「月扇の噺家」やぐも_include
属性補正
炎属性
100%
水属性
130%
風属性
100%
光属性
100%
闇属性
100%
モデル
ストーリー
やぐも「なんでェ。噺の依頼かと思やァ、仲間になってほしいだって?」
メルク「みゅ、そうなのですよ! やぐもさんは噺家としてあひこちをめぐっていると聞いたのです。」
主人公「それなら一緒に旅をしてもらえないかと思って……。」
やぐも「なるほどなるほど? まァ、そいつはかまやァしねえ。ひとつ、よろしく頼まァ。」
メルク「ほんとなのです!? ありがとうなのですよ~!」
主人公「よ、よかった……、断られなくて。」
やぐも「むしろ俺としちゃあ、願ったりかなったりさァ。お前さんたちはあちこちを旅してるって聞くし、そいなら知っちゃいるかと、尋ねてェこともあったのよ。」
主人公「尋ねたいこと?」
やぐも「雲母山って名前に聞き覚えはねェかィ?」
メルク「きららやま……、みゅ~、わからないのですよ。」
やぐも「そうかィ。まァ、そう簡単に手がかりが見つかるたァ、思っちゃいねェさァな。」
主人公「その山を探してるんです?」
やぐも「いンや、場所はわかってるのさァ。教えることはできねェがよ。」
メルク「それなら何を聞きたかったのです?」
やぐも「そうさなァ……、ま、話しておく方がいいやもしれねェな。そン方が、お前さんたちが何かを知った時に、俺にも教えてくれる気にならァな。」
やぐも「だが、今からする噺は、只の客にゃァ披露しねェ、いわばとっておきでねィ。くれぐれも扱いにゃァ、気を付けておくんなせェよ。」
やぐも「『あいたたたァ、あいたたたァ』」
やぐも「ある山で、足を痛めた男が苦しんでいた。山の奥深くなもんだから、いつ獣や魔物が襲い来るかわかりゃァしない。」
やぐも「そうしているうちにがさごそと音が聞こえてくらァ。男はこれでわが身もおしまいかと心構えをしたものの、そこに現れたるや……、」
やぐも「『どうやらお困りのご様子。もし条件をのんでくださるなら、お助けしましょう』」
やぐも「『こりゃあありがてェ。天に背くこと以外なら、いくらでも呑んでみせらァ』」
やぐも「『では目隠しを。私がよいと言うまで、それをはずしてはなりません』」
やぐも「男はその条件をのみ、目隠しをした。するとなにかに引っ張られるような心持ちがして、気づくと、板の上のような平らな場所にいる。」
やぐも「『ここは私の住まいです。さあさ、足の手当てをいたしましょう』」
やぐも「『お前さん、もしかして妖の類かィ』」
やぐも「『見てくれが違うだけだというのに、そのように呼ぶ者もいるようですね』」
やぐも「男の怪我はひどく、夜には熱を出した。しかし、かいがいしく世話をされたおかげで、3に日の朝には熱はすっかり下がったものだった。」
やぐも「『なあ、名前を教えちゃくれねェかィ。恩人の名も知らぬままとは座り悪ィ』」
やぐも「『妖の名を知ってどうするのです』」
やぐも「『見てくれが違うだけといったのは、お前さんじゃねェか。それにあっしは、お前さんがどんな見た目であろうとかまやァしねェさ』」
やぐも「『なんたって、あっしはお前さんの声と手に惚れちまったのさァ。お前さんの心持ちってェのが伝わるからよォ』」
やぐも「『どうだィ。俺と一緒になっちゃァ、くれねェか』」
やぐも「『俺はこれでも腕利きの絵描きでなァ、扇子から障子まで絵を描かせたらたいしたものよ。仕事ならどこでもできるし、お前さんを養ってやれらァ』」
やぐも「『……もし私がこのような生まれでなければ、喜んであなたと一緒になったやもしれません。しかし、私には背負うべきお役目があるのです』」
やぐも「『それに……、数日後の代替わりの儀を終えれば、この世から私の今の姿を知る者はいなくなるでしょう』」
やぐも「『それはあなたも例外ではなく。皆、忘れてしまうのです、私が私であったことを。これが大きな力を受け継ぐ代償なのです』」
やぐも「『さあ、もう足は治ったことです。山のふもとまで送ってさしあげましょう。私のはこのくらいしか返せるものがありません』」
やぐも「男が次に気づいた時、立ってる場所は草の上のようだった。」
やぐも「『さようなら。あなたと会えたのが儀を終える前でよかった。……でも、会わなければよかったとも』」
やぐも「『儀を終えた後、あなたの知っている私はもういないでしょう。それがなんだがさみしいのです』」
やぐも「『なんの、必ずまた見つけだしてみせらァ。たとえ姿がわからずとも』」
やぐも「『信じられねェっていうなら、これをくれてやる。あっしの大事な商売道具の筆よ。あっしがお前さんを見つけ出すまで、使ってやってくれ』」
やぐも「『……しょうがないひとですね。わかりました、目隠しをとってもいいですよ』」
やぐも「男が目隠しをとった時、そこにはもう誰もいやしなかった。それから男は何度もその山に足を運んだが、妖も家も、なにひとつ見つけられなかったという。」
メルク・主人公「……。」
メルク「みゅ~、す、すごかったのですよ! 声まですっかり変わってたのです! 男の人の声、語り部の声、それから……、」
主人公「妖の人の声は男にも女にも聞こえたな。」
やぐも「わからねェのさ、男か女か、子供か大人か。数日後には、男には思い出せなくなっちまってた。自分が出会った妖の、姿も声も。」
メルク「みゅ……、もしかして実話なのです?」
やぐも「さァてねェ。こいつは俺を拾ってくれた親父殿から聞いた話なのよ。俺だって半信半疑だが……、」
やぐも「それでも血のつながらねェ俺を育ててくれた親父殿にどうにか親孝行がしたくてねェ。その妖と親父殿をどうにか再会させてやりてェのよ。」
主人公「じゃあもしかして、その山っていうのが……、」
やぐも「そう、雲母山さァ。俺があちこちで妖に関する民話やらを集めたりしてるのは雲母山の妖怪に会える方法はないかと探してるのさァ。」
メルク「そうだったのですね~。なにか私たちが知っていることがあればよかったのですが……。」
主人公「俺たちもなにか情報を集めてみますよ。」
やぐも「おっと、そいつァ、ありがてェ。……お前さんたちなら、ほんとに手がかりをつかめるかもなァ。」
やぐも「なんたって、親父殿も義理と人情に篤いお人だからよ。妖も人も、心を動かすのは心ってねェ。ま、これからよろしく頼まァ、おふたりさん。」
備考