終遠の墟・ストーリー
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終遠の墟
目次 (終遠の墟・ストーリー)
序章―呪う
トカイ:新鮮な養料……ここにいるな……
トカイ:ウフフフ……すぐに……王座は我が物となる……
荒涼とした山頂。風がヒューヒューと唸り、一面に広がる灰色の霧の中にかすかに、荒れ果てた建物の輪郭が浮かび上がる。
果てしなく広がる荒野に、ただ一人の男の足音が鈍く響く。焦げ枯れた枝が尾のように広がり、彼が通る道には濁った色が滲み出している。
トカイ:我がものとなるべき力――
トカイ:今日こそ……奪い返す!
ナイフラスト
ある国
ゆったりと進む馬車が石畳の道を辿り、城門を通り抜ける。キャラメルマキアートが幕を勢いよく押し上げると、陽の光を浴びて輝く華麗な城が見えた。
キャラメルマキアート:わあ!久しぶりに見る立派な王宮!きっとすごく面白い骨董品が収蔵されてるよね?
スブラキ:また骨董品かよ?王室のご馳走を楽しむのが先でしょ!
バクラヴァ:その通り!砂混じりの硬い乾パンより、王室の御料理は見た目も味も抜群だぜ!
パルマハム:じゃあ食べる時は俺のレンズから離れてくれよ。がつがつ食うモンスターが作品に写るのは勘弁だ。
フェジョアーダ:お前たち……今回の目的を忘れてるんじゃないのか?
スブラキ:もちろん覚えてるよ!精霊関連の手がかりを探して、欠けた歴史を補うんだ……隊長が服選びに時間かけなきゃ忘れる所だった!
バクラヴァ:王族に会うんだから格好はちゃんとするさ~。スメール探検隊の面目にかけてな!
フェジョアーダ:……隊長だけ体裁よくて、隊員はみすぼらしい探検隊の面目ってあるんですか?
バクラヴァ:ははっ、それこそがプロフェッショナルって証拠じゃないか?つーわけで面会は俺一人で行くから――
バクラヴァ:皆さんはご馳走を楽しみにしてな~!
その後
王宮のどこかで
スブラキ:面会もう終わったの!?
パルマハム:……まさか、無鉄砲な発言で追い出されたんじゃ?
バクラヴァ:残念ながら、それより酷いぞ……見当違いの場所に来ちまった
ムサカ:……?
バクラヴァ:この国は精霊への信仰みたいなものがあるらしが……実際に見た者も、痕跡もない。ただの伝説かもしれないんだ
パルマハム:でもお前の予言は痕跡があるじゃないか?
バクラヴァ:ああ。それに「精霊の呪い」を受けた者もいるらしい……ただ、とっくに国外追放されたらしいな
スブラキ:精霊の呪いって!?
ムサカ:…………
バクラヴァ:精霊が呪うなんて聞いたことないぜ……ムサカ、何か心当たりは?
ムサカ:……知らない。だがここには精霊はいない
バクラヴァ:やっぱりな……例の呪われた人物を見つければ何か……だが誰もその名を口にしたがらないんだ
スブラキ:じゃあ……ご馳走はお預け?
バクラヴァ:そういうこと!このスーツも無駄遣いだったぜ!
フェジョアーダ:……そんなことより大事な問題があるだろ
キャラメルマキアート:冗談はいいわよ!次の行動はどうするの?
バクラヴァ:諦めるなよ~!行き詰まりこそスメール探検隊の醍醐味さ!というわけで…今回はこの予言書に頼ってみよう!
バクラヴァは陽気にページをめくるが、次の瞬間、笑みが凍りついた。
バクラヴァ:災厄……
キャラメルマキアート:え?また!?
バクラヴァ:邪神遺跡……呪い……全てが繋がっている
フェジョアーダ:つまりあの追放者は…邪神遺跡へ向かったと?
バクラヴァ:そうだな…とにかく邪神遺跡に行くしかない
キャラメルマキアート:まさか!じゃあパネトーネが危ないじゃない!?
パルマハム:パネトーネ?美しいお嬢様の名前だね~君の知り合いか?
キャラメルマキアート:ああ、お前みたいな軟弱者を十人まとめて吹っ飛ばせる子よ。行かなくちゃ!
バクラヴァ:そりゃ皆で行くに決まってるだろ!
キャラメルマキアート:え?でも調査の邪魔じゃ…
バクラヴァ:邪神の遺跡で新たな手がかりが見つかるかもよ?何よりバクラヴィアは助け合いが大好きさ!スメール探検隊――出発だ!
応接室に戻ったパルマハムは満足げにカメラをしまった。
第一回―失踪
霊力波動トカイの失踪。
ナイフラスト
地質観測点
広大な観測台に星図がゆらめく。巨大なプラネタリウムが複雑な模様を映し出す中、資料を抱えた少女の甘い表情に不安が走った。
フィンブルーベリーパイ:今週の観測データ、すべておかしいなあ……
フィンブルーベリーパイ:まるで……何か変なエネルギーが干渉してるみたい……
彼女がつぶやきながら資料室へ向かうと、常とは違う重い空気が漂っていた。
タルタル牛肉:……
無数のスクリーンがデータを表示する会議室。普段は陽気なパネトーネまで表情を硬くしている。
フィンブルーベリーパイ:所長、今週の星象レポートまとめましたよ
タルタル牛肉:おお、ブルーベリーパイか!ご苦労
フィンブルーベリーパイ:大丈夫です。でも所長たち、何日も徹夜してますよね?何かあったんですか?
パネトーネ:所長、ブルーベリーパイにも話すべきじゃない?
タルタル牛肉:ああ……実は邪神遺跡の霊力測定値が、ここ数日異常値を示している
タルタル牛肉:多少の変動なら問題ないが、連続で安全域を超えるのは前代未聞だ……
フィンブルーベリーパイ:それじゃあ私の星象データも……
タルタル牛肉:心配するな!封印結界の不安定が原因だろう。カプリと原因調査中だし、魔導学院にも支援要請したからな
雰囲気を和ませるため、タルタル牛肉はいつものように微笑んだが、彼の言葉が途切れるとすぐに、慌ただしい足音が聞こえた。
カプリケーキ:所長……!皆もいたか
タルタル牛肉:どうした?君が慌てるなんて珍しいな
タルタル牛肉:まさか!?
パネトーネ:全部探したの?ただ散歩してるだけじゃない?普段からあんまり会わないし
カプリケーキ:付近は全部……だが部屋でこれが見つかった
カプリはそう言うと、ぐしゃぐしゃに丸められた紙を取り出した。そこに書かれた乱雑な文字を見た途端、一同は驚きの色を見せた。
パネトーネ:これトカイの字?ぐしゃぐしゃすぎて読めないよ……
フィンブルーベリーパイ:えっと……「近づくな……邪神遺跡……俺も信用するな」……かな?
タルタル牛肉:おかしい……しかもこんなタイミングで……
カプリケーキ:ここ数日、彼はずっとわざと僕たちを避けているようでした。呪いの力がまた暴れたのかと思って……もっと気にかけるべきでした。
タルタル牛肉:お前が一番彼を気にかけている。自分を責めるな。ただ……
タルタル牛肉:トカイの体内の呪いの力は邪神と関係があるようだ……それに邪神遺跡近くで最近霊力が異常変動してる……何か繋がりがあるかもしれない
カプリケーキ:僕が邪神遺跡内部へトカイを探しに行くことを申請します
パネトーネ:はあ?頭おかしいの?邪神遺跡の内部なんて何万年も誰も踏み入ってない!神の封印がまだ残ってても、今はもう緩んでるんだよ?
カプリケーキ:トカイは僕が観測站に連れてきたんです。ここで一番信頼しているのは僕だと言ってくれました……絶対に放っておけません。
普段は温和なカプリの強い口調に、パネトーネは反論できず、タルタル牛肉に助けを求めるように視線を向けた。
タルタル牛肉:その通りだ、トカイも我々の仲間だ。放っておくわけにはいかない。俺も同行する
カプリケーキ:所長……
パネトーネ:あー……本当に仕方ないわね!わかったわ、じゃあ私の大事な機械を連れて一緒に行くよ!
カプリケーキ:パネ……ありがとう
パネトーネ:やれやれ、そんな感動的なこと言わないでよ。ただあんたたち二人が頼りなくて心配だからさ
タルタル牛肉:ブルーベリーパイ、今回は観測点で後援を頼む
フィンブルーベリーパイ:はい!私に任せて、皆さん気をつけて!
第二回―地震
悠久の山脈に潜む危険。
邪神遺跡
神言八峰
そびえ立つ古の山脈が延々と続き、山頂は相変わらず果てしない灰色の霧に覆われ、ただ死のような気配が絶え間なく漂っている。
タルタル牛肉:ここはもう安全区域を超えている。皆、注意しろ
パネトーネ:はい……今この質問するのちょっと遅いんだけど……
パネトーネ:あの邪神、なんでトカイに目をつけたの?どうやって呪われたの?
カプリケーキ:彼はどうやらその経験を話したくないみたい……
パネトーネ:そっか……じゃあ邪神って昔何をしたから封印されたの?
タルタル牛肉:創始の神の神器を盗んだとからしい……でも邪神はそもそも封印されるべきだろ?
パネトーネ:つっても、あの奴生まれつき邪神なの?だって……ティアラの全部って創始の神が創ったんじゃないの?神様がわざわざ邪神を創って、また封印するなんて変じゃない?
タルタル牛肉:多分、もともとは邪神じゃなくて、後から……邪神になるのか?
パネトーネ:でも邪神も「神」でしょ?創始の神が「神」が堕神みたいな悪い存在になれるようにした……そのシステム自体もおかしくない?
タルタル牛肉:それは……
創始の神が邪神を神言八峰に封印したため、この地を邪神遺跡と呼ぶ。これはティアラでは誰もが知る疑いようのない事実だが、何千年もの間、誰も神のこの行動の背後にある理由を深く追求したことはなかった。
タルタル牛肉も言葉に詰まり、答えられなかった。空気が凍りついた時、遠くの山頂で鈍い音が響いた――
パネトーネ:何……何が起きたの!?!?
タルタル牛肉:まずい……
カプリケーキ:霊力波動がまた始まった……早くトカイを見つけなければ…!
タルタル牛肉:そうだ、急げ!
三人は山奥へ足を速めた。どれくらい経っただろうか、もやがかってはっきりしなかった山頂に、ゆっくりと建造物の輪郭が現れた。規模は雄大ではあるが、崩れ落ちて廃墟と化している様子がはっきりと見て取れる。
パネトーネ:わあ、神言八峰にこんな宮殿があるなんて……
タルタル牛肉:かなりの年季が入ってるな……精霊時代のものだろう
パネトーネ:ああ、マキアートからしたら宝の山じゃない!
タルタル牛肉:マキアート……君の考古学をやってる友達?
パネトーネ:そうだけど、今そんな話してる場合じゃない……カプリ、ポケットの中で何か光ってる……!
パネトーネ:トカイのネックレス?彼がこんな……可愛い物を身につけるんだ?
カプリケーキ:実は、トカイが拾ったネックレスです。前に僕が邪神遺跡の近くで彼を見つけたとき、このネックレスも横にあって、その時も光ってました……
パネトーネ:ネックレスが……なんで光るの?
タルタル牛肉:多分また霊力波動のせいだろう
カプリケーキ:僕もそう考えるが……今突然光るのは、ここが邪神遺跡だからなのか、それともトカイが近くにいるからなのか……
パネトーネ:そんなの悩む必要ないよ!私のスーパー探知機二代目があれば、霊力がどんなに微弱でも絶対見つけ出してやる!
カプリケーキ:……
どうやら「霊力が微弱」という言葉に心を傷つけられたようで、カプリは黙り込み、顔中に心配を浮かべていた。それを見たタルタルとパネトーネはお互いを見つめ合い、無言で足を速めた。
しかし三人が歩き始めたばかりの時、異様な音が地中から響き渡り、あっという間に山全体が激しく揺れ動いた。
パネトーネ:地震だっ!
タルタル牛肉:危ない!しっかり掴まれ!待て――
パネトーネ:カプリ!!
第三回―巡り逢う
神殿に佇むその姿はまさか…
廃れた神殿で、ローブをまとった青年の顔色は異様に青く、体中の斑点状の傷から絶えず鮮血が滲んでいる。それでもなお、彼は手にした斧槍を握りしめ、王座の前に冷たく立ち尽くしていた。
虚空から、不気味な笑い声がゆっくりと響いてきた。
???:はっはっはっ!まさか本当に我を傷つけられると思ったのか?滑稽極まりない!
???:よく見ろ、創始の神がここで堕神どもを大量に封印したのが、かえって我が養料となってくれたのだ。結果として、神すら我を利するとはな!
???:そうそう、お前が封印破壊に「協力」してくれたお陰で、ご馳走を楽に味わえたことも感謝するぜ~
トカイ:…………
???:だが食霊は所詮弱すぎる……いずれ……ふふ、こんな宿主に縛られることもなくなるさ
トカイ:……お前は呪いが具現化した寄生体に過ぎぬ。永劫続くものではない
???:ふん、今さらそんなことを言ったところで、何の意味がある?
???:――そうだ、お前の仲間たちもそろそろ到着しているだろう?迎えに行くとするか。奴らの霊力……きっと美味いに違いない
トカイ:お前……!ぐっ…………!!
トカイは咄嗟に止めに入ろうとしたが、全身の傷に妨げられ、力尽きそうになった。次の瞬間、濃密な黒い霧が襲いかかり、青年の視界はたちまち暗転する。再び目を開いた時、もとより深淵のような双眸には、陰湿な邪気が漂っていた。
トカイ:こうしてしまえば楽というものだ……本当に厄介な体だ
???:トカイ……
トカイ:……
意識を完全に失う寸前、トカイは懐かしい声が自らを呼んでいるのを聞いたような気がした……必死に目を開けようとしたが、体は底なしの闇へと引きずり込まれてゆく……
……
???:トカイ……
果てしない闇に囚われたように、カプリケーキは朦朧とした感覚に包まれている。かすかな意識の中で、ただ一つの名前を本能のままに呼んでいた。ふと、温かな光が彼を取り囲み、闇が少しずつ払われていく……
???:カプリ……カプリ……!
カプリケーキ:うっ…………
どこからともなく聞こえる懐かしい声が、焦りの混じった呼びかけを続ける。次の瞬間、青年はゆっくりと目を開いた。
カプリケーキ:痛い……みんなは……
???:よかった!やっと目を覚ましたね!
カプリケーキ:あなたは……
???:私はエルフよ。覚えていないの?
カプリケーキ:エルフ……あれは夢だと思ってた……本物だったんですね!でもどうしてここに?
少女の答えを待たず、カプリは何かに気づき、自分の何もない手のひらを見つめ、次に茫然と周囲を見回した。
カプリケーキ:ネックレスがなくなる……
エルフ:何か落としたの?
カプリケーキ:ええ……落下の時に落としたんだと思います。もう見つかりそうにありません
エルフ:残念だけど……早くここを離れましょう。だって……何だか嫌な予感がするの
カプリケーキ:そうだ。まずは所長たちを探さないと、きっと心配します
エルフ:私も一緒に行く。さあ、行きましょう
カプリケーキ:この壁に刻まれた記号……精霊族の文字のようですね。神殿の建築様式も精霊時代特有のデザインだ……
カプリケーキ:危険さえなければ、研究価値のある場所なのに……ごめん、一人で話し込んでしまって
真剣に殿内を観察していた青年が足を止めた。彼は少女の沈黙に気づき、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
エルフ:平気よ。ただ……ここがどこか懐かしくて……
カプリケーキ:エルフさんは、自分がどうやって現れたか覚えていますか?
エルフ:何も思い出せないの……気がついたら、ここにいた……
カプリケーキ:わかりました。無理に思い出そうとしなくていいんですよ、エルフさん
エルフ:ありがとう、でも……ずいぶん歩いたのに、いつまで経っても出口に辿り着かないわ……あっ!誰か来たみたい!
広大な神殿に、エルフの声だけが虚しく反響した。カプリが視線を向けると、果てしなく続く回廊に、ひと際背の高い人影がゆっくりと近づいてくる。
薄明かりがその顔を照らしたとき、カプリは思わず震えた。
第四回―封印
伝説の封印結界。
トカイの説明を聞き終えても、カプリの眉間の皺は深いままだった。
カプリケーキ:気がついたらここにいた……ってこと?やはり例の呪いが君を操ったせいで……
カプリケーキ:今は?呪いはもう大丈夫なの?
トカイ:ああ、押さえ込んだ
カプリケーキ:それと君の傷は……
トカイ:どうやってできたかは覚えていない。だが軽傷だ
カプリケーキ:転んだ傷じゃないみたい……どちらかというと霊力による損傷のようだけど……
トカイ:……
カプリケーキ:あっ……謝らなきゃいけないことが。ネックレスをなくしちゃって……
トカイ:ネックレス?そんな物はどうでもいい
カプリケーキ:そ、そうか……?そういえば、あのメモの意味は?
トカイ:メモ?
カプリケーキ:部屋に残してたやつだよ。覚えてないの?
トカイ:……
カプリケーキ:メモを残した時にはもう操られてたんだね……じゃあ呪いが暴走し始めたのはいつ頃か覚えてる?
トカイ:……俺を疑っているのか?
突然の詰問にカプリは一瞬凍りついたが、すぐに揺るがない眼差しで相手を見据え、強い口調で言い切った。
トカイ:ならばいい。ところで、こいつは何者だ?
エルフ:……!?
カプリケーキ:今から説明するのは難しいけど……僕の友達だ
トカイ:構わん。邪魔さえしなければな……今は優先すべきことがある
カプリケーキ:何が?
トカイ:俺は呪いを解決する方法を見つけた。山頂の神殿に残る原初の神の封印力を利用し、呪いごとここに封じ込めるんだ
カプリケーキ:山頂の神殿……?君は行ったことがあるのか?
トカイ:ない。だが君は地質観測点で働いている。邪神遺跡の封印力がどれほどのものか、俺より詳しいはずだ
カプリケーキ:神の力が強大なのは確かですが、我々が借りるとなると……リスクが高い
カプリケーキ:まずは所長たちと合流し、その後どうするか話し合った方が安全です
トカイ:猶予はない。この呪いは時限爆弾だ。今すぐこの機会を利用しなければ
トカイ:何よりお前たちの目的地もあの神殿だろう?漫然と探すより、直接そこで待つ方が効率的だ
カプリはまだ言い足りないことがあるようだったが、トカイの強固な決意を見て、最終的には承諾した。
しかし二人が立ち去ろうとした時、カプリはエルフが呆然とトカイを見つめていることに気づいた。
カプリケーキ:エルフさん?どうかしました?
エルフ:何でもない……きっと、見間違いね……
白骨が積もった尾根は雪山のようだった。カプリは頂上に聳える神殿を見つめながら、不安が心を覆っていくのを感じた。
カプリケーキ:こんなに歩いたのに、所長たちに全然会えない……無事だといいけど
トカイ:道中に印は残してある。見つけてくれるだろう
カプリケーキ:そういえば……あの呪いはトカイの体内にあるんだよね?どうやって遺跡に封印するつもり?
トカイ:試してみればわかる
カプリケーキ:なっ……それは危険すぎる!
トカイ:仕方ない。この呪いを根本から断つにはそれしかない
カプリケーキ:そういえば、君は今かなり呪いを抑え込めてる。以前は必ず体力尽きるか鎮静剤を使わないと収まらなかったのに
トカイ:ここにある封印力の影響かもしれない。さあ、神殿はもうすぐだ。体力を温存しろ
カプリケーキ:……はい
第五回―会合
時を得て駆けつけたスメール探検隊。
灰色の霧に浸かった荒れ果てた林。無数の枝道が入り組み、深遠なる彼方へと続いていた。
タルタル牛肉:待て……この道、さっき通ったか?
パネトーネ:ずっと歩いてるのに、探知機も故障して振り切れてる……絶対に何かおかしな力が働いてるわ
タルタル牛肉:このままでは埒が明かん。パネ、少し離れてろ。俺が霊力で試してみる
パネトーネ:あっ!所長の地球儀も方位磁石代わりになるんじゃない?
解決策を見出せたと二人が奮い立つ瞬間、雷鳴のような轟音と共に周囲の景色が水面の波紋のように震え散った。
バクラヴァ:やはり幻境に囚われてた人たちが!大丈夫ですか?
ムサカ:距離は取ってある。私の力が及ぶことはない
パネトーネ:え?マキアート!!
両チームとも状況を把握しきれぬ中、二人の少女は人垣を抜けて駆け寄り、激しく抱き合った。
パネトーネ:マキアート、どうしてここに?
キャラメルマキアート:うちの隊員が邪神遺跡で異変が起きると言うから。ちょうど調査も兼ねて急行したの……
バクラヴァ:……
キャラメルマキアート:君の予言は結構当たるのよね
パネトーネ:今は歓談してる場合じゃないの……仲間ともはぐれたし、行方不明者に呪いの問題も……とにかく急がなきゃ!
キャラメルマキアート:呪い?まさか……
バクラヴァ:その行方不明者は、呪いを持ち込んだ人物ですか?
パネトーネ:また当てた!?どうして知ってるの?
バクラヴァ:へへ、褒めすぎです~でもここからは俺の専門外だな。ムサカ、この場所に何か感じるものある?
ムサカ:……なぜ私に聞く
バクラヴァ:ん~だって君はずっと精霊遺跡の近くで暮らしてたでしょ?ここも精霊時代から封印されてて、精霊関連のものしか残ってないはず。何か既視感ない?
ムサカ:そう言えば……ここは精霊の力は弱く、邪神の力は……次第に強まっている
タルタル牛肉:……そうだ、それでここに来たんだ。行方不明の仲間……彼の呪いは邪神と関係があるらしい
ムサカ:邪神は、呪ったりしない
タルタル牛肉:え?そんなに確信してるのか……?
ムサカ:もし君たちの言う邪神がオトヴィアなら……間違いなく、彼は呪いなどかけはしない
タルタル牛肉:オトヴィア……確かにここに封印された邪神だ……君は彼を知っているのか?
ムサカ:……まさか
タルタル牛肉:そうか、何せはるか昔の話だ……じゃあ呪いの力の在りかはわかるか?うちの機器は全てダメだ
ムサカ:……ついて来い
第六回―見破る
仮面の下に潜む真実。
邪神遺跡
山頂神殿
荒涼として廃れた神殿は濁った灰色の霧に包まれ、無限の闇が隅々でうごめいていた。
三人の足音が冷たい回廊に重く響く。カプリは先を歩くトカイの背中を見つめながら、そのシルエットが周囲の暗がりと溶け合いそうだと感じていた。
カプリケーキ:封印法陣……ここですね
トカイ:ああ
カプリケーキ:君はここをよく知ってるみたいだね
トカイ:……力の源へ向かうだけだ
カプリケーキ:そう……?もう目的は目前のようだし、トカイの体から離れてくれないか?
トカイ:……!?
トカイ:何を言ってるんだ?
カプリケーキ:もう演じるのはやめてください。君が彼じゃないと、とっくに気づいています
トカイ:……お前は俺を信じると言っただろう?
カプリケーキ:僕が信じているのはトカイであって、あなたではありません
トカイ:ほう?違いでもあるのか?
カプリケーキ:実は最初の質問の数々はただの疑問でした。本当に怪しんだのは……君が「俺を信じられないのか?」と聞いてきた時です。そう問うということは、君の方が僕を信用してない証拠でしょう?でもトカイは言いました。「お前が一番の理解者だ」と
カプリケーキ:その後君の言動や態度は、トカイのそれとはかけ離れていました。君が誰で、何をしようとしているかはわからないけど……今すぐトカイの体から出て行ってください
カプリの口調は変わらず丁寧だったが、眼差しも姿勢も一歩も引かなかった。青年は黙り込んだが、いつの間にかマントの下に濃密な黒い霧が渦巻いていた……
次の瞬間、青年が振り返る。もと威厳に満ちた顔は邪気と狂暴さに歪み、裾にまとった枯れ蔓が這うように蠢き延びる。
トカイ:ふふふ……見抜いていたのに、なぜ今まで芝居を続けていたんだ?
カプリケーキ:君の目的を知りたかったからです。それに……軽率に動いてトカイを傷つけたくなかった
トカイ:はあ?つまり今は、我が目的がわかったと?
カプリケーキ:今君を止めなければならないことだけは確かです
トカイ:けっ……
エルフ:気を付けて!!
カプリケーキ:っ!
黒い霧がカプリ目がけて襲いかかる。カプリはエルフに押し出され、二人とも地面に倒れた。
カプリケーキ:君は……なぜトカイの体を使ってこんなことをするんだ!
トカイ:なぜだって?くくくくく……こんな脆い体を見たら、放っておけると思うか?
トカイ:心配するな。封印を破壊した後は、お前は彼と会えるよ~
カプリケーキ:封印破壊……邪神遺跡の封印のことか!?
トカイ:答えの明らかなことをよく聞けるな……自分の体と力を取り戻すのが当然でしょう?
カプリケーキ:自分の体と力……?君は一体何者だ!
トカイ:こいつがお前に教えてないようだな。どうやらお前たちは大した仲でもないらしいぞ……我こそはオトヴィア――
カプリケーキ:嘘はおしまい!邪神オトヴィアは神言八峰に封印されてからずっと眠り続けている。どうしてお前がそんな存在に……
トカイ:構わんさ?封印を破れば奴は我が糧となる……オトヴィアは我となり、我はオトヴィアとなるのだ!我こそがオトヴィアだ!!!
強烈な危機感にカプリは眉をひそめ、可能な手段を探ろうとした。しかし一瞬のうちに、「トカイ」の周囲から延びる黒い霧が怒濤のように迫る。まるで人を喰らう沼のようだ。
エルフ:きゃあ――!
カプリケーキ:危ない!
カプリが反射的に少女をかばうと、黒い霧が頑強な蔦のように即座に二人を絡め捕らえた。
カプリケーキ:ぐっ……!!!
トカイ:まずはお前から頂くとしようか……こんな細い首なら、やすやすとへし折ってくれるだろうな~
高笑いが響く。強力な拘束はカプリの抵抗を許さず、締め付けが強まるにつれ、意識が混沌の淵へ引きずり込まれていく……
エルフ:カプリ――!!!
カプリケーキ:うっ…………まだ終われない……
???:カプリ……!
???:てめえ……お前だけは……傷つけさせない……!
朦朧とした意識の中に、聞き慣れた声が響く。カプリが必死に目を見開くと、黒い霧を操る存在の動きが一瞬止まったように見えた。
次の瞬間、鋭い刃光が一閃する。二人を絡めていた黒い霧はたちまち切断されて消えた。
???:カプリ、お前たちは逃げろ!!!
意識を取り戻したカプリはそばの「トカイ」を見やった。苦悶の表情を浮かべた青年の足元はよろめき、体から漂う黒い霧が時折途切れながらも暗黒の侵食を必死に拒んでいる。
カプリはこれ以上留まれないと判断し、素早くエルフの腕を取った。
カプリケーキ:エルフさん!まずは逃げましょう!
エルフ:ごほっ……はい!
トカイ:くああああ――!穏やかじゃねえ――!厄介なミールめ……最後まで邪魔しおって!!全員、逃がさんぞ!!!!!?
第七回―脱出
庭園に埋もれた秘密。
風音すら聞こえぬほど、無辺の暗夜が大地を覆いつくした。神殿の影は霧の中へ再び消える。だがカプリとエルフは止まらなかった。尾根を這うように前進を続けるしかない。
エルフ:さっきは助けてくれてありがとう
エルフ:あなた、彼をとても心配してるのね
カプリケーキ:はい……でも今は彼の判断を信じるしかないと思います
エルフ:私もかつて誰かを、同じように心配し信じたことが……でも今は何も思い出せない……
カプリケーキ:すみません、辛い思い出を呼び起こさせてしまって……
エルフ:いいえ、あなたのせいじゃないわ……私も……あなたも……誰も悪くないもの
カプリケーキ:……ところで、エルフさんはなぜ突然ここに現れたんですか?
エルフ:それは……
カプリケーキ:え?
少女は答えずに前方を見据えた。カプリが追う視線の先で、荒れ果てた草原に星々のような光点がぽつぽつと浮かび上がる。光点は空中で集まり、まるで二人をどこかへ導こうとしている。
エルフが光点に呼応するように歩き出すと、カプリも岩だらけの土地を進んでいく。やがて、朽ち果てた庭園が霧の中に浮かび上がった。
エルフ:この庭……見覚えが……
カプリケーキ:待って、エルフさん……!
少女は足を止めない。庭園へと入り、中央の噴水へ直行する。荒廃した庭で唯一、誰かを待つかのように静かに水を湛えている泉だった。
カプリケーキ:邪神遺跡にこんな場所があったなんて……
エルフ:噴泉の中に何か光るものが……
カプリが指を伸ばして光に触れようとした瞬間、清らかな水の中から光に包まれた白い花が、静かに彼の掌に落ちた。
カプリケーキ:この花……ネックレスのものに似てますね……
カプリが呟くと同時に、白い花は突然宙へ浮かび、眩い光を放ちながらエルフを取り巻く光粒と共鳴を始めた。
エルフ:ああっ……!!
カプリケーキ:エルフさん!
少女が倒れ込む。カプリが走り寄ろうとした瞬間、激しい眩暈が襲ってきた……
***
数千年前
星の精霊の領域
夜の帳が深く下り、星々は沈黙していた。黒衣をまとった男は全身傷だらけで、青ざめた顔に苦痛の色を浮かべながらも、なおも前へ進もうとしていた。
彼の腕に抱かれた少女は目を閉じ、すでに血の気を失っている。
オトヴィア:時空の輪の件が露見した……創始の神はすぐにも我が身を探し当てるだろう……
オトヴィア:だが後悔はしない……たとえ灰となろうとも、君の魂の一片を留められるのなら
男の声は哀しみに満ちつつも決然としていた。言葉と共に、彼の手にした神器が輝きを放ち、明るい光の粒が眠れる少女を包み込む。
オトヴィア:どうあれ我が力で守る……我らだけのこの場所を
瞬間、厚い雲が空を覆い、星々の光はかき消された。遠く彼方より、神の意志が伝わってくる――残された時間は少ない。
オトヴィア:許せ……エルフ……お前を守れなかったのはこの私だ……
オトヴィア:必ず待っていてくれ……いつの日か、君を甦らせる術を見つけるまでは決して諦めぬ
風がざわめく中、男の面影は静寂の夜に消えていった。
次の瞬間、場面は白昼の庭園へと切り替わる。静寂に包まれた園内で、ただ一つの噴泉が音もなく水を湛えている。
肇始之神:我が子よ……汝はついに背反の道を選んだか……
肇始之神:創造主たる我が汝を世に降ろした以上、正しき路へと導かねばならぬ。二度と過ちを繰り返さず……汝の魂に安らぎを与えん
肇始之神:かの日の波瀾……再び起こしてはならない
遥か遠くから響く神々しい声には嘆息が混じる。神独自の光が静かに集まり、やがて一つのネックレスへと形を変え、少女の胸元へと降り立った。
人の気配なき庭園は深い眠りに落ち、視界が固定されるかのように、眼前の光景が水晶玉のように砕け散る……
***
砕ける音が脳内の轟音へと変わり、カプリケーキがはっと目を見開いた。エルフが噴水の下で茫然とした表情を浮かべている。
エルフ:私……思い出した……
カプリケーキ:さっきの映像……エルフさんの記憶だったんですか?
エルフ:あなたも見えたのね……でも違う、私は……エルフじゃない
カプリケーキ:え……!?
エルフ:本当のエルフはここにいる、だがとっくに亡くなっている。私は創始の神が……この地に遺した力の一片に過ぎない
突然、エルフの身体が半透明になる。一瞬だけだが、カプリは見覚えのある模様をはっきりと目にした――
カプリケーキ:ネックレス……!
ネックレス:そう、私はエルフの遺体に付けられた首飾りでしかない……だから彼女の記憶の断片を継いでいるだけ……でも……
ネックレス:真の役割は彼女の魂を封じ、永遠に転生させぬこと……
ネックレス:わからない……ただ……
ネックレス:「かの日の波瀾を再び起こすな」これが神の教えであり予言……私の真の使命
ネックレス:だが封印を離れた今、オトヴィアの魂は……もはや待ちきれまい
言葉が終わらぬうちに、かすかな振動が二人の足元を襲った。長年静寂を保っていた湖に、再び波紋が走るかのようだ。
カプリケーキ:まずい、まさか封印が……
焦燥が胸を締め付ける。カプリの言葉が続く前に、干からびた大地から無数の邪獣が顔を覗かせ、唸り声を上げて襲いかかってきた。
カプリケーキ:――堕神だ!
第八回―威脅
降りかかる呪いの力。
青年と少女の姿が視界から完全に消えるのを見届け、トカイは喉に湧き上がる鉄の味を抑えきれず、地面に鮮血を吐いた。脳髄を刃で貫かれるような痛みが走る。
呪いの力:これで奴らを救えたと思ったか?身知らずだな。まだ本当の主役はこれからだと忘れるな
トカイ:……言っただろう……お前はこの手で終わらせると
呪いの力:ははっ、この瀕死の様で抵抗もできぬ分際が?ましてや我を??
呪いの力:すぐにでも我がお前を丸ごと喰らってやる
トカイ:できぬさ
冷たく断定的な言葉が虚ろな空間を切り裂く。すると黒い霧が濃く立ち込め、挑発するようにうごめいた。
呪いの力:わからぬか?お前は我を殺せん。なぜなら我は――お前の体内にいるのだからな!
呪いの力:てめえにしてみりゃ容器に過ぎん。仮に自害して俺を止めようとしたって、次はまた新たな器を探せばいい……例えばな?あの友達ってやつを?
トカイ:黙れ……
呪いの力:ああ、友達でもなんでもなかったか?さっきは平然とお前を置き去りにして逃げたじゃねえか。だがよ……奴も逃げられやしねぇ!
トカイ:黙れと――言ってる!!
凍りつくような声が青年の口から迸る。しかし虚空の声はさらに暴言を重ねた。
呪いの力:ほーほほっ!なあ、元をただせばお前が自ら我が力を受け入れたんだぜ?つまりな、これら全てを招いたのは――お前自身なんだよォ!!!
不気味な笑い声が神殿を満たす。黒い霧は濁流のように滾り、万物を飲み込まんとしている。
トカイ:…………っ!!
耳元に甲高い耳鳴りが轟く。制御不能な記憶が脳裏に流れ込む――
群衆A:不吉な力を招いたのはあいつだ!精霊が呪ったんだ!!忌々しい存在だ!
群衆B:こんな危険な食霊を国に留めておけるか!
群衆C:あいつさえいなければ…我々は精霊の祝福を受けられたはずだ……全員を害したのはあいつだ!
トカイ:違う……俺は……呪われたり……誰も傷つけたくは……
呪いの力:自他共に欺くな。お前は故国に災厄をもたらし、今の仲間をも危険に晒した――
呪いの力:お前こそが呪いなのだ!
夢魘の囁きが脳髄を蝕む。黒い霧が彼の体内から迸り出る。青年は斧槍にすがりつき、苦悶の表情を浮かべた。
呪いの力:さあ――戮せ!呪え!支配し尽くせ!
呪いの力:邪悪たる真の力を取り戻すのだ!!!
トカイ:ふっ……ようやく主役の出番か
…………
カプリケーキ:――まずい、堕神だ!
カプリが応戦態勢を取ろうとした瞬間、邪獣の攻撃が突然現れた防壁に阻まれる。交錯する光弾が牙をむく影を次々に消し去っていく。その霊力に覚えのあるものを感じ、青年は信じられないという顔で顔を上げた――
バクラヴァ:詳細な自己紹介は後程!とにかく敵じゃないってことだけ!
タルタル牛肉:ああ。邪神遺跡の霊力波動が異常をきたしている……直ちに神殿へ向かい封印を強化せねば!
タルタルの言葉に呼応するように、山脈と大地が再び激震する。頭上の蒼穹は漆黒に染まり、山頂の神殿だけが不気味な猩猩色に輝く――開かれた幽冥の門の如く。
邪悪な気配が天地を覆う。遠古より続く深淵の力が、場に居合わせた全員に戦慄を走らせた。
ムサカ:……誰かが来る
カプリは信じられない眼で見つめた。馴染み深いはずの人影が、まったく見知らぬ気配をまとって、漆黒の闇から黒い霧を纏い歩み寄ってくる。
漂う烏の羽のような長髪とマントは闇に染め上げられたようで、冷徹な面差しは躊躇なく前方を見据え、手にした戦斧が鋭い冷光を放っている。
呪いの力:ははははっ!今さらそんなこと言ってるとは愚か極まりない
歪な笑い声が虚空から響く。目の前のトカイからではなく、彼の背後に溶け込んだ亡霊のような黒い虚影からだ。
呪いの力:傀儡は叱れば従順になるさ。素直に封印破壊を手伝ってくれて愉快だぜ
タルタル牛肉:戯言を!創始の神の封印結界を侮るとは!
呪いの力:食霊ごときと我を同列にするな……お前たちにできぬことも我にはできる
パネトーネ:ふん!所詮は卑劣な寄生ゴミの分際が!!人を操るだけのどこが偉いのよ!!
呪いの力:何を言う?我こそは邪神オトヴィア――
バクラヴァ:なっ……まさか?!
ネックレス:やはり……あの人の気配が……だが……
ネックレス:何かがおかしい……
呪いの力:信じなくとも構わん。その差はすぐに思い知らせてくれるさ……
言葉が終わると同時に、黒い霧が急速に広がり、空の半分を覆い尽くした。遠くからさらに多くの邪悪な影が湧き出す。
タルタル牛肉:まずい……早急に封印復元を……でなければ大災厄になる!
呪いの力:今さら気づいて何になる……すでに遅しだ!
狂気を帯びた声と共に、遠くの青年が動き出す。鈍く光る斧槍が容赦なく人々へ向かい、爆音を轟かせる。
タルタル牛肉:皆――気をつけ!
カプリが必死にその名を叫んでも、歩み寄る者の足は止まらない。陰影に覆われた顔には殺戮の意思しか見えなかった。
パネトーネ:こ、この人……本当に別人みたい!
カプリケーキ:駄目だ……このままではトカイも傷つく……なんとか正気に戻さなくては!
タルタル牛肉:カプリ!近づくんじゃない!
ザクッ!鋭利な斧刃が腕をかすめる。血が滴り落ち、鋭い痛みが走った。実力差を理解していながらも、カプリは躊躇わずさらに一歩踏み出し……
呪いの力:はっははっ!阿呆め!てめえごときで彼を呼び戻せると思ったか?彼はとっくに俺の傀儡だ!
カプリケーキ:いえ……トカイは……必ず……戻れる……信じて……
致命傷が青年の体に次々と刻まれていく。青年は痛みを感じないかのように、ただ口にした言葉を繰り返し、かつての仲間の理性を呼び戻そうとする。
カプリケーキ:ぐぅあっ……!!!
次の瞬間、青年の喉からかすれた声が漏れる。胸が一瞬で血潮に染まった。しかし武器を握る者の眼差しは、深淵のように冷たく、微光さえ見えない。
タルタル牛肉:カプリ――!!!
カプリが無惨な姿になるのを見て、皆は堕神に阻まれ、救いの手を差し伸べられない。
暗闇に包まれた夜の下、切り裂く音と血の気が入り乱れていた。青年の体は傷だらけだが、それでもなお諦めようとしない。
カプリケーキ:わかってる……トカイはきっと……この呪いから抜け出したいと……
カプリケーキ:だから……必死に戦っているんだ……
カプリケーキ:君を……信じてる……
呪いの力:ちっ……うるさい!今すぐ黙らせてやる――
語尾が消え入る前に、斧がカプリに向かって振り下ろされた……
終章―終結
我がものとなる魂は永遠に消えぬ。
いつまで眠っているつもりだ?
大切な者が瀕死の淵にいる
今こそ目を覚ませ
トカイ:!!!
トカイががばっと目を見開いた。純白の異様な空間を目の当たりにし、困惑と焦燥で目をみはる。
オトヴィア:……こんな場所で目覚めるとはな。まあいい
トカイ:お前……は誰だ?
オトヴィア:オトヴィア。神言八峰に封印された邪神だ
トカイ:なにっ……!?
オトヴィア:あんたの内なるモノとは別物よ。あれは我の残滓に憑いた……呪いに過ぎん
トカイ:お前は……なぜここに?ここは?俺は……
彼は言葉を失った。周囲を見回すうちに、ふと円形の窓に気付いたからだ。窓の向こうで、全身血まみれのカプリケーキがいる。
オトヴィア:呆けている暇はあるまい。助けに戻るんだろう?
トカイ:無論だ!だが……どうすれば?
オトヴィア:力を出し切る
トカイ:……
オトヴィア:そんな顔をするな。今の我は実体なき亡霊でしかない。封印はまだ完全には解けておらん
トカイ:……だが残存封印ならお前の力で破れるはずだ
オトヴィア:無論できるさ、しかしな……
彼は当惑した少女を見つめ、まなざしが優しく、惜しむように揺らぐ。
オトヴィア:あの面差しを持ち合わせた者に……我は手を出せぬ
トカイ:彼女は……
オトヴィア:我が愛しき者の魂を封じた神器だ。同時に……この我に対する最後の封印でもある
トカイ:……お前は邪神には見えない
オトヴィア:ああ……ただ愛しい者を喪った哀れな者に過ぎん……そういえば思いついたが
オトヴィア:お前は根っからあの呪いを拒んでいる。だからこそ振り回される……考え方を変えてみろ
オトヴィア:それを……お前の力にしてしまえばよい
トカイ:!
カプリケーキ:トカイ……!操られて何をしたとしても……君は君だ……知っているトカイなんだ……こんなものに……負けるな……!
カプリは目の前の灰色の瞳がわずかに揺れるのを見据えながら、優しくも強い言葉を紡ぐ。暗闇の中に忽然と現れた灯火のようだ。
カプリケーキ:信じてる……!!!
ついに、冷徹無光の瞳の奥底に微かな光が宿った――
トカイ:うぐっ……!!!
呪いの力:ぐあああああっ!!!ふざけるな――我が支配から抜けられると思うなよ!!!
トカイ:お前の敗けだ
瞬間、トカイを包む黒い霧が暴騰する――が、カプリに触れんとした寸前、急速に後退し、トカイの体内へと吸い込まれてゆく……
トカイが顔を上げたとき、陰影に覆われた面差しは既に凛然たる威厳を取り戻していた。
トカイ:君は自分の体を粗末にしすぎだ……
カプリケーキ:ごめん……でも……目を覚ましてくれてよかった
トカイ:……ありがとう、カプリ
パネトーネ:わわっ!?な、何あれー!?
パネトーネの叫びに皆の視線が集まる――半透明の、亡霊めいた人影が呆然とした少女へ歩み寄っている。
ネックレス:あなた……
オトヴィア:ああ、私だ
ネックレス:ごめんなさい…私は本当の――
オトヴィア:構わん……ただ……
彼はゆっくりと手を伸ばした。眼前の存在を傷つけないよう、かすかに震える指先が触れようとした瞬間――少女の姿が消え、無機質なネックレスへ戻った。
彼は一瞬固まり、やがて諦めたように笑って、カプリの方へ視線を移す。
オトヴィア:彼女を守ってくれて……感謝する
そう言い終えると、半透明の人影はゆらめいた。風に煽られる炎のように。しかし消えはせず、ひたすら膨張を続ける――山全体を覆う寸前で、突然消え去った。
晦冥の夜が次第に明るみを帯び、濁った霧が晴れていく。やがて、跋扈する巨影と怪物の群れは、大地の輝光の中に完全に消え去った。
タルタル牛肉:さっきのは……邪神?
トカイ:ああ……
パネトーネ:封印を破壊せず自ら帰ったの?奇跡かしら?
トカイ:確かに……伝聞とは違うようだ
カプリケーキ:伝聞は……必ずしも真実とは限らないんですね……
スブラキ:でもこれで災厄は回避された!よかった!
バクラヴァ:真実の検証と、語り得ぬ声への正義は……我らスメール探検隊の使命だ!
トカイ:うん……カプリの治療を急がねば
タルタル牛肉:ああ、封印強化の手配も急いで……放っておけば更なる災厄の元だ
パルマハム:とにかく下山すべきでは?既に夜が明けてますし……
カプリケーキ:ちょっと待って……
カプリが弱々しくも確かな声を出す。トカイに支えられながら、ネックレスを噴泉の傍らに置いた。
カプリケーキ:エルフさんが……もう二度と妨げられることなく、安らかに眠れますように……それと……
トカイ:すまない……お前を巻き込んで……全快するまで責任もって世話する
カプリケーキ:謝らなくていいよ。償いが欲しければ……次に外勤する時、助手が一人欲しいな
向かい合う者が柔和な笑みを浮かべると、常に冷徹な青年も珍しく薄い微笑みを返し、うなずいた。その瞬間、片腕が彼の肩に置かれる。
タルタル牛肉:さあさあ急ぐぞ!お前も負傷だらけじゃないか!早く手当てだ!
パネトーネ:そうそう!私たちを助けてくれたスメール探検隊へのおもてなしも欠かせないわ!
バクラヴァ:マキアート、君の友人は君よりよっぽど人情分かってるな!
キャラメルマキアート:図々しい!あなたが歓待されるのは私のお陰って分かってる!?
刻々と夜明けが近づき、暁光が庭園全体を包み込む。笑い声が響く中、一行の背中が遠ざかってゆく。
白いローブをまとった金髪の青年が、相変わらず静かに人々の後ろにいた。しかし一瞬、微かな呟きが彼の耳元をかすめた。
彼ははっとし、しかし声はもう聞こえない。思わず山頂へ視線を向ける。神殿は再び霧の中に輪郭をぼかして消えようとしている。
スブラキ:ムサカ!急に止まってどうした?皆先に行っちゃうよ?
ムサカ:……構わん。すぐに行く
そう答えながら、彼は素早く噴水の傍らへ戻ると、さっとネックレスを拾い上げ、懐へと収めた……
操縦
抑えがたき異変。
数日前
地質観測点
???:我が力がそこにある……近づいている……
???:ふっ……時は迫っているぜ……
トカイ:……黙れ
ガンッ!書斎で机が激しく揺れた。青年は薬瓶を握りしめ、腕に滲む血痕も構わず無色の液体を一気に飲み干した。
しばらくして、黒い霧が青年の体からゆっくり退き、深く蒼白い面差しが現れた。
トカイ:頻度が上がっている……早急に解決しなければ……
トントン
青年は一瞬硬直する。散らばった薬瓶を隠すと、普段の冷静な表情でドアへ向かった。
トカイ:構わん。窓から鳥が入って物を落としただけだ
カプリケーキ:そうか……顔色が悪く見えるけど……
トカイ:心配ない
青年は微かに体を動かし、室内の散乱した痕跡を巧妙に遮った。
カプリケーキ:わかった……でも何か手伝えることがあれば遠慮なく言ってね
トカイ:ああ……そういえば今日は当番のはずでは?
カプリケーキ:実は邪神遺跡の件で……
トカイ:邪神遺跡?何かあったのか?
カプリケーキ:差し迫った危険はないけど……封印結界が緩んでいるせいか、周辺のエネルギーが不安定で……君の持つ力とも関連があるから、悪影響が心配で
トカイ:……気にかけてくれてありがたいが、問題ない
カプリケーキ:でもここ数日外出していないから……
相手の憂いを含んだ眼差しに、トカイは意識的に声を柔らげた。
トカイ:制御は効いている。鎮静剤もある。心配するな
カプリケーキ:なら良かった……必ず呪いを解決する方法を見つけるよ!
カプリの確かな口調にトカイの瞳がかすかに揺れる。しかしカプリの姿が見えなくなるや否や、脳裏に濁流のような感覚が走った。
???:ひひひっ、あんなもので止められると思ったか~
トカイ:この……!
???:まだ諦めきれないのか?封印は解けかけている。お前独りで我を抑えられると思うなよ?
歪んだ声が増幅する。濃密な黒い霧が再び立ち込め、青年の身体を飲み込んだ。
???:はっ……この体に閉じ込められて随分だ。やっと自由に動けるぜ、だって……
???:………………となれば、この体も用済みだからな~
連絡途絶
途絶える信号。
少し前
地質観測点
フィンブルーベリーパイ:エネルギーの波動がまた来る……所長たちが遺跡に入ってまだ間もないのに……
フィンブルーベリーパイ:どうか……無事でありますように……
フィンブルーベリーパイは明滅する画面を見つめ、不安を隠せない。突然、ドアベルが鳴り、モニターに知らぬ人影が映る。
フィンブルーベリーパイ:え?今日は客人が……?
しばらくして――
フィンブルーベリーパイ:マキアートさんがパネ姉さんの友達だったんですね。あいにく所長たちは邪神遺跡に行かれました。戻り時期はまだ……
キャラメルマキアート:もう潜入したって?!間に合わなかったか……急いで追わなきゃ!
フィンブルーベリーパイ:遺跡に行くのですか?でも最近の状況は不安定で……ここで待たれた方が……
キャラメルマキアート:ご忠告ありがとう。でも元々遺跡へ向かう予定だったの
バクラヴァ:ブルーベリーパイさん、居場所は特定できますか?もし出発したばかりなら追いつけるかも
フィンブルーベリーパイ:通信機の位置情報だと……あれ?圏外です?!さっきまで繋がってたのに……
ピピピッ――
警報音と同時に、遠くの山々がドッシーンと揺れた。
フィンブルーベリーパイ:地震……だから通信が……何が起きているんだろう……
バクラヴァ:地震か……フェジョたちに影響がなければいいが
フィンブルーベリーパイ:え?
バクラヴァ:ああ、実は友人が先行して遺跡に入っているんだ……だから急がねば
フィンブルーベリーパイ:そうですか……お気をつけて。遺跡の地図を貸しますね。お役に立てば
バクラヴァ:助かる!これで迷わずに……ね!
キャラメルマキアート:……願わくばね……
事故
未知の力。
少し前
邪神遺跡
パルマハム:薄気味悪い場所だな……ん?フェジョ、その骨の横で何してる?宝でも探してるのか?
フェジョアーダ:……パクラヴィア(※バクラヴァ)みたいに宝探しなんてしてない。ここに目印がある
パルマハム:おっ?なかなか正確だし新しい痕跡だ……マキアートの友人が残したかも?これに沿えばすぐ合流できるぜ~
フェジョアーダ:そんな簡単だといいけどね……
そう言いながら、ムサカが遠くの山並みを見つめ、険しい表情を浮かべた。
スブラキ:ムサカ、どうした?ここに来てから様子がおかしいよ?何か見つけた?
ムサカ:……確信はないが、ただ……
ゴコゴゴゴ――突然の地響きがムサカの言葉を遮った。
フェジョアーダ:……地震だ……!
パルマハム:皆、気をつけ!
スブラキ:わあああ――!
ムサカ:……掴まれ。動くな
揺れは長く続かず、収まった景色は荒れ果てていた。
パルマハム:ああ、草木が可哀想に……でもフェジョの呟きが地震を呼ぶなんてな
フェジョアーダ:お前こそ災いを呼ぶ人!スブラキ、お前たち、無事か……?
パルマハム:ん~仲睦まじい光景だぜ~
シャッター――
パルマがシャッターを切り、呆気に取られた二人を収めた。
スブラキ:ふう……ムサカ、さっきは支えてくれてありがとう。君が言いかけてたことは?
ムサカは一瞬言葉を失った。さっき確かに――どこかから馴染み深い力が己の名を呼んでいるような気配を感じたのだ。
ムサカ:……いや、何でもない
懸念
特別な絆。
邪神遺跡
神言八峰
パネトーネは包帯を結び終え、痛みを気にしないタルタルを一瞥した。
パネトーネ:救急キットが地震で無事で助かったわ……もし服の破れから傷に気づかなかったら、隠し通すつもりだったのね?
タルタル牛肉:軽傷だから気に……いてっ!
パネトーネ:軽傷だって?何が痛いのよ?
タルタル牛肉:……ペースを乱したくなかった
パネトーネ:傷が化膿して途中で倒れたら、もっと遅くなるでしょうが!
タルタル牛肉:……すまない、配慮が足りなかった
パネトーネ:もういいわ。あのトカイって人、本当に信頼できるの?
タルタル牛肉:ん?何か?
パネトーネ:出所不明で呪い持ち……操られているって言うけど、操られてる時の方が本性かもよ?
パネトーネ:カプリもまるで魅せられたように気にかけて……洗脳されてるんじゃない?
タルタル牛肉:いや……むしろトカイの方がカプリに依存してると思うが
パネトーネ:知り合ってそんなに経ってないのに親友みたいだし……怪しいわ
タルタル牛肉:そう言いながら、君は大切な機械持って来たじゃないか?
パネトーネ:あまり関わらないけど縁もある人だし、危険を放置はできなくて……
パネトーネ:それにあんたとカプリというバカ二人を置いていけるわけないでしょう?責任取らなきゃ!
タルタル牛肉:はは、さすが我が観測站の一員!あう……痛!
パネトーネ:痛いならまだ生きてる証よ。さあ、あの憑かれたカプリの元へ急ぎましょ!
情報交換
観測点の伝統。
少し後
地質観測站
パルマハム:ふむ、今日も芸術的な一枚が撮れた~
スブラキ:でもカメラ構えて徘徊してる姿、完全に怪しまれてたよ?
パルマハム:なっ……俺ほどの美貌があって怪しいわけあるか!ほらフェジョだって地図見てるだろうが!
フェジョアーダ:……また迷子道案内されないよう事前準備してるだけよ
バクラヴァ:はは~世界は丸いんだ!歩き続ければ遠回りも道のうちさ~
フェジョアーダ:それもそうだけど……
タルタル牛肉:それなら地図をご自由に!ティアラ大陸の主要地域は網羅してます!
キャラメルマキアート:え?いいんですか?
タルタル牛肉:勿論!ご協力への感謝も込めてね!さあごちそうの時間です!
スブラキ:わっ!ご馳走?!
タルタル牛肉:その通り!長年研究したレシピでおもてなしだ~!
パネトーネ:――ちょっと待てよ!!絶対ダメ!!
タルタル牛肉:安心しろ!ブルーベリーパイに事前試食してもらった!
フィンブルーベリーパイ:特に香菜パイ酢豚アイスクリーム、チョコレート卵花スープは絶品だ!
パネトーネ:……この世に再現させるわけにはいかないわ!!
スブラキ:急に……お腹空いてきた気がしないや……
フェジョアーダ:また空腹戦記か……
バクラヴァ:隊長がいる限り飢えさせないさ!じゃじゃーん!
スブラキ:!!ケーキだ!プリンも!タルトも!
フェジョアーダ:ど、どこから出てきたの?
キャラメルマキアート:まさか……
パルマハム:もしかして宮殿から……
バクラヴァ:正解~応接室の帰りに宴会場でパッキングしたんだ~
スブラキ:え?でも宮殿で食事してないよね?
バクラヴァ:食べきれない量だったからね~皆で分けよう!さあさあ冷める前に……
パルマハム:本当に空手では帰らないな……
バクラヴァ:ああ、残念ですが、もう一つの袋が潰れてしまう。そうでなければ、皆さんと分かち合うことができたのに……さあ、急いで食べましょう……
キャラメルマキアート:この男の隣にいると善良な市民が堕落するわ……
火光
幕引き。
翌日
地質観測站
トカイは窓辺に立ち、遠く沈黙した山並みを見つめる。掌に残る未癒えの傷跡に柔らかな日差しが落ち、一瞬彼の表情が霞んだ。
カプリケーキ:ここにいたんだ。体調は?
トカイ:ああ。あの力は……吸収できたらしい。もうあの感覚はない
カプリケーキ:吸収……?大丈夫なの?
トカイ:今のところ異常はない……
カプリケーキ:よかった……最低でもここに連れてきた選択は間違ってなかったね
トカイ:無論、お前が救ってくれた
トカイ:ただ君の腕は……
カプリケーキ:擦り傷程度だよ。心配いらない
相手の優しい笑顔に、トカイは安堵の息を吐きかすかに口元を緩めた。
カプリケーキ:そうだ、呪いが解決したらどこか行きたいところある?
カプリケーキ:その……僕の独断で連れてきたから、他の道を選びたければ応援するよ
トカイ:……君が言っていただろう。外勤に助手が必要だと
カプリケーキ:え?それって……
トカイ:任務が終わるまではここを離れない
タルタル牛肉:――離れ?誰が離れたい!?
カプリケーキ:はは、誰も離れたくない?ね?
トカイ:ああ
タルタル牛肉:そうだろう!人手はいくらあっても足りん!トカイほどの人材を見逃すはずがない!
フィンブルーベリーパイ:トカイさんが残留決定ですか!よかった!
パネトーネ:ふん、これで新発明の実験体がまた一人増えたわ~
タルタル牛肉:皆が揃ったところで祝宴だ!トカイの観測站正式入りを祝して!
トカイ:……勝手にすればいい……結局皆我が養料になる……ぐっ!
タルタル牛肉:?
フィンブルーベリーパイ:??
パネトーネ:???
カプリケーキ:え?今なんて?
予期せぬ発言に全員、トカイ本人すらも驚いた。彼は一瞬硬直すると意識を取り戻したかのように重々しく言い直す。
トカイ:……今のは俺じゃない
タルタル牛肉:でも語り口、何処かで聞いたような……
パネトーネ:あ!前の呪いの声!復活したの!?
トカイ:ああ……操っては来なかった。だが……
フィンブルーベリーパイ:うーん……後遺症かしら?あの力を吸収したってことは、トカイさんの一部になったってことですよね……
パネトーネ:まさか……時折現れる第二人格とか!?
カプリケーキ:時々なら寧ろ問題ないかも……そんなトカイも新鮮で
タルタル牛肉:そうそう!なかなか面白い!
パネトーネ:面白じゃないわよ!?むしろおかしいでしょう!?この楽観主義者どもが……!
タルタル牛肉:はは、でも一度乗り越えたんだ!次はもっと上手く解決できるさ!
フィンブルーベリーパイ:そ、そうです!今度こそ私も手伝います!
カプリケーキ:はは、観測站の力があれば、どんな困難も越えられるよ
パネトーネ:もう……しょうがない。ま、願わくばね!
トカイ:…………
再び広がる笑い声の中で、トカイの胸には千思万緒が去来したが、最後はただ静かな微笑へと溶けていった。
かつては暗闇へ落ちる他なかった日々も、今この不意に訪れた温かな炎たちが、確かに道を照らしているのだと気づいた。
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