「黙視考の目々」メメララメル

メメララメル「……。」

メメララメル（ここが王国の紹介所……。様々な人間を巡り合わせる施設。神の思し召しによる、運命の出会いを導き示す場所）

メメララメル（ここに集まるのは、神の意思に導かれし者たち。であれば、私がアリスお嬢様を見つける可能性は限りなく高い……）

メメララメル（……いえ、本当にそうなのかしら？）

メメララメル（運命とは、神が人に与えた大いなる力。たとえ完全なる神の導きがあったとしても、それを受け取る私たちは不完全な存在……）

メメララメル（手に余る大きな力は、小さなはずみで世界の均衡を崩してしまう）

メメララメル（……この地は危険だわ）

メメララメル（何故なら。ここに存在するものとは、出会いと、そして……）

メメララメル（破滅）

メメララメル（……恐るべきことだわ。でも、あえて言いましょう）

メメララメル（それが何だというのかしら）

メメララメル（エデンエリス親衛隊の名に誓って、主に弓引くものは、たとえ何であろうと見逃しはしないわ。絶対に）

メメララメル（絶対によ）

メルク「あの～、さっきからずっとそこに立っているようなのですが、一体どうしたのですよ？」

メメララメル「人を捜しに来たの。主であるエデンエリスお嬢様の妹君、マギナアリスお嬢様を。」

メメララメル「ハァトやチシャもお嬢様を捜しているだろうけど、私たちは貴方がたより地上に疎いから。地上の民を頼りたいの。」

メルク「それなら、紹介所のお姉さんに聞いてみるといいのです。あそこで掃除をしている人なのですよ！」

紹介所のお姉さん「ふんふんふ～ん♪」

メメララメル「ありがとう、そうさせてもらうわ。あの女性ね。」

メメララメル（あれがこの運命と破滅の地を統べる者……、ごく一般的な地上の民の外見でありながら、その実すさまじい力を持っているようね）

紹介所のお姉さん「きゃあぁっ！」

メルク「みゅっ！？ どうしたので……、」

メルク「はっ！ あそこにいるのは、ゴキ……！」

紹介所のお姉さん「いやーっ！ 名前を呼ばないでーっ！」

メメララメル「……。」

メメララメル（この運命と破滅を統べる者を、姿だけで畏怖させ混乱をもたらす存在……。その名すら口にできぬ恐るべき使者……）

メメララメル（ゴキなんとか）

メメララメル（……大いなる力はふとしたはずみに破滅を呼ぶ。やはり、崩壊の兆しは既に訪れていたのね……？）

紹介所のお姉さん「こっちに来るわっ！」

メルク「カサカサしてるのですよーっ！」

メメララメル（ゴキなんとか……、何故、こうも懸命に地を這いつくばっているのかしら……。古の時代に、一体どれだけの大罪を犯したと言うの？）

紹介所のお姉さん「だ、誰かどうにかしてーっ！」

メメララメル（同じ地上の民を怯えさせている……。これ以上神の怒りに触れるような行いをすれば、微妙なバランスの上にあるこの施設も危ないというのに）

メメララメル（この強大な力が集まる地に崩壊が訪れれば、世界の均衡は崩れる）

メメララメル（そうなれば、天空の民の暮らす地にも影響が現れるはず。そうして全てが狂っていき、最終的に……）

メメララメル（破滅）

メメララメル「……。」

メメララメル（善き地上の民、そして我が生涯の主とその妹君に弓引く者は、たとえ破滅の使者であろうと……）

メメララメル（私が物理的に退ける）

メルク「ど、どうして弓を構えたのですよ！？」

メメララメル「私の使命を果たすためよ。」

メルク「ゴキ……を！？ まさか……、お姉さんはゴキスレイヤーだったのですよ！？」

紹介所のお姉さん「ゴキスレイヤーって何！？ 初耳よ！？」

紹介所のお姉さん「ていうかここ室内だから！ 弓はやめて、弓は！」

メメララメル「甘いわ。そんな考えでは、この施設が崩壊してしまう。」

紹介所のお姉さん「ゴキ……で！？」

メメララメル「そして、全てに破滅が訪れるわ。」

メルク「ゴキ……で！？」

メメララメル「エリスお嬢様とアリスお嬢様のため、この脅威は私が……、」

紹介所のお姉さん「ギャーッ！ みみ、見てっ！」

紹介所のお姉さん「と、飛んだわーっ！」

メメララメル「……ッ！？」

メメララメル（何……ですって？ 今、飛んだと言ったの？）

メメララメル（飛ぶ力を持っているのに、普段は地を這っている……？ 一体どうして、神の許しから遠ざかるような真似を……）

メメララメル（……いえ）

メメララメル（……神とは、許しとは、一体何なのか。この漆黒の使者は、真理を……、その問いの答えを、その身をもって探している……？）

メメララメル（……そう）

メメララメル（愚直……。文字通り、愚かしいほどまっすぐだわ。でもそれは決して、罪ではない）

メメララメル（地上には、そんな真理の求め方もあった……。そう考えることも……できるわね）

紹介所のお姉さん「何で今度は弓を構えたまま固まってるのーっ！？」

メメララメル「……。」

メルク「みゅっ？ どうして弓を下ろしたのですよ？」

メメララメル「真理よ。」

メルク「答えになってないのですよ！？」

メメララメル「……。」

紹介所のお姉さん「あっ、私の箒とちりとりを……！」

メメララメル「……去りなさい。今回だけは、見逃してあげる。」

メメララメル「……はぁっ！」

紹介所のお姉さん「ああっ！ 目にも止まらぬ箒さばき！」

メルク「飛んでいたゴキ……があっという間に外に放り出されたのですよ！」

メメララメル「……候主邸の掃除より、容易いことだわ。」

紹介所のお姉さん「ありがとう、助かったわ！ ええと……、」

メメララメル「メメララメル。どうかラメルと呼んで。」

メメララメル「ここへは、マギナアリスお嬢様を捜しにきたの。大きな角を持った、深紅の髪の女の子よ。」

メメララメル「この施設の主よ、どうかお嬢様の居場所を教えていただけないかしら。」

紹介所のお姉さん「あら、そうだったの？」

紹介所のお姉さん「うーん……、ごめんなさい。その子の居場所は分からないわ。」

メメララメル「……そう。なら、別の場所を当たらなければ……、」

メルク「ラメルさん！ ここで会ったのも何かの縁なのですよ。もしよければ、私たちと一緒に旅をするのはどうなのです？」

メルク「私たちは、旅の仲間を探していたのです。ラメルさんの、地上での人探しも手伝うのですよ！」

メメララメル「……そうね。ありがとう、そうさせてもらうわ。」

メメララメル（ありがたいことだわ。これこそまさに、神の思し召しともいうべき運命の出会い……）

メメララメル「……。」

メメララメル（つまり、この出会いは大きな力を持ち……、それだけに、破滅を招いてしまう可能性をはらんでいる……？）

メメララメル「……私たちの出会いは、運命ね。」

メルク「みゅふふ、そう言ってもらえて嬉しいのです！ これからよろしくなので……、」

メメララメル「それ故に危険もあるわ。ふとしたはずみに、破滅の使者が私たちを狙って現れるかもしれない。」

メルク「みゅ！？」

メメララメル「けれど安心して。私は必ず、主に誓って全ての脅威を退けてみせるから。」

メルク「つまりどういうことなのですよ！？」