【白猫】深淵の追撃者 Story 前編
目次
story3 戦場の霧
<帝国海軍の新造潜水艦、ドレットノート号は、
艦船を攻撃する謎の潜水艦、通称〈深海の悪魔〉を拿捕せよとの命を受け、古の海域に向かった――!>
潜水兵、戻りました。
おうおう。もどったで~。ほい、おまちかねの情報や。
助かる。
<シンは運び込まれたコンテナから、書類を取り出した。>
わしはタンクで休んどるで~。
あなたはイルカの獣人なのですか?
そのとおりや。そーいうあんたは……
人間です。――詮索はよしてください。
さよか……なんやフクザツなんやな。
<シンは書類を熱心に読んでいる。>
艦長、それは?
被害の記録だよ。これで標的の動きがわかる。
思考のクセをつかめばどんな敵であれ対処は可能だ。
相手が悪魔でも、ですか?
僕に情報をくれればね。
***
へへへ、まったくよう……さいきんはシケてやがるぜ。ヒッ!?
お前に聞きたいことがある。
だ、誰だ――!?
最近、もうかる仕事をしたらしいじゃないか。
死体を運んだだけだ――!
こんな奴か?
<人影は写真を見せた。>
そうだ、このジジイだよ……!離せ!俺が誰だと……!
もう少し、聞かせてくれ。お前に仕事を依頼した奴は?
ぐああああ!!ゆ、指がぁあ!
時間は大事にしたい。言葉は慎重に選べよ。
***
<――会議が始まった。>
事件が起こっているのは、帝国が開拓をすすめている海域ですね。
古の海域か……英雄戦争以降、物資の行き来も盛んだ。
帝国が邪魔らしいですな。だとすれば敵はやっぱり……
連邦が、ドレットノート号に匹敵する艦を持っていると?
艦長、あらゆる可能性を考慮すべきかと。
撃沈の原因はいずれも魔法による張遠隔攻撃。
今にいたるまで、敵の姿を確認した者はいない。
けったいな話やで。護衛をしたクジラの一族、何をしとったんや。
クジラたちでも、音をひろうことができなかったのか……
<クジラやイルカは、自ら発する音の反響をひろうことで、仲間と交信し、周囲の状況を把握することができる。
潜水艦もソナーという音で周囲の状況を知る装置をもっているが……
帝国海軍の主戦力である、クジラ獣人族、イルカ獣人族のそれには及ばない。
ただ一隻。ドレットノート号を除いては。>
……〈深海の悪魔〉。文字通りの悪魔ならば、一番筋が通るか――
ゾッとしますなあ……
だが、敵の襲撃にはパターンがあるらしい。
パターン……ですか?
こちらには、帝国及び友好国の航路情報がある。
ウチの船がどこの港から、どこに向かうか、わかっとるっちゅうことやな!
ここから絞り込む――次の標的を!
(……そんなことが、可能だというの……?)
story4 裏の裏
敵は帝国に対し敵意を抱く勢力と仮定してみよう。敵の狙いはどこにある?
船を出せなくなっては、海での交易に頼る帝国にとって大打撃です。
それだけじゃ、ないかな……これは周辺諸国への恫喝じゃないだろうか。
敵の狙いは、帝国の保護国を脅して、自陣営につけることだと?
僕はそう思う。
――仮に帝国の保護国が、離反するようなことがあれば、内乱および他国の介入の要因となりえます。
致命的な結果に、なるかもしれない。
愚かな行為ですね。
敵国にとっては、合理的な判断さ。
戦争は合理的ではありません。愚かの極みです。
……
…………
<深い海の底を――船影が進む。
それは、侵略者たちの船。>
ソナーに感あり、なのです。
モクヒョウ、カクニンッチュ。
さあ……侵略を始めようか。
…………
……
輸送艦、ダンスタン号……?
チャチャ島の輸送艦やで。帝国の軍艦を狙うんやないんか!?
チャチャ島は鳥人族の島。帝国の友邦です。
他にも帝国の商船やら、いろいろおるやないか。
敵はこの戦いに、他国を巻き込むつもりであると、艦長はお考えのようです。
(しかし、確証があっての判断ではない。不確実な直感に頼るとは、程度が知れますね)
艦長……ダンスタン号には帝国の駆逐艦が護衛についているようです。
……彼らにも、気づかれるなよ。
本当に来るんかいな……
艦長! ソナーに感あり! 攻撃魔法魚雷かと思われます!
来たぁ!?
まさか……! 本当に?
魔法消去魚雷発射!
<魔法を打ち消す魚雷である。同じ規模の魔法なら、確実に無効化できる。>
(どうして――敵の行動を読み切れたの――!?)
敵はこちらが対策をとるタイミングを見越している。
そしてその裏をかこうとする。追うぞ。方位0-3-0。
…………
……
敵影、発見できず……
姿を、くらました……
そうかな――
では……!?
僕らは、敵に姿をさらしたも同然。
だとしたら……!
沈めに来るぞ。
しかし……海は静かです。何も……
静かすぎないか……?
え……
誘導魔法魚雷装填。
誘導魔法魚雷……?一体、どこに向かって……?
魚雷発射。
(どうして誰も、疑問を挟まないの……!?)
<誘導魔法魚雷。誘導して敵を狙い撃つルーン魚雷である。
帝国保有の魚雷は、全てルーンエ学の産物……
ルーンによって水中を進み、ルーンによって魔法攻撃を行う。>
魚雷、消滅……艦長、これは……!
僕らの魚雷が、敵の魚雷にぶちあたったのさ。見えない魚雷にね。
魔法は万能ではありません。魔法の元となるソウルは有限。
先ほどの魚雷は、隠ぺいに魔力の大半を使っていると推定されます。だとしたら射程は長くないはず。
敵はこちらの射程内。二射目を討たれる前に、敵を捕捉する。
(――直感。いや、嗅覚で……姿なき敵の意図を読み切った。
……敵がここで他国を巻き込む戦争に切り替えてくることも、読んでいた――
クルーたちも艦長の判断を信頼している――彼らなら、私かいなくとも……)
魚雷来ました!方位1-8-0!!
背後……!?
ふ、不可能だ……背後に回り込むなんて!
(……何が、何が起こってるの?)
最大船速!
魚雷……いや、これは……デコイです!
!
<デコイとは囮のこと。魚雷にみせかけた、囮の小型魚雷――!
デコイは、音を発し、音をとらえて狙ってくる魚雷をおびきよせる。>
背後から、デコイをどうして!
(考えられない……!ここまで追い詰めておきながら、どうして!)
深海の悪魔……!!
story5 悪魔のあぎと
ドレッドノートは健在。我々には次の機会がある。
気楽にやろう。潜水艦乗りは、タフさが売りだからね。
敵はどう出るとお考えですか?
同じことを考えてるだろうさ。こちらを沈めるつもりだ。
だったらあのデコイは……
あれは文字通りの囮だよ。
囮……?
デコイが追尾してたのは、最初の魚雷だったんだ。
回り込んだように見えたのは、魚雷にそういう機動をするよう仕込んでおいたから……ですか。
いわば、ステルス魚雷を当てるための、最後の囮。
目論見は見事に外れて、本命のステルスはおじゃん、デコイだけのこのこやってきたと。
(筋は通る……でも……
何かが違う――決定的な、何かが――
だめ……このままじゃ……!
彼が死んでしまう――!
何……今のは……!?
どうしました、中尉?
いえ……なんでも、ありません。
どうします、艦長。
相手にステルス魚雷を、もうー度使わせる――
…………
……
<光射さぬ海の底――侵略者は静かに機を伺う。>
バビロンの街で、ドーナッツを買ったのです。
ドーナッツを買いにいったわけじゃないぞ。
わかってるのです。……しっかり情報を集めてきたのです。
<ネモは、写真を見ている……>
この写真の人は、誰なのです?
<バビロンで、ネモがごろつきに見せた写真である。>
あれに関わった不幸な男だ。奴らに逆らって――死んだ。
悲しい、ことなのです……
男の遺品の中に、あれの資料があった。……終わらせるぞ。
了解なのです。
……あの艦長が、俺が思う通りの男だとしたら……
アルゴノート号を、追ってくるはずなのです。
生真面目な堅物――そして現実主義者。きわめて優秀な軍人。
あいつが見ているのは……敵と味方が最善手を取り合う、そんな戦争だろう。
先にミスをしたほうが負ける。そんな戦い――
だが、浅い……そんな深度の戦いでは、アルゴノートは獲れない。
なんだか……嬉しそうなのです。
奴が気になっているのは、俺がいまどこにいるか、だな。
潜航するぞ――
story6 海底への誘い
中尉。君はどうしてこの船に?
お伝えしたと思いましたが。
個人的な理由は……? 差し支えなければ、教えてくれないかな。
(どうしてここに……?
……選択肢なんて、なかったもの……!)
私は……軍人の家系ですので。
そうだったのか。
艦長殿は?
親父が船乗りだった。あと、海が好きでね。
そんな理由で?
実際になってみると……まあ、馴染めなくてね。
艦長が?
専門用語がわからなくて、途方にくれたものだよ。
想像できません。潜水艦に乗ってない艦長なんて。
慣れたってことさ
あの時、奴は――艦の背後にいた。
――大尉もそのように、考えてらっしゃったのですか?
直感的にそう感じた。でも筋が通らない。
筋が通らないことは、起こるはずはない――
ですが……!
敵が背後にいたのなら噸どうしてドレッドノートは沈まなかったんだ。
……わかりません。
中尉……僕は<深海の悪魔>に勝てると思うか?
艦長殿なら、必ず――
今の彼では――勝てない。
彼の優しさが、彼を沈める……光無き海底に……
何なの――!?
どうした、中尉。
なんでも……ありません。
<艦内ルーンテレフォンが、コール音を発した。シンは受話器を取る。>
こちら艦長。
”艦長、潜水部隊から通信です。目標捕捉の可能性ありとのこと”
わかった、発令所に向かう。
…………
……
……フフン。イルカの耳は……ごまかされへんで!
せーかくには耳やなくて、オデコやけどなああ! イルカはオデコで音を見るんや!
<イルカは、海底に人には聞こえない超音波を発した。>
確かに<見えた>んや……潜水艦の艦影がのう!
いた! あやしい奴やで!
イルカさんなのです……
な、なんやこいつは!?
おにごっこなのです。
持てやー!! おお!? こりゃなんや!?
<イルカの目の前に、巨大な影が現れた!>
…………
……
敵を捕捉したのか!?
――こちらからはなんとも……
警戒を厳に。
潜水部隊、敵影捕捉とのこと!
誘導魔法魚雷装填!
(艦長は強い人――信頼に足る人……でも!
彼が戦っているのが……文字通りの悪魔なら!)
…………
……
<魚雷は、影に向けて進んでいく!>
どや!! これで終わりやで!!
なぁ!? こ、こいつは……!?
チュチュー!
タコスミやあ!!
残念だったのです。
…………
……
デコイか……! 方位3-0-0!!
誘導魔法魚雷装填! ……発射!!
(知っている……この感覚……
人の心が……悪意に食われていく、この感覚を!)
story7 沈め、水底へ
方位0-3-5……
音響魚雷装填。
(……いま艦長は、守勢に回ってる。
敵に泳がされている状態……このままでは、餌食になる)
音響魚雷発射。
(艦長は……おそらく今、最善の手をとってるはず。
深海の悪魔は、違う――
最善にはほど遠い――狂気さえ感じる一手で……艦長を追い詰めている)
…………
……
これは……海の中をうるさくする魚雷なのです。
この音にかくれて、むかってくるのです。でも――
――ノアは、アルゴノート号の目。
逃がさないのです――
…………
……
(どうした……撃って来い、深海の悪魔――
音響魚雷で、こちらの位置をさらしたんだ……打ち込んでこい――)
<ノアの操るくらげたちが、ドレッドノート号に電撃を見舞う!>
艦長! 計器類に異常!
(音響魚雷が裏目……バカな、すでに捕捉を――)
艦長!!モニターを!
あれは――
<モニターに映ったのは――黒い船影――
ドレッドノートとほぼ同級。破格ともいえる大型潜水艦――
モニターは、一瞬で闇に包まれる!>
なんだこりゃ、煙幕か!?
――ソナーに反応なし! あ、あれは……幻か!?
(姿を――さらした……!
どういうつもりなの……この挑発の意味は――!?)
……誘導魚雷装填。
(……大尉の心はまだ、折れてない……)
――第三戦速!
(いや、違うー大尉は……自分の心に気づいてない……
とっくに折れた心を――奮い立たせて……!)
…………
……
<ドレッドノートの周囲は――真っ黒な液体に包まれていた。>
タコスミッチュ!
目をくらますのです。
<ドレッドノートは、タコスミの中から離脱する……
だが、ドレッドノートの前には、何もない――>
あの船は……アルゴノートに似ているのです……
でも、まだ眠っているのです。眠りながら……
待っているのです。本当の目覚めを……
story8 別離の夕凪
敵影なし――
潜水部隊から受信。敵影無し!
そうか……
しばらく、お休みください。
いい。
休め、シン。
……わかった。
…………
……
ここまでなぶられたのは、虹の海以来か……
くそっ……嫌なことを思い出したな……
だが、あの操艦は……挑発的で、校猪な、あの機動――
あいつなのか!! あのイカサマ師……!
艦長……?
! 中尉……ああ、すまない。ちょっと取り乱した。
いいえ、すみません……お休みのところ……
いいんだ……
イカサマ師というのは……?
僕が、虹の海で戦った相手さ。あの時僕は艦の副長でね。
三隻の潜水艦と、駆逐艦で奴を追った……だが、落とせなかった――
僕たちが奴を沈められていたら、あの島に揚陸部隊が接岸できた。
そうしたら、悲劇が防げたかもしれない――
ウルマ島の虐殺ですね――
<虹の海を巡る帝国と連邦との戦いで起こった悲劇である。
平和だった南海の孤島は、炎に包まれ、多くの住民が犠牲となった。>
同じ気配を感じるんだ。あいつに……深海の悪魔にね……
艦長。……今のあなたでは、深海の悪魔には勝てません。
……わかっているよ。だからこそ退けない。……僕は、愚かかな。
…………
……
「僕はもう……行かなくちゃ。
僕は……僕の生まれた国を……守らないといけない。
約束するよ。いつかきっと……この海に帰ってくるって。」
愛した人は、行ってしまった。
果て無き戦いが続く、戦場に……
私は、見送ることしか――できなかった。
艦長……!
――
艦長、至急発令所に。
どうした。
救難信号です!
story9 愚か者の末路
沈んだのは、商瑚長沈んだのは、商船アーソガ号。
海上に人が投げ出されています。
すぐに救助に向かうぞ。
艦長殿。これは罠です。
その可能性は極めて高いだろう。
でしたら、考慮をしてください。
罠であるとしたら、救助に向かった我々が到達したところで魚雷を当てにくるはずだ。
魚雷の射程を考慮して、10分の余裕がある。
ですが――!
大丈夫だ。僕らならやれる。
…………
……
くそっ……この可能性を、考慮すべきだったか……
<バビロンで得た情報により、侵略者たちは、敵の概略をつかんでいた――
敵の戦力、敵の目的。しかし――>
(ここまでの非道とはな……!)
どうして船が、あんなところに……
あれは連邦の船だ――航路を変えさせたんだ――
どうして、味方を――
これが連邦のやり方だ――
助けに向かうのです。
タコツボを出すぞ。
アイアイサーッチュ!
――待っていろ、非道の報いは、俺たちの侵略だ!
…………
……
ボートに乗ってください。
た、助かった――!
急いでください! 急いで!
さあ、こっちやでー。
あと3分です。
時間がない……!
タコツボニ、ノリコムッチュ!
お手をどうぞなのです。
あらありがとね~。
タコ!? タコが救助をしてます!
……あ、ああ……? だが助かった!
コッチハマカセルッチュ!
他に要救助者はいないな……!
……がぼっ!!
こ、子供がおぼれとる!
待ってろ!!
艦長!!
…………
……
<子供を抱きかかえ、シンはボートに向けて泳ぐ――>
(もう……少し……)
<そのとき、シンは――直感した。
この敵が……何を考えているかを。>
(持てよ、海からくるとは限らないんじゃないか? 例えば空――
<空から、魔法の弾丸が降り注いだ!>
飛翔……誘導弾――!!
…………
……
急速浮上!! 魔法障壁最大!
艦長――!!
…………
……
――やけに、静かだな――
何も聞こえない……僕は……沈んでいるのか……
海の……底に……
***
そうか……
あなたは私――もう一人の――
私には――何ができるの?
…………
……
とっさに、子供をかばって……
シン……!
どうしてや……どうしてこんな!
<シンは、医務室のベッドに横たわっていた。
重傷である。>
作戦、失敗か……
うう……
艦長!?
あの子供は……
無事です。
そうか……副長。君に……指揮を引き継ぐ。
はっ。
もう、僕は……
――ポーン――
ドレッドノートが……泣いてる……?
――艦長。
中尉……殿?
いったはずです。あなたでは勝てないと。
……悪意の海の底では、常識などは通用しません。
そうらしい……僕には覚悟が足りなかった。
己の直観に賭けるそんな覚悟が。僕は――愚か者だった。
もう一度、海の底に沈む、覚悟はありますか。
覚悟――?
あなたはまだ、戦えますか。
あの悪意に挑めるなら他には何もいらない。
了解です。艦長の意向を受諾し、本官は機密情報を開示します。
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