「幸福の伝道士」アセト

主人公「アセトさん、仲間になってくれてありがとうございます。」

アセト「礼などいらん。それより、クスリを飲め。」

主人公「はい……？」

アセト「クスリだ。クスリを飲め。」

主人公「フ、フラスコを顔に押し付けないでください……。俺、健康体だから薬は必要ないですよ？」

アセト「ノォォォハッピィイイイイ！」

主人公「うわっ、顔が怖い！？」

アセト「貴様の体のあらゆる部位から疲労を感じる。放置しておけば、いずれ取り返しのつかんことになるぞ。いわゆる、アンハッピーというやつだ。」

主人公「アセトさん、目が血走ってて怖いです！」

アセト「アンハッピーは嫌だろう？ アンハッピーは嫌だな。よし、いいぞ。クスリを飲め。」

主人公「な、何も納得してないんですけど……、」

アセト「強情なやつだ。さてはクスリが苦手なのだな？ 仕方ない。では俺が、クスリがいかに素晴らしいかを教えてやろう。」

アセト「ンフフ、あれは俺が１０の頃……、忘れもしない錠剤初体験の日だった。」

主人公「何かが始まった！？」

アセト「粉薬しか飲んだことのない……つまりコナグスラーだった俺にとって、錠剤は大人への第一歩だった。」

主人公「オリジナル単語をさも当然のように使わないでください！」

アセト「だが、その効能には驚いた！ ひと口飲めば元気百倍！ ハッピー億倍！ 俺を蝕む風邪は、一瞬にして滅んだ！」

アセト「俺はその時実感したよ。クスリとはなんと素晴らしいのか！ クスリ飲んでたら、もう人生安泰だろうとさえ思った。」

主人公「安直！」

アセト「だが、その時に思ったのだ。このハッピーを俺だけの物にしていいのか。いいや否だ！ 断じて否だ！」

アセト「ハッピーとは世界全ての人間に……、いやモンスターを含めた全生命に与えられるべきものだ！ なぁ、そう思うだろう！？」

主人公「は、はい！ そう思います！」

アセト「俺の故郷ではモンスターは危険視される傾向にある。実にノンハッピーだ。命を持つ同胞同士、区別をつける必要はないというのに。」

アセト「それに気づいた俺にはハッピーを伝える……つまり、クスリを作る義務があると考えた。故に俺はクスリを作るのだ。世のハッピーのために。」

アセト「ンフフ、最近では俺のクスリで処方したいという医者も現れてな。喜んで提供させてもらっているよ。」

アセト「いつか、奴のシリアスアレルギーにも効くクスリも作ってやりたいものだ……。おっと、これは余談になるな。すまない。」

アセト「だがまぁ、これでクスリの素晴らしさと、クスリにはハッピーが含まれているからとても安全だということがわかったな？」

主人公「その言い方だとやばい成分にしか聞こえないんですけど！？」

アセト「ハッピーがやばいわけあるかあああ！」

アセト「……いや、すまん。これではハッピーの押し付けだな。アンハッピーな存在を前にして、冷静さを失っていたようだ。」

アセト「だが、俺は貴様にアンハッピーになってもらいたくないのだ。それだけはわかってもらいたい……。」

主人公「アセトさん……。」

主人公「俺こそすいません。アセトさんの差し出す薬から下水みたいな臭いがするから、ついむきになって拒否しちゃいました。」

主人公「その薬にはアセトさんの気持ちと、あと、なんかその……ハッピー？ が入ってるんですね。そのことは、よくわかりました。」

アセト「そうか、では飲め。」

主人公「えっ？」

アセト「わかったということは理解したということだ。理解したということは受け入れるということだ。受け入れたということは飲むということだ。」

主人公「なんだその拡大解釈！？ いやいや、たしかに理解はしましたけど、それと薬を飲むかどうかは別問題……、」

アセト「飲め。」

主人公「……はい。」

主人公「ごくごく……。あっ、臭いのわりに飲みやすいですね。というか、すごくおいしいです。」

アセト「飲みやすいように果物をブレンドした。良薬は口に苦しとはよく言うが、甘くて飲みやすいに越したことはないだろう。」

アセト「が、肝心なのは効能だ。どうだ、体の調子は？ ハッピーか？ ハッピーになってきたか？」

主人公「ハ、ハッピーかはわかりませんけど……なんだか体が軽くなってきました。」

アセト「ナァイスハッピィイイイイ！」

主人公「勢いが怖いっ！」

アセト「ああ、素晴らしきかな薬学よ！ 今日もまた、アンハッピーな少年にハッピーを与えた！ 薬学に発展あれ！」

主人公「アセトさん落ち着いて！ 周りの人が引いてます！」

アセト「オ～、ハッピィイイイデェエエエイ！」

主人公「ひいい！ 無表情のまま踊り狂わないでください！ 言いたくはないですけど、超怖いですよ！」

主人公「ああ、人が集まって来た！ ち、違うんです！ この人変質者じゃありません！」

主人公「ちょっとハッピーになってるだけなんですー！」