ウィアード カーニバルナイト・ストーリー・第四章-腐れ縁
第四章-腐れ縁
腐れ縁Ⅰ
君が言うなら、信じる。
「カーニバル」地下1階
「マジックケイヴ」
ガナッシュ:はぁ……少しだけって言ってたじゃん、どうしてまだ帰って来ないの……
ガナッシュ:早くケンカしたい……違う……早く殴られたい……
ガナッシュ:レッドベルベット、早く帰って来て……
ギシッーー
レッドベルベットケーキ:ガナッシュちゃん!お待たせ〜!
ガナッシュ:おかえりー!相手は?!「コロシアム」を貸してあげたら、ケンカ出来る相手を連れて来てくれるって言ったよね!
レッドベルベットケーキ:もちろん!嘘なんてつかないわ!ほら、彼だよ〜
ペルセベ:はぁ?!
ガナッシュ:アンタか……アハハハッ!最高!痛くしてくれそう!早く!早く「コロシアム」に行こう!今すぐ!
ペルセベ:あぁ?あっちから出たばっか……っておいっ!俺様に飛び乗るな!
少年がぶら下がってきた事で慌てふためくペルセベを外に押し出し、レッドベルベットケーキは笑顔でドアを閉めた。そして、肩の荷が下りたかのように手を叩く。
レッドベルベットケーキ:野次馬は少ない方が良いでしょ?だからどっか行ってもらった。感謝しなくていいわ、これからビクター帝国と何か商談出来ると嬉しいわね〜
ポロンカリストゥス:ふふっ、商談?そんな事より……「カーニバル」と「クルーズ船のオークション」について内緒にして欲しいんじゃないの?
レッドベルベットケーキ:あら、流石最強情報官、全部知ってたのね!
ポロンカリストゥス:……会って欲しい相手はどこ?
アクタック:ここに。
ポロンカリストゥス:……
アクタック:とぼけるな、私だと見当ついていただろう。懐かしい事を思い出した気分は?
ポロンカリストゥス:……まさか、ここまで落ちぶれているとは。
アクタック:エクティスの村人たちを唆して私をナイフラストに売り払った時点で、こんな日がいつか来ると、思っていただろう?
その言葉を聞いて、ポロンカリストゥスはぎこちない表情を浮かべた。しかしすぐにいつもの笑顔に隠されてしまう。だがこの笑顔は、いつもの物に比べてもっと冷たかった。
ポロンカリストゥス:彼はどこにいる?
アクタック:どうして彼を探すんだ?
ポロンカリストゥス:じゃあ、君はどうして彼を隠しているんだ?ビクター帝国の敵を匿って、どうなるかわかっているのか?
アクタック:知らない、興味もない。
ポロンカリストゥス:……一体何がしたいんだ?私に復讐か?
アクタック:彼を守りたいだけだ。
ポロンカリストゥス:……君は私の事を変態殺人鬼かなんかだと思っているのか?
アクタック:今更エクティスの村人たちを殺したのは貴方じゃないって言いたいのか?
ポロンカリストゥス:……
ポロンカリストゥス:そもそも、私ではない。
彼は肩をすくめた。
ポロンカリストゥス:信じるか信じないかは君たち次第だ、あの人たちは彼らが熱愛していた呪いによって殺されたんだ。
キビヤック:じゃあ……俺の御侍は?
ポロンカリストゥス:……
ポロンカリストゥスは遂に笑顔の仮面を外した。彼は真顔で暗がりから出て来た青年を見て、青年の頬についた氷を見た。
キビヤック:俺の御侍は……君が殺したのか?
ポロンカリストゥス:違うって言ったら、信じるのか?
キビヤック:信じる。君がそう言うのなら、信じる。
ポロンカリストゥス:ハッ……だから……
ポロンカリストゥス:君のそういうところが嫌いなんだ。
腐れ縁Ⅱ
処刑と生贄。
数十年前
エクティス
住民A:食霊だ!三人目の食霊が誕生した!
住民B:村長が召喚したんだ!良かった!これで救われる!
住民A:これは海神様からの恩賜だ!生贄を差し出したエクティスへの贈り物だ!
住民B:早く!早く始めよう!
コンッ!
召喚されたばかりの食霊はまだ目も開けていないのに、後頭部に猛烈な一撃を食らった。そして天地が逆転し、彼は自分がまな板の上に押し付けられ、首筋には鋭利な刀が添えられている事に気付く。
ポロンカリストゥス:……これは……
住民A:お腹が空いて死にそうだ……早く……ニコラス、それはあんたの食霊だ!早くそれの肉を切れ!
住民B:それの肉を食うんだ!
ポロンカリストゥス:まっ……待ってくれ!
窒息しそうな程の寒気が首筋から全身に伝わり、食霊は慄き、声までも震えていた。彼は自分の目が黒い布に覆われているのを感じ、一縷の可能性に気付いた……
処刑される様子を自分に見せようとしないこの者たちには、もしかしたら……ほんの少しだけ憐れみの心を持っているかもしれないと。
ポロンカリストゥス:私の体はこの一つしかない、一気に食べてしまったらなくなってしまうだろう?!いっそ……
彼自身もどうしてこんな扱いをされているのかわからない、この人間たちが本当に自分の肉を食べようとしているのかも……ただ、この時彼の心の中には一つの思いしかなかった……
生きろ。
ポロンカリストゥス:私の角を食べたらどうだ!すり潰して粉にすれば腹が脹れる上に病気も治せる!私の角はまた生えてくるから、長く食べられるんだ!
彼は震えながら叫ぶと、沈黙が続いた。自分の命はここまでかと思ったその時、救いの手は差し伸べられた。
リナ:……彼を解放しなさい。
年老いた声だが、異常に優しかった。彼は自分を縛る物が外されるのを感じ、やっと光を見れると思ったその瞬間、どこからともなく手が伸びて彼の目を覆った。
ポロンカリストゥス:えっ、なっ、なに……
キビヤック:まだ開けないで。雪で……目が焼ける……
ポロンカリストゥス:……
その手は彼の目が外界からの強い光によって傷つかないように、強く覆っていた。冷たいそれから、何故だか温もりを感じた。
しかしエクティスでは、温もりだけでは生きて行けない。
ポロンカリストゥス:私は混沌から来たんだ。そこの私に言った、エクティスは海神に呪われているって。
住民A:呪い?なんだそれは?
ポロンカリストゥス:さあ?少しでも神への敬意を忘れたら、怒らせてしまうかもしれないね。海神様がお怒りだから、エクティスは今みたいになったんだ。
住民A:じゃあ……海神様にエクティスを許してもらうには、どうしたらいいんだ?
ポロンカリストゥス:生贄。
ポロンカリストゥス:海神様に生贄を捧げれば、エクティスは少しだけ暖かくなるだろうね。信じないのなら、試してみたら?
バシャンッーー
住民A:ほっ、本当に少し暖かくなったような気がする……
住民B :彼が言っていた事は本当だったんだ!エクティスは、エクティスは救われる!
ポロンカリストゥス:バカだな……本当な訳がないじゃん……でも……
彼は仲間を氷海に突き落とした恐怖と後ろめたさで体が熱くなる村民たちを見て、少しだけ痛みが和らいだ角を触り、思わず次の嘘を口にした。
ポロンカリストゥス:呪いを解きたければ……私の事をどう扱えばいいか、わかるよね?
彼はボロ切れだらけの寝床に座り、血まみれの角の痛みを耐えながら、笑ってこう言った。
ポロンカリストゥス:鹿角粉ばかり食べて、もう飽きたんじゃない?雪の上で狩りをするより、冰の下の方が食料が多いんじゃないかな。
住民A:それはそうだが、冰の下まで潜って魚を獲れる者なんて……こんなに寒いのに……
住民B:フンッ、飢え死にする前に凍死するよ。
ポロンカリストゥス:食霊は簡単には死なない。例えばあのキビヤックは、魚を獲るのが上手そうだね……
彼はエクティスに来てからもう長い、寒さにはもうとっくに慣れていた。声はもう震えたりはしないが、この言葉を口にした時、何故だか心臓の方が震えた……
ポロンカリストゥス:彼はずっと海の中にいても凍死したりはしない、どうしてエクティスのために彼に尽力してもらわないんだ?
彼は村民たちに囲まれたキビヤックを見つめる。ここに生まれた最初の食霊、彼は守られてきたのに、今や深淵に突き落とされそうになっている。
彼はキビヤックは反抗すると思っていた、少なくとも怒ると、しかし……
キビヤック:わかった。
バシャンッーー
彼は水しぶきを見て、口角が震え、泣き顔よりも不格好な笑顔を浮かべた。
腐れ縁Ⅲ
呪いを掛けたのは……君か?
ポロンカリストゥス:彼は拒否せず、本当に飛び込んだ、しかもその後1回も陸に上げる事はなかった!実にバカだろう?
アクタック:……貴方が飛べと言ったんだろう?
ポロンカリストゥス:私がこうしろと言ったら、彼は従わなければならないのか?どうして?彼にとって私は一体何なんだ?
アクタック:何でもいいだろう……私の仕事はまだ終わっていないんだ、遊びたいだけなら他をあたれ、邪魔をするな。
ポロンカリストゥスはやっと仲間が何をやっているのか気付いた、そして突然驚きの表情を見せる。
ポロンカリストゥス:こんなにたくさんの魚、全部君一人で処理しているのか?
アクタック:誰かさんが食霊は疲れないと言ったからな、こんなのだって朝飯前だろう?
ポロンカリストゥス:ふふっ、やりたくないのなら私に良いアイデアがあるよ。お互いの御侍を殺して、一緒に逃げ出さない?
アクタック:こんな事を私に言って、私が告げ口をしないとでも?
ポロンカリストゥス:うん。だって、今のところあのバカ共は私の言葉を信じてくれるでしょう。
アクタック:……諦めろ。貴方の御侍であるニコラスは良い人だ、私は彼を傷つけたりはしない。
ポロンカリストゥス:良い人だからこそ、早くここから解放されて欲しいんだ……
アクタック:……
空気が固まったかのように、二人は考え込んだ。そして、ポロンカリストゥスが沈黙を破る。
ポロンカリストゥス:キビヤックの奴は善良そうな顔をしているけど、あれは演技だと思うか?
アクタック:?
ポロンカリストゥス:彼はこんな方法で死を恐れる私を嘲笑っているんじゃないのか?それとも私が彼に感謝すると、彼に手を差し伸べると本気で信じているのか?
ポロンカリストゥス:ああ、わかった。あいつは私に借りを作って、私を苦しめようとしているのか!私は誰かに借りを作るのが一番嫌いだからな!
アクタック:……彼がこんな事を考えているとは思えないが、君が本当にそう思っているのなら、どうして本人に直接聞かないんだ?
ポロンカリストゥス:……行けばいいだろう!
あの頃のポロンカリストゥスはまだ遠謀深慮という言葉を知らない、少し衝動的だった。仲間の言葉を聞くと、すぐに氷海へと向かった。
ポロンカリストゥス:どうして了承したんだ?
キビヤック:何?
ポロンカリストゥス:どうして海に飛び込む事を了承したんだ?寒くないのか?休みたくないのか?
キビヤック:休みたい、だけど……
ポロンカリストゥス:上がれ。
キビヤック:えっ?
ポロンカリストゥス:上がれ!
キビヤック:ダ、ダメ……
ポロンカリストゥス:どうして?ここには君と私しかいない、それとも本当に海神の呪いがあると思っているのか?
彼はそう言いながら強引にキビヤックを海から引っ張り上げた。しかし、猛烈に拒否され、冷たい水しぶきが彼の顔に掛かる。
一部の水しぶきが鋭い氷の刃となり、ポロンカリストゥスの頬を掠め、細く深い血痕を残した。
キビヤック:ごっ、ごめん……だいじょう……
ポロンカリストゥス:……やっぱり、エクティスを呪う海神は……
ポロンカリストゥス:君の事なんだろう?
キビヤック:……
腐れ縁Ⅳ
生きろ。
始まり
エクティス
ここには広大な海があった。
果ても底も見えない、まるで人間が立ち入る事を拒否しているかのようだ。
しかしある時、帆船が流れ着いた。
リナ:船は……もうすぐ沈んでしまうわ……
キビヤック:……
リナ:キビヤック、行きなさい。
キビヤック:で、でも……
リナ:貴方は食霊だから、無事ここから離れられるはず……死に行く私たちの姿は見ないで欲しい。
キビヤック:……
船上にいる男たちは必死で浸水した帆船を立て直そうとしている、しかしもう手遅れだった。キビヤックは赤ん坊を抱いて甲板に座るリナを見て、拳を握りしめる。
キビヤック:君たちに、死んで欲しくない。
リナ:私も死にたくないわ……でも天災は無情よ、運命は私たちをこの死地に送った、ここからどう生きればいいの?私には思いつかないわ……
キビヤック:俺は君たちを助けられる、でも一定の代価を……払わないといけない。
リナ:本当に?お願い、生きられるのなら、どんな代価だって払うわ!
キビヤック:……わかった。
バシャンッーー
食霊は海に飛び込んだ、水しぶきと落水の音は絶望した人たちを惹きつけた。だがすぐに、周りの変化に気付きその目には希望が灯る。
氷だ。食霊が落ちた場所以外、海面には分厚い氷の層が出来ていた。帆船の水漏れも止まった、冰に乗ったからだ。
リナ:助かった……キビヤック、ありがとう!私たちを助けてくれて、本当にありがとう!
キビヤック:大丈夫……船を少し解体して、海鳥を捕まえて焼いて食べよう。
リナ:そうね!船はまだ使えそうだし、一先ず簡易的な家も建てておかないと。皆の体力が回復したら、すぐにここから離れよう。
キビヤック:いえ……
しかし。
住民A:海で漂流してからどれだけ経ったと思っているんだ?!他の大陸まで歩くなんて不可能だ!ここから離れられない!
住民B:正直、私はここから離れたくない、今の生活も悪くないでしょう?仕事をする必要もない、貴族たちの犬になって生きるよりも幸せじゃない?
リナ:でも子どもたちには教育が必要だし、病気になる人だって……
住民B:子どもは親が教育すればいいよ、病気になった人たちは……
住民A:自然淘汰だ、気にするな。子どもは生まれるし、人間はこうやって生きてきたのだろう?
リナ:なっ……そっ、そんな事?!
住民A:余計な事を言うな。狩りも針仕事も出来ない貴方の話を私たちが聞いているのは、貴方には食霊がいるからだ。
住民B:安心して、その食霊が海を凍らせ続けてくれて、狩りを続けてくれたら、貴方はのんびりと生きて行けるわ。これだけは保証してあげる。
住民A:あと……貴方の子どもと死にかけの旦那もな。
リナ:!
リナは遠くを見つめた、そこにはエクティスのために忙しなく働くキビヤックの姿があった。そして彼女の傍には、まだ幼い子どもと寒さによって病に掛かった伴侶がいた。
リナ:……
最終的に、彼女は何も言わず残る事を選んだ。そして、いつしかここ一帯はエクティスと呼ばれるようになり、針仕事も覚えて、村の中で一番年上の老人となった頃……
エクティスは再び危機に面したのだ。
住民A:どうしたんだ?最近鳥の姿が見えないな。
住民B:子供たちはよく食べるのに、鳥は全部食べ切ってしまったのかしら……
住民A:……釣り竿も動きがないようだ。
住民B:当たり前でしょう、餌もつけないで釣れる訳がないじゃない。
住民A:じゃあどうしろってんだ?!このままじゃ全員餓死するぞ!
住民B:……昨日、また誰かが食霊を召喚したらしいね。
住民A:そうだ、私たちの仲間じゃないし、食霊に海の中で食べ物を探してもらおう。
住民B:それか……直接食べちゃう?人間と見た目は似ているけど、味は……
住民A:しょうがない、私たちが……生きて行くためなんだ。
腐れ縁Ⅴ
氷雪が歴史を埋める。
ポロンカリストゥス:で、私の所に来たと?
リナ:……私のかつての友人たちはエクティスの起源をひた隠しにしてきた、だから今の子どもたちはここがただの海だったという事を知らない。彼らは増していく寒さによって生活が苦しくなっていると、おかしくなっていくと思っている、だけど……
リナ:エクティスが寒くないと、私たちは生きて行けない。この海に生贄を捧げるから、私たちは呪いを受けるのだ!
ポロンカリストゥス:……どうしてこんな話を私に?
リナ:……どうか、キビヤックを救ってあげて欲しいんだ。
ポロンカリストゥス:救う?彼は元気そうじゃないか、少なくとも私よりはな。
彼はまだ血が滲む自分の角を指差した。
リナ:貴方への仕打ちを申し訳なく思っている、だけど……少なくとも今村民たちはもう貴方を傷つけたりはしない、でもキビヤックは……
リナ:エクティスはどんどん暖かくなってきている、彼は力を頻繁に使わないと氷を維持出来ないんだ……それに村民に気付かれてしまったら、きっと敵と見なされて殺されてしまう。
ポロンカリストゥス:普通の人間が食霊を脅かせるとは思えない、それに彼の御侍として貴方が傍にいればいいだろう。
リナ:ダメだ……貴方はキビヤックの性格を知らないんだ。村人たちが彼を殺そうとしても、彼は反抗したりはしない。
リナ:私の夫……キビヤックはずっと彼のせいで夫が死んだと思っている。例え私たちが一度も彼のせいにしていなくとも、彼は償おうとしている……自分を犠牲にしてもだ。
ポロンカリストゥス:……本当に善人なんだな。
リナ:いや、キビヤックはただ……
ポロンカリストゥス:いえ、君の事を言っているんだ。優しすぎやしないか?私の理解が正しければ、君があの者たちに生きる希望を与えたのに、奴らは君の家族を人質に脅したという事だろう?恨んだりしていないのか?
リナ:だから貴方に頼みに来た。
リナ:私も彼らを恨んでいる、だから貴方の事を理解できるし、信じられる……生贄として海に突き落とされた人たちを……こっそり助け出しているのでしょう?
ポロンカリストゥス:……
リナ:彼らは貴方と同じで、捨てられた可哀想な人たちで、何の罪もないから。貴方は優しい子だ……そんな目じゃ、騙せないよ。
ポロンカリストゥス:……どうして欲しい?
リナ:キビヤックを連れてエクティスを離れて欲しい。そうすればここは再び海となって、村民たちは海底に沈むだろう。
ポロンカリストゥス:……君も?
リナ:そうだ。
ポロンカリストゥスは再びリナを見た。彼女の目にはどうしようも出来ない無力さと、若い頃の強さがあった。
リナ:私は長くエクティスに縛られて来た……ここはまさに呪いだ、未知と未来に怯える人たちを閉じ込めた……
リナ:人間の現実逃避は、呪いをより強固なものにする……彼らを解放する時が来たのだ。
リナ:どうか、助けてはくれないか?
ポロンカリストゥス:……
ポロンカリストゥス:断れる訳がないだろう?一つ借りがあるからな。
彼は自分が召喚された日の事を突然思い出した、冰のように冷たい刃と温かな手を。
ポロンカリストゥス:君も一緒に連れて行けるかもしれない。
リナ:いいんだ。私もキビヤックを傷つけたり罪人だ、それ相応の罰を受けるべきだ、それに……
リナ:もう、家族に会いたいんだ。
リナがいなくなるまで、老いているが強い背中を見つめ続けた。氷雪は歴史の欠片を覆い隠す。
彼が彼女を見たのは、これが最後だった。
腐れ縁Ⅵ
落とし穴。
ポロンカリストゥス:……事の顛末はこうだ。
キビヤック:リナに約束したんだな……俺をエクティスから出すと……
ポロンカリストゥス:そして、狂った村民たちに罰を与えた。まあ、全員が海に沈んだ訳でない。
キビヤック:?
ポロンカリストゥス:君の所に行く前に、村民たちに全てを話した。早くエクティスから出ないと、死ぬと。
ポロンカリストゥス:たまたま、村での私の人望が一番高かった頃だったから、彼らはエクティスが海になる前に離れたよ。今も辛い日々を送っているだろうけど、あの頃よりはましなはずだ。
キビヤック:じゃあ……俺を殺しに来た訳じゃないの?
ポロンカリストゥス:正しくは、まだ私が知っているキビヤックであるなら、殺さない、だ。
キビヤック:どういう……意味?
ポロンカリストゥス:……何も変わってないみたいだな、バカでムカつく。
キビヤック:……
アクタック:つまり、貴方がもし凶悪犯になっていたら、ビクター帝国と忠実な僕として、彼は貴方を殺さなければならない。
アクタック:フンッ!せっかく支配から逃れたのに、主を変えただけか?
ポロンカリストゥス:君に私をとやかく言う資格はないだろう、君もこの「カーニバル」でひとの下でバイトをしているじゃないか。
アクタック:「カーニバル」は違う。
ポロンカリストゥス:どうでもいい。聞きたい事は全部聞いたよね?私が任務を遂行する時間だ……
キビヤック:えっ……でも……
レッドベルベットケーキ:まず彼のご主人様の了承を得ないとダメよ〜
レッドベルベットケーキ:残念ながら、このお兄さんは既にあたしの商品
になっているわ!連れて行きたいなら、お金を払ってもらわないと〜
ポロンカリストゥス:……いくらだ?
やむを得ない表情を浮かべている相手を前に、レッドベルベットケーキの顔は一層綻び、ドヤ顔で指を5本出して揺らした。
レッドベルベットケーキ:そうね、これでどうかしら〜
ポロンカリストゥス:……さようなら。
レッドベルベットケーキ:えー?!彼の事はもういらないの?!
ポロンカリストゥス:ぼったくりだろう、「学校」にこんな高い資源は必要ない。
レッドベルベットケーキ:はぁ、残念……あなたの負けよ。
レッドベルベットケーキ:お客様、先程が最後の試練でした、しかし残念ながら失敗してしまいました!
レッドベルベットケーキ:罰として、あたしの商品になりなさい〜!
ポロンカリストゥス:くっ……!
急いで任務を遂行しようとしたため、ポロンカリストゥスはすぐに異変に気付けなかった。背後から煙が漂って来ているのに気付いた頃、彼はもう床に倒れてしまっている。
レッドベルベットケーキ:ナイス!愛しのシナモンロール、流石だわ〜!
シナモンロール:うぅ……これが最後ですよ!何を言っても、もう二度とこんな事に香料を使わせません!
レッドベルベットケーキ:もちろん、約束するわ〜
レッドベルベットケーキ:シーザーちゃん、早く二人を倉庫に閉じ込めて、お金をたんまり稼ごうじゃない〜!
シーザーサラダ:お金なんてどうでもいい、早く退勤したい……乗れ。
ポロンカリストゥス:うぅ……
力は抜けているが、まだ意識は保っているようだ。ポロンカリストゥスは自分が台車に乗せられている事に気付いているが、抵抗しようにもどうにもならなかった。
キビヤック:ご、ごめんなさい……
ポロンカリストゥス:(どうして、またそんな顔を……君の謝罪なんて必要ない……)
意識を失う寸前、ポロンカリストゥスは心配そうな彼の顔と長年隠し続けた本音だけが脳裏に浮かんだ。
腐れ縁Ⅶ
借りは作らない。
「カーニバル」地下1階
倉庫
薄暗い中、二つの視線はぶつかり合いお互いを見つめる。
ポロンカリストゥス:……
キビヤック:……
ポロンカリストゥス:で、どうしてナイフラストに来たんだ?
キビヤック:……ま、迷って……
ポロンカリストゥス:は?!迷子?!ただの迷子?!
キビヤック:……
何も変わっていないキビヤックを見て、ポロンカリストゥスは何回目なのかもう数えられないため息をついた。落ち着く体勢に換えて、食霊のために作られた檻をなでる。
ポロンカリストゥス:エクティスを恨んだ事はないのか?
キビヤック:……ない。
キビヤック:全て、自分で決めた事だから。彼らが最終的にあんなに狂ってしまったのは、俺のせい、俺が止めなかったから……
ポロンカリストゥス:彼らは家畜じゃない、手も足も脳ミソもある。君が止めないと、何をしてはいけないかすらわからないと思っているのか?
キビヤック:わからない……でも、理解したい……許したいんだ……
キビヤック:人間と食霊は違う、限られた命を大切にする、そしてそれのためなら全てを捧げられる……彼らは勇敢で知恵もある、ただ、道を間違えてしまっただけ。
ポロンカリストゥス:じゃあ、私は?
キビヤック:……君?
ポロンカリストゥス:……
キビヤック:……恨んでないよ。君は生きるために、そうしただけ……彼らが自分でそうしたんだ。
ポロンカリストゥス:……じゃあどうして私を避ける?
ポロンカリストゥス:あの頃は何も怖くなかっただろう?どうして今になって死を恐れる?それに、どうしてあいつの言葉は信じるのに、私の言葉は聞かないんだ?
キビヤック:死ぬのが怖い訳じゃない、ただ……本当に俺を殺す必要があるなら、困らせたくない。
キビヤック:君を信じていない訳でもない、ただ……君は何も話してくれないから……
ポロンカリストゥス:……
キビヤック:エクティスにいた時、君は辛かっただろう。でも俺の助けは必要ないってそれだけ、他は何も言ってくれない……だから、俺は何も出来なかった。
ポロンカリストゥス:……村民に復讐する以外に、あの頃の君に何が出来るんだ?本当の所、何も考えてなかっただろう……
キビヤック:君を助けたかった。
ポロンカリストゥス:……
人々は彼の罠にハマらないよう努力して彼に接する、彼をどうしたら潰せるかしか考えない。もし敵がいなければ、彼も戦う必要はないんだと、誰もそんな事は考えた事がなかった。
彼自身も数多な危機に面していると誰も考えた事はない……今まで、誰一人として。
ポロンカリストゥス:……無差別に親切を振りまく者は偽善者と言うんだ、知っているか?
キビヤック:誰にでもじゃない、全員がそうやって俺に接してくれないように。
ポロンカリストゥス:……?
キビヤック:氷海で、君はたくさん話しかけてくれた……俺にあんなにたくさん話してくれるひとは他にいない。リナだって、あそこまで怒ってはくれないよ。
ポロンカリストゥス:借りを作ったままにしたくないからだ。
キビヤック:借り?
キビヤックの手を一目見て、ポロンカリストゥスは不自然に目を逸らした。
ポロンカリストゥス:なんでもない。
キビヤック:君に付いて行って欲しい、つまり……これから君の後ろにいていいって事?
ポロンカリストゥス:……ここから出られるかまだわからないのに、それはまた後で……
ドンッ――バーンッ!
ポロンカリストゥスの言葉を遮るように、近くの壁に大きな穴が開いた。部屋全体に煙が舞い、二つの人影が暗闇から出て来た。
ガナッシュ:当たり!ここがレッドベルベットの倉庫だよ!
ペルセベ:ゴホッ……おいっ!鹿野郎!まだ生きてるか?
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