愛野 ヒカリ/最盛のエール
Illustrator:tonito
名前 | 愛野ヒカリ(あいの ひかり) |
---|---|
年齢 | 18歳 |
職業 | 元気な歌姫系アイドル! |
特技 | 息継ぎなしで1分「あー」と言える |
- 2021年11月4日追加
- NEW ep.I - Side.Bマップ2(進行度1/NEW時点で35マス/累計30マス*1)課題曲「STAR IN THE WORLD」クリアで入手。
縦横無尽に動き回り、はつらつな歌声が特徴の体力おばけアイドル。
愛野 ヒカリ【 通常 / 最愛の光 / サンシャインサマー / 最強の花嫁 / 最盛のエール / シャイニーフラワー 】
もはや勢いが留まるところを知らない彼女は、チアリーダーの仕事をこなすべくアメリカへ特訓する事になるのだが……?
スキル
RANK | 獲得スキルシード | 個数 |
---|---|---|
1 | 天使の息吹 | ×5 |
5 | ×1 | |
10 | ×5 | |
15 | ×1 |
スキルinclude:天使の息吹(NEW)
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
スキル | スキル | ||||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
スキル | |||||
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | |
スキル | |||||
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | |
スキル | |||||
~50 | |||||
スキル | |||||
~100 | |||||
スキル |
STORY
ウエディングドレスプロモーションイベント、『仮想新妻ヒカリの手料理御馳走会』で紅ヨロイを退けて以来、歌って踊れるだけでなく身のこなしまで超一流、さらには家庭的な一面があるギャップまでをも手にし、最強のアイドルへと一直線!
そんなヒカリの勢いは留まるところを知らない!
今や彼女は日本中から愛され、誰もが認める最強の! マッスル! DIVA! なのである!
立ちはだかる壁をことごとく粉砕し、快進撃を続けるヒカリ。
その勇姿に、彼女のマネージャーは浮かない顔を浮かべ――てはいなかった。
(僕はヒカリちゃんと行動を共にして分かったことがある。ヒカリちゃんの最大の魅力は、ファンや周りの人間を本気で想える心……即ち、愛だってことに!)
数々の試練を乗り越えてきた彼女を見て、ようやく彼はそのことに気づいたのだ。
(『体力お化け』や『マッスル・アイドル』と呼ばれようとも、ヒカリちゃんの魅力が損なわれることなんてない!)
だからこそ、マネージャーはヒカリの下に舞い込んだ新たな仕事の依頼を、二つ返事で了承した。
「ヒカリちゃん、今度のお仕事はチアリーダーだよ!」
「わぁ! 楽しそう! 私、チアリーダーなんて初めてです!」
「そうなんだ? でも、ヒカリちゃんにはピッタリだと思うよ」
ヒカリは一挙手一投足全力で、有り余る元気を放出してファンに笑顔を届けている。
そんな彼女がファンに向けてエールを送るのだ。
これ以上ないほどにマッチした仕事だろう。
「じゃあ、私さっそく練習を――」
「それについてもこっちで準備をしてある!」
「えっ、本当ですか?」
マネージャーは学んでいた。
仕事の話をしたら、きっとヒカリは暴走してまた特訓の旅に出てしまうだろう、と。
「1か月間、ある場所で特訓をしてもらおうと思ってるんだ」
「ある場所って……?」
「チアの本場、アメリカだぁぁぁっ!」
「素敵! 私また行ってみたかったんです!」
嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねるヒカリを見て、マネージャーは「うんうん」と何度も頷く。
こうして、ヒカリの新たなレッスンの日々が幕を開けるのだった。
「ん~~~、やっと着いたっ、アメリカーーー!」
マネージャーに見送られ、アメリカへと飛びたつことになったヒカリ。
飛行機で揺られること十数時間。
ヒカリ、アメリカの大地に降り立つ!
「よーし、必ずチアを極めてみせるぞー!」
意気揚々と歩を進めるヒカリ。
だが、そんな彼女の前に入国審査が立ちはだかった。
「ヘイ、ストーップ」
「はい?」
「ユーのジョブは?」
「ゆーじょぶ? 友情ってこと?」
「ノンノン、オ・シ・ゴ・ト、リッスンしてマース」
「あ、そっか! 私のお仕事はアイドルです!」
「ア、Idol? オーゥ……」
「あれ? 私、怪しまれてる?」
彼女のことを新興宗教の教祖か何かだと勘違いした審査官は、詳しく問い詰めようとまくし立てる。
そこでヒカリが導きだしたのは――
「あ、そうだ! 見てて! あ~~~~――」
なんと、その場で特技を披露し始めたのだ!
「ワーォ……!」
審査官はヒカリの特技を目の当たりにし、いたく感動。審査は無事に終了したのである!
笑顔で見送られながら、ヒカリはロビーへと向かうのだった。
「えーっと……たしか、私の名前が書かれたプラカードを持ってる人を探せって言ってたよね」
マネージャーに言われたことを思い出し、辺りを見渡してみる。
「プラカードを持ってる人がたくさん……でも、端から見てけば見つかるかな!」
ヒカリは修行で培ってきた無駄のない動きで、テキパキと確認していく。すると――
「あっ、見つけた! あの人だ!」
すぐに「ヒカリ」とカタカナで書かれたプラカードを発見。
それを掲げている、サングラスの似合う温厚そうな男性の下へ駆け寄った。
「すみませーん、あなたがコーチさんですか?」
「オーゥ、そうデース! ユーがヒカリですネー? 私のネームはトム! ヨロシクデース!」
「はいっ! よろしくお願いします!」
「私のレッスンはノットイージー! ついてこられますかー?」
「私、精一杯頑張ります!」
「オーケー! ナウ、つまり今からヒカリをハイスクールにガイドしマース!」
「わぁ! 楽しみです!」
普段とは違う土地。
胸の中がバチバチと騒ぎ出すのを感じながら、ヒカリはコーチの後を追いかけた。
「オーゥ……ミーについてくるなんて、ヒカリはタフガールネー……」
「はい! 鍛えてますから!」
空港から走ってカリフォルニアのハイスクールまでやってきた2人。
トムに校内や施設を案内されるたびに、ヒカリは目をキラキラと輝かせながら進んでいく。そして、2人はとある建物までやって来た。
「ヒカリには1か月、この寮に住んでもらいマース」
「ここがアメリカン寮! 素敵ですね!」
「荷物を置いたらチアクラブにガイドしマース。そこからユーのアメリカンドリームが始まるネー!」
「はい! 今すぐ準備しますね!」
ヒカリは居ても立ってもいられず、目にもとまらぬ速さで自分の部屋に荷物を置き、戻ってきた。
「早く行きましょう!」
トムにガイドされて、ヒカリはチアクラブがレッスンしている建物へと向かう。
中に入ると、ちょうど生徒たちが柔軟体操をしているところだった。
「ヘイ、カムトゥギャザー!」
「かむと……ギョウザ?」
トムの言葉に首を傾げている間にも、生徒たちが続々と集まってくる。
「みんなに紹介しマース。ジャパンからやってきたヒカリデース!」
「ヒカリです! チアを習いに日本から来ました! よろしくお願いします!」
ヒカリの極上スマイルは、早速クラブメイトの心を鷲掴みにしたようで、何人かは大袈裟なくらいに喜んでいて――
「ヘイ、コーチ!」
ざわついた空気がピシャリと止んだ。
クラブメイトの中心で腕組みしていた金髪の少女が、モデル顔負けの長い脚を強調するように進み出る。
「コーチ! こんな時期にクラブに加入なんて、トライアウトはどうしたデス!?」
「ヒカリは短期間のレッスンということと、これまでの経験から特別にミーが許可しマシタ! トライアウトは必要ナッシング!」
「な、なんデースと!?」
周りのクラブメイトたちも金髪の少女のリアクションを真似るような仕草で目を見開く。
「そこでヒカリには、クラブリーダーのギガと一緒にレッスンしてもらいマース!」
「ホワッツ!?」
「ギガ」が誰なのかは、一目瞭然だった。中央にいる金髪の少女こそが、ギガ本人なのだった。
続けてトムが、クラブメイトの名前を読みあげる。
「アビー、リアンナ、ジャネット! ユーたちもレッスンに協力するデース!」
呼ばれた生徒たちがギガを中心にして一列に並んだ。
左から順に、銀髪のアビー、ギガ、ドレッドヘアで褐色肌のリアンナ、そして黒髪にサングラスをかけたジャネット。
皆端正な顔立ちで、チアクラブのメンバーの中でもひときわ目立っていた人物だった。
「わぁ~! みんな可愛くてカッコイイ!」
「……レディナ・ギガよ」
「アビーなのだワ」
「アタイはリアンナだ」
「ジャネット……」
「みんな、よろしくね!」
「ガールたちはチーム・ダイアモンズ。このクラブの中でもとびきり優秀なメイトたちネー。しっかり、ヒカリをサポートしてくだサーイネー?」
「私、精一杯練習して、技を極めてみせるよ!」
「そう、素晴らしいワネ。よろしく、ヒカリ」
ギガが笑みを返すと、残りのメンバーも笑顔を浮かべる。気を良くしたヒカリがアビーたちと交流を深めようとする中、
「……チッ」
誰からともなく発せられたその声は、ヒカリたちの声にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。
ヒカリと顔合わせをした日の夜、ギガはメンバーの三人を呼びつけていた。
「トライアウトをスルーなんて優遇されすぎじゃないデース?」
「……気に入らない」
「気が合うじゃねえか。アタイもそう思ってたんだ」
「経験がどうとか言ってたけど、どうせすぐに音をあげるに決まってるのだワ」
「決まりデース。ここにヒカリの居場所はないって、ティーチしてやるデス!」
「ああ、アメリカが怖いとこだって叩きこんでやらないとな」
4人はニヤリと笑みを零す。
この瞬間から、ヒカリへの嫌がらせが決まった。
翌日。
生徒たちでごった返す通路の中心を突っ切るように、ダイアモンズが横並びで進む。
ヒエラルキーの頂点に立っているという優越感をたっぷりと味わいながら教室へと向かう。
それが彼女たちの日課だった。
しかし、今日はどこか様子がおかしい。
教室に近付くにつれ、黄色い声が聞こえてくるのだ。
「まさか――?」
「ちょ、ギガってば!?」
悪寒を感じてダッシュしたギガは、教室の前にギャザーする生徒たちの波をかき分け中に飛び込む!
「――ギョウザー!」
「ギョウザー!」
何故か「ギョウザ」という言葉で盛り上がりを見せているクラスメイトたち。
その中心では、ギガが嫌がらせをしようとしていた相手――ヒカリがいたのだ!
「かむと餃子ー!」
「ギョウザー!」
ヒカリが言葉の意味も分からずに連呼するだけで、男女構わず笑顔になっている。
ジャパンで大人気のアイドル「愛野ヒカリ」の天真爛漫さは、国境も言語の壁も、一瞬でぶち抜いてしまったのだ!
「ワーォ……これがジャパニーズ“KAWAII”なのだワ……」
「ヘイ、アビー。それ以上ヒカリになびいたらどうなるか……分かってるデス?」
アビーの肩がビクリと震えた。
「ご、ごめん……ギガ」
「あっ! ギガだ! やっほー!」
ギガたちの陰鬱なエアーが一瞬で塗り替わる。
「げっ、こっち来やがった!」
「戦略的撤退……」
「あ、待つのだワー!」
アイドルスマイル全開で駆け寄ってくるヒカリに怖気づいたリアンナ、ジャネット、アビーの3人はギガを置いて逃げ出した!
「ちょ、何勝手にエスケイプして……!」
「あれ、なんでみんな行っちゃったの?」
「……ハイ、ヒカリ。ワタシたち、ヒカリとは教室が違うデース。でも、急なタスクが入って先に教室に向かっただけデース」
「そっかぁ! じゃあ私に会いに来てくれたんだね! ありがとー!」
「ノン……そんなわけ――そうデス、そうデシタ! ねえヒカリ、あとで一緒にランチするデース」
「ほんと!? 行く行く! 絶対行くよ!」
(フフ……かかったデス!)
ギガの腹の内も知らずに、ヒカリは約束を交わす。
そして、時は流れ――ランチタイムがやってきた。
ヒカリを連れて食堂へとやって来たギガたちは、ダイアモンズ専用のテーブルに向かう。
「ここはダイアモンズのメンバーしか座れないデス。バット、ヒカリは特別デース!」
「気になってたんだけど、その“ダイアモンズ”ってなんなの?」
「ダイアモンズは、このハイスクールのトップに君臨するセレブリティ、つまり有名人なのだワ!」
「そうなんだ! ありがと、アビー!」
「か、カワ……っ」
「ヘイ、アビ~~~?」
ギガの刺すような視線と、顔がにやけそうになるのを堪えながらアビーは説明する。
「そ、それでね、ヒカリにはいつもアビーたちが食べてるお菓子を、おすそ分けしようと思うのだワ」
そう言うと、アビーがテーブルに何かを置いた。
ソレは、グルグルと渦を巻いた――真っ黒な物体。
「何……これ?」
通称、リコリス飴。
口に含んだ途端に広がる塩味と、後からやってくる強烈なアンモニア臭の絨毯爆撃が襲いかかる、悪魔的なお菓子である!
ギガたちは大袈裟なリアクションを加えながら、リコリス飴の効能を語った。
「とっても美容にいいのよ。血流を良くしてくれるし、免疫機能も向上するデース!」
「健康を維持するのも、大事だからな! ちゃーんと食べてくれよな!」
「すっごーい! アイドルにも欠かせないお菓子だ! それじゃ早速食べてみるね!」
ヒカリはなんの躊躇いもなく、リコリス飴を手に取り口へと運び――
(ププ、計画通り――デス! ジャパニーズはこの飴が苦手だってこと、Gogglesティーチャーがティーチしてくれたデス! さあ、早くワタシたちに不味そうな顔を見せるデス! ハリィ、ハリィ、ハリ……ん?)
「……おい、なんで平気なんだ?」
「処されない……」
ヒカリは顔色ひとつ変えることなく咀嚼し続け、ゴクリと飲み込んでしまったのだ!
「ん~! おいし~~! なんか変わった味だけど、これが異国の味なんだ!」
「な、なんともないデース!?」
「うん、すっごくおいしいよ!」
ヒカリはただ飲み込んだだけでなく、笑顔で応じた。
……ギガたちは知るよしもない。
ヒカリは過酷な修行の果てに、ゲテモノ料理でも昆虫料理でも平らげてしまう鋼鉄の胃袋と味覚を手にしているということを。
呆気に取られているギガたちに代わりヒカリは言う。
「みんなも食べないの?」
「ワ、ワタシは……」
「スキありー! はい、あーん!」
「むぎょ!?」
突然口の中に広がったアンモニア臭。
リコリス飴をいくつも入れられて、ギガは白目を剥いて卒倒してしまった!
「あれ? ギガ?」
「戦略的撤退……!」
ジャネットたちに運ばれていくギガ。
ヒカリは心配そうにそれを見送るのだった。
これが、アイドルファイトを生き抜いたマッスルDIVA「愛野ヒカリ」の底力!
アイドルは、戦わなければ生き残れないのだ!
更衣室に連れていかれ、すぐに意識を取り戻したギガは、そのままダイアモンズのメンバーでミーティングすることに。
「ぼっち作戦もリコリス飴作戦もやめデース。こうなったら、トレーニングでいじめ抜くデース!」
「たっぷりしごいて、バテさせるのだワ!」
「へへ、ならうってつけのモノがあるぜ!」
「分からせる……」
――作戦は放課後。
クラブ活動の時間にやって来たヒカリを、建物の入り口で待ち構えていたギガたちが捕らえる。
「ヒカリ、今日はユーにクロスカントリーをしてもらうデス」
「クロスカントリー?」
「チアにはスタミナがかかせないデス。そのために、ワタシたちは毎日ハードな運動をして鍛えてるんデース!」
腕組みする4人の中からリアンナが何かを引きずって来た。
「でもよ、ただやっても意味がないだろ? だから、ヒカリのために特別にグッドテックな物を持って来てやったぜ!」
そう言うと、ヒカリにある物を渡した。
「わ、見た目の割に重いね?」
「中に重りを仕込んだバンドだ。両手両足に10kgずつつけたまま、ヒカリにはグラウンドを走ってもらう!」
(まあ、ワタシたちのバンドに重りは入ってないのデースけど!)
「嬉しい、お揃いだね! 早速つけてみる!」
「お? おお……」
思ってたのと違うリアクションに、顔を見合わせる。
その間にもヒカリはテキパキとバンドを装着し――その場でステップを刻み始めた!
「んー、こんな感じね! かんたんかんたん!」
「ジーザス……」
「な、なんで平気な顔していられるのだワ!?」
「ファンのおじさんとキャンプした時にね、ばっちり鍛えてもらったんだ!」
「ホワッツ!? ジャパンのキャンプはゆるいんじゃなかったのだワ!?」
「ブートキャンプ……」
「ところで、みんなもつけないの? トレーニング、するんでしょ?」
「「「「え?」」」」
「早く始めようよ! ほらほらー、早くー!」
明るいテンションとは裏腹にズンッ、ズンッ、と近寄って来るヒカリの姿を見て、のちにリアンナは人類とは、進化とは一体なんなのかを己に問いかけるようになったという。
――
――――
「も、もうダメ、デス……デス……」
「ふう~~! 良い運動になったね!」
死に物狂いで走り終えた4人とは対照的に、まだまだ元気を持て余しているヒカリは、そのままその場でスクワット。
まだまだ余裕そうに笑っている。
「ねえギガ、そろそろチアの練習をしてみたいんだけど……ダメかな?」
「ま、まだ……っ、……ヒカリ、には……っ……、早いっ……デス……」
「え~~っ!?」
ゼェゼェ言いながら、せめてもの抵抗をしたいギガは苦し紛れの言いわけを並べ立てる。
「チア、には……相手の心を一発でスナイプする……精確さが――」
「あ! それなら自信あるよ! 傭兵のおじさんに鍛えてもらったからね!」
「じゃ、じゃあ……アラスカのグリズリーを倒せるくらいのワイルドさが――」
「うーん、グリズリーはないけど、大っきなイノシシを倒したことならあるよ!」
「…………」
ギガの心は、無の境地に至ろうとしていた。
このガールを、自分たちの物差しで測ろうとしたのがそもそもの間違いであったと。
「ま、まだだ……! アタイは諦めない! チアはどんな環境でも動けるタフネスが必要だ! それを今から試してやる!」
――そう言ってリアンナが案内したのは、特別荷重トレーニングルーム。
そこには、とある航空宇宙局との共同研究により実現した、室内に強烈な負荷をかけられる装置があるのだ!
「どうだ! これをクリアできなきゃ、レッスンは受けられないぜ!」
「面白そう! 入ってみるね!」
「おいおいおい、本気か!?」
「あの子、死んでしまうのだワ」
「ザッツ、グレイト……」
1ミリたりとも動じないヒカリは、バンドを装着したまま中へ入っていった。
負荷の設定は、通常の空間の30倍。
常人ならば訓練された屈強な戦士でも、10倍の段階で床に這いつくばり身動きが取れなくなる。
だが! ヒカリは! マッスルDIVAなのだ!
「アイドル、チカラ……! 3倍だあぁぁ!」
ヒカリは負荷に屈することなく、その場で直立する!
それだけではない! ヒカリは徐々に室内を動き回り始めたのだ!
「ぐッ! チアって、こんな環境でも応援しなくちゃいけない、厳しい世界なんだ!」
「…………」
今更「そんなわけあるか」とも言えない空気の中、ギガたちはヒカリの動きを目で追いかける。
「私、やっと分かったよ! チアって、こんなに楽しいんだね!」
まったく応えていないヒカリに、4人はもう嫌がらせする気すら失せてしまっていた。
彼女たちは思う。
――最初からヒカリにちゃんとしたレッスンを受けさせていれば、メンタルがブレイクしなくても済んだのに、と。
ヒカリの規格外のタフネスさを何度も目の当たりにしたダイアモンズの4人は、ヒカリをダイアモンズの5人目のメンバーとして迎え入れることに。
ギガたちに認められたことで、ヒカリはようやく本格的なレッスンが始まるんだ! と無邪気にはしゃぐのだった。
そうして迎えた翌日。
グラウンドには元気いっぱいなヒカリの姿があった。
「よーし! まずはレッスン前のクロスカントリーだったよね!?」
「待つデース! クロスカントリーはもうイナフ、つまり十分デス」
「今日からは、チアリーディングの基礎を、アビーたちがティーチするのだワ」
「そっかー、残念! また今度一緒に走ろうね!」
曖昧な返事でやり過ごした4人は、気を取り直して手にポンポンを持つ。
「といっても、ヒカリのチカラはたっぷり見させてもらったデス。きっとすぐに覚えられるはず」
ギガが「見て覚えるデス」というと、4人は等間隔で横一列に並び、全身を使って大きく、リズミカルなダンスを見せる。
一糸乱れぬその光景に、ヒカリは目を輝かせながら魅入っていた。
そして――4人はギガの合図と共に縦一列に重なるように並んでいく。その直後、先頭に立つギガが右手をグルグルと回転させながら、その動きに合わせて身体の軸はそのままに回転させた。
ワンテンポずつ遅れながら、後ろに並ぶアビーたちも追随するように回転していく。
これこそが、ハイスクール伝統のグルグルダンス!
「わぁ~! すごいすごい!」
「当然デース! ヒカリには、これをマスターしてもらいマース!」
「ヒカリの実力なら、マスターできるのだワ」
「お前ならすぐアタイらについてこられるぜ!」
「でなきゃ処す……」
「うん! 絶対にマスターするね!」
すっかりヒカリを認めたギガたちは、手取り足取りあらゆることを教えてくれる。
当初はすぐに追いつけると踏んでいたギガだったが、いくらマッスルDIVAのヒカリといえど、集団で同じ動きをするチアは、上手く揃えられない。
運動能力が高すぎるあまり、ヒカリが他人に合わせようとするのは至難の業だった。
毎日夜遅くまでレッスンをこなすヒカリだったが、その顔には納得の色はない。
「なかなか合わせられない……どうして?」
「ヒカリ、ユーは今、チアにとって大切なことを見失っている……それが何か分かるデス?」
「えっと……どんな状況でも踊りきる体力?」
「そ、それもある意味大事デスがっ! それ以上に大切なのは、元気と笑顔を相手に届けることデス!」
「あ……っ……それって!」
「もう、答えは分かったはずデス」
「うん! 分かったよ! チアもアイドルも同じ……みんなを元気にしたいって気持ちが大事なんだ!」
「そうデス! それこそが“チア・スピリッツ”!」
「ありがとう、ギガ!」
「礼はダンスをマスターしてからデス!」
「そうだね! よーし、頑張るぞー!」
それからのヒカリの成長は目を見張るものがあった。
伝統のダンスを習得しただけではなく、立て続けにアクロバティックな技まで身につけてしまったのだ!
「や、やった……! できたよーみんなーー!」
ダイアモンズは口々にヒカリを褒め称え、まるで妹のように可愛がる。
ただ一人、ギガだけを除いて。
「ギガー! どうしてこっちに来ないのー?」
「…………」
ヒカリに問われても、ギガは答えずに何故か顔を逸らしてしまう。
ギガはギガなりに、思うところがあったのだ。
そのまま去ろうとしたギガの背中に、ヒカリの声がかかる。
「ギガ」
近くに感じた声に恐る恐る振り返ると、そこには満面の笑みでギガを見つめるヒカリの姿があった。
「やっと見てくれた!」
「ヒカリ……ワタシ……」
「どうしたの?」
「ごめんなさい、ヒカリ! ワタシたち、ヒカリに初めて会った時から嫌がらせをしようとしてたデス!」
「そうなの?」
ヒカリは他のメンバーにも確認すると、肩を落として申しわけなさそうに俯いている。
「トライアウトをパスして入ってきたのが、みんな許せなかったのだワ」
「だから、追い出してやろうと思ったんだ」
「ごめん……」
「そうだったんだ……こっちこそごめんね! 私、全然気づいてなかった!」
「……そうじゃないかとは思ってたデース」
「私ね、みんなと一緒にレッスンして、みんなのことを大切な仲間で、大事な友達で、大好きー! って心から思ってるよ! みんなは違うの?」
この日一番の、とびきりに明るい笑顔。
その笑顔を見るだけで、自然と心が温かい気持ちで満たされていく。
「ワ、ワタシも、ヒカリのことが大好きデース!」
涙ぐみながら、ヒカリの胸に飛び込むギガたち。
固い絆で結ばれた5人は、これまでの想い出をかみしめるように熱い抱擁を交わすのだった。
そして――
「それじゃあ、もっともっと練習しようね! かむとギョウザー!」
「ギョウザー? 何故にホワイ?」
「元気とやる気がわいてくる言葉だよ! ほら! みんなも一緒に! かむとギョウザー!」
「「「「ギョウザー!!!!」」」」
ヒカリのかけ声と共に、右腕が高く掲げられる。
新生ダイアモンズの活動は、今ここから始まるのだ!
ヒカリのレッスンは、ついに最終日を迎えた。
この日の夕方にはカリフォルニアを発たねばならない。
そして、今正に最後のレッスンが終わり――
「やった! タイミングもバッチリだったね!」
ヒカリたちの統率されたグルグルダンスを見ようとグラウンドへ駆けつけたクラブメイトも、感極まる余り涙を浮かべている。
みんなに「ギョウザ」と連呼しながら手を振るヒカリに、ギガは言った。
「エクセレント、ヒカリ! ユーこそが、ワタシたちダイアモンズの真のリーダーにふさわしく――」
「素晴らしいネー! ミーがヒカリにティーチすることは、もう何もナッシング!」
ギガが言い終わらぬ内、突然グラウンドに響く声。
一体いつからそこにいたのか、クラブメイトの背後にトムコーチが立っていたのだ。
「コーチ!? 今までどこに行ってたデス!?」
「フレンドの手伝いでゲームを売ることになってしまってネー……しかし! 途中から草場のシャドウでユーたちのレッスンを見させてもらったヨ!」
トムは見事なサムズアップを決め、にこやかに笑う。
「立派なダンスだったネ。ユーたちは歴代最高のチームで間違いないネ! 特にヒカリ、ユーのみんなを巻き込む力は素晴らしかったヨ!」
「ありがとうございます! でも、私一人じゃここまで来られませんでした! 今の私があるのは、ギガたちのおかげです!」
心からの感謝の言葉に、ギガたちは涙を滲ませる。
尊い雰囲気に全体が包まれる中、トムが皆に聞こえるように、パンッ! と手を叩いた。
「コーチ?」
「さて、名残惜しいがヒカリとのレッスンもこれでフィニッシュ、つまり終わりデス。ヒカリにはこのまま空港に向かってもらうネー」
至るところから、ヒカリを引き留めようとする声が上がる。その落胆ぶりから、いかにクラブメイトたちにとってヒカリの存在が大きいものかは一目瞭然だった。
「ヒカリ、最後に何か皆に言うことはあるかい?」
「私は……」
少しだけ思案すると、ヒカリは一度大きく深呼吸する。
そして、ヒカリを取り囲むみんなの顔を一人一人見ながら、名前を呼び笑いかけていく。
そして、最後の一人――ギガへと向き直る。
「ギガ、ありがとう!」
「ヒ、ヒカリ……! 行かないで……!」
誰よりも泣きじゃくるギガの背中をあやすように撫でながら、ヒカリは言った。
「今日で私は日本に帰っちゃうけど、私は今日がみんなとのお別れだとは思ってないんだ」
「ヒカリ……どういうことデス?」
「だって! 私たち同じ地球に住んでるんだよ! 距離がちょっと遠くなるだけ! そうでしょ!?」
ヒカリの地球規模の考え方に、皆は神の姿を垣間見るのだった。
――こうして、ヒカリのチアリーディング修行は無事に幕を閉じた。
「ヒカリ、お前はすごい女だったぜ。このアタイが認めたんだ、誇りに思えよな?」
「うん! ありがとう、リアンナ!」
ダイアモンズは、ヒカリが飛行機に乗る直前まで見送ると言って聞かず、結局ついて来ていた。
「ヒカリのパワフルなエールなら、絶対にアメリカにいるアビーたちにも届くのだワ」
「とびきりのエールを届けるからね! アビー!」
「ヒカリ! あなたは私の太陽よ! これからはライブもイベントも、全部チェックするわ! ああ! もっと一緒にいたかった! やっぱり私も一緒に!」
「えっ……? ジャ、ジャネット!?」
「ジャネットはこう見えて隠れナード……つまり、オタクデス」
「そうだったんだ……でもその気持ち、とっても嬉しいよ! ジャネット!」
「ヒカリィィィィ! アイ、ラヴ――」
「ストーップ!」
ヒカリに抱きつこうとしたジャネットを、ギガは無理矢理引き剥がす。
「ヒカリ、ジャネットはあんなこと言ってたけど、今度はワタシたちがヒカリに会いに行く番デス」
「わぁ! 嬉しい! みんなだったらいつでも歓迎するからね!」
「た・だ・し! 少しでも腑抜けた姿を見せたら、その時は容赦しないわ、覚悟しておくデス!」
「そっちこそ! また一緒にトレーニングしよ!」
二人が堅く握手を交わしたところで、いよいよ出発の時刻が迫る。
帰路につこうとしたダイアモンズに向かって、ヒカリは大きな声で叫んだ。
「みんなー!! かむと~~!?」
『ギョウザー!!』
言葉も国も違えど、チアにかける情熱になんら違いはない。
それを確かめあった一同は、必ず全員で再会すると誓い合うのだった。
いよいよ『ヒカリのチアリーダー! 大作戦! 笑顔と元気をみんなに届けるよ! 大応援会!』の日がやってきた!
「ヒカリちゃーん、ちょっといいかな……って、ヒカリちゃん!? 何やってるの!?」
会場の控室では、時差ボケもなんのその、何故か過重トレーニングに励むヒカリの姿が。
ヒカリは、なんと今もチアリーディングの前のトレーニングが欠かせないと勘違いしていたのだ!
「あっ、マネージャー! お疲れ様です!」
「いやいや、そうじゃなくて! もう出番が近いのにどうしてそんなことするんだいっ!? どこか痛めちゃったらどうするの!?」
「それがチアですから! あ……! そういえば、チアをやるのにまだ他のメンバーがいませんけど……」
「えっ!?」
ヒカリの指摘で、マネージャーは青い顔で停止した。
イベントの手配をするのに手一杯で、他のメンバーを集めるのをうっかり忘れていたのである。
「ど、どうしよう! ヒカリちゃ~ん!」
「落ち着いてください、マネージャー! ていうか、一緒に出ます?」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! 早くメンバーを探してこないと!」
「でも今からじゃ間に合いませんよ? こうなったら私が人数分頑張って――」
「――待つデス!」
一人で悶絶するマネージャーの脇を通って、控室に続々とチア衣装をまとった少女たちが入って来る。
いつでもダンスを始められる……そんな空気をヒシヒシと感じさせていた。
「ヒカリ!」
「この声は――!!」
「ワタシたちが来たデス!」
「ダイアモンズ!! これ、夢じゃないよね!?」
「これはリアルなのだワ!」
イベント当日に、ダイアモンズが一堂に会す。
思いもよらぬ展開に、さすがのマッスルDIVAも動揺を隠せない。
「でも、どうしてここに?」
「言ったデス。今度はワタシたちが会いに行くって」
「もしかして、マネージャーが!?」
マネージャーは何も言わず、そっと親指を立てた。
――サンキュー! ナイス偶然!
「なあ、そろそろ時間じゃないか?」
「遅刻はNGなのだワ」
「ええ! ファンの人たちにヒカリの最高のダンスを見せてあげるのよ! ああ! 特等席でヒカリを見られるなんて! 幸せすぎる……!」
「ジャネット、落ち着くデス。それはそうとヒカリ、今日はしっかりとワタシたちに、いいえ、世界中のピープルに見せてあげなさい?」
一同の視線がヒカリに集まる。
「うん! この地球にいるみんなに届けるくらいの大っきな気持ちで、最っ高に盛りあがるエールを届けにいくよ!」
「フフ、それでこそヒカリデス!」
5人は頷き合うと、その場で円陣を組む。
そのまま頭を突き合わせてヒカリは大きく叫んだ。
「それじゃ行くよー! ダイアモンズ改め、ゴー! ゴー! シャイニーダイアモンズ! かむと~~!?」
『ギョウザー!!!!!』
お決まりのコールで気合を入れた5人は、お揃いの衣装と色違いのポンポンを持って、ファンが待つステージへと向かうのだった。
「――みんなー! 今日は来てくれてありがとー! この日のためにね、ちょっと前までアメリカでチアリーディングの勉強をしてきました!」
ヒカリの言葉にわき上がる観客たち。
ヒカリはその反応を楽しむようにファンの声に耳を傾けた後、ダイアモンズのメンバーを紹介していく。
「今日はアメリカで一緒に練習した大好きな仲間たちと、とびきり素敵なエールをお届けします!」
ヒカリの掛け声と共に、ダイアモンズが位置につく。
今か今かと期待に胸を膨らませるファンの顔を見て、ヒカリはとびきりの笑顔を見せた。
「みんなー! 一曲目から全力でいっちゃうよ!! 笑顔と元気がヒカリの源! このエールが、みんなの心に届きますように! みんなも私たちに負けないくらい、大っきな想いをヒカリに届けてね! それでは聞いてください!」
『STAR IN THE WORLD』!!!!!
「私の最盛のエールだよ! れっつ・にゃもー!」