「盛装の形姿」コルネイユ

（サクレー神学校）

コルネイユ「……。」

「さすがはサクレー神学校のチャリティバザー。観光名所なこともあって、人が多いですわね。」

「あら、このお店の人形、綺麗だわ……。」

コルネイユ「ようこそ、いらっしゃいませ。」

フォトン「お、お人形さんが喋りましてよ！」

コルネイユ「驚かせてしまい、失礼いたしました。こちらは服飾店『メゾン・ド・ロレス』の出張店でございます。」

フォトン「まあ、売り子さんだったのですね。失礼しましたわ。」

ヴィリローゼ「……これも、駆け引きということね。いいわ、売り子さん。この店のドレス、いくつか持ってきてちょうだい。」

コルネイユ「かしこまりました、少々お待ちくださいませ。」

フォトン「と、突然どうしたのです？ ヴィリローゼ。」

ヴィリローゼ「わたしの財布の紐がどれだけ緩むか……、売り子さんとのゲームがはじまったのよ。」

フォトン「ああ、ドレスが欲しいのですね……。わかりますわ、あの売り子さんのように装えたら、素敵だろうとわたくしも思いましたもの。」

コルネイユ「お待たせいたしました。」

ヴィリローゼ「……なかなかのやり手ね。これを……、それに、これとこれもいただくわ。」

フォトン「大いに緩んでませんこと？ でもレースには手紡ぎの糸を使っているようですし、確かに、良いドレスばかりですわね。」

ヴィリローゼ「あなたも認めるなんて……。荷物持ちのバトラーを連れてくるべきだったかしら。」

コルネイユ「お気に召したのなら幸いです。よければ普段構えている店にもいらしてくださいませ。こちら、店の案内状でございます。」

ヴィリローゼ「普段は町の方に店があるのね……。」

フォトン「今度、一緒に行きましょう。糸を手紡ぎされる店主の方に、わたくし、興味がありますもの。」

ヴィリローゼ「……蚕をいきなり持っていくのは駄目よ？」

フォトン「あら、どうしてですの？」

（場面転換）

「おほほほほ！ 麗しきノワールが応援に参りましたわ、お姉様！」

コルネイユ「ご厚意、ちょうだいしまして。」

ノワール「なんだ、客はいねえのか？ あたしのゆかしい声が無駄に響いたな……。お姉ちゃんも、誰もいないなら座ってればいいのに。」

コルネイユ「私は売り子、服に見合う麗しい人形として、ここに立っているのが役目でございますので。」

ノワール「いやー、いくらお姉ちゃんでも、ちっとも笑わねえで肩ひじ張り続けてりゃ、疲れるだろ？」

コルネイユ「少し肩は凝りますが……。おじ様の作品と一体化することは、私も望んでいることですから、平気です。」

ノワール「うーん、相変わらずおじちゃんへの傾倒がすげえ……。」

「あの、指輪を買いたいんだけど。」

「すみません、こっちはサイズを教えてほしくて……。」

コルネイユ「お客様が来られましたね。指輪の方には私が対応しますから、ノワールはあちらの方をお願いできますか？」

ノワール「はあい、任せといて。」

「……おほほほ！ お目が高くていらっしゃいますわお客様！」

コルネイユ「ようこそ、いらっしゃいませ。こちらの、陶器の花の指輪でよろしいですか？」

主人公「ああ。それを１つ、お願いするよ。」

メルク「みゅふふ～、この指輪を瓶に入れたら、花畑にいる気分になれそうなのです！ 楽しみなのですよ～。」

コルネイユ「大変気に入ってくださったようで、ありがとうございます。」

コルネイユ「～♪　～♪」

主人公「あ、オルゴール……。弾むような、良い音色だな。」

コルネイユ「私から取り出した感情の音ですから。」

主人公「え？」

コルネイユ「麗しさは、はしゃぐと失われてしまうのです。ですから私はこうして、喜びを表現するようにしてございます。」

主人公「そ、そうなのか……。」

メルク「確かに、オルゴールの踊り子がくるくる回って、喜んでいるみたいなのですよ。」

メルク「みゅ？ 踊り子の顔……、あなたに似ているのですね。」

コルネイユ「ええ、そう見えるかもしれません。これは、双子の妹を模して作られたものでございますので。」

主人公「妹に似せて作られたって……、何かの記念品なのか？」

コルネイユ「いえ、もともとは、よくある劇場の踊り子の姿だったのですが、妹がうっかり壊したことがございまして……、」

コルネイユ「当時の妹は、ひどく落ち込んでしまいました。しかし私は、踊り子より妹の方が大事ですから、気にしないでほしかったのです……。」

コルネイユ「すると叔父が、踊り子を妹そっくりに作り変えて直してくれたのでございます。私の大事なものに妹が気付いて、気にしなくなるようにと。」

メルク「叔父さんは、あなたの気持ちも、妹さんの気持ちも及んだのですね。」

コルネイユ「ええ。そんな優しい叔父です。」

コルネイユ「お客様が買われたその指輪も、寄り添って咲く花があるようにと願いを込めたそうです。願いが叶う瞬間を見られて、売り子冥利につきます。」

（場面転換）

ノワール「よっしゃ、終わったあ！ まどろっこしいしゃべり方と、やっとおさらばだ……！」

コルネイユ「大変尽力していただきまして……。もう残っているのは、私達だけのようですね。」

ノワール「へ！？ 他はもう店じまいしやがったのか。」

「いっけねえ、神仕様が帰る前に売上を収めてくる！」

コルネイユ「私が行き……、ああ、もう行ってしまいましたか。」

コルネイユ「……。私も今日はこれで、売り子の役目はおしまいにしましょう。」

コルネイユ「ねじを目一杯巻いて。頬をゆるめて。お人形から人に戻るため……、今日の喜びよ、私の内へ収まってちょうだいませ。」

コルネイユ「～♪　～♪　～♪」

（場面転換）

メルク「結局ここまで戻ってきてしまったのですよ～。」

主人公「まさか宿までの地図を落とすとは……。」

メルク「みゅみゅっ！ 見るのです、向こうに人影があるのですよ！」

主人公「良かった、道を教えてもらえるかも……！」

コルネイユ「あは、ヤミミズクのポーズ！ あははっ。」

主人公「あの、すみません。」

コルネイユ「あばばっ！」

主人公（あっ、この反応。声をかけるタイミングを間違えたかな）

メルク（みゅ……？ 指輪を買ったお店の方、なのですよ？）

コルネイユ「ち、違うのよ、今のは！ 凝った肩をほぐそうと私はただ……、」

コルネイユ「……っごめんなさい。」

主人公「えっ……。」

コルネイユ「この私のことは、忘れてちょうだい。おじ様の作品の印象を壊すような、服に見合わない姿を、さらしているのだもの。」

主人公「い、いや、こっちこそ、ごめん。忘れてほしいっていうならそうするけど……。」

メルク「……昼間の静かな雰囲気も良かったのですが、今のあなたも、服は似合っているのです！ 印象は違うのですが、素敵なのですよ。」

コルネイユ「……。」

「ふい～、やっぱり体動かしてる方が性に合うわ。」

ノワール「おーい戻ったよ、お姉ちゃん……、って客がまだいやがるじゃねえか！」

主人公「あ、俺たちは……、」

ノワール「……お～ほっほっほっほ！ もう閉店時間ですのに、あなたがた、どうかして？」

主人公「えっと、実は地図を落として、宿まで行けなくて困ってるんだ。」

ノワール「まあ～！ ならばこの仁愛に満ちたノワールが道を教えてさしあげますの！」

ノワール「景色を見ながらの方が早いですわ、さあこちらへ、おーほっほっほっほ！」

「それで？ 宿の名前はなんと……？」

コルネイユ「……。」

コルネイユ（服が、似合ってる。人形でない私に……？）

（紹介所）

メルク「あなたは、この間の……。」

コルネイユ「ご機嫌麗しく、主人公様、メルク様。私が、紹介をお願いしたコルネイユでございます。」

主人公「俺たちと一緒に旅がしたくて探してくれたって聞いたけど……、どうしてまた？」

コルネイユ「売り方の手数を増やすのも、悪くないのかもと気づきまして……、」

コルネイユ「私だけでは見た目に囚われがちですが、服が似合うとおっしゃったあなた様方となら、共に色々な売り方を見つけられそうでございますから。」

コルネイユ「お心に感じたままを、教えてちょうだいませ。」