「翻る警憂心」アベイユ

＜森の中＞

主人公「今だアベイユ！ モンスターを引きつけてくれ！」

アベイユ「気安く指示しない……で！」

ラビューン「キュイ～！」

メルク「お見事なのですよ！」

アベイユ「ふん。お世辞はいいから、さっさと癒術をかけてよ。」

主人公「ああ、いくぞ！」

ラビューン「きゅい～……。」

主人公「よし、無事に癒せた。援護ありがとな、アベイユ。」

アベイユ「別に、当然のことをしたまでよ。お礼を言われる筋合いなんてないわ。」

主人公「そ、そっか……。」

メルク「そ、それにしても、最初に比べると息もあってきたのですよ！ 私たちの仲は着実に深まっているのです！」

主人公「あ、そ、そうだな！ 今のだって、すごくうまくいったし……、」

アベイユ「つーん！」

主人公＆メルク「……！？」

アベイユ「お生憎さまっ！ そんなふうにすり寄ってきたって、私は貴方たちに心を開いたりしないから！」

メルク「す、すり寄るとかじゃないのですよ！？」

主人公「あ、ああ。聞いてくれ！ 俺たちは単純に親交を深めようと思って……、」

アベイユ「改めて言っておきますけど！」

主人公「はい！」

メルク「主人公さん、弱いのです！」

アベイユ「私が貴方たちに同行しているのは、いざという時、大親友の足を引っ張らないよう少しでも強くなるため……！」

アベイユ「貴方たちと一緒にいるのが、その目的の達成のために１番都合が良かっただけ。仲良くなる気なんて、サラサラないわ。」

主人公「そ、そんな……。」

アベイユ「そ・も・そ・も！」

アベイユ「私は貴方たちのことを、ほんのちょっとも信用してないわ！」

主人公「えぇ！？」

メルク「ま、まだ信用してくれていないのです！？ もう一緒に行動して、しばらく経っているのですよ～！」

アベイユ「ふん、当たり前じゃない。口では魅力的な言葉を並べてはいるけれど、心の中では何を考えてるんだか……。」

主人公「い、いや、シンプルに仲良くなりたいだけで……。」

アベイユ「ま、大体見当はつくけどね。リューシュに振り向いてもらいたいから、まずは私から懐柔しようってことでしょ？」

アベイユ「その手にはもう乗らないんだから！ 好きな子の好みぐらい、自分で聞きなさいよね！」

主人公「物凄い見当外れだ……！」

メルク「ち、違うのですよ！ 私たちのどちらもリューシュさんには、ラブ的な好意は抱いてはいないのです！」

アベイユ「つーんだ！ みんな、そう言って本心を隠すのよ！ 私は詳しいんだからっ！」

アベイユ「貴方たちみたいな人畜無害そうな人たちでも、心の中には凶悪無比な蜂を飼ってるんだわ！ うう～！ 私は２度と騙されないわよっ！」

主人公「いったい過去に何があったんだ……。」

メルク「安心してほしいのですよ！ 私たちには、アベイユさんを騙そうとする意図なんて……、」

アベイユ「つつんのつ～ん！」

メルク「ダメなのです、主人公さん！ 最上級の『つーん！』が出てしまったのですよ！」

主人公「うう、相変わらずの鉄壁だな……。」

アベイユ「かっつーん！」

主人公「固そう……！」

メルク「いったいどうしたら、心を開いてくれるのです？ 私たちに出来ることなら、努力してみるのですよ！」

アベイユ「じゃあ、翅生やして。」

メルク「努力でどうにかなることでお願いするのですよ！」

アベイユ「ふ～ん、やっぱり出来ないんだ。貴方たちの本気はその程度だったのね、知ってたけど。」

「これ以上は話すだけ時間の無駄ね。私、先に帰らせてもらうから。」

主人公「あっ、アベイユ！」

アベイユ「ついてきたりしたら引っ掻くから！ つつんのつんのつんつんつ～ん！」

主人公「今までにないぐらいの『つーん！』だ！」

メルク「取り付く島もないのですよ！」

主人公「ああ、行っちゃったな……。」

メルク「今日も仲良くなれなかったのですよ……。」

主人公「出会った時から、警戒心が強いとは思ってたけど、まさかここまでとはな……。」

メルク「みゅ～……。信頼を獲得するためには翅を生やすしかないのです？ 体の形を変えれば、なんとか……。」

主人公「よし、メルクはそっちを攻めてくれ。俺はもうひとつのほうを、チャレンジしてみる……！」

メルク「もうひとつのほう、なのです？」

主人公「実は前にもアベイユから聞いてたんだ。どうしたら、心を開いてくれるのかって。そして、翅とは別のことを教えてもらった！」

メルク「みゅ！ そ、それはいったい……？」

主人公「ふわふわツインテール……！」

メルク「ある意味、翅以上に無茶なのですよ！」

「きゃあああああ！」

メルク「今のは……！」

主人公「アベイユ！？」

「ぶーん！」

アベイユ「や、やだ、蜂！ 厳ついの！ こ、こ、来ないで！ 近寄らないで～！」

「ぶーん！」

アベイユ「ひゃああああ！？ た、助けて、リューシュー！」

主人公「アベイユ！」

アベイユ「リューシュ！？」

主人公「ごめん、俺たちだ！ それより、これは……、」

メルク「アベイユさんが大きな蜂に襲われているのです！」

「ぶーん！」

アベイユ「うひゃああああ！」

主人公「アベイユ、俺の後ろに！」

アベイユ「ひゃ！」

メルク「ここは、静かに、じーっとしているのですよ。そうすれば蜂もいなくなってくれるのです。」

アベイユ「そ、そうなの……？」

「ぶーん！」

主人公「き、来たっ！」

メルク「動いちゃダメなのですよ……！」

主人公「ああ！」

アベイユ「……。」

「……ぶーん。」

主人公「ふう、行ってくれた。大丈夫か、アベイユ？」

アベイユ「う、うん……。」

主人公「そっか、良かった。」

メルク「無事で何よりだったのですよ～。」

アベイユ「……。」

アベイユ「きゅん。」

＜紹介所＞

メルク＆主人公「……。」

アベイユ「主人公！ 主人公！ 私の力が必要だったらいつでも言ってね。私、うんと頑張るから！」

主人公「あ、ああ、ありがとう……。」

アベイユ「メルク！ メルク！ 貴方に似合いそうな花を見つけてきたわ。受け取ってもらえるかしら……？」

メルク「よ、喜んでなのです……。」

主人公「あ、あの、アベイユ……？」

アベイユ「なぁに、主人公！」

主人公「す、すごい笑顔だ！」

メルク「好意が全開なのですよ！」

主人公「あ、あの、昨日までと態度が全然違うけど、何かあったりしたのか……？」

アベイユ「あっ……。そうだわ、あんな態度を取っていたくせに、いきなり仲良くしてもらおうだなんて……、」

アベイユ「謝罪からあるべきだったわ。失礼な態度を取って、本当にごめんなさい。」

主人公「本当に何があったんだ！？」

アベイユ「ようやく気づいたの。昨日、壁になってくれた主人公の温かさと、メルクがかけてくれた優しい言葉で……。」

アベイユ「この人たちは、ふわふわツインテールもかわいい翅も生えていないけど、リューシュと同じぐらい、信頼できる人たちだって！」

主人公「チョロ……！」

メルク「主人公さん！」

アベイユ「これからは、心を入れ替えて頑張るわ！ だからその……まだ一緒にいさせてもらっていいかしら？」

主人公「あ、ああ、もちろん。」

アベイユ「わぁ……！ 嬉しいわ、ありがとう！」

主人公「笑顔がまぶしすぎるーっ！」

アベイユ「主人公！？」

メルク「昨日との落差に、主人公さんはついていけなかったのです……。」

アベイユ「そんな！ 主人公、しっかりして主人公！」

アベイユ「そうだ、元気になる蜂蜜をわけてあげるわ。はい、あ～ん。」

主人公「嬉しいけど慣れなーい！」

メルク「みゅ～、今度は私たちが、アベイユさんに慣れるための時間が必要そうなのですよ……。」