「智を求める者」エト

主人公「仲間になってくれるエトだよな？　俺は主人公。今日からよろしくな。」

エト「……。」

主人公「な、なんだ？」

エト「ふーん。あんたがあの偏屈の膝を折った相手なんだ。見た目は普通……、っていうか地味だね。」

主人公「じ地味……。」

エト「ま、旅に連れてってくれるなら何でもいいや。じゃあ、顔合わせはこれで終わりってことで。」

主人公「あっ、どこいくんだ？」

エト「あんたに教える必要ないでしょ。」

主人公「そ、そうですか。」

主人公「初対面から対応が冷たすぎて、仲良くやっていける未来が想像できない……。」

（場面転換・町）

エト「……。」

主人公「……。」

エト「……、……っ！」

主人公「その……、よかったら手に乗せて運ぼうか？　目的の本屋までまだかかるし。」

エト「いらない。」

主人公「いやでも、歩幅がそもそも違うしさ。エトは他の妖精みたいに飛べないし……、」

エト「うるさい。いらないって、言ってる、でしょ……っ。はあ、はあ……っ。」

主人公「あっ、エト！　先に行くなよ！」

主人公「……。」

主人公「とはいえ、すぐに追いつけるんだけど。まあ、ゆっくり歩けばいいか。これ以上言っても、余計、意固地になりそうだし。」

エト「キャタルたちがいればこの程度、背に乗ってすぐなのに……。」

主人公「そういえば、エトたちが住んでる黒の森ではキャタルっていうモンスターが一緒に暮らしてるんだったな。エトもキャタルたちと仲がいいのか？」

エト「別に。単なる利害関係の一致。あんたと旅してるのと一緒。」

主人公「そ、そこは利害関係以外の何かを芽生えさせていこう！」

エト「興味ない。」

主人公「ズバっといかれた……。」

エト「一族の中にはそれを追い求めてるやつもいるけど、僕は僕の求めるままに知識を得られればそれでいい。心に春があったって、なんの役にも立たないんだし。」

主人公「役に立つとかそういうことじゃないと思うけど……。」

エト「でも、なくても支障はないでしょ。僕たちは議会と戒めを作って、心に春がなくてもうまくやってきたし。」

主人公「そういうことでもなくて……。」

エト「僕は心に春があるからって、そっちの方が優れてるとは思ってないから。」

主人公「どうしてそうなった。」

エト「あんたたちの知らない事、僕はたくさん知ってるんだから。そんなことで勝った気にならないで。」

主人公「そこに勝ち負けを考えたこともないよ……。」

主人公「それに、エトの言う通り、エトは俺の知らないことをたくさん知ってるし、戦う時もその知識で助けられてるしな。」

主人公「ナイフを地面に突き刺したら水の刃が出てくるのも、地下に流れてる水の動きってやつに詳しくないとできない、知識と技術の賜物なんだろ？」

エト「……。」

エト「わかってるならいいんだけど。はあ、無駄話で時間くっちゃった。ちんたら歩いてないで、さっさと行こうよ。」

主人公「エトにあわせてたんだけど！」

エト「僕は主人公に合わせてたの。」

主人公「あ、そう……。」

主人公「……この調子だと、エトと仲良くなれるのはまだまだ先っぽいなあ。」

エト「なにか言った？」

主人公「いや、なにも……、」

パン屋のおやじ「おっ、癒術士の坊主じゃねえか！　ひとりで買い物か？」

主人公「いや、ひとりじゃないですよ。足元に妖精のエトが……、」

主人公「って、いない！？　エト！？　どこいった！？」

エト「だれ、そいつ。」

主人公「いつのまに俺のポケットの中に……。」

エト「いいから。そいつ、だれ？」

主人公「パン屋のおやじさんだけど……、そうか、エトは会ったことなかったっけ。」

エト「知らない。興味もない。」

パン屋のおやじ「おい、ポケットに潜っていっちまったぞ。」

主人公「すみません。もしかしたら緊張してるのかも。」

エト「してないし。」

パン屋のおやじ「ポケットから顔も出さずに言われてもな。」

パン屋のおやじ「まあ、いいか。いきなり声をかけて悪かったな。それじゃ、また今度な！」

主人公「あ、はい。」

エト「あいつ、あんたの知り合い？」

主人公「あれ、いつの間に外に……！」

エト「知り合い？」

主人公「ああ、紹介所でもよく会うパン屋さんだ。」

エト「ふーん。」

主人公「どうしてポケットに隠れたんだ？」

エト「別に隠れてたわけじゃないし。ただ……、寝心地を確かめてただけ。」

主人公「俺のポケットで寝る気！？」

エト「寝返りで僕を潰したら、太腿をつねる。」

主人公「地味に痛い。」

主人公「それにしても……、こう見えて、人見知りだったんだな。」

エト「なにか言った？」

主人公「いや、なにも。じゃあ、そろそろ本屋に行くか。」

主人公（仲良くなれるのはまだまだ先かと思ったけど、俺のポケットを逃げ場として選んでくれたってことは、少しくらい信頼は得られた……、のかも？）