宍戸 美鈴
Illustrator:裕
名前 | 宍戸 美鈴(ししど みれい) |
---|---|
年齢 | 元17歳 |
職業 | 音楽室の幽霊 |
目標 | 成仏すること |
CV | 原由実※デュエルで入手可能なシステムボイス |
- 2019年10月24日追加
- CRYSTAL ep.Iマップ5(PARADISE時点で235マス/累計525マス)完走で入手。<終了済>
- 入手方法:2021/12/9~2022/1/5開催の「「優しいキャロルが流れる頃には」ガチャ」<終了済>
- 対応楽曲は「レーイレーイ」。
- maimaiでらっくすSplashで開催されたイベント「かいりきベアちほー」では、対応曲とともにつあーメンバー(キャラクター)として追加された。
- ちなみに、イロドリミドリ関連以外のCHUNITHMオリジナルキャラがmaimaiに追加されるのは、新筐体移行後で初となる。
旧校舎の音楽室に住まう少女の幽霊。
宍戸 美鈴【 通常 / 光の聖歌隊 】
STORYはこの学校に通う、一人の挫折を抱えた少年の視点から語られる。
- デュエル進行中(状況:)
登場 | |
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攻撃 | |
撃破 |
- リザルト
SSS | |
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SS | |
S | |
A-AAA | |
B-BBB | |
C | |
D |
- その他(NEW~)
マップ選択 | |
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チケット選択 | |
コース選択 | |
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ソート変更 | |
クエストクリア | |
限界突破 | |
コンティニュー? | |
コンティニュー | |
終了 |
スキル
RANK | スキル |
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1 | コンボエッジ・ダブルシャープ |
5 | |
10 | |
15 |
include:共通スキル
スキルinclude:コンボエッジ・ダブルシャープ
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
スキル | Ep.1 | Ep.2 | Ep.3 | スキル |
6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
Ep.4 | Ep.5 | Ep.6 | Ep.7 | スキル |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
Ep.8 | Ep.9 | Ep.10 | Ep.11 | スキル |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
スキル |
STORY
『一度くらいは若いうちに挫折を味わっておけ』
そう大人はよく言うけれど、それはすごく身勝手な意見じゃないかと僕は思う。
“良い思い出”なんかじゃない。僕にとっては“今”なんだ。
挫折してよかった、なんて簡単に割り切れない。
校内に13もある音楽室のうち最も古い、旧校舎の一番端っこにある『第1音楽室』。
その教室で一人きり、夕日を眺めながらそんなことを考えていた。
僕が通っている高校は音大付属の名門音楽学校だ。
県内外から実力を持った生徒が集まり、日夜切磋琢磨している。
理解のある家族の協力のおかげで、一通りの楽器は習わせてもらった。
どの先生達からも期待されていたし、自身で演奏もこなす作曲家を目指す僕は、その夢が叶うと信じて疑わなかった。
だから、この学校に入学できたことは本当に幸せだった。
――先月、事故に遭うまでは。
怪我をした右手が完治するまで、約1年という宣告。
この学校に通う上で1年演奏できないのは、すなわち“脱落”したことと同じだ。
音楽学校に通っているのに楽器の練習もできず、クラスにも居場所がない。放課後、それぞれの音楽室でみんなが腕を磨く中、まっすぐ帰る気にもなれず、こうして誰も寄り付かない第1音楽室でボロボロの椅子に座ってボンヤリする毎日。
「楽器、弾きたいな……」
無意識に独り言が出てきてしまったことに自分で驚きつつ、誰かに聞かれていないか慌てて周りを見回す。
さすが不人気ナンバーワンの第1音楽室。廊下の先まで人の気配は感じられなかった。
ホッとしながら、また窓の外に広がる夕日に視線を移す。
――きっとこうやって、卒業までひとりぼっちで腐って生きていくんだ。
先の見えた高校生活。
こんなの……“良い思い出”になんかなるもんか。
第1音楽室が不人気なのは、設備が古いってことだけじゃない。
よくある七不思議のひとつみたいなもので、第1音楽室には少女の幽霊が現れる、という噂が絶えないからだ。
幸いにも僕はそういうものをまったく信じない性質だったおかげで、幽霊に怯えることもなくこうして悠々と使わせてもらってるのだけれど。
――だって、本当に幽霊や神様なんてものがいる世界だったら。
右手があっという間に治る奇跡があったっていいじゃないか。
子供じみたワガママな発想に自己嫌悪しながら、今度はわざと独り言を投げやりにつぶやいてみる。
「もうどうでもいいや。学校、やめちゃおうかな」
そんな独り言も、古い教室の壁に染み込んでいくだけで、誰にも届かないはずだった。
「やめればいいじゃない」
ビクリと肩を跳ねさせてから声のする方へ振り返ると、そこには同い年くらいの女の子が……宙に浮いていた。
とっくに代わったはずの昔使われていた旧制服。
長いストレートヘアー。
それに大きなリボンと三角巾。
「毎日毎日わざわざこんなとこに来てはウジウジウジウジ……こっちの気まで滅入ってくるわ!」
「……え? えっ、ええっ!?」
「あら? ちょっとあなた……もしかしてわたしが見えてるの?」
見えてるか見えてないかと言われたら、見えてる。
僕は目を見開いたまま、コクコクと頷いた。
「やっと話ができる人が現れたわ! この日をどれだけ待ったことか!」
「あの、その、もしかして……幽霊の方ですか?」
「ええ、その通りよ! よくぞ聞いてくれたわ! わたしは音楽室に住まうと言われる伝説の幽霊の宍戸美鈴! そうね……わたしのほうがお姉さんだから、美鈴さんって呼んでいいわ!」
幽霊の女の子――美鈴さんは、腰に手を当て仁王立ちになり、やたら自信満々にそう言い放った。
ちょこんとした小柄な女の子が精一杯胸を張っている姿を見て、思わず吹き出しそうになってしまう。
僕はこうして幽霊の女の子と出会った。
生まれて初めての心霊体験は、恐怖とはほど遠いなんだかほっこりしたものだった。
「ふぅん、事故で右手をねぇ。それは災難だったわね」
「音楽は諦めろって……そういう運命の導きなんですよ」
「もう! またそうやってウジウジして! あんまり落ち込んでると悪い霊に憑かれるわよ!」
「じ、冗談ですよね!? 幽霊に言われるとリアルすぎる……」
「大体ねぇ、こんなに清楚で可憐でかわいい女の子が、生娘のまま死んでしまったのよ? わたしのほうがかわいそうだと思わない!?」
「幽霊にしては自己評価が高い!」
美鈴さんとの会話をしていくうち、分かったことがいくつかある。
主にこの第1音楽室にいて、誰とも話せないストレス発散に時々イタズラして生徒を驚かせていたこと。
生前はこの学校の生徒で、彼女も音楽と楽器演奏を愛する少女だったということ。
そして、話ができる人が現れたのは僕が初めて、ということだった。
そんな放課後のおしゃべりがすっかり日課になって、しばらく経ったある日。
いつもより真剣な表情の美鈴さんが切り出してきた。
「あのね……わたし、成仏したいの」
「成仏、ですか?」
「もう幽霊生活は飽き飽き。こうやって話せる相手ができたから、協力してもらえば成仏できるチャンスじゃないかって」
「なるほど。そういうことなら力を貸しますよ。役に立てるかは分からないですけど」
「ありがとう。あなたならそう言ってくれると思ってたわ。尻に敷かれそうな優しい男を見分けるのは自信があるの」
「それ、褒めてないですよね?」
複雑な表情を浮かべる僕を見て、美鈴さんが笑う。
幽霊とは思えないほど血色の良い肌をさらに赤らめて、ケラケラと笑う姿を見ていると、確かに死ぬには早すぎたよなぁと思った。
「この世に何か未練があって幽霊になったというのがよくある話ですよね。それを断ち切ると成仏できたり。美鈴さんは何か未練があるんですか?」
「そうね……わたし、全国大会でも金賞確実と言われていた吹奏楽部の部長だったの。でも大会前に死んでしまったのか、実際に優勝した記憶がないの。もしかしたらそれが未練なのかも」
「ということは、吹奏楽部として全国大会で優勝すれば成仏できる、ということかぁ……」
それを聞いた美鈴さんは、途端に目を爛々と輝かせて教室中をぐるぐると舞う。
僕は、短絡的な発言をしてしまった自分をすぐに呪うことになる。
「それよ! きっとそうに違いないわ! あなた、大会で優勝しなさい! その景色を一緒に見れば成仏できるはずよ!」
「ち、ちょっと待ってください! 怪我で演奏できないのは知ってるでしょう!」
「何よ。さっき協力するって約束したじゃない。約束を破ったら首をくくって幽霊仲間になるとも言ったわ」
「そこまでは言ってない!!」
ブラックすぎる幽霊ジョークに頭を抱えながら、どうしたものかと考える。
怪我をしている僕は直接協力できないというのは本当なのだけど、実はそれ以上の問題がある。
成仏したい、という美鈴さんに伝えるにはあまりにも絶望的な事実。
だけど、隠すわけにもいかない。
僕は「あのですね……」と前置きを入れつつも、余計なことは言わず率直に伝えることにした。
「もう無いんです」
「……うん?」
「この学校に……吹奏楽部は無いんです!」
この高校にかつて吹奏楽部が存在し、しかも全国大会を何度も連覇するほどの強豪校だったというのは確かだ。
だけど数年前、これまで以上に『プロの音楽家』を育成する、という指針を打ち出してからは、部活動を重視しなくなったと聞く。
生徒達からも特に反対意見は無く、いつしか吹奏楽部は廃部になったのだった。
その分、普段から音楽漬けなせいかスポーツや他の文化系の部活はそこそこ盛んなのだけど。
唯一と言っていい成仏への道が早くも頓挫してしまった。
きっと美鈴さんはショックを受けているに違いないと思い、恐る恐る伺うように顔をあげる。
でもそこには、予想外にもあっけらかんとした表情を浮かべる美鈴さんがいた。
「何か問題があるの? 無いなら作ればいいじゃない」
そう来るとは思わなかった……。
一人じゃ部活、ましてや吹奏楽なんてできっこない。
あまりに突飛な提案に何も言えず黙ってしまった。
「言葉が足りなかったわね。決して考えもなしに言ったわけじゃないのよ」
「……はあ」
「わたしは地縛霊じゃない。気に入ってるからこの音楽室を住処にしてるだけで、校内をウロウロすることだってあるわ。そうするとね、時折見かけるのよ」
美鈴さんが見かけたもの。
それは、僕と同じように学校に居場所をなくしてしまった生徒達だという。
「怪我をしたり、人に馴染めなかったり。せっかく音楽が大好きでこの学校に来たのに暗い顔をしているのは見てられないわ。そんな子達を集めて部を作ればいいのよ」
「……確かに僕以外にもドロップアウト寸前の生徒はいます。でも、あまりにも現実的じゃなさすぎる……」
「これはわたしのお願いだから無理強いはできないわ。でも、そうやって全部諦めちゃうつもり?」
美鈴さんがまっすぐ僕を見据える。
本当に幽霊なのかと疑ってしまうほど力強さに溢れた瞳に目を奪われる。
――僕は、どうして作曲家を目指したんだっけ。
楽器を使って音を鳴らすのが楽しい。
一人でも、みんなとでも、音が混ざり合って曲になるのが楽しい。
聞いてくれる人が喜んでくれると楽しい。
いつだって楽しいことを音楽は連れてきてくれた。
だから次は、僕がその気持ちを届けたい。
そう思って目指し始めたんたんだ。
僕とは形が違っても、音楽が好きな気持ちはこの学校に通う生徒みんな同じ気持ちのはず。
「……分かりました。やるだけやってみますが、あまり期待しすぎないようにしてくださいね」
「どうかしら? あなただったら案外やれちゃいそうな気がするけどね」
そう言って、側へやってきた美鈴さんが突然僕の頭を撫でた。
驚いた僕はその場で固まってしまう。
「な、なんですか? 子供扱いしないでくださいよ……」
「いいじゃない。見た目は同い年くらいでも、実際に私のほうが何年も先輩だもの」
「そんなのズルいですよ……っていうか、幽霊って人に触れるんですね」
「ええ……今はまだ、ね」
どこか含みのある言い方が気になるけれど、それを聞く前に美鈴さんはさらに続けた。
「まだあなたの演奏は聞いたことないけれど、きっと素晴らしい音楽を生み出す人だってことは確信できるの。幽霊だからかな、魂の色が見えるというか。初めて会った時から思ってたけれど、あなたの魂とっても綺麗よ。だからわたしのワガママも聞いてくれるかなって」
いつものような子供っぽい口調とは違う、落ち着いた雰囲気で話す美鈴さんに、ドキドキしてしまう。
それと同時に、事故に遭って以来、初めて心が落ち着くのを感じていた。
たとえ幽霊でもここまで交流を深めたんだ。見て見ぬ振りはできない。
やれるだけやってみよう。
翌日から僕は、部員探しに奔走する。
ひとりの女の子のため、文字通り駆け回りながら。
初めは難航していた部員集めだったけれど、僕のように学校生活を持て余していた者だけではなく、もともと吹奏楽部に興味はあったが諦めていた者もいて、一人、二人と、一度軌道に乗ったら連鎖的に集まりだした。
半ば無理矢理推薦されて、部長に選ばれたのは発起人である僕。
さらに、多数の楽器経験や手を怪我していることもあって、生徒が指揮棒を振る“学生指揮者”まで任されることとなった。
初めはあまりの大役に尻込みしていた僕だけど、美鈴さんの叱咤激励もあってなんとか毎日頑張ってる。
「では、これで今日の練習は終わりです。各パートはそれぞれの課題をしっかり確認してください」
お疲れ様でしたの声が一斉に響き渡り、間を置かず第1音楽室は僕と美鈴さんだけになった。
やっぱり美鈴さんの姿は僕以外に見えず、練習中は僕の後ろをフワフワ漂いながら一緒に楽器隊を眺めている。
「名門音楽学校なだけはあるわね。くすぶっていても、みんな実力は確かだわ」
「うん。まだまだツメが甘いところはあるけれど、あとは練習量でどうにかなりそうです」
「それにしても、あなたの指揮だってなかなか堂に入ってきたじゃない」
「ううっ、お世辞はやめてください。僕が一番足を引っ張ってるから……もっと練習しなくちゃ」
「練習はもちろんだけど、指揮者はみんなから信頼されることが一番大切よ。少なくともそこはクリアしてるとわたしには見えるけれど。やっぱり私の、優しい男を見分ける目は間違ってなかったわね!」
ストレートに褒められて、思わず鼻の頭を掻く。
美鈴さんは当てずっぽうなことは言わない。そう言ってくれるなら素直に喜んだ方がいいのだろう。
僕は練習を通じて、美鈴さんの凄さを体感していた。
生前、強豪吹奏楽部の部長だったという実力は本物で、各パートごとの問題点や細やかな人間関係など、その都度的確なアドバイスを僕にくれた。
僕が落ち込んだ時は励ましてくれたし、嬉しいときは一緒に全力で喜んだ。
みんなの実力が高いのは間違いない。でも、僕一人じゃ絶対にここまでまとまらなかったはずだ。
なんだかちょっとズルい気もするけれど、みんなには全てが終わったあと正直に話そう。
実は、一緒に頑張っていた仲間が、もう一人いたんだよ……って。
「ねえ、もう手の怪我もだいぶ良くなったんでしょ? わたしのために何か弾いてよ」
「指も固まってるし本調子とは言えないけれど、それでもよければ」
「やったぁ! やっとあなたの演奏が聴けるのね!」
バンドにフレーズ確認のため楽器を演奏することはあっても、誰かに聴かせるための演奏は久しぶりだ。
あまり得意じゃないけれど、僕はあえてとびきりオトナな雰囲気たっぷりのジャズピアノを即興で披露した。
「全然似合わない」なんて笑ってもらおうとウケを狙ったつもりだったのに、美鈴さんは満足そうな表情を浮かべている。
「うん。やっぱり素敵。あなたの音って、こういう音だったのね」
引っ込みがつかなくなった僕は、慣れないジャズを弾き続けた。
隣には演奏に合わせて体を揺らす美鈴さん。
柔らかくて、優しい時間。
僕はこの瞬間のことを、一生忘れないと思った。
地区大会当日。
僕は人生で味わったことがないほど、ガチガチに緊張してしまっていた。
少しくぐもった演奏音が、僕らの待機する舞台裏にまで聞こえてくる。
僕たちの出番は次だ。
「どうしたのよ。あなたらしくない」
部員のみんなとは少し離れた暗がりで、手の震えを抑える僕を心配して美鈴さんが話しかけてくる。
「合奏でコンクールに出るのは初めてなんです。だから……僕が失敗したらみんなに迷惑がかかるんじゃないかって。それに、美鈴さんの夢を叶えられるか……」
「ずっと間近で練習を見てきた私には分かる。あなた達なら大丈夫」
そう言って、僕の両手を包むように握ってくれる。
ひんやりとした美鈴さんの手に余計な熱が吸い取られたみたいに、いつの間にか震えも止まっていた。
「……すごい。幽霊の不思議な能力でもあるんですか?」
「ふふふ。どうかしら。ほら、もう出番よ! 私のことは背負い込まないでいいから、思いっきり楽しんできて!」
背中を叩かれて、見送られる。
そして僕は、みんなと一緒に舞台へ向かって歩き出す――。
美鈴さんのおかげで自然体を取り戻したことで、本番はいつも通り……いや、それ以上の指揮を執ることができた。
バンドの演奏も、さすがに場慣れしているだけあって技術力をいかんなく発揮し、現時点の僕たちとしては最高の演奏だった。
結果は地区大会優勝。
落ちこぼれても名門音楽学校の矜持はなんとか保てたと思う。
僕は部員達と喜びと労いの言葉を掛け合うのも早々に、美鈴さんの元へ駆け寄る。
「優勝できたよ、美鈴さん! 次は全国大会だ!」
一緒に喜びたい。
放課後ひとり腐っていた毎日からここまできたよ、って。
だけど……地区大会を優勝できたということは“美鈴さんの夢に近づいた”ということでもあった。
「……美鈴、さん?」
美鈴さんが一生懸命何かを喋っているのは、口の動きで分かる。
だけどその声は、僕の耳に届くことはなかった。
『全国大会優勝という夢が叶いそうだから』
『成仏する時が近づいてるんだと思う』
『あなたの声は聞こえるから安心して』
いつもの第1音楽室で、ペンを走らせたノートをペラペラとめくって筆談でコミュニケーションをとる美鈴さん。
地区大会後、僕は美鈴さんの声がまったく聞こえなくなっていた。
「それにしても美鈴さん」
『なに?』
「なんだかフリップ芸人みたいですね」
目を釣り上げた美鈴さんが、体全体で怒りを表現する。
僕はそれを見て、わざとらしいくらいに大笑いした。
――悲しくなんか、ない。
この世に未練があって幽霊になってしまった人が、夢を叶えてあるべきところに還れるんだ。
もしも本当に天国と地獄があるのなら……美鈴さんはきっと天国に行けるだろう。
全国大会まであまり期間は残されていない。
たくさんの強豪校と渡り合うには、もっともっと演奏の質を高めないと。
僕達は、今まで以上に猛練習した。
美鈴さんも変わらず筆談でアドバイスをくれる。
だけど、その頻度は少しずつ減っていって、遂には一日中姿を表さない日も増え始めた。
それは、成仏が近いという予想が当たっていることを示す証拠だったけれど……
僕はあえて、気付かないフリをしていた。
みんなの前に立ち、まとめの言葉で締めて全国大会前の最後の練習が終わった。
部員全員に声をかけながら見送り、第1音楽室にはいつも通り僕と美鈴さんだけになる。
初めて出会ったときのように音楽室は夕日に照らされていて、僕は相変わらずボロボロの椅子に腰掛けた。
そんな僕に、美鈴さんが筆談ノートを見せてくる。
『週末はいよいよ全国大会ね』
「はい。なんだか全然実感湧かないけれど」
もしも今週末の大会で優勝できたら、きっと美鈴さんは消えてしまうだろう。
何度も考えて、絶対に言わないようにしようと決意した言葉。
それなのに……気づけば僕はそれを口にしてしまっていた。
「僕……美鈴さんに成仏してもらいたくないです」
美鈴さんは特に驚くこともなく、微笑んで返す。
『ありがとう。実は、わたしも同じ気持ち』
「そう、なんですか?」
『うん。ここしばらくは本当に毎日楽しくて、幽霊なのにバチが当たりそう。だからかな……』
「……?」
『あなたも気付いてるでしょう? わたしの存在がどんどん消えかかってるって。ちょっと気が早いよね』
困ったようにはにかんだ美鈴さんが肩をすくめた。
――僕だって分かっていたさ。
成仏してほしくないなんて、言っても意味のないことだって。
これは喜ばしいことなんだ。笑顔になれることなんだ。
ウジウジしていても意味がない。笑って見送らなくちゃ。
僕は立ち上がると、右手を差し出した。
美鈴さんも同じように右手を差し出してくる。
でも、握手しようとそれを掴もうとした僕が握ったのは、自分の手のひらだった。
もう、触れることもできないらしい。
「僕、みんなと一緒に金賞取ってみせます。だから……安心して成仏してください」
『楽しみにしてるわね』
それから僕たちは、すっかり空が暗くなるまで。
この短くも濃い毎日を振り返って、思い出話に花を咲かせた。
背中いっぱいに拍手を浴びながら、僕は汗だくになって肩で息をする。
目の前にはバンドのみんなのやりきった表情が並ぶ。きっと僕も同じ顔をしているはずだ。
指揮台から降りて客席に向き直り、ゆっくりとお辞儀をすると、拍手の音がよりいっそう強くなった。
全国大会での僕たちの演奏が、終わった。
全力を出しきりすぎたのか、それからしばらく間の記憶は曖昧だった。
感激しっぱなしの美鈴さんが、何度も「良い演奏だった!」と言ってくれたことは覚えているけれど、どこか足元がふわふわして現実感がない。
ようやく現実感を取り戻したのは、客席で結果を待つ僕たちが“銀賞”だと告げられた瞬間だった。
僕たちは優勝できなかった。
いくら名門音楽学校の吹奏楽部といっても、やはりこの日のために何年も入念に作り上げてきたバンドは強い。
全国の壁は厚かった。
悔しい。
確かに悔しいが、金賞をとった学校の演奏を聴いていた僕達はどこかで納得していた。
それくらい素晴らしい演奏だったから。
そして、美鈴さんのことを思う。
――優勝できなかったのなら、美鈴さんはどうなる?
もしかしたら未練が晴れなかったことで、この世への存在感が戻っているかもしれない。
きっとそうだ。そうに違いない。
また来年目指せばいい。
もう1年くらい一緒に過ごしたっていいじゃないか。
「美鈴さ……」
辺りを見回したけれど、美鈴さんの姿がない。
さっきまですぐ側にいて、いつものようにフワフワ浮いていたのに。
ステージ上から僕の学校名を呼ぶ声がする。
受賞校は代表者が表彰を受ける段取りだからだ。
部員に促されて立ち上がった僕は、ステージではなく、出口に向かって走り出した。
扉を思い切り押し開け、あっという間にコンサートホールを飛び出し道路へ出る。
――急げ、急げ!
美鈴さんがいない。
もう十分だと、満足して成仏してしまったのか。
いや……美鈴さんが黙って行くはずなんてない!
何の根拠もないけれど、僕は確信めいたものを感じて走り続ける。
あの第1音楽室へと。
誰もいないはずの第1音楽室から、ピアノの音が聞こえる。
ゼイゼイと切れる息を一旦深呼吸で整えてから、僕は扉を開けた。
「……美鈴さん」
「やっぱり来ちゃったか。でも、嬉しい」
そう言いながら、美鈴さんはピアノを弾き続ける。
この曲は、確か僕が……
「こんな感じだったわよね。あなたが前に弾いてくれた曲」
「即興だったのに、よく覚えてますね。しかも、かなり上手い」
「当然よ。わたしはこの学校の先輩なんだから」
飄々と答える美鈴さん。
聞きたいことは山ほどあるけれど、まず一番に気になることがある。
「というか、声……声が聞こえます! それにピアノにも触れて……」
「ふふっ。わたしって自分が思ってる以上に未練がましい女の子だったのかな」
僕はその言葉を聞き終えることなく駆け出して、美鈴さんを目一杯抱きしめる。
驚く美鈴さんの声にならない声を耳元で感じながら、抱きしめる腕にさらに力を込めた。
「僕、美鈴さんが好きだ! 幽霊だって構わない! ずっと側にいてほしい!」
「……わたしもあなたが好き。優しくて、行動力があって、ちょっと落ち込みやすい、そんなあなたが大好き」
「ほ、本当に?」
「ええ。本当よ」
嬉しい。
好きな人に好きだと言ってもらえるのが、こんなに嬉しいものだと知らなかった。
それなのに。
「でも……ごめんね」
「え?」
「わたし、あなたを騙してたわ。ずっと気付いてないフリをして」
向かい直って美鈴さんを正面に据えると、そこにはポロポロと涙を流す美鈴さんの顔があった。
その輪郭は光を背負ったようにおぼろげで……だんだんと透き通っていく。
「僕を騙す? それってどういう……」
「わたしの未練は“全国大会で優勝できなかったこと”じゃなかったみたい」
「……他にどんな未練が?」
「途中で分かったの。この世に残した未練は……“好きな男の子との恋が叶うこと“だって。ふふ、可愛い未練でしょう?」
「そ、それじゃあ……」
「うん……叶っちゃった。叶ってしまったら、あなたを悲しませるって分かっていたのに」
美鈴さんの透明度が増して、声も小さくなっていく。
存在が、美鈴さんが消える予兆。
「そんな……嫌だよ……まだまだ話したいことだってたくさんあるのに……」
「……これからあなたは大人になって、きっと多くの人の心を震わせる人になるわ。いつまでも幽霊と一緒にいるわけにはいかないの」
こういう時ばかり先輩ぶって、諭すように話す。
でも……そんなの聞き入れられない。
涙が、意思とは裏腹に溢れてくる。
「あなたに好きだって言ってもらえて、本当に嬉しかった。もう死んでもいいって思ったわ」
「いつも言ってるけど……全然笑えないよ……」
僕たちはお互いに涙でグシャグシャな顔のまま、大笑いした。
ひとしきり笑い終えたら、不思議とスッキリした。
僕は大切なことを何度忘れたら気が済むのか。
これは、喜ぶべきことなんだ。
「……そろそろお別れみたい」
「うん、元気で」
「あなたこそね。きっとどこかでまた会える。あなたはあなたの道を頑張って」
「分かったよ。僕なりにやってみます」
そして、美鈴さんはあっけなくいなくなった。
“第1音楽室に少女の霊が現れる”なんて噂が立つことは、きっともうないだろう。
「いやぁ、我が校の吹奏楽部の顧問にまさかあなたのような先生に来て頂けるとは!」
「後進育成も大切ですから。母校に赴任できて幸せです」
美鈴さんが成仏したあの日から十数年。僕は長年の夢を叶えて、世界中に音楽を届けていた。
トップレベルと肩を並べるための血の滲むような技術鍛錬や、最高の1曲を生み出すまでの膨大な試行錯誤。
ここまで決して平坦な道ではなかったけれど、美鈴さんがどこかで応援してくれてると思ったから頑張ることができた。
世界中を飛び回る過密スケジュールもひとまず落ち着き、僕はしばらく故郷に戻ろうと決めていた。
慣れ親しんだ土地でリフレッシュしたかったのもあるが、一番の目的は母校への恩返しだ。
「以上で説明は終わりですが……懐かしいことでしょう、校内を見て周られますか?」
「では、そうさせていただきます。あまりに変わりすぎていたらショックですが」
「ははは。もう授業も終わって放課後ですから、気兼ねなく周ってください」
あちこちから楽器の音が聞こえる本校舎を抜けると、すぐに静けさが戻ってくる。
僕の足は、まっすぐに旧校舎へと向かっていた。
正門から上がり、歩くたびに軋む廊下を進んでいく。
旧校舎といっても、まったく使われていないわけじゃないので手は加えているのだろう。
多少老朽化は進んだものの、大きな変化はなかった。
あの毎日のことは、実は全部夢だったんじゃないかと思うこともあった。
だけど、あの日復活させた吹奏楽部はずっと歴史を紡ぎ、僕はこうして講師として戻ってきた。
その事実は、夢や幻じゃない紛れもない現実だと証明してくれる。
そんなことを考えながら歩を進めていると、どこからかピアノの音が聞こえてきた。
音の出所はこの廊下の先、突き当りにある第1音楽室からだ。
鳴り続くピアノの音色は……とびきりオトナな雰囲気たっぷりのジャズピアノ。
笑いを噛み殺しながら扉を開けると、ぴたりと演奏を止めた奏者がこちらを振り向いて声を出す。
「あっ」
目の前に広がるのは、紅茶入りのカップに落っこちたみたいに、夕焼けが橙色に染め上げる教室。
そして、長いストレートヘアーに大きなリボンを付けて、ピアノの前にちょこんと座る少女。
瞬間、僕の胸は締め付けられ、息を飲む。
――大人になったこの現実のほうが夢なのではないかと、思わず錯覚してしまうほど。
もう一度会いたいと幾度となく願った変わらぬ光景。
“きっとどこかでまた会える”
そう言った美鈴さんの言葉が、頭から離れない。
「あの……大丈夫ですか?」
扉を開いたまま立ちすくんでいる僕の様子を訝しんだのか、心配そうに眉を寄せた少女が話しかけてくる。
「あ、ああ。邪魔してごめんね。僕は大丈夫だよ」
「もしかして……噂の新しい顧問の先生ですか?」
「そういうことになるね。ということは、君は吹奏楽部の子かな?」
「はい、そうです!」
勢いよく椅子から立ち上がって僕に一礼すると、屈託なく右手を差し出してくる。
僕はその手をしっかりと掴んで、握手をした。
「これからよろしくお願いします、先生」
「こちらこそよろしくね」
あの日、美鈴さんは成仏した。
泣いて笑って、天国へと還って行ったんだ。
この子は美鈴さんじゃない。今を生きる女の子だ。
でも、僕は忘れない。
あの日ここで、幽霊と――美鈴さんと恋をしていた日々のことを。
「本当に嬉しいな。うちの部って、ここ数年間良い成績を残せなかったんですけど、すごい先生が来たからには全国大会優勝間違いなしですね!」
「あはは……ちょっと期待が大きいなぁ……」
昔から抜けない悪いクセだ。ついつい弱気な言葉で返してしまう。
そんな僕に、少女は「変わってないなぁ」と呟いた。
驚く僕に、ニヤリとイタズラっぽい笑みを浮かべてから、もうひとつ。
「私の夢、今度こそ叶えてくださいね♪」
チュウニズム大戦
レーベル | 難易度 | スコア | |
---|---|---|---|
スキル名/効果/備考 | |||
●リレイ | EXPERT | 0 / 300 / 600 | |
リザルドアップ(最終点数計算時+100) | |||
最終点数計算時、上限点数が1150以上 の時発動。自分の点数を+100する。 |
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チュウニズムな名無し
842022年09月08日 22:52 ID:gs7fopxw人気キャラ投票でいい順位を残したから見にきてみてストーリーを見たらストーリー初めてうるっときてしまった
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チュウニズムな名無し
832021年12月08日 06:08 ID:e65yn5eoNEWでもポスターからしてあのトラウマレーベル続くみたいだから、今回の12月ガチャ絶対に引いてストーリーと新ビジュの二刀流にせねば(謎の使命感)
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チュウニズムな名無し
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チュウニズムな名無し
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チュウニズムな名無し
802021年06月28日 23:32 ID:dqxlj7g0新ビジュ来てほしい...
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チュウニズムな名無し
792021年06月03日 19:20 ID:hpyoo9naやあ皆!また戻ってきたのかい!?
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チュウニズムな名無し
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チュウニズムな名無し
772021年04月20日 07:57 ID:ongzdi9yストーリー見る度に泣くから美鈴ちゃんをえっちな目で見れなくなってしまう。
てか30台おじ教師×転生JK先輩ってヤバいな捗るんだが
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チュウニズムな名無し
762021年04月15日 22:29 ID:ouj1yblqおかえり
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