ダブルアイス・エピソード
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ダブルアイスのエピソード
希少なペア食霊。
兄のバニラは、いつも兄貴風を吹かして弟の面倒を見てるつもりだが、最後はほとんどトラブルメーカーの兄の尻拭いを弟がするハメになる。
弟のイチゴはそんなバカ兄に相当呆れているが、いつも一緒で決して離れたりはしない。
Ⅰ 山生活
『ナイフラスト』
ここは長年雪と氷に覆われてきた地域で、高くそびえた雪山は人々を恐れさせている。
過酷な環境から、多くの人類はここから離れた場所に居住している。
しかし、僕たちにとって、ここは生活するのにぴったりな場所だった。
御侍様が亡くなってから三週間後、僕と兄さんはここに来て、雪山で新たな生活を始めることに決めた。
大きな雪山にいるのは、僕たちだけじゃない。たまに山を歩いていると、別の食霊が出没した痕跡を見つけることがあった。
堕神の気配すら感じたこともある。
しかし、永遠に止むことのない吹雪のせいで、山で生活している各々の異種族が、互いに交流することはなかった。
僕たちは雪山の洞窟で、僕たちだけの生活を始めた。兄さんは賑やかなところが好きだから、僕たちはたまに山を下りて、人類の市場で好きなものを買った。様々なお祭りに参加することもあった。
あっという間に、数十年が過ぎた。
Ⅱ 失踪の影
「イチゴ~」
「イチゴ~~~~」
「あれ、おかしいなぁ……」
洞窟の中をあちこち探したが、どこにもイチゴの姿はない。
「まったく、どこへ行ったんだろう?」
普段は僕があちこち走り回るのを叱るくせに。見つけたらこれまで叱られた分を一気に返してやるんだから。
「でも、一体どこへ行っちゃったんだろう……」
僕は呟きながら、洞窟の外へ出た。
外の積雪は相変わらず分厚い。雪の中に足を踏み入れると、はまって抜けなくなることもしばしばだ。
「僕に黙って山の下に遊びに行ったなんてことはないよね?」
「まさか……イチゴは僕とは違う……」
僕はイチゴの足跡を探しながら、くだらないことを考えていた。
そしてその時――
「ボン――」
近くから巨大な音が伝わってきた。
「なんなの?まさか……」
僕はすぐに音の出所に向かい、そこでずっと探していた姿を見つけた。
「イチゴ!」
僕は嬉しくて彼の名前を呼んだけど、その瞬間、彼の背後に巨大な影があるのが見えた。
Ⅲ 事件の発生
「来るな!」
背後から兄さんの声が響いた。振り返って見ると、この時一番見たくない姿を目にした。
目の前の堕神は恐ろしい怒号を上げ、僕には雪山も一緒に震えているように感じた。
「いけない、このままだと雪崩になる!」
僕は向きを変え、急いで手の中に霊力を集中させ、これで堕神の暴走を抑えることができるように願った。しかしその怪物はまったく僕の影響を受けず、僕に猛撃を仕掛けてきた。
「イチゴ!!!」
突然誰かに襟を力強く引っ張られたように感じた。慣性の力を借りて堕神の致命的な一撃をかわし、雪の中を何度も転がりやっと止まることができた。
「げほげほ……兄さん……できたら次は……」
「気を付けろ!また来たぞ!」
兄さんが僕の傍で焦って叫んだ。僕は慌てて立ち上がり、兄さんと一緒に怪物を撃退しようとしたが、この時、自分の霊力がもうほとんど残っていないことに気付いた。
僕の力不足を感じたのか、兄さんは僕に背を向け、片手で庇うようにして僕を守った。
「兄さん……」
「大丈夫!」
自分も怖いくせに、僕を引っ張る手も震えてる。でもあんなに強がって僕の前に立っている。
ホントにバカなお兄ちゃん。
「グアーー」
怪物が再び僕を攻撃してきた。堕神の圧倒的な力を前にし、僕は思わず兄さんの手を強く握った。
まさか、僕たちはここまでなの?
Ⅳ 最後の願望
その一瞬、鷹の鳴き声を聞いた気がした。それから、僕たちは突然発生した雪崩に巻き込まれた。
「誰も雪山の怒りを止められない。」
耳元でかすかに誰かの声が響いた。
しかし、目を開けた時、満天の大雪と、雪の中で倒れている僕たち以外、他の人影はなかった。僕たちを襲った堕神も姿を消していた。
隣で横になっているお兄ちゃんには大した傷はない。ただ一時的なショックで気を失っているだけだ。でも、僕たちの近くにいたあの人は、きっと……
つい最近、山の下の市場に行って兄さんが大好きなおやつを買おうと思い、一人で出かけた時、突然堕神の襲来に遭った。
雪山に住むようになってから、こんなことは初めてだった。もし兄さんが一緒にいたら、こんな怪物どうと言うことはない。
でも今は僕しかいない、緊張していた。
怪物としばらく戦うと、僕は徐々に不利になってった。体力が少なくなった僕はうっかり深い雪に足を踏み入れてしまったのだ。凄まじい勢いで襲い掛かってくる堕神を前に、僕は思わず瞳を閉じた。
「危ない!」
もう二度と兄さんには会えないと思った時、暖かい胸に包まれた。
「ありがとう……」
顔を上げて彼に感謝しようとした時、僕は堕神の攻撃に貫かれた彼の身体に気付いた。
鮮血が彼の足元の雪と、僕の両手を赤く染めた。
僕は、僕たちと一緒に名前のわからない力で雪崩から救われた、その料理御侍を見つめた。
彼はもう虫の息だった。
「月……会いたい……」
最後に何かを呟いたが、その声はとても小さく、すぐに吹雪の音にかき消された。
しかし、彼の最後の願いは僕に届いた。
僕は最後の霊力を呼び出し、死ぬ寸前の彼を氷の中に封じた。
もう助からないとわかっていたが、彼からは別の食霊との契約の力を感じた。
せめて、彼の食霊が最後に一目彼に会えますように。
僕はそう思った。
Ⅴ ダブルアイス
王歴290年、料理御侍が亡くなった後、人類の命令に従って、機械的に任務を達成することに嫌気がさしたダブルアイスは、人類のほとんどいない『ナイフラスト』で生活することにした。
雪山での隠居生活は平凡だったが、孤独を感じたことはなかった。
彼らはお互いが傍にいたから。
一日また一日と時は流れ、彼らは自分たちがずっとこうやって、永遠に氷と雪の世界で生活していくのだろう思っていた。一人の料理御侍の出現がそのすべてを変えた。
その料理御侍は任務中に仲間とはぐれ、吹雪の中道に迷っている時に、堕神に襲撃されているイチゴを見かけたのだ。
ためらうことなく前に飛び出し、彼は自分の身もかえりみずに、傷を受け動けなくなっている食霊を守った。
そのために、彼は自分の命を犠牲にしたのだ。
彼が死ぬ寸前、救われた食霊ーーイチゴは霊力を召喚し、彼を氷の中に封じ、自分の住処へ連れ帰った。
こうして命の恩人の最期を延ばしたいと思ったのだ。彼と契約を結んでいる食霊が彼を探してここに来るまで。
兄であるバニラはこのことを知ると、イチゴを慰めると共に、霊力で氷に封じられた料理御侍を守った。本来とっくに死んでいるべきの料理御侍は、氷の中で生き続けた。
二人の小さな食霊は、洞窟の中でこの人類の最後の願いを守っていた。
ある日、慌てたような人影が1つ、雪山に現れた。靴も履かずに一歩一歩、氷と雪の世界を屈することなく前に向かって進んでいる。
「イチゴ、イチゴ、見間違いかな?氷の中に人が見えたんだけど?」
「兄さん、きっと寝ぼけたんだよ。」
「そうだねそういえば、今日は出かけた方がいいかな?」
「そうだね、もし彼の食霊が洞窟までの道を見つけられなかったら大変だし。」
「でも、イチゴ、その食霊は本当に来るのかな? 毎日出かけてるけど、食霊の痕跡を見つけたことないよ。」
「来るよ。」
洞窟の中、イチゴは兄を見つめ、きっぱりと答えた。
「うん、そうだよね!」
バニラは領き、イチゴの手を取った。二人の食霊は肩を並べ、洞窟の外に向かった。
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