「鎮鬼の舞い手」みわべ

紹介所のお姉さん「ふんふーん。」

メルク「みゅ、なんだかご機嫌なのですよ～。」

主人公「ご機嫌というか、浮かれてるな。」

紹介所のお姉さん「んふふ～、私にもとうとう春が来たのよ！」

メルク＆主人公「えっ。」

紹介所のお姉さん「まだ恋人にはなってないんだけど、それも時間の問題かしらね～。遠回しだけど、もう告白されたようなものだし！」

紹介所のお姉さん「私の髪の色とか服とかをよく褒めてくれて、すごく似合っていて好きだって言ってくれるの～！」

メルク「みゅ、それは脈がありそうなのですよ！」

主人公「そうか、とうとう紹介所のお姉さんにも……。なんだか感動するな。」

紹介所のお姉さん「じゃあさっそく紹介するわね！」

メルク＆主人公「えっ！？」

主人公「いや、さすがに気が早すぎるんじゃ……。」

紹介所のお姉さん「違うわよ！その人、主人公くんたちのことを探してるの。みわべさんって言うんだけど、知ってるかしら？」

(暗転)

みわべ「久方ぶりだな。またこうして見(まみ)えることが叶い、嬉しく思う。」

メルク「私たちもまた会えてうれしいのですよ～！」

主人公「しかし、まさかみわべさんと紹介所のお姉さんが……、いや、げふん、今はなにも聞くまい。」

メルク「それにしても、みわべさんも旅をしてるのですね～。私たちを旅の仲間として探していたと聞いたのです。」

主人公「どうしてまた旅を？鬼鎮めとしての仕事か何かですか？」

みわべ「いや、鬼面は姉上にお預けしている。」

メルク「みゅっ、そうなのですよ？鬼鎮めの時に、舞い手の方がつける大切な仮面と聞いていたのですが……。」

みわべ「……先の件にて、己がいかに鬼鎮めとして未熟であったかを思い染みたのだ。忸怩(じくじ)たる思いの溢れるばかりである。」

みわべ「今の己では鬼鎮めとして舞うのに不相応甚だしい。それゆえ、ひとたび鬼鎮めのお役目を離れ、己が心を鍛えるべく、修行に出ることと相成ったのだ。」

主人公「そうだったんですか……。でも……、そんな大切なたびに同行するのが俺たちで本当によかったんですか？」

みわべ「それはいかなる……、」

主人公「正直、俺たち……、」

主人公「筋肉と指輪を求める欲望にまみれてますよ。」

メルク「真面目な顔で何言ってるのですよ。」

主人公「いや、だってさあ！心を鍛えるって欲望を抑える……、みたいな感じするじゃん！」

メルク「た、たしかにそれは……。でも、指輪と筋肉を同列で語られるのはなんだか複雑な気持ちなのですよ。」

みわべ「ははは。」

メルク「みゅわー！どうして笑うのですよー！」

みわべ「あいや、失礼つかまつった。つい嬉しくなってしまったのだ。」

主人公「嬉しい？」

みわべ「仲良きことは素晴らしきかな……、むつまじき姿に、思わず笑みの溢るる。」

みわべ「……鬼鎮めとして長らく舞っていると、鬼とばかり相対し、そうした人の姿を忘れてしまう。」

みわべ「そなたたいには、時に相反しようとも、許し、慈しみ、憐れもうとする心がある。そのありようが、私の心を洗い、鍛えるのだ。」

みわべ「それゆえ、私はそなたたちと旅をしたかった。人が人であるべき姿。そうしたものを、私は己が心に刻んでゆきたい。」

メルク＆主人公「は、はあ……。」

みわべ「ははは。つまり私は、そなたたちが好きなのだ。」

メルク＆主人公「……えっ。」

みわべ「いかがした？」

主人公「あっ、いえ！いきなり言われたからびっくりして……、」

みわべ「そうであったか、だが、そなたたちはもっと愛でられてしかるべきだ。誰もそうせぬのなら、私がそうしたい。」

メルク「みゅ、みゅわー……。」

主人公「その優し気な微笑みとセリフが相まって、なんか誤解しそう……。」

メルク＆主人公「……はっ！」

(暗転)

紹介所のお姉さん「やっぱり好きって言葉は……、軽々しくいうものじゃないわよね。」

メルク「た、たそがれてるのですよ……。」

主人公「なんとなく想像はつくけど……。」

紹介所のお姉さん「ううん違うの、彼は悪くない。彼は真面目で優しい人。ただ……、すごく素直なだけ。」

紹介所のお姉さん「ぐすっ。」

メルク＆主人公「し、心中お察しします……。」