ボルドー七星うなぎ・エピソード
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ボルドー七星うなぎのエピソード
クレメンス家に拾われた古代の食霊。彼の持つ強大な力を手に入れたい家族は、あらゆる手段を使って彼を封印し、自分たちの元に留めた。封印されたボルドーは毎日ぼけているようだが、本人もどうやら食べて眠るだけの生活を好んでいるらしい。
Ⅰ.雪の里
ライメント……どこだ……
彼の元に行かないと……
ふふ……
扉が閉まっていない。目に入ったのは、部屋の赤茶色の壁、飾り棚、場所を取る白い長テーブル、そして、いつでも飛び跳ねそうな半分の獣皮のカーペットだった。
私は足を踏み入れ、テーブルで寝ている彼の後ろに立った。
無防備の彼が紙に顔を伏せている。おそらく誰かの手紙で、内容はとても短いが、全然読む気がしない。
だって、チャンスを逃したくないから。
その首に牙を伸ばし、もう近づけないほど近づいて、あとは一秒だけ……
「起こしてくれてありがとうね、ボルドー~」
彼は片目を開け、笑顔を見せる。そこには威圧も不快も全く感じられなかった。
徐々に理性が失っていく……
……
「お腹すいた。」
「おっと、ごめんごめん、ちょうど考え事をしてて、忘れるところだった…」
彼は襟元を引っ張り、横を向いた。
「どうぞ~」
「うん。」
お腹をいっぱいした後、テーブルの上の紙を見た。
「それは、何?」
「ああ、これか…実は、これが今悩んでいることだよ。任務に行くメンバー全員、全員だよ、みんな突然連絡が切れて、まるで俺に直接探しに行けって言ってるみたいだよ。」
「だから、行くの?」
「うん…行くのは問題ないけど、俺たちが別れるわけにはいかないよね。でもお前を一緒に連れて行くとなると…ちょっと面倒なんだよ、だって…」
彼は立ち上がり、私の肩を軽く叩いた。
「行く場所はお前の故郷だからね。」
氷涙湖。
広がる白、中央に青い円がある。
息を吐くと、それも白い。
気分は、少し良い。
「ははははははーーー!!!」
静かな場所に、今やライメントの笑い声が響き渡る。
「わー!!ははは!!雪がすごいね!!!ひゃー、寒い!!わお!!滑るね!!行けー!!」
あの人は斜面を滑り降り、また登り、再び滑り降り、また登り…
まるで鉄道の上で子供に押されて動くおもちゃの列車みたいだ。
「ボルドー!何ぼーっとしてるんだ?見て見て!」
彼は雪を丸めて、私に投げた。
避ける。
「それで…ここに来た理由は?」
「せっかく戻ってきたんだから、少しは楽しもうと思わないの?あ、そうだ、お前はここにはもうほとんど記憶がないんだよね…」
ライメントは犬のように、雪を振り落とした。
本当に、犬みたいだ。
「間違いなく、全員失踪はマンデヴァの仕業だね。あいつは俺を誘い込もうと必死なんだ。もし俺が引っかからないなら、ちょっと冷たいだろう?」
彼は両手を腰に当てて、楽しそうに笑った。
「だからここで待って、またあいつがどんな悪事を考えているのか見てみようよ!」
理解した。
待っていればいいんだ。
私は再び足元の湖を見た。
とても青く、きれいだ。
飛び込みたくなる…
ゴォゴォ――
「ん?何の音?」
その音は、上から聞こえてきた。
ライメントは振り向き、目を輝かせた。
「すごい――!!!雪崩だーーー!!!」
「…雪崩って、何?」
彼は答えず、私を引っ張って湖の方へ走り出した。
彼はとても速く走り、大声で笑っていた。
まるで狂ったように。
本当に、そう見える。
ドボン。
私たちは湖に飛び込んだ。
冷たさが一瞬で体を包み込み、体内にしみ込んでいく。
ゆっくりと、私の頭上の薄霧を払いのけていった……
Ⅱ.噛み裂く
(※数箇所に「▫霊」表記が出てきますが、おそらく「食霊」の文字化けだと思われます。ですが原文のまま書き出していますのでご了承ください)
「ボルドー――おい――起きろ――ボルドー――目を覚ませ――ボルドー――」
うるさい。
死んだ世界のように静かな湖底が、あのうるさい▫霊のせいで騒がしくなってしまった……
私は湖底から跳び出し、鏡のような湖面が急に波立ち、まるで暴雨のように降り注ぐ。
そして、岸辺にうつ伏せになって、うるさく笑っているあいつを不機嫌そうに見つめた。
その明るい様子は、まるでうるさい犬のようだ。
「どうした?決心したのか?俺と一緒に行くってか!?」
「……」
あいつは自称ライメントという▫霊で、十日前に初めて氷涙湖に来た。
……彼が来てから食料がなくなったせいで、こんな日付を嫌でも覚えてしまった。
「言え、どうやって死にたい?」
「え~、死にたくないからこそ、お前に相談しに来たんだよ。」
この十日間のしつこい懇願が「相談」だなんて……
「……お前が俺と一緒に戻れば、家族が俺に自由を約束する。その後、お前は自由だし、もう俺が前に干渉することはない、これでウィンウィンだろ!」
「ただこの芝居に協力してくれればいいだけだよ~!」
「家族……人間なんて信じない。」
「じゃあ、俺を信じてくれ!」
「ますます信じない。」
「どうしてこうなんだ!俺の信用は一番高いんだぞ!」
うんざりだ……
「お前の信用には興味ない。よく覚えとけ、ガキ……」
「私はここで何万年も生きてきた。これまで一度も面倒な事がなかった。なぜ、何の関係もないお前と一緒に人間の領地に足を踏み入れなければならない?」
「う~ん……人助け?」
ざば~ん――
波の音が轟く。もう我慢できない。
私は湖面から飛び出し、あいつの顔を片手で押さえ、その頭を力強く地面に押し付けた。
そいつの驚いた表情と、裂けた皮膚からにじみ出る血を見て、ようやく少し気分が良くなった。
「ふん、身の程知らないガキが、口先だけで俺を釣ろうなんて……お前には釣れないよ。」
「でも、ちょっと退屈してきたから……どうだろう?三日以内に俺を氷涙湖から出してくれるなら、お前について行ってもいい。」
「え!今、もう出てるじゃないか!」
「……後の話だ、バカ。」
何を考えたのか、あいつの目には興奮した笑みが浮かんだ……まるで狂った動物のように。
「約束だな!じゃあ早く戻れ!すぐに始めよう!」
私は疑わしそうに彼を見て、まさか、こんなに早く対策を思いついたのか?
いや、有り得ない。
そして、私は湖に再び飛び込んだ。
ドボン。
あいつ……!
驚きのあまり、▫霊が私に続いて湖に飛び込み、狂ったように私に迫ってきた。
最初に肩を掴もうとしたが、失敗して頭を攻撃しようとした。
ああ、私を気絶させて引き上げようってのか……
狂ってる。
あの必死に口を閉じた情けない顔……どうやら水中では呼吸できないようだ。
ほんと、面白くて愚かなヤツだ。
「それじゃあ、お前も少しは面白く死ねよ。」
彼の軽い拳を受け止め、私は再びその頭を掴んで無理矢理横にひねり、首をさらけ出させ、そして口を開け……
「うっ……!」
狂ってる。
私は思わず眉をひそめた。
あいつは私を止める様子もなく、堂々と脆弱な首を完全に晒し、私の手首をじっと見つめていた。
犬に噛まれた。
血の中で、あいつは私の手首を掴んで、血にまみれた口を開け、挑発的に笑った。
まるで狂犬のように。
湖が血の池に変わり、甘酸っぱい匂いが濃くなり、まるで他の感覚が失われたかのように、全身の神経が興奮して震えていた……
今、あいつは本当に私を怒らせた。
私は彼の首の傷口に手を伸ばし、完全に引き裂いてやろうと思ったが……
「アウーーー!!」
あいつは意味不明な声を上げ、突然大きく口を開けて突進してきた。
彼が何をしようとしているのか気づいた瞬間、私は能力で彼を一気に押し返したが、逆に彼に掴まれ、一緒に水面に浮かび上がった。
「プハ……ふ……ふっ……ハハハハハーーー!」
血に浸されたあいつが、狂ったように大笑いしていた。
首の傷口のせいで声がかすれ、ますます神経質に聞こえた。
「俺の勝ちだ!お前は俺と一緒に帰るんだ!」
私は冷たく彼を見つめ、水で赤くなった目にもかかわらず、なお輝いているその瞳の中には、不気味な笑顔が映っていた。
「残念だったな、私は約束なんて守らないタイプなんだよ~」
寒さと失血で鈍くなったあいつとは違い、私は素早く前に出て、またあの血の穴に噛みつくことができた。
Ⅲ.互角
はは……はは……もしお前が、長い間お腹空いてなかったら、俺は今頃、とっくに死んでたよ……
「おや?それじゃあ、お前の今までのしつこい誘いは、わざと私を弱らせるためだったのか?」
ライメントは今にも倒れそうな体を支えながら、顔も体も血まみれなのに、あの目障りな笑みだけは消えなかった。
真っ白な雪原にまるで大きな赤い花が咲き乱れたようだった。彼はその一つの花に力なく腰を下ろし、ゆっくりと顔を上げた。
「もっと引き延ばせばよかったな……はは……」
「お前も大したもんだ、これだけ血を流してまだ耐えてるなんて。」
「はは……俺の長所の一つはな……体力があることだ」
「それは私のためにあるような長所だな。安心しろ、今すぐその苦しみを終わらせてやるよ。」
「はぁ……もう動けないな……本当に仕方ない……卑怯な手を使うしか……ないのか……」
「?」
彼の口がまた動いたが、声は聞こえなかった。いや、突然吹き始めた風にかき消されたのかもしれない。
「なんだ?」
風が雪を巻き上げ、一瞬にして視界が真っ白になる。
意識が覆われた──
……
……
「……ボルドー?ボルドー!起きろって!」
「おかしいな、以前は湖の中で暮らしてたんじゃないの?なんで今回こんな簡単に倒れちゃうわけ?あ、まさか俺の封印が……」
目を開けると、ライメントが独り芝居をしているのが見えた。私は思わずため息をついた。
「お前がそのまま私の上に座ってたら、誰だって窒息するだろうさ。」
「お、起きたんだね!」
「やっぱりお前は狂ってるな。雪崩に対処する方法が湖に飛び込むこととは……私はいいが、お前は溺れるのが怖くないのか?」
「今の俺は水にも慣れっこだし、それに俺は自信のないことなんて絶対にしないんだよ~。」
「なるほど、賢いんだな。それならなんでマンドワなんかに騙されてここまで来たんだ?」
「そ、それは……え?お前……」
下手だ。ライメントの驚いたふりは、あまりにも下手すぎる。
「さすが故郷の力だな。封印がこんなに早く解けるとは……まあいい、お前がその間抜けな様子のままだったら、困るのは俺だからな。ただ……」
彼は笑みを浮かべたまま身を屈め、私の顔に近づいてきた。耳元には彼の髪先から滴る水滴が地面に落ちる音が響いている。
「お前は今……俺を殺すつもりなのか?」
「……それはこっちが聞くべきだろう。」
そう答えると、私の首を掴む彼の手がさらに力をこめた。
「そんなわけないよ。俺たちはこんなに長く一緒にいて、仲もいいんだから。俺にはそんなことできないさ。」
「何を馬鹿なことを……でも、お前が手を出せないなら、私がやろうか?」
「はははっ──それはダメだね。今の自由は、僕が苦労して手に入れたんだから……それにお前も、今の生活には満足してるんじゃないの?」
「……」
私は無言で、その笑顔を見つめた。すぐにでもそれを壊してやりたかったが──。
彼の言う通りだった。
あの家族に連れて行かれた最初の頃はともかく、今の生活は確かに、私の長い人生のほとんどよりもずっと良いだった。
だから私は彼に反論しなかったし、怒りもしなかった──怒りは彼を喜ばせるだけだ。
手を上げ、彼の頬に軽く爪を滑らせる。
「お願いする態度ってのは、こういうものじゃないだろう?会長さん……今、お前は私にマンドワを片付けてほしいんだろう?」
ライメントは一瞬ボーっとしたが、その後、ますます嬉しそうに笑みを浮かべた。その笑顔には、子供のような純粋な悪意が滲んでいた。
「時間が経っても、お前の本性は昔と全く変わらないね……『悪魔』。」
Ⅳ
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