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神賜新生・ストーリー

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神賜新生

プロローグ

(※今回のストーリー全編について、各食霊の口調が本来のものと乖離していますが原文そのまま書き出しています。ご了承ください)


ある日

パラダイスメイカーズ


 カタ、カタ、カタッ──カタ……カタ……

 静かな廊下で、一つはっきりとした足音が鳴り、それに程よい距離を保って、もう一つやや優しい音が続く。

 ふたりの足音は安全で礼儀正しい距離を保ったままだったが、前を歩くその足音が次第に速くなるにつれて、後ろをついてくる足音はついに我慢できずに声をかけた。


パニーノ:あ、あのっ……

サスカトゥーンベリーパイ:!!だ、だれ?!


 少年はびっくりして振り返ったが、すぐ後ろにいる少年を見定めると、緊張した表情は急速に消え、鍛えられた傲慢な様子を取り戻した。


サスカトゥーンベリーパイ:なによ?

パニーノ:ヴィダル様がおっしゃいました…あ、あなたたちはみだりに外に出ちゃいけないって……

サスカトゥーンベリーパイ:ふん、ぼくがやることには、誰も口出しなんてできっこないわ!それに、外に出るわけじゃないんだから…

サスカトゥーンベリーパイ:わかったなら、もうついてこないで!どいてよ!

パニーノ:あっ…ご、ごめんなさい……


 少年の傷ついた表情を見て、サスカトゥーンは一瞬、後悔と申し訳なさが顔をかすめた。しかし、その亀裂は、彼が振り向いて背を向けたことで、すぐに覆い隠されてしまった。

 彼は外界へ続くドアから遠ざかる道へと進路を変え、寂しげにまたあの小さな温室へと戻っていく。


パヴロヴァ:あなたは、悲しそう。

サスカトゥーンベリーパイ:………見間違いよ。悲しくなんてないわ。

パヴロヴァ:ムールもそう思ってました。今のあなたは、マカロニの前でさえ、笑顔が、無理しています。

サスカトゥーンベリーパイ:指名手配されて、人のテリトリーで隠れるしかないんだもの。楽しくなるわけないじゃない……

サスカトゥーンベリーパイ:……そうだ。これらの話、マカには内緒ね。

パヴロヴァ:なぜ。彼なら、状況を変えられるかもしれないのに。

サスカトゥーンベリーパイ:そんな期待、簡単に彼に抱かせないで。死んだのは工場の人間ぜんぶなんだもの。指名手配されるのは当然の報いよ……それに、どう変えられるっていうの…

サスカトゥーンベリーパイ:今の状況、ぼくは我慢できるの。マカが、ただそばにいてくれさえすれば、それでいいの。

パヴロヴァ:ふたりは、不器用ですね。

サスカトゥーンベリーパイ:不器用?

パヴロヴァ:お互い信じているのに、いつも、お互いに嘘をついている。理解できません。

サスカトゥーンベリーパイ:……だってあんたはただの綺麗な人形だから、わかるわけないわ。ついでに言えば……なぜあんたは去らないの?

パヴロヴァ:去る理由はありません。

サスカトゥーンベリーパイ:あんたは最初からトイファクトリーの人じゃなかったし、あの工員たちの死もあんたとは無関係だったはず…何故ここにいるの?

パヴロヴァ:だって、サスカトゥーンは、いい子ですから。放っておけません。

サスカトゥーンベリーパイ:………うるさい。ぼくはいい子なんかじゃないし、あんたなんかぜんぜん必要ないの。もうついてこないで。

パヴロヴァ:……


 パヴロヴァは返す言葉もなく、ただブランコに座り、自分を暗く小さな世界へと閉じ込めていく少年の背中を見つめるしかなかった。

 同じように言葉を失っていたのは、片隅に隠れていたもう一人の人だった。


マカロニ:……

マカロニ:ふっ…その通りだな。おれに何が変えられるっていうんだ…

マカロニ:心臓を食べ続けられなければ…私はまったくの無駄食霊にすぎない。


 自嘲気味に笑うマカロニは、その痩せた背中を最後にもう一度見つめると、そっと部屋を後にした。


***


 自衛能力があるため、「パラダイスメイカーズ」から短時間外出することは認められているが、活動範囲は近辺だけに限定されている。


マカロニ:はあ…まるで囚人の放風時間みたいだ…

フィテール:あなたが、ヴィダルの言っていた「殻」でござるな。

マカロニ:はっ?てめぇは何だ…


 行く手を塞がれ、不機嫌に顔を上げて怒鳴ろうとしたマカロニは、しかしその聖なる輝きを放つ姿に言葉を詰まらせた。

 その白金の光……あまりに奇妙だった……


マカロニ:お前…人間でもなければ、普通の食霊でもなさそうだな?

フィテール:ほう、するどい洞察力じゃ。その点は、「彼」も満足なされよう。

マカロニ:わけのわからんことを言うな。お前の目的は何だ?

フィテール:私が今の状況を変えられるとしたら、私の助けを受け入れてくれるかのう?

マカロニ:……何も知らないくせに、狂った戯言を吐くな。それに、もし何かを変えられるとして、なぜ私を助けようとするんだ?

フィテール:それは、私はあなたを愛してる。

マカロニ:はっ?変態かお前は?!

フィテール:否。我は神なり。神はすべての人を愛おしむ。ゆえに我、汝を愛おしみ、助けんとす。

マカロニ:お前は……!


 その手がマカロニに向けられた時、彼は怒りの声を一音上げることしかできず、抵抗も虚しくその目を閉じ、倒れ込んでいった。


フィテール:大丈夫です。その目が再び開かれる暁には、汝は「素晴らしき新世界」を目にすることとなろう。


ストーリー1-2


フィテール:大丈夫です。その目が再び開かれる暁には、汝は「素晴らしき新世界」を目にすることとなろう。


***


マカロニ:!!!


 その優しくも恐ろしい声が、今なお耳元にこだましているかのようだった。マカロニはパッと目を見開いた。しかし、そこに見えたのは、完全に見知らぬ部屋だった。

 金色の光がカーテンをくぐり抜け、暖かな風が流れ込んでくる。彼は柔らかい布団にくるまれ、ベッドの上に横たわり、周囲には淡い花の香りが漂っていた。


マカロニ:さっきの……なんだった……夢……か?


 ドクン。ドクン。


マカロニ:?


 ドクン。ドクン。

 突如として、彼は最も奇妙な一点に気づいた。それは特別な感覚だった。胸元からくる。温かい。震えるような。そして微かに痛む。

 信じられないという面持ちで、彼は左手を左胸の上に重ね、ゆっくりと呼吸した。


マカロニ:これは……鼓動……


 ダダダダダッ――バン!

 早足の足音の後、ドアが勢いよく開かれた。少年は大きな笑顔を浮かべ、まっすぐマカロニに飛びついてきた。


サスカトゥーンベリーパイ:マカ!日が高くなった!なんでまだ起きへんのー!

マカロニ:君……


 強い違和感が心臓を直撃し、マカロニは驚いて何かを言おうとしたが、その言葉を発しようとする瞬間……

 ……そこには、さらに強力な新たな思考が上書きされたかのようだった。記憶すらも一緒に。

 それ故、彼はごく自然にサスカトゥーンの頬をつねりながら、笑って言った。


マカロニ:押さえつけられてどうやって起きるんだよ。さあ行くぞ、ご飯だ。

サスカトゥーンベリーパイ:うん!

パヴロヴァ:おはようございます、マカロニ、サスカトゥーン。残念ながら、私の朝の練習は終了しています。

マカロニ:それはそれでいいさ。どんなに美しい踊りでも毎日見てたら嫌になるもんな。それにあんなに痛そうなバレエなんだから。

サスカトゥーンベリーパイ:へへ、マカ、パヴロヴァのこと案じてるんやん。

マカロニ:勝手に設定追加するなよ、してないって。

パニーノ:あ、お二人さまおはようございます、すみませんまたお邪魔しました……

マカロニ:かまわない。サスカトゥーンは人が多いのが好きだ。飯にするぞ。

サスカトゥーンベリーパイ:今日の朝ごはんはムールが作ったんやで。パニーノもきっといっぱい手伝ったやろな。

ムール・フリット:…うん。だから、美味しくなくても全部食え。


 数人で賑やかにテーブルを囲み、言い合いをしたり、冗談を言い合ったり、それはそれは温かく普通の家族の光景そのものだった。


マカロニ:そういえば、今日は特別に浮かれてるようだが、何か良いことでもあったのか?

サスカトゥーンベリーパイ:え!?マカ!忘れたとか言わへんやろな!?

マカロニ:何を忘れたんだ?

サスカトゥーンベリーパイ:今日一緒にピクニック行くんやで、約束したやんか!

マカロニ:ああ、すっかり忘れてたぜ。


―――

何⋯⋯

・そんな?!

・酷すぎだ!

・嘘でしょう?!

―――


パヴロヴァ:彼は嘘をついています。昨日遅くまで、ピクニックに使うものが揃っているか確認していました。私がこの目で見ました。

マカロニ:そうだ。わざとからかってたんだ。

サスカトゥーンベリーパイ:ほんまに意地悪やわ……まあええわ。覚えてくれてたらそれでええんや。

サスカトゥーンベリーパイ:そうやパニーノ!パラダイスメイカーズのみんなも誘ってや!

パニーノ:え?では、ヴィダル様に連絡してみます……

マカロニ:あいつは「タダ」が大好きだから、絶対来るよ。心配するな。


 マカロニはそうからかい笑ったが、みんなの笑い声の中、一筋の異様な感覚が背筋をゆっくりと這い上がってきた。

 彼は素早く振り返り、何の異常もないごく普通の窓を眺めた。


マカロニ:……錯覚か……なんか、嫌な予感がするんだが……


ストーリー1-4

(※ストーリー内に御侍の名前(自分自身の名前)が出ますので「御侍」表記で統一しています、ご了承ください。)


ヴィダルアイスワイン:平日の仕事中に会社を離れるような誘いは、滅多にかからないんですよね。

マカロニ:ふん、誰も無理強いしてないだろ。

ヴィダルアイスワイン:はは、サスカトゥーンをがっかりさせるなんて忍びないですからね。ついでに御侍の気分転換にもなりますし。

御侍:そういえば……招待されていないのに参加してもいいですか?

サスカトゥーンベリーパイ:もちろん~!

御侍:ありがとう。でもピクニックなんて久しぶりで、何を持っていけばいいかわからへんわ……


―――

何も持ってこんでええよ⋯⋯

・何でも揃ってるよ。

・来てくれるだけで十分だよ。

・心配いらないよ、手土産なんて。

―――


御侍:そうですか……でも……君たちのピクニック、デザートしか食べへんの?

マカロニ:このガキのせいや。言うとくけど、虫歯になったら俺が直接抜くからな。絶対容赦せえへんで。

サスカトゥーンベリーパイ:ひぃ!怖いー!

マカロニ:全然怖がってへんやんけ……

サスカトゥーンベリーパイ:はは!だってマカは口だけやもん!ヴィダル、あっちで何か採れるもん探そ!

パヴロヴァ:私も行く。

パニーノ:み、皆で行きましょう……

ヴィダルアイスワイン:ふふ、じゃあ今日だけ、マカロニに代わって「一日の当主」やらせてもらいますね~


 黙っていながらもやる気満々のムールを含め、一行はすぐ脇の小森に駆け込んでいった。騒ぎ声が遠ざかるにつれ、マカロニも思わず安堵のため息をついた。


マカロニ:ヴィダルって奴も、たまには役立つんやな……

御侍:ふふっ、準備大変でしたね?今日は天気も良いし、食べ物も美味しいし、全部が完璧で……

御侍:まるで、夢みたい。

マカロニ:夢?

御侍:……ああ、ごめん。「現実」には不満だらけやったから、ついそんなこと思ってしもた……

マカロニ:そうですか……でももしこれが「完璧な夢」やったら、それも悪くないかも?

マカロニ:いや。


 彼は何かに気づいたようで、すぐに自分の発言を反駁した。

(※反駁/はんばくとは他の意見に反対し、論じ難ずること。論じ返すこと)


マカロニ:やっぱり、夢ばかり見てるバカにはなりたくない。現実の方がええ。

御侍:……そういえば、現実と夢ってどう見分けるんや?もしかしたら「今の現実こそが夢」なんかもしれへんで?

マカロニ:どうでもいいよ。夢なら、いつか必ず覚めるんだから。

マカロニ:夢の中が完璧やったら、現実に戻った時のショックもでかいやろ。だから現実がええ。

御侍:そう?じゃあもし「夢が永遠に続く」と保証できる人がいたら?

マカロニ:?

???:きゃあ――!!!


 マカロニが御侍に何か尋ねようとしている最中、遠くから不気味な悲鳴が聞こえてきた。マカロニはその疑問を忘れ、急いで立ち上がり、森へ走り出した。


マカロニ:サスカトゥーン!どうした!

サスカトゥーンベリーパイ:ヴィダルが、ヴィダルが……!


 ヴィダルは地面に倒れていた。目立った外傷は見当たらないが、明らかに息は絶えている。しかしマカロニが最も驚いたのは、ついさっきまで談笑していた人物が冷たい亡骸となったことではなく――


マカロニ:こ、これは……何だ……

???:……


 不詳な気配を全身から放つ正体不明の生物。マカロニはその顔を見定められないのに、なぜか相手が笑っていると確信した。


サスカトゥーンベリーパイ:ひっ!

マカロニ:てめぇ……何をする気だ!

サスカトゥーンベリーパイ:マカ!

マカロニ:やめろ!


 マカロニの制止は間に合わなかった。眼前に広がった黒い霧が晴れた後、サスカトゥーンはヴィダルの傍らに倒れていた。


ストーリー1-6


マカロニ:サスカトゥーン――!!!


 そのようにして心を失った痛みは、マカロニを思わず叫び出させた。

 汗まみれで喘ぎながらベッドに横たわるマカロニ。痛みが薄れるにつれ、苦しい記憶も霧散していく……


サスカトゥーンベリーパイ:え?マカ……悪夢でも見たん?

マカロニ:……


 いつの間にか入り口に現れたサスカトゥーンが心配そうに尋ねた。マカロニはぼんやりと彼を見つめ、ゆっくりと微笑みを浮かべた。


マカロニ:いえ……

サスカトゥーンベリーパイ:じゃ早く起きよ!日が高くなった!

マカロニ:押さえつけられてどうやって起きるんだよ。さあ行くぞ、ご飯だ。

サスカトゥーンベリーパイ:うん!


***


パヴロヴァ:おはようございます、マカロニ、サスカトゥーン。残念ながら、私の朝の練習は終了しています。

パニーノ:あ、お二人さまおはようございます、すみませんまたお邪魔しました……

サスカトゥーンベリーパイ:かまわない!人が多いほうが賑やかやろ!マカもそう思うや――

サスカトゥーンベリーパイ:マカ?


 周りの様子がおかしいと気づいたサスカトゥーンは、首を傾げながら顔を上げた。すると、なぜか呆然としたマカロニの表情が目に入った。


マカロニ:今日のピクニック……やめとこう。


―――

え?

・どうして?!

・約束したのに!

・ダメ!

―――


マカロニ:サスカトゥーン。

サスカトゥーンベリーパイ:……


 マカロニの突然の厳しい口調に、サスカトゥーンは噎せ返るように口を閉ざし、瞬きをしながら見るからに哀れそうな顔をしていた。


ムール・フリット:ガキいじりかよ、マカロニ

パヴロヴァ:サスカトゥーン、可哀想。

パニーノ:み、皆さん……けんか、やめてください……


 突然変化した空気がマカロニを驚かせた。彼は一瞬、なぜピクニックに行きたくないのかを忘れてしまった。

 ただ一つ、絶対にそこには行けないということだけは分かっていた。


マカロニ:……準備がまだ整ってへんから仕方なく……代わりに遊園地に行くのはどうや?

サスカトゥーンベリーパイ:遊園地!?で、でも前は「危ないからあかん」って言うてたやん!

マカロニ:だから「代わり」って言うたやろ。どうする?遊園地か、家でゴロゴロか、選べ。

サスカトゥーンベリーパイ:……


しばらく後

遊園地


サスカトゥーンベリーパイ:ワァ!ジェットコースター!あっ!観覧車!キャッ!めっちゃデカいメリーゴーランドや!

マカロニ:やっぱガキやなあ。まさか初めてとかやないやろ?そんなに浮かれるか。

サスカトゥーンベリーパイ:前はよく来たんや……でも今は……もうええねん!これからマカと一緒に来られればそれで!

マカロニ:誰がこれからも来るって言うた?今日だけやぞ。

ヴィダルアイスワイン:まさかここでお会いするとは、奇遇ですね。

マカロニ:……お前も、どうしてここにいるんだ?

ヴィダルアイスワイン:え?おかしいですね。私、あなたを怒らせるような真似はしていないはずですが……突然そんな敵意を向けられては困りますよ?

マカロニ:別に……一人か?

ヴィダルアイスワイン:他に誰かいるべきですか?

マカロニ:当たり前やろ、もちろん――


 言葉は記憶と共に断たれた。彼は確かに、ヴィダルと一緒に現れ、自分の隣に座って天気が良いと感嘆していた人がいたはずだと覚えているが、しかし……


マカロニ:……あれは……誰だ?


ストーリー2-2


ヴィダルアイスワイン:遊園地には確かにスリリングなアトラクションが多いけど……ここまで緊張する必要ある?

マカロニ:お前みたいな黒い商人に何がわかる。

ヴィダルアイスワイン:確かに、私は子供を持たない身ですからね。こういう「父親」の気持ちは理解できませんよ~

マカロニ:はっ?何が「父親」だ!サスカトゥーンと俺の年はそう離れてねェだろ……

マカロニ:サスカトゥーン!それ汚ねェから食うな!あの人形の中身は変態おじさんだ、握手なんてするんじゃねェ!

ヴィダルアイスワイン:うーん、それは言い過ぎじゃありませんか?

マカロニ:黙れ!脅かさなきゃガキが真に受けるわけねェだろ?

マカロニ:メリーゴーランドでは必ず手すり掴め!キョロキョロするな!ジェットコースターは禁止だ、足短くて床に届かねェんだからな……走るな!

ヴィダルアイスワイン:はあ……こんな無駄な心配、私も理解したくありませんよ。

ムール・フリット:……今日のマカロニ、明らかに緊張しすぎ。

パヴロヴァ:何を、緊張してるのか。

サスカトゥーンベリーパイ:あれもダメこれもダメじゃ、家にいるほうがマシや……マカ!観覧車ぐらいええやろ!


―――

いえ⋯⋯

・そんなに高くて怖くないの?

・観覧車は危険だしつまらない。

・観覧車だって100%安全じゃない。

―――


サスカトゥーンベリーパイ:心配やったら一緒に乗ればええやん!さあ行こ!

マカロニ:待て……


 マカロニは止める間もなく、サスカトゥーンに強引に観覧車の下まで連れて行かれた。動きの鈍いアトラクションは確かに危険そうには見えなかったので、彼はそれ以上何も言わなかった。


サスカトゥーンベリーパイ:ほら、なんともないだろう!

マカロニ:……

サスカトゥーンベリーパイ:一体何を心配している?前はあんまり構ってくれへんかったのに……

マカロニ:俺も……わからねェ……ただ何か……起こりそうな気がして……

サスカトゥーンベリーパイ:マカが遊園地をそんなに怖がる場所やったら、来ないほうがいい……

マカロニ:別に遊園地が怖いわけじゃ……まあいい、せっかく乗ったんや、楽しめ。

サスカトゥーンベリーパイ:はは!じゃあマカは高所恐怖症ちゃうんやな~見て!夕日きれい!


 マカロニは少年の指差す方向を見た。オレンジ色の雲がピンクがかった紫の空に重なり、ゆっくりと柔らかな光を放っていた――彼は長い間暗闇にいたため、眩いばかりの風景に包まれた時の反応をすでに忘れていた。

 だが幸い、傍らの少年が手本を見せてくれたおかげで、彼も自然と微笑みを浮かべることができた。


サスカトゥーンベリーパイ:終わったで!帰ろ!

マカロニ:うん……


 地面に足をつけたが、気持ちはまだ宙を漂っているようだった。マカロニは久しぶりに心身をリラックスさせたが、気持ちの切り替えが済まないうちに、異変が起こった。


人群:きゃあ――!!!

マカロニ:!!!


 不気味な悲鳴に観光客たちは散り散りに逃げ出し、すれ違う人混みの中で、マカロニはまたもあの不気味な姿をかすかに見た。


???:は……

マカロニ:てめぇ……一体……何者だ!

???:はは……

マカロニ:ちっ……サスカトゥーン!背中に乗れ!

サスカトゥーンベリーパイ:え?!


 サスカトゥーンを背中に引きずり上げると、マカロニは黒い霧から遠ざかる方向へひたすら走り出した。


マカロニ:(あいつが一体何者かさえ知らないのに、直接対決するよりも、まずは若造を守ることにしたほうがいい……)

サスカトゥーンベリーパイ:マカ!パヴロヴァたちは……!

マカロニ:黙れ。大人しくしろ。

サスカトゥーンベリーパイ:またそんな怒鳴り方……別人みたい……

サスカトゥーンベリーパイ:君はマカじゃない!

マカロニ:何を言ってるんだ。


 マカロニが説明を始めようとした瞬間、背中に乗っていたサスカトゥーンが突然訳もなく激しく暴れだした。


サスカトゥーンベリーパイ:君はマカじゃない!離して!離すんや!!

マカロニ:サスカトゥーン――!


 彼は一瞬手をすべらせ、サスカトゥーンを背中から滑り落とし、黒い霧に向かって駆け出させてしまった……


???:はは……


 黒い霧は迷わず、サスカトゥーンを確実に受け止めた。そしてマカロニも、初めて相手がどう行動するのかを目の当たりにした。

 黒い霧がサスカトゥーンに触れると、その小さな体は空気の抜けた風船のようにへこんでしまった。同時に、ほのかに光る霊体のような物質が黒い霧に吸い込まれていった。


マカロニ:くそ、くそ、くそ!!お前を殺す!!!


ストーリー2-4


マカロニ:ぐっ……!


 マカロニはパッと目を開いた。目に入るのは相変わらず真っ白な天井、鼻をくすぐるのはやはりかすかな花の香り。そして――


サスカトゥーンベリーパイ:マカ!日が高くなった!なんでまだ起きへんのー!

サスカトゥーンベリーパイ:マカ?


 サスカトゥーンは、なぜか少し呆然としているマカロニを不思議そうに見つめた。その目が次第に光を取り戻して行くのを見て、相手が元に戻ったのだと安心したが、すぐに力強く両腕を締め付けられ、息が詰まるほど痛かった。

 マカロニは緊張しながらサスカトゥーンの体を上下に見渡し、何かを検査しているようにも見えた。その真剣な様子にサスカトゥーンは止めることができず、痛みにわずかに眉をひそめた。


サスカトゥーンベリーパイ:マカ、どうした?

マカロニ:大丈夫……夢や……ただの夢……

マカロニ:でもな……これが夢かもしれへんのやったら?


―――

マカ、大丈夫?

・一体どうしたの?

・落ち着いて!

・俺は大丈夫だよ!

―――


マカロニ:俺は……

???:は……


 突然頭を襲った暗闇が、マカロニの声を奪った。彼は喉が鋭い爪で締めつけられているように感じ、ただその化け物が近づいてくるのを見ていることしかできなかった。


???:お前は……俺が何者か知りたかったんじゃないか……?

???:ハハッ……俺はな……お前の悪夢だ。

マカロニ:どけ!


 彼は必死で喉の締め付けを振りほどいたが……

 黒い霧は彼の手からサスカトゥーンを奪い、そしてサスカトゥーンにまつわる全てを奪い去った。

 彼はまたしてもあの少年を見失った。


マカロニ:畜生……!畜生……!畜生―――!!!!

???:ふふっ……

???:終わったわけじゃないぜ。

マカロニ:!!!


 彼は地面に押さえつけられ、胸を切り開かれた。

 そして、まだ鼓動を続ける血まみれの心臓が、目の前に差し出された。


マカロニ:げほっ……おまえ……おまえ……

???:どうだ?今ここに留まりたいか、それとも過去に戻りたいか?

マカロニ:何……

御侍(幻影):どうする?今の「心臓のない現実」に留まるか?それとも……

フィテール:「毎朝自分の鼓動を聞ける甘い夢」に戻るか?永遠に覚めない夢を保証してやる。

???:どちらを選ぶ?

マカロニ:そんなの……選ぶわけねえだろ……

フィテール:あれ?

マカロニ:お前の造った夢……クソみてえな出来だ……

マカロニ:俺の過去……甘い夢なんかじゃねえ……暗くて……汚ねえ……じめじめした……吐き気がする……

マカロニ:でもな……少なくとも……いつ死ぬかは自分で決められる……現実や……あのガキがついてくる現実にな……

マカロニ:本物の現実に……戻る!


 フィテールは、自らの手で必死にもがくマカロニを、この世の無数の弱き命と同じように、静かに見つめていた。


フィテール:だがな、お前の言う本物の現実も、遅かれ早かれこうなる。あの「悪夢」は実在し、お前の命を必ず奪いに来る。やがて世界全体が……あの甘い夢のように消え去る。

フィテール:それもまた、保証してやろう。

マカロニ:だから何だ……それまでに俺とあのガキの時間は本物や……

マカロニ:あのガキ……俺なしじゃ生きられねえんだ……だから……

フィテール:もしあの子供だけが理由なら……夢の中で永遠に生きさせることもできる。

マカロニ:現実の彼はどうなる!

フィテール:夢さえあれば、それで十分ではないのか?

マカロニ:この……馬鹿野郎が……

フィテール:……

マカロニ:夢なんて……何の役にも立たねえ……何度言わせる気だ……

マカロニ:俺の命は……俺が決める……自分で……生きる!お前みてえな……

マカロニ:ゲロみてえな奴の操り人形には……ならねえ!!!離れろォォ―――!!!


 彼の怒りの咆哮も、その身に纏う「神」を微塵も揺るがすことはなかった。だが……


フィテール:……わかった。

フィテール:せめてもの……わがままへの償いだ……


ストーリー2-6


サスカトゥーンベリーパイ:ん……マカ?


 夜中、サスカトゥーンはカサカサという音で目を覚ます。こすった目で見ると、慣れた人影に安心する。


サスカトゥーンベリーパイ:マカ……こんな遅くに何してんの?

マカロニ:荷物まとめろ。ここを出る。

サスカトゥーンベリーパイ:え?出る?ど、どこに……

マカロニ:どこでもいい。この檻よりマシだ。

サスカトゥーンベリーパイ:で、でも……

マカロニ:文句言うな。荷物はまとめた。起きろ。

サスカトゥーンベリーパイ:え?わ、わざわざ俺のために部屋に来て……置いてかないんや?

マカロニ:……置いていくなら、わざわざお前の部屋に来るか?

サスカトゥーンベリーパイ:そっか!でも……

サスカトゥーンベリーパイ:俺ら、指名手配されてへん?外……危なくない?

マカロニ:俺が守れると思ってねえのか?

サスカトゥーンベリーパイ:……


 彼はマカロニを信じられるか?御侍を殺したあの手で、多くの人を死なせたあの手が、今も自分を見捨てずにいて…

 彼はその手が伸びてくる


サスカトゥーンベリーパイ:信じてるで!行こ!マカ!

マカロニ:そうこなくちゃ。……ああ、そうだ。

サスカトゥーンベリーパイ:ん?何?

マカロニ:お前……そんなに俺を信じなくてもいい。

サスカトゥーンベリーパイ:え?それってどういう……

マカロニ:信じてるふりして嘘つくな……その歪み……直せ。

サスカトゥーンベリーパイ:!


***


サスカトゥーンベリーパイ:……そうだ。これらの話、マカには内緒ね。

パヴロヴァ:なぜ。彼なら、状況を変えられるかもしれないのに。

サスカトゥーンベリーパイ:そんな期待、簡単に彼に抱かせないで。死んだのは工場の人間ぜんぶなんだもの。指名手配されるのは当然の報いよ……それに、どう変えられるっていうの…

サスカトゥーンベリーパイ:今の状況、ぼくは我慢できるの。マカが、ただそばにいてくれさえすれば、それでいいの。

パヴロヴァ:ふたりは、不器用ですね。

サスカトゥーンベリーパイ:不器用?

パヴロヴァ:お互い信じているのに、いつも、お互いに嘘をついている。理解できません。


***


サスカトゥーンベリーパイ:……

マカロニ:自分の気持ちを隠さなくていいんだよ…もっと自分を大切にして、好きなようにしていい。そのためなら…俺を信じなくたっていいんだ。

マカロニ:もし俺があなたに不快感を与えていたら、直接言ってくれて構わない。


 初めてのことだ。あの家では、誰も自分が何を考えているかには関心を持たず、自分自身が不快を感じているかどうかさえ気にしない……これはサスカトゥーンにとって初めてのことで、不安を感じたらそれを話せばいいし、話せば相手がその不安を解決しようと尽力してくれるのだ。


サスカトゥーンベリーパイ:うん!わかった!


 荷物を持って廊下に出ると、二人の人影が待っていた。


パヴロヴァ:私たちも、準備、完了。

ムール・フリット:夜中の引っ越しかよ……説明は後でしっかり頼むわ。

マカロニ:ああ、もちろん。

ムール・フリット:……心臓食わんで大丈夫か?

マカロニ:どうにかなる。それより……


 マカロニが眉をひそめ胸に手を当てる。

 ドクン。ドクン。

 それは自らも驚き困惑する音だ。


ムール・フリット:それよりって?

マカロニ:……いや、なんでもない。ヴィダルって奴はろくでもない野郎だ。あいつが俺たちをここに残したのも、自分の目的があるからさ…

マカロニ:彼女に気づかれる前に、早く行こう。


―――

⋯⋯

・わかっている。

・俺に命令するな。

・お前が一番遅いくせに。

―――


 そして、四人は「天国」を去り、「人間」へと向かう。


マカロニ√宝箱


翌日

とある旅館


マカロニ:おかしい……おかしすぎだ……

サスカトゥーンベリーパイ:そうだ……外には全然……

ムール・フリット:俺たちの手配書がない。


 四人で顔を合わせ、それぞれ眉をひそめて考える。


パヴロヴァ:もしかしたら、ヴィダルが、解決したのか。

マカロニ:あの野郎はむしろ手配されてほしくてたまらんはずや。彼女の会社に縛り付けて手足にしたいくせに、助けるわけない……

サスカトゥーンベリーパイ:そうや!手配されてるって教えたのも彼女やったやん。

ムール・フリット:俺らを閉じ込めるため、手配されてるって嘘ついた可能性は?

マカロニ:ありえん……工場の連中の心臓は確かに俺が食った。あんなに死人が出て、手配されないはずがない……

サスカトゥーンベリーパイ:理由はわからないけど、これでちょうどいいだろう?

サスカトゥーンベリーパイ:手配されてへんし、パラダイスメイカーズも出られた……普通に生きられる……

マカロニ:心はなくても、恥は知っとる。何人も殺して、罰も受けず……気楽に生きられると思うか?

マカロニ:……俺には無理や。

サスカトゥーンベリーパイ:でもお前も仕方なく……

マカロニ:黙れ。お前も間違ってることは分かってるやろ。

サスカトゥーンベリーパイ:……

マカロニ:よし、俺が周りを見て回る。もしかしたらこの辺だけ貼られてないだけかも……お前らはここで待ってろ。

サスカトゥーンベリーパイ:うん……


 マカロニは街中の小路から治安署の前まで、どこにも手配書はない。治安官もマカロニの顔を見ても反応しない。


マカロニ:一体どういうこと……

男:あっ!そ、それっ!マカロニさんですか?!

マカロニ:お前は……!


 声の主は玩具工場の元作業員――確かに死んだはずの男


男:どこに行ってたんですか?ずっと探してたんです……

男:すみません……あの日は仕事休みまして、多分「カーニバル」で飲みすぎたようで……

マカロニ:カーニバル?

男:ええ、そうですね……俺たちは目が覚めたらカーニバルでした。前の晩に酒を飲みに行って、記憶がすっぽり抜けてて……

マカロニ:あなたたち?ひとりじゃないの?

男:あ、ああ…酒はやっぱり人が多い方が楽しいからな。でもなんであんな高い店で飲むことになったのか、みんな記憶が飛んじゃっててさ…

男:でも、なんで玩具工場が閉まったんですか?まさか……あの日みんな仕事休んだせいじゃ……


 マカロニは呆然とし、やがて全てを悟ったように慣れっこの笑みを浮かべる。


マカロニ:カーニバルか……とんでもない借りを作ったな……ふっ……

マカロニ:工場が閉まったのはお前らのせいじゃない。ただ……俺とサスカトゥーンは本当にやりたいことを見つけた。

マカロニ:すぐに……グルイラオに新しい玩具工場ができる。ご期待ください~


ヴィダルアイスワイン√宝箱


ヴィダルアイスワイン:え?マカロニにはご不満ですか?

フィテール:いえ。「殻」としてはまだ脆すぎるが……ほかは最も要求に適っていた。

ヴィダルアイスワイン:それなら……なぜ彼を逃がしたのですか?

フィテール:それが彼自身の選択だったからだ。

フィテール:「愛」とは興味深いものだ。彼からまた多くを学んだ。

ヴィダルアイスワイン:……


 ヴィダルは目の前の「神様」を静かに見つめ、袖の下で拳を握りしめる。


フィテール:君は怒っている。

ヴィダルアイスワイン:いえ、まさか。

フィテール:隠す必要はない。「神」の前では、君は隠しようもないのだから。

ヴィダルアイスワイン:……

フィテール:怒るな。これからは……この形で会うことはない。

ヴィダルアイスワイン:この形?

フィテール:協力関係だ。

ヴィダルアイスワイン:なぜ?私の何が気に障った?

フィテール:知る必要はない。ただ……

フィテール:君の計画は続けよ。モロヘイヤを探すもよし、時空の輪の欠片を集めるもよし……

ヴィダルアイスワイン:!

フィテール:気にしない。結局……それらは全て私が奪い返す。


 その仮面が剥がれかけた。ヴィダルの陰鬱な表情が、フィテールの瞳に映る。


ヴィダルアイスワイン:ふっ……さすがは神様、勝てませんね……

フィテール:心配無用。私は「あの神様」とは違う。人を愛する故にその「殻」自身に選択を許した……

フィテール:彼が「殻」となることを拒み、甘い夢に浸ることを望まぬなら、去らせる。そして「あの神様」の過ちを正す……

フィテール:私は「あの神様」より優れているからこそ、彼に取って代わった。だから君が何をしようと、依然として君を愛する。裏切りに罰を与えぬ。むしろ……

フィテール:この程度の罰で十分だ。


 冷たい手がヴィダルの頭を撫で、即座に離れる。

 ヴィダルは白金の光が消えた場所を凝視し、やがて不穏な笑みを浮かべる。


ヴィダルアイスワイン:ふふっ……

ヴィダルアイスワイン:さすが神様ですね。軽い一言で、私のこれまでの努力を無駄骨にさせやがる……

ヴィダルアイスワイン:貴様にとって無価値でも、私には価値があるんだよ……実験体としてすらマカロニは有用だったのに、逃がしやがって……


 柔らかな仮面が再び顔を覆い、蜜を塗った蜘蛛の巣のような笑み。


ヴィダルアイスワイン:これでな……「神様」との勝負……本気で挑まねばならんようだね~



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