「残痕の守護壁」アルセリア

アルセリア「……、」

主人公「あれ？アルセリアさん、どうしたんですか？そんな難しい顔をして……。」

アルセリア「む、貴公か。……実は、妹に、私には常識が欠けていると言われたのだ。」

主人公「えっ！？別にそんなことないと思いますけど……、」

アルセリア「私も同意見だ。だが先日、友からも酒の席で似たようなことを言われてしまったのだ。」

アルセリア「それゆえ、さすがに気になってな。ほら、よく言うだろう。こういうことは、おのずから気づくことは困難であると。」

主人公「まあ、確かにそうですね……。なにか心当たりはないんですか？きっかけになった出来事とか……。」

アルセリア「きっかけか……。そういえば、妹を監禁したな。」

主人公「監禁。」

アルセリア「もちろん、部屋の中は妹が喜ぶように、ふわふわのクッションや絨毯を用意した。」

主人公「いや、監禁されてる時点で喜ばないですよ！それですよ、常識がないって言われた理由！」

アルセリア「だが、仕方のないことだったのだ。」

アルセリア「妹はどれだけ言い含めても、私の言いつけに背いて、危ない森へ入ろうと、家を抜け出すし、それを止めるためには、もはや監禁するしか……。」

主人公「な、なるほど……。一応、妹さんを守るためだったんですね。」

アルセリア「そうだ。だが、確かにずっと部屋に閉じ込めておくのも忍びない。運動不足になるし、剣の腕もなまるしな。」

主人公「な、なんだ。そう思えるなら問題は……、」

アルセリア「そこで手錠を用意した。」

主人公「手錠。」

アルセリア「もちろん、手を傷つけぬよう中はふわふわで、つけていて恥ずかしくないよう、見かけを可愛らしくアレンジして……、」

主人公「そういう問題じゃない！なんで手錠をチョイス！？なんで手を繋ぐという発想に至れなかった……！？」

アルセリア「ずっと手を繋いでいると、手が汗ばんで、妹が不快に感じるかもしれないだろう。まあ、私は気にしないがな。」

主人公「そこだけ妙に常識的！？」

アルセリア「なにもおかしくはないだろう。妹が危ない真似をせぬよう、見張る必要があるのだ。１番、確実なのはずっと傍にいることだ。」

アルセリア「手錠で互いを繋いでいれば、私から逃げ出すこともできぬからな。」

主人公「そ、そりゃそうですけど……。さすがにやりすぎなんじゃ……。」

アルセリア「妹を守るために、やりすぎなどあるものか。何があろうと、あの子を、失いたくないのだ。」

主人公「アルセリアさん……、」

主人公「そうですよね……。わかりました、俺も、一刻も早く多くのモンスターを癒せるよう癒術士としてがんばって……、」

アルセリア「ゆえに、追跡機能付の特別製の服を魔法の国にツテのあるという商人に仕入れてもらった。」

主人公「あっ、はい。」

アルセリア「たしかに、ずっと姉が傍にいては、妹も友だち付き合いに困りそうだからな。だが、これで影ながら妹を見守ることができよう。」

アルセリア「このことを知れば、妹が私に気を遣いそうだからな。もちろん、内密にしてある。」

主人公「なんでドヤ顔してるんだ……。」

アルセリア「心優しく、気遣いのできるよい子なのだ。我が妹は……。」

アルセリア「しかし……、私はこんなに常識的だというのになぜ妹も友もあのようなことを言うのか……。」

主人公「常識的……。」

アルセリア「私は別に、好きで妹を監禁したわけでも楽しんで手錠を用意したわけでもないというのに……。真面目に、妹を危機から護るための最善手だと思って……。」

主人公「う、な、なんだか、そう聞くとそんなにおかしいことでもないような気が……、」

アルセリア「そうだろう。私は妹の規範たる常識を持つ者でいなければ……、」

アルセリア「む？」

アルセリア「すまぬな。妹が、安全地帯から出たようだ。私は妹を影ながら警護せねば。」

主人公「は、はい……。それじゃあ、また……。」

主人公「（独占欲が強すぎるわけでも、監禁して楽しんでるわけでもないんだよなあ……。本当に、真面目に、妹を守ろうとしてるんだ……）」

主人公「……うん！常識人だ！」

メルク「それは動機においてだけなのですよ！？」