「明晰夢の赫」ソリチュア

主人公「ん？ソリチュア、なにしてるんだ？」

ソリチュア「主人公。」

ソリチュア「みて。あの天井の染み。」

主人公「あれがどうしたんだ？」

ソリチュア「あの染み、人の顔にみえるなって。」

ソリチュア「その隣の染みも、じーっとながめていると顔にみえてくるわ。」

主人公「そうか……？俺には、ただの歪んだ丸にしかみえないけど……。」

ソリチュア「左の顔が、メザノで、右の顔がターニィ。きっとそうよ。」

ソリチュア「ふふ、何だか楽しくなってきちゃった。」

主人公「メザノとターニィ？」

ソリチュア「死者の国にいる、私の友達よ。」

ソリチュア「はあ。はやくお医者様に診てもらって、お家に帰りたい。メザノとターニィに会って、なんでもない話をしたいわ。」

主人公「……、診察は明日だっけ。」

ソリチュア「そう。いろいろなお医者様にかかってきたけど、これで最後にしたいの。」

ソリチュア「科学の国からきているお医者様だというし、信頼できるとは思うけど……。」

主人公「ソリチュアの病気の原因、みつかるといいな。」

ソリチュア「ありがとう、主人公。」

ソリチュア「……ねえ。私、外の空地を吸いに行ってくるわ。」

主人公「もうすぐ日が暮れるぞ？」

ソリチュア「すぐに戻るから。ね？」

主人公「わかった。でも、なにかあったら大変だから、俺も一緒に行くよ。」

ソリチュア「あら。主人公って紳士ね。お願いするわ。」

ソリチュア「さあ、主人公。私をエスコートして？」

(場面切り替え・夕方の森)

ソリチュア「やっぱり、ここの空気は澄んでいて綺麗ね。」

ソリチュア「主人公、そこの木の枝を取ってくれない？」

主人公「これか？」

ソリチュア「そう。これで線が描けるわ。」

主人公「線？」

ソリチュア「ほらみて、主人公。」

ソリチュア「この線は、境界線なの。」

ソリチュア「そして私は、今、この上に立っているわ。」

主人公「ソリチュア、さっきから何言ってるんだ？」

ソリチュア「ふふふ。主人公のいる方が現実の世界よ。そちらには、メザノもターニィもいるの。」

主人公「……現実の世界？」

ソリチュア「そう。そして私の後ろに広がっているのが、夢の世界よ。」

ソリチュア「私は今、まさにそのはざまにいるの。」

主人公「ソリチュア、言ってることがよくわからないんだけど……。」

ソリチュア「おままごとみたいなものよ、主人公。」

ソリチュア「せっかく仲間になったのだし、一緒に遊びましょう？」

主人公「あ、ああ。」

主人公「その、メザノとターニィとも、こういう遊びをするのか？」

ソリチュア「いいえ。あのふたりとは、他愛もない話をするくらい。」

ソリチュア「でも、ふたりの話はとても面白いわ。メザノは教典と主のお話、ターニィはその日した、いたずらの話をしてくれるの。」

ソリチュア「私は病気のせいであまり外に出られないから、ふたりのしてくれる話に元気づけられているわ。」

主人公「ふたりとも、優しいんだな。」

ソリチュア「そうね。メザノもターニィも、優しいし、とっても仲良しよ。」

ソリチュア「ふたりとは、同盟も組んでるの。」

主人公「同盟……？」

ソリチュア「その名も『屋根裏同盟』。素敵でしょう？」

主人公「冒険物語に出てきそうで面白い名前だけど、いったい何をする集まりなんだ？」

ソリチュア「うーん……。私の家の屋根裏部屋に集まって３人でお話し？」

主人公「それってさっき言ってたことと何も変わらないよな？」

ソリチュア「そうね。でも、ちゃあんと、１つ、規則があるのよ。」

主人公「変なところはちゃんとしてるんだな。」

ソリチュア「変じゃないわ。だって同盟だもの。」

ソリチュア「『約束を破らない』、これが屋根裏同盟の唯一にして絶対の規則。」

ソリチュア「もし破ったら……、」

主人公「破ったら……？」

ソリチュア「くすぐりの刑！」

主人公「軽いな！？」

ソリチュア「お腹がよしれるまでくすぐられるの。おそろしいでしょう？」

主人公「あ、ああ。」

ソリチュア「屋根裏同盟を作ったとき、みんなでそれぞれ約束を交わしたの。」

ソリチュア「ターニィは『メザノと私にはいたずらをしない』、メザノは『教典の言葉を毎週１度は私とターニィに教える』、」

ソリチュア「そして私は……、」

ソリチュア「『何も言わずに遠くへ行かない』。こう約束したの。」

ソリチュア「だから今回の旅のことだって、私、ちゃあんとふたりに伝えてきたわ。」

主人公「なんだか、３人とも不思議な約束だな？」

ソリチュア「何も知らない人はそう思うかもしれないわね。」

ソリチュア「ターニィは手がつけられないいたずらっ子で……、メザノは教典の言葉を規範に生きているの。」

主人公「ターニィとメザノの約束の意味はわかるけど……、ソリチュアの約束は、なんだか曖昧だな。」

ソリチュア「そうね。でもしょうがないわ。」

ソリチュア「だって、私は今、輪郭があやふやなんだもの。」

ソリチュア「だから、境界線の上に立っているの。」

主人公「ソリチュアは……、夢と現実のはざまにいるってことか？」

ソリチュア「ええ、そうよ。」

ソリチュア「白昼夢ではないの。」

ソリチュア「私がみているのは、明晰夢。夢の中の夢。」

ソリチュア「完全な夢の世界にはいないの。」

主人公「ソリチュア。さっきから俺、話についていけてないんだけど……。」

ソリチュア「言ったでしょう、主人公。ぜんぶ、おままごとよ。」

主人公「話を整理すると。ソリチュアは現実と夢のはざまにいて……？みているのは明晰夢で……？」

ソリチュア「ふふふ。」

ソリチュア「混乱させてごめんなさい。私は、ちゃあんと現実……、主人公が立っている世界に近い場所にいるわ。」

ソリチュア「……明日の診察のせいで、ちょっと気持ちが不安定になってしまっただけ。」

主人公「……ソリチュア。」

ソリチュア「なあに。」

主人公「明日の診察、俺も一緒に行こうか。」

ソリチュア「え？」

主人公「はっきりとはわからないけど、ソリチュアが今、不安な気持ちになっていることは、わかったから。」

ソリチュア「ふふ。やっぱり紳士なのね、主人公って。」

ソリチュア「気持ちだけ、受け取っておくわ。」

ソリチュア「ありがとう、主人公。」

ソリチュア「大丈夫よ。」

ソリチュア「現実には、大切なものも楽しいこともありすぎて、まだ私は、夢の世界に行けないから。」

ソリチュア「それに、『何も言わずに遠くに行かない』ってふたりと約束しているから。」