「遊歩の術士」チェネレ

チェネレ「……。」

紹介所のお姉さん「あら？

　　　　　　　　　今日も来てるみたいね。」

主人公「どうかしたんですか？」

紹介所のお姉さん「あのこ、知ってるかしら？

　　　　　　　　　チェネレちゃんっていうんだけど。」

チェネレ「んー。」

主人公「いえ、初めて見ますね。」

紹介所のお姉さん「よくあそこで、小棚の花瓶をじっと見つめてるのよね。

　　　　　　　　　私が話しかけても、なにも反応してくれなくて……。」

主人公「そうなんですか……？

　　　　誰か待っているというわけでもなさそうですね……。

　　　　なにか協力できるかもしれないので、

　　　　今度は俺が話しかけてみます。」

紹介所のお姉さん「ありがとう、お願いね。」

チェネレ「……。」

メルク（小棚にしがみついて、

　　　　まじまじと花瓶を見つめているのです……）

主人公（もしかして、珍しい花だったりするのか……？）

メルク（椅子を踏み台にしているので、

　　　　とりあえず降りてもらった方がよさそうなのですよ）

主人公（確かに、転んだら危ないからな……）

チェネレ「むー。」

主人公「あの……、」

チェネレ「がじがじ。」

主人公・メルク「……！？」

メルク（いきなりお花に噛みついたのですよー！？）

主人公（お、お腹がすいてたのか……！？

　　　　ていうか、あれって食べても大丈夫なの！？）

チェネレ「がじがじがじがじ。」

主人公「や、やめよう！？

　　　　おなかこわしたらどうするんだよ！？」

チェネレ「わっ！？

　　　　　だ、だれだオマエ！

　　　　　なにすんだ！　はなせええー！」

メルク「みゅわあああっ！？

　　　　ジタバタされると落ちてしまうのですよ～！？」

チェネレ「やめろー！

　　　　　おはなはぶじだー！」

主人公「チェネレ、落ち着け……！

　　　　あ、危ないって、

　　　　そんなところで足を滑らせでもしたら……、」

チェネレ「ぐわー！」

主人公「言ったそばから……！？」

チェネレ「う、うう、いだい……。」

メルク「だ、大丈夫なのですよ……？」

チェネレ「なにすんだー！」

主人公「わ、悪い……、

　　　　だけど、なんでいきなり花を食べようと……、」

チェネレ「たべてない。

　　　　　ちょっとかんだだけだ！」

主人公「噛んだだけって……、

　　　　うーん、たしかにそうみたいだな……。

　　　　それもどうかと思うけど……。

　　　　　俺はてっきりチェネレがおなかをこわすと思って……。」

チェネレ「チェネレはおはなと

　　　　　なかよくしてただけだ。」

主人公「仲良く……？」

チェネレ「そうだ。

　　　　　こいつはむくちなヤツだからな。

　　　　　つついたり、におったり、なめたり、

　　　　　かじったりしながらちょっとずつしっていくんだ。

　　　　　すきなものは、やっぱり、たくさんしりたいだろ。」

主人公「へ、へえ……。

　　　　それで最近はここに入り浸っていたのか？」

チェネレ「なんでしってるんだ。

　　　　　もしかしてオマエ、

　　　　　チェネレのことがすきなのか？

　　　　　もっとたくさんしりたいのか？」

主人公「いや、知りたいとは思うけど、そういうつもりは……、

　　　　あ、もちろん嫌いってことでもないっていうか……。」

チェネレ「いっとくけど、チェネレはな。

　　　　　なめられたり、かじられたりしたくないぞ。」

主人公「そ、そんなことしないから……！」

チェネレ「ほんとか？

　　　　　　つついたり、におったりしたくもならないのか？」

主人公「ならないって……。

　　　　そんなことしたら周りにどんな目で見られるか……。」

チェネレ「ふーん。

　　　　　オマエ、かわってるなー。

　　　　　あ、でもな、あたまをなでるのはいいぞ。

　　　　　ヒトのては、あたたかくてきもちいいからな。」

主人公「え……？」

チェネレ「ほら、やってみろ！」

主人公「今……？

　　　　まあ、それくらいなら……。」

チェネレ「……。」

主人公「……。」

チェネレ「がじ。」

主人公「いたっ！？

　　　　え、なに！？

　　　　なんで俺、腕を噛まれたの……！？」

チェネレ「イヒヒッ！

　　　　　あたたかいけど、それだけじゃないな。

　　　　　オマエ、なんかヘンなちからもってるだろー！」

主人公「変な力？

　　　　どうしてそう思うんだ？」

チェネレ「かわったにおいがする。

　　　　　むう、なんだかふしぎなかんじだ……。」

主人公（もしかして、癒術のことか……？

　　　　においや触れた感じでわかるものなのか？）

メルク（わからないのですよ。

　　　　でも、チェネレさんはなにか感じるみたいなのです）

チェネレ「オマエにはきょうみわいてきたから、

　　　　　チェネレがしばらくつきあってやることにした！」

主人公「俺たちの仲間に……？」

チェネレ「そうだ。

　　　　　ダメなのか……？」

主人公「いや、まあ、それはいいんだけど……、」

チェネレ「なんだよー！」

主人公「今後、噛みついたりするのは禁止だぞ……？」

チェネレ「えー！」

主人公「けっこう痛いんだからな！？」

チェネレ「うう……、わ、わかったよ……。

　　　　　まあ、ほかにもやれることはあるからな。

　　　　　イヒヒッ！」

主人公「つついたり、においを確かめたり、

　　　　舐めたりするのもダメだからな……？」

チェネレ「ばかー！」