創始頌・ストーリー
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創始頌
目次 (創始頌・ストーリー)
創始頌-序章
預言前夜Ⅰ
創世日前夜
法王庁
チェダーチーズ:は……ら……………………へった!!!
タイガーロールケーキ:っつ――何を叫んでるんだ、びっくりしただろ……それと、腹が減っても俺のシッポを食うなよ!
チェダーチーズ:ぺっ。まずい。
タイガーロールケーキ:……╬!
パニラマフィン:あの、この前森を通った時に摘んだ果物がまだある……チェダー、食べるか?
チェダーチーズ:結構。あんなものが好きなのは馬だけだ。
タイガーロールケーキ:お、お前調子に乗るなよ!
チェダーチーズ:Emperor――!飯!いつなの!
カイザーシュマーレン:ああ、もう少しの我慢ですよ、チェダー。もうすぐ……「宴会」が始まる。
横で寝返りをうっている人に構わず、青年の声は依然として穏やかでのんびりとしていて、ずっと黙って本を読んでいた鴨のコンフィも思わず彼の顔に視線が移った。
鴨のコンフィ:とはいえ、貴方が最初に選んだパートナーが法王庁だったということに、いまだに驚かされるわ。
カイザーシュマーレン:パートナー?ふ、そう理解できなくもないですね。
鴨のコンフィ:?
プレッツェル:お待たせしました。教皇さまは創世日祭典のたくさんの事柄を解決したばかりです。今から私が皆様を会議室に案内します。
カイザーシュマーレン:神父さま、ありがとう。だが、私一人で教皇様に会えばいいですよ。
初対面にしては少し優しい口調だったので、神父は一瞬固まったようだった。彼はうなずいて、カイザーシュマーレンを会議室に連れて行った。クロワッサンはすでに中で座っていた。
***
クロワッサン:この時間に法王庁を訪れるということは、何か特別に重要な件なのでしょうか。
カイザーシュマーレン:もちろん。そうでなければ、再び法王庁の客人になる幸運はおろか、教皇様のこの態度を見る限り、私たちは今後ブラックリストに入れられてしまうでしょう。
クロワッサン:……創世日祭典を間近に控え、この機に乗じて暴動を起こそうとする人がいるのは避けられない。法王庁はもちろんそのような客人を歓迎しません。
カイザーシュマーレン:だから私も法王庁のために悩みを解決したいんです……法王庁は黒い霧の姿をした堕神を追跡しているが、進展はないと聞きました。
クロワッサン:あなたはそれがどこにいるか知っていますか?
カイザーシュマーレン:いや。しかし、敵を後ろから追いかけ回すよりも、脅威を一気に取り除いたほうがいいのではないでしょうか。
カイザーシュマーレン:もし私が問題を根本から解決する方法を持っていれば、法王庁は私と協力する意向はありますか?
クロワッサン:……正直なところ、誰が「パラダイスサーカス」事件を引き起こしたのか私はすでに知っています。言うまでもなく、彼は法王庁のパートナーにはなれません。
カイザーシュマーレン:ハハ、法王庁はいわゆる「正義」にとりわけ固執している。それもそうだ。正義のためにかつての親友まで見捨てることができるのだから、私のような赤の他人はなおさらですね。
クロワッサン:なんて?
クロワッサン周囲の冷気をはっきりと感じられたが、カイザーシュマーレンは収束するつもりはなく、むしろわざと相手を刺激していた。
カイザーシュマーレン:何か間違ったことを言いましたか?さもなくば、法王庁はどうして陥れられて堕化した仲間に背を向けて、追放することができたのでしょうか?
クロワッサン:そんなことしたことがない。私は彼を終始信じます。
クロワッサン:これは法王庁の私的な問題であり、部外者に口を挟ませるつもりはありません。
カイザーシュマーレン:本当にそうなんですか?しかし、貴方は堕化を完治させる治療法には関心がないように見えますね。
クロワッサン:堕化を治療……あなたは何を知っている?
カイザーシュマーレン:ハハ、私もこのような貴重な情報を長期間調査してきたのに、何も知らない法王庁に渡すのは気が引けます。
クロワッサン:……
カイザーシュマーレン:ですが、もし私たちがパートナーになれば全てが変わります。知っていることを全て話します。
クロワッサン:……あなたが言う協力とは具体的に何を指しているんでしょうか?
カイザーシュマーレン:私のある友人がパラタで頭痛の種になることをしています。それはこの世界の「創始の力」と関係しています。
クロワッサン:創始の力?
カイザーシュマーレン:ええ、それはかなり恐ろしい力です。もし彼が成功すれば、私や法王庁だけでなく、ティアラも全て存在しないかもしれません。だから……
カイザーシュマーレン:たとえ今、私が貴方の目にただの殺戮好きの狂人と映ったとしても、私と協力することは、一刻も猶予できない選択です。
クロワッサン:なるほどね。じゃあ私は何をすれば?
カイザーシュマーレン:もちろん彼を制止することです。
クロワッサン:もし人手が必要なだけなら、あなたには選択肢がたくさんあり、法王庁に来る必要はない。
カイザーシュマーレン:その通りです。貴方にペリゴール研究所からコアな研究者を何人か借りてきてもらいたい。
クロワッサン:ではどうしてあなたが直接ペリゴールのところに行かないんだ。それに……
クロワッサンはそれ以上質問をしなかった。目の前の青年が「ひと目でわかるだろ」という表情をしているのを見たからだ――
カイザーシュマーレン:私がまだペリゴールを脅迫するのに使えるものを何も持っていないため、法王庁を利用して便宜を図ってもらうしかないんです。
預言前夜Ⅱ
数日前
サヴォイア国外
バクラヴァ:……パルマ、あとどれくらい心の準備をしたいんだ?君の旧友に会いに行くだけだ……
パルマハム:黙って、俺今……おえ……
スブラキ:あ!緊張で吐いたのか?本当に深刻そうだな……
フェジョアーダ:お前は彼らと一緒にサヴォイアを再建せずに、自分で別れも告げずに出て行ったんじゃないのか。もし本当に仲の良い友達なら、お前が戻って謝りさえすれば彼らも何もしないだろう。
パルマハム:……
キャラメルマキアート:もしかしたら彼らの間には私たちが知らないことがあるのかも……バクラヴァ、パルマが今こんな様子だし、サヴォイアに行く件を延期しない?
バクラヴァ:おや――預言書に何が書いてあるか見てみる!
バクラヴァが預言書を使う状況は多くなく、メンバーたちも好奇心を持ち、続々と集まってきた。
フェジョアーダ:どう?何が見えた?
バクラヴァ:えっと……サヴォイアは……安全だって!ほら、サヴォイアに行っても全然……待って!
パルマハム:どうした?
バクラヴァ:破滅……
パルマハム:なんだって!?サヴォイアが破滅する?!!
バクラヴァ:いや……サヴォイアじゃなくて、俺の実家というか旧友というか……これはまずい。
シュメール探検隊の隊長として、実はバクラヴァが真剣な表情を見せることは少なく、普段は騒がしいメンバーたちもそれを見て真剣に受け止めずにはいられなかった。
ムサカ:戻らないのか。
バクラヴァ:え?
フェジョアーダ:そうだよ、預言書にはお前の故郷や友人が危険にさらされるって書いてあったけど、助けに行かないのか?
バクラヴァ:だが俺らはさっきサヴォイアに着いたばかりだし……それに俺が戻ったとしても力になれるとは限らない……
キャラメルマキアート:バクラヴァらしくないよ。「『できない』のと『何もしない』のは違うから」って自分で言った言葉でしょ?
バクラヴァ:でも俺は今探検隊の隊長なんだぞ。お前らのことを考えないで自分のことだけ考えられるわけないだろ……
キャラメルマキアート:もう、どうしてそんなにくどいの!私たちこんなにいるんだから、バクラヴァが何人か連れて行って、残りの人はその場で待機すればいいでしょ?
スブラキ:マキアートの言う通りだよ。どうせ隊長は武力で勝てそうには見えないから、助っ人を1人か2人連れていけばいいよ。
バクラヴァ:君の「武力で勝てそうには見えない」という発言が気になるが、だが……君らの言う通りだ!さすがに俺の選りすぐりのメンバーだけあって、肝心な時は頼りになるな~
バクラヴァ:じゃあマキアート、君とスブラキそれとムサカはここに残って。野良猫ちゃんは俺と一緒にパラタに行くぞ。
フェジョアーダ:っつ、その呼び方はやめろって何度言ったらわかるんだ!
パルマハム:えーと……俺のことを忘れたの?
バクラヴァ:まさか、君にはもっと重要な任務を与える――グレロに行ってティアラを救う存在を見つけて、それをパラタに持って行って俺らと合流する。
パルマハム:ままま待って……ティアラを救う存在?それはなんだ?どうして急に事が大きくなった?預言はパラタじゃなかった?どうしてまたティアラの話が?
バクラヴァ:まあ、俺の実家は特殊だからな、もし何かあったらただごとじゃない。
パルマハム:でも……グレロはあんなに大きいのに、具体的にどこに行って探せば?
バクラヴァ:うーん……預言は具体的には言わないからな……
パルマハム:……君の預言はいったい当てになるのか……
バクラヴァ:絶対に頼りになる!これはティアラ全体にとって一大事だぞ!君に質問をさせる時間もない……
バクラヴァ:とにかく自分の感覚に従っていけばいい。グレロに着いたら、君は主のもとに導かれるだろう!そうだ、悪魔の目をつけて。預言の中の存在に遭遇したら、悪魔の目は反応するはずだ。
パルマハム:……そんな重要な任務を俺に任せていいのか?俺は傷だらけのサヴォイアから逃げ、今でも全てに向き合うと思うと緊張して吐き気がする臆病者だと知らないわけじゃないだろう……
パルマの話はバクラヴァの平手打ちによって中断された。彼は肩に置かれた手を見て、また隊長の安心させられる笑顔を見た。
バクラヴァ:君を信じてるぞ、パルマ。今回、きっと、きっと俺らをがっかりさせない。
創始頌-メインストーリー
深淵に近づくⅠ
パラタ
アビドス
フェジョアーダ:ここがお前の故郷だったのか……
バクラヴァ:ああ、俺と比べたら退屈じゃないか?
フェジョアーダ:え、どれだけ自分が面白いと思ってるんだ。
バクラヴァ:えっと……戻ってくるには戻ってきたが、どうやって彼女と会えばいいんだ?
フェジョアーダ:誰だ?
バクラヴァ:「破滅」の預言が何度も出てきた旧友。今度はアビドスと同時にこんな預言が……どうやら次の災難と彼女は切っても切れない関係があるようだ。
フェジョアーダ:……彼女に何度も預言をしたことがあるのか?特定の人の預言をすることはないと言っていたが?
バクラヴァ:その時の俺は若かったからなあ~ん?フェジョちゃんまさか嫉妬してるのか!おや、俺らが初めて会う前から、君のために預言していたんだぞ!
フェジョアーダ:わかった、わかった、でたらめを言うな。友人の状況は良くないんだろ、早く彼女を探しに行こう。
バクラヴァ:あ……でも城にどうやって入るかも問題だ。
フェジョアーダ:城?それはなんだ?
バクラヴァ:アビドスの心臓であり、王宮よりも尊く、警備が厳重で……神秘的で恐ろしい。俺の旧友はそこに住んでいる。もしアビドスに何かあれば、そこで何か問題があったに違いない。
バクラヴァ:うーん……まず強攻は絶対にできない。次に礼儀正しくドアをノックしてもダメだろう。城の主が俺を見るなり、直接俺を縛って地下室に放り込むだろう。
フェジョアーダ:お前以前いったい何をしたんだ……
バクラヴァ:何かをしたというより、何もしなかったと言おう。俺は彼の預言者になり続けることを拒否し、アビドスから逃走した。
フェジョアーダ:パルマと同じじゃないか……お前も城の主が怖いのか?
バクラヴァ:あのような存在を恐れない人はいないだろう……
フェジョアーダ:あのような存在……?
パンッ!パンッ!
バクラヴァ:危ない!何者だ?!
***
銃声が響いた瞬間、バクラヴァはフェジョアーダを素早く自分の後ろに引き寄せた。砂漠の高温と猛烈な太陽が遠くの人影を歪んだ霧で覆い、声さえも歪んでぼやけて聞こえない。2人はその場にとどまって待つしかなかった。
ファラフェル:誰だ?これは吾が聞きたい問題だ!貴様らは誰だ?城の者か?
バクラヴァ:俺らどう見ても城の人には見えないよな、むしろ変な人……え?
距離が縮まり、ようやく互いの顔をよく見た2人は、しばらくしてから驚き叫んだ。
バクラヴァ:王位継承者の殿下?!
シャワルマ:キミたち知り合いだったんだ、だから手当たり次第に撃つなって言ったんだよ。
クナーファ:ファラフェルの銃の腕が悪くてよかった。じゃなければ……
ファラフェル:ゴホン、わ、吾は貴様らを守るためだぞ!
バクラヴァ:ふふ、殿下は少しも変わっていないな……でも王室が城と接触することは許されていないのでは?この道は城にしか通じていない。ここで何をしているんですか?
ファラフェルは突然何かを思い出したようで、眼差しは暗くなり、まるであの暗い日に戻ったようだった。
ファラフェル:そうか、貴様はまだ知らないだろう……オアシス捜索隊が出発前に王宮で襲撃を受け、捜索隊は誰も生き残らなかった。
バクラヴァ:あのずっと前から結成されていた捜索隊ですか?干ばつで雨の少ないアビドスにおいて、新たなオアシスを探す捜索隊は全ての人の希望だったはず?襲撃されるだなんて……いったい誰が……
ファラフェル:王室にそんなことができるのは、「城」以外吾には考えられない!多くの人の命を無にし、父上までも……吾は絶対に奴を逃がさない!
バクラヴァ:国王陛下まで……また悲しいことを持ち出させてしまった、すみません。
ファラフェル:あまり驚いているようには見えないが……預言していたのか?
バクラヴァ:いや、多かれ少なかれ見当がついただけです。しかし、失礼ながら、城の主は……
ファラフェル:奴がパラタで最強の力を持ち、神のような存在であることは知っている……だがそれは吾を臆病者にさせる口実にはならない。言うまでもなく、この2人の新しい友人には驚くべき力がある。
クナーファ:いやいや、私はただの傭兵で、何も驚くべき力なんてない。
シャワルマ:そうだよ、キミはボクらを高く評価しすぎだよ……決着をつけるために城に行くのは、もう一度計画を練った方がいい。
ファラフェル:……
ファラフェルは気まずそうに硬直しているのを見て、バクラヴァは笑顔で場を切り上げようとした時、背後から見知らぬ声が聞こえた。
カターイフ:あの、キミらも……城に行くの?
ファラフェル:!!
深淵に近づくⅡ
ファラフェル:あ、あなたは城の……
突然現れた少年はファラフェルに対して視線が少しぎこちなかったようだが、歯を食いしばってファラフェルの目を真っすぐ見ようとした。
カターイフ:……国王の件は本当に申し訳ない、お悔やみ申し上げる。
ファラフェル:申し訳ない?やはり城の仕業なのか?
カターイフ:え?
ファラフェル:奴は無実じゃない……だろ、王子様。
カターイフ:……
シャワルマ:王子?城に住んでいるあの……
ファラフェル:そうだ、あの王室によってスラムから拾われ城に送られ、栄華ある生活を送る王子様だ。以前奴が王宮に視察に来た際に、吾は遠くから顔を見たことがあるから間違いない……
ファラフェル:そういえば、爆弾はその時に仕掛けられたのだろう。恩知らずな奴め。もし父上がいなかったら、貴様はとっくにスラムで死んでいただろう!
カターイフ:オレ……爆発の件はオレがやったんじゃない。でもオレがこの事件に関与してないとは言い切れない……
ファラフェル:この虫けらども!アビドス全体が城の支配下にあるのに、貴様らはまだ満足していないのか?いったい何のために、その人命を犠牲にしなければならなかったんだ!!
カターイフ:……ごめん、オレもわからない。
ファラフェル:何ですか?
カターイフ:オレは長期間城で暮らして、全員から王子として尊敬されているが、確かに……何もわからない。
ファラフェル:貴様……!
バクラヴァ:殿下落ち着いてください。城の主を除いて、そこにいる全員が傀儡にすぎないことは君も知っているだろ。
ファラフェル:……
バクラヴァ:ところで、こちらの王子様はなぜ城にいないんですか?わざわざ話しかけてきて、敵意があるようにも見えないし……何か用でも?
カターイフ:……正直なところ、今オレの頭の中が混乱していて、はっきりしているのは、自分では何もできないということだけ……
カターイフ:だからキミらにある人物の調査を頼みたいんだ。
ファラフェル:ふ、王子様が頼み事をする必要があるのか?城の命令に背く者はいない。
カターイフ:……オレが調査したいのは城の者だ。
ファラフェル:……
ファラフェルはここでやっと真剣な眼差しでカターイフを見た。何も知らない、何もできないと自称する王子様が思っていたほど世間知らずで無能ではないかもしれないと気づいたからだ。
カターイフ:オレが調査したい人は少し前に城に来たばかりで、彼が来てからいろいろなことがおかしくなってきた……
カターイフ:オアシス捜索隊の件も彼がやったと疑っている!
ファラフェル:疑っているなら、貴様が調査すればいいじゃないか。なぜ吾らが貴様を助けなければならない?
カターイフ:友人を探しに行くけど……兄とその人は仲が良いから、兄を悲しませたくないんだ。
カターイフ:もちろんキミらにタダで手伝ってもらうわけじゃない!さっきのキミらの会話を聞いたけど、城の中に入りたいんでしょ?城に入るのを手伝うことができるよ。
ファラフェル:貴様は「傀儡」じゃないのか?どうやって?
カターイフ:な、なんとかなるでしょう……どう、オレを手伝ってくれる?
ファラフェルが何も言わず、深刻な表情をしているのを見て、バクラヴァは思わず前に出た。
バクラヴァ:えっと、この人物を調査してもいいと思います。彼から調査を始めて、殿下は……
ファラフェル:貴様が調査したい奴の来歴は何だ?なんてやつ?
カターイフ:オレが知ってるのは、彼はグレロの商人で……ヴィダルという名。
ファラフェル:ヴィダルか……フン、貴様が会ったのが吾でよかったな。行くぞ、吾らを城に連れていけ。
ファラフェルがまずヴィダルの調査に同意したのを聞いて、バクラヴァは安心したが、ファラフェルの興味がある様子を見て頭が痛くなり、急いで彼を止めた。
バクラヴァ:待って、俺らみんなで一緒に城に行くの?それは無理だろう……
シャワルマ:うん、特にファラフェルの性格は門に着いた途端に刺客として捕まるかもしれない。
ファラフェル:……なら、吾は貴様らの考えを聞こう。
***
翌日
城
兵士:王子様、おかえりなさいませ。
カターイフ:はい。こちらの2名はオアシス捜索隊の再建について話し合いに来た客人で、姉がキミらに話したことがあるだろう。
兵士:はい、ようこそ。
門の前にいた兵士はロボットのように無感情に話し、城に入る道を譲った。
***
シャワルマ:まさか本当に入れるなんて……でもボクらだけで大丈夫?
クナーファ:仕方がないさ。ファラフェルとバクラヴァさんは城の人に会ったことがあるし、フェジョアーダさんはパラタについてよく知らないから適切ではない。潜入する仕事は私たちだけしかできない……
カターイフ:しっ――き、緊張して、リラックスしないで。オレらならできる。
クナーファ:うん……君が一番緊張してるように見えるけど……
カターイフはクナーファのツッコミを聞き取れず、思わずまた2回深呼吸をして、緊張しながら会議室に連れて行った。
カターイフ:後で兄と話をするから、絶対に気をつけて……
言い終わると、カターイフは丁重にドアをノックした。ドアの中からすぐに男性の声が聞こえてきた。重厚なドアを隔てても、声は大きく透き通っていて、聴く者の頭の中に真っすぐ届くようである。だが不思議なことに、シャワルマとクナーファはその声が具体的に何を言っているのか聞き取れなかったようで、ドアがゆっくりと開くのを見た……
***
きらびやかな白金色、神聖で優しく、大自然のように広大で、彼に属する全てのものに対する恐怖が一瞬にして襲い掛かってきた。これが城の主。
フィテール:カターイフ、こちらが君とコシャリがどうしても私に会わせたいという客人か。
カターイフ:はい……兄さん……
フィテール:まあ……かろうじて。
カターイフ:???
深淵に近づくⅢ
コシャリ:コホン。この2人はメンカウラーでは有名な傭兵です。身体的な素質から言えば、捜索隊の人間よりずっと優れているに違いないわ。短期間でオアシス捜索隊を再建したいなら、彼らが最善の選択だと思うわ。
フィテール:ええ……
シャワルマ:もしボクらを信用していないのならば、今すぐに実力を披露しましょう。
フィテール:必要ないです。
シャワルマ:えっと、ボクら2人だけじゃなくて、前の捜索隊に負けず劣らず、たくさんの仲間がいます。
フィテール:うん。
シャワルマ:(何だよこいつ……全然興味がないようだ……)
クナーファ:ご心配なく、私たちには人力だけでなく、大量の武器もあります。自然災害だろうと堕神であろうと私たちのチームに脅威を与えることはできません。
フィテール:そうか。
クナーファ:……
フィテールの変化に乏しい返事に場の空気が一瞬凍りつき、クナーファとシャワルマが計画は失敗すると思った時に、優しく甘い男性の声が響いた。
ヴィダルアイスワイン:ハハ、そんなに優秀なチームなんだから値段も安くはないよね?
シャワルマ:え、ボクらは安い!
クナーファ:間違いない!しかしそれは他の理由でもなく、私たちの武器にはお金がかかってないし、リーダー自身もお金持ちです。
ヴィダルアイスワイン:え?そんな人が傭兵になるのを選ぶとは……スリルを味わいたいのかな?
クナーファ:はい、おっしゃる通りです……
ヴィダルアイスワイン:面白いな……あ、そうだ、自己紹介を忘れてた。ヴィダルと呼んでくれ。
クナーファ:……こんにちは、ヴィダルさん。
クナーファ:(カターイフが言っていたのは彼のことか……こんなに無邪気に見える若者が、本当にすべての黒幕なのか……)
ヴィダルアイスワイン:フィテール、オアシス捜索隊の再建は僕に任せてもらえる?
フィテール:君がしたいならいいよ。
ヴィダルアイスワイン:じゃあまた別の時間を設けて話そう。できれば、2人のリーダーと直接話したいな。
クナーファ:あ、問題ないです!
ヴィダルアイスワイン:ハハ、よかった。じゃあ契約書を作成させるから、先に失礼するよ。
ヴィダルはそう言って去っていった。シャワルマとクナーファが安堵のため息をついたところで、フィテールの人の心を震え上がらせるような声が聞こえてきた。
フィテール:君たち2人も帰っていい。
コシャリ:もう夜も遅いし、泊めてあげましょうよ。後でヴィダルたちは打ち合わせの時間も話し合わないとでしょ。
フィテール:城は部外者を泊まらせない。
コシャリ:……ヴィダルも城に泊まったことがあるでしょ。前例はすでに破られてるんだから、もう一度破ってもおかしくない。
フィテール:ダメだ。
コシャリ:だが……
シャワルマ:うっ……。
コシャリ:?どうかしたのか?
シャワルマ:めまいが……それに胸も痛い……
クナーファ:私たちは任務を終えたばかりで来たので、数日間休めておらず、たぶん疲労です。
コシャリ:ならやっぱり休んだ方がいいわね……
フィテール:城に医者はいない。暗くなる前に君たちは早く離れた方がいい。
シャワルマ:……えっと……
クナーファ:シャワルマ?シャワルマ!起きろ!彼……眠ったみたいだ……
フィテール:じゃあ彼を起こして。
クナーファが困った顔をしているのを見て、フィテールは真っすぐ2人に向かって歩き、クナーファは無意識に後ずさりした。フィテールはしゃがみ、シャワルマの顔を30秒近くつねったが、反応は見られなかった。
フィテール:本当に目が覚めない。
コシャリ:……城の客人でもあるし、追い出す必要もないでしょう。
フィテール:はい。ではカターイフ、彼らを空いている部屋に連れて行ってくれ。
カターイフ:兄さんわかった!
フィテールはカターイフを無表情に見て、地面に横たわって動かないシャワルマを振り返ったが、異常には何も気づいていないようだった。彼が去った後、クナーファは急いでつねられた赤くなったシャワルマの顔をさすった。
クナーファ:シャワルマ?いいよ、シャワルマ、彼はもう行ったよ。
シャワルマ:ふう……なんとか騙すことに成功した!
コシャリ:騙せたか騙せてないか不明だけど……でもあなたが我慢できるとは思わなかったわ。フィテールの力は小さくないでしょう?
シャワルマ:大丈夫だよ。スラムにいた時は、これよりも辛い経験がたくさんあったから。
シャワルマの屈託のない笑顔を見て、クナーファの鼻はじんとして、目の前が一瞬にしてぼやけた。
シャワルマ:おい、今にも泣きだしそうな顔をしないで!ボクは本当に大丈夫だから……そうだ、急いで調査しよう!
クナーファ:うん、そうだな。コシャリさん、私たちはどこから始めたら?
コシャリ:あのヴィダルが奇妙な人を連れて来たの。それに疑わしいことに、彼らは私たちが立ち入ることが許されていない城の地下に行ったの。
シャワルマ:だから、ボクらがまず最初に地下を調べればいいんでしょ。
コシャリ:私とカターイフでフィテールを引き留めるけど、でもあなたたちも気をつけてね。
カターイフ:これからはキミらにお願いするよ。
潜伏と覗きⅠ
翌日
メンカウラー
モカ:この値段……傭兵の中では確かに珍しい。
ヴィダルアイスワイン:珍しいだけじゃないよ。相手は自分で武器や生活必需品を準備するから、ほとんどタダみたいなもんだよ。
モカ:なんだか怪しい。
ヴィダルアイスワイン:そうだ、だから僕らもその「慈善家」に直接会わないとね。
モカ:うん……ここなのか。
***
バクラヴァ:いらっしゃいませ――どうぞ2名様お入りください~
モカ:……
バクラヴァの90度に曲げた体と大げさな笑みは、罠があると覚悟していたモカを一瞬硬直させた。
ヴィダルアイスワイン:……ハハ、元気だね~
フェジョアーダ:(小声)このバカ!こんなに礼儀正しい傭兵がどこにいる!
バクラヴァ:コホン……すまんすまん、実は新入りで、まだ前の癖が抜けていないんだハハハ。
ヴィダルアイスワイン:大丈夫、面白い人と仕事をするのは楽しいから。
バクラヴァ:いやあ、本当に優しいですね!ではこちらへどうぞ――
***
ファラフェル:待っていたぞ、グレロからきた客人たちよ。
ヴィダルアイスワイン:客人よりも未来のパートナーと言った方がいいかな。
ファラフェル:おお?つまり吾の傭兵に興味があるのか?
ヴィダルアイスワイン:ここまで安い傭兵代は珍しいから、詐欺ではないかと疑ってしまう。
ファラフェル:詐欺?わ……吾は詐欺などしないぞ。正直、吾は金に興味がない。後ろにある武器を見たか?それらがあれば、権力や地位など吾にとって難しいことではない……
ファラフェル:もし貴様が好きなら、これらの武器全てを持って行っても吾は構わない。父が……父上が残したものだから、吾のところに置いてあっても役に立たない。
ヴィダルアイスワイン:費用を払う必要のない取引こそ危険だ。全く見返りを求めないわけではないでしょう。僕にできることは?
ファラフェル:簡単なことだ。メンカウラーは実に退屈だ。貴様はこれほどの武器と傭兵が必要なのだから、何か危険なことをするだろう……吾の退屈を紛らわすのには十分だろう?
ヴィダルアイスワイン:なるほど、君はスリルを求める冒険家なんだね。
ファラフェル:どうだ、吾を仲間に入れるなら、武器も傭兵もメンカウラーの名声と権力でさえ貴様にやることができる……お得な取引だと思わないか?
ヴィダルアイスワイン:ハハ、確かに。でも……契約書を作り直すことになるね。
ファラフェル:へ?何が契約だ、バートナーの間で最も重要なのは信頼だ!そうだ、信頼と言えば……
ファラフェル:貴様は吾が何を望んでいるのか知ったが、吾は貴様のを知らないぞ。普通の商人にはこれほどの武器や傭兵は不要だろ?貴様はいったい何をしている?
ヴィダルアイスワイン:今の世の中、普通の商人でも武器で身を守ることが必要だよ。ましてパラタで商売をするなら尚更。
ファラフェル:その通りだが……でもどうやってあいつと知り合ったんだ?
ヴィダルアイスワイン:あいつ?
ファラフェル:城の主だ!アビドスの庶民が会うのは不可能なことだ。まして貴様は外国人だ。いったいどんな手段を使った?
ヴィダルアイスワイン:手段?ハハ……たまたま幸運にも、あの人に寂しさを紛らわす方法を提示しただけだよ。
ファラフェル:寂しさ?アビドス、さらにはパラタ全体でも神とみなされる人物でも寂しさを感じるのか?
ヴィダルアイスワイン:いやあ、神に近づけば近づくほど寂しさを感じやすくなるんだよ。
ファラフェル:わからない……では寂しさを紛らわせる方法とは?貴様と一緒にビジネスか?それとも……殺人か?
ヴィダルアイスワイン:全部違うよ。彼の心が渇望しているものを取り戻すのを手伝っただけ。
ファラフェル:なるほど……よし、行くぞ!
ヴィダルアイスワイン:え?どこに?
ファラフェル:吾らはもう協力することに同意しただろう?ならもちろん貴様らと一緒に行くぞ!吾を冒険に連れて行くと約束しただろう?気が変わったか?
ファラフェルはヴィダルの口からもう情報を聞き出せないと判断し、厚かましくも自分も一緒に連れて行くようにと言った。ヴィダルも彼をじっと見つめて同意した。
数人が去った後、奥の部屋に隠れていたフェジョアーダはやっとため息をついた。
フェジョアーダ:計画通りに進めれば、すぐに結果が出るはずだ……今のところ順調だよな?どうしてまだ顔をこわばらせているんだ?
バクラヴァ:だって……
バクラヴァは泣くに泣けず笑うに笑えない様子で、手の預言書を見ていたが、いつものんきなその顔には珍しく苦渋に満ちていた。
バクラヴァ:預言書の「破滅」、少しも消える気配がない……
潜伏と覗きⅡ
ラテ:ふう……彼は気づいてないよね?
モカ:うん、たぶん気づいてない。
ラテ:よし、今のうちに隠れよう……
ラテ:…………
ファラフェル:お、見つけたぞ。どこに行くんだ?吾の冷えたワインはどこだ?
ラテ:……こんな場所のどこに冷えたワインなんてあるんだよ……
ファラフェル:あれ?ヴィダルは貴様らにしっかりと吾の面倒を見るように言わなかったのか、吾の理解が間違えていたのか?再確認するべきか?
ラテ:……氷とワインを君に渡すためなら手段を選ばず、命をかけても手に入れる!
ファラフェル:ワインは少なくとも30年熟成させたやつだぞ~
ラテ:……
モカ:行くぞ。闇市を見てみよう。
ふくれっ面をしたラテをモカが押して出て行くのを見て、ファラフェルは満足そうに手をすり合わせた――
ファラフェル:ふ、これで奴らはすぐには戻ってこれないはずだ。今のうちにヴィダルの動向を見に行くぞ!
ヴィダルらが宿泊しているホテルは大きくなく、ファラフェルは一部屋ずつ探し、すぐにヴィダルのいる部屋を見つけた。ドアに鍵がかけられているのを見て、急いで隣の部屋に隠れ、長い時間をかけてようやく壁に釘で打ち付けられた小さな穴を見つけた。
ファラフェルはそっと釘を抜き、小さな穴から隣の部屋に目を凝らした。ヴィダルともう1人が四角形のロボットに向かって何かいじっているのがかすかに見えた。
ファラフェル:(何をしているんだ?あれは魔術なのか……)
***
カフェオレ:もしもし――聞こえるかしら?見える?カフェオレ間違ってない?
ヴィダルアイスワイン:ハハ、カフェオレ素晴らしいよ。モントリオール、始めていいよ。
モントリオールスモークミート:わかったわ。
ヴィダルは横のソファーに腰かけ、それによってファラフェルはその四角形のロボットの上で異境の写真を投影しているのがぼんやりと見ることができた……
***
チキンスープ:グレロからの客人、妾にわざわざ会いに来たが、用件は何かしら?
モントリオールスモークミート:ふふ、聖女のご高名はかねてより伺ってて、ずっと会いたいと思っていたの……今日会ったけど、本当にその名にふさわしいわ。
チキンスープ:お世辞はこれくらいにして。はるばる耀の州まで来たのだから、妾の姿を見るためだけではないはず。
モントリオールスモークミート:聖女はわたしが思ってたよりもずっとあっさりしているね。今日は気分がよくないの?それは……聖主が降臨できず、ますます弱っているから?
チキンスープ:……これはどこで聞いたデマ?
モントリオールスモークミート:デマかどうかは、わたしよりも聖女の方がよく知っているはず。だけど、わたしは聖教の笑い話をわざわざ見に来たわけじゃなくて……聖女に良い知らせを伝えに来たの。
チキンスープ:良い知らせ?
モントリオールスモークミート:聖女は聖主が弱っている理由がわからないから、そんなに悩んでいるのよね……その「原因」さえ解決すれば、聖主の力はさらに増大するわ。
チキンスープ:では、貴方はその原因を知っているのか?
モントリオールスモークミート:天幕と山河陣。
チキンスープ:……他に何を知っているの?
モントリオールスモークミート:ふふ、もしわたしの情報が正しければ、聖主の力は堕神と同源で、この世界で最も深い悪念……
チキンスープ:情報?どこから手に入れた情報なの?
モントリオールスモークミート:以前耀の州の聖君継承式には、神恩軍、法王庁、そしてビクター帝国の国王まで遠くから来ていた――まさか本当にお祝いのためだけじゃないよね?
モントリオールスモークミート:わたしの知る限り、かれらはグレロとナイフラストを悩ませている黒い霧のような存在をずっと追っている……誰もそれが何なのか知らず、恐ろしい力を持っていることだけ知っている。
チキンスープ:……
モントリオールスモークミート:そうすれば全てが通じる。耀の州は天幕と山河陣に守られているため、外界から堕神の侵入は難しく、本土の堕神もすぐに一掃される……聖主の力の源も断ち切られた。
モントリオールスモークミート:だから天幕と山河陣さえなくなれば、耀の州はもちろん、ティアラ全体でも聖主の敵はいなくなる。
チキンスープ:貴方は異境から来ているのに天幕と山河陣についてこんなに理解しているとは思わなかったわ……言っていることが本当だったとして、貴方と何の関係があるの?先に言っておくけど、聖教信者だっていう言い分は信じないわ。
モントリオールスモークミート:ふふ、わたしが聖女のところに来たのはわたしたちの目的が同じだからよ――天幕と山河陣を破壊する。
チキンスープ:……できない。
モントリオールスモークミート:あれ?聖女は聖主が本来あるべき力を取り戻したくないの?
チキンスープ:実際は……まだ完成してないわ。
モントリオールスモークミート:もし技術方面の問題であれば、聖女の心配はいらないわ。わが社はすでに新しい技術を開発したから、ちょうど聖主を援助し、大業を実現することができる。
チキンスープ:ふ、その技術が信頼できるかは別として、貴方たちが聖主を援助する本当の目的は……非常に疑わしい。
モントリオールスモークミート:聖女は安心してね。わが社は人の上に立つとか世界の支配者になるとか……そういうことに興味はないわ。
モントリオールスモークミート:わたしたちはこの技術が世界にどれだけ害を及ぼそうとも、ただ技術を発展させ続けたいだけ……いや、むしろ、害を及ぼせば及ぼすほど、わが社の価値は高まると言えるわ。
チキンスープ:うん……わからないわ。
モントリオールスモークミート:「パラダイスメイカーズ」は幸福なパラダイス建設を目的としてるけど、パラダイスの主になるつもりはなく、完成したものに興味もない……こう言えば、聖女は少し理解できる?
チキンスープ:ふふ、本当にそれ以外何も……興味がないの?
チキンスープの眼差しは冷たく、すぐに前に出て三本指でモントリオールの喉をおさえつけて、冷たく言った。
チキンスープ:貴方の命さえどうでもいいのか?
モントリオールスモークミート:おっと、命はわたし自身のものだから、この質問はされるべきではないわ……カフェオレ。
カフェオレ:はい!
チキンスープ:!!!
予期せぬ野蛮な攻撃にチキンスープは反応できず、少女によってテーブルの上に押し倒された。少女は彼女の背中に乗って、喜びと狂気の笑い声を上げた。
カフェオレ:いいね~また新しい泡ができそう!その嫌そうな態度を貫いてよね、そうしたらあなたはあたしの一部になれるよ!
チキンスープ:……
モントリオールスモークミート:もちろん、聖女が態度を改め、わたしたちと協力する意志を少しでも示す限り、わたしたちは聖教の最高なパートナーになるわ。
カフェオレ:どうどう?断って、断って。泡になる感じは気持ちいいよ~あたしも体験したことないけどね、アハハ!
その狂った声はチキンスープを無意識のうちに横に避けさせた。しばらくしてから彼女は力なく、不本意そうに言った。
チキンスープ:……この件は大きなものだから、妾だけでは決められない。聖主に聞いてから返事をする。
モントリオールスモークミート:ふふ、もちろん。では……わたしたちは聖女の良い知らせを待っているわ。
潜伏と覗きⅢ
バクラヴァ:天幕……山河陣……
ファラフェル:それが何か知っているか?
バクラヴァ:いいえ……ただ彼女らの会話を聞いた限り、堕神から耀の州を守る存在のはずです。
カターイフ:だからやっぱりあのヴィダルはいいやつじゃない!
ファラフェル:吾もそう思う。どうだ、これで貴様の依頼は完了しただろう?
カターイフ:ええ……
ファラフェル:そういえば、シャワルマとクナーファはどうした?どうして貴様と一緒に来なかった?
カターイフ:実は……オレはこれを言うために来たんです……カレらが……いなくなった……
ファラフェル:いなくなった?どういうことだ?
カターイフ:昨夜カレらは城の地下を調査しに行き、オレと姉は兄を引きとめに行った……それ以降、カレらを見ていない……
カターイフ:カレらが何かを見つけて、キミに報告しに戻ったと思っていたから、今日来たんだ……
ファラフェル:……
バクラヴァ:待って!殿下、どこに行くの?
ファラフェル:言うまでもないだろう、もちろんあいつらを探しに行く!
バクラヴァ:おっと、もし今行ったら……自ら落とし穴にかかるようなものですよ!
カターイフ:そ、その通りだ。もしカレらがまだ城にいるなら、オレが戻って探したほうが安全だし、便利だ!
ファラフェル:……ではもし貴様の兄があいつらに危害を加えるなら?貴様は吾らの味方でいるのか?
カターイフ:!あ、兄さんはしない……たとえそんなことが起きても……
カターイフ:もしカレが本当に罪のない人に何かをするなら、もうオレの兄じゃなくなる。
ファラフェル:………………わかった、貴様がそこまで言ったんだ。ではあいつらのことは任せたぞ。
カターイフ:うん!
***
それと同時
城
コシャリ:気がかかる連中ね……カマルアルディンもよ、カターイフと喧嘩しただけじゃないの、どうして失踪したのかしら……
コシャリ:地下以外、城をあちこち探したわ……まさか本当に……
コシャリ:!!
突然背後から聞こえた声にコシャリは冷や汗をかいた。彼女が驚いて振り返ると、フィテールの平然とした顔があった。
フィテール:どうした?
コシャリ:えっと、何でもないわ……オアシス捜索隊の再建について考えていたの。
フィテール:うん。それはもうヴィダルに任せただろ?
コシャリ:……外国人にこの件を任せて本当に安心できますか?新しいオアシスはアビドスみんなの希望よ。
フィテール:ヴィダルに任せて問題がないとは思うが……もし興味があるなら、君に任せても構わない。
フィテールの飄々とした態度にコシャリは一瞬固まったが、それから憤りを感じられずにはいられなかった。
コシャリ:あなたはオアシス捜索隊に関心がないようだわ。爆発で多くの人が亡くなったのに、あなたはそれを調査するつもりがないようだわ。
フィテール:うん、確かに調査する必要はない。
コシャリ:なんて?
フィテール:本当に頑固だね。その点では確かに君は彼に似てる。
コシャリ:……彼って……
フィテール:爆発は私が引き起こしたから、調査の必要はない。この答えで満足させられたか?
コシャリ:!!!
コシャリ:オアシス捜索隊はあなたによって……なぜそんなことをするの!
フィテール:うん……ヴィダルに今は言わないでくれと言われたんだ。
コシャリ:あ、あなたそんなにあいつの話を信じるの?!あなたはアビドス全体で神のように扱われている存在なのよ!あんなやつに振り回されてどうするの!
フィテール:私は振り回されてなんかいない。私たちはただ協力しているだけだ。
コシャリ:協力?捜索隊殺害に協力し、そして全ての民を殺すの?!
コシャリ:……
フィテール:もし全ての民を殺すだけであれば、そんなことは協力など必要ない。私だけで十分だ。
コシャリ:なん……
フィテール:気づいたか?今の君こそが私を振り回す存在だ。
コシャリ:……!
恐ろしく冷静なフィテールを見ていたコシャリは、突然めまいと強烈な眠気を感じた……
フィテール:さて、残るはカターイフだけか……彼はずっと聞き分けが良く、今回もきっと私を失望させないだろう。
希望Ⅰ
ファラフェル:3人……誰も戻ってこない。
バクラヴァ:コシャリとも連絡がつかなくなった……確かにおかしいぞ。
ファラフェル:……ヴィダル側も吾を探す気は全くないようだし、だから……吾らの計画がバレて、シャワルマとクナーファは捕まってしまったのか?
バクラヴァ:いえ、結論を下せません……
ファラフェル:チッ、貴様は預言者じゃないのか?どうしてまともな預言が一つもないんだ!
バクラヴァ:えっと、俺の預言はもともと漠然としていて、まして今は悪魔の目も手元にありません……
ファラフェル:……やはり吾が直接あいつらを探しに行くしかないようだな。
バクラヴァ:もう少し待ちましょう……殿下を見下しているわけでなくて、ただ……城に行ったとしても何もできません。
ファラフェル:ただ待ってるわけにはいかない!
バクラヴァ:申し訳ないですが、今はただ待つことしかできません。
バクラヴァは真剣な表情になり、その口調は疑う余地がないほど強かった。
バクラヴァ:3人が行方不明ということは、俺らに対する警告です。勇気を持つことは悪いことではないですが、罠だとわかっているのに飛び降りることはできません。
ファラフェル:……
バクラヴァ:これが慰めになるかはわかりませんが……アビドスに戻る前に俺は秘密兵器を準備したんです。状況を好転させられるかもしれません。
フェジョアーダ:秘密兵器……パルマのことか?
バクラヴァ:ええ。もし順調であれば……彼はもうグレロに着いたはず……
***
一日前
クルーズ船
パルマハム:……俺は本当にバカだ。バクラヴァの言った通りに、1人でグレロ行きの船に乗り込んだなんて……
パルマハム:でも結局のところ、俺もサヴォイアを抜け出す口実が欲しかっただけなのかもしれない……
パルマハム:もう考えるのはやめた。こんなに美しい景色を前に俺は悩んでいるだけなんて、間違っている。
パルマは首を振り、周囲を見回しながら、楽しい瞬間をカメラに収めた。突然、目の前のレンズがデッキに1人で立つ女性を捉えた。
パルマハム:なんて美しい景色なんだ……すみません、美しいお姉さん、あなたを写真に撮ってもいいですか?
烏雲托月:……どうぞ。
パルマハム:ありがとうございます……これは俺の最高傑作になる!
パルマハム:あの、すみません、どこに行くんですか?
烏雲托月:?
パルマハム:えっと、実は……これからどこを旅行するか悩んでいて、君の意見を聞きたいんです。
彼女は目を伏せてしばらく考えているようだった。それから遠くを見つめ、まるで過去の恋人を懐かしむかのような口調で微かに言った――
烏雲托月:ヒレイナ。
***
一時間後
ヒレイナ
パルマハム:本当に適当に地名を聞いて来たが……でもバクラヴァが言った導かれたというのはそういう意味だよな……
パルマハム:とはいえ、船に乗って疲れたから、まずは休める場所を探すか……あれ?あのレストランにはお客さんがあんまりいないようだから、長く滞在させてくれるよな!
***
パルマハム:失礼します、すみませーん……
御侍:お、お客さん!!
パルマハム:え?
御侍:あ、すみません。久しぶりにお客様に会ったので、興奮しすぎてしまいました……
ライス:御侍、さま……よ、良かった、ですね。
御侍:うん!ではお客様、こちらへどうぞ~
パルマハム:あっ、え……なんか怪しい気がする……
あまりにも情熱的すぎるレストランのオーナーを前に、パルマは少し居心地が悪くなり、レストランの外に向かい始めたが……
チリン――
パルマハム:え?悪魔の目が……落ちた?
御侍:あれ?さっき何か音がした?
パルマハム:……あのティアラを救える存在って、まさか……
御侍:お客様、こちらが当店のメニューです。注文したいものを直接言ってくださいね~
パルマハム:くっ、お前……。
御侍:え?わ、私?!えっと……そういう店じゃありません……
パルマハム:そういう意味じゃない!君とあっちにいるライス……俺と一緒に遠出してくれないか?
あまりにも切迫していたため、パルマの顔には異常な興奮が見られ、レストランのオーナーは警戒して数歩後ずさった。
御侍:……ライス、紅茶を呼んできてくれ……彼女に銃を持ってくるように言ってくれ。
パルマハム:う、俺は怪しい人間じゃない!うん…
パルマハム:信じられないかもしれないけど、俺の友人は預言者で、近い将来にティアラに大きな災難が訪れるが、幸いにもその危機を救う救世主がいるって言っていた……
御侍:まさか私がその救世主だと言いたいのか?
パルマハム:いや、救世主が君なのかライスなのかわからない……だけどこの「悪魔の目」と呼ばれるものは、確かに君たち2人に会った後に地面に落ちたから、救世主は君たちのどっちかに違いない!
パルマハム:ティアラのために2人とも俺と一緒についてきてほしい!
御侍:「悪魔の目」……縄が切れて地面に落ちたのでは?どう考えても怪しい……それに私は料理御侍とはいえ、新米で食霊も3人だけ……どうやって世界を救うんだ?
パルマハム:それは……世界を救うというのは必ずしも戦闘によるものではないだろう……預言が君を選んだ以上、きっと何か別の方法があるはずだ。
御侍:ごめん、あまりにも突然でわけわからないし、できない……
パルマハム:頼む!俺を信じてくれ!俺が言ってるのは本当のことだ!
御侍:……
相手の表情を見た瞬間、パルマの熱意は一気に冷めた。彼はふと、自分でも信じきれないことを、さらに初対面の人を説得できるわけがないということに気づいたからだ。
パルマハム:はあ、バクラヴァは本当に見る目がないな……いや、彼もまさか俺がこれほど役立たずだとは思わなかっただろう……
彼はレストランから外を眺めた。夕日の残照が広々とした空と雑踏の地を幻想的な金色にし、まるで油絵のように調和がとれて美しかった。
パルマハム:もうすぐこんな美しい景色を見られなくなるな……
希望Ⅱ
ファラフェル:……どうやら、貴様の秘密兵器は失敗したようだ。
バクラヴァ:あ……これは仕方がない。
ファラフェル:……これ以上待てない。シャワルマとクナーファはいつでも危険にさらされる可能性がある。吾は今すぐ城に探しに行く。
バクラヴァ:それもそうかもしれない。フェジョはここでパルマを待っていてくれ。もし彼が来たら、城に連れてきて俺らと合流しよう。
フェジョアーダ:え?2人だけで城に行くのか?
バクラヴァ:俺ら2人の賢さがあれば、なんとかなるだろう。
フェジョアーダ:まだふざけているのか!
バクラヴァ:ふざけてないよ。ただ預言者として、俺には危険な場所に行く義務がある。でもバクラヴァという存在として、俺も笑顔で全てに向き合う選択ができるぞ~
フェジョアーダ:じゃあシュメール探検隊の隊長として、お前は……無事に帰ってくるべきだよな?
バクラヴァ:……
バクラヴァはめったに寂しそうな表情を見せない頑固な若者を驚きながら見つめ、最後にゆっくりと口角を上げて優しく微笑んだ。
バクラヴァ:うん、絶対に無事に戻ってくる。
***
アビドス
城
ファラフェル:やっと着いた……そういえば、吾は意外だった。自ら死を求める行動だと知っているのに、貴様は今回吾を止めなかった。
バクラヴァ:俺が戻ってきたのはみんなを救うためなのに、いわゆる「理性」のためだけに自分の本来の目的を忘れることはできません。
ファラフェル:歴代の預言者は城に仕えてきたし、城の主とも接触したことがあるだろう?貴様の正体とはいったい?そのような強大な力は普通の食霊には見えない。
バクラヴァ:そりゃあ普通の食霊じゃないですよ、最も神に近い存在……あるいは……いや、何でもないです。
ファラフェル:……もしシャワルマらが城にいなかったり、あるいはもうすでに……どうする?
バクラヴァ:その時が来れば、答えは自ずと出てくるでしょう。
この時のファラフェルはバクラヴァのはったりに怒る気にもなれず、深く深呼吸をしてから城の門をノックした。
***
フィテール:王位継承者、それに……預言者か、久しぶりだね。
ファラフェル:こ、こいつめ……
フィテール:君たちをずっと待ってたよ、私についてきて。
ファラフェル:……
フィテールが門を開けるとは思っていなかったファラフェルはすぐに反応できず、大人しく相手の後ろについて門をくぐった。
ファラフェル:アビドスにもこんな寒い場所があったとは……おい、さっき吾らをずっと待っていたと言ってたがどういうことだ?吾らが今日来ることを貴様は知っていたのか?
フィテール:君たちがいつ来るかはわからないよ。ただ遅かれ早かれ来ることは知っていた。
ファラフェル:吾はここで貴様と謎解きをする気分ではない。シャワルマとクナーファはどこにいる?
フィテール:彼ら?彼らもずっと君たちを待っていたよ。
ファラフェル:この野郎……奴らに何かあれば、吾は絶対に貴様を許さない!
フィテール:心配しないで、彼らは元気だよ……今のところは。
***
話をしているうちに3人は城の地下まで来ていた。寒い環境がバクラヴァの記憶を呼び覚ましたようで、彼は思わず身震いしてしまった。
バクラヴァ:!ここは……!
フィテール:ええ。どうぞ。
ファラフェル:……
***
ファラフェルは異様なバクラヴァをちらりと見たが、彼が何かを聞く暇もなく、地下の石造りの扉が見えない力によって開かれ、扉の内側の石柱に数人が縛られているのが見えた。
シャワルマ:バカ……どうして、どうして来たんだよ……
クナーファ:早く逃げろ……!
ファラフェル:なん……
フィテール:残念だけど、城から生きて逃げられたものはない。
フィテールはドアの中に入ると、後ろの扉はすぐに閉まった。それとほぼ同時に、石柱に縛られている食霊とファラフェル、バクラヴァは体の奥底から大きな痛みを感じた。
ファラフェル:ぎゃあああ――!!!
カマルアルディン:うっ……止めてくれ!この狂人め!
カターイフ:う……兄さん……これはいったい、いったいなぜ……突然変わってしまったんだ……
フィテール:突然?いや、私はずっとこうだ。
バクラヴァ:ふ……あなたはアビドスの偉大なる神だ、まさか……俺らみたいな脇役に配慮して私刑を加えたりはしないでしょう?
フィテール:その必要はない。しかし、これは君たちを処刑しているわけではない。これはただの準備だ。
コシャリ:だからいったい何の準備をしているのよ!いったい何がしたいの!フィテール!
この瞬間でもフィテールの顔にはまだかすかな笑みが浮かんでいたが、今ではその笑みに不気味さしか感じられない。
フィテール:本当に不思議だ。私は言ったはずだ。
コシャリ:なん……あれのどこが答えたのよ!
バクラヴァとファラフェルを石柱に縛りつけ、フィテールは戸惑いながらも怒った顔をコシャリに向けた。
フィテール:私は「彼」を取り戻す。これが答えだ、どうした?
カターイフ:「彼」は……誰?
フィテール:うん……長い話になるけど、みんな本当に聞きたい?
フィテールは何か答えを聞きたいわけではなかった。すぐにみんなは自分のものではない長くて恐ろしい記憶が頭の中に入ってくるのを感じた……
希望Ⅲ
数千年前
精霊の生息地
風の精霊:聞いたか、あの神の使者のこと……
大地の精霊:始まりの神が憂さ晴らしに作っただけかと思ったら、まさか本当に自分の使者にさせるとは思わなかった……
風の精霊:オトヴィア様も不満そうだよな……神の使者は私たちのリーダーの上に立つのかな?
大地の精霊:そうだろう……あの神の使者は私たち精霊族よりも早くに誕生したらしい。
風の精霊:え?そんなに早く誕生したのに、最近になってやっと神の使者だと発表したの?
大地の精霊:もしかしたら彼に試練を与えていたのかもしれないな……だけど神の使者っていったい……何をするんだろう?
フィテール:……申し訳ない、私もあまりわからないんだ。
大地の精霊:わあ!
フィテール:ごめん、君たちを驚かせるつもりはなかった……
大地の精霊:いえいえ、謝るのは私たちの方です……先に失礼します、神の使者様……
フィテール:……
***
村人:神、神の使者様!神の使者様がどうしてこんなところに……まさか始まりの神が何かを言いつけたのかな……
フィテール:いや、私はただ……
村人:あ!すみません、人間として神の考えを勝手に推測するべきではありませんでした!神の使者様お許しください!
フィテール:……構わない、下がっていいよ。
村人:ありがとうございます!神の使者様ありがとうございます!わあ!私は神の恵みを受けたんだ!素晴らしい――!
フィテール:……
***
フィテール:……ただいま。
肇始之神:吾が霊よ、今回の降臨で、何か新たな収穫はあるか?
フィテール:はい……問題があります。神の使者として、私はいったい何をすればいいのでしょうか?
肇始之神:何もしなくていい。
フィテール:何もしなくていい?ですが……
肇始之神:何もする必要はない。神の意義とは存在することである。
フィテール:ただ……存在ですか?
肇始之神:万物を創造し、ただ存在する。吾の存在によってこの世は抑止され、生き物が悪事を働くことへの恐怖を抱かせるのである。吾の存在がこの世に希望をもたらし、生き物が必死にもがき、長く生きることができる……
肇始之神:吾が霊よ。吾らの力がどれほど強いか知っているであろう。もし吾らがただ存在するだけでなく、この世界に影響を与えたら、たとえそれが怪我人を助けたり、邪悪なものを取り除くというような「善」であっても、この世界は吾らの檻の中に閉じ込められ、「自我」はなくなるであろう。
フィテール:自我……みんなの「自我」は私を恐れているようです。いや、嫌っていると言えます。
肇始之神:嫌い?違う、吾が霊よ。吾は世界の始まりであり、あなたは吾が創造した最初の存在であり、万物の始まりである。すべての存在はあなたの美徳を讃え、それを絶やすことはない。
肇始之神:彼らはあなたが吾の使者であることに恐れているのかもしれないが、それは必然である。だが、あなたは善の集合体であり、この世界で最も純粋な存在である。「善」を嫌う生き物はいない。
フィテール:そうですか。ですが私にはみんなの好意が感じられません。
肇始之神:あなたは「善」そのものであるから、世の中のどんな善もあなたの関心を引くことはできない。
フィテール:……そうですか。
肇始之神:……ちょうどいい頃合いであろう。
フィテール:何ですか?
肇始之神:吾は何億万年の孤独からこの世界を創造した。吾はあなたの今の気持ちがわかる、吾が霊よ。
話し終わると、神の指先から黒い霧が流れ出し、広がって合体し、最終的にフィテールと同じような人の形になった――フィテールはそれを見て、瞳孔が微かに開いた。
肇始之神:これがモロヘイヤ、「悪」の集合体であり、あなたの究極の対立面だ。
肇始之神:モロヘイヤがいると、「善」をより深く感じることができるだろう。それはあなた自身を感じることでもある。
フィテール:自分を……感じる……
自分に似ていながら、全く違う存在を見て彼は初めて胸に痛みを覚えた。
***
モロヘイヤ:……へへ、こんにちは、私の……兄さん。
目の前の生き物は口角を上げた。眼差し、吐息、声全てが常に強く生きている生命力を示していた……
ドクン。ドクン。
胸から聞こえてくるのは、生命の音のようだ。
初めて呼吸を覚えた時のように、フィテールは深く深呼吸をして、相手のように微笑みながら言った。
崩壊前夜Ⅰ
モロヘイヤ:あああああ――本当につまらない……つまらない!!
フィテール:モロヘイヤ、そう叫んだら山の下の低等精霊たちがびっくりするよ。
モロヘイヤ:おお?彼らをびっくりさせられるなら、悪くないな。
フィテール:……退屈だと思うなら、何かしたいことはある?
モロヘイヤ:うん……えっと、始まりの神には「時空の輪」って呼ばれる神器があるんだよな?面白い?
フィテール:時空の輪はおもちゃではないよ。
モロヘイヤ:へ?この世界のすべては、私たちのおもちゃだろ?
フィテール:……時空の輪は重要で危険なものでもあるから、遊びで使うべきじゃない。
モロヘイヤ:べきじゃない?私は「悪」だよ。世の中で一番すべきでないことは、私がすべきことなんだ。
フィテール:だが……
モロヘイヤ:遊び終わったら、彼に返せばいいんじゃないの?始まりの神はそんなにケチなの?
フィテール:……時空の輪は始まりの神が自ら保管していて、そんな簡単に手に入るものではない。
モロヘイヤ:だけどお前は神の使者だ。始まりの神に最も近い存在だから、お前ならきっとできる、でしょ?
フィテールはモロヘイヤの邪悪で生き生きとした目を見てしばらく考えていた。再び口を開いた時もまるで重要でない些細なことを話しているかのようだった。
フィテール:もし私が君に時空の輪を持ってきてあげたら、退屈だからって騒いだりしない?
モロヘイヤ:もちろん~
フィテール:わかった……
***
しばらくして――
モロヘイヤ:これが時空の輪かあ……何ができるの?時空を操る?
フィテール:うん、それは非常に強い力があって、もし始まりの神が使えばティアラ全体を簡単に操ることができる。
モロヘイヤ:へえ、彼って本当に操るのが好きなんだ。
フィテール:なんて?
モロヘイヤ:何でもない。え、もし君がそれを操れば、始まりの神と同等の力を発揮できる?
フィテール:わからない……何がしたいんだ?
モロヘイヤ:へへ……お前も始まりの神のように生き物を創造したいとは思わない?
フィテール:生き物を創造……なぜ?
モロヘイヤ:お前が神の使者だからさ!世間の目から見たら、お前は地上にいる始まりの神で、始まりの神と同じことをするのは当たり前のことじゃない?
フィテール:だが始まりの神は私にそうしろとは言っていない……
モロヘイヤ:フン、何でもあいつの指示に従ってたら、お前に自我はあるのか?
フィテール:自我……
モロヘイヤ:お前も自分で何をするかも決められないただの傀儡で、無能な神の使者にすぎない。
フィテール:時空の輪は……生き物を創造できるのか?
モロヘイヤ:私も使ったことがない……試してみたらわかるんじゃないか?
フィテールはうつむいて自分の手を見つめた。それから何か決心をしたかのように再び顔を上げ、その目に微かな光が宿っていた。
フィテール:……私は生き物を創造したことがない。どこから始めれば?
モロヘイヤ:へへ、まあそれならいいが……まず生き物の姿だ……
モロヘイヤ:始まりの神の姿に基づいて創造するのはどう?
フィテール:始まりの神の姿か……どうしてかわからないけど、やってはいけないような気がする……
モロヘイヤ:おお?どうした、神の姿は耐えがたいと思っているのか?
フィテール:いや……わかった。
フィテールがゆっくりと目を閉じると、時空の輪は召喚されたかのように目の前に浮かび、しばらく振動しながら回転した。突然金色の光を四方八方に放ち、モロヘイヤは不快感に目を閉じた。
***
彼が再び目を開けると、なぜか息切れしたフィテールと時空の輪を抱いた「誕生」したばかりの生き物が見えた。
フィテール:これで……いいでしょ?
モロヘイヤ:ふ、これは本当に……そっくりだ。
???:……ここは……どこ?私は……誰?
モロヘイヤ:ここは神域で、お前は……へへ、小さな始まりの神で、私たちの妹だ。
???:妹……兄……兄さん……?
フィテールは始まりの神に酷似したその存在を見て、なぜか雷に打たれたかのように胸がドキドキし、奇妙な感覚が胸に広がっていた……
彼は無意識にモロヘイヤの腕をつかんで、急いで言った。
肇始之神:吾が霊よ。吾の呼びかけが聞こえなかったのか。
神の声は静かな夜に突然鳴り響いた巨大な鐘のようで、3人を思わず震え上がらせた。モロヘイヤだけは、驚きながらもすぐにまた軽蔑した表情を浮かべた。
モロヘイヤ:チッ。タイミングが悪い……
フィテール:始まりの神よ……すみません、私……
肇始之神:吾が霊よ、あなたが謝る必要はない。「悪」と一緒にいると、そうせざるを得ない。
モロヘイヤ:ふん、寛容なふりをして、誰を騙してるんだ……
肇始之神:だが神の権力を私的に使おうとするのは罪である。神罰が下るだろう。
フィテール:全て私が……
肇始之神:いや、吾が霊よ、あなたにはできないと知っている。あなたをそそのかしたのはモロヘイヤである。
肇始之神:神罰をありがたく受け取りなさい、モロヘイヤ。それからあなたは……
???:あれ?私?
肇始之神:吾が霊よ、吾と来なさい。
崩壊前夜Ⅱ
オトヴィア:神の使者?どうして来た……始まりの神が何かあるのか……
フィテール:いや、今回は「私自身」として来た。
オトヴィア:……
オトヴィアはこの高貴な客人を信じられないといった様子で見ていた。親切にもてなすことも、思うように追い出すこともできず、彼女の表情は硬かった。
フィテール:ごめんね、モロヘイヤが何度も訪れていたから、君に迷惑をかけるとは思わなかった。
オトヴィア:いえ、そんなことはありません……
フィテール:ならよかった……全ての星の精霊を率いるのは、簡単なことではないでしょう。
オトヴィア:まあまあです……あなたが来たのはいったい……
フィテール:実は私はずっと神の使者としての役割に戸惑っているんだ……
フィテール:始まりの神は私に命をくれたけど、「生」の使命が何かは教えてくれなかった……ただ私が存在するだけでいいと言った……でも……
フィテール:モロヘイヤが罰せられているのを見た時、私はただ存在するだけなのは嫌だと思った……自分が何をしたいかわからないけど、その感じは……苦痛だった……
オトヴィア:……どうして私にこれを言ったんですか。
フィテール:だって君は始まりの神とモロヘイヤ以外で、唯一私を恐れない存在だから。それに君は星の精霊もしっかりと率いていて、とてもパワフルな存在だ。
フィテール:強くて、簡単に揺らぐことのない存在になるために最も重要なことは何?
オトヴィア:……
オトヴィアの目はフィテールを通して遠くを見ていて、まるで誰かを見つめているかのようにその目は幸福と苦痛に満ちていた。
オトヴィア:愛だ。
フィテール:あれ?愛……?
オトヴィア:どうしてそんな顔をするんだ……愛が何かわからないわけじゃないでしょう?
フィテール:……始まりの神は私にこの言葉を言ったことはない。
オトヴィア:ふ、だから「神は世を愛する」というのは全て嘘か……
フィテール:神は世を愛する……それはどういう意味だ?
オトヴィア:私たちはみな神の子であり、子を愛さない母親はいない。だから神はこの世の万物や全ての存在を愛している。だからこそ、この世の全てのものが神を敬い、慕い、従い、全てをささげようとする。
オトヴィア:愛だけが愛と引き換えることができ、力と希望を育むことができる……だからこそ、私は「愛」が最も重要なものであり、神も「愛」を最も深く理解している存在であるべきだと思っている。
フィテール:なるほど……では、どうやって「愛」するの?
オトヴィア:「愛」する方法は人それぞれ違うから、これは教えられない。
フィテール:……わかった、ありがとう。
***
フィテールはうなずき、精霊の領地を離れ、神域に戻った。
モロヘイヤ:よお、今日機嫌は良さそうだな。
フィテール:うん、答えを見つけたからね。
モロヘイヤ:答え?
フィテール:「神は世を愛する」、私もそうすべきなんだけど……でもまだそんなに早く世の全てを愛す自信がないんだ……
彼はモロヘイヤの目を真っすぐ見上げて、微笑んで言った。
フィテール:じゃあまずは、生き物を「愛」することから始めるよ。
モロヘイヤ:わけがわからない……まあ、お前が楽しければそれでいい。じゃあな。
フィテール:オトヴィアのところに行くの?
モロヘイヤ:なぜ知ってる?つけたのか?
フィテール:いや、始まりの神が以前私にこの土地の感知を授けてくれたんだ。だから知ってる。
モロヘイヤ:……ああ、それはおめでとう。
モロヘイヤは神の使者の仕事には興味がないようで、彼は手を振って神域から外に出て行った。フィテールはその場に立ち尽くし、静かに彼の後ろ姿を眺め、しばらくしてからつぶやいた。
***
彼はゆっくりと暗闇の中に身を沈め、その声は自分にしか聞こえないほど沈んでいて、まるで自身に催眠術をかけようとするかのように何度も繰り返した。
フィテール:愛してる。
***
しばらくして
星の精霊の生息地
オトヴィア:……あなたが言ってることは本当か?
モロヘイヤ:確かに私は「悪」の化身だけど、この件は「嘘をつく」よりも忌まわしいんだ。お前を騙すわけないだろう。
オトヴィア:もしそうなら……アイルフを私のそばに取り戻せる……
オトヴィア:絶対に時空の輪を手に入れる。
「悪」は若い精霊王をじっと見つめ、さっき満腹になったばかりかのようにげっぷをし、軽くため息をついた。
モロヘイヤ:そうだ、お前は絶対に時空の輪を手に入れなきゃ……あの偉そうな神が怒っている姿が待ちきれないよ~
崩壊前夜Ⅲ
フィテール:……その後、オトヴィアはモロヘイヤの助けを借りて時空の輪を盗み出すが、彼の亡き恋人を救い戻すことはできなかった。時空の輪は始まりの神によって奪還され、オトヴィアもその罰として封印された……
フィテール:オトヴィアと違い、始まりの神はモロヘイヤに「死」の罰を与え、その執行を私に委ねた。
そこまで言うとフィテールはまだその記憶に不快を感じているかのように顔をしかめた。
フィテール:始まりの神が私を信頼しているのは、神が創造した中で最も究極で、最も自我がない「善」だからだ。全てを手配した後に、神は深い眠りにつかれた。
フィテール:そこで私は神を裏切った。
フィテール:私は確かにモロヘイヤの肉体を破壊したが、彼の「魂」を神の「意識」の中に取り込んだ。
カターイフ:な、何……?!そんなこと……
フィテール:できるよ。
カターイフ:世界の始まりの様々な生き物はある意味、始まりの神の力が分裂してできたもの……だから当時、私もその力を神に返しただけなんだ。
フィテール:彼を見くびりすぎだ、預言者よ。モロヘイヤは始まりの神の一部になることを甘んじなかったが、彼の力では始まりの神の肉体を奪えず、だから……始まりの神に飲み込まれる前に、彼は逃げた。
バクラヴァ:逃げた?
フィテール:実体のない形で、「悪」として世界中に逃げた……私の捜索を避けるために。
ファラフェル:捜索って……まさか……!
フィテール:うん、オアシス捜索隊の目的は君らのいわゆるオアシスを見つけることじゃなくて、私のオアシス――つまりモロヘイヤを見つけることだ。
フィテール:オアシス捜索隊は最初から破滅のために設立された。その破滅は短時間に大量の「悪念」を集め、モロヘイヤの散らばった意識をここに誘導することができるからだ。
ファラフェル:…………バカバカしい!バカバカしい!バカバカしい!愚の骨頂だ!!!
ファラフェル:アビドスが全力を尽くして結成した捜索隊……寿命が短い人間が全力で探し求めた希望……それが、なんとただの……神に死刑宣告されたただの「悪」だったなんて!!!
ファラフェル:アハ、ハハハハハ!これは吾が人生で聞いた中で最も愚かで最も退屈な話だ!!
フィテール:では、どんな話が聞きたい?
ファラフェル:なん……
フィテール:国同士の戦争?権力者が資源略奪のために殺し合い?仲間を救うために犠牲になったヒーロー?世界の頂点に立つために同族とも血を流してまで争う強者?
フィテール:そんな話はよくあることでしょう?なぜ周りを見ない?
ファラフェルは目の前にいる神のような存在が平然と恐ろしい言葉を口にするのを見て衝撃を受けた。さらに恐ろしいのは、その残酷な言葉が彼の口から吐き出された後に、それが現実になるようである。
ファラフェル:き……貴様……この狂人め!バカ野郎!ろくでなし!
フィテール:ろくでなし?いや……私は神の権力を代行する神の使者だ。
フィテール:私は世を愛したいが、その前に……誰かを「愛」することを学び、「自我」を持ち、始まりの神ではない自分の選択をしなければならない。
フィテール:だから私はモロヘイヤを取り戻す必要がある。彼は私の「自我」で、最初に「愛」した存在だ。
フィテール:これは私が「神は世を愛する」ためにした準備なのだ。
みんなは沈黙して聞いていた。たとえそれが間違っていたとしても、「神」の考えを揺るがすことは誰にもできないと彼らはよく知っているからだ。
そこで「神」はみんなの無力さを同意と受け取り、満足げにうなずいた。
フィテール:どうやらみんなが私のことを理解し始めてくれたようだ、よかった。
フィテール:ヴィダル、始めてもいいと思う。
ヴィダルアイスワイン:あ、そうだね、絶妙なタイミングだ。
その狂気じみたスピーチを黙って聞いていたヴィダルは夢から醒めた如く、自分の「目的」に視線を戻した。
彼はそばのフジッリにロボットを作動させるように目で合図し、すぐに石柱に縛りつけられた食霊たちが苦痛の叫びを上げた。
シャワルマ:うああ――!
ファラフェル:シャワルマ!う……貴様ら、いったい何をしている……!
ヴィダルアイスワイン:へへ、フィテールは誰も匹敵できない強い力を持っているけど、究極の「善」としてできないこともある……それは「悪」を創造することだよ。
ヴィダルアイスワイン:でも心配はいらないよ、これっぽちのことはパラダイスメイカーズが代わりにやるよ~
フジッリ:君らには理解できないかもだけど、食霊の体内にも堕神の「悪」はある。ただ質量が少ないだけが……このロボットは君らの体内にある「悪」、いわゆる「堕化」を最大限に引き出す。そうすることでパラタ内外から悪念を集め、君らの体乗っ取りを企てている……
フジッリ:君らの中で最も多くの悪念を耐えられた食霊が最終的に「器」になる。それからモントリオールらが耀の州の悪念を集めた聖主を連れてくるのを待つだけだ。
フジッリ:でもモントリオールからまだ何も知らせがないな、まさか……
ヴィダルアイスワイン:まあ、そろそろ大物たちがこの件に気づく頃だろう……誰かが彼女たちを止めに行ったのかもしれないね。でも大丈夫だ……
ヴィダルはフィテールの後ろ姿を見て、珍しく狩人の目をした。
ヴィダルアイスワイン:結局のところ、僕らの目的は「水源」を手に入れることで、「オアシス」全体ではない。
ヴィダルがこれほど悪意を露わにした表情を見せることはめったになく、フジッリにも思わず恐怖を感じさせた。普段であれば、どんな小さな悪意でもフィテールの前からは逃れられないが、この時の彼には構っている暇がなかった。なぜなら……
黒い霧のようなものがインクが水面に垂れるように、空中にゆっくりと広がり、フィテールの指先で集まり、人の形になった……
***
モロヘイヤ:……
モロヘイヤ:は、久しぶりの再会だがまったく……
モロヘイヤ:ついてないぜ。
終焉の時Ⅰ
フィテールはモロヘイヤがわざと嫌悪感をあらわにしても驚く様子はなく、気づきにくい興奮を除いて、彼の目は澄んだ水のように平然としていた。
フィテール:君が私の当時のやり方が好きじゃないって知ってる。でも同じように、私も君の計画が好きじゃない、
モロヘイヤ:へ?私の計画を知ってるのか?
フィテール:君は始まりの神によって創造されたこの世界を破壊して、廃墟の上に自分だけの新しい世界を創造しようとしている……
フィテール:でもそれは君が一番嫌いな神になってしまうだけだ。
モロヘイヤ:……ふ、お前に言いたかった言葉を私に思い出させてくれた。
モロヘイヤ:フィテール、お前はこの世界で始まりの神を除いて、最も憎んでいる存在だ。
フィテール:うん、理解できるよ。君は「悪」で、私は究極の対立面だ。
モロヘイヤ:そんなバカげた理由じゃない!私がお前を嫌っているのは、お前と始まりの神がそっくりだからだ……傲慢で、独裁的で、それを当然と思い、誇りにさえ思っている!
モロヘイヤ:お前はあくまで始まりの神じゃないし、時空の輪を使うとかなりのエネルギーを消耗し、苦痛さえ与える……だがお前は何も言わなかった……
モロヘイヤ:誰がお前の放任と寛容がいるか?お前は自分を無私無欲の神だとでも思っているのか……私はそんな気持ち悪い褒美など必要ない!
フィテール:あれは褒美じゃなくて、ただ君のためにしただけ……
モロヘイヤ:私のため?お前に自分の考えはあるのか?お前は今まで始まりの神の決定を疑問に思ったことはあるが、否定したことはない……
モロヘイヤ:バカげている。あの野郎の考えがどんなにでたらめかお前はわかっているのに、それでもまだ喜んであいつのペットになっている……お前は自ら喜んで犬になってるんだ!!
フィテール:……神を否定することは、それから抜け出せるというわけではない。
モロヘイヤ:だから屈服したのか?このままあいつの奴隷になって、代わりにこの混乱している世界を監視するのか?
フィテール:しないよ。私は神にとって代われる。もし君が望むなら、神を永遠に眠らせることもできる。
モロヘイヤ:私のために何か愚かなことをするって二度と言うな!お前の脳みそは未開の死骸なのか?!
フィテール:わからない。君はどうして私が君のために願いを叶えることを嫌っているんだ。君はオトヴィアを利用したように私を利用できるのに、どうしてしない?
モロヘイヤ:お前とは本当に話が通じない……もういい、終わらない口喧嘩をするよりも痛快に戦った方がいい!
この時のモロヘイヤはフィテールには到底敵わなかったが、同時にフィテールも彼と勝負する気はなく、守備だけしていた。それでも、2人の戦いにはハラハラさせられた。
ヴィダルアイスワイン:さすがとしか言いようがない……さて、十分に鑑賞したし、僕らも始めようか。
フジッリ:始めるって……フィテールのエネルギーを吸い取るのか?
ヴィダルアイスワイン:いや、ありえないよ。あれほどの強い力を僕らは耐えられないだろう。やはり今は不完全なモロヘイヤが操りやすいだろう……フィテールへの手助けってことでね~
フジッリがうなずき、ロボットを操作すると目に見えない強い吸引力がモロヘイヤに襲いかかる……
フィテール:どいてろ!
モロヘイヤ:う……バカ野郎!何をしたんだ!
強い力はモロヘイヤをほぼひっくり返した。彼は自分を押しのけたフィテールに目を向け、そのまばゆい金色がフィテールの体から剥がされ、そう遠くない場所にあるロボットに移るのを見て、かつてない怒りを感じた。
モロヘイヤ:本気で神気取りか?私を助けたい?ハハ、冗談はやめとけ。お前はただ自己満足してるだけだ!
フィテール:いや、私は過去を思い出しただけ。
フィテール:忘れたの?かつて君も私の前にこうやって立ちはだかった。
モロヘイヤ:……
***
……
フィテール:早く、始まりの神がオトヴィアを追いかけている間に……急いで……
モロヘイヤ:手を放せ!お前は頭がおかしいのか?オトヴィアが時空の輪を盗む手伝いをしたのは私だ。お前と何の関係がある?どうして私が逃げるのを手伝う?お前も神罰を味わいたいのか?!
フィテール:それらは後で全部答えるから、今は先に……
モロヘイヤ:私は逃げたくない!あの傲慢な神が怒りで正気を失い、制御不能になって私を創造したのを後悔している姿が見たくてこれらをしたんだ。口出しするな!
フィテール:でも……君は死ぬかもしれない……
モロヘイヤ:はっ、こうやって生きてるよりマシだ!
フィテール:……ダメだ、君を死なせない。
モロヘイヤ:私がどうなろうとお前に何の関係がある、いったい何を……
フィテール:愛してる。
モロヘイヤ:……
フィテール:愛してる。だから、君は消えてはダメだ。
モロヘイヤ:くっ、お前……。
肇始之神:吾が霊よ。
神の怒りの声はこの世の万物を戦慄させ、その怒りに最も近い存在であるフィテールとモロヘイヤは、地面に崩れ落ちないようにするために全力を尽くす必要があった。
肇始之神:ここまでだ。
一瞬にして天地は暗くなり、世界は黒い奈落の底へと落ちていった。
終焉の時Ⅱ
吾が霊よ。「悪」が創造されたのは、「善」が存在し、世界がバランスを必要としているからである。
吾が霊よ。「悪」の使命は確かに悪を行うことだが、その「悪」を神に向けてはならない。
吾が霊よ。あなたは「禁地」に踏み込んでしまった。その罪は許しがたい。
吾が霊よ。あなたは吾の権力の代行者で、「善」でありながら、「悪」側に立っている。有罪である。
吾が霊よ。あなたたち⋯⋯
モロヘイヤ:有罪?へ、私らが有罪なのか、それとも判決者がおかしいのか?
モロヘイヤ:この世界を支配せず、この世の人々に「自我」を持たせると言っておきながら、結局はあんたの思い通りにしないとだろ?
モロヘイヤ:私はまだ誕生してないのに、もうあんたに全てを決められた。「悪」って、ふ、どうして悪を行うのか自分でもわかっていないのに、ただあんたが「必要」だからっていう理解不明な理由だけで私は誕生したのか?わけもわからずに「善」の偉大さを示すために存在するのか?
モロヘイヤ:それで?私が世界を破滅しても構わないのに、あんたに厄介事が降りかかってきたら、死ぬべきなのか?ふっ大したもんだなあ、神よ!!!
フィテール:君は神とこの世の人々から慕われている名前で呼んでいるが、口調は軽蔑の念を込めている……私は今まで始まりの神に対してこのようにした人を見たことがないし、始まりの神がここまで怒っている姿も見たことがない……
フィテール:それと君は私の前の影に立ちはだかっている。万物は私の後ろに隠れているだけで、誰も私の前に立ちはだかったことはない。
フィテール:それはティアラで最も暗い日だった。だが、私の目と鼻の先には最も明るい恒星がある……
フィテール:だからこれは自己満足じゃない、ただ……そんな君が羨ましい。
フィテール:だから君が必要だ。ずっと、ずっと私の前で生きていて。
モロヘイヤがフィテールの目に「本心」を見たのは初めてだったが、残念なことに、彼は少しも動揺しなかった。
モロヘイヤ:羨ましい?ふ、嫌いじゃないのか?
フィテール:あれ?嫌い?
モロヘイヤ:じゃなきゃ、どうして私を始まりの神の意識の中に融合した?ああ、もちろん私を救うためにって言うよな……本当か?本当にあのやり方だけ私を救うことができたのか?
モロヘイヤ:お前はただ私が本当に始まりの神から抜け出して、「自我」を見つけて、自分がその場で取り残されるのを恐れているだけだ。
モロヘイヤ:何が愛だ……おかしくてたまらない。私はとっくにお前に一度殺されている!
フィテール:!
ガシャン。
フジッリ:し、しまった。吸収したエネルギーがロボットの限界値を超えた、こんなに早いわけがない……
ヴィダルアイスワイン:早く消せ!
フジッリ:間に合わなかった!
バタン――!
フィテールのエネルギーを吸収したロボットが突然中から破裂し、粉々になった金属の殻は溢れだした金色の光で燃え尽きた。
金色のエネルギーは急速にフィテールの体内に戻り、さらに強力な重力波が噴き出た。この時のフィテールは、邪悪な天神のようだった。彼はモロヘイヤに手を伸ばし、一筋の金色の光が矢のように彼に襲いかかった。
シュッ――ガンッ!
予想外にも、小さな短剣がフィテールの方向に飛んできた。短剣はフィテールを傷つけることなく、彼の周りの金色の光に直接跳ね返されたが、彼は不満そうに手を引っ込めた。
フィテール:誰だ。
フェジョアーダ:くそっ、当たらなかった……
御侍:こ、これはいったい何事?!
***
一日前
パルマが意気消沈して店から出ようとしたとき、背後から声をかけられた。
御侍:待って。あなたが言っていることは全部本当?
パルマハム:本当だ……でも証明できない。でも信じてくれる限り、俺に何をさせてもいい!
御侍:なぜかわからないけど、あなたは嘘をついていないと思うんだ……それに私は料理御侍としてティアラの平和を守る義務がある……
パルマハム:き、君は本当に俺を信じてくれるのか?
御侍:まあ、騙されていたとしても旅行と思えばいいし、どうせ今は商売も微妙だから……
御侍:その預言が本当かどうか自分の目で確かめに行こう!
***
バクラヴァ:パルマ……やっぱり君は俺を失望させなかった……
パルマハム:何も言うな……
ライス:……
御侍:ライス?
ライスはいつもの無邪気でしなやかな姿とは違い、フィテールとモロヘイヤを見た途端に別人のように、あるいは急に大人しくなり、目から悲しみの気持ちはにじみ出て来た。
ライス:兄……兄さん?
フィテール:まさか今日君に会えるとはね……でもどうして泣く?君の兄はもうすぐ「完全」な姿で戻ってくるんだ、喜ぶべきだろう。
ライス:い、いや……
フィテール:残念だけど、今の君に私を止めることはできない。もう誰も私を止められない。
モロヘイヤ:何をするつもりだ?
フィテール:いいことを教えてあげよう。あの時オトヴィアが簡単に時空の輪を手に入れることができたのは、私がこっそりと彼を助けていたからだ。
モロヘイヤ:いま、なんて……?
フィテール:私は彼と時空の輪の力を使って、始まりの神を弱体化させたい。ずっと前から神に取って代わりたかったんだ。だって神はいつか君を消し去るから。
フィテール:私は誕生してからずっと待っていた……何億年というのはあまりにも長すぎた。だから何があろうと……
フィテール:君はもう私から離れられない。
モロヘイヤ:お、お前何するんだよ?!!
フィテール:ふさわしい器を探す必要はない……時間がかかりすぎる……
フィテールの手がモロヘイヤの体を突き抜け、モロヘイヤの周囲の黒い霧が薄くなり始め、フィテールの体の金色もだんだんと薄まってきたが、彼は依然として動かなかった。
フィテール:もっと前にこうするべきだった。
モロヘイヤ:!!!
終焉の時Ⅲ
創世祭典翌日
帝国連邦宴会場
シャンパン:今年も創世祭典は無事に終了した。みなご苦労だったな。
ブランデー:不思議だ、目の前には美酒が並んでいるのに、どうしてオヤジ臭いんだ?
ポロンカリストゥス:ふふ、陛下も成長されるんですね。まあ確かにそんなことを言うのは陛下らしくないですけど。
クロワッサン:創世祭典も終わったし、皆さんもしばらくリラックスして楽しんでくださいね。
クレームブリュレ:やっぱり重要な任務をやり遂げた後に飲む酒は格別に美味しい~
ザッハトルテ:明日も仕事があるので、あまり飲みすぎないようにしてください。
クレームブリュレ:……はーい――わかってますよ……
白トリュフ:ふふ、今回は法王庁の招待にも感謝しないとね、ペリゴールもこの規模の宴会に参加するのは久しぶりよね。
ドーナツ:しかし……耀の州では最近突然、堕神が暴れ出したようで、状況はあまり芳しくないようです……
シュトレン:それはとても異様な力です……私たちが以前ずっと追っていた黒い霧以上の何かがあるような……
ドーナツ:はい、このような変化は今のところ耀の州だけですが、遅かれ早かれ、わたしたちにも影響を及ぼすでしょう。
アールグレイ:支援を送るべきかな?
クロワッサン:必要ないです。
ドーナツ:?
クロワッサン:耀の州の件は優先事項ではありません。今最重要なのは、なるべく早く黒い霧を追跡することです。
ワッフル:ええ。黒い霧は食霊を堕化させ、人々の心にも影響を与える力がある……とっても有害で、なるべく早めに制御しなきゃ。
ローストターキー:き、貴様ら今日はどうしたんだ、いつもと違うような……
クロワッサン:どうしました、私たちの言ってることが間違っていますか?
短い沈黙の後、その淡々とした声は何か魔力があるかのように、人々の疑念をいとも簡単に消し去った。
一同:うん、あなた方の言う通りだ。
一同:耀の州の安否は重要ではない。今最も重要なのは、黒い霧の行方を追うことだ。
一同:ティアラに乾杯。
一同:この世の万物と創始日に乾杯。
***
パラタ
アビドス
どこまでも続く砂漠にはいつものように太陽が照りつけていた。これまでと違うのは、まばらに廃墟が点在していて、神秘的なアビドスは巨大なゴミ捨て場と化していた。
風は静かに吹き、廃墟の上に白金色の影だけがぽつんとあった。彼はわずかに下を向き、足元に倒れている痩せた生き物を見下ろしていた。
フィテール:……本当に愚かだ。
ライス:……
彼女はその声に目覚めたかのように指が動き、命を吹き込まれるようにゆっくりと目を開けた……
***
十時間前
モロヘイヤ:バカ野郎!何するんだ?!私をお前の体内に取り込みたいのか?!!
フィテール:君と私は共生共存している、融合の何がダメなんだ。
モロヘイヤ:この狂人め!お前は究極の「善」で、強引に「悪」を入れたらどうなるか結果を考えなかったのか?!
フィテール:せいぜい全世界を破滅するくらいだろう、どうせ……全てはやり直せる。
モロヘイヤ:お前……狂ってる!誰がお前と一緒に滅ぼされるか!やめろ!
ライス:は、早くやめて!
ライスはフィテールとモロヘイヤの融合を阻止させるため、急いで2人に向かって走り出した。フィテールは振り向きもせず、ただ片手を伸ばして、ライスに金色の光が襲いかかるようにした……
御侍:ライス!これは……。
ライス:御、御侍、さま……!
フィテール:最も弱い生き物でありながら、身を犠牲にして食霊の前に立ちはだかる……人間よ、その抵抗がどれほど無駄なことか気づいていないようだな。
御侍:私……わかってる……
フィテール:では、そもそも生きたくないのか?理解できる、死は魂の終わりではなく、すべてはやり直せるのだから。
御侍:いや……私にとって死は終わりだよ。たとえ輪廻転生があったとしても、今生の私、それこそが私……
御侍:何があっても、あなたにこの世界を破滅させないし、私の友人を傷つけるのは許さない……!
フィテール:友人……私は彼女にダメージを負わせるつもりはなかったし、ある意味彼女も私の友人だ。
御侍:なぜかわからないけど、私もあの奇妙な記憶を見たんだ。ライスと似た少女との関係は知ってるけど、でも……あれは全然友人じゃない。
御侍:ごめん、でもあなたは確かに、抵抗しようとしてる始まりの神と何ら変わりはない……
フィテール:……人間よ、死を直接体験してから、やっとそれに恐怖を感じるのか?
御侍:たとえ私も死ぬことになったとしても……あなたたちに勝手に創造させたり、簡単に破滅させるわけにはいかない……「世を愛する」という口実で、「世の人々」を傷つけるな……
御侍様:私たちは誕生した瞬間から、自分自身のものなんだ!
フィテール:くっ、お前……。
シュッ――
フィテール:あぐっ……!
マティーニ:命中した!
フィテールが気を取られている隙に、一本の矢が彼の背中を射抜いた。それは普通の矢とは違い、矢じりには注射器が括り付けられていた。フィテールはその注射器の中の薬によって一瞬ぼんやりしたようだが、すぐに反応した。
フィテール:城は今、いかなる客人も歓迎しない。
カイザーシュマーレン:おや、それは本当にすまないね。
白トリュフ:……頑張ってみるわ。
ワッフル:準備できた!
話終わると、痩せた少女は奇妙な形の銃を担ぎ、引き金を引いた瞬間、白トリュフの周囲が聖なる白い光で照らされ、その光と同時に銃口から薬のようなものがフィテールとモロヘイヤに向かって飛び出した。
白い光が2人の融合しつつある体に注がれ、すぐにフィテールの体内にある黒色を消し去った……
クロワッサン:今よ!早くここから離れて!
モロヘイヤ:!!
徐々に融合していた2人は周囲の妨害によって再び離れ、モロヘイヤはその隙に自分を黒い霧に分裂させ、急いで城の外に逃げた。
フィテール:ダメ!
ワッフル:あなたに反撃のチャンスなんてあげないよ!
槍が再びフィテールに向けられたが、今回発射されたのは拘束ベルトのようなものだった。
ワッフル:食霊であれば、これに縛られると霊力は効かなくなるの……これで何もできないでしょ!
フィテール:……
フィテールは少女の言葉に何の反応もせず、自分が縛られていることも気にせず、ただ黒い霧が消えた方向を長い間ぼんやりと見つめ、呆然としていた。
白トリュフ:成、成功した……?
マティーニ:そのようですね。間に合ってよかったです。
クロワッサン:あれが黒い霧の「本体」……神が創造した食霊か、どうりで恐ろしい力を持っているわけですね……
ワッフル:強い力を持つことは悪いことじゃないけど、悪いのはその力を間違った場所に使うことだよ。邪教を組織し、人命を破壊し、食霊を堕化させる……このように悪事を働くのは、自分の野心のためだけで、本当に利己的だわ。
ヴィダルアイスワイン:ふ、神は孤独に耐えられず、この世界を意のままに創造した……そして神の子らも束縛に耐えられず、あのお高い祭壇をひっくり返し、創造者を罰したがっている……どちらが利己的かはっきり言えないね。
カイザーシュマーレン:あれ?いずれにせよ、もっと利己的なのは彼らのその不満を利用して、自分の目的を達成しようとする人でしょう?
ヴィダルアイスワイン:ハッ、世界がいつ破滅するかなんて誰にもわからない。今のうちに欲張ったとしてそれが何だ?
ファラフェル:おい、貴様らが助けたあいつは「悪」の集合体だぞ、このまま逃がしても大丈夫か……
カイザーシュマーレン:なにしろ今一番危険なのは彼ではなく、あの「神」だ……もし本当に彼らを融合させたら、世界の終わりよりも恐ろしいことが起きるだろう。
クロワッサン:「悪念」が打ち砕かれてからの力に限りがあります……あとで懸命に追跡すれば、また捕まえることができます。
カイザーシュマーレン:幸いなことに誰も完全に堕化してないし、これくらいの「汚染」ならペリゴール研究所で治療できるはずです。
白トリュフ:うん、姉が経験したあの苦痛を二度と繰り返させない……私たちに任せて。
ヴィダルアイスワイン:ふ……前にパラタに来た時にやっぱり君も何か見つけたんだね。でも、今回も少し遅かったね。
カイザーシュマーレン:ああ、結局何が起こるのか正確にわからないのに、事前にアビドスの一般の民衆を避難させないとだなんて大仕事ですよ。
ヴィダルアイスワイン:本当の大仕事は民衆の避難ではないでしょう……この「神」の今の状況はおかしいよ。
モロヘイヤが再び自分のそばから逃げ出したことをようやく受け入れたかのように、フィテールの周囲に突然、非常に強いエネルギーが溢れ出し、いとも簡単にその体を縛っていた束縛ベルトを灰にしてしまった。
ワッフル:あ、ありえない!
みんなはフィテールが不気味で恐ろしい形相で彼らを見下ろし、ゆっくりと冷たい言葉を吐き出すのを恐る恐る見ていた――
フィテール:……神罰。
神啓回顧
その強烈な光は殺意をもって周囲を攻撃し、みんなが踏んでいる地面が激しく揺れ、頭上から塵や瓦礫が落ちてきた。
フェジョアーダ:ここが崩れるぞ!
カイザーシュマーレン:そうだね、早く逃げださなかったら……
地下が間もなく崩壊する危険に加え、食霊たちは金色の光の攻撃に対してそれぞれの能力を駆使して、死闘を繰り広げなければならなかった……
ヴィダルアイスワイン:おや、この力はやっぱり……恐ろしいほど強い……
マティーニ:耐えられない……このままだとみんなここで死んでしまう!
パルマハム:力が……もうなくなる……
御侍:パルマ!私たちを守りながら、やっぱり……
ライス:ダ、ダメ……
痩せた少女は突然立ち上がり、その力に少しも影響されてないかのように率先して恐ろしい力に近づいていった。
すると、少女の胸から濃い青色の球体がゆっくりと出てきた……
パルマハム:あれは……
御侍:時空の輪……?
ライス:と、止まって……!
***
壊れた時空の輪がゆっくりと宙に浮き、少女の叫び声に一瞬時間が止まったように見えた。その瞬間、フィテール周囲の金色の光も限界まで強くなり、世界はまばゆい金色に包まれたが、次の瞬間には黒い奈落の底に落ちていった。
ライス:うっ……。
無数の人影が暗闇の中に倒れ、廃墟に覆われて埋もれたが、少女だけは完全に倒れることはなかった。
***
彼女は鋭利な破片の上にひざまずき、膝にはひどい切り傷ができたが、それでもただ痛みに身を丸め、耐えて、耐えて……
時空の輪と共に壊れた音がするまで……
フィテール:……
しかし、彼らが真ん中からバラバラに砕け散る一秒前、もはやまばゆくなくなった金色の光が、少女と球体を優しく持ち上げ、崩れ落ちる廃墟から遠ざかっていった……
***
……
フィテール:……今の君が強引に時空の輪を使うのは、とても痛いだろう……なぜ、あの日と同じ選択をする?
ライス:だって……あなたに後悔……させたくない……
フィテール:……
ライス:あなたはただ……方法……間違えただけ……チャンス……
ライス:まだ……チャンスが……ある……
フィテール:もちろん機会はある。
彼は待ちきれないように言った。広大な砂漠が一瞬にして流れ、渦の中心は彼の指先だけだった。
フィテール:私はモロヘイヤを取り戻すこともこの世界も諦めない。
フィテール:私は神だ。私はこの世界を自分のやり方で動かしていく。そう、私自身のやり方で。
ライス:くっ、お前……。
フィテール:私はとっくに始まりの神の傀儡じゃなくなった、だから神は君を選んだ……
フィテール:残念だが、神はもう目を覚まさない。だから今は私こそがこの世界の神なんだ。
流砂はぼんやりとした大きな人の形になり、すぐに黄砂の中に閉じ込められ、最終的にピラミッド型の物体となり、フィテールの手のひらに収まった。
ライス:いや……いや……
フィテール:とても疲れただろう。休みなさい、それから……全て忘れなさい。
流れる砂が止まった。彼は少女の頭上にそっと手を置くと、少女は思わず目を閉じた。
御侍:ラ、ライス……
フィテール:彼女は眠っただけだから大丈夫だ。
御侍:……あなたがどれほど強い力があるのかわかったけど……今でもあなたはまだ「善」ですか?
フィテール:そうだ、私の目的は終始「世を愛する」ことだから。始まりの神は世を愛さなかった、だからこそ私が神に取って代わる。自分が間違っているとは思わない。
フィテール:だが……ほんの少しかもしれないが、モロヘイヤは私の体の中に確かに残っている……
フィテール:今の私は「悪」を創造することもできるようだ……ある意味、私の力も始まりの神に近づいている。
御侍:……これで満足ですか?全員をあなたの力によって従わせる……ただ力によって従わせる……
フィテール:他人がどうだからという理由で自己満足することはない。逆に、満足しているのは君たちだろう。
御侍:なん……
フィテール:神の力がいかに強くてもその支配下にある生き物には抵抗する権利がある。
フィテール:いつか、どんなに卑しい命であっても、この世で最も強い力に打ち勝つことができる――そのような壮大な夢と希望が……君たちを前進させ、最終的に究極の満足を得ることができるだろう。
彼は再びその神聖で柔らかい笑みを浮かべた。
フィテール:人間よ、君にはとても興味深い力がある。君の言葉は確かにある時点では私の心を揺さぶったのかもしれないが、それは私にとってほとんど存在しないほど小さなものだった。
フィテール:残念だが、君はただの人間だ……だが…………………………
御侍:何を……言ってる……うっ……
フィテール:次に会える日を楽しみにしているよ。でも今は眠りにつきなさい……
フィテール:君たちも同じだ。神の存在を知る必要はないし、抵抗できない以上、神の思うままに行動すればいい。
***
言い終わると、廃墟に埋もれていた食霊たちも柔らかな金色の光に持ち上げられ、宙に浮いた。金色の光は彼らの周囲を巡り、傷や記憶を消し去り、最後には彼らの体内に潜り込んだ。
フィテール:君たちが戻るべき場所に戻りなさい、さあ。
そして、アビドスの廃墟の上にはフィテールだけが残った。
すぐにこの大陸からアビドスの名すら消えるだろう……
***
一方で、打ち上げは続いている。
フェジョアーダは集まって一緒に笑う食霊たちを見ていたが、なぜか心がふさぎ込んでいた。
フェジョアーダ:何か忘れてしまったような気がする……
バクラヴァ:おい、何ぼんやりとしてるんだ?今のうちにたくさん食べないのか?
フェジョアーダ:お前は食べることだけ……そうだ!どこかおかしいのか思い出した、お前の悪魔の目は?
バクラヴァ:ああ、縄がなぜ切れたのかわからないけど、ポケットにしまったぞ、安心しろ。
フェジョアーダ:縄が切れた?地面に落ちたのか?壊れないよな?
バクラヴァ:あっ?そんなにか弱くないだろ……う、預言をまた見てみる……
フェジョアーダ:どう?預言書は何か反応があったか?何が見えた?
バクラヴァ:……見えたのは……もし俺らが急いでサヴォイアに行かなければ、マキアートに殺される!
フェジョアーダ:……じゃあ急がないと!
バクラヴァ:まあ、急ぐことないぞ。急いでケーキ2個持ってきてくれ。俺は酒を何本か持ってくるから、路上で飲むぞ~
バクラヴァの説得の下、フェジョアーダは渋々パルマと一緒に食料を買いに出かけた。
バクラヴァは忙しくてイライラしているフェジョアーダの姿をニヤニヤと眺めながら、静かに預言者を閉じ、その不吉な「破滅」の二文字をページの中に隠した。
<創始頌>完。
創始頌-サブストーリー
脱感作療法
法王庁
花園
フェタチーズ:チェダー?チェダー――いったいどこに行ったのかな……
チェダーチーズ:狼が子羊を食べに来たぞ!
フェタチーズ:うおお!
フェタチーズは、突然草むらから出てきた人にびっくりして地面に座り込み、唖然としながら興奮と得意げそうな表情のチェダーを見た。
チェダーチーズ:へへ、成功した!
フェタチーズ:成功……?チェダーがここに隠れていたのは、ぼくを驚かすため?
チェダーチーズ:お前とは限らないよ、誰でもいいもん~
フェタチーズ:ならぼくで良かったね。もし法王庁の人ならめんどくさいことになってたよ……カイザーがそろそろ出発していいって言ってたよ。
チェダーチーズ:おおお!出発だーっ!
フェタチーズ:うーん……こんなことをぼくが言うのは良くないけど……でも……
フェタチーズ:チェダー、バニラマフィンは……他の人に馬と言われるのが好きじゃないから……彼を馬と呼ぶのはもうやめてよ……
チェダーチーズ:ダメです!
フェタチーズ:え?
チェダーチーズ:俺は手伝ってるだけ~
フェタチーズ:手伝う?で、でもチェダーがそう呼んだら、彼は傷つくよ……
チェダーチーズ:これは治療だよ!
フェタチーズ:治療……?
鴨のコンフィ:彼の意味はたぶん、脱感療法のことだろう。
フェタチーズ:えっ、コンフィ姉さんもここにいたの。
鴨のコンフィ:本を読んでいたが、うるさくて読めなくなった。
フェタチーズ:ご、ごめんなさい……
鴨のコンフィ:大丈夫、もう慣れた。それに貴方のせいではない。
フェタチーズ:じゃあさっき言ってた脱感療法って……どういう意味?
鴨のコンフィ:心理療法の一種で、ある刺激行為を繰り返すことで、患者を徐々に慣れさせ、最終的にはその行為に対する過剰反応を克服する。
鴨のコンフィ:チェダーもこの方法でバニラマフィンを慣れさせ、最終的に暴力に翻弄された影から抜け出させようとしているのだろう。
フェタチーズ:そうだったんだ……まさかチェダーも……こんな普通のことができるとは……
チェダーチーズ:あああ――子羊ひどすぎるぞ!
フェタチーズ:……!!ごめんね、チェダーがまともじゃないとは言ってないよ……
チェダーチーズ:出発するって言わなかった?どうしてまだ出発しない!嘘つき!お前こそ狼だろ!
フェタチーズ:え?このことを言ってたのか……じゃあぼくらも早くカイザーたちと合流しようか!
入国
創世日
サヴォイア国外
スブラキ:なんかあっちはにぎやかだね……
キャラメルマキアート:なにしろ創世日ですものね、サヴォイアの人々も祝ってるんでしょう……バクラヴァたちがいつ戻ってくるかもわからないですし、もしその時に世界が本当に破滅してしまったら……今のうちに街に出て楽しみましょう!
スブラキ:え?まさかマキアートも遊びに呆ける時があるとはね。
キャラメルマキアート:以前は部外者の立ち入りを禁じていたサヴォイアですが、最近は変革があったみたいで、身元さえはっきりすれば城内に入れるようになりました……
キャラメルマキアート:わあ、ここが食霊の力に頼らずに、今まで生き残ってきた唯一の国なんですね!どんな歴史があるんでしょう……じっくり掘り起こすのが待ちきれないわ!
言い終わると、マキアートはリュックを掴んで一目散に走り去った。スブラキはその場で呆然としていた。
スブラキ:わあ、やっぱり彼女の専門分野になると別人みたいだ……
ムサカ:……
スブラキ:え、あの……
ムサカ:君は行かないの?
スブラキ:僕は大丈夫、もし貴方が動きたくないなら一緒にいるよ。
ムサカ:……実は、創世日を祝ったことがないんだ。
スブラキ:え?だから……見に行きたいの?
ムサカ:はい。
スブラキ:じゃあ僕がガイドになってあげる!うっ、僕も初めてサヴォイアに来たけど……
こうして2人は一緒にサヴォイアに向かった。最初は少し気まずい雰囲気だったが、すぐにスブラキの喜びに取って代わった。
***
スブラキ:わあ、魔法のローブだ!あっ、水晶玉!わあああ、魔法の杖もある!サヴォイアは魔法の城みたいだ!
ムサカ:(子供みたいだ……明らかに来たかったくせに)
スブラキ:わあ!あっちに巨大なターキーの試食がある!ムサカ!
ムサカ:うん、行こう。
スブラキ:え?
ムサカ:どうした?
ムサカ:……
ムサカは一瞬固まったが、すぐにスブラキが何を言っているか反応した。
ムサカ:私がムサカではないと言ったのは文字通りの意味じゃない。
スブラキ:ぼ、僕はムサカが怒ってるから知らないふりをしたのかと思っていた。結局、貴方を騙したし……
ムサカ:騙される感覚は本当に辛いからこそ、将来君にもその思いを味わってほしくない。
ムサカ:私はもう君の知っているあのムサカではない。背負わなければならない自分の使命がある……いつか、君の敵側に立つかもしれない。
スブラキ:何だよ、そういうことか。
ムサカ:?
スブラキが長い間わざと冷たく扱われて不愉快に思うか、少なくとも悔しがるかと思っていた。目の前の少年が安堵の笑みを浮かべるとは思わなかった。
スブラキ:貴方が僕を本当に嫌っていない限り、将来敵だろうが、どこにいようが、貴方を取り戻す!
スブラキ:僕は勇者で、貴方は最も大切な仲間だから!
復讐
夜
アビドス
夜の砂漠を照らすのは星だけだが、十分に明るい。ファラフェルは星の光がまぶしいのを嫌っているようで、顔をしかめて寝返りを打ったが、間もなく穏やかな寝息が聞こえてきた。
シャワルマ:本当に不思議だ……前まではスラムの一番良いベッドでも眠れなかったのに、今では野外でも眠れるようになった。
クナーファ:え?ファラフェルはそんな性格だった?苦労に耐えられる子だと思ってたよ。
シャワルマ:まあ……苦労に耐えられるけど、くどいだけ。
クナーファ:復讐の考えが彼を成長させたんだろう。
シャワルマ:……話を戻すけど、本当にボクらを手伝ってくれるの?ボクらは偶然道で出会っただけなのに……
クナーファ:道で偶然出会っただけなのに、強盗に襲われた私を助けてくれた。
シャワルマ:全然役に立たなかったけど、代わりにキミに助けられた……
クナーファ:ああ、私はもともと傭兵だったから、彼の復讐を手伝うのは過去の仕事と変わらない……ましてファラフェルが提示してくれた値段は私のキャリアの中で最高額だ。
シャワルマ:ハハ、アイツは金のことでケチをつけたことはないんだよね。
クナーファ:でも私のことよりも、君のことを心配している。
シャワルマ:え?ボク?
クナーファ:キミはファラフェルのためだけにこの復讐チームに加わっているように聞こえる。
シャワルマ:ああ……確かにカレはボクの大事な友人だけど、カレのためだけじゃない……
シャワルマ:実は王室に対して何も感情がなくて、ファラフェルに会う前は、王室の人たちが大嫌いだった……でも、今考えてみると、王室の人たちがみんなが残虐なわけじゃないし、オアシス捜索隊はみんな普通の罪のない人たちだった。
シャワルマ:だから復讐よりも彼らのため公正がほしい――いったいどんな理由で彼らの命を奪ったのか。
クナーファ:ああ、本当にいい坊やだな。
シャワルマ:……これはずっと言いたかったんだけど、ボクを「坊や」って呼ぶのはまだいいけど、ファラフェルにもそう呼ぶのは……あまり適切じゃないでしょ?
クナーファ:あれ?「坊や」って呼ばれたくない?ああ……それは君らが私に勝てるようになってから言ってね~
シャワルマ:それは永遠に不可能じゃないか!
偶然
アビドス
城
コシャリ:……ヴィダルが爆発を引き起こしたと?
カターイフ:うん、カレが現れたタイミングが良すぎるし、今でも何しにアビドスに来たのか動機がわからない……
コシャリ:なるほど……じゃああなたが探してきた人たちは信用できる?もし下心があって城に近づく機会を得ようとする奴なら……それは私たち自身にとっても非常に厄介なことよ。
カターイフ:えっと……信用できると思う。だってあの王室の王位継承者であるファラフェルと、姉さんを知っていると言った食霊で名前は確か……
カターイフ:バ……バクラ……
カターイフ:うん!そう、その名前!
コシャリ:彼が戻ってくるとは……また悪い預言を見たのかしら……だけど彼の言葉は確かに信用できるわ。彼らを城に入れることは、私からフィテールに言います。
カターイフ:うん……姉さん、もう一つお願いしたいことが……ある人を探しに行きたいんだ。
コシャリ:……わかった。城のことは私に任せて。
カターイフ:え?誰を探したいのか聞かないの?
コシャリ:あなたには自分なりの考えが当然あるわ。それはとても重要な人物なんでしょう。
カターイフ:はい。以前にカレと喧嘩してしまって……カレを取り戻す必要があるんだ。
カターイフ:ではオレはファラフェルたちにこれからの計画を伝えに行くから、兄の方は任せます。
コシャリ:わかりました……
カターイフは後ろ姿まで気合が入っているようだ。コシャリは彼の姿が遠ざかっていくのを眺め、長い時間が経ってから長いため息をついた。
コシャリ:……やっぱり爆発の事件は元々私が計画したとあの子に伝える勇気はなかったわ。利用され、あんなに多くの人が死ぬとは思っていなかった。今ではカマルアルディンも行方不明になっている……
コシャリ:これからは、自分が犯した過ちを埋め合わせできますように……
練習
フェジョアーダ:こんな場所にこんな家があるなんて知らなかった……
ファラフェル:これは以前、父上が吾のために建てた……
バクラヴァ:え、あの……
ファラフェル:そんなに緊張するな、言えないことは何もないし、吾はそんなに脆くない。
ファラフェル:だが、吾は今まで傭兵と接触したことはない。どうやって商談するんだ?
バクラヴァ:実はとても簡単で、俺らは君を何もわからない成金と設定したから、君は本領……コホン、自信満々で挑めばいいですよ~
ファラフェル:確かに簡単に聞こえるが……とにかく相手に疑われることなく、奴らがアビドスに来た本当の目的を突き止めるってことだろう。
バクラヴァ:そうです~ですが相手が非常に狡猾であることを考えれば、もし本当に情報を聞き出せなければ、奴らの中に紛れ込むにはいい方法だと思います。
ファラフェル:ああ。では今時間があるうちに練習をしよう。
フェジョアーダ:あっ?練習……おい、バクラヴァ俺を前に押すなよ!
ファラフェル:早くしろ、時間を無駄にするな。
フェジョアーダ:ああ……コホン。お、お前値段を言え。お前の傭兵とこれらの武器はいくらだ?
ファラフェル:ふ、金は吾にとって一番価値のないものだ。吾は金などいらない。貴様らが何をするのか気になるだけだ、それから……何か価値のあるものを得られればいい。
フェジョアーダ:うっ……あ……えっと……あの……
ファラフェル:チッ、大丈夫か、バクラヴァやはり貴様がやったほうが。
バクラヴァ:いえ、殿下は完璧になさっていると思います。以前に王室で何を学んできたのか疑問に思われるほどに……
バクラヴァ:あとは、ヴィダルが来るのを待つだけです。奴と城の主が何を企んでいるのかわかれば、あるいは奴らを阻止するチャンスがあればこの世界を救えるでしょう……
難癖をつける
アビドス
旅館
ヴィダルアイスワイン:ここがしばらく休む場所です。辛い思いをさせます。
ファラフェル:うん、確かに以前吾が住んでいた場所に比べるとかなり悪いが、まあかろうじて住める。
ヴィダルアイスワイン:へへ……ラテ、こちらは新しい仕入先で、アビドスでのこの期間は君とモカに彼のことを任せるよ。僕らのパートナーに絶対に辛い思いをさせたらダメだよ。
ラテ:安心して、僕は全力でもてなすよ!
ヴィダルアイスワイン:じゃあ君らに任せたよ~
ヴィダルを見送ると、ラテは自信満々に胸を叩いてファラフェルに言った。
ラテ:遠慮しないで、何か慣れないことがあれば言ってね~
ファラフェル:ああ、ではまず吾の部屋のマットレスと掛け布団を交換してくれ。マットレスは一番柔らかいやつで、掛け布団はシルクのやつだ。それから加湿器は部屋の四隅にいる。それとカーテンだが、今の色は好きじゃないから純色のものに交換してほしい。それから、テーブルの上のフルーツだが、トロピカルフルーツは食べ飽きた。カロリーが低いものに置き換えるのも忘れないでくれ。そうだ、あと飲み水だが……
ラテ:(エンドウ豆の上に寝たお姫さまですか……)
ファラフェル:おい、聞いているのか?
ラテ:えっと、聞いてます聞いてます!じゃあシーツを買いに行ってきます!
ファラフェル:マットレスと掛け布団だ……本当に真面目に聞いているのか?吾がさっき言った言葉をもう一度言ってみろ。
ラテ:……
ファラフェル:ほらな、何も覚えていないじゃないか……
モカ:まずはマットレスと掛け布団を交換して、マットレスは柔らかいもので掛け布団はシルクのもの。それから……(完璧に復唱)
モカ:間違ってないでしょ。
ファラフェル:あ……ああ、そうだ……
モカ:気持ち悪いことを言うな。行くぞ。
ラテ:うん!
相談
グレロ
パラダイスメイカーズ
モントリオールスモークミート:……耀の州の聖教か……資料を見る限りでは、それほど素晴らしいパートナーじゃなさそうね。
ヴィダルアイスワイン:聖教の人力と情報は僕らの目的じゃない。価値があると言えるのは聖主だけかな。
モントリオールスモークミート:聖主?聖教を率いるやつ?
ヴィダルアイスワイン:うん、でも僕に言わせれば指導者というよりも「宝物」だね。
ヴィダルアイスワイン:その神に近い力はティアラのあちこちに散らばっていたため、簡単に埋もれてしまった……だがあの聖主が僕らに代わって耀の州のエネルギーを集めてくれたから、僕らの手間がかなり省けたんだ。
モントリオールスモークミート:なるほどね、それは確かに説得する必要があるわね。今度はどんな「餌」を使いたいの?不渡り小切手?それとも権力がない高位?
ヴィダルアイスワイン:ハハ、そんなめんどくさいことはしない。彼らの前では、いわゆる技術を発展させたいだけで、それ以外のことには興味がないように装えば十分だ。もし彼らが信じずに、協力を渋るなら……
ヴィダルアイスワイン:その時は武力で脅せばいい。
モントリオールスモークミート:武力か……それはあなたらしくないわね。
ヴィダルアイスワイン:ハハ、結局のところ、耀の州は僕らの主戦場じゃない。たとえ失敗しても構わない。どうせ聖教はそこにあるし、逃げられない。
ヴィダルアイスワイン:僕はただ「正義の味方」からの気をそらす必要があるだけだ。だからもし耀の州で何か危険な目に遭ったら、残念に思わずにすぐに撤退すればいいよ。
モントリオールスモークミート:それはもちろんだわ。わたしも耀の州の人を怒らせたくはないもの。
ヴィダルアイスワイン:今回はカフェオレを連れて行こう。彼女の意味不明な性格は、耀の州の人には慣れないだろうから。
モントリオールスモークミート:わかった。じゃあ社内のことはいつも通りにパニーノに任せるの?
ヴィダルアイスワイン:うん、あの子は非常に忠実で、安心させてくれる。
モントリオールスモークミート:ふふ、まるで自分が飼ってるペットの話をするみたいね。
ヴィダルアイスワイン:いやいや、僕はパラダイスメイカーズの全従業員を平等にしてるよ、まるで……貴重な道具を扱うかのように、とっても大切にしてるよ~
面会
耀の州
聖教
黒服の人:聖女様、お久しゅうございます。聖女様は聖主様のもとへ向かっていらっしゃるのでしょうか?
チキンスープ:……いえ、今日は聖主に報告することは何もないわ。
チキンスープ:(あんな人に振り回されるのは、私の性格ではないわ……対処法はいくらでもあるし、こんなことで聖主を悩ませる必要はないわ)
黒服の人:はい……ですが聖主様は聖女様に会いたがっております。
チキンスープ:聖主様が妾に会いたい……?わかった、下がっていいわ。
チキンスープは驚いたが、すぐに何かを思いついたようで、目を伏せて長い間考え込んでから、本殿に向かった。
***
チキンスープ:聖主様……
ハイビスカスティー:今日グレロから聖教と協力したいという人が君を探しに来たようだが?
チキンスープ:聖、聖主様どうしてそのことをご存知なんですか?
ハイビスカスティー:これは私の聖教で、誰がそれに近づこうとしているか知っていておかしいか?
チキンスープ:いえ……
ハイビスカスティー:どう返事をした?
チキンスープ:……まだ返事はしていません。全ては聖主様のご意向のままに。
ハイビスカスティー:では協力に同意しよう。
チキンスープ:な……ですが相手側の要求は聖主様がグレロに行かれることです……
ハイビスカスティー:どうしてダメなの?それとも……私は君らによって聖教の中に監禁されているの?
チキンスープ:もちろん違います!わたし……わかりました。
ハイビスカスティー:では下がっていい。
チキンスープ:はい……
チキンスープが離れるのを待ってから、ハイビスカスティーは黙って拳を握りしめた。
ハイビスカスティー:……とりあえず奴らを借りて聖教から抜け出そう。いずれにせよ……
ハイビスカスティー:まず龍羹を取り戻す。
探す
カターイフ:王宮の爆発はキミがやったんだろう!王室に対する不満があったとしても、捜索隊、それから衛兵や使用人に罪はない!どうして自分のために彼らを殺すことができたんだ!
カマルアルディン:へ?私がいつ彼らを殺したんだ……
カターイフ:オレは見たんだ!カレらはオレの目の前で……このブレスレットは爆発地点のそばで拾ったんだけど、キミのじゃないのか?
カマルアルディン:これは……そ、そう私のだ。だが……!
カターイフ:人殺し……この野郎、オレを人殺しの共犯にしたなんて……
カターイフ:消えろ……さっさとうせろ!
カマルアルディン:……
***
記憶はカマルアルディンの信じられない顔で固定され、カターイフは苦しそうに首を横に振り、それを頭から振り払おうとした。
カターイフ:あの時カレは何かを言いたげだったが、オレは有無を言わせずに追い払ってしまった……
カターイフ:もし爆発の事件を本当にカレがやってないなら、オレは濡れ衣を着せてしまったのか。カレはどれだけ悔しかっただろう……
カターイフ:ダメだ、絶対にカレを早く見つける。
そこでカターイフはカマルアルディンの姿を探しに城の各階を探し、最後の階に到着した。地下へと続く大きな石の扉の前に立っていた……
***
カターイフ:探してないのはここだけだ……カマルアルディンの性格上、確かにオレらが立ち入れない場所に隠れる可能性はある……
カターイフ:でもなぜかわからないけど、地下に近づいたら恐ろしい感じがする……
カターイフ:!兄、兄さん!ど、どうして……
フィテール:君を待っている。
カターイフ:え?オレを待ってる?
フィテール:はい。ちょうど君もここにいるんだ。私と一緒に中に入ろう。
カターイフ:入る……地下に?オレあそこは禁地かと思ってました。
フィテール:普段は確かに禁地だが、これも君が城に来た使命だ。
カターイフの困惑した表情の中で、フィテールは嬉しそうに笑って彼の頭を撫でた。
フィテール:ついに、その時が来た。
留意
創世祭典の最終確認をして、クロワッサンはほっとした。プレッツェルは彼のその挙動に気づき、心配そうに尋ねた。
プレッツェル:あのカイザーシュマーレンという食霊の話を本当に信じますか?
クロワッサン:もし彼が私たちを騙しているのであれば、協力することで彼の真の目的を明らかにしてこそ、より対応することができます。
プレッツェル:……もし彼の申し出を断れば、法王庁も彼に気を使って対応する必要はありません。
クロワッサン:わかってる。しかし、たとえごくわずかの可能性であったとしても、世界の破滅を黙って見ているわけにはいきません。それに……
クロワッサン:堕化した完全な治療法はペリゴールでさえまだ把握できていない……その治療法はラムチョップ復活に必要不可欠なものです。
プレッツェル:しかし、その方法さえ嘘だったら?
クロワッサン:可能性がある限り、私は試します。どんなにリスクがあってもです。
プレッツェル:……
クロワッサンの言葉を聞いて、プレッツェルの心配は大きくなったが、よく考えてみると――
救いの可能性を捨てない、これこそが法王庁が信じているものである。法王庁がすべきことでもある。
プレッツェル:……はい、その通りです。いかなる可能性も諦めるべきではない。
クロワッサン:理解をありがとう。では法王庁のことはしばらくあなたたちに任せます……
クロワッサン:できるのであれば、私も創世祭典のような大事な時期に離れたくないですが、しかし……
プレッツェル:ご心配なく、私たちが創世祭典を取り仕切るのは初めてではありません。そちらこそ気をつけたほうがいいです。
クロワッサン:もちろんです。
融合
千年前
神域
肇始之神:吾が霊よ、時空の輪を守る任務をあなたに任せたい。
???:時空の輪を守るのを……私にですか?
肇始之神:今この瞬間、あなたほどふさわしい存在はいない。
肇始之神:吾はフィテールとモロヘイヤに大きな力を与えたが、そのせいで彼らは本来歩むべき軌道から徐々に逸脱していった……
肇始之神:だが、「今回」はまだ始まったばかりだ。全てはまだ間に合う。
肇始之神:それにむしろ……「あなたは元々時空の輪に属している」と言った方がいいだろう。
???:私が時空の輪に……?私は兄さんが創造したのではないんですか……
肇始之神:時空の輪は生き物を創造することはできない。あなたは彼らによって「前もって」この地に「連れてこられた」だけである。
???:……では……どうして彼らに怒っているのですか?
肇始之神:吾はただ彼らが勝手に時空の輪を使うことが好きではない。それは非常に悪い影響を及ぼす可能性がある。彼らがあなたを連れて来たことに不満があるのではない。
肇始之神:結局のところ、あなたは「ずっと存在していた」。
???:私はあまり……理解できません……
肇始之神:あなたはいつもそうだ。情報を取り込みすぎると、独立した「自我」を生成できない……
肇始之神:大丈夫、いつの日か全てを思い出すであろう。
???:わかりました……しかし、私が時空の輪を守るというのは……ただ守るだけでいいんですか?
肇始之神:吾が霊よ、時空の輪の力がどれだけ強いのか知るべきである。近い将来、より多くの人々がその力を欲しがる。ひとたび「悪」に略奪されれば、全世界が危機に陥るであろう……
肇始之神:時空の輪を守り、この世の万物を救う。これは非常に難しい任務である。
???:この世の万物、救う…………はい、この任務、喜んで引き受けます。
肇始之神:では、それを守る最も安全な方法を教えよう。同時に、それはあなたの身を守ることでもある。
肇始之神:吾が霊よ、この後万物と同じ夢を見るであろう。何もかもがなくなり、そこには生も私も存在しない。
肇始之神:しかし同時に、あなたも全てを網羅している。あなたは世の万物である。つまり時空の輪である。
???:!!!
***
世界は突然真っ暗になり、彼女は何かが消えていくのを感じた……
世界が青白くなり、自分の中で何かが痛いほど大きくなっていくような気がした……
世界が青くなり、彼女は穏やかになった……
世界は色鮮やかになり、いつの間にか目を閉じていたことに気づいた。
***
神は彼女の目がまるで空っぽのようにゆっくりと開いていくのを見て、満足げにうなずいた。
肇始之神:今から、あなたが考えることは吾が考えることであり、その逆もまた然りだ。
肇始之神:吾が霊よ、あなたのこれからの選択を吾はとても期待している。
処刑
肇始之神:吾が霊よ。モロヘイヤの処刑の権利はあなたに任せる。
フィテール:……わかりました。
肇始之神:……何度やり直しても、ティアラの生き物はいつも吾を失望させる。
肇始之神:今回は特に……吾でも疲れを感じるであろう。
フィテール:神も休んでください。
肇始之神:……心配するな、最終的にはあなた方に選択の権利を渡す。
肇始之神:吾が霊よ、自分が後悔しない選択をすればそれで良い。
フィテール:……
彼は疲れ果てた始まりの神の後ろ姿が静止するまで黙って眺め、振り返らずに背を向けた。
***
フィテール:始まりの神は私に君の処刑をさせる。
モロヘイヤ:へえ、どうして神自ら来ないんだ?自分の手で創造した生き物を殺すのは、神にとって当たり前のことじゃないのか?
フィテール:君は怖くないの?
モロヘイヤ:言っただろう、こんな独断専行の神に操られているクソみたいな世界なら、生きるより死んだほうがマシだ。
フィテール:独断専行……しかし、神は私たちに選択の権利を与えると言われた……
モロヘイヤ:私らに?ふっ、神のものを盗んだ精霊の指導者を邪神にさせることか?それともあのバカに世界を救うために自分を犠牲にさせるのか?あるいは、神の権威を維持するために悪事を行い、それからこの世の人々を怖がらせるため再び処刑されることか?
フィテール:……神は私のことを言っているのかもしれない。
モロヘイヤ:?
フィテール:すまなかった。少し我慢してくれ。
モロヘイヤは驚き、目を見開くことしかできなかった。声も出ず、動くことさえできなかったが、自分の体が瓦解していくのをはっきりと感じていた。粘土の塊が急速に風化し、最終的には砕けて砂になった……
フィテール:君のいわゆる「自我」は虚無のものにすぎない。たとえこの世に始まりの神がいなくなったとしても、私らに絶対的な自由はない。
フィテール:他人の考え、コントロールできない気持ち、それから宇宙。自分がそれらに操られていないとどうして確信できる……
フィテール:だから……
***
彼はその黒い霧が神の体内に溶け込んでいくのを見届けると、満足げな笑みを浮かべた。
フィテール:これが私の選択だ。
フィテール:神の存在を必要とするこの世界のように。私にも……彼の存在が必要だ。
フィテール:彼が存在できる限り、どんな形であろうと、憎しみを抱かれようとも……いずれにせよ構わない。
フィテール:彼が存在する限り。彼が存在する限り。
破壊
モントリオールスモークミート:……さて、天幕は少し厄介だけど、まずはここから始めて、少しずつ山河陣を破壊していきましょう。
チキンスープ:……
モントリオールスモークミート:聖教のみなさんも協力してね。
チキンスープ:もちろんよ、妾らはもう協力に合意した。
モントリオールスモークミート:あら、本当にすみません。かつてわが社には契約を結んだから全てうまくいくと思っている従業員が多く、自分がちっぽけで他の人に気づかれにくいのを笠に着て、怠け、ひそかに契約上で許されていないことをしていた……
モントリオールスモークミート:だからこそ提携先に注意を促したり、監督するのがわたしの習慣になっているの。
チキンスープ:ふ、しかし残念ながら聖教は小さくなく、「ひそかに」違反する値打ちもない。
モントリオールスモークミート:そう?分からないわよ~
チキンスープ:……
モントリオールの露骨な挑発を前にして、チキンスープの表情はどこか抑えきれないほど不愉快になった。
チキンスープ:(なぜか、聖主は最近現れていない……ハイビスカスティーは明らかに聖教から離れる機会を狙っている……これまでは瑪瑙魚圓らが聖教にかなりの損失をもたらしてきた。今同時にハイビスカスティーを制御し、異国人グループの相手をするのはさらに厄介だ……)
チキンスープ:(やはり今はこの嫌な女と協力するしかないのか……)
モントリオールスモークミート:ああ~石碑が打ち砕かれる音は心地よいね。
チキンスープ:ふふ、無数の人の心血が破壊される音を聞くだけで、こんなに興奮するのか?本当に満足しやすい人だな。
モントリオールスモークミート:聖女様、恐れ入るわ。聖教はこの点ではわたしと互角ね。
チキンスープ:……
話している時、みんなで力を合わせて石碑を破壊し続けたが、突然どこからか、微かな煙が漂い、聖教の黒服とパラダイスメイカーズの従業員らは次々と地面に倒れ込んだ。
チキンスープ:何者だ?!
北京ダック:そんなことを聞くのは良くないでしょう。吾らは古くからの知り合いですよね?
チキンスープ:ふ、貴方だったのか。
北京ダック:以前の神君継承式の件で聖教に教訓を与えることができなかったとは思いませんでした。今ここまで大々的に山河陣を破壊するとは……耀の州全体を敵に回す覚悟はあるのですか?
チキンスープ:貴方は妾を誤解している。聖教は耀の州にあるのに、耀の州に害を及ぼすようなことをするはずがないでしょう?これはグレロからの客人のアイデアで、妾がいくら話しても彼らを動かすことはできなかった。
モントリオールスモークミート:聖女様持ち上げすぎよ。わたしたちはグレロにある普通の会社で、お金を持って仕事をしているだけよ。聖教を操るほどの力がどこにある?
チキンスープ:……
魚香肉糸:仲間割れの芝居はあまりにも下品で、演じない方がいい。2人とも山河陣を破壊することは自分の考えではないと言うのであれば、そこでやめましょう。
魚香肉糸:さもないと……手加減しませんよ。
モントリオールは石碑に寄りかかってぐっすり眠っているカフェオレを見て、さらに2人の不機嫌そうな顔をした食霊を見て、微笑みながら2歩下がった。
モントリオールスモークミート:(これだけ時間稼ぎをして、石碑をいくつか破壊できたし、そろそろ潮時かな……それにあの男性の食霊は手ごわいように見える……ヴィダルの大業のために自分が傷つくのはごめんだ。)
モントリオールスモークミート:誰かが正義を主張してくれてよかったわ。じゃあ早く手を止めよう。
チキンスープ:?
彼女はチキンスープの驚き、困惑している顔を見て、ますます笑った。
モントリオールスモークミート:ふふ、聖女のこのような表情を見ることができて、行ったかいがあったわ。
旅
(御侍の名前の表記部分を「御侍」に統一しています)
御侍:すぐに快諾したけど、実際に船に乗ってみたら怖くなってきた……
御侍:私とライスが変な場所に連れて行かれて口封じのために殺されるわけないよね……赤ワインとビーフステーキに言っておけばよかった……
パルマハム:あの、黙っててくれる?わかったわかった、いいね……おっと、この船どうしてこんなに揺れてるの!ダメだ、俺は絶対に最高の写真を撮る!
御侍:刑務所に入っているみたいだ……
ライス:レンズ、どこ?
パルマハム:ここここ、それか俺を見てもいいよ……もう少し2人は近づいて、動かないように!もっと笑って!
御侍:ごめんライス、私の決定のせいで苦労させちゃって……
ライス:御侍さま、謝罪、いらない……ライス、自分で、望んだ……
ライス:写真、以外……
パルマハム:おっけい!パーフェクトだ!やっと撮り終わった!2人の救い主様、お疲れ様!
御侍:……でも彼の様子を見る限り、サイコパス殺人鬼と結びつけにくい……
パルマハム:あれ?なんて?
御侍:いや、何でもない……
パルマハム:時間を計算すると、もうすぐパラタに着くはずだ……ごめんね、突然のことで君らはきっと不安だよね。
御侍:いや……まあまあ……
パルマハム:心配しないで、この後何が起きても必ず守ってみせるから。
パルマハム:今度こそ、後悔するようなことは絶対にしない。絶対。
消滅
パラタ
王城廃墟
コルン:暑いなあ……涼む場所さえないなんて……
コルン:これが実習生の宿命なのかな……いつも一番汚くて疲れる任務……
ピスコ:任務は私が選んだ。もし不満なら、次は君が選べ。
コルン:!まっまさか!不満などありません!ボスと一緒の任務は全て最高です!
ピスコ:うん、私もそう思う。
ピスコ:このような環境でなければ、凶悪な犯罪者を捕まえることはできない。その味はいつも美味しい。
コルン:(また真顔でそんなことを言うなんて、怖い……)
コルン:へへ、ボスの言う通り!しかし……来る場所を間違えたのでは?資料上に書かれていたのは王宮だったと記憶していますが……あれ?
ピスコ:どうした?
コルン:……ないです……
コルンは驚いて手にした資料を見ていた。そこに書かれていたはずの任務の目的地が彼の目の前でゆっくりと消えていった……その直後、彼の頭からもある記憶が消し去られたようだ……
コルン:おかしい……ボス、私たちの任務は何でしたっけ?
ピスコ:……資料をめくれ、私に聞くな。
コルン:おお、見てみます……うん、パラダイスメイカーズ、ヴィダルアイスワイン……
コルン:おかしい、パラダイスメイカーズはグレロですよね?私たちはどうしてパラタに来たんだろう?
ピスコ:何でも私に聞くな、めんどくさい。
コルン:はあ――でも今頼れるのはボスしかいません!
ピスコ:……ヴィダルは最近どこで活動している?パラタか?
コルン:えっと……あ!あった!資料には確かに彼がパラタにいると書いてあります……ボスすごい!
ピスコ:騒ぐな、早く探しに行こう。
コルン:はい!早く任務を終えて、給料をもらって、順調に正社員になって、私の幸せな人生は……
コルン:ボス、あれは……人ですか?
ピスコ:あれ?
コルンが指さす方向を見ると、そう遠くない砂漠に白い人影が立っていて、その足元には、数人が倒れているようだ……
ピスコ:君は誰だい?どういうことですか?
フィテール:タイミングがいい。彼らのことは任せたよ。
ピスコ:くっ、お前……。
フィテール:彼らを連れて行きなさい。
その瞬間、頭の中で何かが変わったような気がした……ピスコとコルンが正気に戻った時には、白い人影はすでに彼らの前からも記憶からも消えており、気絶した3人の食霊だけが残されていた。
***
ピスコ:……これらの食霊が今回の任務か。彼らを連れて戻ろう。
コルン:えー……またあの恥ずかしいスローガンを叫ぶんですか?
ピスコ:うん、あのバカのせいだ。
コルン:はあ……では……
ピスコ:いただきます。
コルン:ごちそうさまでした!
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