「水面跳ぶ穿虎」トラ

＜紹介所＞

トラ「んにゃー！　今日もがんばるぞー！」

主人公「あっ、トラ……。いつもの特訓か？」

トラ「ヘヘーん。一日もはやく水になれたいからねー。魚を捕まえるまで帰らないつもりなんだっ！」

メルク「昨日も遅くまで川原にいたと聞いたのです。くれぐれも無理は……、」

トラ「気をつけるからへっちゃら、へっちゃらー！　それじゃあ行ってきまーす！」

主人公「ちょ、待ってくれ！　実はトラにお客さんが……。」

「にゃー！　待ってろ魚ー！」

メルク「みゅうう……。あっという間に行ってしまったのですよ。」

主人公「えっと……どうします？」

「ティーグルさん。」

ティーグル「……オレが来ることは手紙で伝えておいたのに困った妹だな。」

ティーグル「とりあえず、さっき話していた川原とやらに行ってみるか……。」

＜川原・日中＞

トラ「ふんふんふーん。良さげな浅瀬みーつけたっ。ここなら水になれる練習しながら魚をさがせるぞー！」

トラ「まずは……水をすくって、顔にパチャパチャっと……。」

トラ「にゃ！？　魚だー！　食べたいー！　待て待て待てーっ！」

「あばばばばばっ！　おぼれる、おぼれる！　ふしゃああー！」

メルク「みゅわわっ！　大変なのですよ！」

主人公「はやく助けないと！」

ティーグル「オレが行く。二人は念のためにロープか何かを……。」

トラ「って、足着いた！　にゃはははは！」

ティーグル「……っ！」

主人公「……ふぅ、良かったぁ。」

メルク「毎度のこととはいえ、ハラハラしたのですよ……。」

ティーグル「トラの特訓というのは、いつもああなのか？」

主人公「……はい。深いところには行かないようにしているみたいですよ。だからといって浅瀬が安全ってわけじゃないですけど……。」

メルク「なので、こうして不測の事態に備えるようにしているのですよ。」

ティーグル「そうか二人が見守ってくれていたのか……。ありがとう、それとすまない。妹が随分と世話をかけているようだな。」

主人公「いえ、そんなことは……。」

ティーグル「隠さなくてもいい。あいつは昔からあんな調子で、周囲が見えなくなることなんて、しょっちゅうなんだ。」

メルク「言われてみれば、思い当たる節があるのです……。」

ティーグル「とはいえ、いつまで経ってもかわいい妹でな。出来ればずっと傍にいてやりたいと思ってる。」

ティーグル「思ってはいるんだが……。トラは旅に出てしまった。」

トラ「待ってろ魚ー！　いつか捕まえてみせるからなー！　うにゃー！」

ティーグル「……。」

主人公「苦手な水を克服して、自分で魚がとりたいらしいですね。」

ティーグル「旅になんか出なくても、好きなだけ魚をとってやる。オレはそう思っているが、トラはどうも納得しなくてな。」

ティーグル「……もちろん成長は応援したいし、旅をしたい気持ちを否定するつもりはない。ただ……、」

メルク「トラさんのことが心配なのですね。」

ティーグル「ああ、今も魚を見つけてうずうずしているからな。」

トラ「でっかくて美味しそうな魚みつけたー！　にゃー！　逃がさないぞっ！」

「待て待て待てー！」

主人公＆ティーグル「ト……トラ！」

＜川原・夕方＞

トラ「にゃーっくしっ！」

トラ「うううっ、ずぶ濡れになっちゃった……。」

トラ「んにゃ？　何だろう、ふさふさしたのが手に……。」

ティーグル「……オレだ。」

トラ「お兄ちゃん。いつの間に来てたんだー？」

ティーグル「やれやれ。オレのことに気づかないぐらい、特訓に集中していたようだな。」

ティーグル「まあいい、それより火をたいたぞ。体が冷える前にこっちに来たらどうだ？」

トラ「うん、ありがとう……。」

ティーグル「……。」

トラ「……。」

ティーグル「毎日、がんばっているそうだな。」

トラ「水に入った途端、溺れちゃうけどねー……。」

ティーグル「それでも続けるのは立派だ。」

トラ「……えへへ。」

主人公「ティーグルさん、木の枝は足りて……、」

主人公「あっ……。」

メルク「みゅ？　どうしたのです？」

主人公「……いや、今は二人にしてあげたほうがいいかなって。」

メルク「なるほど！　賛成なのですよー！」

ティーグル「旅はどうだ？　つらいことはないか？」

トラ「うん、大丈夫だよー。主人公くんたちは優しいし、見たことない場所に行くのは楽しいもん。」

ティーグル「……ということは。もうしばらく村に帰る気はなさそうだな。」

トラ「うん、まだまだ旅はこれからかなー。だって、お兄ちゃんがしてくれたことをアタシもしたいんだもん。」

ティーグル「どういう意味だ？」

トラ「お兄ちゃん、アタシのために旅に出て、干しサバとアジを持って帰ってくれたでしょ？」

ティーグル「……ああ。」

トラ「アタシね、すっごく嬉しかったんだー。魚だけじゃなくて……魚を食べている時に聞かせてくれる旅の話が。」

ティーグル「……。」

トラ「お兄ちゃんの話は、どうしてこんなに面白いんだろう？　お兄ちゃんがアタシに食べさせてくれる魚はどうして鳴きたくなるぐらい美味しいんだろう？」

トラ「そんなことを考えてるうちにね、アタシわかっちゃったんだ。面白いと美味しいの秘密にっ！」

ティーグル「大袈裟なやつだ。秘密なんて別に……、」

トラ「あるよー。だって、お兄ちゃんはアタシに食べさせたくて魚をとって来てくれたんでしょ？」

ティーグル「それはまあ……。」

トラ「だったらやっぱり、その気持ちが秘密の正体なんだよー。だからね、アタシも同じことをお兄ちゃんにしてあげたくなったの。」

ティーグル「オレがしたことを、お前が……。」

トラ「お兄ちゃんを想いながらとった海の魚はきっと美味しいよー！　楽しみにしててねっ！」

ティーグル（つい最近まで溺れて泣いてたくせに、随分と威勢のいいことを言うようになったもんだ）

トラ「んにゃ？　どうしたのー？」

ティーグル「何でもない。ただ……。海はまだはやいと思っただけだ。」

トラ「ぶしゃー！　そんなことないもん！　もっともっと特訓すれば平気だよー！」

ティーグル「かもしれないな。」

トラ「むーっ！　何か納得いかないー！」

ティーグル「怒るな、ほら……。」

トラ「にゃにゃ？　尻尾だー！　モフモフ、モフモフフカフカ……。」

ティーグル「疲れただろう？　少し休め……。」

トラ「えへへっ……。お兄ちゃんの尻尾、気持ちいいなー。」

＜川原・日中＞

トラ「イッチ、ニー、サン、シー！　体を伸ばして、体操終わりー！　よーし！　特訓開始だー！」

主人公「あれ？　トラ……一人か？」

メルク「ティーグルさんは一緒じゃないのです？」

トラ「うん、お兄ちゃんなら朝のうちに出てったよー。主人公くんたちに、よろしく言っておいてってー。」

主人公「……そうか。」

主人公（うーん……。トラのことを心配していたみたいだけど、どうしたんだろう？）

メルク（夜のうちに何かあったのです？）

トラ「にゃふふ！　聞きたいけど聞けない顔だ。」

主人公「いや、それはまあ……。仲間だし気になるというか……。」

トラ「そんじゃ、これ読んどいてー。」

メルク「手紙なのです？」

トラ「お兄ちゃんからだよっ！」

主人公「えっ？　それなのに俺たちが読んでいいのか？」

トラ「うん！　ナカマだしね！　知っておいてほしいもん！　アタシと……大切なお兄ちゃんのこと。」

メルク「わかったのです……。それでは、読ませてもらうのです。」

「その間、アタシは特訓してるねー！」

主人公「ええっと、どれどれ……。」

メルク「『魚を見つけたら深呼吸。焦らず飛び掛かり、素早く水から抜け出せばいい。』……？　これは魚とりのアドバイスなのです！」

主人公「後は励ましの言葉だな。ほら……最後のところ。」

メルク「みゅー！　『オレの妹であるお前なら出来る。魚……楽しみにしてるぞ。』と書かれているのです！」

主人公「いい兄妹だな。」

トラ「にゃー！　水なんてへっちゃらだー！　えーい！　魚とったぞーっ！」