月の影 鶴の跡・ストーリー
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目次 (月の影 鶴の跡・ストーリー)
月の影 鶴の跡
プロローグ
早朝
絶境海域
朝霧が薄く立ち込め、雅に一片の海天を覆う。一隻の傷だらけの巨大な船が波に乗り、岸に座礁した、騒がしい人々の声が、静けさを打ち破る。
船員甲:仙島……仙島!やっと仙島を見つけたんだ!
船員乙:菩薩様感謝します!早く上陸しよう!探しに行こう……探し……な、なんかいい匂いがしないか…?
船員甲:匂いなんて、どうでもいいだろ!早く探しに行くぞ!探しに……えっ、何を探しに来たんだ?ここは一体どこだ?
幻のような香りの中、船員たちは夢に陥り呆然としている、あたりを見渡すも、自身たちがどこにいるのかさえも分からななくなっていた。
清らかな鶴の鳴き声と共に、彼らは呆然と列を作り、船に戻り、ぼろぼろの帆を支え、そよ風に乗って海天の彼方に消えていった。
碧螺春:あーあー、船があんなにボロボロになっているのに、まだ仙島のことを気にしてる、本当に命知らずだね。
松鶴延年:問題ありません、霊鶴が方向を示しているので、きっと無事に戻れるはずです……
碧螺春:ハハ、私はそんなこと心配してないよ。島主が新しい幻香を試すのを許可してくれただけだから、そんな事には全く興味がないよ。
松鶴延年:……
松鶴延年:……ですが……何かおかしいです……
碧螺春:ん?堅物、君も私の幻香にやられちゃったのかい?そんな不安そうに呟いて?
碧螺春が笑顔で近づき、自分の頬をつまもうとしている、松鶴延年は真剣な顔で叱りつけようとした瞬間、口からはっきりとした言葉が出てこなかった。
松鶴延年:你……!碧、碧若村,曾何体统!快住受……!
(意訳:あなたは……! あなたはなんてまともだったのでしょう!やめてください……!)
碧螺春:あ?大丈夫だった〜やっぱり普段通りの堅物だったね。ほらほら、どんなに綺麗な顔でも、そんな暗い表情だったら怖いよ〜
松鶴延年: ……
碧螺春:あれ、あの影、見覚えあるね。
淡い白霧の中、小さな体は茂みの中に潜み、何かを探しているようだ、後ろに近づく人に気づいていない。
普洱:……?!
普洱:……あなた達ですか。
松鶴延年:普洱ですか、どうしたのですか?何を落としたのですか?
普洱:いいえ……不思議な花を見つけたの、でも見つからなくなったの。
碧螺春:普洱は相変わらず花木が好きだね、それなら私と一緒に香を作らない?工房には珍しい花がいくらでもあるよ〜
普洱:う……また今度にしよう。麒麟島主を探しに行くので……
目の前の人物が続けて話しかけられるのを恐れ、少女はうつむいてぼそりと答え、ドレスを掴んで霧の中に走り去った。
碧螺春:逃げちゃった?香を作るのが怖いのかな…まあ、いいや。堅物、島主を探しに行こうか〜
1時間後
鏡花池
玉麒麟:……つまり、今日は二つの船隊が同時に絶境に迷い込んだのか?
松鶴延年:はい……数ヶ月前から島に上陸する船隊はありましたが、最近ますます頻繁に現れるようになっています。
玉麒麟:はぁ、面倒だな。他はともかく、あの人間たちが大勢でやってくると、島が騒がしくなる。
松鶴延年:貴方の心神は絶境の霧につながっているので、騒音は余計耳障りに感じるでしょう……ですが、あの船隊たちはただ迷い込んだようではありませんでした……むしろ何かを探っていたようで……
普洱:うん……何かを探していた。
碧螺春:ふん、言われてみれば、前回あいつら、船から降りてすぐ地面の花草をひっこ抜いてたぞ!
碧螺春:観光は別にいいんだよ、私の香料を引っこ抜くなんて、本当に品がない奴らだよ!島主、そうでしょ?
玉麒麟は眉をひそめ、こめかみを押さえながら、しゃべり続ける碧螺春を見つめた。
玉麒麟:だったら、お前は堅物と一緒にこの件を調査してくれ。
碧螺春:え?私?島主、あいつらを送り出してあげたでしょ、なんでまた仕事を……
玉麒麟:?
碧螺春:いやぁ……そうだった、香炉でお香を作っていたんだ、良い香りは美人の如し、無駄にしちゃいけないってなことで〜お先に――
玉麒麟:待て――そう言えば、家賃の支払いがまだだったな。
碧螺春:家賃……?
玉麒麟:こんなに大きな場所をただで泊ませるわけないだろ、仕事を手伝ってもらった分は家賃代だ、悪くないだろ?
碧螺春:でも……あの……私……
玉麒麟:もういい、急いで出発しろ……あの船隊が問題なければいいが、もし何かあれば、私が絶境をしっかりと守らないといけないからな。
松鶴延年:はい、私たちに任せてください。
碧螺春:ええええ、待ってくれよ、島主――なんで私と堅物だけが島を出ないといけないの、普洱は家賃払わなくていいの、不公平でしょ!
玉麒麟:普洱が絶境で、私の補助を……チッ、なんで説明しなければいけないのだ。松鶴延年、早くそいつを連れて行け、騒がしい。
ストーリー1-2
昼間
茶館
繁華な繁華街にある茶館は、あらゆる方面からの行き交う人々、商人、遊侠、文学者、荷物運びが集まり、ここで一休みし、熱茶を手に語り手の登場を待っている。
パッと――机を叩く音が鳴り響き。皆が興味津々で頭を上げた。
講談師:紫気漠々、金鳥隠れ、蓬莱望む、近づけどもそれは見当たらない。軽舟は夢見る、仙草を――
講談師:皆様、今日も海上の仙島についての奇妙な話を続けましょう……
聴衆の中で混じっている碧螺春は、横に正座している人に肘で軽く触れたが、彼は全く反応しなかったので、その人の耳元に寄り添った。
碧螺春:ほぉほぉ、堅物、仙島って……もしかして?
松鶴延年:まずは彼の話を落ち着いて聞こう。それに……自分の席に座ってください!私と同じ椅子に座って何するつもりなんですか?
碧螺春:ここは人が多いからよくないだろ。少し近づいて話すべきじゃないか?ほら、落ち着いて、ちゃんと聞こうか。
松鶴延年:はぁ、何をやっているんですか……
他の聴衆に気を使い、松鶴延年は隣の人々に迷惑をかけない為、碧螺春に近づいた。そしてすぐに、二人は語り手によって再び注意を引かれた。
講談師:……この蓬莱仙島はもともと海の中に隠れ、霧に包まれていますが、ですがそれはそれは恵まれた宝の地なのです。
講談師:その島では人がまれで、塵一つ舞い込まず、至る所には霊鳥の玄鶴や仙花、瑶草が咲いており。仙人たちさえも天から舞い降り、戻るのを忘れる程!
講談師:天地の霊気と仙人の庇護のもとで、世にも稀な一株の仙草が育ち、人々に長寿不老の効果をもたらし、死者を甦らせることすらできる。
そして、語り手が茶を飲んで喉を潤した。台下では、すでにこの時間を利用して騒がしく議論が始まっていた。
通行人:不老仙草……?俺还是头一回听见这东西、可真有这么神?
(翻訳:初めて聞いたのですが、そんなにすごいのでしょうか?)
村人甲:あんたよそ者だろ?この仙草のことは以前から伝わっていた話で、上の奴らは船隊を派遣して探しているんだよ!偽物ではないはずだぜ!
村人乙:そうだべ、そうだべ。船隊から戻った人がいたべ、仙霧に隠れた蓬莱島を見たとさ、仙鶴も何羽かそれで舞ってたらしいべ!
通行人:ほぉ!そりゃすげぇな、そのような仙境……この目で見れたらいいんだが、仙人たちに会えるかもしれねぇしな!
村人甲:まあ、それは考えるだけで十分だぞ。船隊が次々と派遣されてるが、戻ってくるのは……
多くの人々がまだ議論している間、語り手は唐突に驚堂木を叩き、その後、舞台を去り、興奮した観客たちだけが遠くの海上仙島を夢見続けた。
松鶴延年は眉をひそめ、即座に立ち上がり、後を追った。一方で、碧螺春は残念そうな表情を浮かべ、観劇中の様子を見るのを諦め、共に語り手のいる裏舞台に入った。
講談師:!おっと、びっくりしました。お客様が黙って私の後ろに立つなんて、どうしたんです?
松鶴延年:申し訳ありません、仙島について先生にお尋ねしたい事があります。
講談師:仙島?またですか…お客様、私はただの語り手。仙島の居場所なんて存じ上げません。どうかお引き取りを!
碧螺春:ふふ、語り手さん、そう急がないで…これ見てごらん。
碧螺春は、前に立っている真面目な松鶴延年をどかせ、一枚の金元宝を二本の指でつまみ、にっこり笑いながら語り手の目の前で揺らした。
講談師:こほん…何を尋ねたいのですか?早くしてください、次の舞台に行かないといけないので。
松鶴延年:……先生、仙島と仙草にまつわる噂はどこから始まり、広まったのか、ご存じですか?
講談師:それは流石に分からないですよ!それは巷の噂、野史、文学作品など、多くの要因によって物語が作り上げられたはずです。
松鶴延年:ということは、これらはあなたがでっち上げたものなのですか…?
講談師:ああ、違います、違います!杜撰とは言えませんよ!これはすべて本物、正真正銘存在する物です!
講談師:そうでなければ、なぜ貴族たちは仙草を探すために毎日船隊を送り出すのか?しかも、生きて帰ってきた李二は、この目で仙島を見たのです!
松鶴延年:……
碧螺春:先生、本当か嘘かわからないけれど、この話をもう言わないでくれる?約束してくれれば、この金元宝は君のものだよ〜
講談師:えええー、だめです!だめです!いくらあっても無理ですよ。上のお方が私にこの物語を語るように指示を出しましたからね。
―――
⋯⋯
・それまた何故なのですか?
・この人たちは一体……
・まさか彼らが言わせたのですか……?
―――
碧螺春:ふん、多分……あの人たちはおそらく、もっと多くの人々に信じさせたいのでしょう。なぜなら、こうしなければ、絶えず海に出て命をかけて仙島を追い求める者があらわれませんからね。
講談師:えっ、これ以上言ってはいけない……お引き取りを。
松鶴延年:なるほど、それなら……あなたに無理はさせません。ですがその代わりに、李二の住所を教えていただけますか?私たちも彼に尋ねたいことがあります。
講談師:李二?彼は十里離れた李家村にいます。彼もかわいそうな人だ、命は取り戻しましたが、その後の人生は台無しになりましたからね……
それを聞いて、松鶴延年はますます眉をひそめ、傍らの碧螺春を珍しく微笑む姿を変え、戸惑いの表情を浮かべた。
ストーリー1-4
夕方
李家村
夕暮れ、鳥が森に戻る時。夕餉の時間であることは明らかだが、血のような靄に包まれた李家村は、格別に寒々としていた。
碧螺春:あれ、この村は災が起きたのかな?道中、生きている人をあまり見かけなかったようだけど。
松鶴延年:城にいたときは、干ばつや洪水なんて聞いたこともなかったのに……途中の農地はほとんど閑散としていました。
碧螺春:堕神ならまだしも、対処とかしやすいけど、人災ならね……
松鶴延年:……?
碧螺春:ははは、怖がることはないって。もしもここに本当に堕神とか何かが出たら、私が守ってあげるよ〜ちょうど新しく作った毒香も試してみることができるしね、うん、いい匂いだね〜
松鶴延年:あ、貴方っ!――何してるんですか?毒香でしょ、何故?!
碧螺春:え、なんでそんなに緊張してるの?気にしてくれてるのかな〜?大丈夫、この炉の中のはただの安神香だから、安心してよ、君も嗅いでみる?
松鶴延年:……
松鶴延年:今は香りを楽しむ時じゃありません。さっさと炉をしまってください、もっと重要なことがありますから。
碧螺春:本当に硬いなー、堅物。神経張り詰めていると身心に悪いよ。心配するのはわかるけど、そう急がなくても。
松鶴延年:以前絶境に迷い込んだ人たちはみんな無事に戻されたのに、今回は異常事態が発生しています。早く調査しなければ……
碧螺春:本当、まったく話を聞いてないんだね。え、一人でそんなに速く歩くなんて、ちょっと待って――
二人が畦道を歩いていると、砂塵が舞い、数え切れないほどの騎兵隊が歪んだ田畑を踏みにじり、前方の村の家に向かって進んでいった。
しばらくして、子供たちの泣き声が絶えず聞こえてきた。
碧螺春:堅物、やっぱり人災みたいだね。手間かかりそうだ。
―――
⋯⋯
・公の場で、こんなことをするとは!見過ごすわけにはいきません。
・見てるわけにはいきません!
・公然と子供たちをさらうとは!碧螺春――
―――
碧螺春:はぁ、はい、はい、子供を助けに行こうか。
予想通り、交戦後騎兵隊はすぐに敗走した。李家村の人々は集まり、救出された子どもたちは家族の元に帰った。
その時になって初めて、松鶴延年と碧螺春は、李家村に残っている村民は老人、女性と子供たちばかりであることに気づいた。
女性:恩人様、助けていただき誠にありがとうございます……もし私の息子たちが旦那様に攫われたら、何が起こるかわかりません。
松鶴延年:その旦那様って……もしかして、街にいる「貴族」の部下なのですか?
女性:えぇ、恩人様は外から来られたのですね……あの方達は街から十里離れた村の男性全員を徴発したのです。
(徴発とは(戦時などに軍が人民から物資・人力を)強制的に取り立てること。)
女性:そして、最近、彼らは子供さえもさらい始めました。私たちは……本当にどうしようもないのです、ですので、ここ数日間、農地を捨てて外へ去るようとしているのです。
松鶴延年:徴発……船隊を組んで海に出るためですか?
女性:どうやら恩人様もその噂を聞いていたようで?はい、仙草のせいで……村の男たちは全員、船に強制的に乗せられてしまったのです。
女性:それだけではありません……今は、その仙草を見つけるために子供たちさえもっ……
女性:私は兵士様に、息子に替わって行かせてくれるように懇願したのですが、彼は……恩人様の介入がなかったら、おそらく私はここに立って話すことはできなかったでしょう。
女性は悲しそうに泣きながら話し、隣にいた村人たちも過去の悲しい出来事を思い出したかのように悲しみに頭を下げた。
碧螺春:はは……やっぱりね、仙境をどんなに大袈裟に表現しても、それは嘘って事だね、他人を利用するために、相当汚い手段を使ったようだ。
松鶴延年:仙島、仙草……黒幕は一体……
碧螺春:ねぇ、堅物、このことは起因は後で研究しようよ。誰かを探さないといけないんじゃないの?
碧螺春に気が付かされた後、思考中の松鶴延年はついに気が付き、一旦すべての疑念を脇に置くことにした。
松鶴延年:婦人、私たちは李二という者を探しています。彼は今どこにいるのでしょうか?
女性:李二ですか……?彼はもう村に住んでいません、彼を見つけたいなら、西の方の山の森の奥深くへ行かなければなりません。
碧螺春:あら、李二は今足が不自由だと聞いたはずだけど……なんで彼は人のいない山林に一人で住むようになったの?
女性:はぁ……彼も可哀そうな人なのです、幸運にも命を取り留めて戻ってきたからといって、旦那様は常に彼を捕らえて船隊を導くために捕まえようとしていたのです。
女性:それらの人々を避けるために、彼は深山や古い森に逃げ込むしかありませんでした…彼の恩人が彼に何かを尋ねたい場合、それは難しいかもしれません。
松鶴延年:……なぜなのです?
女性:えぇ、彼はあの方たちによって狂わされました、彼の言うことはもう……
ストーリー1-6
翌日
山林
鬱蒼とした森の葉には朝の光は届かず、静かな山では鳥のさえずりすら現実味が無くなっている。
光と影が交錯し乱雑に映る落ち葉の間を二筋の足跡が踏みしめた。
松鶴延年:……迷ってしまったようです。
碧螺春:え?堅物、やっと気が付いたの?もう1時間も歩き回っているよ?
―――
⋯⋯
・……そうですか。
・き……気づきませんでした。
・一時間?もうそんなに経っていたのですか……
―――
碧螺春:え、じゃあさっきから余裕そうに先頭に立ってたのは?もしかして自分が道に迷っていることさえ知らなかったの……
松鶴延年:絶境から出るのは久しぶりですからね、以前はそう簡単に道に迷うことはありませんでした。
碧螺春:プッ、はいはい〜そんな硬くならないでよ、迷子になったのも少しだけだし、状況はそれほど悪くないよ〜
松鶴延年:……
碧螺春:また怒ったの、森で退屈しないように、紛らわすために冗談を言っているだけだよ〜おーい、どこ行くの?
松鶴延年:この先に開けた林があるのでそこへ行きます。
森に到着すると、ようやく空と太陽を遮る枝葉がなくなり、松鶴延年が手を上げると、すぐに数羽の青鶴が青空で旋回し始めた。
碧螺春:堅物、この子たちに道を先導するように呼びだしたの?なかなか賢いね〜
松鶴延年:先導する必要はありません、ただ待っていればいいです。
彼が話し終わるとすぐに、遠くない木々の間からガサガサという音が聞こえ、杖を持った人影が慌てて飛び出してきた。
李二:仙人……ああ、仙人が現れた!!!小民は李二、仙人様、拝見いたします――
碧螺春:えっと?君は――李二……?なぜ会ってすぐにそんな大きな礼をするんだい?
李二:仙人様!きっと鶴に乗って仙島からお越しになったのでしょう!この仙鶴は見たことがあります!
李二:仙人様、ついに現れたのですね!小民をお助けください!大巫が……大巫が私を殺そうとしているのです、小民はまだ死にたくないのです!
松鶴延年:大巫……なぜ彼はあなたを殺そうとしているのですか?彼があなたに仙草を見つけるために海に行かせたのですか?
李二:大巫が……大巫……船が……消えて!全員死んだのです!
李二は何か恐ろしい光景を見たかのように怯えた表情を浮かべ、頭を抱えて苦しそうにつぶやき始めた。
碧螺春:堅物……どうやら彼、本当におかしくなっちゃったようだね、こんなんじゃ聞いても意味ないよね。でも、方法はあるんだ〜
松鶴延年:あなたは……待って、彼に何を振りかけたんですか?
碧螺春:心配しないでよ。少しのお香は人を殺せないよ、人々が真実を語るのに役立つんだ。
碧螺春は微笑んで香炉を持って座り、虚ろな目で目の前の地面に横たわっている男を真剣に見つめた。
碧螺春:李二、えー、答えよ、大巫は誰だ?彼は何している?
李二:大巫は……蒼龍神君の使者です……彼は私たちに海へ……仙島と仙草を探せと……
松鶴延年:神君の使者?ありえません……その大巫は、妖言で大衆を騙しているに違いありません!
碧螺春:焦らないでよ、堅物〜まず冷静になって、後で一緒にその大巫を罵倒しようね、今は質問を続けなくちゃ。
碧螺春:李二、なぜ大巫が蒼龍神の使者だと断定できるのか?証拠は?
李二:大巫……東方族で……竜鱗を持ち……神君の命令に従う……
松鶴延年:それは……でたらめです!
碧螺春:えー、怒らないでって言ったじゃん〜邪魔しないで、もう一つ質問させてよ〜
碧螺春:李二、海から無事に帰ってきた人はほとんどいないらしいけど、大巫は何をしたのか分かる?
李二:儀式……海の嵐……大巫の儀式……全員殺した……
李二:ああ……ここはどこですか!あなた達は誰ですか!まさか大巫の手先?助けて、捕まえないで!
突然覚醒した李二は、目の前の二人の重い表情を見て、あまりの恐怖に転がりながら近くの森に潜り込んだ。
松鶴延年:……お香の効果が消えたのですか?
碧螺春:この香は今三問ぐらいしか質問できないんだ、まだ試作中だからね、でも効果は悪くないね〜
松鶴延年:……適当な人を捕まえて香の効果を試す習慣は改めるべきです。
碧螺春:ハハ、信用してよ?流石に人を殺す香とその他の香をはっきり分別できるからね〜堅物みたいな素人に言われたくないな〜
松鶴延年:はぁ、いいでしょう。彼の元気な様子を見る限り、後遺症は無いはずです。
碧螺春:でしょ?彼、足が一本折れてても、一般人より速く走れるしね。
碧螺春:しかも、君、彼が餓死するのが心配で、食べ物を用意してあげたでしょ。もう安心しなって、彼、一人でイノシシぐらい狩れると思うよ〜
松鶴延年:えぇ……ここに食料を置いて、早く大巫を探しに行きましょう。
ストーリー2-2
数日後
港の街
港近くの通りや路地は人で混雑し、空は暗雲が覆っている、賑やかな風景に翳りが潜んでいた。
露天商甲:ねえ、この先にまた神呼の儀式をやるのか?貴族の輿がたくさんそこに通っているのを見たぞ。
露天商乙:もう船が戻る時間だけどな、あいつら生きて帰れるのかな……
露天商甲:まぁ!大巫が儀式をしているんだ、神君の加護もあるし、心配しなくてもいいさ!俺たちも神呼の儀式を見に行くか?
露天商乙:俺はぜってぇ行かねぇぞ!前回、波にさらわれているのを見た時は…数日間よく眠れなかったんだ、最悪だぜ、最悪!
露天商甲:ははは、本当に臆病だな。大巫は、あいつらは神君に不誠実な上に不敬だからって言ったじゃないか?彼らは戻ってこない運命だってことよ。
そのとき、店主は店の前で足を止めた客に気づき、すぐに言葉を止め、笑顔を浮かべて適仙のような貴賓二人を迎えた。
(翻訳:谪仙/謫仙とは、天上界から罪によって人間界に追放されたという仙人)
露天商甲:郎君、この簪と臙脂をご覧ください?どれも今流行りの一品ですぜ、ここ以外で買うことはできないですぜ。
松鶴延年:……いや、それは別にいいんだ、聞きたい事があるんだが……
露天商甲:ああ、旦那方ご冗談を、もちろんこれはあなたのためのものではありませんぜ!そこの別嬪さんへの物です!
―――
⋯⋯
・?
・店主、誤解です……
・……
―――
碧螺春:はは、残念だね〜店主さん、私も使わないよ。
露天商甲:……ああ、えぇ……あんた……あんたら?
露天商の困惑した目は二人を見た、物思いに耽っているようであったが、目の前で巻物を持った優雅な青年が元宝を取り出した。
松鶴延年:店主、神呼の儀式の話を聞いたのですが、どこで行われたのでしょう?お手数をお掛けします、これはほんの少しの謝礼です。
露天商甲:いえいえ、お気になさらず、お二人もあの祭りを見たいんですかい?ここから港まで進むと見えますぜ。
露天商甲:ただし、神呼の儀式は暗くなってから始まりますんで、日が沈む前に到着すればいいですぜ。
松鶴延年:感謝します。
松鶴延年は軽くうなずき、立ち上がって店員が指さした方向に早足で歩き、横で黙っていた碧螺春も笑顔でついていった。
碧螺春:堅物、よく頑張ったね〜これが世の渡り方って奴だよ、将来、絶境を離れても、どこに行ってもやっていけるようになれるよ。
松鶴延年:誰が絶境から離れるなんて言ったんですか…ゲホゲホ、私の顔に何を吹きかけたんです?
碧螺春:もちろん、私のお香に決まってじゃないか。さっきの屋台の臙脂の匂いが体中ついているよ。ほらほら、匂いを消してあげるからね〜うんうん、やっぱこの匂いだね。
松鶴延年:……そんなに近寄らないでよ!
二人が親密でからかい合う姿が徐々に消えていくのを見て、先ほどの商人は暫くしてやっと理解したかのように頷き、興味津々にこちらを見ている仲間と目が合い微笑んだ。
夜港
港
暗き夜に炎が燃え上がり、大勢の人々に囲まれ、中央にいるローブを着た大巫を囲むように、黒いローブを着た巫者の一団が地面にあぐらをかいて座っていた。
奇妙な詠唱の中、港に打ち寄せる波はますます激しくなった。大巫は突然声を上げ、両手を上げて天を指さした。
轟音とともに、紫の歪んだ雷が夜空を裂き、巨大な波が何かを巻き込みながら港に向かってきて、驚きの声を上げる群集を散らした。
松鶴延年:あれは一体?木板?……帆?そして……あれは人?
碧螺春:いや、堅物、あの帆の模様を見て……明らかに私たちが送り返した船だね。
松鶴延年:何故……霊鶴は彼らに航路を示したはずです、あの航路は波の影響を受けなかったはずなのに。
碧螺春:問題を起こしているのは大巫だろうね……ほら、今日の「儀式」はまだ終わっていないようだ。
波と共に打ち上げられたものに驚いた群集は散らばり、暗く広い港の前には、巫者たちと豪奢な輿に乗った権力者しか残っていなかった。
暗闇の中に潜んだ2人はようやく、大巫が小さな神像の前に座っているのに気が付いた。どうやら彫っているのは青龍のようだ。
大巫:蒼龍神君の命令により、誠実でない者は波の生贄となろう!
貴族:偉大な大巫よ…どうか神に恵みを与え給え、吾に明確な道を示し給え!
大巫:それだけでは十分ではない……神君に仙草を頼むのであれば、これでは十分ではない。
大巫:汝らに命じた物はすべて持ってきたか?
ストーリー2-4
大巫:汝らに命じた物はすべて持ってきたか?
貴族:えぇ、もう準備ができています。直ちに人に命じて運びますので、大巫様、ご覧願います。
頭を下げる貴族たちが従者に手を振ると、小さな船が運び上げられた。
木船の上には、牛や羊が山のように積まれていた、なんとその中に2人の子供も手足を縛られ、目を覆われて、赤い紐で結ばれ生け贄のように船に投げられた。
大巫:ふむ……よかろう。確かに、生誕が純陽純陰の童男と童女のようだ。
貴族:これは近くの村を探し回ってようやく見つけたものです。流石に、探すのも一苦労しました。神君に受け入れていただけることを心から願っておりますぞ。
大巫:この様な供物があれば神君もさぞかし喜んでくれるだろう。
船が港から押し出されるのを見て、大巫は碇縄に近づきながら詠唱を始める。しかし、その時、香りを帯びた緑葉が突然飛んできた。
大巫:大胆な!神君の儀式を犯した者は誰だ!
碧螺春:ハッ、堅物みてよ。誰がこんなに堂々に言葉すら話せない子供を攫うと思ったら、この巫者たちだったとはね。
松鶴延年:人々を騙し、神君の名を汚すなんて、許しません!
碧螺春:そうだそうだ!この黒ローブも悪い奴だけど、あの輿に座っているジジィども同類だ!今日、全員懲らしめるぞ。
暗闇から襲撃を始めた2人は、怒り狂う大巫を完全に無視し、香り高い緑葉と絵巻の花鳥が雪のように飛び始めた。周りからは悲鳴が上がった。
大巫はその状況を見て、2人を罵るのをやめ、怒りながら神の像の前に座り、奇妙な経文を詠唱し始めた。
一度は散った巫者たちはその声を聞いて、号令を受けたかのように狂ったように反撃し始め、大巫を護り始める。
碧螺春:あの大巫また何かしているね?うん、こいつらも狂い始めたようだし。
松鶴延年:烏合の衆です。そんなに長くは持たないはずです。いいえ、もしかして、彼らは時間を稼いでいるのでしょうか?
碧螺春:……クッ。
碧螺春:そんなに心配しないで、私は大丈夫…ただ、一番嫌いな匂いをまた嗅いじゃったみたい、うっ……
―――
⋯⋯
・この匂いは?!
・あれは……?
・堕神?!
―――
碧螺春:くさっ、本当に大変な仕事だよ。後で島主に一緒に文句を言ってもらうからね。
大巫の詠唱と共に、黒い怪物たちが次々と海から這い上がり、滑りを残しながら二人に襲ってくる。
大巫は目を閉じて速やかに詠唱を続け、周りの戦闘の騒音が静まり返るまで続けた、その後、大笑いしながら目を開ける。
大巫:ハハハ!神君に逆らう者は、皆こうなるのだ!
碧螺春:お?どうなるって。教えてもらえる?
大巫:?!
大巫は、堕神に喰われたはずの二人が無傷で目の前に立ち、自分をじっくりと見つめているのを見て驚愕した。
しかし、いつ自分が縄で縛られて動けなくなったのか分からず、一瞬、大巫は怒りのあまり顔が青ざめ、歯を食いしばった。
碧螺春:堅物、見てよ。この大巫、びっくりしすぎて呆けちゃったみたいだね。さっきまであんなに流暢に呪文を唱えていたのに、なぜ突然静かになっちゃったんだろう?
松鶴延年:黒幕がまだいるかもしれません、慎重に問い詰める必要があります……ところで、前の助言香はまだありますか?
碧螺春:使い切ったよ〜君のせいじゃないか、香を使っているときに突然大声で叫んで、びっくりしちゃって、全部李二に使っちゃったよ。
松鶴延年:……
碧螺春:何も心配することはないよ。とにかく彼を連れて帰ろうか。島主は私たちよりも尋問の方法をよく知っているはずだし。
松鶴延年:うーん、玉麒麟の方が……これは得意みたいですね。まず船に乗っている子供たちを救出しましょう。
碧螺春:あっ!子供たちを忘れるところだった。あぁ、でも目が覆われていたから、怖がらなくて済むね。
大巫:貴様ら……神君の供物には手を出すな!
大巫が顔を上げて叫ぶと、さらに奇妙な呪文が口から飛び出る。
雷が夜空を切り裂き、瞬時に巨大な波が起きる。
大巫:ハハハ!貴様らも、至高の神君に捧げられる運命なのだ!
ストーリー2-6
大巫:ハハハ!貴様らも、至高の神君に捧げられる運命なのだ!
大巫:フフフハハハ……童男童女は位に着いた!神君よ召し上がり給え!
子供たちを乗せた木船が巨大な波に飲み込まれそうになり、何枚かの翠色の葉が怒りと共に大巫の体に突き刺さった。
碧螺春:はっ、私たちは村の子供たちを救うために一生懸命頑張ったんだけど、どういうつもりなんだい?
珍しく眉をひそめた碧螺春は波に足を踏み入れようとしたが、隣の者に止められた。
見上げると、夜空を横切る軽やかな影が見えたとき、彼の顔はわずかに柔らかくなり、大巫を攻撃し続けた。
松鶴延年:波が強すぎます、彼の呪文の影響を受けているようですね、近づくのを阻んでいるようです。
碧螺春:ふん、気を付けるべきだったね、雑巾で口を塞ぐべきだったかも。まさかこいつ縛られても呪文を唱えて魔法を使う事ができるなんて。
松鶴延年:待ってください――遠くにあるあれは何ですか?
碧螺春:あの巫者たちは戻ってきたの?いや……普通の人だね……
大巫:ははは……見えるか!こいつら全員が神君の供物となるのだ!すべて波に捧げられるだろう!
松鶴延年:皆、呪文に操られています……!早く彼を捕まえなければなりません!
二人は波の間隔を計算して急速に進撃し、大巫はまだ狂ったように神像の前で呪文を唱え続ける。突然の波が彼を二人から引き離した。
大巫:はははは……私こそ神君に選ばれた使者なのだ、私に逆らう者は全て死ぬのだ!
松鶴延年:……蒼龍神君が貴様を使者として選ぶわけなどありません?命を軽んじるような輩め、神の名を冒涜するな!
大巫:信じられないのか?私がその神君使者であることを?私は東方族の末裔だ!神君は私の身を通してこの世に現れるのだ!
碧螺春:ほぉほぉ、やっと正体をばらしたね。東方族は大名家だったはずだけど、君のような魔道の者が生まれるとはね。
大巫:私は邪道じゃない!!私は神君使者なのだ!邪道ではない!選ばれし者だ!
大巫のでたらめが続く中、彼の呪文が一時停止し、波が静まり、遠くで目を覚ました民たちが悲鳴を上げながら波から逃げていった。
碧螺春と松鶴延年は目で合図を交わし、二人ともこの大巫に対抗する方法を同時に思いついたのだ。
碧螺春:世間の人々は皆、神君が身を隠し、世の事を見なくなったのを知っている。君たち東方族が再び彼を呼び出したことはないはずだ、それでも邪道ではないと言い張るのかい?
大巫:違う!違うんだ!神君は東方族を見放してはいない!彼は私に龍鱗を授けたのだ!
大巫:私が神君にたくさんの供物を捧げれば、彼はその力を取り戻し、私たち東方族を再び栄光の中に戻してくれる!
松鶴延年:東方一族の者として、神君のことを知らないはずなどありません!彼が生きた者を生け贄にすることは絶対にありえないです。あなた、何かの邪な呪いに掛かっているのではないのですか?
大巫:違う!違うんだ!私と話しているのは神君だ、邪悪なものではない!彼が私を助けてくれる!私の神通力も彼によって与えられたものだ!
碧螺春:ふん、堕神を召喚する神通力だって?それをどう見ても蒼龍神君の力には見えないな。
大巫:いや、違う!私は神君が選んだ者だ……貴様ら……貴様らに心を乱されないぞ!
大巫は二人の目的を悟ったようで、歯を食いしばって再び像の前に身を乗り出し、呪文を唱え始めた。
緑葉が刃のように光り、神像は一瞬にして切り裂かれ、そこからある物が転がり落ち、大巫は大きな刺激を受けたかのように像に向かって転がった。
大巫:ああ、私の龍鱗!私の龍鱗を奪う気か!賊め、神君は貴様らを決して容赦しないだろう!
碧螺春:ほう、これが君が言っていた龍鱗か。面白いね……堅物、ほら、見てよ、これ何に似ていると思う?
―――
⋯⋯
・醜いですね、龍鱗ではないはずです。
・大巫、見てください、これ何に似ていると思いますか?
・大巫に聞くしかありませんね。
―――
風雨が止んだその時、驚いた村の人々はようやく落ち着きを取り戻した。彼らは遠くから身を隠しつつ、その場の動きに引きつけられていた。
地面に倒れているのはかつて尊敬されていた大巫。彼は何かに向かって大声で叫びながら泣いていた。そして、彼の前には、謫仙のような二人が立っていた。
月光が地面を照らし、大巫の前の物に光が当たる。それは薄い石板だった。
村人甲:龍…龍鱗?それが大巫が言っていた龍鱗?ただの石板じゃないか。
村人乙:確かに、ただの石板だ。大巫は詐欺師だったのか?彼は神君使者じゃないのか!
大巫:ありえない!ありえない!神君が私に授けたのは明らかに龍鱗だった。どうしてこのような物に……!
だんだんと増える声に、発狂しそうな大巫はとうとう叫ぶのを止め、石像のようにその石板をじっと見つめ、動かなくなる。
碧螺春:あれ?やっちまった。こいつ、怒りすぎて死んでしまったのかな……取り調べることはできなさそうだね。
松鶴延年:……どうやら本当にくるってしまったようですね。彼の東方族の正体が本当か嘘かは分かりませんが、戻って玉麒麟に話してから判断しましょう。
二人が話している間、清らかな鶴の鳴き声が聞こえてきた。海の方から二羽の青鶴が、先ほどの童男、童女を乗せて飛んできて、地面に舞い降りた。
人々は信じられないと思いながら目をこすり、青鶴が再び空へと飛び上がるのを確認した後、ようやく我に返った。
人々は皆、謫仙のような二人にひれ伏し崇め続け、そして緑と白の姿の二人はとうの昔に月明かりの中に消えていった。
松鶴延年√宝箱
中秋の夜
絶境
明月輝き、世は澄み、明るい月の下、多くの人々が絶境に集まり、賑やかな雰囲気が漂っていた。
宴の中で杯を交わし、玉麒麟が以前の出来事を話していると、君山銀針は頷いていた。
君山銀針:師匠の名前を借りてこんなことをするとは……あの大巫の正体は一体?
玉麒麟:奴の住み家で変わった紋章を見つけた。蒼龍神君の古文書によれば、それは東方族のある分家の家紋らしい。
君山銀針:東方族……本当に東方族なのか?
玉麒麟:そうだ。その家には至る所に蒼龍神君の絵や彫刻があり、寝床にも彫り込まれていた、見るだけで頭が痛くなるようなものばかりだった。
君山銀針:む……
玉麒麟:はは……毎日龍の隣で寝るなんて……可笑しな奴だ。悪夢がこわくないのか。
君山銀針:……
君山銀針:……我听闻自师父云游之后,东方族也归隐休养生息了,已有数十年没再听到他们的消息。
(意訳:……東方一族も師匠が放浪して以来、東方族も静養のため人目を避けて生活したと聞きましたが、何十年も音沙汰がありませんでした。)
君山銀針:突如現れた傍系が、仙草の噂で矛先を絶境に向けた、裏には他の勢力が関与している可能性もあるな。
玉麒麟:この騒動を起こしているのに、東方族は何も反応がない。関与している可能性もあるな。
君山銀針:師匠が東方族の隠れ住む場所を教えてくれた。必要なら、その場所へ調査に行こう。
玉麒麟:あぁ、助かる。
二人は月の光の下で杯を持ち、乾杯した。近くにいたエンドウ豆羊かんは興味津々で近づいてきた。
エンドウ豆羊かん:麒麟島主、道中で仙島や仙草の噂をたくさん聞いたが、絶境には本当に仙草があるのか?
玉麒麟:いいや、あの者の妄想のはずだ。しかし、堅物のおかげで、島に上陸する者もやっと減ったな。
エンドウ豆羊かん:だが妾は都の語り手から聞いたぞ!仙島から仙鶴が伝言を持ってきたと、「仙草は魔物を封じ込めるもの、侮ってはいけない」とな。
エンドウ豆羊かん:仙人や仙鶴などもすべて先生のことじゃな!だが……語り手は、仙人が二人いると言っておったぞ。
玉麒麟:おお?彼はなんと?
エンドウ豆羊かん:えへん……確か「緑の影が香りを追い、青雲と月を踏んで鶴とともに去る。仙侶は天で結ばれ、鸞鳳のような月の下で共にいる」とな。
エンドウ豆羊かん:麒麟島主よ、仙侶、鸞鳳は先生と……誰の事なのじゃ?
玉麒麟:……
机の全員が玉麒麟を興味深そうに見ていたそのとき、かすかな幽香が襲来し、聞き覚えのある声が漸く聞こえたのだ。
碧螺春:はは、いい詩だね〜この語り手なかなかやるね、堅物も聞いてみてよ。
松鶴延年:えっと……?また語り手が新しい物語を?内容は何ですか?
薄暗い夜の中、後からついてくる者は安らかな表情を浮かべており、その体に着た新しい衣服が月明かりや木々の影を反射してとても上品に見える。
玉麒麟:堅物、この服はどこからの物なんだ?よく似合っているぞ。
松鶴延年:前回島を出たときに街で偶然買ってしまいました。
碧螺春:はい、私が選んであげたんだよ〜この服を着た後、堅物すごく嬉しそうだったよ、ずっと鏡を見ていたね〜
松鶴延年:あなたが私の目の届かないところで服に何かをしたんじゃないかと心配したからです……もう遅れていますよ。早く席に着かないと、好きなお酒は全部無くなりますよ。
松鶴延年が珍しく真顔で注意することなく、相変わらずの穏やかな表情を見た碧螺春はさっさと口を閉じて、ニコニコと豌豆黄(※エンドウ豆羊かん)の隣に座った。
碧螺春:お嬢さん、さっき語り手のように話していたでしょ?面白いから、もう少し教えてよ、彼は何を話していたの?
エンドウ豆羊かん:その語り手は、ひたすらに話し続けて、何を言っているのかついていけなかったのじゃ。どんどん意味不明になっておったぞ。
碧螺春:おお?どんな感じ?
エンドウ豆羊かん:ある商人が道で二人の仙人に出会ったようなのじゃ!夫婦として深く愛し合っているように見える二人じゃが……
エンドウ豆羊かん:その者は、彼らは手を繋いでいる二人の美しい男の仙人だと言い張ったのじゃ、そして一人の仙人はもう一人のか弱そうな仙人のために大量の臙脂と水粉を購入したと。
碧螺春:はは、そんな粗悪な臙脂使わないよ。
碧螺春:まあ、長い話なんだけど……
松鶴延年:えへん。
碧螺春:まぁ、いっか、今日は誰かさんが珍しく機嫌がいいからね、やめておこうかな〜お嬢ちゃん、今度機会があったらここで話してあげるよ〜
エンドウ豆羊かん:ああ、これは…
松鶴延年:エンドウ豆羊かんさん、語り手が語ることは元々は市会でのくだらない嘘です、ただの娯楽ですので、真剣に受け止める必要はありません。
エンドウ豆羊かん:本当なのか……嘘だったのか。
君山銀針:エンドウ豆羊かん、さっき普洱と遊びたいと騒いでいたな?彼女が道路で転んでしまったのかもしれない、探しに行ってみたらどうだ。
エンドウ豆羊かん:あ、忘れておった!普洱は前回、砂時計を遊ばせてくれると言ったはずじゃ、探しにいくの!
松鶴延年は少女が立ち去るのを静かに見守り、振り返ったとき、向かいの者の青い瞳に出会った。彼はくすくす笑いながら首を振り、手に持った盃を相手に向けて掲げ、静かにそれを飲んだ。
時は立ち、明月が海に高くかかり、風がゆっくりと吹く。月光が全てを優しく包み込み、何千里も離れても心は一つなのだ。
碧螺春√宝箱
中秋の夜
聖教
月は明るく、星も疎ら。明るい月すら照らせない一角で、怒涛の暗流が止まらない。
チキンスープ:はぁ……以前は順調に進んでいたのに、最後になって失敗してしまいましたわね。
チキンスープ:長老、見る目がありませんわね――
チキンスープの伸ばした声が終わる前に、下の席に座っていた黒服の男が恐怖のあまり素早く立ち上がった。
???:聖女様、今回は本当儂の過ちでした……責任を逃れません。
???:儂は当初、あの餓鬼は何世代にもわたって巫術を修める家系だと考え、聖主の儀式を完了するのを助けることができるだろうと考えておりましたが。
バンッ!机を不機嫌に叩く音が黒服の男の言葉を遮り、彼はさらに恐れ頭を下げた。
チキンスープ:あれ、見た目だけの負け犬よ!聖主が彼に霊力もくださったものの!
チキンスープ:二人の食霊のほんの数言で簡単に混乱させてしまうとは!
???:聖女様は怒りをお鎮めください、まさか……あの餓鬼が狂い、自分を神の使いだと思い込むとは。
???:もう一度機会をお与えてください、聖女様。東方族を復興できるかどうかは、すべて貴方と聖主の手にかかっておられるのです。
チキンスープ:当初の計画が実現できれば、全ての儀式が完了した後、その力を吸収した聖主が当然のことながらその分け前を貴様らに、与えてくださるだろう。
チキンスープ:その頃には、偽りの神君を作り出すのも、自分が神君になるのもいとも容易いでしょう。ああ、まさかこんなにがっかりさせられるとは思いませんでした。
???:その通りでございます!儂は民のために罰を受けることをいとわない所存です!ただ聖女様に、再び我らに明確な道を示してくださるようお願い申し上げます。
チキンスープ:これは最初から考え直す必要がありますわ。聖主に報告してから話しましょう。
???:ははッ!我が一族全員が聖女と聖主の命令をお聞きいたします。
上座に座る聖女の顔色が少し良くなったのを見て、黒衣の長老はためらいながらに手を握り、疑問をした。
???:聖女様、実は些か不明な点があるのですが……
チキンスープ:どうしたのです?
???:聖主は海上で儀式で供物を捧げる必要があると予定されているのに、なぜ船隊を命じ、仙草を探しに行かなければならないのでしょうか…
???:船隊が出航した後に風波を呼び起こしてあの者たちを奉げた方が都合がよろしいのではないでしょうか……?
チキンスープ:フッ、なんて近視なこと。聖主が仙草を広めるために人々を遣わしたという噂は、本当にでっち上げられた物だとお思いなのですか?
???:もしや……仙草は本当に実在するのでしょうか?しかし、仙草は定命の者の永らえるだけ、聖主の様に神力をお持ちなのであれば、そのようなありふれたものを使用することはできないはずでしょう。
チキンスープ:聖主にはご自身の計画があれる、それについて尋ねる時間はあるのなら。一族の問題を解決する方法を考えてみてはいかがでしょう。
???:これは……聖人はこの言葉で何を意味するのでしょうか?
チキンスープ:傍系を遠くに置いただけで、身を守れると思わない方がよろしいですわ。他人が必ずしも様子がわからないとは限らない。妾の知るところでは、既にあなたの仲間の潜伏地を捜しに行く者がいるようですわ。
???:……?!
チキンスープ:何はともあれ、要求はただ一つ、この騒動で聖教を穢さないでください。
???:はい……かしこまりました。
その一方
絶境の静かな山林の中、豊かな花木の間で何かを探していたエンドウ豆羊かんは、遠くないところにしゃがんでいる見慣れた人影が見えたとき、すぐにその者の肩を叩いた。
エンドウ豆羊かん:普洱、一人で何をしておるのじゃ?晩宴はもう始まっておるぞ。
普洱:あぁ、エンドウ豆羊かん……あなたですか。
月明かりを通して、エンドウ豆羊かんは普洱の手に持った小さな赤い花がはっきりと見えた、赤い葉と赤い花が月明かりの下で伸び、無限の生命力を秘めているように見えた。
エンドウ豆羊かん:おぉ、美しい花じゃ……まてーー普洱、お主の手の中で枯れておらぬ!素晴らしい!
普洱:いいえ……それだけではありません、あそこを見てください。
エンドウ豆羊かんが普洱の指に沿って見ると、木の下に幾つかの赤い花で覆われた何匹のヒナが静かに横たわっているのが見えた。
エンドウ豆羊かん:む、この小鳥たち……?木から落ちたのか?
普洱:本当は埋めようと思っていたのですが、このお花を置いてみたら……
普洱が言葉を終える前に、ヒナが何かを感じ取ったかのようにもがき始め、まるで知能が備わったかのようにその赤い花を啄んだ、そして次の瞬間、なんと羽をばたつかせてまた飛び去っていた。
エンドウ豆羊かん:見間違えたのかの?生き返った?花を食べて……生き返った?!
エンドウ豆羊かん:待て待て……次々と全員生き返っておるだと?!どういう事なのじゃ?
普洱:私にも分かりません……
エンドウ豆羊かん:死者を生き返らせる……仙草?!絶境にある仙草は、この小さな赤い花なのか?
二人が一斉に赤い花に視線を戻すと、月明かりの下、血のように赤く妖艶な花は小さく揺らめいた、まるで悠然と微笑んでいるようだった。
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