「児が笑う絡繰」おうみ

メルク「みゅ～……難しいお話なのですよ。」

村の少女「うん……。」

おうみ「あらあら、なんよ。女の子が揃いも揃って辛気臭い顔して……。あかんよぉ？　子供は笑ってるんが仕事なんやさかい。」

メルク「みゅ！　おうみさん！」

村の少女「あっ、おもちゃのお姉ちゃん。」

メルク「お知り合いなのです？」

村の少女「うん、たまに試作品って言っておもちゃをくれるの。」

おうみ「おもちゃじゃなくて、かーらーくーり。そこはしっかり区別してこなぁ。」

おうみ「ほんで、どないしたん？困ってますぅって顔しとったけど。お姉さんでよければ相談のるで？」

村の少女「ほんとう？」

おうみ「ふっふふ、当然や。子供の笑顔を守るんは、大人の仕事やさかい。」

メルク「みゅ～、頼もしいのですよ！」

おうみ「ふっふふ～ん！　もっと褒めてええんやで。」

村の少女「……ふふ。おとななのに、おかしいの。」

おうみ「大人でも褒めてもらいたいときはあるんよ～。さてさて、ほんで本題やけど……、お嬢ちゃんの悩みはいったいなんやろか？」

村の少女「……うん。」

村の少女「あのね、わたし弟ができたんだ。」

おうみ「あら！　そらおめでとさん。お姉ちゃん、になったわけやな。」

メルク「それが、そう単純な話ではないのですよ……。」

村の少女「……。パパとママが……。」

村の少女「……。」

おうみ「ははぁん、なるほど。弟くんに、ぱぱとままを取られてしまう気がしとるんやな？」

村の少女「えっ！　ど、どうしてわかるの？」

おうみ「そらわかるよ。うちは可愛い子のことはなぁんでもお見通しや。」

メルク「ど、どことなく危ない特技なのですよ……！」

おうみ「ふっふふ。冗談や。まぁいうなれば、昔取った杵柄ってやつやろか。」

村の少女「きね……？」

おうみ「せや、だからうちは解決策もちゃーんとわかっとる。」

村の少女「ほ、ほんと？」

おうみ「聞きたい？」

村の少女「き、聞きたい！」

おうみ「ふっふふ、それなら特別に教えたげよ。こういう時はな……。」

おうみ「からくりを作るんよ。」

（暗転）

村の少女「え～っと……？」

メルク「そこを組み合わせるのではないのです？」

村の少女「あ、そっか。お姉さん、これでいいの？」

おうみ「おぉ、上手上手。お嬢ちゃんは素質あるなぁ。」

村の少女「そ、そんなことないよ。お姉さんのに比べたら不細工だし……。」

おうみ「わかっとらへんなぁ。それが『味』っちゅうもんです。」

村の少女「味……？」

メルク「個性ということなのですよ！」

村の少女「そうなの？」

おうみ「せや。からくり作らせたら天下一のうちが言うんやから、間違いあらへん！」

おうみ「あー、もう今すぐにでも弟子に取りたいくらいや！いっそのこと、ほんまにうちの子になりぃよ。一緒に『おうみ』の名を後世まで残そうやぁ。」

村の少女「あ、あはは、くすぐったいよ！」

おうみ「うりうりうり～！あんたも、おうみになってまえ～！」

村の少女「あはははは！　やーだー！」

メルク「みゅっ、わかったのですよ！おうみさんがからくりを作ろうと言ったのは、これが目的だったのですね！」

メルク「自分の得意分野を通じて笑顔を取り戻させるなんて、さすがはおうみさんなのですよ！」

おうみ「えっ？」

メルク「みゅ？」

おうみ「あー……。」

おうみ「……。」

おうみ「せやで！」

メルク「今の間はなんだったのですよ！？」

おうみ「決して。決して！結構本気やったとかそういうわけやないで？ふっふふ、当たり前やん……。当たり前、当たり前。」

おうみ「……やっぱあかん？」

メルク「あかんのですよ！」

村の少女「それじゃあ、どうしてからくりを……？」

おうみ「ふっふふ。言ったやろ？　解決策や。」

おうみ「なんたって、うちも弟ができたときはこれで乗り越えたからなぁ。」

村の少女「お姉さんも弟がいるの？」

メルク「初耳なのですよ。」

おうみ「メルクちゃんは一応会っとるんやけどなぁ。まぁ、血は繋がっとらへんから外見は全然違うし、言わんかったら分からへんのも仕方ないわ。」

村の少女「お姉さん……、弟とはパパとママが違うの？」

おうみ「違うって言うたら確かに違うなぁ。ただうちはみなしごやったさかい、『親が違う』っていう感覚はないんよ。」

おうみ「物心ついたときには今のお母はんに拾われてたし、ほんまの親の顔は覚えてへんどころか知らんしなぁ。」

メルク「さ、さらりと重大な過去を……！」

おうみ「和の国ではそう珍しいことやないんやけどね？」

おうみ「まぁ、さすがに弟が生まれたときは焦ったわ。今までうちが全部貰ってた愛情が、突然現れた知らん子にも注がれるようになったわけやろ？」

おうみ「お母はんも他人の子より、自分のお腹痛めて生んだ子のほうが可愛いに決まっとる、うちは捨てられてしまうんやないか～ってね。」

村の少女「そ、それで！　どうしたの？」

おうみ「ふっふふ、弟を溺愛することにしたんよ。」

村の少女「で、できあい……？」

おうみ「『よいお姉ちゃん』になれば、うちのほうがええ子供やって思ってくれると考えてな。一生懸命、弟の世話をすることにしたんよ。」

おうみ「でもあの子、今も昔も難儀な性格でなぁ……。何してもムスっとしてるか、泣きわめくかで、うちは余計に怒られたもんや。」

メルク「もしかして、おうみさんの魂胆を見抜いていたのでは……？」

おうみ「ふっふふ。聡い子やし、そうかもなぁ。」

村の少女「それで、お姉さんはどうしたの？」

おうみ「２年間粘ってみてんけど、なんもかんも駄目やったからなぁ……。」

おうみ「唯一得意やったからくりで勝負をかけることにしたんよ。これが駄目なら、もう終わりやって。」

メルク「そ、それで、結果はどうなったのです？」

おうみ「……必死さが伝わったんやろか？からくりをあげたら、偉い喜んでくれてなぁ。」

おうみ「あの日、初めて見せてくれた笑顔は、今も脳裏にしっかり焼きついてるわ。」

メルク「やったのですよ！」

おうみ「そっからはその笑顔にベタ惚れ！もう１回見たくて、ほんまに溺愛し始めたんや。」

おうみ「うちが弟ばっかり構うもんやから、最終的にはお母はんのほうからうちに『たまには構っておくれよ』って言ってきたわ。」

メルク「ある意味、本末転倒なのですよ……。」

村の少女「……。」

村の少女「……お姉さん。」

おうみ「なんや？」

村の少女「わたしも……弟のこと好きになれるかな？」

おうみ「それはお嬢ちゃん次第や。けど、気持ちがあるならきっとなれると思うで。」

おうみ「なにしろお嬢ちゃんは、今までぱぱとままの愛情を独り占めしてたんや！予習はばっちり、やろ？」

おうみ「自分が受けてたんと同じことを弟にしてあげたらええ。それだけで、弟くんはきっとお姉ちゃんのこと、好きになってくれるわ。」

村の少女「……。」

村の少女「このからくり、弟にあげてみる。」

メルク「みゅふふ、お姉ちゃんからの初めてのプレゼントなのですね！」

おうみ「ちょうどええわ。それじゃあ、このからくりも持って行ってくれる？お嬢ちゃんの御両親宛やねんけど……。」

村の少女「パパとママに？」

おうみ「せやで。たしかー……お姉ちゃんになる可愛い娘へのプレゼント、やったかな？」

メルク「みゅ！　それって……。」

村の少女「……。」

おうみ「そのお姉ちゃん、これで笑顔になってくれたらええねんけどなぁ。お嬢ちゃん、どう思う？」

村の少女「……。」

村の少女「……うん、きっと笑っちゃうよ！たくさんたくさん、笑っちゃうと思う！」

おうみ「……そっか。」

おうみ「そら、何よりやわぁ。」