「竹風の黒羽根」ろくしょう

＜紹介所・夕背景＞

主人公「こうか？」

村の少年「なんだか違う気がする……。」

主人公「じゃあ、ここに切れ込みを入れたら……、」

村の少年「えー、多分そうじゃないよ。」

村の少年＆主人公「うーん……？」

ろくしょう「お前ら、何やってんだ？」

主人公「あっ、ろくしょうさん！ ちょうどいいところに！」

村の少年「あの、これを見てほしいんだ。」

ろくしょう「なんだよ。」

ろくしょう「……ん？ 折り鶴か。なんで王国にこんな物が……。お前が折ったのか？」

村の少年「違うよ。昨日、和の国から来たっていう旅人さんが、僕にくれたんだ。」

村の少年「僕もこれ……、折り鶴を作ってみたくて、癒術士のお兄ちゃんと一緒にさっきからいろいろ試してたんだけど……、」

主人公「作り方が全然わからないんです。」

主人公「ろくしょうさん、これ、どうやって作るか知ってますか？」

ろくしょう「まあ、知ってるけど……。」

主人公「お願いします！」

村の少年「僕たちに作り方を教えて！」

ろくしょう「……めんどくせぇから嫌だ。」

村の少年＆主人公「お願いします！」

ろくしょう「……。」

村の少年＆主人公「お願いします！」

ろくしょう「わ、わかったよ。教えりゃいいんだろ。」

村の少年「ありがとう、翼のお兄ちゃん！」

ろくしょう「翼のお兄ちゃんじゃねえ。俺はろくしょうだ。」

村の少年「わかった、ろくしょうお兄ちゃん！」

ろくしょう「はいはい。」

主人公「……ろくしょうさんって。」

ろくしょう「なんだよ。」

主人公「なんだかんだで面倒見がいいですよね。」

ろくしょう「あぁ？」

主人公「ひっ。すみません！ なんでもないです！」

ろくしょう「……。」

ろくしょう「まず、用意してあるナイフで紙……、羊皮紙を正方形に切れ。」

村の少年「こう？」

ろくしょう「ああ、そうだ。もうナイフは必要ないから、片付けていいぞ。」

村の少年「えっ、そうなの！？」

主人公「これって、ナイフを使わずに作ってるんですか？」

ろくしょう「そんなに驚くことか？ 折り紙っていうのは、不切正方形１枚折りが基本だからな。」

村の少年「ふせつせーほーけー？」

主人公「１枚折り？」

ろくしょう「ナイフで切れ込みを入れずに、正方形の紙１枚だけで折り紙を折ることだ。」

村の少年「へえ……！」

主人公「なんだか奥が深いんですね、折り紙って。」

ろくしょう「まあ、そうかもな。」

ろくしょう「じゃあ次だ。その正方形にした紙を三角に折れ。」

村の少年「こうかな。」

ろくしょう「おう。」

主人公「えっと、こんな感じですか？」

ろくしょう「阿呆。」

主人公「えっ。」

ろくしょう「ちゃんと角と角を合わせろ！ そうしないと綺麗な折り鶴はできないぞ！」

主人公「は、はい！」

ろくしょう「よし、それでいい。」

主人公「ろくしょうさんって意外と細かいんだな……。」

ろくしょう「なんか言ったか？」

主人公「ナンデモナイデス。」

ろくしょう「じゃあ次。さらにもう１度、三角形に折れ。そしたら次は……、」

＜時間経過＞

主人公「で……、」

村の少年「で……、」

村の少年＆主人公「できた～！」

主人公「すごい、本当に１枚の紙で鳥の形が折れるんですね！」

村の少年「わ～！ ろくしょうお兄ちゃん、ありがとう！」

ろくしょう「お前ら、たかが折り鶴ごときでそんなに感動できんだな……。」

主人公「感動しますよ！ てっきり複雑にナイフを入れて作るものだと思ってたから……。」

村の少年「僕も。これなら友達にも教えられそう。」

ろくしょう「ならよかった。」

村の少年「ねえ、ろくしょうお兄ちゃん。」

ろくしょう「ん？」

村の少年「他にも、折れるものある？」

ろくしょう「……ある、けど。」

村の少年「他にも作って！」

ろくしょう「めんどうだから……、」

村の少年「作ってほしい！」

ろくしょう「……ガキってのはどいつもこいつも頑固だな。」

ろくしょう「わかったよ、俺のとっておきを教えてやる。」

村の少年「やったー！」

主人公「よかったな。」

村の少年「うん！」

ろくしょう「ただ、俺がそれを作ったら家に帰るって約束しろよ。もうすぐ日が暮れるからな。」

村の少年「わかった。」

ろくしょう「さっき、折り紙は不切正方形１枚折りが基本と言ったが……、今から作るものは２回ナイフを入れる。」

ろくしょう「まず三角に折った紙のちょうど半分のところを切る。それから切り取った部分を四角に畳んで、今度は少しだけ切り込みを入れて……、」

ろくしょう「ほら、完成したぞ。夕日を背負う、鶴の姿だ。」

主人公「……。」

村の少年「……。」

ろくしょう「な、なんだよ２人して。その反応は。」

主人公「あっ、すみません。感動を噛み締めてたら、リアクションを忘れてました……。」

村の少年「僕も……。」

村の少年「ろくしょうお兄ちゃん！ 僕にこれの作り方教えて！」

ろくしょう「あぁ？ 約束しただろ。もう帰るって。」

村の少年「でも……。これをお母さんに見せたら喜んでくれるかなって思って……。」

ろくしょう「……。」

村の少年「……。」

ろくしょう「……はぁ。」

ろくしょう「おい、主人公。出発は、明日の昼だったよな？」

主人公「はい、そうですけど……。」

ろくしょう「だったらお前。明日の朝、ここに来い。」

村の少年「え？」

ろくしょう「これの作り方を教えてやる。」

村の少年「本当！？ やったー！」

ろくしょう「だから、早く帰れ。今作ったやつはお前にやるから。」

村の少年「色々ありがとう！ ろくしょうお兄ちゃん。明日、楽しみにしてるね！」

ろくしょう「はいはい。」

「じゃあ、またねー！」

ろくしょう「……またな。」

主人公「……そういえば。」

ろくしょう「なんだよ。」

主人公「なんでろくしょうさんって、そんなに折り紙に詳しいんですか？」

ろくしょう「……。昔、俺に天狗としてのあり方を教えてくれた師匠がいたんだが……、」

ろくしょう「その人が折り紙好きだったんだよ。暇さえあれば折り紙で手裏剣とか蛙とか作ったりしてさ。本当、子どもみたいに無邪気な人だった。」

主人公「へえ……！ そのお師匠さんは今どうされてるんですか？」

ろくしょう「知らねえ。」

主人公「え？」

ろくしょう「……俺は主人公くらいの時に、師匠の元を飛び出したから。あの人が今どうなってるのか、知らねえ。」

主人公「そんな、どうして……。」

ろくしょう「天狗にはさ。普通、天輪があるんだ。でも、俺には生まれつき、それがなかった。だから俺は……、」

ろくしょう「俺は、天狗の世には完全に馴染めない気がしたんだ。完全な天狗であれない俺に優しくしてくれてる師匠へ申し訳が立たないとも思った。」

ろくしょう「かといって、翼があるから人の世にも馴染めない。だから、ひとりで生きていこうとした。」

主人公「……。」

ろくしょう「でも、そんなことしなくてもよかったのかもしれないって……、」

ろくしょう「ゆうづると再会してからは、思ってなくもない。」

主人公「ろくしょうさん……。」

主人公「これからの旅で、きっともっとそう思うことが増えますよ。」

ろくしょう「ははは、だと良いけどな。」

ろくしょう「ゆうづると再会して、他の人間とも交流を持ったあの日から、俺の生き様もだいぶ変わってきた。」

ろくしょう「まさか王国の子どもと折り紙を折る日が来るなんてな。」

ろくしょう「……まあ、良い気分転換になったよ。」

主人公「そうですね。俺もすごく楽しかったです。」

ろくしょう「……そうか。」

主人公「あっ、そうだ。」

主人公「最初に折ったのが折り鶴って名前なら、今作ったものは、何て名前なんですか？」

ろくしょう「ああ、これか。これは、和の国では……、」

ろくしょう「夕鶴。そう、呼ばれてる。」