「常闇の占術師」アスワド

アスワド「……ふうん。」

アスワド「……２日後。太陽に月が追いついて新月となる。すべてが闇に包まれ、本来の居場所を考え直す時がくる。」

町のお兄さん「そ、それはどういう意味ですか！俺は彼女に告白しても大丈夫なんでしょうか……！？」

アスワド「新月の日はどんな些細なことも一旦立ち止まって考えるべき時。この日に想いを告げるのはやめたほうがいい。」

町のお兄さん「そ、そうですか……。」

アスワド「そもそもあなたの星座と彼女の星座は相性が悪い。」

町のお兄さん「そんな……！」

アスワド「俺は星占の結果を伝えるだけ。あとはあなた自身がどうするかだ。」

町のお兄さん「……。」

アスワド「考え直すということは、追及するということ。それをやめなければ、おのずと道は開ける。」

アスワド「俺が占えるのはここまで。決断を下すのはあなた自身だ。」

町のお兄さん「……ありがとうございます。俺、もうちょっと彼女のこと、考えてみます。」

アスワド「ああ、そうするといいよ。」

アスワド「……、主人公いたんだね。」

主人公「あ、あの、アスワドさん。あれで良かったんですか……？」

アスワド「何が？」

主人公「何がって、さっきのお客さんですよ。なんだかすっきりしてないような気がして……。」

アスワド「言っただろう？『決断を下すのはあなた自身だ』って。」

アスワド「俺はただの占い師。信託者じゃない。」

アスワド「俺の言うことはあくまでもその人の選択肢の１つにしかならない。」

主人公「はあ……。」

アスワド「で、俺に何か聞きたいことがあるんじゃないか、主人公。」

主人公「え、ああ、そうです。街のお姉さんに聞いてこいって言われて……。」

アスワド「……もしかして、誰かさんと俺が付き合ってるかどうかって話かい？」

主人公「なんでわかったんですか！？」

アスワド「何度も聞かれてるから。」

主人公「ウェンディさんって人とアスワドさんが並んで歩いてるのを見たって……。」

アスワド「人っていうのは愚かだね。簡単に勘違いをする。」

主人公「ええっと、じゃあそのウェンディさんとアスワドさんは付き合ってないってことでいいんですね……？」

アスワド「彼女はただの仕事仲間だ。よく向こうから話しかけて来るから無碍にもできずに相手をしているだけ。」

主人公「あっ、そうだったんですね。じゃあアスワドさんとウェンディさんはそういう関係じゃないと街のお姉さんに伝えて……。」

紹介所のお姉さん「本当にそうかしら。」

紹介所のお姉さん「はい、アスワドさん。これ、ウェンディちゃんから預かった本よ。」

アスワド「……ありがとうございます。」

主人公「それ、アスワドさんの本ですか？」

アスワド「……まあ、星占のね。ちょっと貸してただけだ。」

紹介所のお姉さん「アスワドさんって、思ったことをずばずば言うけど、ウェンディちゃんにだけは優しいのよね。」

主人公「えっ、そうなんですか？」

紹介所のお姉さん「この間だって、ウェンディちゃんと星占いの勉強会をしてたじゃない？」

アスワド「……あれは仕事の範疇です。」

紹介所のお姉さん「私、見ちゃったのよね。」

紹介所のお姉さん「アスワドさんがウェンディちゃんに言い寄ってた男の人に、相性が悪いから諦めろって言ってるところ。」

アスワド「……あれは、占いの結果をそのまま言ったまでです。」

紹介所のお姉さん「ふふふ、どうかしらね。」

主人公「ってことはアスワドさんって……。」

アスワド「……言ったろう、主人公。」

アスワド「俺は星占の結果を伝えるだけ。たまたまウェンディさんのことを好きな人物を占って、相性が悪かったからそれを伝えたまでだ。」

アスワド「俺はあいつを妹のように思っているけど、恋愛対象とは思ってない。」

主人公「えーっと、じゃあアスワドさんはウェンディさんのことをなんとも思ってないと……？」

アスワド「まあ、好きなようにとらえてくれて構わないけどね。」

主人公「え、あんなに否定してたのに突然なんですか！？」

アスワド「明確な答えを出してしまったら面白くないと思って。」

主人公「(アスワドさんってなんだか掴みにくい人なんだよな……)」

主人公「ええっと……。結局、アスワドさんはウェンディさんのことを妹のように思っていて、恋愛感情はないと……？」

主人公「でも紹介所のお姉さんはアスワドさんがウェンディさんのことを好きだと思ってて……？」

アスワド「さあ、真実はどっちだろうね。」

主人公「えーっと、えーっと、つまり……？」

アスワド「答えは全部、闇の中。もう、それでいいじゃないか。」