーーみなさんに『故郷』をテーマにして踊ってもらうわ。全員にね!」
案の定、庭中に疑問の声と悲鳴が上がる。
「はい、静かに。上手く踊ったら特別なご褒美を上げるわ。ではお手本を見せるからね。よくご覧、これがパラータのダンスよ!」
驚いた視線が注目する中、わたしはいつも通りにダンスを披露した。すると雷鳴のように轟く喝采を浴びた。
激励を受けたからか、自ら乗り出す生徒がつい現れた。
「や、やってみたい!われわれ塞北の人間はみな遊牧ダンスが得意だから!」
「へへ、誰も見たことはないと思うが、龍の舞を踊れるよ。」
「わたしは鬼谷出身だけど、母ちゃんから玉京的扇子舞を学んだことがあるんだ。」
……
笑い声が上がると同時に、雰囲気が一気に和らいだ。
遊びとはいえ、わたしが思ったより何倍も効果的だった。
「あの、先生は一体何を教えてくれるの?」
「ゴホン、もちろん前の先生の代わりに風土文化の授業をするけど、やはり教科書ばかり読むより自ら体感したほうがいいとわたしは思うの。」
「みんなを連れて巡礼の旅をすることは無理だけど、ダンスを通じてより多くのものをみんなに見せることができると信じているわ!」
わたしの話に興味を引かれたかのように、元気を取り戻した彼らの目が期待に輝いている。
どうやら成功したようだ〜と考えたわたしは思わずホッとした。
まだ全然気づいていない生徒たちを前に、咳払いをしたわたしはわざと厳しい口調で話した。
「ただし、どうやらみんなのうごきはまだまだだから、これからはダンスの基本から練習しよう。さあ、まずは足のストレッチを始め、全員でスプリットができるように目指すわよ!」
「ええーー!?」
Ⅴ.雪掛トマト
麗らかな春の日に、花びらが暖かい風とともに空に舞う。
書院の前に立っている雪掛トマトが次々と入ってくる初々しい生徒たちを眺めている。
「101、102……そういえば、金駿眉が話した新入生は何人だっけ……」
赤い服の少女は呟くと、ふと柳の下で荷物を背負いながら、ぼんやりした顔で周りをキョロキョロと見ている白髪の少年が目に入った。
「おいーーそこの新入生、さっさと入らないと遅刻するぞー!」
「新入生?私のことか?」
「そうよ!君……!」
ラオフーツァイが反応する前に、女性が軽やかな姿で目の前に現れた。
次の瞬間、突然目を丸くする彼女は大喜びで彼の腕を掴んだ。
「なんという素晴らしいボディ!きれいなラインに鍛えられた筋肉、まさに踊りの申し子!ついてきて!」
「え???」
まだ状況を理解していないラオフーツァイがいきなり抗えない力により人ごみの真ん中に引っ張られた。
「こんなに才能に恵まれた生徒はみんなの前に立つべきよ!これは私の新作ダンスだから、一緒に踊るわよ。」
何か新手な入学テストではないかと考えてる間、もう生徒たちの拍手を浴びていた。
でも踊りが進むと、もともと美しくて颯爽とした姿がだんだん剛健な拳法となり、雪掛トマトが思わず眉をひそめた。
といっても喝采の声が依然として上げられ、意外とその場を盛り上げた。
「だからここは正拳突きではなく手を振るべきところだし、太ももも引き締めすぎないように……それと……」
少女の説教に我慢できないラオフーツァイはついに大声で反論した。
「……もう手足が折れそうだよ!金駿眉に授業を頼まれたときはそんなに面倒だとは言ってなかったぞ……!」
「授業……?金駿眉は見受け金を支払ってばかりなのに、新しい先生を雇う金などどこにあるっていうのかしら?」
「金?いや、金駿眉に借りがあるからタダでやるつもりだから、三食昼寝付きを約束してもらっただけで……そして武芸を教えるのも私自身がやりたいことだから!」
それを言った瞬間、生徒たちが興味津々のようすで押し寄せてきた。
「武芸の達人なのね!どうりで強かったわけだ!」
「ぶ、武術の勉強がしたいから!先生の授業に参加してもいい?」
「僕も!踊りなんて面倒くさいからやりたくないよ。」
「え……?いいとも!みんなが学びたいのなら全部教えてやってもいいよ!」
ついさっきまでダンスに全然興味を示してなかった男子生徒があっという間に新参の先生を囲んでいるシーンを見て、ついイラっとした雪掛トマトが声を上げ、口調も鋭くなった。
「ふん、小僧ども、よくも裏切ったな!武芸も身体能力が基本だから、あんな千鳥足で学ぼうとするなんて笑止千万よ!」
「とにかく、まずは基礎練習を何時間も追加してあげるわ!」
「え!?やだよ……!!」
生徒たちの悲鳴の中、少女は曲を口ずさみながら得意げに立ち去った。
依然として状況を理解していないラオフーツァイだけがそのまま立ちすくんでいる。
「ちょ……だから……一体何ものなんだ!?」
それを聞いて、最初に騒ぎを起こした男子生徒が少し複雑な表情を見せた。
「先生は知らないかもしれないが、彼女はダンスを教える先生で、とても綺麗でしょう?だから書院に来て1週間もたたないうちにもうすっかり有名になって、みんなから女神と呼ばれているんだ。」
「とても素敵な先生だけど、ダンスの勉強を強要するのは玉に瑕かな。本当は人文歴史を担当するはずだけど、みんなはもうすっかり忘れたみたいで……」
「でも先生が踊る時は本当に魅力的でした!おかげでダンスにもたくさんの歴史と文化があることも勉強できたし。」
生徒たちの話を聞いて、ラオフーツァイがついに納得した。
飛び交っていた文句がとっくに消え去り、心からの敬愛だけが残っている。
生徒たちはいつの間にか笑顔になった。
彼らが気づいてなかったかもしれないが、みんなが知らないうちに雪掛トマトという輝きに照らされていた。
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