「大日の女神」アマテラス

メルク「みゅわわわっ！　大変なことになってしまったのですよ！」

メルク「アマテラスさーん！　主人公さーん！　岩戸を開いてほしいのですー！」

メルク「……。」

メルク「だ、だめなのですよ……。ポータブル天岩戸の壁が厚くて、全然声が届かないのです……。」

メルク「せっかく、アマテラスさんが仲間になってくれたのに、このままふたりが出てこなかったら……、」

メルク「旅を始められないどころか、動くこともままならないのですよ〜！」

メルク「それに、もし世界が闇に包まれた状態が続けば、メフテルハーネに滅亡の危機が……。」

「にゃーっ！」

メルク「こ、この声は……。」

ねねこネコ・もねこネコ「にゃにゃーっ！」

メルク「もねこさんとねねこさんの、ファンにゃんこなのですよ！」

もねこネコ「にゃー！」

メルク「にゃんこサイリウムを持って、今からライブに行くのですよ？」

もねこネコ「にゃおーっ！」

メルク「ライブに注ぐ情熱は、どんな状況でも揺るがないのです……。」

メルク「（みゅ……っ！　良いことを思いついたのですよ！　以前、アマテラスさんが天岩戸に閉じこもった時、舞や宴で気を引いたと聞いたのです！）」

メルク「（それなら、天岩戸の前で歌ったり踊ったりすれば……）」

もねこネコ「にゃ？」

メルク「お願いなのです！　世界を救うために、力を貸してほしいのですよーっ！」

ねねこネコ・もねこネコ「にゃにゃーっ！」

メルク「みゅわ〜っ！　ファンにゃんこたちが、天岩戸の前に並んだのですよ！」

メルク「そ、それでは早速……。」

メルク「セット！」

メルク「永久に変わらぬ愛こめて！　今日もあなたの声が聞きたいのですよ！　Ｌ・Ｏ・Ｖ・Ｅ！」

ねねこネコ・もねこネコ「にゃーっ！」

メルク「（よ、予想していた以上に恥ずかしいのです！　ですが……）」

「何だか外が騒がしいな……。」

メルク「天岩戸がわずかに開いたのですよー！　突撃なのですーっ！」

「にゃにゃーっ！」

主人公「ひぃぃ！　ファンにゃんこが押し寄せてきた！」

アマテラス「はわわわ！　神をも恐れぬにゃんこの群れに、神本気で恐怖！」

ねねこネコ・もねこネコ「にゃー！」

メルク「なのですーっ！」

主人公「はぁ……ひどい目にあった。」

アマテラス「肉球はしばらく、見るのも触るのも遠慮したい気分だわ……。」

メルク「天岩戸からすぐに出ていれば、にゃんこまみれに、ならなくてすんだのですよ……。」

アマテラス「ううっ、旅の仲間に入れて頂いて早々、迷惑をかけたことが悔やまれてなりません……。」

アマテラス「こうなったら天岩戸に入り深く反省を……！」

主人公「ちょ、ちょっと……アマテラスさん！　天岩戸のことは一旦忘れましょう！」

アマテラス「はっ！　危うく、同じ過ちを繰り返すところだったわ！」

アマテラス「この太陽神アマテラスが！」

主人公「ぎゃー！　目がーっ！　至近距離で光らないでください！」

アマテラス「ご……ごめんなさい。神マジ反省……。」

メルク「……それにしても、どうして天岩戸から出てこなかったのです？　入る前はすぐに戻ると言っていたはずですが……。」

主人公「いや、それが……。最初は中の様子を確かめたくて、軽い気持ちで覗いてみたんだけど……、」

主人公「いざ入ってみたら快適すぎて、気づけば外に出ることをすっかり忘れてたんだ……。」

メルク「見た目はただの岩山だった気がするのですが、何がそんなに快適なのですよ？」

アマテラス「ポータブル天岩戸は、神に仕えるネコ職人に作らせたものなの。」

アマテラス「最初は本当に武骨で、持ち運びができる岩窟でしかなかった。内装も質素で、飾り気なんてもちろん皆無……、だったけれど……、」

アマテラス「太陽神である私を祀るため、次第に豪華になってしまったの。それはもう神感激ってぐらいに。」

主人公「閉塞感を感じさせない居住性を確保しているだけでなく、室内を適温に保っていて、しかもアロマのいい香りまでするなんて、驚きですよね……。」

メルク「みゅ〜！　たしかにすごそうなのですよ！」

アマテラス「ええ、一度味わえば神すら虜になる始末。でも、ふと思う時があるの。」

アマテラス「本来の用途から、完全に離れていると。」

メルク「そこは否定できないのですよ……。」

主人公「あれは確実に人をだめにするかも……。」

アマテラス「……うむむむ。やはり、あのポータブル天岩戸は贅沢すぎるのかもしれない。」

アマテラス「……よし、決めたわ！　これを機に処分してしまいましょう！」

アマテラス「むぐぐぐ……。それではこれより、神をも堕落させる天岩戸を、八尺鏡で滅却いたしましょう……ぐぐぐ。」

主人公「……も、もったいない気もするけど、お願いします……うむむむむ。」

メルク「二の足をはげしく踏んでいるのです……。」

アマテラス「……しかし、ここでやらねば、いずれ世界が闇に支配されてしまうはず！　そして私は……、」

アマテラス「引きこもりの神となるでしょう！」

メルク「堂々と敗北宣言しちゃダメなのですよー！」

メルク「……ですが、そこまで悩まれると、どれだけ魅力があるのか気になってしまうのです。」

主人公「そういえば、メルクは中に入ったことがないのか……。」

アマテラス「今日で処分することですし、最後に少しだけ覗いてみるのはどうかしら？」

メルク「みゅ〜っ！　見たいのです！」

アマテラス「では、私が案内しましょう。さぁ、メルクさんこちらへ。」

メルク「ちょっとドキドキなのです……。」

メルク「みゅみゅっ！？　す、すごいのです！　外はゴツゴツとした岩なのに、中の壁紙はとても可愛いのですよ！」

メルク「それに、愛らしい小物が棚に並んでいて、最新の小説がずらりと……！」

アマテラス「どうかしら？　神がかっているでしょう？」

メルク「まさに神に相応しき場所なのですよー！」

主人公「な？　俺とアマテラスさんが、なかなか出てこなかった理由がわかっただろ？　って、あれ……、」

主人公「お、おいメルク！　天岩戸が少しずつ閉じてるぞ！」

「みゅわ〜！　いつまでも、ここで過ごしていたいのですよ〜！」

主人公「わ〜っ！　閉じる閉じる！」

主人公「閉じた……。」

主人公「……大変だ！　ちょ、ちょっと！　アマテラスさーん！　メルクー！　出てきてくれー！」