極光神境・ストーリー・サブⅣ幻境・歌舞伎町
闖入者
同じ闖入者。
夕刻
極楽
いなり寿司:鯖はどうしたんだ?
純米大吟醸:なんだあちきだけでは物足りぬのか?久しぶりに来たのに、口にするのは別の男の名前だなんて悲しいでありんす。
いなり寿司:うるさい。それとも、喧嘩をしたいのか?
純米大吟醸:まったく、相変わらず冷たいでありんす。鯖がいないからって、あちきをいじめるだなんて。折角一番上等ものを出しておもてなしをしているのに。
いなり寿司:大吟醸、わかっているとは思うが、私は殴ると言ったら本気で殴るからね。
純米大吟醸:まったく、本当につまらないでありんす。
いなり寿司:それより、来た時に面白いひとたちを見かけたよ。
純米大吟醸:ほお?
いなり寿司:見覚えのない顔だった。
純米大吟醸:この鳥かごのような小さな場所に、まだ見知らぬ者がいるとはな。確かに面白いでありんす。
いなり寿司:あら、君の人魚ちゃんが帰ってきたようね。
スッ──
鯖の一夜干し:ただいま戻りました。
純米大吟醸:流石狐だけあって鼻がいい。鯖よ、あの連中の素性はわかったか?
鯖の一夜干し:三年前の闖入者と同じかと、しかし人数は増えています。
鯖の一夜干し:ただ……彼らには以前の記憶がないようです。
いなり寿司:正体を探らせているのに、知らんぷりをしていたのか?君こそ狐だろうね。私の稲荷神社まで一緒に帰らないかい?
いなり寿司:でも、狐と言えば、もう一人いつもニコニコしている者を思い出すね、見知らぬひとがいるかどうか気にかけてくれと頼まれたの……誰だと思う?
純米大吟醸:誰だ?
道場破り
忘れられた記憶。
つじうら煎餅:はぁ……新鮮で美味しい物が食べられると思っていたのに、やっぱり……おでんさんの料理が一番美味しいね。
りんご飴:そうだね……味は薄いのにお客さんは多い、皆よく食べられるわね。
つじうら煎餅:おでんさん、早くここで店を開こうよ!絶対毎日満席になるよ!ここの料理はあなたの腕とは比べものにはならないよ!
おでん:コホンッ、皆……声をもう少し小さくしな、他のお客さんの迷惑になるだろ……
店員:おいっ!お前たち、また荒らしに来たのか!
つじうら煎餅:えっ?
店員:何をとぼけてるんだ!前と同じこと言いやがって、わざとうちの店長を怒らせに来たのか!!!
店主:皆さん、前回は確かに私の技術不足でした、私も認めます。三か月後にまた来てくださるといってたのに、二年以上も待ちましたよ。
店員:そうだそうだ!絶対にわざとだろ!うちの店長は新しく店を開いたばっかなんだ、常連も増えて来たのに、そしたらまたお前らかよ?!
店主:やれやれ、来てくださったのはありがたい事です。前回そちらのおでんさんに負けて、自分の技術はまだまだだと知りました。自分を顧みて、たくさん修行を積み、ようやく新たな店を開くことが出来たんです……
店主:え?いや、違う……まさか、おでんさんはわざわざ私に教授するために来たのか……
四十を過ぎた店主は、そう言って考え込んでしまった。神国の一行は、驚きを隠せない。
花びら餅:……この店主は、私よりもよっぽど……
りんご飴:それは別に今はどうでもいいのよ!
りんご飴:私たちはここに来たことがあるのに全く覚えていないなんて!
つじうら煎餅:何か悪い思い出があって、神子さまに消されたんだろうね……
草加煎餅:その過去を忘れる感覚が、何故か一番馴染のあるものになっています……
つじうら煎餅:でも苦しくないよ!でも、神子さまにちゃんと聞いてみないと!
抹茶:もしかしたら、神子様にはまだ伝えない方がいいかもしれません……
抹茶:納豆に伝えておきます。後で忘れても痕跡が残るように、記録者たちの特別なやり方で記録してもらいます。
話をしているうちに、皆の心の底に埋もれていた疑惑の種が、ひっそりと根を下ろしていった。
待つ
好機を待て。
同時刻
観星落
静かな和室、全てが手入れされ整然としていて、見るからに居心地の良さそうな清雅な部屋だった。
しかし神棚に映された映像は混沌としていた。点滅し、この雅な空間に幾分の古めかしさを加えた。
鯛のお造り:鉄のような心を持っていると思っていたが、やはり心配で乱れるのか……
鯛のお造り:偶然映った微かな光を見て、既に事が進んでいて、早く対処しなければ大変な事になるとわかった。
鯛のお造り:今、彼とはまったく連絡が取れなくなっている……
鯛のお造りの囁きはさざ波のように、淀んだ空気を破った。その口調には、これまで人前で出したことのない程の落胆があった。
しかし、しばらくすると、混沌を見つめていた鯛のお造りはふと息をつき、いつもの自嘲するような、のんびりとした微笑を浮かべた。
鯛のお造り:しかし、やるしかないんだ。いつまでも待っているだけじゃ、何にもならない。
鯛のお造り:こんなに待つのを苦痛に思っている私をお赤飯に知られたとしたら、笑われるかもしれないな。
鯛のお造り:これでも「吉兆」だ、運の加護がある。
鯛のお造り:この混沌の中に造化が宿っているのかもしれない……
すると、近くで白い影が浮かんでいた。近づいてみると、それは紙で作られた精巧な狐だった。
紙狐:首座様、主が「極楽」へとお招きしています。
画策
状況を破る方法。
ジジ…ジッ……
奥まった路地で、最中は手の平に走る電流を怪訝そうに眺めた。
すると、最中の手の平でぐっと炎のような、ゆらゆらとした光の玉が現れた。それは水晶玉の形に固定されていき、その中にはっきりとした像が見えてきた。
鯛のお造り:……最中!本当に会えた、貴方は「黄泉」に来ているのか?どれくらい経ったかわかるか?
最中:これは……これはどういうことだ……貴方は誰だ?どうして私の水晶玉に映っている?
鯛のお造り:取り乱してすまない。その場を離れないでくれ、私は既に歌舞伎町に向かって出発した。もしかすると、面と向かって説明できるかもしれない。
最中:失礼、知り合いなのか?一体誰なのかまず教えてくれないか。
鯛のお造り:すっかり忘れているようだね……まずは言霊の術を試してみよう……落花の如く 雲水の如く 星月の如く 雨雪の如く 風雷の如く 真を現せ──どうだ?何か思い出さないか?
最中:……鯛のお造り?私、本当に貴方に会ったことがあるような気がする……ほんの断片的なものだが……私の記憶はなんだかおかしい、どうしてかわかるか?
鯛のお造り:私もあまり多くは知らない、そうしたのはきっと「無光」の羊かんと水無月だ。私の推測が正しければ、羊かんには貴方の記憶を消し去る方法があるはずだ。
最中:それは確かに……そうかもしれない……
鯛のお造り:では、今から行ってもその術を破ることは出来ないだろうな。
最中:……一つ考えがある。
鯛のお造り:話してごらん。
希望
神国の希望。
羊かん:私は前回来なかった、まさかここが「黄泉」だったとは。しかし、あなたたちは最初からわかってたでしょう。
瓊子:……はい。
羊かん:あなたたちも私の考えを認めないのか。
羊かん:私はただ、皆がいつまでも幸せでいられる、苦しみを忘れられるような浄土があることを願っているだけだ。
瓊子:苦痛は本来命の一部であるのに、完全に切り捨てることは出来ません……
天沼:結局は幻を創っただけにすぎません。ひとは自分の宿命から逃げるのではなく、背負っていくものです……
羊かん:ならば、どうして二つ目の大陸を創ったのだ?
天沼:……
瓊子:だから、私たちは取り返したいのです……
瓊子:新しい希望を勝ち取るためであって……今のまま、閉じ込めることではない……
羊かん:これ以上議論はしたくない。二人の方法は失敗だと事実が証明してくれた。
羊かん:二度と取り返しのつかない決定をしないで欲しい。
羊かん:もし本当にやむを得ない場合になれば、あなたたちも眠らせるまで。
天沼:……
羊かん:ただ……彼らが神国を破壊しない限り、私は「黄泉」を封鎖したりしない。
羊かん:適任者がいれば、「神国」に入る機会を与えよう。
羊かん:あなたたちの考えとは違う。封鎖することではなく、新しい希望を創り出すんだ。
一杯のラーメン
あたたかな味。
目の前にあるラーメンは、一見するとたいしたことはないが、よく見るとその精妙さが伺える。
おでんもどうして突然今の状況になったのかわからない。さっきまで子どもたちを連れて街をぶらつき、食べ物を食べていただけだったのに。
それが今、ラーメン屋の店主と対決することになるとは。
ただし、そのラーメンは店主が作ったのではなく、通りすがりの娘が作った物だ。
豚骨ラーメン:まさか散歩に出ただけで、旧知に会うとはな。
豚骨ラーメン:旧知に頼まれたからには断れないが、ただ対決は御免だ。
豚骨ラーメン:こんラーメンに満足しとってくれるなら、今後もうこん店にちょっかいば出さないでいただきたか。
おでん:……そんなつもりは……
つじうら煎餅:ちょっかいなんて出してないよ!店主に腕がないからって、応援を頼むなんて、恥ずかしくないの?!
うな丼:お嬢ちゃん、可愛いのに言葉はキツイでござる……この店主は二年も待ったと言っていただろう、先に約束を破ったのはそちらではないのか?
店主:兄ちゃんありがとう。私の腕は確かにまだまだだ、しかしどうしてもここの美味しいもんを食べていって欲しかったんだ。だから嬢ちゃんにお願いして、作ってもらったのさ。
つじうら煎餅:だけど……
おでん:煎餅ちゃん、約束を忘れたあたしたちに非がある、店長は無実だ。
つじうら煎餅:ふんっ!おでんさんのために言ってるのに!あなたより美味しいラーメンを作れるひとがいるなんて、信じられない!
うな丼:ほら、美味しいかどうか、食べてみたらわかる。
つじうら煎餅:食べない!
うな丼:おや、ビビっているのか?
つじうら煎餅:……
しばらくして、ラーメンをスープごと完食したつじうら煎餅は、何とも言えない表情を浮かべていた。
うな丼:どうだった?美味しかったか?
つじうら煎餅:確かに美味しかった……だけどうちのおでんさんは何を作っても美味しいんだよ!
カランッ──
豚骨ラーメン:お嬢ちゃん、美味しい物は競うためにあるんじゃない、食べるためにあるんだ。
豚骨ラーメン:美食ば愛するもん同士、これからは仲よくしよう。
豚骨ラーメン:いっぱい作ったから、皆も食べてくれ。
緊張していた雰囲気は、湯気の中に溶けていく。おでんは次々とラーメンを出してくる女性とふと目が合った。
激しい滝が広い湖に落ち、飛沫を上げた後静けさを取り戻すかのように、二人はお互い笑顔を浮かべた。
おでんが笑いながら視線を逸らすと、横で彼の前に置いてあるラーメンをじーっと見て葛藤しているつじうら煎餅に気付いた。
おでん:どうした?
つじうら煎餅:きょ……今日はいっぱい歩いたから、お腹が空いたの……も、もう一杯食べてもいい?
引き伸ばし
依然として繫華綺麗なまま。
歌舞伎町の景色がいくら賑やかだとしても、所詮一つの大通りに過ぎない。
神国の食霊たちは一通り見て回った後、集合して帰ろうとしていた。
その時、街角から悠遠な曲が流れて来た。その独自な旋律が一行の興味を引いた。
すると、正装した人々が、灯火を掲げて出てきた。
人々の後ろ、美しいひとがまるで流星が流れるように、花火が咲くように、皆の前に現れた。
りんご飴:わあ、綺麗なおじさんね!
純米大吟醸:……
純米大吟醸は口から出そうになっていた言葉を呑み込んで、笑顔を取り繕った。
純米大吟醸:ここにいる者たちは皆よく知っている、しかしぬしらは見ない顔だな。
抹茶:貴方は……
純米大吟醸:来た者は皆客でありんす。もし時間があるなら、是非うちの「極楽」に寄っていくといい、招待してやろう。
伝説
気の小さい女の子。
夜
極楽中庭
純米大吟醸と自称する綺麗な食霊は、神国の民たちを「極楽」へと招いたが、何故か「能」という演目を見せていた。
舞台には興味がないつじうら煎餅は皆が見入っているのをいいことに、こっそり抜け出した。中庭を通る時、隅で毬を持って、ブツブツと呟いている人影を見た。
つじうら煎餅:一人で遊んでて楽しいの?
つじうら煎餅が声を掛けると、その人影の姿はなくなった。残された毬はぽんぽんと弾んだ後、廊下の影にまで転がっていった。
つじうら煎餅:あれ?さっきまで誰かいたはずだけど……
つじうら煎餅:早く出て来て、一緒に遊ぼうよ。
つじうら煎餅:出てこないと……この毬を持ってっちゃうよ!あれ、全然出て来ないね……かくれんぼってこと?得意だよ!
つじうら煎餅:じゃああたしが先に鬼をやるね、捕まえてやる……へへっ、楽しいなー落雁姉さんと遊ぶより楽しいかも。
つじうら煎餅は地面に落ちている毬を拾い上げると、細長い紙を一枚取り出した。それを見た後、ニヤニヤしながら花壇の近くまで行き、突然しゃがんで草花をかき分けた。
つじうら煎餅:みーつけたっ!
???:うわっ!
つじうら煎餅:えっ、逃げないで逃げないで、噛んだりしないよー隠れてもしょうがないんだからね、あたしは神仙ちゃんなんだから、どこに隠れても見つけられるよー!
???:そっ、そうなんですか?
つじうら煎餅:あれー話し方まで落雁姉さんにそっくりだー名前はなんて言うの?あとで落雁姉さんに紹介してあげるよ!
???:だ、大丈夫です……怖がりなので……
つじうら煎餅:えっ?こんなに小さい子がここで働いているの?あの綺麗なおじさんは、良い人じゃないのかな?
???:いいえ……大吟醸様はわたしと御侍様の命の恩人です。そのお返しをするためにここで働いているのです。しかし、お客さんとお話が出来なくて……
???:なのに、大吟醸様はわたしを見捨てず、ここにいさせてくれています……もっと頑張らなきゃ……でも、たくさんの人を見ると本当に怖くて……
???:ちゃんとしたいのに……身体が言うことを聞かない、隠したくなるんです。大勢のお客さんを見ただけで、緊張しちゃいます……
???:わたしもどうしていいかわかりません……
つじうら煎餅:一回落ち着いて!……落雁姉さんとの違いをやっと見つけたよ、姉さんあなたみたいにどばーって喋らない!
つじうら煎餅:きっと、知り合いが少ないからひとが怖いんだね!あたしはつじうら煎餅!これから一緒に遊ぼうよ!いっぱいお友だちを紹介してあげる!
???:いっぱい……ひと……いや、やめて……
つじうら煎餅:えっ?どうしてまた隠れてるの!
交換
報酬と交換。
夜
極楽
鯛のお造り:彼らはどこにいる?
純米大吟醸:これはこれは珍客でありんす。我らが観星落の首座さまを、このように慌てさせる者がいるとはね。
鯛のお造り:腹の内を探るのはもうよそう、単刀直入に言おうか。
いなり寿司:あら、狐だと思ったらまるでどこかの坊ちゃんみたいじゃない。どう返事したらいいのやら。
鯛のお造り:いなり、天下が乱れるようにとばかり望む性分は、変わりないようだね。
いなり寿司:ふふっ、いつも嘘か誠かよくわからない言葉ばかり言っているのに、ちょっと変わったようね。
純米大吟醸:腹を割って話すつもりなら、もう回りくどい話はやめよう。首座さま、あやつらは既に引き留めてあります。しかし、あちきに何の報酬をくれるつもりだ?
純米大吟醸:欲しいものは特にないでありんす。ただ情報は気になる、例えば「瓊勾玉」の在り処とか。きっと前に言ったみたいに壊れたとかではないでありんしょう。
鯛のお造り:やっぱり知っていたのか。
鯛のお造り:桜の島を壊滅させる狂気の計画よりも、私には新しい方法がある。
いなり寿司:それは部外者たちと関係があるのか?
鯛のお造り:話が長くなる……
純米大吟醸:ではゆっくり聞くとしよう、あちきの店の酒は美味しいからね。
鯛のお造り:酒に酔ったら変な事を言いかねない。
純米大吟醸:まさか、こんなに面白い事とこんな面白いひとたちに、また何度も会いたいでありんす。
純米大吟醸:まあ、日が経てば、情報は勝手に舞い込んでくるでありんしょう。誰の耳に入っても、あちきは対処しない。
鯛のお造り:それは、問題ない。
鯛のお造り:希望なんて、月のように触れられないものなのかと思っていた。
鯛のお造り:今、本当に触れられると言ったら?しかし、もしかするとぬか喜びの可能性もある、本当に知りたいのか?
純米大吟醸:希望ね……ますます面白くなったでありんす。
いなり寿司:こんな面白い事なら、首を突っ込まなきゃもったいないよ。
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