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稔歳之佑・ストーリー・山の精霊の昔話

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作成者: 時雨
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#include(稔歳之佑・ストーリー・山の精霊の昔話,)

※誤植等が多いため、文脈的に正しいと思われる部分を差し替えたものを表記しています。

山の精霊の昔話・三

もしかしたら、あいつは本当に強いやつかもしれないな。


羊方蔵魚:ほう、どうやら、この絵に描かれているのは、忘れ去られた山の精霊のようです。

状元紅:山の精霊……?私もしばらくその村に住んでいますが、他の人からそんなことを聞いたことがありません。

羊方蔵魚:絵の前でめでたいとか、お祭りとその言葉を言った人がいるのなら、なにか知っているはずです。

状元紅:……?

羊方蔵魚:その、そういえば、以前骨董品市場で似たような絵を見たことがあることを突然思い出しました。売り手がそれは山の精霊だと!だから、詳しく知っている人がいるはずです。

状元紅:だとしたら、村の中になにかを知っている者もいるかもしれません……

蛇腹きゅうり:ああ、そうだ。村で起こっていた怪事件の調査は進んでるか?手伝う必要は?

状元紅:書院が村民に配った年越し料理はもう村民たちに渡しました。私が今回来たのも村民たちに代わって感謝の気持ちを伝えるためです。

老虎菜:食べ物がいきわたってよかった!あれは書院に貯蔵されていたお年越し料理で、お正月にここに泊まるのは俺たちだけだから、そんなに食べられないんだ。村民たちへのお詫びをかねてちょうどよかった。

状元紅:ああ……最近、怪事件はおさまったが、行方不明になった子供たちの事件はまだ進展がない。

蛇腹きゅうり:私たちは結果的に地宮に2回行ったが、年越し料理以外には子供たちの痕跡は見つからなかった……もしかしたら彼らは他の場所に隠れているのかもしれない。

状元紅:私も泥棒や強盗の仕業だと疑ったが、その場合、相手は金目当てのはず。しかし、村にはまだ身の代金の知らせは来ていません。そんな単純ではないかもしれません。

羊方蔵魚:もし、この絵に描かれている山の精霊が本当に地下宮殿に関係値しているのであれば、その子たちは地宮に捕らわれていることはなかったはずです。

雪掛トマト:どうしてそんなに確信があるの?

羊方蔵魚:絵に描かれている山の精霊が教えてくれました!絵の中のものに感情がある。俺の長年絵を見てきた経験からすると、この精霊はきっと善き獣に違いない。

雪掛トマト:……

蛇腹きゅうり:ところで、子供たちが村から消えたということは、その間に村に見知らぬ人が現れてませんてましたか?

状元紅:……そういえば、あの日茶屋で出会った黒衣の人たちと食霊はとても怪しかった。

雪掛トマト:そうよ、あの黒衣の人たちは邪気が強すぎる、良い人には見えないね!

状元紅:私もこの件について重点的に調査します。時間も遅くなりましたから、先に帰ります。今日はお世話になりました。

蛇腹きゅうり状元紅さん、遠慮しないでくれ。なにか問題あったら俺たちを呼べばいいです。俺たちも時間のある時は学院の近くを詳しく調査するから!


 状元紅を送り出した後、庭は暮れていき、みんなそれぞれに考え事をしていた。


老虎菜:あの山の精霊は本当に地宮の中に隠れているのか?そういえば、地宮は荒れ果てていたが、昔はとても華やかだったことはわかる……もしかしたら、あいつは本当に強いやつかもしれないな。

雪掛トマト:山の精霊は……本当に存在したのなら、なんらかの記憶が残されているはず。

蛇腹きゅうり:……また閉じこもるのか。

雪掛トマト:なによ、一緒に調べたいの?でも蛇腹きゅうりは書閣の古文書が理解できないかもしれないよ〜

蛇腹きゅうり:ふん、勉強しすぎないように注意してあげただけだ。本を何冊も読まないうちに、気絶したら……俺はあんたを運び出す羽目になる。

雪掛トマト:心配してくれてありがとうございます!この前はただの事故よ。今回はきっとご迷惑をかけませんわ!みんな、わたしは失礼するね。

羊方蔵魚:あれ、雪掛先生は踊りを踊っているんじゃないですか、古書の研究もしているんですかる

蛇腹きゅうり:あいつが本業を怠っているからだ……彼女はもともとここで文化や歴史を教える先生だ。書院のために何冊も異国地方誌を編纂してくれたが、それ以上に踊りを教えたいようだ。

老虎菜:そうだよ、それにあの踊りは本当に難しいぞ。あ、羊方蔵魚、雪掛はお前に踊りを教えようとしなかった?

羊方蔵魚:うっ、彼女に教わらなくて本当によかった……

老虎菜:もしかしたら、彼女はあなたがまだ弱っていると思っているだけで、体調が良くなってから教えてくるかもしれないぞ。

羊方蔵魚:心配いらない、体調が良くなったらすぐ帰るつもりだから……

羊方蔵魚:そういえば、先程書閣の話をしていたけど、書院を歩き回っているけど、書閣をみたことがない。そいつはどこにあります?

老虎菜:書閣は庭の西側の假山のそばにある。とても遠いところだよ……でも中には古書や古画、骨董品がたくさんある。普段は鍵がかかっているが。

羊方蔵魚:古画……?おお、俺も入って見学できますか?

蛇腹きゅうり:あれは書院の私有財産だから、外客は入れないと院長様が言っていた。

羊方蔵魚:ほほう、この書閣にある宝物は本当に特別だねぇ……

蛇腹きゅうり:悪知恵を働かせないように忠告しておくぞ。うちの院長は怖いからね。

羊方蔵魚:もちろん、もちろん!金駿眉様のご名は以前から聞いているし、心配しなくても大丈夫ですよ。


山の精霊の昔話・四

精霊ありけり、深き洞窟にて閑居せん……


書閣


 明るい灯りが静かな廊下を照らし、部屋中には淡い本の匂いが漂っていたが、そこに軽い足音が響いて平穏な空気を打ち破った。


蛇腹きゅうり:こんな時間なのにまだがんばっているんだね。

雪掛トマト:あなたどうして来たの……今何時?

蛇腹きゅうり:午夜の時間だよ、時計の音が聞こえなかったのか?

雪掛トマト:まだ午夜か……まだまだ早いわ。

蛇腹きゅうり:……こんなに本がたくさんあるのに、いつまで探すんだ?俺が手伝おうか。

雪掛トマト:ふん、なんでそんなに親切なの?なにか企んでる?

蛇腹きゅうり:親切だとわかっているなら、その減らず口をよせ……まあ、書院や村の人々に関わることだから、俺は手をこまねいていられないんだ。

雪掛トマト:わかった、私も助けてくれる人を困らせるつもりはないわ。ほら、この棚には光耀大陸の古今地方誌だから、そこから役に立つ情報を探さかないといけないの。

蛇腹きゅうり:そんなに……?干し草の山から針を探すようなものではないか?

雪掛トマト:うん、確かに大変だよ。時間があったら、金駿眉に言っておこう。生徒たちと一緒に整理して、索引を作ろうかな。……そうすれば、生徒たちも古典を多く学べるようになるよ。

蛇腹きゅうり:ふん、先生っぽいとこもあるんだな。踊りのこと以外なにも考えていないのかと……

雪掛トマト:ちょっと、生徒に踊りを教えるのも授業の一部なんだよ!踊りには土地の文化や歴史が詰まってるんだからね!まったく、なんにもわかってないんだから……

蛇腹きゅうり:わかった、わかった、浅はかだったよ。よし、早速手を付けないと、いつまでたっても調べ終わらないよ。

雪掛トマト:ふん、ではそっちの棚を任せるわ、私はこっちを探す。


 部屋は再び静寂に包まれ、さらさらと本をめくる音だけが残される。ろうそくの炎が揺らめき、時間が過ぎていく。もうどれほど時間が経っているか、雪掛トマトは疲れた目をこする時、横にいる人が突然驚きの声を上げた。


蛇腹きゅうり:雪掛、これを見てくれ!遠くの山々がそびえ立ち、草木が美しく……精霊がなんとかって――これはなにを書いているのだ?

雪掛トマト:精霊ありけり、深き洞窟にて閑居せん……と絵の中に書いてある。精霊は輝かん。黄金の宮殿で道をさまよい、音楽が奏られ優雅に舞が舞われん。美味なる食物と酢を供え、祭儀を行わん。歳除の夜、永遠に恵みもたらさん……

蛇腹きゅうり:もしかして……あの山の精霊を記録したものだろうか?見る限り、この地域の村民たちからも崇拝されたようだ。

雪掛トマト:そう、ここには歳除の夜に祭儀が行われることが明確に記されている……今の時期に近いわ。

蛇腹きゅうり:今では山の精霊についての言及する人はいなくなり、祭儀も廃止されているだろう。最近起こった怪事件も地下に隠された山の精霊と関係があるのか?

雪掛トマト:この祈祷の言葉から見ると、山の精霊も邪悪な獣ではなく、この地域の豊作を守る善神として崇拝されていたみたいね……

蛇腹きゅうり:これだけの情報では判断がつかない。もう少し探してみよう……


 ガシャッ――書閣の扉が力強く開けられ、老虎菜が勢いよく入ってきた。


老虎菜:おい、蛇腹きゅうり、ここにいたんだな!早く、いい知らせがあるんだ!

蛇腹きゅうり:なんの知らせだ?

老虎菜状元紅からの伝言が届いた。行方不明の子供たちが全員見つかったぞ!

雪掛トマト:本当!?よかった……でも、状元紅が帰ったばかりじゃない、こんなに早く?どこで?

老虎菜:あの、彼は自分が見つけたわけじゃないって――

蛇腹きゅうり:だったら誰が……?

老虎菜:俺も不思議に思ったが、彼はそれ以上なにも言わなかった、今は子供たちの世話で忙しいはずだ。

雪掛トマト:おかしいわね、わたしたちが何日も探していたのに、なかなか進展がなくて……どうして急に見つかったのる

蛇腹きゅうり:それなら、俺たちも行ってみよう。きっと状元紅は手伝いが必要なはずだ。

雪掛トマト:うん、今すぐ出発しよう!


山の精霊の昔話・五

昔のことには執着する必要はないと、わかってほしい。



 山の麓にある小さな村には灯りがともり、ぼろぼろの服を着た無邪気な子供たちが村の入り口に集まり、駆けつけた親族たちとの再会を待っていた。

 再会する人々は、時折悲しい涙を流すこともあり、書院の数人はその光景を見て静かになる。すると、人ごみの中で見覚えのある赤い姿を見つけた。


蛇腹きゅうり状元紅……やっと見つけた。

状元紅:あなたたち……

雪掛トマト:伝言を聞いてすぐに山を下りた。子供たちが見つかったことは本当によかった!でも、彼らを連れて帰ってきたのは誰だったの?

状元紅:あの白酒という食霊でした。

蛇腹きゅうり白酒……?

状元紅:彼はあそこにいる……女児紅が彼に言いたいことがあると言って、私はしばらくここで待っています。


 状元紅の少し心配そうな視線を追うと、薄暗い片隅で、女児紅白酒の裾を執拗に引っ張っているのが見えた。しかし、白酒は面倒くさそうなようすだ。


老虎菜:いや、女児紅さん……泣いてるんじゃないのか?

雪掛トマト:あいつ、まさか女児紅ちゃんをいじめてるんじゃないよね?だったら懲らしめてやらないと――

状元紅:話を終わらせた方がいい……女児紅のあんな表情を見たことがない、本当になにか大事な話があるのかもしれません。

蛇腹きゅうり:今の状況や前回の感じを見ると、女児紅さんが必死に白酒と話をしているように見えるが。

雪掛トマト:彼らは……いったいなにを話しているのかしら……


 みんなが話している時、白酒が手を振り、女児紅は足元がよろめき、地面に座り込んで、目の中の涙は切れ糸のように流れ出て止まらなかった。

 状元紅の目から火花が飛び散り、急いで少女を抱きしめる。顔を上げると、彼の目には抑えきれない感情が溜まっていた。


雪掛トマト:ちょっとあなた!女の子をいじめてどういうつもり?

蛇腹きゅうり:雪掛、待ってくれ!


 鋭い氷雪が怒りの刃に変わり、白酒に向かう。白酒は平然とした顔で剣を振りかざし、鳴り響く音の中で氷の刃をかすめ、そのまま雪掛トマトと方向に襲い掛かった。

 3人とも驚いたが、火花が散る中、硬い鞭と鉄拳がたけだけしく迎え撃つ。


老虎菜:おい、女の子に手を出すなんてどういうつもりだ?

白酒:……戦いたいなら遠慮なく、3人一緒でもいい。

雪掛トマト:あなたは……!?

状元紅:その前に、私たちは決着をつける必要があります。

白酒:お前が望むなら、いつでも相手をする。


 2本の剣が抜かれ、刃の光がふたりの顔を雪のように冷たく映し出した。雪掛トマトはなにか言おうとしたが、背後で蛇腹きゅうりに袖を引かれた。

 状元紅の表情は粛然としており、冷たい殺意が眉間に沸き上がるが、柔らかい手に剣を執る腕を引っ張られた。女児紅は憂いた表情を浮かべ、軽く首を振った。


女児紅状元紅兄さん、勘違いです……彼は私に手を出したわけではありません、自分で転んだだけです……

状元紅:あの日地宮から帰ってきてから、あなたはずっと落ち込んでいたのは……あの人のせいですか?

女児紅:……いいえ、あなたにわからないこともあります。


 女児紅は黙って頭を垂れ、この状況を見た状元紅はため息をつき、手にしていた剣を引っ込めて目の前の白酒を見た。


状元紅:もういい、行ってくれ。

白酒:悪気はなかった。今日も子供たちを連れ戻すために、ここに来ただけだ。

白酒:それから、女児紅さん、言っただろう……昔のことに執着する必要はないと、わかってほしい。

女児紅:でも……今と過去の区別がつかなくなってしまいます……

白酒:ただ今ここにいるすべてが事実だ……他にも用事があるので、失礼する。

蛇腹きゅうり:待って……あの子供たちをいったいどこで見つけたんだ?


山の精霊の昔話・六

またうさぎ……これらの怪事件はやはりあの地宮と関係しているのか?


蛇腹きゅうり:待って……あの子供たちをいったいどこで見つけたんだ?

白酒:裏山の洞窟にいた。

雪掛トマト:裏山の洞窟……?この数日間、私たちは後山のあちこちを捜索していたけど、そんな場所は見つからなかったはず……

蛇腹きゅうり:裏山の地形は複雑だ。近くの村民でも山に薬草を採るときに迷うことがある……どうやって見つけたんだ?単に偶然山に行っただけか?


 みんなに質問されて、白酒は不機嫌そうに眉をひそめたが、説明をするつもりはないようだった。


白酒:そういうことについて、俺が理解できるまで答えることはできない。失礼。

雪掛トマト:ちょっと待て!――もう、礼儀知らずめ!もう行っちゃうの!?


 雪掛トマトが怒って足をドンドンと踏み鳴らすも、柔らかく小さな手が裾を引っ張ってくる。


村中孩童:お姉ちゃん、あの人……悪い人じゃないよ。彼は僕たちを救ってくれた。

雪掛トマト:そうだ。さっきは混乱していて、なにも聞けなかったけど……坊や、誰があなたたちを連れ去ったか覚えている?いったいどこにいたの?

村中孩童:わからないんだ……誰かに殴られたら気絶したような気がして、気がついたらお兄さんに連れて帰ってもらってたんだ。

蛇腹きゅうり:殴った人の顔を覚えているか……?

村中孩童:覚えてない。仮面を被っていたような……あ、そうだ、気を失った後、ずっと夢を見ていたんだ。

雪掛トマト:……どんな夢?

村中孩童:ずっと不思議な音楽が聴こえて、夢の中の場所が村に似ているような、似ていないような……毎日美味しいものもたくさん食べて……

老虎菜:お腹が空いているから、そんな夢を見たんじゃないか?俺もそんな夢を見たことがある!

村中孩童:でも、一番すごいのは、二郎と花ちゃんも同じ夢を見たって!それに、食べものも全部同じだったんだ!

老虎菜:そ……そんなこととあったのか?

村中孩童:うん、だから、そんなに怖くなかった……すごく楽しい夢だったし!

雪掛トマト:みんなの体に怪我はなさそうだし、不幸中の幸いとしよう……

村中孩童:あ、そうだ、夢の中で美味しいものを届けてくれたのは小さなうさぎだったよ。両親を思い出して、悲しくなると、うさぎさんが遊んでくれたんだ!

雪掛トマト:うさぎ……?


 その時、みんなの近くで心配そうに手を振っている夫婦を見て、少年は急いで彼らに別れを告げた。みんながためらいがちに顔を見合わせ、それぞれ考え込んでいた。


蛇腹きゅうり:またうさぎ……これらの怪事件はやはりあの地宮と関係しているのか?

雪掛トマト:あの子達がなにも知らないのは残念ね…あの洞窟に行って確認しよう!

状元紅:まあ、そうするしかないでしょう。仮面の男たちがわざわざ子供たちをさらったのに、なにもしていなかったのは、別の目的があるのかもしれません。

女児紅:私も、皆さんと一緒に行きます。

状元紅女児紅、あなたは村で休んだ方がいいのでは?

雪掛トマト:そうね、日も暮れるし山道は危ないし……先程も……女児紅さんはここでゆっくり休んで!

女児紅:みんなの足を引っ張らないようにします、子供たちがなにか起こったのか調査したいです……それに、自分に関係することを解明したい。この旅が役に立つかもしれません。

状元紅:……それなら、私について来なさい。

女児紅:はい……


 山道の途中まで行くと、露が濃くなり、月が雲に隠され、薄牛乳色の霧が目の前を包み込む。まるでカーテンのように重なり合って降ってくる。


蛇腹きゅうり:霧が出てきた……前が見えにくいから、ちゃんと前の人に、ついて行くんだ。

老虎菜:この霧は怪しいぞ。先程まで晴れていたのに。

女児紅:あそこに……なにかが走っていきました!

状元紅:みなさん、気をつけてください、堕神か野獣かもしれない。このような霧の日は注意して対処しないといけません。

雪掛トマト:違う……見て、あれは……


 霧が立ちこめ、草木が揺れている。少し離れたところで、白いうさぎが一歩ずつ後ろを振り返りながら跳ねている。時々、耳を軽く動かして、後ろにいる人たちの愚かさを嘆いているようだった。


女児紅:うさぎです……どこかに案内しようとしているのでしょうか?

状元紅あのうさぎです。でも、前回よりもっと小さく見えますが……あのうさぎについて行きましょう!



山の精霊の昔話・七

なにかをこちらに伝えようとしているのかしら。


 白うさぎを追って密林を回ると、やがて目の前がパッと開けて、霧が晴れてくる。わびしい月の光に照らされて、山洞の入り口が藤の蔓に覆われた様子がはっきりと見えた。しかし、振り返ってみると、白うさぎに姿は消えていた。


状元紅:洞窟です。あのうさぎはわざと私たちをここに導いたのですか?

雪掛トマト:この洞窟はうまく隠されているね。私ちが数日探してもみつからなかったのは不思議じゃはいわ。中に入りましょう!


 みんなは洞窟の入り口を隠そうとする草や蔓を払いのけ、洞穴に入った。その中には大きな穴があぬた。洞窟の天井の裂け目から漏れてくる淡い光が、なにもない空間をさまよい、薄暗い中に立ち現れた細長い黒影をほのかに照らした。


蛇腹きゅうり:誰かいる!

白酒:お前ら、ここを見つけたのだな……

雪掛トマト:なぜまたあなたなの?ここで子供たちを見つけたんでしょう?どうしてまたここに来たの?

白酒:調査のためだ。

雪掛トマト:……?

白酒:お前らも調査に来たのなら、ご自由にどうぞ。ただし、邪魔はしないでほしい。

雪掛トマト:傲慢なやつ。まあ、あっちに行って見よう。


 みんなはそれぞれに、洞穴の中を石や木々をよく調査していたが、突然、雪掛トマトが驚いた声を上げた。


雪掛トマト:早く来て、見つけたよ!

蛇腹きゅうり:……?なにを見つけたって?

雪掛トマト:ほら!壁に描かかれたものを見て!

蛇腹きゅうり:見覚えがあるな、地宮の絵と似ているぞ!?状元紅、こっちを見てくれ!


 状元紅が松明を持ち上げると、火光に照らされ、石壁の模様の間に緑の蛍光が点滅し、古代の幽霊が蘇っているようだ。


状元紅:間違いない……祭壇に描いてある模様です!

女児紅:……まさか、こおと地宮が関係している?そういえば、先程はうさぎがここへ案内してくれたけど、もしかしたらここと地宮は繋がっているかもしれない!

老虎菜:でも、地宮の祭壇は絵巻がないと開かないはずだし、俺たちも絵巻を持っていないよ。

白酒:この石壁の向こうになにかあるなら、剣で斬ればいい。

雪掛トマト:ちょ、ちょっと!無茶しないでよ!


 白酒の腰に掛けた剣はまだ鞘から出ていなかったが、壁から金色の光が溢れ出しやみんなが一斉に動きを止めた。すると、白うさぎが影から飛び出してきた。


白うさぎ:きゅっ、きゅっ……

女児紅:うさぎちゃん……またあなたね。

雪掛トマト:なにかをこちらに伝えようとしているのかしら。

老虎菜:なんだか怒っているように見えるなあ、悪口を言っているみたいだ……時々、トラたちもこんな顔をするから。

白うさぎ:きゅっ!


 みんなが困惑していると、白うさぎは耳を振り、呆れたように身を転がし、壁に向かって何度か跳び、やっと壁の一番下の模様に触れた。その時、まばゆい金色の光が溢れ出した。

 洞窟全体が一瞬黄金の光に包まれ、輝かしい宮殿みたいに照らされる。石壁全体がゆっくりと揺れ始めた。


蛇腹きゅうり:本当に仕掛けだ……!

白うさぎ:きゅっ、きゅっ!


 洞窟では瓦礫が落ち、轟音が絶え間なく響いている。石壁の間の隠し扉がゆっくりと開き、そこから正体不明の物体がいくつも転げ落ちてきた。


状元紅:あれは……人ですか!?


山の精霊の昔話・八

あいつらはやはり逃げ道を確保していた。


 地面にもがいている何人か縄で縛られ、口の中に布を詰め込まれたまま嗚咽していて、顔も歪んで紫色になっていた。


蛇腹きゅうり:この人たちの服装から見ると、山賊みたいだけど……

雪掛トマト:確かに、良い人には見えないね。彼らを解放して、聞けばわかるよ!


 自分を縛っている縄が切られたのを見て、山賊たちは震えながらひれ伏して地面を頭でゴンゴンと叩き始めた。


山匪:英雄の方々、お願い、助けてくれ!も、もう二度としません!

雪掛トマト:なにをしたの、さっさと言いなさい!

山匪:お、俺たちはあいつらに脅されて利用されて、子供たちを連れ去った……俺たちも騙されていたんだ!

状元紅:村の子供たちを誘拐したのはあなたたちでしたか!?……誰の指示?言いなさい!

山匪:英雄様、手を出さないでください!言います、言います!

山匪:数十日前、あの黒服の人たちが突然やってきて、俺たちと取引を……山の下の子供たちをここに誘拐すれば、報酬をくれると。

白酒:黒服……なんのために子供を?

山匪:……こ、この子たちを使ってなにか儀式をするだって言って。俺たちはお金を稼ぎたいだけで……詳しくはわかりません。

状元紅:儀式……?あの子たちになにかしたのですか!?

山匪:それは……本当にわかりません。彼らが来たとき、俺たちは外に見張れと追い出されました……

山匪:ただ一度だけ、彼らが細い針で子供たちの血をとっているのを見ました……でも数滴だけ……

雪掛トマト:ちくしょう、あいつら……他には?他になにを知ってる?

山匪:そ、そういえば子供たちは、小さい頃から霊力に祝福されて、非常に清らかな存在だと言っていたような……それ以外には、本当になにも知らないんです。

蛇腹きゅうり:なら、あんたらはなぜここに縛られていたんだ?

山匪:数日前、俺たちは洞窟で休んでいたのですが、いつの間にかその暗い部屋に落ちてしまい……目が覚めると、手足を縛られていたんです……

山匪:英雄の皆様、ごめんなさい!神様の怒りにふれ罰を受けたんです。本当に反省してます!

白うさぎ:きゅっ、きゅっ!


 山賊たちは悲鳴を上げながら頭を地面に打ちつけるのを見て、そばにいる小さなうさぎは憤りの声を上げ、軽蔑したように横を向いた。


状元紅:あなたたちの罪はそう簡単に帳消しにはできません……一緒に山を下りて府衙に行きましょう。

山匪:え、英雄様――

蛇腹きゅうり:おとなしく起きろ!力が残っているのなら、役所の裁判官に弁解するんだな。


 言い逃れはできないことがわかると、地面に伏していた山賊の目には冷酷な色が現れた。彼は突然飛び上がり、手にした冷たい光る曲刀で一番近い女児紅に迫った。


状元紅:……!?


 他のみんなが反応する前に、白と赤のふたつの影が女児紅の前を素早く遮り、カランという音の中、曲刀は鮮血の赤とともに落ちた。

 山賊は顔を押さえて地面を転げ回り、白酒は無感情に剣を振り上げたが、状元紅に軽くそれを受け止められた。


状元紅:まだ真相がわからないので、彼を残しておかなければならない……

雪掛トマト:待て……彼ら、なにかおかしい。


 這いつくばっている山賊たちは、恐ろしい形相をして、口の端から泡を吹いていたが、やがて声も出なくなった。


白酒:彼らに手を出す必要はなかったようだ。あいつらはやはり逃げ道を確保していた。

状元紅:あいつら……あの黒服の人たちを知っているのですか?

白酒:……なにも申し上げることはない。

状元紅:……あなたが言わなくても、私は引き続き調査します。

状元紅:さっきは……助けてくれてありがとう。


 状元紅は軽く礼を言い、白酒はうなずいたが、女児紅は複雑な目つきを避けていた。彼は剣を収めるとら一人去っていった。


雪掛トマト:なんでまた……一人で行ってしまったの。え、この石壁の上に、うさぎの石像が?


 全員が雪掛トマトの指指す方角を見ると、荒々しい石壁の真ん中に、一匹の石うさぎが彫られていた。それは祠の上に鎮座し、信者の崇拝を受ける神のように尊厳な姿を見せていた。


終わり・旧友との再会

山の精霊がそんなにたくさんのことをしてくれたのに、みんなに忘れさられたなんて。なんだか、かわいそう……


数日後

鬼谷書院


 一年の最後の授業が終わり、生徒たちは小鳥のようにざわめきながら荷物をまとめている。雪掛トマトは子供たち一人ひとりに「帰り道は気をつけて」と注意を促し、それでも心配しながら校門まで見送る。


蛇腹きゅうり:もういいよ、皆遠くに行ってしまったぞ。

雪掛トマト:あなた、どうしてここにいるの……

蛇腹きゅうり:そんなに子供たちが恋しいのか?年が明けたら会えるじゃないか。

雪掛トマト:彼らが心配なのよ。この間のこともまだ解決してないし、もっと注意しなきゃ。

蛇腹きゅうり:安心しろ、状元紅によると、あの件から村は警備を強化し、昼夜パトロールが行われるようになった。

雪掛トマト:ならよかった……


 話している間に、近くの山道に2、3人の姿が現れ、彼らは手を振りながら歩いて来たみたいだ。


雪掛トマト:あの人たちは見覚えがある……八宝飯たちよ!?

蛇腹きゅうり:本当だ!それに大きな猫に乗っている子供もいる……

八宝飯:良かった、嘘じゃなかったんだ。この荒れ野には本当に書院があるんだね!久しぶり!

蛇腹きゅうり:あんたら、どうしたんだ?

マオシュエワン:それは、誰かさんが前回の仕事をうまくこなせなかったので、石碑の修理を続けるために戻ってきたんだよ。

八宝飯:自分は関係ないみたいな言い方しやがって……そうだ、オイラたちは今日、高麗人参からの伝言も預かっているんだ。

雪掛トマト高麗人参……?

八宝飯:ええと、つまり地府のあの閻魔大王だよ。

蛇腹きゅうり:あなたたちは地府の人だったのか?!そうか……

八宝飯:その通り、先に身分を隠したのも本意ではなく、高麗人参に地府の情報を漏らしてはいけないと指示されてたんだ……

蛇腹きゅうり:問題ない。俺も地府についてはある程度知っているから、あんたらのやり方もわかる。

八宝飯:ふふ、でもオイラは高麗人参に言ったんだ。書院のみんなは正直な人たちだって……そうだ、預かっている伝言も、あの日地宮で起こった怪事件と関係があるかもしれない。

八宝飯:猫耳ちゃん――

猫耳麺、おふたりさん、こんにちは。高麗人参様の言葉を、僕が代わりにお伝えします。「鬼谷近くの山野に霊力が豊かな宝地があり、偶然その地に一匹の霊獣が生まれたことがある」

雪掛トマト:霊獣……?地方誌に載っている山の精霊のことかしら?

猫耳麺:その通りです。かつては地元の山民に崇拝されていたことがあり、その後、山河陣もこの地を陣眼のひとつとして設置していました。ふたつの力が合わさり、その霊獣がもっとも強い時には、一般的な食霊も超えるほどの力を持っていたそうです。

蛇腹きゅうり:山河陣……書院の近くには山河陣の陣眼があったのか。

雪掛トマト:それは凄い陣法なの?

蛇腹きゅうり:光耀大陸の天幕をつなぐ大陣という話だ。

雪掛トマト:やっぱり鬼谷の風水はいいのね……道理で金駿眉がここに書院を建てたわけだ。その後は?

猫耳麺:その後、麓の戦乱が頻発し、民も流浪しているうちに次第に山の神を祭る伝統は廃れ、加えて最近は山河陣も……とにかく、ここ数年、あの霊獣の霊力も急速に衰えています。

猫耳麺高麗人参様も眠っているうちに偶然、山の精霊と交流し、たぶん……その精霊が人参様に接触したのでしょう。

雪掛トマト:山の精霊はなにを言ったの?

猫耳麺:昔、人々が地宮を修繕したとき、山の精霊は地宮の入り口をいくつかの絵巻の中に封印し、村の尊敬される長老に託しました。

猫耳麺:毎年の正月、人々は地宮で儀式を行い、食べ物を備えますが、最近は誰も訪れていないそうです。

猫耳麺:山の精霊は自分の力が次第に失われていることを知っていますが、麓の人々が山洪や台風、野獣や毒虫から守るため、自分の霊力を使い続けています。

猫耳麺:残った微かな霊力を維持するために、山の精霊は村民から年越し料理を少し盗んでいました……そのことについて、彼も申し訳ないと思っているようです……

雪掛トマト:年越し料理……?地宮にある食べ物は、山の精霊が自ら盗んできたのね……

猫耳麺:うん、でもほとんどの年越し料理は肉で、山の精霊が食べられるものが少ないんだって……昔の人々は彼がうさぎの精霊だと知っていたから、いつも野菜や果物を供えていました。

雪掛トマト:うさぎ!?

八宝飯:そうだよ……オイラたちが地宮で見た小さなうさぎは、山の精霊の霊力が衰えた姿だろう。

蛇腹きゅうり:それなら……彼は山賊がいる洞窟に俺たちを案内してくれた。黒服の人たちがなにをしようとしているのか知ってるか?

猫耳麺:彼もよく知らないみたいだけど、あの黒いやつらにちょっとした罰を与えて、寝ている子供たちにも食べ物を与えたって。でも、精霊の力は限られていたから、最後は一人の食霊が子供たちを救い出してくれました。

雪掛トマト:そうだったんだ……あのうさぎの精霊は、今でも地宮にいるの?

猫耳麺:僕もよくわかりません。人参様が教えてくれたのは、山の精霊は以上を話した後、力を使い果たしたみたいで、眠りに落ちました。

雪掛トマト:山の精霊がそんなにたくさんのことをしてくれたのに、みんなに忘れさられたなんて。なんだか、かわいそう……(※一部文章が欠けている可能性があります)

八宝飯:それは簡単だよ!山の精霊の話をもう一度村で広め、信仰が戻れば、彼は必ず復活する。

雪掛トマト:そうだね……蛇腹きゅうり、急いで麓に行って、このことを状元紅たちに伝えよう!


波風が立つ茶屋・一

……彼らは今の白酒とはもう縁がない。


大晦日前夜

聖教


 暗い部屋の中、華麗なカーテンから儚げなろうそくの光が少しだけ漏れている。チキンスープは寝台に半ばもたれかかって、目を閉じている。

 カーテンが突然開けられ、目の前の冷たい表情の男が上から見下ろした。男の後ろには、入り口にいたはずの黒服の者たちが地面に倒れている。


チキンスープ:あら、白酒様……お久しぶり。今日はどういったご用事でしょうか?

白酒:鬼谷書院の近くの村で起こした事件は、お前らがやっていたのか。

チキンスープ:ふふ……なにを言っているのかわかりませんが、こんな深夜に女性の部屋に入り込むなんて、無礼では……?

白酒:時間がないんだ。くだらない話はやめろ。

チキンスープ:ふふ、まったく、相変わらず冷たいですね。

チキンスープ:聖教の仕業だという証拠は、見つかっていないのでは?妾が認めるとでも?

白酒:ふん、どうせまたあの聖主のためにやったのだろう。

チキンスープ:……そのような機密事項、貴方が聖教の一員にならない限り、教えられませんことよ。

白酒:次にこんな汚らわしいことをするのなら、許さん。

チキンスープ:残念ですが……

白酒:?

チキンスープ:聖教に協力しないと決めていても、あの山河陣を維持するのは無理よ……

チキンスープ:なにせ、貴方の亡き友人が、貴方のために聖主と交わした約束ゆえ。


 ろうそくの火がチキンスープの顔を照らしたり彼女は明るく微笑みながら、目の前にいる男の瞳に影が浮かび上がるのを、おもしろそうに眺めていた。


白酒:亡き友人……彼らは今の白酒とはもう縁がない。

白酒:山河陣に関しては……それがなくても目的を果たせる。その前に、聖教はおとなしくしていた方がいい。

チキンスープ:もちろん敵になるのは嫌ですね……いつか、また協力できるかもしれませんわ。

白酒:そんな日がくることはない。


 目の前の男が冷淡に剣を収めて去っていくのを見て、チキンスープは再び榻(※トウ:牀榻、寝台)の上に横たわった。握りしめていた彼女の指先も、徐々に緩んでいった。


チキンスープ:本当に……困ったこと。こんないい機会なのに、あの無能たちはなにもできないとは……


同時刻

鬼谷書院


 鬼谷に、時々爆竹の音が聞こえ、書院には灯りがともり、みんなは明日の大晦日の宴に必要なものを準備するのに忙しかった。


雪掛トマト:ふう……光耀大陸に来てから初めて迎える新年だ。大晦日の宴の準備がこんなに手間がかかるとは思わなかったわ。

蛇腹きゅうり:春節は家族が集まる日だし、今回の大晦日の宴はいつもより多くの人がいる。当然、手間もかかる。

雪掛トマト:そうね……今回は状元紅や地府の人たちも招待したし。金駿眉片児麺も呼んだと言ってたし。ところで、白酒も来るかな?

蛇腹きゅうり:昨日、八宝飯たちも一緒に茶屋で白酒に会ったんだ。彼は俺たちの招待状を受け取ったみたいだから、来るはずだな……

蛇腹きゅうり:もし手伝いたくないなら、休んでいいから。ここでぐずぐずしてると邪魔だぞ。

雪掛トマト:ふんっ、活躍するチャンスをあげてるんじゃない、わたしが遅いと言うのなら、自分でやってみてよ。

蛇腹きゅうり:そもそもあんたの助けは必要ない……余計なお世話だ。

雪掛トマト:それなら自分で用意しなさい!

老虎菜:……もう、雪掛が疲れるのを心配しているくせに、素直になれないのかな?

蛇腹きゅうり:なにをバカなことを!早く手伝いに来い!

※誤植等が多いため、文脈的に正しいと思われる部分を差し替えたものを表記しています。

山の精霊の昔話・三

もしかしたら、あいつは本当に強いやつかもしれないな。


羊方蔵魚:ほう、どうやら、この絵に描かれているのは、忘れ去られた山の精霊のようです。

状元紅:山の精霊……?私もしばらくその村に住んでいますが、他の人からそんなことを聞いたことがありません。

羊方蔵魚:絵の前でめでたいとか、お祭りとその言葉を言った人がいるのなら、なにか知っているはずです。

状元紅:……?

羊方蔵魚:その、そういえば、以前骨董品市場で似たような絵を見たことがあることを突然思い出しました。売り手がそれは山の精霊だと!だから、詳しく知っている人がいるはずです。

状元紅:だとしたら、村の中になにかを知っている者もいるかもしれません……

蛇腹きゅうり:ああ、そうだ。村で起こっていた怪事件の調査は進んでるか?手伝う必要は?

状元紅:書院が村民に配った年越し料理はもう村民たちに渡しました。私が今回来たのも村民たちに代わって感謝の気持ちを伝えるためです。

老虎菜:食べ物がいきわたってよかった!あれは書院に貯蔵されていたお年越し料理で、お正月にここに泊まるのは俺たちだけだから、そんなに食べられないんだ。村民たちへのお詫びをかねてちょうどよかった。

状元紅:ああ……最近、怪事件はおさまったが、行方不明になった子供たちの事件はまだ進展がない。

蛇腹きゅうり:私たちは結果的に地宮に2回行ったが、年越し料理以外には子供たちの痕跡は見つからなかった……もしかしたら彼らは他の場所に隠れているのかもしれない。

状元紅:私も泥棒や強盗の仕業だと疑ったが、その場合、相手は金目当てのはず。しかし、村にはまだ身の代金の知らせは来ていません。そんな単純ではないかもしれません。

羊方蔵魚:もし、この絵に描かれている山の精霊が本当に地下宮殿に関係値しているのであれば、その子たちは地宮に捕らわれていることはなかったはずです。

雪掛トマト:どうしてそんなに確信があるの?

羊方蔵魚:絵に描かれている山の精霊が教えてくれました!絵の中のものに感情がある。俺の長年絵を見てきた経験からすると、この精霊はきっと善き獣に違いない。

雪掛トマト:……

蛇腹きゅうり:ところで、子供たちが村から消えたということは、その間に村に見知らぬ人が現れてませんてましたか?

状元紅:……そういえば、あの日茶屋で出会った黒衣の人たちと食霊はとても怪しかった。

雪掛トマト:そうよ、あの黒衣の人たちは邪気が強すぎる、良い人には見えないね!

状元紅:私もこの件について重点的に調査します。時間も遅くなりましたから、先に帰ります。今日はお世話になりました。

蛇腹きゅうり状元紅さん、遠慮しないでくれ。なにか問題あったら俺たちを呼べばいいです。俺たちも時間のある時は学院の近くを詳しく調査するから!


 状元紅を送り出した後、庭は暮れていき、みんなそれぞれに考え事をしていた。


老虎菜:あの山の精霊は本当に地宮の中に隠れているのか?そういえば、地宮は荒れ果てていたが、昔はとても華やかだったことはわかる……もしかしたら、あいつは本当に強いやつかもしれないな。

雪掛トマト:山の精霊は……本当に存在したのなら、なんらかの記憶が残されているはず。

蛇腹きゅうり:……また閉じこもるのか。

雪掛トマト:なによ、一緒に調べたいの?でも蛇腹きゅうりは書閣の古文書が理解できないかもしれないよ〜

蛇腹きゅうり:ふん、勉強しすぎないように注意してあげただけだ。本を何冊も読まないうちに、気絶したら……俺はあんたを運び出す羽目になる。

雪掛トマト:心配してくれてありがとうございます!この前はただの事故よ。今回はきっとご迷惑をかけませんわ!みんな、わたしは失礼するね。

羊方蔵魚:あれ、雪掛先生は踊りを踊っているんじゃないですか、古書の研究もしているんですかる

蛇腹きゅうり:あいつが本業を怠っているからだ……彼女はもともとここで文化や歴史を教える先生だ。書院のために何冊も異国地方誌を編纂してくれたが、それ以上に踊りを教えたいようだ。

老虎菜:そうだよ、それにあの踊りは本当に難しいぞ。あ、羊方蔵魚、雪掛はお前に踊りを教えようとしなかった?

羊方蔵魚:うっ、彼女に教わらなくて本当によかった……

老虎菜:もしかしたら、彼女はあなたがまだ弱っていると思っているだけで、体調が良くなってから教えてくるかもしれないぞ。

羊方蔵魚:心配いらない、体調が良くなったらすぐ帰るつもりだから……

羊方蔵魚:そういえば、先程書閣の話をしていたけど、書院を歩き回っているけど、書閣をみたことがない。そいつはどこにあります?

老虎菜:書閣は庭の西側の假山のそばにある。とても遠いところだよ……でも中には古書や古画、骨董品がたくさんある。普段は鍵がかかっているが。

羊方蔵魚:古画……?おお、俺も入って見学できますか?

蛇腹きゅうり:あれは書院の私有財産だから、外客は入れないと院長様が言っていた。

羊方蔵魚:ほほう、この書閣にある宝物は本当に特別だねぇ……

蛇腹きゅうり:悪知恵を働かせないように忠告しておくぞ。うちの院長は怖いからね。

羊方蔵魚:もちろん、もちろん!金駿眉様のご名は以前から聞いているし、心配しなくても大丈夫ですよ。


山の精霊の昔話・四

精霊ありけり、深き洞窟にて閑居せん……


書閣


 明るい灯りが静かな廊下を照らし、部屋中には淡い本の匂いが漂っていたが、そこに軽い足音が響いて平穏な空気を打ち破った。


蛇腹きゅうり:こんな時間なのにまだがんばっているんだね。

雪掛トマト:あなたどうして来たの……今何時?

蛇腹きゅうり:午夜の時間だよ、時計の音が聞こえなかったのか?

雪掛トマト:まだ午夜か……まだまだ早いわ。

蛇腹きゅうり:……こんなに本がたくさんあるのに、いつまで探すんだ?俺が手伝おうか。

雪掛トマト:ふん、なんでそんなに親切なの?なにか企んでる?

蛇腹きゅうり:親切だとわかっているなら、その減らず口をよせ……まあ、書院や村の人々に関わることだから、俺は手をこまねいていられないんだ。

雪掛トマト:わかった、私も助けてくれる人を困らせるつもりはないわ。ほら、この棚には光耀大陸の古今地方誌だから、そこから役に立つ情報を探さかないといけないの。

蛇腹きゅうり:そんなに……?干し草の山から針を探すようなものではないか?

雪掛トマト:うん、確かに大変だよ。時間があったら、金駿眉に言っておこう。生徒たちと一緒に整理して、索引を作ろうかな。……そうすれば、生徒たちも古典を多く学べるようになるよ。

蛇腹きゅうり:ふん、先生っぽいとこもあるんだな。踊りのこと以外なにも考えていないのかと……

雪掛トマト:ちょっと、生徒に踊りを教えるのも授業の一部なんだよ!踊りには土地の文化や歴史が詰まってるんだからね!まったく、なんにもわかってないんだから……

蛇腹きゅうり:わかった、わかった、浅はかだったよ。よし、早速手を付けないと、いつまでたっても調べ終わらないよ。

雪掛トマト:ふん、ではそっちの棚を任せるわ、私はこっちを探す。


 部屋は再び静寂に包まれ、さらさらと本をめくる音だけが残される。ろうそくの炎が揺らめき、時間が過ぎていく。もうどれほど時間が経っているか、雪掛トマトは疲れた目をこする時、横にいる人が突然驚きの声を上げた。


蛇腹きゅうり:雪掛、これを見てくれ!遠くの山々がそびえ立ち、草木が美しく……精霊がなんとかって――これはなにを書いているのだ?

雪掛トマト:精霊ありけり、深き洞窟にて閑居せん……と絵の中に書いてある。精霊は輝かん。黄金の宮殿で道をさまよい、音楽が奏られ優雅に舞が舞われん。美味なる食物と酢を供え、祭儀を行わん。歳除の夜、永遠に恵みもたらさん……

蛇腹きゅうり:もしかして……あの山の精霊を記録したものだろうか?見る限り、この地域の村民たちからも崇拝されたようだ。

雪掛トマト:そう、ここには歳除の夜に祭儀が行われることが明確に記されている……今の時期に近いわ。

蛇腹きゅうり:今では山の精霊についての言及する人はいなくなり、祭儀も廃止されているだろう。最近起こった怪事件も地下に隠された山の精霊と関係があるのか?

雪掛トマト:この祈祷の言葉から見ると、山の精霊も邪悪な獣ではなく、この地域の豊作を守る善神として崇拝されていたみたいね……

蛇腹きゅうり:これだけの情報では判断がつかない。もう少し探してみよう……


 ガシャッ――書閣の扉が力強く開けられ、老虎菜が勢いよく入ってきた。


老虎菜:おい、蛇腹きゅうり、ここにいたんだな!早く、いい知らせがあるんだ!

蛇腹きゅうり:なんの知らせだ?

老虎菜状元紅からの伝言が届いた。行方不明の子供たちが全員見つかったぞ!

雪掛トマト:本当!?よかった……でも、状元紅が帰ったばかりじゃない、こんなに早く?どこで?

老虎菜:あの、彼は自分が見つけたわけじゃないって――

蛇腹きゅうり:だったら誰が……?

老虎菜:俺も不思議に思ったが、彼はそれ以上なにも言わなかった、今は子供たちの世話で忙しいはずだ。

雪掛トマト:おかしいわね、わたしたちが何日も探していたのに、なかなか進展がなくて……どうして急に見つかったのる

蛇腹きゅうり:それなら、俺たちも行ってみよう。きっと状元紅は手伝いが必要なはずだ。

雪掛トマト:うん、今すぐ出発しよう!


山の精霊の昔話・五

昔のことには執着する必要はないと、わかってほしい。



 山の麓にある小さな村には灯りがともり、ぼろぼろの服を着た無邪気な子供たちが村の入り口に集まり、駆けつけた親族たちとの再会を待っていた。

 再会する人々は、時折悲しい涙を流すこともあり、書院の数人はその光景を見て静かになる。すると、人ごみの中で見覚えのある赤い姿を見つけた。


蛇腹きゅうり状元紅……やっと見つけた。

状元紅:あなたたち……

雪掛トマト:伝言を聞いてすぐに山を下りた。子供たちが見つかったことは本当によかった!でも、彼らを連れて帰ってきたのは誰だったの?

状元紅:あの白酒という食霊でした。

蛇腹きゅうり白酒……?

状元紅:彼はあそこにいる……女児紅が彼に言いたいことがあると言って、私はしばらくここで待っています。


 状元紅の少し心配そうな視線を追うと、薄暗い片隅で、女児紅白酒の裾を執拗に引っ張っているのが見えた。しかし、白酒は面倒くさそうなようすだ。


老虎菜:いや、女児紅さん……泣いてるんじゃないのか?

雪掛トマト:あいつ、まさか女児紅ちゃんをいじめてるんじゃないよね?だったら懲らしめてやらないと――

状元紅:話を終わらせた方がいい……女児紅のあんな表情を見たことがない、本当になにか大事な話があるのかもしれません。

蛇腹きゅうり:今の状況や前回の感じを見ると、女児紅さんが必死に白酒と話をしているように見えるが。

雪掛トマト:彼らは……いったいなにを話しているのかしら……


 みんなが話している時、白酒が手を振り、女児紅は足元がよろめき、地面に座り込んで、目の中の涙は切れ糸のように流れ出て止まらなかった。

 状元紅の目から火花が飛び散り、急いで少女を抱きしめる。顔を上げると、彼の目には抑えきれない感情が溜まっていた。


雪掛トマト:ちょっとあなた!女の子をいじめてどういうつもり?

蛇腹きゅうり:雪掛、待ってくれ!


 鋭い氷雪が怒りの刃に変わり、白酒に向かう。白酒は平然とした顔で剣を振りかざし、鳴り響く音の中で氷の刃をかすめ、そのまま雪掛トマトと方向に襲い掛かった。

 3人とも驚いたが、火花が散る中、硬い鞭と鉄拳がたけだけしく迎え撃つ。


老虎菜:おい、女の子に手を出すなんてどういうつもりだ?

白酒:……戦いたいなら遠慮なく、3人一緒でもいい。

雪掛トマト:あなたは……!?

状元紅:その前に、私たちは決着をつける必要があります。

白酒:お前が望むなら、いつでも相手をする。


 2本の剣が抜かれ、刃の光がふたりの顔を雪のように冷たく映し出した。雪掛トマトはなにか言おうとしたが、背後で蛇腹きゅうりに袖を引かれた。

 状元紅の表情は粛然としており、冷たい殺意が眉間に沸き上がるが、柔らかい手に剣を執る腕を引っ張られた。女児紅は憂いた表情を浮かべ、軽く首を振った。


女児紅状元紅兄さん、勘違いです……彼は私に手を出したわけではありません、自分で転んだだけです……

状元紅:あの日地宮から帰ってきてから、あなたはずっと落ち込んでいたのは……あの人のせいですか?

女児紅:……いいえ、あなたにわからないこともあります。


 女児紅は黙って頭を垂れ、この状況を見た状元紅はため息をつき、手にしていた剣を引っ込めて目の前の白酒を見た。


状元紅:もういい、行ってくれ。

白酒:悪気はなかった。今日も子供たちを連れ戻すために、ここに来ただけだ。

白酒:それから、女児紅さん、言っただろう……昔のことに執着する必要はないと、わかってほしい。

女児紅:でも……今と過去の区別がつかなくなってしまいます……

白酒:ただ今ここにいるすべてが事実だ……他にも用事があるので、失礼する。

蛇腹きゅうり:待って……あの子供たちをいったいどこで見つけたんだ?


山の精霊の昔話・六

またうさぎ……これらの怪事件はやはりあの地宮と関係しているのか?


蛇腹きゅうり:待って……あの子供たちをいったいどこで見つけたんだ?

白酒:裏山の洞窟にいた。

雪掛トマト:裏山の洞窟……?この数日間、私たちは後山のあちこちを捜索していたけど、そんな場所は見つからなかったはず……

蛇腹きゅうり:裏山の地形は複雑だ。近くの村民でも山に薬草を採るときに迷うことがある……どうやって見つけたんだ?単に偶然山に行っただけか?


 みんなに質問されて、白酒は不機嫌そうに眉をひそめたが、説明をするつもりはないようだった。


白酒:そういうことについて、俺が理解できるまで答えることはできない。失礼。

雪掛トマト:ちょっと待て!――もう、礼儀知らずめ!もう行っちゃうの!?


 雪掛トマトが怒って足をドンドンと踏み鳴らすも、柔らかく小さな手が裾を引っ張ってくる。


村中孩童:お姉ちゃん、あの人……悪い人じゃないよ。彼は僕たちを救ってくれた。

雪掛トマト:そうだ。さっきは混乱していて、なにも聞けなかったけど……坊や、誰があなたたちを連れ去ったか覚えている?いったいどこにいたの?

村中孩童:わからないんだ……誰かに殴られたら気絶したような気がして、気がついたらお兄さんに連れて帰ってもらってたんだ。

蛇腹きゅうり:殴った人の顔を覚えているか……?

村中孩童:覚えてない。仮面を被っていたような……あ、そうだ、気を失った後、ずっと夢を見ていたんだ。

雪掛トマト:……どんな夢?

村中孩童:ずっと不思議な音楽が聴こえて、夢の中の場所が村に似ているような、似ていないような……毎日美味しいものもたくさん食べて……

老虎菜:お腹が空いているから、そんな夢を見たんじゃないか?俺もそんな夢を見たことがある!

村中孩童:でも、一番すごいのは、二郎と花ちゃんも同じ夢を見たって!それに、食べものも全部同じだったんだ!

老虎菜:そ……そんなこととあったのか?

村中孩童:うん、だから、そんなに怖くなかった……すごく楽しい夢だったし!

雪掛トマト:みんなの体に怪我はなさそうだし、不幸中の幸いとしよう……

村中孩童:あ、そうだ、夢の中で美味しいものを届けてくれたのは小さなうさぎだったよ。両親を思い出して、悲しくなると、うさぎさんが遊んでくれたんだ!

雪掛トマト:うさぎ……?


 その時、みんなの近くで心配そうに手を振っている夫婦を見て、少年は急いで彼らに別れを告げた。みんながためらいがちに顔を見合わせ、それぞれ考え込んでいた。


蛇腹きゅうり:またうさぎ……これらの怪事件はやはりあの地宮と関係しているのか?

雪掛トマト:あの子達がなにも知らないのは残念ね…あの洞窟に行って確認しよう!

状元紅:まあ、そうするしかないでしょう。仮面の男たちがわざわざ子供たちをさらったのに、なにもしていなかったのは、別の目的があるのかもしれません。

女児紅:私も、皆さんと一緒に行きます。

状元紅女児紅、あなたは村で休んだ方がいいのでは?

雪掛トマト:そうね、日も暮れるし山道は危ないし……先程も……女児紅さんはここでゆっくり休んで!

女児紅:みんなの足を引っ張らないようにします、子供たちがなにか起こったのか調査したいです……それに、自分に関係することを解明したい。この旅が役に立つかもしれません。

状元紅:……それなら、私について来なさい。

女児紅:はい……


 山道の途中まで行くと、露が濃くなり、月が雲に隠され、薄牛乳色の霧が目の前を包み込む。まるでカーテンのように重なり合って降ってくる。


蛇腹きゅうり:霧が出てきた……前が見えにくいから、ちゃんと前の人に、ついて行くんだ。

老虎菜:この霧は怪しいぞ。先程まで晴れていたのに。

女児紅:あそこに……なにかが走っていきました!

状元紅:みなさん、気をつけてください、堕神か野獣かもしれない。このような霧の日は注意して対処しないといけません。

雪掛トマト:違う……見て、あれは……


 霧が立ちこめ、草木が揺れている。少し離れたところで、白いうさぎが一歩ずつ後ろを振り返りながら跳ねている。時々、耳を軽く動かして、後ろにいる人たちの愚かさを嘆いているようだった。


女児紅:うさぎです……どこかに案内しようとしているのでしょうか?

状元紅あのうさぎです。でも、前回よりもっと小さく見えますが……あのうさぎについて行きましょう!



山の精霊の昔話・七

なにかをこちらに伝えようとしているのかしら。


 白うさぎを追って密林を回ると、やがて目の前がパッと開けて、霧が晴れてくる。わびしい月の光に照らされて、山洞の入り口が藤の蔓に覆われた様子がはっきりと見えた。しかし、振り返ってみると、白うさぎに姿は消えていた。


状元紅:洞窟です。あのうさぎはわざと私たちをここに導いたのですか?

雪掛トマト:この洞窟はうまく隠されているね。私ちが数日探してもみつからなかったのは不思議じゃはいわ。中に入りましょう!


 みんなは洞窟の入り口を隠そうとする草や蔓を払いのけ、洞穴に入った。その中には大きな穴があぬた。洞窟の天井の裂け目から漏れてくる淡い光が、なにもない空間をさまよい、薄暗い中に立ち現れた細長い黒影をほのかに照らした。


蛇腹きゅうり:誰かいる!

白酒:お前ら、ここを見つけたのだな……

雪掛トマト:なぜまたあなたなの?ここで子供たちを見つけたんでしょう?どうしてまたここに来たの?

白酒:調査のためだ。

雪掛トマト:……?

白酒:お前らも調査に来たのなら、ご自由にどうぞ。ただし、邪魔はしないでほしい。

雪掛トマト:傲慢なやつ。まあ、あっちに行って見よう。


 みんなはそれぞれに、洞穴の中を石や木々をよく調査していたが、突然、雪掛トマトが驚いた声を上げた。


雪掛トマト:早く来て、見つけたよ!

蛇腹きゅうり:……?なにを見つけたって?

雪掛トマト:ほら!壁に描かかれたものを見て!

蛇腹きゅうり:見覚えがあるな、地宮の絵と似ているぞ!?状元紅、こっちを見てくれ!


 状元紅が松明を持ち上げると、火光に照らされ、石壁の模様の間に緑の蛍光が点滅し、古代の幽霊が蘇っているようだ。


状元紅:間違いない……祭壇に描いてある模様です!

女児紅:……まさか、こおと地宮が関係している?そういえば、先程はうさぎがここへ案内してくれたけど、もしかしたらここと地宮は繋がっているかもしれない!

老虎菜:でも、地宮の祭壇は絵巻がないと開かないはずだし、俺たちも絵巻を持っていないよ。

白酒:この石壁の向こうになにかあるなら、剣で斬ればいい。

雪掛トマト:ちょ、ちょっと!無茶しないでよ!


 白酒の腰に掛けた剣はまだ鞘から出ていなかったが、壁から金色の光が溢れ出しやみんなが一斉に動きを止めた。すると、白うさぎが影から飛び出してきた。


白うさぎ:きゅっ、きゅっ……

女児紅:うさぎちゃん……またあなたね。

雪掛トマト:なにかをこちらに伝えようとしているのかしら。

老虎菜:なんだか怒っているように見えるなあ、悪口を言っているみたいだ……時々、トラたちもこんな顔をするから。

白うさぎ:きゅっ!


 みんなが困惑していると、白うさぎは耳を振り、呆れたように身を転がし、壁に向かって何度か跳び、やっと壁の一番下の模様に触れた。その時、まばゆい金色の光が溢れ出した。

 洞窟全体が一瞬黄金の光に包まれ、輝かしい宮殿みたいに照らされる。石壁全体がゆっくりと揺れ始めた。


蛇腹きゅうり:本当に仕掛けだ……!

白うさぎ:きゅっ、きゅっ!


 洞窟では瓦礫が落ち、轟音が絶え間なく響いている。石壁の間の隠し扉がゆっくりと開き、そこから正体不明の物体がいくつも転げ落ちてきた。


状元紅:あれは……人ですか!?


山の精霊の昔話・八

あいつらはやはり逃げ道を確保していた。


 地面にもがいている何人か縄で縛られ、口の中に布を詰め込まれたまま嗚咽していて、顔も歪んで紫色になっていた。


蛇腹きゅうり:この人たちの服装から見ると、山賊みたいだけど……

雪掛トマト:確かに、良い人には見えないね。彼らを解放して、聞けばわかるよ!


 自分を縛っている縄が切られたのを見て、山賊たちは震えながらひれ伏して地面を頭でゴンゴンと叩き始めた。


山匪:英雄の方々、お願い、助けてくれ!も、もう二度としません!

雪掛トマト:なにをしたの、さっさと言いなさい!

山匪:お、俺たちはあいつらに脅されて利用されて、子供たちを連れ去った……俺たちも騙されていたんだ!

状元紅:村の子供たちを誘拐したのはあなたたちでしたか!?……誰の指示?言いなさい!

山匪:英雄様、手を出さないでください!言います、言います!

山匪:数十日前、あの黒服の人たちが突然やってきて、俺たちと取引を……山の下の子供たちをここに誘拐すれば、報酬をくれると。

白酒:黒服……なんのために子供を?

山匪:……こ、この子たちを使ってなにか儀式をするだって言って。俺たちはお金を稼ぎたいだけで……詳しくはわかりません。

状元紅:儀式……?あの子たちになにかしたのですか!?

山匪:それは……本当にわかりません。彼らが来たとき、俺たちは外に見張れと追い出されました……

山匪:ただ一度だけ、彼らが細い針で子供たちの血をとっているのを見ました……でも数滴だけ……

雪掛トマト:ちくしょう、あいつら……他には?他になにを知ってる?

山匪:そ、そういえば子供たちは、小さい頃から霊力に祝福されて、非常に清らかな存在だと言っていたような……それ以外には、本当になにも知らないんです。

蛇腹きゅうり:なら、あんたらはなぜここに縛られていたんだ?

山匪:数日前、俺たちは洞窟で休んでいたのですが、いつの間にかその暗い部屋に落ちてしまい……目が覚めると、手足を縛られていたんです……

山匪:英雄の皆様、ごめんなさい!神様の怒りにふれ罰を受けたんです。本当に反省してます!

白うさぎ:きゅっ、きゅっ!


 山賊たちは悲鳴を上げながら頭を地面に打ちつけるのを見て、そばにいる小さなうさぎは憤りの声を上げ、軽蔑したように横を向いた。


状元紅:あなたたちの罪はそう簡単に帳消しにはできません……一緒に山を下りて府衙に行きましょう。

山匪:え、英雄様――

蛇腹きゅうり:おとなしく起きろ!力が残っているのなら、役所の裁判官に弁解するんだな。


 言い逃れはできないことがわかると、地面に伏していた山賊の目には冷酷な色が現れた。彼は突然飛び上がり、手にした冷たい光る曲刀で一番近い女児紅に迫った。


状元紅:……!?


 他のみんなが反応する前に、白と赤のふたつの影が女児紅の前を素早く遮り、カランという音の中、曲刀は鮮血の赤とともに落ちた。

 山賊は顔を押さえて地面を転げ回り、白酒は無感情に剣を振り上げたが、状元紅に軽くそれを受け止められた。


状元紅:まだ真相がわからないので、彼を残しておかなければならない……

雪掛トマト:待て……彼ら、なにかおかしい。


 這いつくばっている山賊たちは、恐ろしい形相をして、口の端から泡を吹いていたが、やがて声も出なくなった。


白酒:彼らに手を出す必要はなかったようだ。あいつらはやはり逃げ道を確保していた。

状元紅:あいつら……あの黒服の人たちを知っているのですか?

白酒:……なにも申し上げることはない。

状元紅:……あなたが言わなくても、私は引き続き調査します。

状元紅:さっきは……助けてくれてありがとう。


 状元紅は軽く礼を言い、白酒はうなずいたが、女児紅は複雑な目つきを避けていた。彼は剣を収めるとら一人去っていった。


雪掛トマト:なんでまた……一人で行ってしまったの。え、この石壁の上に、うさぎの石像が?


 全員が雪掛トマトの指指す方角を見ると、荒々しい石壁の真ん中に、一匹の石うさぎが彫られていた。それは祠の上に鎮座し、信者の崇拝を受ける神のように尊厳な姿を見せていた。


終わり・旧友との再会

山の精霊がそんなにたくさんのことをしてくれたのに、みんなに忘れさられたなんて。なんだか、かわいそう……


数日後

鬼谷書院


 一年の最後の授業が終わり、生徒たちは小鳥のようにざわめきながら荷物をまとめている。雪掛トマトは子供たち一人ひとりに「帰り道は気をつけて」と注意を促し、それでも心配しながら校門まで見送る。


蛇腹きゅうり:もういいよ、皆遠くに行ってしまったぞ。

雪掛トマト:あなた、どうしてここにいるの……

蛇腹きゅうり:そんなに子供たちが恋しいのか?年が明けたら会えるじゃないか。

雪掛トマト:彼らが心配なのよ。この間のこともまだ解決してないし、もっと注意しなきゃ。

蛇腹きゅうり:安心しろ、状元紅によると、あの件から村は警備を強化し、昼夜パトロールが行われるようになった。

雪掛トマト:ならよかった……


 話している間に、近くの山道に2、3人の姿が現れ、彼らは手を振りながら歩いて来たみたいだ。


雪掛トマト:あの人たちは見覚えがある……八宝飯たちよ!?

蛇腹きゅうり:本当だ!それに大きな猫に乗っている子供もいる……

八宝飯:良かった、嘘じゃなかったんだ。この荒れ野には本当に書院があるんだね!久しぶり!

蛇腹きゅうり:あんたら、どうしたんだ?

マオシュエワン:それは、誰かさんが前回の仕事をうまくこなせなかったので、石碑の修理を続けるために戻ってきたんだよ。

八宝飯:自分は関係ないみたいな言い方しやがって……そうだ、オイラたちは今日、高麗人参からの伝言も預かっているんだ。

雪掛トマト高麗人参……?

八宝飯:ええと、つまり地府のあの閻魔大王だよ。

蛇腹きゅうり:あなたたちは地府の人だったのか?!そうか……

八宝飯:その通り、先に身分を隠したのも本意ではなく、高麗人参に地府の情報を漏らしてはいけないと指示されてたんだ……

蛇腹きゅうり:問題ない。俺も地府についてはある程度知っているから、あんたらのやり方もわかる。

八宝飯:ふふ、でもオイラは高麗人参に言ったんだ。書院のみんなは正直な人たちだって……そうだ、預かっている伝言も、あの日地宮で起こった怪事件と関係があるかもしれない。

八宝飯:猫耳ちゃん――

猫耳麺、おふたりさん、こんにちは。高麗人参様の言葉を、僕が代わりにお伝えします。「鬼谷近くの山野に霊力が豊かな宝地があり、偶然その地に一匹の霊獣が生まれたことがある」

雪掛トマト:霊獣……?地方誌に載っている山の精霊のことかしら?

猫耳麺:その通りです。かつては地元の山民に崇拝されていたことがあり、その後、山河陣もこの地を陣眼のひとつとして設置していました。ふたつの力が合わさり、その霊獣がもっとも強い時には、一般的な食霊も超えるほどの力を持っていたそうです。

蛇腹きゅうり:山河陣……書院の近くには山河陣の陣眼があったのか。

雪掛トマト:それは凄い陣法なの?

蛇腹きゅうり:光耀大陸の天幕をつなぐ大陣という話だ。

雪掛トマト:やっぱり鬼谷の風水はいいのね……道理で金駿眉がここに書院を建てたわけだ。その後は?

猫耳麺:その後、麓の戦乱が頻発し、民も流浪しているうちに次第に山の神を祭る伝統は廃れ、加えて最近は山河陣も……とにかく、ここ数年、あの霊獣の霊力も急速に衰えています。

猫耳麺高麗人参様も眠っているうちに偶然、山の精霊と交流し、たぶん……その精霊が人参様に接触したのでしょう。

雪掛トマト:山の精霊はなにを言ったの?

猫耳麺:昔、人々が地宮を修繕したとき、山の精霊は地宮の入り口をいくつかの絵巻の中に封印し、村の尊敬される長老に託しました。

猫耳麺:毎年の正月、人々は地宮で儀式を行い、食べ物を備えますが、最近は誰も訪れていないそうです。

猫耳麺:山の精霊は自分の力が次第に失われていることを知っていますが、麓の人々が山洪や台風、野獣や毒虫から守るため、自分の霊力を使い続けています。

猫耳麺:残った微かな霊力を維持するために、山の精霊は村民から年越し料理を少し盗んでいました……そのことについて、彼も申し訳ないと思っているようです……

雪掛トマト:年越し料理……?地宮にある食べ物は、山の精霊が自ら盗んできたのね……

猫耳麺:うん、でもほとんどの年越し料理は肉で、山の精霊が食べられるものが少ないんだって……昔の人々は彼がうさぎの精霊だと知っていたから、いつも野菜や果物を供えていました。

雪掛トマト:うさぎ!?

八宝飯:そうだよ……オイラたちが地宮で見た小さなうさぎは、山の精霊の霊力が衰えた姿だろう。

蛇腹きゅうり:それなら……彼は山賊がいる洞窟に俺たちを案内してくれた。黒服の人たちがなにをしようとしているのか知ってるか?

猫耳麺:彼もよく知らないみたいだけど、あの黒いやつらにちょっとした罰を与えて、寝ている子供たちにも食べ物を与えたって。でも、精霊の力は限られていたから、最後は一人の食霊が子供たちを救い出してくれました。

雪掛トマト:そうだったんだ……あのうさぎの精霊は、今でも地宮にいるの?

猫耳麺:僕もよくわかりません。人参様が教えてくれたのは、山の精霊は以上を話した後、力を使い果たしたみたいで、眠りに落ちました。

雪掛トマト:山の精霊がそんなにたくさんのことをしてくれたのに、みんなに忘れさられたなんて。なんだか、かわいそう……(※一部文章が欠けている可能性があります)

八宝飯:それは簡単だよ!山の精霊の話をもう一度村で広め、信仰が戻れば、彼は必ず復活する。

雪掛トマト:そうだね……蛇腹きゅうり、急いで麓に行って、このことを状元紅たちに伝えよう!


波風が立つ茶屋・一

……彼らは今の白酒とはもう縁がない。


大晦日前夜

聖教


 暗い部屋の中、華麗なカーテンから儚げなろうそくの光が少しだけ漏れている。チキンスープは寝台に半ばもたれかかって、目を閉じている。

 カーテンが突然開けられ、目の前の冷たい表情の男が上から見下ろした。男の後ろには、入り口にいたはずの黒服の者たちが地面に倒れている。


チキンスープ:あら、白酒様……お久しぶり。今日はどういったご用事でしょうか?

白酒:鬼谷書院の近くの村で起こした事件は、お前らがやっていたのか。

チキンスープ:ふふ……なにを言っているのかわかりませんが、こんな深夜に女性の部屋に入り込むなんて、無礼では……?

白酒:時間がないんだ。くだらない話はやめろ。

チキンスープ:ふふ、まったく、相変わらず冷たいですね。

チキンスープ:聖教の仕業だという証拠は、見つかっていないのでは?妾が認めるとでも?

白酒:ふん、どうせまたあの聖主のためにやったのだろう。

チキンスープ:……そのような機密事項、貴方が聖教の一員にならない限り、教えられませんことよ。

白酒:次にこんな汚らわしいことをするのなら、許さん。

チキンスープ:残念ですが……

白酒:?

チキンスープ:聖教に協力しないと決めていても、あの山河陣を維持するのは無理よ……

チキンスープ:なにせ、貴方の亡き友人が、貴方のために聖主と交わした約束ゆえ。


 ろうそくの火がチキンスープの顔を照らしたり彼女は明るく微笑みながら、目の前にいる男の瞳に影が浮かび上がるのを、おもしろそうに眺めていた。


白酒:亡き友人……彼らは今の白酒とはもう縁がない。

白酒:山河陣に関しては……それがなくても目的を果たせる。その前に、聖教はおとなしくしていた方がいい。

チキンスープ:もちろん敵になるのは嫌ですね……いつか、また協力できるかもしれませんわ。

白酒:そんな日がくることはない。


 目の前の男が冷淡に剣を収めて去っていくのを見て、チキンスープは再び榻(※トウ:牀榻、寝台)の上に横たわった。握りしめていた彼女の指先も、徐々に緩んでいった。


チキンスープ:本当に……困ったこと。こんないい機会なのに、あの無能たちはなにもできないとは……


同時刻

鬼谷書院


 鬼谷に、時々爆竹の音が聞こえ、書院には灯りがともり、みんなは明日の大晦日の宴に必要なものを準備するのに忙しかった。


雪掛トマト:ふう……光耀大陸に来てから初めて迎える新年だ。大晦日の宴の準備がこんなに手間がかかるとは思わなかったわ。

蛇腹きゅうり:春節は家族が集まる日だし、今回の大晦日の宴はいつもより多くの人がいる。当然、手間もかかる。

雪掛トマト:そうね……今回は状元紅や地府の人たちも招待したし。金駿眉片児麺も呼んだと言ってたし。ところで、白酒も来るかな?

蛇腹きゅうり:昨日、八宝飯たちも一緒に茶屋で白酒に会ったんだ。彼は俺たちの招待状を受け取ったみたいだから、来るはずだな……

蛇腹きゅうり:もし手伝いたくないなら、休んでいいから。ここでぐずぐずしてると邪魔だぞ。

雪掛トマト:ふんっ、活躍するチャンスをあげてるんじゃない、わたしが遅いと言うのなら、自分でやってみてよ。

蛇腹きゅうり:そもそもあんたの助けは必要ない……余計なお世話だ。

雪掛トマト:それなら自分で用意しなさい!

老虎菜:……もう、雪掛が疲れるのを心配しているくせに、素直になれないのかな?

蛇腹きゅうり:なにをバカなことを!早く手伝いに来い!


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