「孤心瞳の王冠」ヌイヌイ

＜紹介所＞

主人公「あのさ、ヌイヌイ。俺、今日買い出しに行く予定だったんだけど急に別の用事入っちゃって、行けなくなっちゃったんだ。」

主人公「だから、ヌイヌイが買い出し手伝ってくれたらすごく助かるんだけどなぁ……。」

ヌイヌイ「むにゃ～。」

主人公「……自分で行こう。」

ヌイヌイ「んん～……、待って待って、買い出し……？だっけ？」

ヌイヌイ「大丈夫、行くよ～……、一応、仲間になったわけだし。」

主人公「ヌイヌイ……！ありがとう、本当に助かる！」

ヌイヌイ「ん～……、さっさと買い出し行って、さっさと帰ってきて寝よ……。」

主人公「……。」

ヌイヌイ「あ～……、でも行く前にもうちょい寝よ。」

主人公「結局寝てる時から１センチも動いてなくないか？」

ヌイヌイ「そのうち１ミリくらいは動く……。」

主人公「１ミリじゃ起きてもいない気がするぞ！？」

ヌイヌイ「起きる～。」

主人公「あ、ヌイヌイ！ぬいぐるみ落としたぞ。ほら、これ。」

ヌイヌイ「……、ん。ありがと、主人公。」

主人公「この白いクマのぬいぐるみ、かわいいよな。ヌイヌイの会社のぬいぐるみだろ？」

ヌイヌイ「あたしの会社じゃなくて、姉さんの会社だよ。」

主人公「あっ。そ、そうだったな。」

主人公「……このぬいぐるみ、寝てる間もずっと抱きしめてたけど、ヌイヌイのお気に入りなのか？」

ヌイヌイ「ん……、別に気に入ってるんじゃないよ。私物なんだ。それも……何となく手放せないからだし。」

主人公「……？自分で作ったぬいぐるみなのに、気に入ってないのか？」

ヌイヌイ「これ、あたしが作ったんじゃないよ。」

主人公「えっ、そうなのか？シャーべティアのタグがついてて、ヌイヌイが持ってたからてっきりヌイヌイがデザインと思ってたんだけど……、」

ヌイヌイ「たしかにあたしはシャーべティアのデザイナーだけど、社内のデザイナーは他にもいるんだ。」

ヌイヌイ「そもそもあたしは、こんなデザインのぬいぐるみ作んないし、あたしが作ったのは、こっちの『おうさま』シリーズ。」

主人公「おうさま……。そう言われれば、このぬいぐるみたち、全部王冠がついてるな。」

ヌイヌイ「シャーべティアのデザインは基本的にデザイナーに一任せてるんだ。」

ヌイヌイ「だから同じシャーべティアのブランド内でも、デザイナーごとのカラーやコンセプトが出るんだよ。」

主人公「じゃあ、この王冠がヌイヌイのカラーってことか。」

ヌイヌイ「ん、そうだね。」

ヌイヌイ「……この王冠は、そのぬいぐるみたちが自分自身の『おうさま』って証。他の何にも縛られないってメッセージでさ。」

主人公「なかなか尖ったメッセージだな……。」

ヌイヌイ「ん……、何かに縛り付けられてるのって、あたしが嫌だからさ。だからそれを、自分のデザインでも表現したの。」

ヌイヌイ「いつかシャーべティアのタグを外しても、あたしが、あたし自信のやり方でやっていけるように、って。」

主人公「それって……、」

ヌイヌイ「あたし、雪の国ではずっと姉さんと暮らしててさ。」

ヌイヌイ「あたしはまだ子供で、デザイナーとして無名で、姉さんみたいな一人でもやっていける才能もなかったから姉さんと一緒じゃないと生きていけなかった。」

ヌイヌイ「でもほんとは、早いとこ独立して一人で暮らしたいんだよね。家にいても、何か息詰まるだけだからさ。」

主人公「……。」

主人公「ヌイヌイ、お姉さんと何かあったのか？」

ヌイヌイ「まあ、生まれてからずっと一緒だったんだもん。色々あって当然だよ。」

ヌイヌイ「仲良かったのが仲良くなかったり、一緒に遊んでたのが遊ばなくなったり……、それで、何かひどいこと言ったり。」

ヌイヌイ「そんなの、よくあることだよ。」

主人公「……お姉さんと喧嘩でもしたのか？」

ヌイヌイ「できたらよかったんだけどね。」

主人公「え？」

ヌイヌイ「あたしが姉さんに勝手にひどいこと言って、姉さんを傷つけたって思って……、でも姉さんは何とも思ってなかった。」

ヌイヌイ「だから喧嘩できてないんだ。もうずっと。」

主人公「……。」

ヌイヌイ「……そう言えば、買い出しだっけ？そろそろ１ミリ以上動いて、行ってくるね～。」

主人公「あっ……、」

＜町通り＞

少女Ａ「ねえねえ、見て！このシャーべティアのクマさんぬいぐるみ、ママが買ってくれたの！」

少女Ｂ「かわいい～！あたしのも見てみて！ほらっ、ライオンさん！」

少女Ａ「それもシャーべティアのだよね？そっちのもかわいいな～！」

ヌイヌイ「……、」

「懐かしい？」

ヌイヌイ「……、姉さん。」

トイトイ「こんなところにいたのね。」

ヌイヌイ「……姉さんこそ、何でこんなところにいるの？びっくりした。」

トイトイ「お姉ちゃんが妹の様子を見に来てはだめ？そのために商談先をこの町にしたのに。」

ヌイヌイ「そんな風に、心配したようなそぶりしなくてもいいんだよ。」

トイトイ「あら、心配したのは本当よ？」

ヌイヌイ「……そう。」

少女Ａ『わっはっは！この偉大なライオン王に何でも言ってみるがよいぞ、クマさん！』

少女Ｂ『ああっ、ライオン王さん！わたくし、あなたにメロメロになりましたの！』

トイトイ「何だか、昔の私たちを見てるみたい。」

ヌイヌイ「昔のね。」

トイトイ「ふふ。」

ヌイヌイ「何？」

トイトイ「私が作ったそのコ、大切にしてるのね。」

ヌイヌイ「……、」

トイトイ「ヌイヌイ、そのコが好き？」

ヌイヌイ「……。そうだね。」

ヌイヌイ（好きになれないよ、全然。お姉ちゃんがあたしと遊んでくれないなら）