エスカルゴ・エピソード
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エスカルゴのエピソード
いつも眠そうな少年、枕を肌身離さず持っている。
目を閉じればどこでもすぐに眠れる。
そのあまりに強い睡眠パワーは周囲の人まで巻き込んでしまうらしい。(すると集団睡眠になる)
Ⅰ 耐えられない眠気
「はあ……よく寝た……」
僕は欠伸をして腰を伸ばし、ようやく目を開けた。
目の前に現れたのは、きこりの格好をした男だ。
「あ……あなたは……」
相手は驚きのあまり声も出ない様子だ。僕は持っている枕を置き、服を整理してから自己紹介を始めた。
「はじめまして……御侍様……」
「僕の名前はエスカルゴ……今後……よろしくお願いいたします……」
「え?え???」
男はまだショックから回復していないみたいだ。
彼は目を大きくし驚いた表情で僕を見つめている。しかし次の瞬間、彼はようやく理解したようで、興奮した顔で僕の両手を取った。
「あ、あなたは強いのか!?」
僕は頭を傾け、困惑の目で彼を見た。
「あ~~~」
きちんと答えようとするが、突然波のような疲労感が襲ってきて、僕の視界は黒くなった……
「おい、どうした?」
焦っている御侍様は傍で僕を呼んでいる。説明してあげたいが、今の僕にはもう立つ力さえも睡魔に奪われた。
「まあいい……まずは寝よう……」
そう思った。
次の瞬間、闇が僕を包んだ。
Ⅱ 失望した御侍
目が覚めると、まず見えたのは傍で寝ている御侍様だ。
「え……まさか……」
「僕のことを心配したから……ずっとそばで見てくださっていた?」
彼の目の下のクマを見て、僕は恥ずかしい思いに囚われた。
傍らの様子を察知したのか、ぐっすりと寝ていた御侍様はゆっくり目を開けた。僕を見た瞬間、彼は初対面のように興奮した顔で僕を掴んだ。
「大丈夫?」
「いきなり寝ちゃってびっくりしたよ。」
「私の能力不足……のせいかと思った……だから……」
何を言っていいか分からない彼を見ると、なぜかちょっと楽しくなった。
「大丈夫……御侍様……」
僕は説明した。
「僕はただ……一般の食霊より……睡魔を感じやすいんです……」
睡魔はいつも僕の頭にあるので、僕の会話と動作は他の食霊より遅い。
僕の説明を聞いているうちに、彼も段々落ち着いてきた。
説明がようやく終わったとき、彼の眼には僕の知らない光が宿っていた。
「つまり……」
御侍様は僕を見つめて言った。
「あなたは眠りやすい体質?」
「眠くなったら自分もコントロールできないの?」
僕は頷いた。
その瞬間、彼の顔に失望の表情を見た。しかしその表情はすぐに消えたので、自分の錯覚かもしれないと僕は思った。
その後、御侍様は黙り込み、僕も再び寝なければならないと感じた。
睡魔がまた襲ってきたからだ。
Ⅲ 君を癒してあげたい
また目が覚めると、御侍様は部屋の中にいない。
あちこち探してみたら、小屋の後ろで彼を見つけた。
彼は立ったまま、ある方向を見つめ、時には優しい顔を、時には悲しい顔をしていた。
僕は近づこうとし、音を出してしまった。僕だと気づいた御侍様は笑って言った。
「目が覚めた?」
「うん……」
「見せたいものがあるんだ。」
御侍様は私と一緒に部屋に戻った。彼は厨房の箪笥から大きい袋を取り出した。
「じゃんじゃん!」
御侍様はコップを取り出し、袋の中の粉をそこに入れてお湯を加え、僕の前に置いた。
「飲んでみて。」
あの期待のまなざしを見たら、僕は拒絶する理由などなかった。
彼が渡した黒い液体を受け取り、鼻の下に持って嗅いでみたら、何とも言えない香りが鼻の中で広がった。
「ブラックコーヒーだ。」
御侍様は嬉しそうに言った。
「飲んだら目が覚めるという。」
「え……」
なるほど、御侍様はこれで僕の眠り体質を治したいのか。
しかしたった一杯の飲み物が役立つのか?期待はしないけど、御侍様を失望させないために僕は思い切って飲んだ。
「苦い……」
これよりやはり甘いミルクが好きだ。僕は思わず苦笑した。
苦い液体が食管に沿って体の奥に流れていく。もし御侍様が言うように、僕の眠り体質に効いたらいいのになと僕は思う。
この体質には、僕も時々悩むから。
「ど、どう?」
御侍様は期待のまなざしで、しかし慎重に聞いた。
な……なかなかいい……
そう答えたかったが、睡魔に対抗する物質の侵入を感知したのか、今度の睡魔襲来はいつもより猛烈だ。
僕は言葉を続ける間もなく、そのまま眠り込んでしまった。
Ⅳ 最後の遺言
今日は起きている時間が最も長い日だ。
僕は御侍様のベッドの傍に立ち、眠気もまったく感じない。
「今日は……元気だね……」
横になっている御侍様はそう言った。
「出会ったときと、あなたは……全然変わっていないね……食霊とは……不思議な存在だよね……ゴホゴホ。」
いつも元気満々で、僕の眠たい体質を治そうと騒いでいた御侍様は、すっかり病弱な体になってしまった。傍に立っていても、彼の声がかろうじて聞こえるだけだ。
何をすれば彼の時間を留めることができるのか、僕には分からない。彼の皺だらけの顔と日々痩せていく体を見つめ、そろそろ最期だなと、なんとなく悟った。
「か……悲しく思わないで……」
「私は……ただ遠いところに行くだけ……」
御侍様は小声で僕を慰めてから、目を閉じて何かを思い出そうとした。
「悔しいよ……ずっと……ずっと彼女を助け出したかった……」
「しかしあそこの警備が厳重で……私だけでは……無理に決まっている……」
死ぬ直前、一時的に元気を取り戻したためか、御侍様は枯れた声で物語を始めた。僕は傍に立ち、静かに聞く。
最後の言葉を言い終わると、御侍様の呼吸が止まった。
三日後。
御侍様を葬った後、彼の遺言に従い、僕は石でできた荘厳な城に辿り着いた。
御侍様がずっと僕の眠り体質を治そうとしていた理由は、城に縛られている「女王」を救いたいからだったのだ。
コーヒーでも他の方法でも、彼の願いが叶うことはなかった。しかし皮肉なことに、彼の死によって、いつも睡魔に囚われていた僕は、すっかり元気になったのだ。
城への潜入は順調だった。僕は御侍様の記憶にある牢獄を見つけた。
「いくら強くても、こんな部屋の中にずっといれば、たぶんもう……」
御侍様が言ったあの食霊は今どんな姿をしているのだろう。扉を開けたら何が見えるんだろう。
不安の気持ちを抱きながら、僕は重い鉄扉を開けた。
そして僕は、部屋の真ん中に座っている彼女を見た。予想していたような怒りや諦めはそこになく、あるのはただ冷静な目と淡々とした表情だ。
僕と彼女は見つめ合った。
「これこそが強い者だ」
僕はとっさにそう思った。
「迎えに来たよ。」
御侍様の言葉を彼女に伝えると、彼女は笑った。
Ⅴ エスカルゴ
エスカルゴを召喚した料理御侍は、荘厳な城の料理人を務めていたことがある。
平凡な料理人に過ぎない彼は、ある日強大な霊力を持つ食霊を召喚した。
城に住んでいるプライドの高い皇族たちは、下賎の料理人が料理御侍の才能を持つことを受け入れられず、ついに冤罪を押しつけて彼を牢獄に入れた。
彼が召喚した食霊も、共に鎖に繋がれた。
ある夜、強大な食霊は彼女の御侍様を連れて牢獄から逃げ出した。だが、彼らはすぐ罠に落ちてしまった。
鎖などで食霊を縛ることができるはずがないことを、ずるい皇族はもちろん知っていた。
数えきれないほどの兵士を前に、料理人は自分の命を断とうとしたが、その直前、自分の食霊に止められた。
その後、絶対的な力を持つ食霊は自分の時間を代償に、彼女の御侍様の今後三十年間の平和な生活を獲得した。
それ以降、料理人はずっと悔しい気持ちを抱いていたが、持ちうるすべての精力を持って、ようやく次の食霊を召喚した。それがエスカルゴである。
しかしこの食霊の力は彼女に及ばず、時々寝てしまう体質まで持っている。
いつも眠たいエスカルゴを危険なところへ行かせることができない料理人は、様々な方法を試して彼の体質を治そうとした。
しかし、運命のいたずらか、生前試した方法はことごとく失敗したものの、彼の死こそがエスカルゴに力を与えたのだ。亡くなった料理人はあることを知ることができなかった。もちろん、すでに亡くなった彼には知る由もない。
御侍様との約束を胸に、エスカルゴは三十年も囚われたままの食霊を救出した。
それ以降、御侍様を失った二人の食霊は、互いに欠かせない仲間となった。
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