ライス・エピソード・12月1日修正版
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Ⅰ目覚め
「......あれ?」
頭が急に目覚めたよう。なんだかとても...冴えた感じです。御侍さまに召喚されてから、こんな感覚は......初めてです。周りの景色がだんだんはっきりしてきました......よく見るとここは空き部屋のようです。いえ、「空き」とは少し違うかもしれません。家具も装飾もないけれど、部屋には食霊がいっぱいいます。
「え?どうなってるの......?」
さっきまで御侍さまの手伝いをしていたはずなのに、どうしてここにいるの?その間に何があったの?全然わからないからすごく怖い.......怖くて落ち着くことができません。それにもう一つ怖いのは、たくさんの食霊たちがみんなライスのことをじっと見ているのです。
「えっと......」
そうこう考えているうちに、ひとりのおとなしそうな食霊がライスの側に来て、心配そうに様子を窺ってきました。無事を確認した彼女は、ホッとしたかのようにライスに抱きついてきました。
「目覚めたのね!」
「え......?あの......その......ライスのことを知っているのですか?」
勇気を出して尋ねると、みんながざわざわし始めました。
「わたしたちのことを覚えていないの?」
「そんなわけないよ、きっと疲れているのよ」
何を言っているのかわからないけど、どうやらライスはずっとこの人たちと一緒にいたようです。でも...そんなわけない!もしかしてこれは夢......ですか?
「ラ、ライスは、あまり、あなたたちのことを、覚えていないんです.......みなさん、どこから来たのですか?」
「わたしたちはずっとここにいたけど?」
おとなしそうな食霊はライスの問いに戸惑いました。彼女は頭を傾けて少し考えてから、ライスの質問に答えてくれました。
「人間がわたしたちはここにいる方がいいと言っていたの」
「一体何のために、こんなにもたくさんの食霊が集まっているのですか?」
「しょく、れい?しょくれいってなに?」
えっ?
「食霊は......ここにいる全員のことですけど......あなたたちは知らないの...ですか?」
みんな目を丸くして首を横に振りました。
びっくりです。自分が何なのか、目の前のみんなは知らない様子です。 .......とても嘘だとも思えません。
「じ、じゃ、あなたたちは、自分がどんな、食霊なのかは......知ってます...よね?例えば、わたしはライス、あなたたちは?」
「らい......す?」
おとなしそうな食霊の反応はさっきと同じく全く要領を得ていないようです。他の食霊の顔を見ても、みんな同じ反応をしています
「えっと......じゃあ...あなたたちの名前はなんですか?」
「おれ、十一番!」
明るくて男の子らしい食霊が率先して返事をしました。それに続いて他の食霊も次々と彼らの思う「名前」を口にしました。
「七番。」
「わたしは二十五番です!」
「あたしは.....十六番......」
…………
あのおとなしそうな食霊も名乗りました
──......三十番。
どの食霊もお互いを数字でお互いを呼び合っています。しかし、これは食霊の名前ではないはずです。しかもこの変な部屋にも名前があるようです。
「マイホーム」
Ⅱ 人間さまのために
食霊がうじゃうじゃいる部屋は、ライスにとって......とてもストレスが溜まります。でも、食霊たちはストレスを感じていないようです彼らにとって、ここにいるのは当たり前のことみたいです。彼らの御侍さまはいったいなにをしているのでしょうか。みんなをこんなふうに扱ってはいけないと思います。
そう思ったとしても、ライスにはどうすることもできません。ドアがありますが、外側から鍵が掛かっています。ライスがドアを叩いただけで、食霊たちはとても怯えてしまいました。おそらく......彼らはこの部屋から出たことがなんじゃないかと思います。ある日そのドアが開けられました。ライスは立ち上がってドアを見ると、......辛そうに歩く食霊が入ってきました。
「う、うう...!」
彼女の表情はとても苦しそうです。ドアはすぐに閉じられてしまいました。その拍子に彼女は転んでしまったのです。ライスは慌てて彼女のもとへ行くと、すごい怪我をしていました。
「早く治療しないと!」
そう思ったライスが近くにいる食霊に手伝ってもらおうとしたとき、自分の手から光が現れました──霊力だ!ライスは空なのに、なぜか霊力が使えました。......それは嬉しいことだけど、とても変なことです。
彼女を治療すると、どこからか男の人の声が聞こえてきました。
「次、二十二番」
ドアが再び開きました。部屋の中にいた一人の食霊が立ちあがり、彼女はライスたちに手を振って、部屋を出て行きました。......怖がっている様子はありません。
「外では......いったいなにが起きているのでしょう?」
「みんなは人間を助けるために、実験を受けないといけないんだ」
先ほどまで怪我をしていたのに、三十番は微笑んで言いました。でも、それはいったい何の実験なんでしょうか?彼女たちにこんな重傷を負わせるなんて...…
「確かに怪我をするけど、人間のために、価値のある実験なんだ......きっと」
無理やり、彼女はこういって自分を納得させます。
「……でも例外もあるよ。噂によれば、召喚されるとき、逃げ出したものもいたみたい。どうして逃げるんだろう?人間を助けることだけが私たちの使命なのに!」
逃げるという選択のほうが正しいのかもしれない......ライスは......自分の考えを言えませんでした......。
Ⅲ 未来への憧れ
ここにどれくらい長く拘束されているのか......わかりません。窓のない部屋は、昼なのか夜なのかさえわからなくなります。
食霊たちは相変わらず実験を受け続けています......以前は実験のあと怪我はしても、ちゃんと戻ってきていたけれど......最近......実験を受けた食霊は戻ってこなくなりました。三十番によると、こんなことは自分が召喚されてから初めてのことらしいです。ライスには終わりがいつ来るのかもわかりません。
「どうして......こんなことになったの......御侍さま......」
「御侍さま?なにそれ?」
「え......あなたたちは“料理御侍”を......知らないのですか?」
同じ食霊なのに、ライス以外のみんなは食霊に関することを全く知りません。こんな環境は食堂の雰囲気とは違い......すごく...違和感があります......
時が過ぎ、部屋を出て行って帰らない食霊が多くなりました。賑やかだった部屋もとても静かになりました。この“部屋”には重い空気が漂っていますが、意見を言う食霊はいません。意見を言おうとした食霊はすでに逃げ出したのかも知ません。
「みんなはまだ帰ってこないの......?」
仲間を待っている三十番を見て、ライスがどうにかしなければと思うけど、みんなを連れて一緒に逃げることはむずかしそうです。
今できることは......彼女を慰めることだけ……
「みんなは冒険に行ったのかもしれないですよ?」
「冒険に......行った?」
「そうです......外の世界へ......行ったと思います。知っていますか?......外には、とっても広い世界が.....あります!」
この世界しか知らない食霊たちはライスの言葉に驚き、みんなそばに寄ってきました。好奇に満ちた目を前に、ライスは知っている限り、たくさんの希望を持たせてあげたい......と思いました。
「世界......ってどんな感じなの?」
「世界は......たくさんあります。......高い山、碧い海、茂る森......そして......人間と食霊がいっぱいいます......ライスたちが、一緒に暮らしている町もあります」
「人間......と一緒に暮らす?」
三十番はライスの言葉を信じられないようです。
「私たちは人間と、一緒に暮らせるの?」
「みんなは.....想像できないかもしれないけれど.....本当のことです!」
ライスは──自分が御侍さまとの生活を話した。毎日の食堂での生活や、一緒に冒険したこと、自分の宝物の思い出を、すべてみんなに話しました。
するとだんだん、みんなの目がキラキラしてきて......希望の光が見えるようになりました。
食霊たちは自分がいつか自分の料理御侍と一緒に冒険することを願っています。そして......いつか人間と一緒に暮らす日を待っています──
そんなことを望んでいた食霊たちは、男の冷たい声によって、部屋を去っていきました。
最後に残ったのはライスと三十番だけでした……
Ⅳ 準備完了
三十番と部屋の隅で寄り添い合っています。
......向かい側には食霊たちを次々と“飲み込む”ドアがあります。ライスたちは長い間会話をしていません。声を出したら、あの冷たい声で呼ばれてドアに飲み込まれそうで怖いのです。
「………………」
三十番はライスの手を強く握っています。言葉にしなくても、彼女も怖がっていることはわかっています。一人になることが怖くて......でもそれを避けることはできません──
人間のために実験を受けることを自分で決めたみたいです。だけど、自分もドアを出て行った食霊たちと同じ運命になることを恐れています。
「......あの......」
彼女はやっと声を出しました。
「本当に......外の世界はあるの?」
「本当です......」
ライスが実際に見てきたことだから、うそではありません。
「うん、信じる......でも変だね。私たちはずっとここにいたのに、あなたは外の世界で暮らしたことがあるんだね......」
「でも、あなたの”御侍さま“との生活、うらやましい......いつか私も自分の御侍さまと一緒に暮らしたいな......」
「──そろそろ時間だ。三十番、お前の番だ」
向かい側のドアは開けられました。......お別れのときがきてしまったようです......!
心が締め付けられます。ライスは三十番を見ました──彼女とはもう会えなくなります……
「.......じゃ......行くね」
彼女は立ち上がり歩き出しましたが、突然立ち止まります。ライスが彼女の手を掴んで離さないからです。彼女は驚いてライスを見ましたが、その手を振り払おうとはせず、彼女は期待を込めた目をしました。
「......三十番......逃げましょう!」
彼女はこの状況にとうとう耐えられず、ライスの胸へ飛び込んできました。
「.......うん!」
“食霊を傷付けるやつはとんでもない悪党だ!”──御侍さまはいつもそう言っていました。御侍さまの食霊なんだから、ほかの食霊も守らなきゃいけません!
「一緒に、ヒレイナへ行きましょう。御侍さまはそこにいるから......ここから逃げられれば......」
どうやって鎖を外して逃げ出すかを考えているとき、数人の人間がドアから入ってきました。
「......あなたたちは......誰ですか!」
「………………」
首領のような男は白い服を着て、金の細いめがねをかけています。一見優しそうに見えますが、目が合うと恐怖を感じずにはいられません。
「......連れて行け」
彼は静かな口調で言いました。ライスが二人を止めようとしたとき、自分が動けないことに気がつきました。
「いやだ!放して!放して!」
三十番は泣きながらもがいています。ライスに手を伸ばし助けを求めているのですが、彼らは三十番を連れ出してしまいました。ドアが閉まる瞬間、三十番は全力でライスを呼びました──
「お姉ちゃん!!!」
お......お姉ちゃん!?
「家族ごっこはもう終わりだ」
あの男は三十番の叫びにうんざりしたようですが、表情はかすかに笑っていました。
「いったい、どういうこと?あなたは誰?ここは、いったい、どこなのですか!?」
動けない体で、必死に男に言いましたが、彼は答えません。ライスの問いかけには答えず、
「理解して欲しい。実験を成功させるため、私は君たちを拘束しているのだ。人間の未来のために、君たちにはちゃんと働いてもらわないとな。さもないと、逃げたやつと同じ目にあうぞ」
「.......逃げた......やつ?」
「大丈夫だ、これまでの実験で準備はすべて完了した。核心の実験体として、これからが本番だ。」
「さぁ、実験の時間だ──二番」
Ⅴライス
「ミスラ、科学的な解釈は私には難しすぎるから、簡単にまとめてもらえる?」
「つまり、食霊の霊体は人間の生理状態を真似できる。でもそれは記憶を無理やり保存することよ。つまり、過去を忘れても、とある条件を満たしたら思い出せる......わかった?」
「ほう.......おお!そ、それは砂糖の瓶に塩を入れて、長いスプーンで食べたら、あまじょっぱい味がするってこと?」
「はぁ?」
ミスラと呼ばれる少女は軽蔑の目で目の前にいる科学が苦手な料理御侍を見た。
「とにかく、うちのライスがそんな状況に出くわしたとしたら、それは君が言っていることが原因のようだね。だよねライス?」
「………………」
「ちょっと」
「ん!?」
「ライスは君のやり方に納得している?」
「そりゃ、私のライスだし......でもなんか今変な間が?」
「.......御侍さま......ラ、ライスは、よくわからなくて......なにかを、思い出したみたいです......」
「あれ!?もしかして過去のことを!?」
ライスの話を聞いて、ミスラはとても気になったようだ。
「それで、なにを思い出したの?」
目を輝かせる二人に対して、ライスは必死に思い出そうとするも首を振った。
「......覚えていません。......ただ、今は、頭がこんがらがって......ごめん......なさい......」
「そうだね......たぶん記憶のせいじゃないかな?」
「うーん。でも怖がることはない。私がいる限り、なにがあってもお前を守ってやるから!」
「......はい!」
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